志位和夫 日本共産党

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2026年5月15日(金)

マルクス、アメリカ、自由論を語り合う

志位議長とハートマン教授の対談


 日本共産党の志位和夫議長は1日、米・シカゴ市内で、イリノイ州立大学のアンドリュー・ハートマン教授と対談しました。以下、大要を紹介します。


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(写真)握手するハートマン教授(左)と志位議長=1日、シカゴ市内(遠藤誠二撮影)

 志位 ハートマンさんのこの本――『マルクス・イン・アメリカ』の日本語版(新日本出版社から刊行予定)のゲラが届きました。

 ハートマン すごくワクワクしています。

 志位 素晴らしい仕事です。

 ハートマン ありがとうございます。自分の本が日本語に翻訳されるとは夢にも思ってなかったので、うれしいことです。

 志位 今日はいろいろな角度からハートマンさんとこの本にかかわってお話をしたいと思ってまいりました。まず今日はメーデーです。ちょうど140年前のこの日(1886年5月1日)に、このシカゴを中心に8時間労働制を掲げて始まったメーデー、まさにその日にお会いできるのは歴史的だと思います。

 ハートマン 幸先が良いですね。

資本主義の“総本山”でマルクスが150年余にわたって読み継がれてきた

 ハートマン 事前に送っていただいたあなたの本の英訳(『英語版 自由に処分できる時間と「資本論」』)を拝読しました。たいへん啓発的で、また、「マルクス・ブーム」に言及されていることを、うれしく思いました。

 志位 なぜ私が、あなたのこの著作を、去年の7月の記者会見で紹介したか、そして日本語で読んでもらいたいと思ったかについて、お話しさせていただきたいと思います。

 ハートマン はい。記者会見当日、Xでフォローしてくれている何人かのフォロワーや、日本在住のアメリカ人の方々が、会見の動画の存在を教えてくれました。とてもワクワクしました。

 志位 多くの日本人にとって、アメリカという国は、資本主義の“総本山”とみなされています。そのアメリカで、マルクスが、繰り返しの「赤狩り」にもかかわらず、150年余りにわたって、途切れることなく読み継がれ、さまざまな形で受容され、そして影響力を与え続けてきた。そして、繰り返しのブームをつくり、今、「第4のマルクス・ブーム」にある。そのことをこの本は、無数の歴史的事実を丁寧に紡ぐように叙述しています。この本は、日本人に、アメリカに対する新しい見方を提供するものだと思います。

 ハートマン 私がこの本を書いた理由の一つは、マルクスに対する情熱や執着だけでなく、米国の歴史においてこれほど多くの人々がマルクスを読み、考察してきたという事実を、米国の歴史家でさえもほとんど認識していないという点にもありました。本書は出版されてからほぼ1年ですが、反響としては、多くの驚きが寄せられています。

 志位 どのぐらい、冊数が出ましたか?

 ハートマン 2万5000です。

 志位 学術書でその数はすごいですね。

 ハートマン ペーパーバック版、つまりもっと手頃な価格の版が出版されるのを楽しみにしています。また、あるメディア企業が権利を取得し、ドキュメンタリー映画を制作する権利を購入しました。ですから、それによってこのメッセージがさらに広く伝わることを期待しています。

マルクスがアメリカ人社会で支持を得てきたのは、力強い自由論を示したから

 志位 私が、この本でたいへんに印象深く読んだ点がもう一つあります。冒頭のところに出てくるのですが、「マルクスが150年以上もの間、アメリカ人社会で支持を得てきたのは、力強い自由論を提示したからだ」とあります。

 ハートマン はい。それは私がマルクスについて常に最も関心を持ってきた側面ですが、あなたの著作を読むと、あなたもまたその点に関心をお持ちのようですね。

 志位 「マルクスと自由は相いれない」という議論は、日本でも強いですし、おそらくアメリカでもそうだと思います。しかし、仮にそうであったとしたら、どうして人類の歴史で初めて民主共和制を打ち立て、人権宣言を発したこの地で、マルクスが受け容れられたのか、説明がつきません。マルクスが150年以上にわたって受容されつづけてきたという事実そのものが、「マルクスと自由は相いれない」という議論への一番の事実による反論になっていると思います。

 ハートマン ええ。私の目標やプロジェクトの一つは、人々が冷戦時代の先入観を乗り越えられるよう手助けすることでした。それはとても心強いことです。現在、「マルクス・ブーム」は第4の波を迎えており、特に(米左翼雑誌)『ジャコバン』誌の若者やアメリカ民主的社会主義者(DSA)の若者たちのように、多くの若者がマルクスの思想に関心を寄せています。その理由の一つは、彼らの見解が冷戦によって形成されていないからです。

 志位 私もそう思います。先日、ニューヨークで、『ジャコバン』誌の発行人のエーシャー・デュプイスペンサーさん、編集者のマイカ・ユートリヒトさんの二人と会い、そのことを感じました。マルクスの自由論を大いに話し合い、協力関係をつくっていくことで一致しました。

 ハートマン 素晴らしいです。

「自由に処分できる時間」--いまの若い人たちにものすごく響く

 志位 あなたは本の末尾のところで、「生存のためには労働が必要だが、それは必然の領域である。……人間が自由であるためには、自律性を有する自由の領域でも時間を過ごさなければならない」とのべています。たいへん興味深い。というのは、私たちがこの間、この問題でずっと探究してきた方向と全く一致しているからです。

 ハートマン あなたの講演集の英訳を読んだ際、私もそう感じました。英語版も間もなく出版されるそうですね。素晴らしいです。この理論的探究、すなわち労働や時間、自律性に関連して自由を重視するこの視点は、極めて重要であるだけでなく、また、マルクスの主要な理論的展開とも非常に整合しているだけでなく、人々、特に私の学生たちや、米国をはじめとする各地の若者たちの心に深く響いていると思います。

 志位 そう思います。とくに日本の場合、ヨーロッパと比べて、年間の労働時間が300時間も長い。「自分の時間がほしい」という願いがとても強い。

 ハートマン では、日本には左翼運動、マルクス主義運動が高まりを見せているのでしょうか?

 志位 マルクスを読む運動がいろいろな形で始まりつつあります。『Q&A いま「資本論」がおもしろい』=「赤本」で8万、『Q&A 共産主義と自由』=「青本」で6万、『自由な時間と「資本論」』=「緑本」で2万くらいです。

 ハートマン 大きな数だと思います。

 志位 学習を日本共産党の支部単位でやっています。党の支部は1万7000あるのですが、そのうち7000支部以上でやっています。

 ハートマン 素晴らしい。

 志位 まだ始まったところで、広く国民とともに学習運動をもっと大きく広げていきたいです。ここで述べた、「自由に処分できる時間こそが真の富」という考え方を、マルクスはその未来社会論の根幹にすえていきました。

 ハートマン まったく同意します。たとえマルクスに未来の青写真がなかったとしても、彼の資本主義に対する分析と批判のすべては、人々が自分の時間や労働をより自由にコントロールできる世界を想定した上で成り立っているのです。その点については、全面的に同意します。

 志位 私は、マルクスのこの理論の形成史をたどってみました。マルクスが、「人間の自由で全面的な発展」――これは彼の未来社会論の根幹ですが、それを「自由に処分できる時間」と結びつけるきっかけになったのは、チャールズ・ウェントワース・ディルク(当時、筆者はわからず匿名)のパンフレットでした。マルクスは1851年にこれを大英博物館で見つけ出します。そして『1857~58年草稿』と『1861~63年草稿』で、この問題の探究を発展させていきます。この探究は『資本論』の未来社会論で大きな実を結ぶことになりました。

 私は、若いみなさんにこう言います。「搾取によって奪われているのは『モノ』や『カネ』だけではない。『自由な時間』が奪われている」

 ハートマン そう。

 志位 だから、たたかって「自由な時間」を取り戻そうと。

 ハートマン それはマルクスの分析という点でまさに正しいだけでなく、多くの人々が共感できる点でもあると思います。おそらく、これまで以上にそう感じているのではないでしょうか。アメリカでさえ、私たちは「仕事こそがすべてであり、可能な限り全時間を費やして懸命に働くべきで、それこそが人生の意味だ」と信じ込むよう、ある種の洗脳やプロパガンダを受けているのです。しかし、特に若者を中心に、この罠(わな)、つまりイデオロギー的な罠に陥る人は少なくなってきています。

 米国だけでなく、世界的に見ても、かつて覇権を握っていたあらゆるイデオロギーが危機にひんしていると言えるでしょう。支配的なイデオロギーは破綻しています。人々はそれらを信用せず、信じてもいません。だからこそ、私たちは今、多くの可能性を秘めた変革の真っただ中にいるのです。

 志位 支配的なイデオロギーの破綻というのは、本当にそう思います。経済学をとってみても、ケインズ主義の破綻の次にあらわれた新自由主義も破綻し、資本主義はいまや指導理論を持ちません。先日、『ジャコバン』誌のお二人と食事をしながら話し合った時に、「自由に処分できる時間」で話が大いに弾み、「自由に処分できる時間に乾杯!」となりました。あなたが言われるように、これは今日、多くの若い人の要求です。

『資本論』の学習運動について、理論的な統一戦線について

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(写真)お互い贈呈された著書を持つハートマン氏(右)と志位議長=1日、シカゴ市内(遠藤誠二撮影)

 志位 ハートマンさんの本の中から私が使わせていただいたワードがあります。「マルクスは深く感じられる搾取の感覚を言葉にした」というものです。私たちは、この赤い本――『Q&A資本論』をつかって、街頭で宣伝活動をやりました。その時に、アンケートで「あなたは搾取があると思いますか、思いませんか」と聞いてみると、4人に3人ぐらいは「搾取はあると思う」と答えます。搾取があるという「感覚」は持っている、でも搾取の仕組みはわからない。そこがわかったときに労働者階級の自覚がぐっとあがると思います。

 ハートマン はい、その通りだと思います。ますます多くの人々がマルクスやマルクス主義に目を向けるための条件は整っているようです。しかし、こうした思想の代弁者がもっと必要です。読書会ももっと必要です。人々が自らの経験と、これらの力強い理論とを結びつけられるようにするためには、こうした思想についてもっと議論を重ねる必要があるのです。

 米国では、これは難しいことです。なぜなら、私が本の中で示した通り、歴史的に見て、人々のマルクスに対する認識や階級意識――もしそれがマルクス主義的な階級意識であったならば――は、多くの場合、労働組合や社会主義・共産主義政党内での教育を通じて培われてきたからです。そして1950年代以降、そうした組織の多くが解体してしまったため、この種の組織化された階級意識を維持することは非常に困難になりました。しかし今、それが再びあらわれつつあると私は見ています。

 志位 プリンストン大学出版会が新しいマルクス『資本論』第一部の新しい英訳版を刊行しました。これを使って、DSAのみなさんの中で学習運動が始まっていると聞きました。

 ハートマン こうした動きはあちこちで見られるようで、実はもうしばらく前から続いているようです。デヴィッド・ハーヴェイ(1935年~、マルクス主義地理学者、ニューヨーク市立大学名誉教授)をご存じの方ならご存じかと思いますが、彼は長年、さまざまな大学で『資本論』を教えてきましたが、その講義をYouTubeやポッドキャスト形式に移行し、その再生回数は数十万回、もしかすると数百万回にも上っています。そのため、多くの人々が『資本論』を理解するための手引きとして、オンライン上のハーヴェイ氏や他の専門家たちに頼るようになっています。

 私自身も、プリンストン版を読み始めました。なかなか良い出来です。最近の大学や大学院に通っている若者には特に魅力的に映ると思います。なぜなら、その改訂によって、より現代的な読みやすさが増していると思うからです。古い翻訳版ほどは気に入っていませんが、それはおそらく、私の、何というか、ノスタルジーのせいでしょう。(笑い)

 志位 第二部、第三部の公刊の予定もあるのですか?

 ハートマン そうだと思いますが、はっきりとは分かりません。

 志位 私は、この「赤本」と「青本」をベースにして、昨年11月、マルクス研究者の斎藤幸平さんと、ネット番組で対談をやりました。

 ハートマン 日本語だったので内容はよく分かりませんでしたが、一部だけ視聴しました。日本にいる友人が、私の著書『カール・マルクス・イン・アメリカ』について少し触れていらっしゃったと教えてくれたのです。斎藤准教授は、日本ではかなり有名になられましたね。

 志位 知られています。私と彼との、ネット番組の対談は、あわせて80万回ぐらいの再生がありました。彼とはマルクスの理解でだいぶ違うところもあります。とくに「脱成長コミュニズム」論について。そのことは対談のなかでも話しました。

 ハートマン 米国では非常に激しい議論が交わされています。おそらくヨーロッパやその他の地域でも同様でしょう。そして、その議論の核心にあるのは、単なる未来像だけでなく、マルクスをどう解釈するかという点にもあります。

 志位 そういう意見の違いはあるのですが、「マルクス・ブームを日本で起こそう」という点では一致しました。

 ハートマン 私はその考え方が素晴らしいと思います。なぜなら、今こそ左派の分派主義に走っている場合ではないからです。そもそも、そのようなことが許される時期などめったにありませんが、私たちが立ち向かっている反動的な勢力を考えれば、とりわけ今はそう言えるでしょう。

 志位 その通りです。理論的な統一戦線というのは、私も大切だと主張しています。私は、政党のリーダーという立場です。私の本も、私たちの政治的な目的から取り組んでいるものです。研究者のみなさんから見ると、いろいろな意見もあるかもしれません。ただ、私は、一つの政党のリーダーの立場で、個々の研究者のみなさんの研究成果を、ああだこうだと評価するのはできるだけ控えたいと思っています。マルクスに対する理解の違いというのは、いろいろな問題で起こり得ます。しかし、マルクスを全体として、この社会を変える変革の書として読もうという立場がある限り、協力すべきだと思います。

 ハートマン 私は学者ですけれども、気持ちとしてはそれに賛成です。私がマルクスに関心を持っている理由の一つは、私たちがどのように世界を変革し、より良くし、資本主義から脱却できるかを、概念的に捉えられるようになりたいからです。

マルクスとリンカーンの交流--初めての統一戦線

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(写真)リンカーン記念館で第16代大統領リンカーン像の前に立つ志位和夫委員長(当時)=2010年5月7日、ワシントン

 志位 あなたの本で、私が前にやった研究(『綱領教室』第3巻、51~69ページ、2013年)との関係で、とりわけ印象深いのは、19世紀のマルクスとリンカーンの交流です。リンカーンが、マルクス、エンゲルスの書いた「ニューヨーク・デイリー・トリビューン」の熱心な読者だったということは間違いないと思います。

 ハートマン マルクスの共産主義とリンカーンの共和主義は、少なくとも米国の文脈においては、最初の統一戦線、あるいは人民戦線のようなものだったと言えるかもしれません。

 志位 なるほど。その通りだと思います。マルクス自身は南北戦争について論説をたくさん書いています。この戦争が「連邦の存続」から「奴隷制廃止」に発展するだろうという見通しを持っていました。マルクスとエンゲルスは、北軍がどうやって勝ったらいいか、軍事作戦はこうしたほうがいいと、軍事戦略の具体的提案の論文まで執筆しています。何よりも素晴らしいのは、奴隷解放と米国の労働者の解放、さらにはヨーロッパの労働者の解放は一体だという立場です。マルクスの論説は南北戦争に影響を与え、そして『資本論』を豊かにすることにもなりました。

 ちょっと面白い思い出話を一つお話しします。私は、2010年、日本共産党の委員長として初めて訪米しました。ワシントンで連邦議会の共和党、民主党の議員のみなさんと懇談しました。共和党の議員の部屋に行きますと、リンカーンの大きな肖像画がかかっています。「リンカーンを尊敬しているのですか」と聞くと、「もちろんです。わが党の創設者です」と。それでは「マルクスとリンカーンが手紙のやりとりしたのを知っていますか」と聞くと、知りません。

 ハートマン 知らない人がほとんどです。共和党ならなおさらです。

 志位 私が話した共和党の議員はびっくりして、「それでは祖先が一緒だ」(笑い)となりました。私は日本語の漢字で書くと、「共和党」というのは「共産党」と一文字しか違わないと、実際に書いて示しました。これは冗談ですが。(笑い)

 ハートマン 今の共和党は、自党の起源や歴史についてあまり詳しくありません。彼らは19世紀の共和主義の政治や思想、そしてそれが社会主義や共産主義とどれほど密接に関連していたかについては、まったく知らないのです。

 志位 もちろん、リンカーンはマルクス主義者だったわけではありません。

 ハートマン 私の著書の第1章で論じているように、19世紀のマルクスや共産主義と、リンカーンや共和主義との間には多くの共通点がありました。しかし、両者の主な相違点は、資本主義における労働のあり方に対する考え方にありました。リンカーンは、少なくとも米国の文脈においては、誰もが資本主義を通じて自由と自立、そして自律性を獲得できると信じていました。当然ながら、マルクスはこれに反対しました。これが両者の主な相違点です。

 それに加えて、リンカーンの共和主義と空想的社会主義の間には共通点があると思います。彼らは資本主義がどこへ向かっているのか、また産業社会において労働者にどのような影響を及ぼすのかについて、鋭い感覚や正確な認識を持っていなかったのに対し、マルクスは持っていたということです。

 志位 ただ、リンカーンも、1861年の大統領就任後初の一般教書演説で、最後の時期に、「労働は資本に優越し、より高位に位置づけられるにふさわしい」というような言い方をしています。ヨーロッパの社会主義の薫りにつうじる表現です。ある種の接近の過程があったのではないでしょうか。

 ハートマン これは、私たち歴史家が「反事実的仮説」と呼ぶものの典型的な例です。もしリンカーンが生き延び、暗殺されずに済んでいたとしたら、企業資本主義の台頭について、彼はどのような見解を持っていたでしょうか。というのも、彼は自立という観点から、労働の重要性を鋭く認識していたからです。そして、南北戦争後のこうした状況は、産業資本主義によってさらに増幅されたのです。

 志位 私も同じことを考えました。いずれにせよ、日本で私たちが、日米関係をどう考えるかという時にも、マルクスとリンカーンのそういう交流があったのだ、私たちは決して反米主義者ではない。アメリカとの関係は、対等・平等・友好の関係を願っているんだ、ということを言うと非常によく受け止めてもらえます。

 ハートマン これはアメリカの人々にとっても興味深いことだと思います。というのも、私は自分自身を共産主義者でありマルクス主義者だと考えていますが、反米主義者というわけではありません。とはいえ、共産主義者やマルクス主義者であるというだけで、米国の多くの人々からはそう見なされてしまうでしょう。ですから、19世紀におけるアメリカの伝統とマルクス主義の伝統とのつながりを明らかにすることは、私にとって非常に重要なことでした。

 志位 マルクスが、リンカーンにあてた大統領再選の祝辞の中で、民主共和制と人権宣言ということを強調していることは本当に大事です。私はいつもそれを引きながら、日本共産党は反米主義者ではない、アメリカの自由と民主主義の偉大な伝統に深い敬意と尊敬を持っているということを常に言っています。

 ハートマン それにもかかわらず、資本主義社会では、私たちの時間の多くが、搾取的な仕事に従事することに費やされています。そして、アメリカの政治哲学の多くには、労働における自由について考えるという伝統がありません。マルクスが、自由というより大きな議論に、まさにその点を加えているのだと、私は考えています。

 志位 未来社会においては労働が自由で人間的なものとなること、さらに労働に縛られない「自由に処分できる時間」を万人が十分にもつようになること、まさにそれはマルクスの思想の核心中の核心だと思います。

米国の左翼進歩勢力--社会主義に対する理論的模索と探究に注目

 志位 米国の左翼進歩勢力の現状についての若干の私の考えをお伝えし、教訓を聞きたいと思います。あなたの著書ではサンカラ氏(『ジャコバン』誌編集長)についても言及されています。

 先日、ニューヨークでDSA指導部のみなさん、『ジャコバン』誌編集部のみなさんと会談する機会がありました。彼らが成し遂げていることは本当に大きなことだと思います。ニューヨークの勝利(マムダニ市長誕生)は日本の私たちにとっても大きな喜びです。たくさんの私たちが学ぶべき教訓がそこにはあると思っています。

 その上で、彼らが自らの社会主義をどう規定付けているのかということについて聞いてみました。彼らの社会主義というのは、まず二つの否定の上に成り立っています。一つは、社会民主主義です。自分たちの目標は社会民主主義ではない、その先にいくのだということです。もう一つは、権威主義的な社会主義です。ソ連型の社会を指していると思いますが、歴史のゴミ箱に捨てると言っています。この二つの否定は、私たちも全く一緒なのです。そのうえで、それではどういう積極的な規定付けを社会主義に与えているのですかと聞きました。『ジャコバン』誌のみなさんからは、「アメリカの社会主義の伝統に根ざし、世界の社会主義の潮流に根ざすことです」という答えが返ってきました。私の感じた印象は、真剣な模索と探究の過程にあるということでした。

 ハートマン バスカー・サンカラ氏は私の友人です。私たちはこれについて何度も話し合ってきました。私は、彼が『ジャコバン』誌やその他の活動を通じて、米国における社会主義の知的・思想的リーダーであると考えています。彼は約5年前に『社会主義者宣言』という本を出版しましたが、そこには彼の社会主義の枠組みが極めて明確に示されていると思います。

 その本の中で、彼は、新自由主義の文脈において社会民主主義を推進する政治は良いことだと論じています。それは急進的なことです。それは、大多数である労働者階級の中に階級意識を生み出すものですが、社会民主主義は資本によって容易に取り込まれてしまうため、私たちはそれを超えてさらに前進し続けなければならないのです。

 さらに彼は、もしわれわれが社会民主主義をさらに高いレベルで実現できれば、それを守り抜こうとする努力そのものがわれわれを急進化させると論じています。階級意識は高まるでしょう。そして、その瞬間こそが、社会主義へとさらに踏み出さなければならないとわれわれが認識できる可能性のある瞬間なのです。彼が定義する社会主義とは、生産手段に対する労働者の管理、つまり非常に基本的なマルクス主義の概念です。しかし、彼はそれを実現するための具体的な仕組みについても、ある程度の構想を持っているようです。

 志位 サンカラ氏の発言の一番新しいもので、『ジャコバン』誌に掲載された、「資本主義の後に社会主義が必要だ」と題する発言を読みました。私が注目した言葉はこういうものでした。「社会主義経済における生産性向上の目的は、成長そのものにあるのではなく、余暇、安全、そして生産以外の時間の拡大にある」

 ハートマン 私もそのスピーチを読みました。そして、サンカラ氏と私たちのマルクス主義や社会主義に対する見解は、似通っています。

 志位 彼は、「労働時間の短縮、寿命の延長、そして人生の送り方におけるより大きな自由への転換」が必要だとも言っています。『ジャコバン』誌編集部のみなさんとの話し合いの中で、それを引いて、「自由に処分できる時間」の重要性について一致しました。ぜひ、こういう課題も含めて、理論的な交流をもっとやっていきたいと考えています。

 オンラインなどを通じてもやってみたいと思っています。今日は、あなたとこういう形で話し合いができ、多くの視点が確認できたことは本当にうれしいことです。ぜひ、今日を出発点にして、継続的にいろいろな形で意見交換ができたらと思います。

 ハートマン 来年か再来年には、日本に行けるといいなと思っています。ぜひ行きたいですね。

 志位 日本に訪問されたら、ぜひとも私たちの党本部にいらしてください。


アンドリュー・ハートマン氏の略歴 イリノイ州立大学の歴史学特別教授。米国史のほか、歴史哲学、歴史学史、教育学に関する講義を担当。2006年にジョージ・ワシントン大学で歴史学の博士号を取得。主著に『教育と冷戦:アメリカの学校をめぐる戦い』(08年、パルグレイブ・マクミラン社)、『アメリカの魂をめぐる戦い:文化戦争の歴史』(15年、シカゴ大学出版局)があります。3冊目となる『カール・マルクス・イン・アメリカ』(25年、シカゴ大学出版局)は米各誌で広く書評が掲載され、邦訳は新日本出版社から刊行予定。