2025年11月13日(木)
『資本論』と現代を語る 志位議長と斎藤幸平氏の対談から
第7回 『資本論』を読むムーブメントを協力してつくろう
![]() (写真)斎藤幸平氏(左)と語り合う志位和夫議長(YouTubeから) |
斎藤氏は「若い世代、20代の人たちは『どうせだったらたくさん働いて、お金をもうけたい』みたいな人たちが結構いる。いま生活がインフレで厳しくなっているし。そういう人たちに対してメッセージを」と促しました。志位氏は次のように語りました。
人間にとって本当の富--豊かさとは何か
志位 人間にとって本当の富--豊かさとはなんなのかという問いかけをしたい。
まず、物質的な富--労働がつくり出す物質的な富、これは必要ですよね。私は「必要な物質的な富」は大切だと思うんです。ありあまるものでなくてね。
しかし、富ってそれだけだろうかと。先ほど言った「自由な時間」も富じゃないかと。人間にとって、必要な(物質的)富さえあれば時間がなくてもいいかというと、そんなことはないですね。これも富じゃないかと。これが二つ目ですよね。
それから、自然自体が富じゃないですか。自然というのは、かけがえのないもので、『資本論』の中にも自然の富(「自然の豊かさ」)という言葉が出てきますね。『資本論』の中には、この地球を、後の世代に、環境を改良しながら引き継がなければならないという言葉もありますよね。大地は個人のものでもないし、社会のものですらないんだ、人類みんなのものだからと。そういう自然という富もありますよね。
そして私が最後に言いたいのは、人間です。つまり、「全面的に自由に発展した人間」、自らの能力を存分に生かせる人間こそ、本当の意味での富だと思います。
斎藤 なるほど。
志位 こういうように、富を全体として豊かに、マルクスは語っていると思う。物的な富、「自由な時間」、自然、人間そのもの、この全体の富が豊かになることで豊かな社会になると思うのです。逆に言えば、物的富が豊かになっても、そのことによって「自由な時間」を失った、自然が壊れた、自分の発展もできない、これでは本当に豊かな社会といえるのかと。そういう問いかけを考えてもらいたいなと思うんです。
斎藤 それをもう少し身近に置き換えるとしたら、それが豊かな人生と言えるのか、個人レベルで…。
志位 そういうことですね。人間の豊かな人生っていうのは、もちろん物質的なものも必要だけど、時間、自然との関係、そして自分自身の発展、その全体があって、本当に豊かな人生っていえるんじゃないかと僕は思う。
ここで斎藤氏は「志位さん個人の人生は、豊かな人生ですか」「『自由時間』がないんじゃないですか」と質問しました。志位氏は「反省も多いんです。もっと家族との時間とか、大事にすべきだったという反省もある」「これからの時代は、政党のトップであっても、あるいは総理大臣であっても、どんな職についていようと、家族との自由な時間をすごすことが当たり前の社会にしていかなければと思う」と話しました。
斎藤氏が「志位さんは人生を政治にささげてきましたけど、大切にしてきた思いは何か」と問いかけ、志位氏は次のように答えました。
志位 困っている人、苦しんでいる人の苦難を軽減する、日本共産党は103年やっています。立党の精神です。国民の苦難軽減、それをずっとやってきた。選挙で党が躍進すれば攻撃を受けるという体験を繰り返してきたなかで、どこで(党の)力をつけるかといろいろ考えた。そのためには、国民のいろんな日常の要求のために頑張る必要があるんだけど、同時に、われわれの理想をもっと語ろうと。社会主義・共産主義の理想を語ろうと。「人間の自由」とは未来社会にこそあるんだということを、胸を張って語ろうということで、この間、「青い本」と「赤い本」のプロジェクトを始めたところなんです。
『資本論』を読むムーブメントをつくることで意気投合
志位氏は、いま世界で起きている「マルクスブーム」に触れ、アメリカで半世紀ぶりに『資本論』第一部の新英訳版が発行されたことをきっかけに、各地の大学で『資本論』の読書会が広がり、進歩派政治家のサンダース氏を支えるDSA(民主的社会主義者)のグループが読書運動を展開していると話しました。イリノイ大学のアンドリュー・ハートマン教授が最近出した『マルクス・イン・アメリカ』には、いまアメリカで「第4次マルクスブーム」が起きていると書かれていることを紹介しました。その上で斎藤氏に次のように提案しました。
志位 私が言いたいのは、アメリカでもブームが起こっている。やっぱりここは一つ、われわれ…。
斎藤 われわれ…。
志位 そう。われわれで、マルクスと『資本論』に対する理解には違いもありますが、しかも大きな違いもあると思いますが、そこは大いに議論していったらいい。しかし、それぞれの立場で、マルクスの『資本論』のブームをつくっていく。マルクスの『資本論』を読むムーブメントを日本でもアメリカに負けないでつくっていく、という一点で協力しませんか。
斎藤 もちろんですよ。
志位 一点共闘(笑い)。
斎藤 私たち、もっと多面的に共闘できると思うんですけど(笑い)。とりあえずその一点でね。はい。
右翼的潮流、排外主義に対抗する現代の「反ファシズム統一戦線」でも協力を
志位 もう一つ、先ほども話に出ましたが、日本でかなり、右翼的潮流と排外主義の潮流が出てきています。それに対抗する民主的ブロックを協力してつくりたい。現代の「反ファシズム統一戦線」です。
斎藤 それもいい。やはり左派がもっと協力(する必要がある)。内部で分裂したり、収縮したりしているので、かつてのように「あの党派は」とか言っている時代じゃないと思うので。ぜひいろいろな重要な問題では協力して、そのうえで議論もできたらいいと思うので。
志位 そうしていきましょう。最後に、私としては、今日は本当によかったと思っています。
斎藤 良い場面をかなりつくるので、また出てください。
志位 またやりましょう。ぜひこういう対談を続けていきたいと思っています。大きいところで、いまの日本の世の中を良くする上で、協力していく機会になればという思いです。
斎藤 ぜひぜひ。
志位 今日は楽しかったです。
『資本論』を読もう--志位氏、斎藤氏からのメッセージ
斎藤氏が「最後にメッセージを。視聴者に」と述べ、次のようなやりとりになりました。
志位 「赤本」の最後にマルクスの言葉を紹介しました。(『資本論』の)「初版への序言」の中で言った言葉ですが。
「私は新たなものを学ぼうとし、したがってまた自分自身で考えようとする読者を想定している」
とてもいい言葉だと思うんです。新たなものを学ぼう。自分の頭で考えよう。これを若いみなさんに言いたいと思うんですよね。いま「ワンフレーズ」がはやっているじゃないですか。
斎藤 「日本人ファースト」みたいな。
志位 ええ。ワンフレーズ一般が悪いとは言わない。われわれも「ワンフレーズ」で伝わるようなメッセージをもっと磨かなきゃいけないと思っています。ただ言いたいのは、この世の中はワンフレーズでわかるほど簡単じゃない。
斎藤 なるほど。
志位 とくに資本主義というのは、搾取の仕組み一つとったって陰に隠れて見えないじゃないですか。だから、科学の力がなければ搾取の仕組みも分からない。資本主義の世の中は、「ワンフレーズ」では言い尽くせない、複雑さと豊かさを持っている。それを理解しようと思ったら、『資本論』が必要だと思うんです。だから自分の頭で考えよう、新しいものを学ぼう。ワンフレーズも大事だけど、やっぱりもっと社会とは複雑で豊かなものだから、もっと時間をかけて、粘り強く学んでいこうじゃないか、ということを言いたいですね。
それをやらないで、「陰謀論」に行っちゃうのは一番危ないよね。世の中をうんと簡単に分かろうとすると「陰謀論」になる。どっかに悪いやつらがいてこの世の中を操っている。そういうものじゃない。外国人が悪いという議論もある。しかし悪いのは自民党の政治のゆがみだし、もっと根っこにあるのは資本主義のゆがみじゃないですか。そこをちゃんと見ていこうよ、と言いたいです。
斎藤 せっかくなので、この番組を見たら「社会主義、共産主義はこんなもんだ」となんとなく思って終わる、この動画で終わるんじゃなくて、この本(志位氏の「青本」「赤本」)もしっかり読んでいただいて、さらには『資本論』の翻訳なんかも(読んでほしい)。それは私の願いであって。『資本論』は難しい本ですけど、読むことで気が付くこととか(がある)。全部がわからなくても価値観が変わったり、新しい生き方の指針とか、いろんなものが得られる古典だと思うので、そういうものを感じていただく。今日が第一歩になれば良かったなと思います。本当にありがとうございました。
志位 どうもありがとうございました。
(おわり)


