2025年5月21日(水)
シンポジウム「東アジアでの平和の準備を in福岡」
志位議長とパネリストの発言から
17日、福岡市内で開かれたシンポジウム「東アジアでの平和の準備を in福岡」(全国革新懇、福岡県革新懇共催)では、大軍拡の流れに抗して「平和の準備」を進めるための外交の重要性をめぐり、活発な討論が行われました。パネリストは日本共産党議長の志位和夫・全国革新懇代表世話人、弁護士の猿田佐世・新外交イニシアティブ代表、弁護士の仲山忠克・沖縄革新懇代表世話人、コーディネーターは山口大学名誉教授の纐纈(こうけつ)厚・全国革新懇代表世話人が務めました。各氏の冒頭発言(18日付既報)を受けた討論を紹介します。
![]() (写真)志位和夫議長 ![]() (写真)猿田佐世・新外交イニシアティブ代表 ![]() (写真)仲山忠克・沖縄革新懇代表世話人 ![]() (写真)纐纈厚・全国革新懇代表世話人 |
纐纈 中国との関係性について、志位さんは、日中が「互いに脅威にならない」という原則(2008年の日中共同声明)を強調しました。私も、日中が相互に「抑止」しあっているのなら、「相互和解」を進めて、相互に軍縮への道を切り開くことで、「抑止力」に依存しない「平和力」で日中和解、友好平和を進めるべきだと思います。
外交の本質は信頼醸成、政府とともに政党を含む市民社会がその担い手に
志位 (外交で平和をつくるという)猿田さんの発言は共感するところが多くありました。外交の本質は信頼醸成だと言われましたが、その通りだと思います。
一昨年の12月、私はインドネシア、ベトナム、ラオスを訪問しました。インドネシアでの一連の対話のなかで、東南アジア諸国連合(ASEAN)の成功の秘訣(ひけつ)を聞いたところ、「良い対話の習慣がある」と。東南アジア友好協力条約(TAC)を土台にして徹底的に対話を積み重ねて、ASEANの域内で年間1500回もの対話をやっているというお話でした。そこまで徹底した対話をやると相互理解、信頼醸成が進んでいく。ですから、さまざまな紛争が起こったとしても決して戦争になることはないのだと強調されていました。対話による信頼醸成を、実際にやっている経験をもっているASEANと協力して、「対話の習慣」を広げていきたいですね。
東アジアサミット(EAS)の創設に尽力されたインドネシアのハッサン・ウィラユダ元外相と会談をした際、東南アジアには「良い対話の習慣」がある、これをいかにして北東アジアに広げるかが課題だという指摘もありました。私が「日中提言」の話をしますと、とても真剣に聞いていただきました。北東アジアでも、東南アジアで根づいているような「良い対話の習慣」をつくっていく努力をしていきたいと考えています。
猿田さんから、政府レベル、政党や元官僚・知識人、そして市民社会という「三つのトラック」での外交の重要性が語られました。これも同感です。核兵器禁止条約はまさにそうやってつくられた条約だと思います。条約では前文に、「国連および国際赤十字・赤新月運動、その他の国際・地域の機構、非政府組織、宗教指導者、国会議員、学界ならびにヒバクシャによる目標達成への努力を認識する」と明記されているのです。被爆者のみなさんを先頭とする市民社会が声をあげ続け、私たち政党も一緒になって条約をつくったわけですから、外交は国家間だけではなく、政党を含む市民社会が連帯していくことが一番の土台になるということだと思います。
「戦争に備えよ」という動きの危険性と、リアリティーの欠如
志位 (南西諸島の軍事増強を告発した)仲山さんの発言を聞いて、私がよく考える必要があると思うのは、いま戦争の準備をやっている勢力は、「抑止力一辺倒」で大軍拡をやり、軍事対軍事の悪循環に陥っています。そうなれば双方が戦争を望まなくても、何かのきっかけで最悪の事態が起こるということも起こり得るわけで、たいへんに危険な動きだと警鐘を鳴らさなければならない。この逆流に断固反対してたたかわなければならないということは、仲山さんの発言の通りだと思います。
同時に見る必要があるのは、彼らの議論にリアリティーがあるのかということです。だいたい、沖縄の先島諸島の住民12万人を避難させるというけれど、それでは沖縄本島はどうするのか。九州や山口県にいけば安全なのか。昨年秋の日米共同統合演習「キーン・ソード25」では、三沢、横田、横須賀、キャンプ座間、横浜ノースドック、厚木、岩国など、16都府県96カ所の基地・施設で「警備訓練」が行われました。「警備訓練」と言うけれど、実態は「基地の防護訓練」です。つまり、日本全土の戦場化を想定した訓練なのです。それでは、日本国民はどこに逃げたらいいのか。日本全土にシェルターを掘ってそのなかにもぐれとでもいうのでしょうか。
リアリティーのある議論は何か。外交です。今日、お話をしましたが、日中両政府間には、「互いに脅威とならない」という合意があるのだから、それを双方が守る外交で絶対に戦争を起こさないことが何よりも重要だと思います。
「東南アジアは米中どちらの側にもつかない」
志位 猿田さんは、「東南アジアは米中どちらの側にもつかない」と言われました。私も、ジャカルタのASEAN本部を訪問した際、エカパブ・ファンタボン事務局次長から、“米中どちらかの一方の側に立つことはない。バランスをとり、中立性を保ち、自主独立を貫いていく。これをASEANの中心性と言っています”と説明を受けました。その点、もう少しお話しいただけますか。
猿田 シンガポールのリー・シェンロン首相(当時)がアメリカで最も権威ある政治外交誌『フォーリン・アフェアーズ』20年8月号に、「アジア諸国は米中のいずれか一つを選ぶという選択を迫られることを望んでいない」と寄稿して大きな波紋を広げました。アメリカは、東南アジアは自分の陣営の側に近い国が多いと判断していて、シンガポールには米海軍の基地を置いています。自国の軍隊を駐留させている国の首相から「どっちの側にもつかない」と言われて大激震が起きました。
それ以外にも、ASEANの外相会議で「どちらの側にもつかない」という声明が出たり、米英豪の準軍事同盟AUKUS(オーカス)ができた時に、マレーシアやインドネシアは直ちに、各国の軍事競争を懸念する声明を出しました。当時の岸信夫防衛大臣が直ちに歓迎を表明したのと対照的でした。濃淡はもちろんありますが、ASEANは、どの国も中立政策を国是のように位置づけています。みなさんが憲法9条を素晴らしいものだと思うように、中立を切実なものとして考えていますね。
北朝鮮問題をどう解決するか
仲山 志位さんに質問です。日本では中国のみならず、北朝鮮に対する脅威も喧伝(けんでん)されています。北朝鮮をどう見ればいいでしょうか。
志位 北朝鮮について言いますと、国連安保理決議に違反して核実験や弾道ミサイル発射を繰り返していることに対しては、強く抗議して中止を求めていきます。他方、米韓の大規模軍事演習も続いており、軍事的緊張の悪循環を加速しているという事実があります。やはりここでも解決方法は対話しかありません。戦争という選択肢は絶対にありえないし、とってはならない。いかにして軍事的対抗の悪循環から、対話による平和的解決に切り替えるか。難しくても知恵を絞ることが、国際社会のやるべきことだと思います。
私たちが昨年発表した「東アジア平和提言」では、第一に、緊張のエスカレートを止めるための対話のルートを開く(ことを提唱しています)。
第二に、対話と交渉をどういう原則で進めるかということでは、朝鮮半島の非核化と北東アジア地域の平和体制の構築を一体で進めることが重要です。北朝鮮を事実上の核保有国だと認めた上での交渉はやってはならないと考えています。朝鮮戦争が終結していないという事実があります。朝鮮半島の非核化を進めるためには、この状態に終止符を打って地域の平和体制を構築し、北朝鮮を含む関係国の安全保障上の懸念を解決するということを、もう一方でやらないといけない。
その上で関係国の相互不信が激しいなかで、前に進めようと思ったら、合意できる措置を話し合って、一つひとつ段階的に実施して、目標に近づいていくということが現実的方法です。段階的措置によって相互不信を解消し、一挙ではなく急がずに、信頼醸成をはかりながら、着実に進むことが唯一の現実的方法です。
第三に、日朝間には日朝平壌宣言があります。この宣言にのっとって、核、ミサイル、拉致、植民地支配の清算のすべてを、テーブルのうえに乗せて包括的に解決するという立場で、日本は交渉を行うべきです。日本は朝鮮戦争の直接の当事国ではありませんが、北朝鮮は第2次世界大戦の戦後処理が終わってない唯一の国となっています。そういう国として、日朝平壌宣言を土台に、力をつくしていくことが必要です。
どんなに困難が大きくても、戦争という選択肢は絶対にない。外交しかない。そして外交を前進させようとするならば、この道しかない。そう考えます。
締めくくりの発言
志位 21世紀の世界は、米国一国の意思で決まる世界ではない
志位 2月にベトナムのハノイで「ASEAN未来フォーラム」というトラック1・5の取り組みが行われ、日本共産党からも井上歩国際委員が参加しました。どんな雰囲気だったか。トランプ米政権が登場して、「世界秩序の変化」ということが言われるが、ASEANとして落ち着いた対応をとるべきだとの発言が相次いだそうです。
「ASEANには58年の経験があり、前進する意思と発想がある。協力し、相違を管理できている。私は現実的で、希望を持ち、楽観している」「ASEANは大国によって建設されたものではない。ASEANはルールに基づく秩序を掲げている。常にそれをもってきた。世界秩序はだれに属するものでもない」「国際秩序は(人類)共同の生産物であり、だれのものでもない」。こういう発言が行われたとの報告でした。
21世紀の世界は、アメリカ一国の意思、ましてやトランプ大統領一人の意思で決まるような世界ではありません。世界の圧倒的な多数の国ぐには、国連憲章や国際法に基づく平和の秩序を願っています。自主独立と中立という立場で平和をつくろうとしています。ASEANはまさにそれを体現しているのです。
猿田 「防衛力を減らし、外交で努力していこう」という路線の推進を
猿田 トランプさんについては、日本の保守派もこれはめちゃくちゃだと思い始めていて、日本の今後は大きくAとBの可能性に分かれるだろうと私は整理しています。Aは今まで通り日米同盟を強化する、言われた関税も払います、防衛費も国内総生産(GDP)比3%まで上げろと言われれば上げますという、日本政府が間違いなくとる方針ですね。
もう一つのBは、少しずつアメリカ離れをする方法を取り得るでしょう。その後さらに、もうアメリカに頼れないから軍事力を強化しようというB1と、防衛力を減らし、外交で努力をしていこうというB2に分かれていくのかなと思います。やっぱり世界の平和を保つべくB2の路線を取っていくということを推進していかなくちゃいけない。ぜひみなさんのお力をお借りしたいです。
仲山 戦争は人災、人間の力でコントロールできる
仲山 私は、石垣島の農家で生まれ育ちました。毎年例外なくやってくる台風の被害は家屋の倒壊、農作物の壊滅的な打撃という大きな爪痕を残しました。いまだ人間は天災をコントロールできていません。しかし、戦争は人災です。人災ということはコントロールができるんです。80年前の沖縄では艦砲射撃や砲弾の音が打ち鳴らされました。もう嫌です。万国津梁(しんりょう)、国際親善の鐘の音を沖縄から鳴らしていきたい。それを日本に、アジアに、全世界に広げていきたい。その鐘を鳴らすのはあなたです。