志位和夫 日本共産党

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演説・あいさつ

2024年9月4日(水)

「共産主義と自由」についての日本共産党の探究

ベルリン理論交流 志位議長の発言


 日本共産党の志位和夫議長が2日、ベルリン市内のローザ・ルクセンブルク財団本部で開催された「共産主義と自由」についての理論交流で行った発言全文は次の通りです。

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(写真)ローザ・ルクセンブルク財団との理論交流で語る志位議長=2日、ベルリン

マルクス、エンゲルスの母国での理論交流は大きな喜び

 こうした懇談の場を設けていただき心から感謝します。日本共産党が理論的基礎とする科学的社会主義の創設者――マルクス、エンゲルスの母国でこうしたテーマでお話しできることは、私にとって大きな喜びです。

 この懇談の素材にと、二つの英文のテキスト――『Q&A 共産主義と自由――「資本論」を導きに』、『「自由な時間」と未来社会論――マルクスの探究の足跡をたどる』をお届けしました。前者は「共産主義と自由」というテーマについて、若者とのQ&Aを通じて話したものです。後者は、その理論的背景を、マルクスの『資本論草稿集』『資本論』などでの探究の足跡をたどって明らかにしたものです。冒頭、その中心点について説明し、懇談の素材を提供させていただきたいと思います。

綱領路線の確立と、マルクスの理論の本来の輝きを現代に生かす探究の発展

 まず内容に入る前に、日本共産党として、こうした理論問題を重視して取り組んでいる背景と動機についてお話しします。

 日本共産党は、1922年に党を創立して以来102年の歴史を持ちますが、現在の党綱領の土台となる政治路線を確定したのは、1961年の第8回党大会でした。綱領路線確定にいたる時期にわが党は深刻な苦難を体験しました。1950年、ソ連のスターリンと中国によって、武力闘争を押し付ける乱暴な干渉が行われ、党が分裂し、国会での議席がゼロになるという状況に陥ったのです。この分裂を克服する過程で、わが党は「どんな大国の言いなりにもならず、自らの進路は自らの意思で決定する」という自主独立の路線を確立し、その立場にたって61年に綱領路線を確定しました。

 61年綱領の骨格は、国民多数の合意にもとづいて、まず異常な対米従属と財界・大企業中心の政治を打破する民主主義革命を行い、続いて社会主義的変革に進むというもので、この路線はわが党の発展の理論的土台となりました。

 その後、わが党はソ連と中国の党による乱暴な干渉に遭遇しましたが、それを打ち破る中で綱領路線を独自に発展させる努力を続けてきました。スターリンによる理論の歪曲(わいきょく)を一掃し、マルクスの理論の本来の輝き――とくに多数者革命論、未来社会論を現代に生かす理論活動に力を入れ、その成果はこの間行った綱領改定で現綱領に反映されています。懇談の素材としてお渡ししている二つのテキストは、そうした理論的探究の今日における一つの到達点です。

「共産主義と自由」についての真実を広く伝えることは、多数者結集の戦略的課題

 その上で、いま私たちがこうした理論活動に力を注いでいる政治的動機についてお話ししたいと思います。

 61年綱領確定後の60年余に、わが党は国政選挙で3回にわたって躍進を記録しています。第1の躍進は、1970年代で約600万票を得ました。第2の躍進は、90年代後半で800万票を超える票を得ました。第3の躍進は、2010年代で600万票を超える票を得ました。

 どの躍進も重要でしたが、躍進のたびに支配勢力は激しい反共攻撃と政界の反動的再編で応え、わが党は後退を余儀なくされました。反共攻撃の最大の中心点の一つは、「共産主義には自由がない」というものでした。こうした反共的言説は、なお国民のなかに広く影響力を持っています。

 こうした経験と現状にてらして、私たちは「共産主義と自由」についての真実を広く国民に伝えることは、21世紀の今日において、日本の社会変革の事業に国民多数を結集する上で、とくに若い世代を結集する上で、避けて通ることができない戦略的課題だと考えています。

「人間の自由」をキーワードに未来社会の展望を三つの角度から特徴づけた

 今年1月に開催した第29回党大会決議で、私たちは綱領を土台に党の社会主義・共産主義論――未来社会論の新たな発展を行いました。

 党大会決議では、「人間の自由」こそ社会主義・共産主義の目的であり、最大の特質であると強調し、「人間の自由」をキーワードにして未来社会の展望を三つの角度から特徴づけました。

 第1は、「『利潤第一主義』からの自由」という角度です。

 第2は、「人間の自由で全面的な発展」という角度です。

 第3は、「発達した資本主義国の巨大な可能性」という角度です。

 お渡しした二つのテキストは党大会決議をさらに理論的に発展させたものです。その中心点を説明していきたいと思います。

「利潤第一主義」からの自由――「生産手段の社会化」と「自由」は深く結びついている

 Q&Aでは、「序論」として、「資本主義は本当に『人間の自由』を保障しているか?」という問いかけから始めています。

 ごく一握りの富裕層とグローバル大企業が、50億人の人々の貧困の拡大の上に繁栄を謳歌(おうか)する社会が、果たして「自由」な社会といえるだろうか。深刻化する気候危機は、人類の生存の自由という「自由」の根源的土台を危険にさらしているではないか。こうした問いかけから始めています。

 その上で、第1の角度――「利潤第一主義」からの自由について述べています。資本主義的な「利潤第一主義」がもたらしている害悪を、貧困と格差の拡大と、気候危機の深刻化という二つの面から告発し、それらの害悪をとりのぞく道が「生産手段の社会化」にあることを述べています。

 その際「生産手段の社会化」と「人間の自由」との関係に焦点をあてて、両者が深く結びついていることを明らかにすることに一つの力点を置きました。「生産手段の社会化」によって、人間は「利潤第一主義」から自由になり、「自由な生産者が主役」の社会の実現に道が開かれ、貧困や格差から自由になり、恐慌や気候危機など無政府主義的生産のもたらす攪乱(かくらん)から自由になり、「人間の自由」が大きく拡大することを明らかにしました。

人間の自由で全面的な発展――「自由に処分できる時間」こそカギ

 つぎに第2の角度――人間の自由で全面的な発展について述べています。マルクス、エンゲルスは、『共産党宣言』で、社会主義・共産主義社会を、「各人の自由な発展が、万人の自由な発展の条件となる連合体」と特徴づけました。

 人間は誰でも自己の中に素晴らしい潜在的可能性を持っています。しかし資本主義のもとでは、それが実現できるのは一部の人に限られ、実現できないままに埋もれてしまうことも少なくありません。どうしたらすべての人間が自由に全面的に発展できる社会がつくれるか。これはマルクスが若い時代から晩年まで一貫して追求した問題でした。

 その保障をどこに見いだすか。マルクスは1850年代に入ってからの経済学の本格的研究の中で、十分な「自由に処分できる時間」を得ることこそ、人間の自由で全面的な発展のカギだということを突き止めていきます。

「自由な時間」と未来社会に関するマルクスの探究の足跡

 二つのテキストでは、マルクスの探究の足跡を時系列でたどってみました。

 ――マルクスは、1851年、大英博物館の図書館で、イギリスのチャールズ・ウェントワース・ディルクという評論家が匿名で出版したパンフレットに出会います。このパンフレットは、1日の労働時間を12時間から6時間に短縮することを提起し、富とはこうして人々が得ることができる「自由に処分できる時間」だという主張を行っていました。マルクスは、この主張に強い感銘を受け、ノートに詳細に記しました。

 ――マルクスは、1857年から63年にかけての『資本論草稿』の研究の中で、資本主義的搾取の秘密を解明するとともに、搾取によって奪われているものは何かを考察していきます。ここでマルクスは、ディルクの主張に立ちかえり、「自由に処分できる時間」という考え方を、自らの理論の根幹に据えていきます。彼が導きだした結論は次のようなものでした。

 “搾取によって奪われているのは単に労働の成果――「モノ」や「カネ」だけではない。「自由に処分できる時間」――「自由な時間」が奪われている。「自由に処分できる時間」こそ、人間と社会にとっての「真の富」だ。奪われている「自由な時間」をとりもどし、大きく広げ、人間の自由で全面的な発展を可能にする自由な社会を開こう。それこそが社会主義・共産主義だ”

 ――『草稿集』でのこうした探究は、『資本論』第3部に書き込まれた社会主義・共産主義論――人間がまったく自由に使える時間――「真の自由の国」を拡大することにこそ、「人間の自由で全面的な発展」の保障がある、「労働時間の短縮が根本条件である」という未来社会論に結実していきます。

 「自由に処分できる時間」こそ「真の富」だというマルクスの提起は、未来社会で初めて問題になることではありません。私たちは、マルクスの提起を現代日本の闘いにも生かすことが大切ではないかと訴えています。日本は、発達した資本主義国の中でも異常な長時間労働のもとにあります。「過労死」は依然として大きな社会問題です。賃上げと一体に、労働者の自由な生活時間の全体を豊かにするための闘争は日本で焦眉の課題となっています。

発達した資本主義がつくりだし、未来社会に継承・発展させられる諸要素

 第3の角度は、発達した資本主義の国から社会主義・共産主義に進む場合には、「人間の自由」という点でも、計り知れない豊かな可能性が存在しているということです。

 日本共産党は、2020年に一部改定した綱領で、発達した資本主義がつくりだし、未来社会に継承・発展させられる「五つの要素」として、(1)高度な生産力(2)経済を社会的に規制・管理する仕組み(3)国民の生活と権利を守るルール(4)自由と民主主義の諸制度と国民のたたかいの歴史的経験(5)人間の豊かな個性―をあげました。

 Q&Aでは、「五つの要素」のそれぞれについて、未来社会において「継承」させられるだけでなく「発展」させられるということに力点を置いて論じました。二つの点にしぼって説明させていただきたいと思います。

「高度な生産力」――ただ引き継ぐのでなく、新しい質で発展させる

 一つは、「高度な生産力」を継承・発展させるということについてです。気候危機との関連などから生産力一般を否定する議論もあることも念頭において、「生産力」をどう考えるかについて少し踏み込んで書きました。その中心点は以下の通りです。

 ――第1。資本主義がつくりだす高度な生産力そのものは、労働時間の抜本的短縮の条件をつくりだし、未来社会をつくるうえでの不可欠な物質的土台になります。

 ――第2。生産力とは、本来は人間が自然に働きかけて、人間にとって役に立つものを生み出すための「労働の生産力」ですが、資本主義のもとではそれが資本の支配のもとに置かれて、あたかも「資本の生産力」のようにあらわれ、搾取を強化したり、自然を破壊する力をふるいます。

 ――第3。未来社会に進むことによって、生産力は、「資本の生産力」から抜け出して、「労働の生産力」の姿をとりもどすことになるでしょう。未来社会は、資本主義がつくりだした「高度な生産力」をただ引き継ぐのでなく、新しい質で発展させるものとなるでしょう。その内容としては(1)「自由な時間」をもつ人間によって担われる(2)労働者の生活向上と調和した質をもつ(3)環境保全―これが私たちの展望です。

「旧ソ連、中国のような社会にならない保障は」という問いに対して

 もう一つは、「旧ソ連、中国のような社会にならない保障は」という問いにどう答えるかという問題です。Q&Aでは、こうした問いに対して、指導勢力の誤りとともに両者に共通する根本の問題として「革命の歴史的な出発点の遅れ」という問題があったこと、日本における社会主義・共産主義の未来が自由のない社会には決してならないという保障は、発達した資本主義を土台にして社会変革を進めるという事実の中にあることを強調しました。

 旧ソ連の歴史的失敗は、マルクス、エンゲルスの未来社会論の輝きを損なわせるものでは決してありません。私たちが取り組んでいる発達した資本主義国での社会変革の事業の中でこそ、それは真の輝きを放つだろうというのが私たちの確信です。

 ご清聴に感謝します。ぜひ忌憚(きたん)のないご意見をいただければと思います。