志位和夫 日本共産党

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演説・あいさつ

2023年12月27日(水)

東アジアの平和構築をめざして

ベトナム外交学院 志位委員長の講演


 日本共産党の志位和夫委員長が、25日にハノイのベトナム外交学院で行った講演(詳報)は次のとおりです。


写真

(写真)外交学院で講演する志位委員長=25日、ハノイ(面川誠撮影)

 若い友人のみなさん、こんにちは。私は、日本共産党委員長の志位和夫です。

 今回のベトナム訪問は、私にとって5年ぶり、4回目の訪問になります。5年前に訪問したさいにも、外交学院でお話しする機会がありましたが、本日、ふたたびベトナムの未来を担う若いみなさんの前でお話しすることができて、たいへんにうれしい思いです。

 私は、いま69歳ですが、私たちの世代の日本共産党員にとって、ベトナムとは青春そのものです。私たちが青年の時期に、米国によるベトナム侵略戦争に反対する連帯のたたかいが、日本でも大きく燃え広がりました。私自身も、デモや集会に参加し、「自由ベトナム行進曲」を歌ったことを、胸を熱くして思い出します。

 今日は、「東アジアの平和構築をめざして」と題して、いかにして東アジアを戦争の心配のない平和な地域にしていくかについての日本共産党の立場をお話しさせていただきたいと思います。どうか最後までよろしくお願いいたします。

半世紀以上におよぶ両党の友好と連帯の歴史

 若い友人のみなさん。まず日本共産党とベトナム共産党の伝統的な友好と連帯の関係について、お話ししたいと思います。

 日本共産党は1922年に創立され、100年以上の歴史をもちます。ベトナム共産党との交流が本格的に始まったのは1966年にハノイで行われた両党会談でした。ベトナム共産党とベトナム国民が、民族解放と南北統一のために苦難に満ちた抗米救国闘争を行っていた時期です。

 宮本顕治書記長を団長とする日本共産党代表団は、レ・ズアン第一書記を団長とするベトナム労働党代表団と、5日間のべ30時間の会談を行いました。両党間に堅固な一致点があることが確認され、ベトナム人民支援の国際統一戦線の結成を求める共同コミュニケに調印しました。

 会談中には、ホー・チ・ミン主席も会議室に入ってくることがありました。ホー・チ・ミン主席は統一戦線についての私たちの立場にまったく賛成だとしたうえで、当時ベトナムが受けていた国際援助について、「こういう援助だ」と、掌(手のひら)をパッと広げてその問題点を表現しました。そして、「われわれが求めているのは、こういう援助だ」とホー主席は掌をぐっとにぎりました。バラバラでまとまっていない国際支援ではなくて、世界の友人や進歩勢力の団結したとりくみこそ必要だという意味でした。こうして両党は、自主独立と団結という重要な原則的立場を共有していることを確認し、本格的な交流と連帯が開始されることになりました。

 もう一つ、エピソードを紹介します。実は、1966年の両党会談は中国語の二重通訳を介して行われました。当時は日本側にベトナム語が話せる同志がおらず、ベトナム側にも日本語で通訳できる同志がいなかったためです。宮本書記長とホー・チ・ミン主席の会談で、協力しあって通訳を養成することで合意し、その後、ハノイと東京にそれぞれ留学生が送られました。この学院には日本語を勉強されている学生が180人いるとうかがいましたが、いまでは日本語とベトナム語の通訳は双方にたくさんいます。その起源がこの両党会談にあったことをお伝えしたいと思います。

 今年は、日本とベトナムの外交関係樹立50周年の年であり、私たちも両国関係、両国民の関係の発展を支持し、50周年を祝っています。同時に、その以前の時期から、私たち日本共産党と日本の進歩的な市民が、独立と自由のためにたたかうベトナム人民と心の通う友情と連帯を育んできたことを、若いみなさんに知っていただけたらうれしいです。

 私は、こうした両党の伝統的な友好と連帯の関係が、21世紀に、若い世代へと引き継がれ、さらに大きく発展することを、強く願ってやみません。

東南アジアでの「平和の激動」と「ASEANインド太平洋構想」(AOIP)

 若い友人のみなさん。私たちの今回の東南アジア訪問は、東南アジア諸国連合―ASEANによる平和の地域協力のとりくみを生きた形でつかみ、ASEANとの新たな協力と連携の強化を探求することを目的とした訪問です。

 私たちは、ここに来る前に、インドネシアとラオスを訪問してきましたが、ベトナムはASEANのなかで重要な位置を占めている国であり、ベトナムの同志たちとこの問題で突っ込んだ意見交換ができればと願っています。

 私自身は、東南アジアを何度も訪問してきましたが、訪問するたびに、この地域で「平和の激動」ともいうべき巨大な変化が起こっていることに、目を開かされる思いを繰り返し経験してきました。

 ASEANは、1976年、紛争を平和的な話し合いで解決することを義務づけた東南アジア友好協力条約(TAC)を締結し、域内で年1000回を超える会合―現在では年1500回もの会合を開くなど、徹底した粘り強い対話の努力を積み重ね、この地域を「分断と敵対」から「平和と協力」の地域へと劇的に変化させてきました。

 日本で活動する私たちがとくに心強く感じているのは、ASEANが、こうした平和の地域協力の流れを、域外の諸国に広げるために一貫して努力をはかっていることです。なかでも、ASEAN10カ国と、日本、中国、米国など8カ国によって構成される東アジアサミット(EAS)が、毎年首脳会談を開催し、この地域の平和の枠組みとして発展していることは、重要な意義をもつものです。

 その最新の到達点として私たちが注目してきたのが、2019年のASEAN首脳会談で採択された「ASEANインド太平洋構想(AOIP)」です。AOIPは私たちの理解としては次の諸要素からなっています。

 ―対抗でなく対話と協力の潮流を強化する。

 ―どの国も排除せず、包摂的な枠組みを追求する。

 ―大国の関与を歓迎し、積極面を広げるが、どちらの側にもつかない。

 ―ASEANの中心性―自主独立と団結を貫く。

 ―新たな枠組みをつくるのでなく、東アジアサミットなど既存の枠組みを強化・発展させる。

 ―東南アジア友好協力条約(TAC)を規範として重視し、ゆくゆくは東アジア規模に広げていく。

 たいへん理にかなった構想です。

 日本共産党は、AOIPに全面的に賛同し、その成功のためにあらゆる知恵と力をつくすことを表明するものです。

AOIPの成功のために――日本共産党としてのとりくみ

 若い友人のみなさん。AOIPの成功のために、日本共産党として何ができるか。この構想を成功させるためには、政府と政府の間の話し合いが重要であることは論をまちませんが、同時に、市民社会、政党の役割が重要だと考えます。私たち日本共産党のとりくみを紹介させていただきたいと思います。

 日本共産党は2022年1月、東アジアに平和をつくる「外交ビジョン」を提唱し、その実現のために内外で力をつくしてきました。いま日本政府がやるべきは、破局的な戦争につながる軍事的対応の強化ではなく、ASEAN諸国と手を携え、AOIPの実現を共通の目標にすえ、すでにつくられている東アジアサミットを活用・発展させて、東アジアを戦争の心配のない地域にしていくための憲法9条を生かした平和外交にこそある―これが日本共産党が提唱してきた「外交ビジョン」です。

 ASEANではすでに“対話の習慣”が当たり前になっていますが、これを北東アジアを含む東アジア全体に広げたい。これが私たちの強い願いです。

 私は、国会の場で、岸田首相に、AOIPの実現をはじめ、ASEANと協力した平和外交を進めることを求めてきました。岸田首相は、「AOIPを強く支持している」と答弁しました。ならば、真剣にその推進に力をつくせと、私たちは求めています。

 日本共産党は2023年3月、対話によって日本と中国の両国関係を前向きに打開する「提言」を発表し、日中両国政府に対して働きかけてきましたが、この「提言」のなかで、私たちは、東アジアの平和の枠組みとして、ASEANが提唱しているAOIPを日中両国が共同して推進することを訴えています。私たちの「提言」に対して、日本政府、中国政府の双方から、肯定的な受け止めが返ってきました。ならば、日中両国は、ASEANと緊密に協力して、AOIPを成功させるための真剣なとりくみを行うべきです。

 日本共産党は、アジアの政党の国際フォーラムの場でも、AOIPの推進を訴えてきました。アジア政党国際会議(ICAPP)というアジアの合法政党が一堂に会するフォーラムがあります。私は、2022年11月、トルコのイスタンブールで開催されたICAPP総会でのスピーチで、ICAPPとしてAOIPを支持し、東アジアの平和創出にとりくむことを訴えました。全会一致で採択されたイスタンブール宣言には、「ブロック政治を回避し、競争より協力を重視する」と明記されました。AOIPの方向が、アジアの合法政党の総意として確認されたことは、重要な意義をもつと考えます。

 若い友人のみなさん。AOIPを成功させ、東アジア地域の全体を、戦争の心配のない平和な地域にしていくために、協力と連携を強めようではありませんか。

世界の構造変化が生きた力を発揮――平和と社会進歩のために手を携え前にすすもう

 若い友人のみなさん。最後に世界に広く目を向けてみたいと思います。

 ASEANが、世界平和の一大源泉として、大きなパワーを発揮し、米国も、中国も、日本も、ASEANとの協力を望んでいるのはどうしてか。その根底には、20世紀に進行した世界の構造変化があると考えます。

 20世紀初頭には全世界を覆っていた植民地体制が、第2次世界大戦後、音を立てて崩壊し、100を超える国ぐにが新たに政治的独立をかちとって主権国家になりました。こうした世界の構造変化は、21世紀の今日、平和と社会進歩を促進する大きな力を発揮しています。一握りの大国が世界政治を思いのままに動かしていた時代は終わり、世界のすべての国ぐにが、対等・平等の資格で、世界政治の主人公になる新しい時代が開かれつつあります。

 私は、ASEANが発揮しているパワーの根底には、こうした世界の構造変化があると考えます。ベトナムがいち早く批准し、ASEANの多くの国が参加している核兵器禁止条約の成立と発展の根底にも、こうした世界の構造変化があると考えます。

 そして私が強調したいのは、ベトナム人民の闘争が、世界の構造変化を促進するうえで、世界史的貢献をしているということです。第2次世界大戦後の植民地体制の崩壊の序曲となったのは、1945年8月のベトナムの独立革命でした。ここベトナムから始まった植民地体制の崩壊の波が、アジアを覆い、そしてアフリカを覆いました。さらに、フランスとアメリカという二つの帝国主義に打ち勝ったベトナム人民のたたかいが、世界の平和と進歩の促進に果たした役割は、文字通り世界史的意義をもつものだと、私たちは考えています。私たち日本の平和・進歩勢力は、ベトナムの自由と独立をたたかいとったベトナム人民のたたかいに、今も強い信頼と尊敬の気持ちをもっていることを、若い友人のみなさんにお伝えしたいと思います。

 今年で党創立101周年を迎える日本共産党のたたかいも、こうした人類の進歩に貢献するものと、私たちは確信しています。日本共産党は、かつての日本軍国主義によるアジア・太平洋に対する侵略戦争に、命がけで反対を貫いた日本で唯一の党です。戦後、日本のアメリカからの真の独立を求め続けるとともに、世界の植民地解放闘争に連帯し、ベトナムをはじめ世界の民族解放闘争に連帯してたたかってきた政党です。

 日本共産党とベトナム共産党、日本とベトナムの人民は、直接の連帯だけでなく、独立と自由、尊厳と幸福、社会の進歩を目指す人類の発展の歴史の流れのなかで、強く結びつきあっているといえるのではないでしょうか。

 若い友人のみなさん。この連帯の流れを、さらに大きく発展させ、戦争の心配のないアジアをつくるために、核兵器のない世界をつくるために、人類の生存を脅かしている気候危機の打開のために、そして世界の平和と社会進歩のために、ともに手を携え、前に進もうではありませんか。ご清聴ありがとうございました。

学生らの質問にこたえて

AOIP実現のために日本がASEANと協力してできることは?

 質問 AOIP実現のために日本がASEANと協力してできることはなんですか。

 志位 二つあります。

 一つは、日本政府は東アジアサミット(EAS)の公式の参加国の一つです。EASは毎年首脳会議を開催しており、合意が積み重ねられています。EASを対話の場として、活用・強化し、発展させる仕事に日本政府はとりくむべきです。

 もう一つは、北東アジアの固有の懸案の解決に積極的にとりくむことです。北東アジアには“対話の習慣”が不足しています。“対話の習慣”が当たり前になるようにしなければなりません。

 そのための日本共産党のとりくみについて紹介します。

 第一は、日中両国関係の前向きの打開についての外交提言です。日中両国間にはさまざまな緊張の関係、対立の関係があります。その要因は双方にありますが、対話で解決する以外にありません。今年3月にそのための提言を両国政府に対して提案しました。

 日中両国政府間の過去の合意をすべて検討し、外交政策を検討し、現状の打開に役立つ三つの「共通の土台」があることを見いだしました。

 一つは、2008年の「互いに脅威にならない」という日中首脳間の合意です。

 二つは、2014年の尖閣問題など東シナ海の緊張状態を「対話と協議」で解決するという合意です。

 三つは、東アジアの多国間の枠組みについて、両国政府がAOIPを支持しているということです。

 これらの三つの「共通の土台」を足掛かりに外交にとりくみ、友好関係を築くべきだと提言しました。これらの内容は、日中双方に受け入れ可能で、かつ真剣に実行するならば実効性のあるものにしました。それはASEANから学んだものです。日中両国政府から肯定的な受け止めが返ってきました。日中両国政府、両国間の対話のプロセスを時間がかかっても前に進めるように促していきたいと考えています。

 第二に、北東アジアには、朝鮮戦争が終わっていないという問題があります。わが党は、北朝鮮の弾道ミサイル発射などに厳しく反対しています。同時に、朝鮮半島問題の解決の方法は対話しかありません。日本にとって手がかりになるのは、2002年の日朝平壌宣言です。核、ミサイル、拉致、過去の清算をふくめ、包括的な解決をはかっていくという内容です。この宣言に基づいて、日本と北朝鮮との対話のルートを確立すべきだということを強く主張しています。

 第三に、北東アジアの固有の問題として、歴史問題があります。日本が過去に侵略戦争、植民地支配をしたにもかかわらず、その反省が欠如しているという問題です。これが北東アジア地域の友好関係をつくるうえでの障害となっています。日本政府が歴史に真摯(しんし)に向き合うことを日本共産党は強く求めています。

 日本は、東アジアの平和構築のために二重の努力を払うべきです。ASEANとともにEASを発展させAOIPを成功させるための努力を続けながら、北東アジアに固有の諸懸案を外交によって解決する―この両面で“対話の習慣”をつくっていく努力を払うことが必要です。東南アジアで発展している“対話の習慣”を北東アジアに広げたい。これが私たちの強い願いです。

この地域(南シナ海)の摩擦を解消するためにできることは?

 質問 この地域(南シナ海)の摩擦を解消するためにできることはなんですか。

 志位 わが党は、南シナ海における力ずくで現状を変える動きに反対です。この問題は、国連憲章、UNCLOS(国連海洋法条約)、DOC(南シナ海行動宣言)のルールを守って、外交的に解決されるべきです。いまDOCをCOC(南シナ海行動規範)にする努力が続けられています。日本共産党はこれを支持します。

 東シナ海でも力ずくで現状を変える動きが起こっていますが、私たちは強く反対しています。さきほど紹介したように、日中両国間に「対話と協議」で解決するという合意があります。この問題を外交的に解決し、DOCのような規範をつくっていくことが大切だと考えます。

前回のベトナム訪問時と比べて、その後の日越関係の発展をどうみているか?

 質問 5年前のベトナム訪問時と比べて、日越関係の発展をどうみていますか。

 志位 ベトナムのトゥオン国家主席が来日し、日本との間で包括的戦略的パートナーシップが結ばれたことを、私たちは歓迎しています。日本共産党は、野党であり、現在の政権党と厳しく対立していますが、日越の友好関係が発展することは歓迎です。日本とベトナム両党関係の発展が、両国関係の発展をより豊かにすることに貢献するものとなることを願っています。

なぜASEANで対話の文化が広がったか?

 質問 ASEANは対話の文化の象徴です。そうなった理由をどう考えていますか。

 志位 ASEANは対話の文化の象徴だといわれました。なぜASEANに対話の文化がこれだけ広がったか。ここに来る前にインドネシアを訪問し、ハッサン・ウィラユダ元外相と懇談する機会がありました。ハッサン氏に“対話の習慣”がなぜASEANに広がったのかをきくと、それは「多様性の産物」だという答えが返ってきました。ASEANは実に多様性に富んだ地域です。経済発展、民族、宗教、社会体制など、多様性がある。多様だからこそ、対話が必要だということでした。ここにASEANの成功の秘訣(ひけつ)があるように思います。