志位和夫 日本共産党

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インタビュー・対談

2018年6月24日(日)

米朝首脳会談の歴史的意義、今後の展望を語る

志位委員長インタビュー


 歴史上初めての米朝首脳会談(12日)から10日余。両国間では合意を具体化する動きも始まっています。日本共産党の志位和夫委員長に、今回の米朝首脳会談の歴史的意義と今後の展望について聞きました。(聞き手 小木曽陽司・赤旗編集局長)


米朝首脳会談をどうみるか

「戦争と敵対」から「平和と繁栄」へ――「新しい米朝関係の確立」を最大の目標にすえた

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(写真)インタビューにこたえる志位和夫委員長

 小木曽 今回の米朝首脳会談の結果をどのようにみるのか、あらためてお聞きします。

 志位 長年にわたって厳しく敵対してきた米国と北朝鮮が、歴史上初の首脳会談を行い、「新しい米朝関係の確立」を約束し、朝鮮半島の平和体制の構築と完全な非核化で合意しました。私たちは今回の米朝首脳会談を「心から歓迎する」と表明しました。

 首脳会談の共同声明を読むさいに、その論理構成がとても大事だと思います。4項目の合意が確認されているわけですが、その順番に大きな意味があります。

 第1項は、両国は「平和と繁栄に向けた両国国民の願いに従って新しい米朝関係を確立する」とあります。これを第1項にすえて、第2項で、両国は「朝鮮半島に永続的で安定した平和体制を構築する」、第3項で、北朝鮮は「朝鮮半島の完全な非核化に向けて取り組む」という順番になっているわけです。

 つまり、共同声明では、「新しい米朝関係」の確立――今後の米朝関係を「戦争と敵対」から「平和と繁栄」へと根本から変えることが、合意の一番の要にすえられ、追求すべき最大の目標にすえられている。そうした新しい関係をつくろうと思ったら、朝鮮半島に平和体制を築くことが必要になるし、その最大の障害となるのは核兵器だから「完全な非核化」が必要になるというふうな組み立てになっているのです。

 「新しい米朝関係」をつくるという両国首脳の決意が大本にすえられた。そういう点で、私は、今度の共同声明というのは、首脳会談の合意にふさわしい、よく練られたものとなっていると思います。まさに歴史的合意とよべるものです。

米朝首脳会談の共同声明(骨子)

 新しい米朝関係の確立が朝鮮半島並びに世界の平和と繁栄に対する貢献となることを確信し、トランプ大統領と金正恩委員長は以下のように声明する。

 1、平和と繁栄に向けた両国国民の願いに従って新しい米朝関係を確立することにコミットする。

 2、朝鮮半島に永続的で安定した平和体制を構築する努力に参加する。

 3、板門店宣言を再確認し、朝鮮半島の完全な非核化に向けて取り組むことにコミットする。

 4、戦争捕虜・行方不明者の遺骨の返還にコミットする。

「具体性に乏しい」などの否定論や懐疑論をどうみるか

歴史上初めての米朝首脳間の合意、簡単には後戻りできない重みがある

 小木曽 なるほど。たいへん重要な成果があったと思いますが、日本のメディアや専門家の間では、「具体策が乏しい」とか「北朝鮮はまた合意に背くだろう」といった否定論、懐疑論が多い印象ですが。

 志位 そうですね。私は、そういう議論は、いま起こっている動きの歴史的意義を見誤っていると思います。

 いくつか述べたいのですが、第一に、今度の首脳会談というのは、「平和のプロセスの始まり」というところに歴史的意義があるということです。だいたい、70年にわたって深刻な敵対関係を続けてきた両国の首脳が初めて会って、一回の首脳会談ですべての問題が一挙に解決するなどということはありえないことです。

 文在寅(ムン ジェイン)・韓国大統領は、米朝首脳会談をうけて発表した談話で、「これは始まりであり、今後も数多くの困難があるでしょうが、二度と引き返しませんし、この大胆な旅程を決して放棄しません。歴史は行動して挑戦する人々の記録です」と語っています。米朝首脳会談成功のために奔走した文大統領の肉声が聞こえてくる談話で、私も感動をもって読んだのですが、そういう平和のプロセスを始めたというところに歴史的意義があるということをまず言いたいと思います。

 第二に、「過去にも同じような合意を米朝でやっているのに、何度も裏切られてきたではないか」という議論についていいますと、「過去の合意」とは決定的に違うことがあります。それは首脳間の初めての合意だということです。

 朝鮮半島の非核化に関する過去の合意では、1994年の「米朝枠組み合意」があり、2005年9月19日の「6カ国協議の共同声明」があります。たしかに、この二つの合意は履行が中断されました。ただ、どちらも外務次官・局長など実務者レベルの合意なのです。今度は首脳間の合意です。ここが決定的に違います。この合意を覆せるのは首脳しかないのです。簡単には後戻りしない重みをもっている。

 小木曽 “不可逆的”な意味をもっている。

 志位 そうですね。そういう意味では、“不可逆的”な重みをもっている合意だということが言えると思います。

米、朝、韓、日、全世界の人々が核戦争の脅威から抜け出す扉が開かれた

 志位 第三に、何よりも重要なこととして強調したいのは、この間の南北、米朝という二つの首脳会談によって、米国、北朝鮮、韓国、日本、さらに全世界の人々が戦争の脅威、核戦争の脅威から抜け出す扉が開かれたということです。文大統領は「戦争の脅威から抜け出したこと以上に重要な外交的成果はない」とのべていますが、私もまったく同感です。

 昨年の不安と恐怖を思い出してほしい。北朝鮮が核・ミサイル実験を繰り返し、米国の側も軍事的威嚇を行う。一触即発でいつ戦争になるかわからないという不安と恐怖が世界を覆いました。それから比べると、情勢の前向きな大変動が起こっているわけです。それは誰も否定できないでしょう。

 小木曽 東京新聞の「本音のコラム」で文芸評論家の斎藤美奈子さんは、米朝首脳会談について、「日米のメディアは一様に苦虫を噛(か)み潰(つぶ)したような論調だった」けれども、「昨年の一触即発状態に比べたら大進歩じゃない?」とのべ、「もっか国内で米朝会談を評価しているのは共産党だけという異様さ。西側の秩序が乱されるのが嫌なのかしらね」と語っています。

 志位 「大進歩」というのは、偏見なく事実をありのままにみるならば、当たり前の評価ではないでしょうか。

 いま大事なことは、「具体性に乏しい」とか、あれこれの問題点をあげつらって、この会談の歴史的意義をおとしめるのではなくて、開始された平和のプロセスを前に進め、成功させるために、世界中が協力することではないでしょうか。

日本共産党はどう対応してきたか

「対話による平和的解決」を一貫して追求、情勢の節々で関係国に働きかける

 小木曽 この問題をめぐって日本共産党は、どういう考えに立って、どのような対応を行ってきたのでしょうか。

 志位 昨年から今年にかけて、この問題が国際政治の大問題になるもとで、日本共産党が一貫してとってきた立場は、“北朝鮮の核開発には断固反対だが、破滅をもたらす戦争だけは絶対に起こしてはならない、対話による平和的解決が唯一の解決の道だ”というものでした。私たちは、この立場にたち、情勢の節々で関係国への働きかけを行ってきました。振り返ってみていくつかの重要な節目があります。

 第一の節目は、昨年2月、米国のトランプ新政権がオバマ前政権時代の「戦略的忍耐」と呼ばれた政策を「見直す」と表明したときでした。「戦略的忍耐」とは、“北朝鮮が非核化の意思と行動を示すまでは交渉をしない”という政策ですが、これで交渉を拒否している間に、北朝鮮は核・ミサイル開発をどんどん進めてしまった。政策破綻は明瞭だったのです。これを「見直す」とトランプ大統領はいった。ただこの時に、米国政府は、外交的選択肢とともに軍事的選択肢もありうると表明しました。こういう事態をうけて、私は、「見直す」というのだったら絶対に軍事の選択肢をとるべきではない、「米国は外交交渉によって北朝鮮に非核化を迫るべきだ」と提唱しました。NHKの「日曜討論」の場でこの提唱を行いました。

 第二の節目は、昨年8月、米朝間で軍事的緊張が高まっていった時期です。北朝鮮が核・ミサイル実験をくりかえし、「グアム島周辺への包囲射撃」を検討していると表明する。それに対して、トランプ大統領が「北朝鮮がこれ以上米国を脅すのであれば、炎と激しい怒りに直面することになるだろう」という。軍事的どう喝の応酬となりました。私は、このままでは当事者たちの意図にも反して、偶発的な事態や誤算による軍事的衝突につながりかねないと強く懸念して、「危機打開のため米朝は無条件で直接対話を」という声明を発表し、関係国に働きかけました。

 小木曽 今年に入って、潮目の大きな変化が起こりました。

 志位 そうですね。第三の節目として、2月の平昌五輪を大きな契機として、対話による平和的解決の歴史的チャンスが生まれてきました。私たちは、絶対にこの歴史的チャンスを逃してはならないと考え、4月6日に、今後の対話と交渉にあたっては、「朝鮮半島の非核化と北東アジア地域の平和体制の構築を一体的、段階的に進めてほしい」という要請を関係6カ国政府に対して行いました。

平和のプロセスへの一つの貢献に――「こういう政党は日本に他にはない」という評価も

 志位 それでは昨年から今年にかけて安倍政権は何をやっていたかというと、「あらゆる選択肢をテーブルの上にのせるというトランプ政権の政策を強く支持する」といって、米国の軍事力行使に無条件のお墨付きを与えた。「対話のための対話は意味がない」と「対話否定」「圧力一辺倒」でやってきた。日本の主要メディアも、同様の「圧力一辺倒」論に押し流されるという状況でした。そういう動きに流されないで、日本共産党が一貫して対話による平和的解決を主張し続けたというのは、非常に鮮やかなコントラストを示したと思うのです。

 小木曽 そのことの意味は大きいですね。

 志位 そう思います。世界は、わが党が求め続けた方向に劇的に動きました。とくに4月6日の6カ国政府への要請のあとの2カ月を考えてみますと、すごいスピードで事態が動きました。4月27日に歴史的な南北首脳会談が行われ、「板門店宣言」がだされ、「朝鮮半島の完全な非核化」と「年内の朝鮮戦争の終結」が宣言されました。そして6月12日の米朝首脳会談です。わが党の一貫した主張、そして4月6日の要請の方向は、関係各国が努力していた方向とも合致し、いま起こっている歴史的な平和のプロセスへの一つの貢献となったといえると思います。

 関係6カ国のある大使館と懇談したさいに、「(日本共産党は)対話による問題解決を訴え、さらに事態の進展のなかで積極的な提起をしてきた。こういう政党は日本に他にはない」という評価もいただきました。

 小木曽 うれしい評価ですね。

平和のプロセスを成功させるうえで何が大切か

合意を具体化し誠実に履行する持続的努力、国際社会の協調、諸国民の世論と運動を

 小木曽 始まった平和のプロセスをどう前進させ、成功させるか。これからの取り組みで大切な点は何でしょうか。

 志位 今回の米朝合意、南北合意を実行するうえでは、さまざまな困難も出てくるでしょう。方向は明確に示されたと思いますが、具体的な履行方法はこれからの課題です。私は、過去の経験に照らしても、何よりも大事なのは、何があっても交渉を継続することにあると思います。合意を具体化し、誠実に履行する。そのための真剣で持続的な努力が必要になると思います。

 非核化という問題を一つとっても、いくつかのプロセスが必要です。まず核兵器や核施設等がどうなっているかについて申告する。それを検証する。そして廃棄する。それをさらに検証する。そうしたいくつかのプロセスが必要です。そして、北朝鮮が非核化を履行するのにともなって、米国はそれにふさわしい措置を取る必要があります。

 そのさいに、「約束対約束、行動対行動」の原則がとても大事になります。その第一歩はすでに始まっていると思います。北朝鮮が核・ミサイル実験の中止を表明した。そして核実験場を破壊するという行動をとりました。それに対して米韓側は、米韓合同軍事演習を当面は中止するという行動を決定した。「行動対行動」が始まっているわけです。こういう一つひとつの積み重ねによって、双方が相互不信を解消し、信頼醸成をはかり、前に進んでいく。そうした努力の継続を求めたいと思います。

 もう一つ強調したいのは、米朝両国の努力、南北双方の努力がとても大切になるのですが、米朝と南北の努力だけにまかせて、あとは見ているということではすまない。ことは、北東アジア全体の平和と安定、さらに世界の平和と安定にかかわる問題ですから、関係各国、国際社会の協調した取り組みが大切です。さらに、各国政府が努力するだけではなくて、何よりも諸国民の世論と運動が決定的に大事だと思います。平和を求め、核兵器のない朝鮮半島、核兵器のない世界を求める諸国民の世論と運動が、この平和のプロセスを成功させる根本の力になります。私たちの取り組み――日本における世論と運動もとても大事になってくると思います。

日本政府は何をなすべきか

日朝平壌宣言を指針に、諸懸案の包括的解決、北東アジアの平和体制構築の立場で

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(写真)安倍晋三首相(左)と会談する(右へ)志位和夫委員長、小池晃書記局長=4月9日、国会内

 小木曽 国際社会の協調した取り組みが大事だということですが、関係国である日本の役割はとくに重要だと思います。日本政府は何をなすべきでしょうか。

 志位 先にお話ししたように、安倍政権は、この問題について、「対話否定」「圧力一辺倒」という立場をずっと続けてきたわけです。これは誰が見ても明らかに破綻してしまいました。そのもとで、対話路線への転換を余儀なくされているというのが今の状況だと思います。

 ふりかえりますと、私は、4月9日に安倍首相と党首会談を行い、日本共産党の要請を伝え、「日本政府も対話による平和的解決の対応を行うべきだ」と提起しました。首相は、この時点では、国会答弁では、相変わらず「対話否定」論を唱えていたのですが、私との会談では、いっさいの異論や反論を言わず、「しっかり検討します」と言った。

 小木曽 結局は、対話を選択せざるをえなくなりました。

 志位 そうですね。「100%ともにある」というトランプ大統領が対話を選択してしまったら、日本は従うしかありません。

 経過はどうであれ、その道を選択したのなら、私は、日朝首脳会談の実現も含めて、対話による問題解決のための真剣な努力を行うことを強く求めたいと思います。

 そのさい、日本はすでに最良の指針を持っています。それは日朝平壌宣言(2002年)です。日朝平壌宣言の考え方というのは、核・ミサイル、拉致、過去の清算など両国間の諸懸案を包括的に解決して国交正常化に進もうというものです。包括的解決とは何か。交渉にあたって「諸懸案に優先順位をつけない」ということです。日本が「拉致問題は最優先」だといい、北朝鮮は「過去の清算が最優先」だといい、お互いに優先順位をつけて、それを相手に認めさせようとしたら、交渉のテーブルにつけません。どれも大事な問題なのですが、優先順位をつけないで、すべてをテーブルの上にのせてワンパッケージで解決する。この考え方でまとめたのが、平壌宣言です。ここには外交の英知が働いています。拉致問題は、日本国民にとってたいへんに重要な問題ですが、こうした立場で取り組んでこそ拉致問題の解決の道も開かれうると思います。

 日朝平壌宣言には、もう一つ大事な観点が書かれています。それは宣言の第4項に明記されている「北東アジア地域の平和と安定」のために「互いに協力していく」ということです。両国間の諸懸案を解決するとともに、さらに広く北東アジア地域の平和と安定のために協力しましょうという合意なのです。ですから私は、日本政府として、今後、外交交渉に乗り出すさいに、「北東アジアの平和体制をどうやって構築していくのか」ということについて、主体的な外交ビジョンをもってのぞむ必要があると思います。この点でも、日朝平壌宣言を指針にしていくことが大切です。

 小木曽 南北、米朝の正常化だけでなく、日朝の正常化までいきませんと、この地域に平和は訪れません。

 志位 その通りです。北東アジア地域の敵対関係の解消ということを考えてみますと、米朝には、朝鮮戦争以来の戦争状態が法律的にはいまだに続いており、戦争状態に終止符を打ち、平和協定に進むという課題があります。南北も、朝鮮戦争以来の戦争状態から、いかに平和・繁栄の半島に転換するかという課題があります。この地域には解消すべき敵対関係が二重にあるわけです。

 それでは日朝はどうか。日本は、朝鮮戦争のさいに米軍の出撃・兵たん基地になりましたけれども、直接、朝鮮戦争に参戦したわけではありませんから、日朝は戦争状態にあるとはいえない。しかし日本は過去に朝鮮半島に対する植民地支配を行いました。その清算ができていない。日本として戦後処理がすんでいない唯一の国が北朝鮮なのです。日朝は、戦争状態が続いているとはいえないが、対立状態が続いており、それを解消するという課題があります。ですから、この地域の敵対的・対立的関係をすべて清算して友好・協力の関係を築こうとすれば、南北、米朝とともに、日朝の国交正常化は不可欠なのです。それなしには、この地域の敵対的・対立的関係の終結にならないのです。そういう歴史的視野も持って日本政府は取り組む必要があるということを強調したいですね。

平和のプロセスが成功すればどうなるか

世界史の一大転換点、地域の情勢も一変し、日本の情勢も大きく変わる

 小木曽 委員長は、平和のプロセスが成功すれば「世界史の一大転換点になる」とお話しになっていますが、どういうことでしょうか。

 志位 世界史の観点でいうと、すでに「ベルリンの壁」はなくなり、「東西対決」の構造で最後に残ったのが朝鮮半島なのです。ここで対決構造が解消されて平和、協力、友好という関係になれば、まさに世界史を前に進める一大転換点になると思います。

 そして地域の情勢も一変します。これまで「脅威」だったものが脅威でなくなる。これまで敵国の関係だったものが友好・協力の関係になる。成功するならば、まさに歴史的な壮挙になるでしょう。

 日本の情勢にも大きな変化がつくられます。これまで安倍政権は、「戦争する国づくり」を進めるうえで、北朝鮮の「脅威」を最大の口実にしてきました。安保法制=戦争法、大軍拡、辺野古新基地、憲法9条改定――すべてにおいて北朝鮮の「脅威」が最大の口実とされてきました。

 小木曽 昨年は、北朝鮮の核・ミサイル問題を「国難」と称して、衆院の解散・総選挙まで打ちました。

 志位 そうでしたね。しかし、この平和のプロセスが成功をおさめたら、こうした北朝鮮の「脅威」を口実にした「戦争をする国づくり」の企てはその根拠を大きく失うことになるでしょう。そういう道を進んでいいのかということが、根本的に問われることになるでしょう。

 私は、先日、全国革新懇・沖縄革新懇共催の「沖縄連帯の集い」に参加しまして、そこで辺野古新基地建設をいかにして止めるかを考えても、いま朝鮮半島で起こっている平和の激動はたいへん大きな意味を持ってくるということを話したのです。米海兵隊は沖縄に何のためにいるのか。政府の説明は、「朝鮮半島と台湾海峡という潜在的紛争地のどちらにも近いのが沖縄だからだ」というものでした。実際には、沖縄の米海兵隊は遠くベトナムや中東に派兵されてきたのですが、ともかくも建前の説明はそうだったのです。ですから朝鮮半島が非核・平和の半島になったら、辺野古に米軍新基地をつくる道理もたたなくなるのです。いま起こっている動きは、日本の情勢をきな臭い流れから、平和の流れに変えていくうえでも大きな意味を持ってくると思います。

北東アジア地域の平和秩序をどう考えるか

日本共産党の「北東アジア平和協力構想」が現実のものになる展望が

 小木曽 朝鮮半島での平和のプロセスが進めば、北東アジアの平和秩序という点で、どういう展望が開かれるのでしょうか。

 志位 南北と米朝の首脳会談で、敵対から和解へと踏み出しました。このプロセスがどう進展するかは今後の課題ですけれども、朝鮮半島の非核化の進展とあわせて、どこかの時点で、朝鮮戦争の終結が、南北と米国、それに中国をくわえた形で行われることが期待されます。そして戦争終結から平和協定へのプロセスがある程度進展すれば、次に問題になってくるのは、北東アジア地域の平和体制をどうするか――多国間の安全保障のメカニズムをどう構築するかということでしょう。

 この問題で、すでに日本共産党は、2014年の第26回党大会で「北東アジア平和協力構想」を提唱しています。私たちはASEAN(東南アジア諸国連合)の国ぐにと交流するなかで、その経験を深く学びました。ASEANでは、東南アジア友好協力条約(TAC)を結んで、あらゆる紛争問題を平和的な話し合いで解決するという域内のルールを確立し、これを実践しています。北東アジアにも同じような地域の平和協力の枠組みをつくろう――これが私たちの「北東アジア平和協力構想」の提唱です。

 その一番中核的な考えというのは、北東アジア的規模でのTAC(友好協力条約)を結ぼうということです。あらゆる紛争問題を平和的な話し合いで解決することを締約国に義務づける条約を結ぶ。そうした条約を、6カ国協議を構成している6カ国で結ぼうというのが、私たちの提案です。私は、それが現実のものになる可能性が、いまの平和のプロセスが進展すれば大いにあると考えています。

 たとえば米朝で国交正常化が行われる。南北で抜本的な関係正常化がはかられる。そして日朝でも国交正常化が行われる。そうなったとしても、国交正常化というのは、国と国とが普通の付き合いをするということですから、国交正常化をしたら戦争が絶対に起きなくなるということにはなりません。国交正常化をふまえて、関係国を律する平和の規範をつくることが大切になってきます。私は、そのためにはTAC――友好協力条約が一番現実的ではないかと思います。

日本共産党の「北東アジア平和協力構想」

 日本共産党が提唱する「北東アジア平和協力構想」は、次の四つの目標と原則からなっています。

 (1)域内の平和のルールを定めた北東アジア規模の「友好協力条約」を締結する。

 (2)北朝鮮問題を「6カ国協議」で解決し、この枠組みを地域の平和と安定の枠組みに発展させる。

 (3)領土問題の外交的解決をめざし、紛争をエスカレートさせない行動規範を結ぶ。

 (4)日本が過去の行った侵略戦争と植民地支配の反省は、地域の友好と協力のうえで不可欠の土台となる。

「6カ国協議共同声明」、東アジアサミット「バリ原則」――すでにその土台はある

 志位 これは難しいことではありません。すでに国際社会の合意のなかにその土台があることを強調したいと思います。

 一つは、2005年9月19日の「6カ国協議の共同声明」です。この声明の第4項には、「6者(6カ国)は、北東アジア地域の永続的な平和と安定のための共同の努力を約束した」とあります。つまり、6カ国が、朝鮮半島の非核化をはじめとするさまざまな懸案事項を解決したその先には、「北東アジア地域の永続的な平和と安定のために共同の努力」を行う――6カ国協議の枠組みを地域の平和協力の枠組みに発展させようという合意がすでにあるのです。私たちの「北東アジア平和協力構想」は、それを具体化したものにほかなりません。

 いま一つ、たいへんに重要な合意として強調したいのは、東アジア首脳会議(EAS)が2011年の11月に採択した「バリ原則」首脳宣言です。EASの参加国は、ASEANの国ぐににくわえて、オーストラリア、中国、インド、日本、韓国、ニュージーランド、ロシア、そして米国です。「バリ宣言」には、「EAS参加国は友好かつ互恵関係に向けた以下の原則に依拠することをここに宣言する」とあり、「独立、主権、平等、領土保全、国家的同一性のための相互尊重の強化」「武力による威嚇及び他国への武力行使の放棄」「相違や紛争の平和的解決」など、一連の規範が列挙されています。その内容は、TACとほぼ同じ内容です。政治宣言の形では、EASとしてすでにTACの内容を合意しており、これを条約にすればいいだけなのです。EASには北朝鮮は入っていませんが、6カ国のうち五つの国は入っている。北朝鮮を加えて条約を結ぶというのは難しい話ではありません。

 こうして、いまの平和のプロセスが成功をおさめるならば、私たちの「北東アジア平和協力構想」が現実のものになる可能性は大いにあります。そして、この「北東アジア平和協力構想」が現実のものになった場合には、6カ国のなかには三つの核大国――米国、ロシア、中国が入っており、三つの核大国が平和の規範を結び、戦争をしない、紛争問題を話し合いで解決するとなったら、これは北東アジア規模での平和の枠組みにとどまるものではなく、地球規模の平和に貢献する枠組みになるでしょう。

日本の情勢はどうなるか

在日米軍、日米安保条約の存在が根本から問われる

 小木曽 そうなると、日本の情勢にも根本的な新しい展望が開かれますね。とくに、朝鮮戦争のさなかに結ばれた日米安保条約は、その存在が大本から問われることになりますね。

 志位 その通りです。日本共産党は「北東アジア平和協力構想」を提唱したさいに、この地域には日米軍事同盟、米韓軍事同盟がありますが、軍事同盟が存在するもとでもこういう平和協力構想を実現していこうという、緊急の課題として提起しました。ですから、軍事同盟をなくすというのは次の課題になってくるわけですが、その展望が大いに開かれてくると思います。

 もともと日米安保条約は、朝鮮戦争の最中に結ばれたものです。朝鮮戦争が1950年に始まる。在日米軍が朝鮮半島に出撃する。「軍事的空白」ができたというので、マッカーサー連合国軍最高司令官の指令で警察予備隊がつくられ、それが保安隊となり、自衛隊となった。こういう流れのなかで1951年に結ばれたのが旧日米安全保障条約です。

 旧安保条約の第1条では、「極東の平和と安全」のために米軍基地を日本におくことができるという規定になっています。それは1960年に改定された現行安保条約の第6条に引き継がれて、ここでも「極東の平和と安全」のために米軍基地を日本におくことができるとされました。その後実際には、在日米軍は、「極東」の範囲をはるかに超えて、ベトナム戦争に出撃したり、アフガニスタンやイラクの戦争に出撃したり、世界中に自由勝手に展開する拠点とされていることは大問題なのですが、もともとの建前は「極東の平和と安全」なのです。

 ところが、朝鮮半島が非核・平和の半島になり、さらに6カ国がTACを結んでこの地域全体が戦争の心配がない平和の地域になったらどうなるか。日米安保条約と在日米軍の存在が根本から問われることになります。

 ですから私は、いま開始された平和のプロセスを成功させていく、その先には、日本共産党が綱領の大目標にしている「日米安保条約を解消して本当の独立国といえる国をつくる」という大展望が、いよいよ開かれるといっていいのではないかと考えています。そういう大きな展望ももちながら、開始された平和の流れを促進するために力をつくしたいと決意しています。

平和の激動をつくりだした根本の力は

戦争に反対し、平和を希求する各国の民衆の力がこの変化をつくった

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(写真)2016年12月10日、ソウル中心部で開かれた大集会に参加した人々

 小木曽 ほんとうに大きな平和の激動がおきていることをあらためて感じました。これをつくりだした背景、力について、委員長はどのようにお考えですか。

 志位 いま起こっている朝鮮半島の平和の激動をつくりだした根本の力は何か。これはとても大事な問いかけだと思います。

 たまたまトランプ氏、金正恩(キム・ジョンウン)氏(国務委員長)という異色の個性をもった2人がいたからだとか、米朝ともにいろいろな政治的思惑や打算があってやっているなどの見方が論じられています。もちろんいろいろな政治的思惑があり、打算が働いていることは否定しません。しかし、それだけではない。私は、いま起こっている歴史的な激動の根本に働いている力は、戦争に反対し、平和を願う各国の民衆の力だと考えています。

 今日の朝鮮半島の平和の激動をつくりだすうえで、決定的役割を果たしたのが韓国の文在寅政権であることは、誰も否定しないと思います。文大統領は政治生命をかけて今回の事態を切り開いていった。大統領の発言を読みますと、どんなことがあっても朝鮮半島で戦争を起こしてはいけない、平和をつくりださなければいけないという強い信念で一貫しています。それではなぜ文在寅政権が、画期的な外交的イニシアチブを発揮できたかといったら、「キャンドル革命」がつくりだした政権だというところにその強さがある。まさに民衆の力が働いていると思うのです。

 「キャンドル革命」というのはどんな革命だったのか。まず言えるのは、腐敗した前政権を倒す、国政私物化と政治腐敗を許さないという民衆のエネルギーが噴き出した革命だと思うのですが、それだけではなかった。先日、私は、韓国の李洙勲(イ・スフン)駐日大使と懇談する機会がありましたが、そこで大使が語った次の言葉はとても感動的なものでした。大使は、「『キャンドル革命』のなかには平和に対する希望、渇望が深く流れていたのです」と語ったのです。

 小木曽 なるほど。よくわかるような気がします。

 志位 とても納得のいく言葉でした。腐敗を一掃するだけではなくて、平和への希望・渇望があった。それまでの政権が、圧力一本やりで、北朝鮮と交渉ができない間に、どんどん核・ミサイルの危機が深刻化するという状況のなかで、絶対に戦争を起こしてはいけないという、平和を希求するという韓国の民衆の力が文政権をつくったのです。だからこそ、あそこまで強烈な外交的イニシアチブを発揮することができた。

 韓国だけではありません。世界各国の民衆の力――戦争に反対し、平和を求める民衆の力が今日の変化をつくった。日本共産党もまたこの変化に貢献していると思います。私たちは、昨年の総選挙のさいに、安倍政権が北朝鮮の「脅威」を「国難」とあおり、軍事を含む圧力強化だけを連呼したのに対して、全国津々浦々で、戦争だけは絶対に起こしてはいけない、対話による平和的解決をはかれということを、勇気をもって訴え抜きました。これは、日本国民の気持ちにも響いたと思います。日本共産党はそういう意味でも今日の変化に貢献しているといえるのではないでしょうか。

 小木曽 「しんぶん赤旗」も一貫して理性のキャンペーンを張りました。

世界の構造変化――日本共産党綱領の生命力に確信をもって

 志位 いま一つ、さらに大きな視点から考えますと、20世紀に起こった世界の構造変化による力が働いているということがいえると思います。

 日本共産党の綱領では、20世紀の世界で起こった最大の変化として、それまで植民地とされていた国ぐにが独立を勝ち取り、たくさんの主権国家が生まれたことをあげています。それはまさに「世界の構造変化」とよぶにふさわしい偉大な変化でした。そして、21世紀の世界は、国の大小ではなくて、すべての国ぐにが対等・平等に主人公として参加する新しい世界となりつつあるという世界論を明らかにしています。そうした新しい世界の姿は、昨年、国連で採択された核兵器禁止条約にも示されました。

 21世紀の世界では、20世紀と比べて、戦争と平和の力関係が大きく変化して、平和がぐっと力を増している。そういう状況のもとで、私たちの綱領では帝国主義論も発展させました。こういう新しい世界にあっては、独占資本主義国イコール帝国主義とはもはやいえなくなっている。その国が帝国主義かどうかは、その国の方針と行動に帝国主義の侵略的性格が体系的に現れているかどうかで決まる。そういう立場から、私たちの綱領では、いまの世界で唯一、帝国主義の国といえるのは、米国だと判定しました。

 しかしその米国であっても、戦争と平和の力関係が変わるもとで、いつでもどこでも帝国主義的行動をとれなくなっているという分析もしてきました。一方で、軍事的覇権主義の行動をとりながら、他方では、外交交渉によって問題を解決しようという動きもあらわれる。私たちは、こういう二つの側面で米国を分析してきました。ブッシュ(子)政権第2期では、対北朝鮮政策に外交交渉による解決という動きが起こり、2005年の「6カ国協議の共同声明」に実を結びました。オバマ政権の初期には、オバマ大統領が2009年のチェコ・プラハでの演説で「核兵器のない世界」をめざすと宣言し、私は、この演説に注目して、「核兵器廃絶を主題にした国際交渉を始めてほしい」と要請する書簡を送り、先方から返書がくるという出来事もありました。つねに米国の政権を「複眼」でとらえるという態度をとってきました。

 私たちは、トランプ政権もそうした「複眼」でとらえるという努力をしてきました。トランプ政権というのは、「米国第一主義」という特異な問題点をもっています。地球温暖化問題でのパリ協定離脱、エルサレムへの大使館移設、イランとの核合意からの離脱、シリアへの軍事攻撃、国連人権理事会からの離脱などに対しては、私たちは強い批判を表明してきました。

 ただ、そういう政権であっても、今日の世界の力関係のもとで、「すべて悪い」と頭から決めつける態度はとってきませんでした。とくに対北朝鮮政策については、昨年から今年にかけての対応をみると、一方で、軍事的威嚇のこぶしを振り上げるのですが、他方では、つねに外交交渉による解決という選択肢がこの政権から見え隠れしてくるのです。私たちは、そこに注目し、外交交渉による解決の道を選択するべきだと働きかけてきました。そういう働きかけができた根底には、日本共産党綱領の世界論があります。大激動の世界のなかで綱領の生命力が輝いていることに自信をもって進みたいと思います。

 元内閣官房副長官補で安全保障担当だった柳沢協二さんが、とても印象的な発言をされています。「米朝首脳会談は戦争か交渉か、世界史的な分岐点だ」「今回の合意は、戦争によらない問題解決という選択肢を世界に提示する世界史的分岐点をはらんでいる」という発言です。物事を戦争で解決するのか、交渉によって平和的に解決するのか。いまの動きが成功をおさめたら、戦争による解決は過去のものとなって、交渉すなわち平和的な話し合いによって解決するという方向に世界史を転換させる分岐点になるという見方だと思います。共感をもって、この指摘を読みました。そうした大局に立って今日の事態をとらえ、可能なあらゆる努力をしていきたいと決意しています。

 小木曽 どうもありがとうございました。