2015年2月23日(月)
政治の責任で働くものの命を守れ
雇用大改悪の根幹を突き崩す
衆院予算委 志位委員長の基本的質疑
日本共産党の志位和夫委員長が20日の衆院予算委員会で行った基本的質疑は次の通りです。
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志位和夫委員長 私は、日本共産党を代表して、安倍総理に質問いたします。
総理は、「日本を世界で一番企業が活躍しやすい国」にする、その邪魔となる「岩盤規制」を打破するとして、この国会に、雇用に関する二つの重大法案――労働者派遣法改悪法案、「残業代ゼロ」法案を提出しようとしております。
しかし、日本の雇用のルールの現状は、「岩盤」と言えるようなものでしょうか。派遣、パートなど、不安定な非正規雇用で働く人が、全体の4割近くまで広がっています。異常な長時間労働、「サービス残業」、「ブラック企業」が横行し、「過労死・過労自殺」が増加しています。最低賃金があまりに低く、懸命に働いても、貧困から抜け出せません。「岩盤」どころか、働く人を守るルールがあまりにない。ずぶずぶの「軟弱地盤」というのが現状ではないでしょうか。
そうした現状のもとで、「岩盤規制」の打破の名で、これ以上の労働法制の規制緩和をすすめたらどうなるか。
私は、今日は、日本が直面している雇用問題について、非正規雇用、長時間労働、最低賃金という三つの大きな角度から、総理の基本認識をただしていきたいと思います。
非正規雇用――派遣法大改悪を問う
志位 非正規雇用労働者が増えたことが、賃金低下の主要な原因だと認めるか
首相 (質問に答えず)足元では非正規から正規への移動が増えた
志位 足元でも非正規は増加。非正規増が賃金低下の主因ということは政府も認めている
「90年代半ばの労働市場改革で、非正規が増大、長期の賃金停滞をもたらした」(ILO)
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志位 第一は、非正規雇用労働者の問題です。
ここに持ってまいりましたが、ILO(国際労働機関)が昨年12月に発表した「世界賃金報告2014/15年版 賃金所得の不平等」というリポートがあります。次のように指摘しております。
「日本で(労働所得割合が)減ったのは、より多くの産業で非正規労働者を雇えるようになった1990年代半ばの労働市場改革に起因する。その結果、正社員より低賃金の非正規労働者が増大し、長期にわたって賃金の停滞をもたらした」
パネルをご覧ください(パネル1)。これは、1990年から今日までの非正規雇用の比率と、労働者の平均賃金の推移をグラフにしたものです。青い棒――非正規雇用の比率は、90年代前半までは20%前後で推移しておりますが、90年代後半から増加の一途をたどりまして、2014年には37・4%に達しています。同時期に赤い棒――労働者の平均賃金は、1997年の37・2万円をピークにずっと下がりまして、2014年には31・7万円まで下落しております。
まず総理の基本認識を問いたいと思います。長期のすう勢で見た場合、非正規雇用労働者が増えたことが、労働者全体の賃金低下の主要な原因になっているという認識はありますか。
安倍晋三首相 この37・2万円をピークとして、あとでずっと落ちていくわけでございますが、この時に消費税が3(%)から5(%)に上がり、かつ社会保険料等も上がり、その後アジアの経済危機があって、ここからずっと日本がデフレ下に入っていったわけであります。もちろんその中でより給与を上げないという姿勢が強かった。このアジアの金融危機以降は特にその前のバブルの崩壊後の「三つの過剰」というなかにおいて、とにかくなるべく人は雇わない、賃金は上げない、固定費を抑えていく、こういうマインドとともにデフレ経済でありますから、お金をもっていればその価値はどんどん上がっていくということでありまして、午前中議論がありましたが、実質金利が高止まりしている状況では当然投資はしないということになってきた結果なんだろうと思うわけでございます。
足元で見ますと90万人、安倍政権になって雇用が増えました。いわば新たに仕事を得た方が多いわけでございます。増えた90万人を収入階層別で見ますと、確かに200万以下の方も30万人増えましたが、500万~700万の方がプラス33万人増えたわけでございますし、またこの2年間の間に正規から非正規に移られる方は10万人減っていますが、非正規から正規に移る方は逆に8万人増えるという、やっとそういう状況にまできたわけでございまして、非正規から正規にいきたいという方がその望みがかなえられる状況をつくってきた、このように思います。
「年収分布が低い層にシフト、主に非正規雇用の増加によるもの」(『労働経済白書』)
志位 私は、非正規雇用労働者が増えたことを、長期的なすう勢で見て、それを原因として労働者の平均賃金が下がったかどうかという認識を問うたんです。
たしかに、97年の(消費税)増税によって大不況の引き金を引いて、それがさまざまなマイナス要因になっていることは言うまでもありません。しかし、私が聞いたのは、非正規雇用労働者が増えたことがどういう影響を与えたかということについてです。
足元の数字を言われましたけど、足元でも、非正規雇用の率は、2013年の36・7%から、14年には37・4%に増え、直近の昨年12月の数字では38・0%に増えているわけですよ。それから実質賃金の問題でも、18カ月連続で足元でも減っているわけです。
長期のすう勢を見れば明瞭であります。ここに私、政府の『労働経済白書』(2012年)を持ってまいりました。この『労働経済白書』では、非正規雇用の増加と所得の関係を分析して、次のように述べております。
「家計の年間収入の分布を1999年と2009年とで比較すると、650万円台以上の割合が低下するとともに、600万円台以下の割合が上昇する形で年収分布が低い層にシフトしている」。年収分布が低い層に移っている。そして、「家計消費を押し下げている最大の要因は所得の低下である。……それは主に非正規雇用者の増加によるもの」である。政府のリポートでもはっきり書いてあります。
非正規雇用労働者が増えたことが、賃金低下の主要な要因であることは政府も認めていることです。そして、全体の4割近くまで非正規が増えた原因が、1990年代半ば以降の労働者派遣法のあいつぐ改悪をはじめとする労働法制の規制緩和にあることは、ILOのリポートが指摘している通りであります。
志位 (派遣法改悪案では)3年ごとに人を代えれば、無期限に派遣を使い続けられる
厚労相 労組からの意見聴取が必要
志位 聞くだけでは歯止めにならない。期間制限は事実上撤廃されることになる
志位 そこで派遣労働の問題にすすんでいきたいと思います。
非正規雇用の中でも派遣労働は、雇用主である派遣元企業と、使用者である派遣先企業が別の間接雇用であって、とりわけ深刻な問題を抱えています。
私は、派遣労働の問題について、この委員会で2008年から09年にかけて過去3回とりあげてきました。つねに「首切り」の不安におびえる究極の不安定さ、懸命に働いても貧困から抜け出せない異常な低賃金、教育も訓練もなしの職場で多発する労働災害、そして何よりも人間として気遣われることもなく、モノ扱いされるつらさ。質問をするたびに、この非人間的な使い捨て労働を放置しては、とりわけ若い世代にこういう働き方をさせていては、日本の未来はないと痛感させられました。
人間をモノのように「使い捨て」にする派遣労働の本性は、2008年秋ごろに始まる「リーマン・ショック」と景気悪化のもとで、猛威をふるいました。「派遣切り」という形で何万という労働者が路頭にほうり出され、大量のホームレスがつくり出されたことは、国民の記憶に新しいと思います。
ところが安倍政権は、過去2回の国会で国民の批判を浴びて廃案となった労働者派遣法改悪案を、この国会に三たび提出しようとしております。私は、廃案となった政府案にそくして問題点をただしていきたいと思います。
現行派遣法の大原則――「常用代替をしてはならない」「原則1年、最大3年の期限制限」
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志位 まず総理に確認します。現行労働者派遣法の大原則について確認しておきたい。パネルをご覧ください(パネル2)。
そもそも労働基準法、職業安定法では、「人貸し業」は厳しく禁止されてきました。そこで政府は、派遣労働について、次の大原則をおかざるをえませんでした。
第一は、派遣は「臨時的・一時的業務」に限る、常用雇用の代替――正社員を派遣に置き換えることはしてはならない。
第二は、この大原則を担保するものとして、派遣受け入れ期間は、「原則1年、最大3年」とする。
この大原則は、この委員会での私の過去3回の質疑で、その都度、当時の総理、厚生労働大臣に確認してきた現行派遣法の大原則ですが、これは間違いありませんね。派遣法の大原則にかかわる問題ですので、総理に確認しておきたいと思います。
首相 お答えする前に先ほど答弁の中では、賃金の下降についての説明だけさせていただいたわけですが、非正規の比率が直近で増えているということについては、これは基本的にたしかに非正規の数が総数としては増えている。しかし中身については先ほど申し上げたような状況ではありますが、これは景気回復局面において、だいたい非正規7割がパート、アルバイトでございますから、景気回復局面においては今まで職に就いていなかった人たちが職に就き始める、あるいは65歳までの方、60歳から65歳までの方の雇用の場を確保するというなかにおいて今度は正規から非正規という形で確保している、その数が今増えているということもございます。
他方ですね、希望しない非正規の方の数は前年比減少し始めておりまして、こうした流れをしっかりと確かなものとしていきたいと思います。
そこで現行の労働者派遣法でございますが、労働者派遣制度においては派遣される労働者の保護をはかるとともに、労働者全体の雇用の安定をはかることが重要な課題となります。このため、現行の労働者派遣法では派遣先において正社員から派遣労働者への置き換え、「常用代替」が生じることのないよう、派遣労働の受け入れを臨時的・一時的なものに限ることを原則として、「専門的業務」――いわゆるこれは「26業務」でありますが、これをのぞき、「原則1年、最長3年」という期間制限を設けているということでございます。
志位 非正規、正規の問題を、また言われましたけどね、直近の2年間見ても、若い世代の正社員は39万人減っている。このことを言っておきたいと思います。
いま、総理の答弁で二つの原則を、確認いたしました。派遣労働というのは、もともと労働基準法などで厳しく禁止された「人貸し業」であって、特別に不安定、低賃金とならざるをえません。だから派遣は認めるけれども、あくまでも「臨時的・一時的」な仕事に限る。正社員の仕事を派遣に置き換えてはならない。そしてこの大原則を担保するものとして、派遣受け入れ期間は「原則1年、最大3年」という期間制限をもうける。これを超える仕事というのは臨時的、一時的な仕事と言えなくなるわけですから、派遣社員でなくきちんと正社員を雇って仕事をさせなければならない。これが現行派遣法の大原則であります。
派遣先企業は、どんな業務でも、人を3年で代えれば派遣社員を受け入れ続けられる
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志位 さて、この大原則が、政府が提出しようとしている派遣法改悪法案ではどうなるか。まず、法案のしくみを確認しておきたいと思います。
政府案では、「個人単位の期間制限」として、「派遣先の同一の組織単位における同一の派遣労働者の継続的な受け入れは3年を上限とする」としています。
同時に、「事業所単位の期間制限」として、「派遣先の同一の事業所における派遣労働者の受け入れは3年を上限とするが、受け入れ開始から3年を経過する時までに過半数労働組合等から意見を聴取した場合には、さらに3年延長可能とする(その後の扱いも同様)」としています。
これは間違いないですね。厚生労働大臣に確認しておきたいと思います。確認で結構です。
塩崎恭久厚生労働相 その前に先ほど、非正規が増えたことによって賃金が下がったというお話でありますけども、私どもあらためてそれを見てみると、先ほど総理が言ったようにパートが約6割の増加分を占めている(志位「質問に答えてください」)、はい。それから高齢者が6割の部分増えているということで、やはり女性と高齢者が増えてきているということが大きいということと、一般労働者の分、つまりフルタイムの人たちの賃金もかなり下がってきているということも加えておかなきゃいけないと思います。
そこで確認ということでありますけども、今回の改正案では派遣労働者に着目したわかりやすい制度にする観点から、派遣受け入れ期間に関する現行の制限を廃止し、すべての業務を対象として、事業所単位で派遣労働者の受け入れ期間を上限3年とし、延長には「過半数組合等からの意見聴取」を必要とする、派遣労働者ごとの個人単位で同じ職場への派遣は3年を上限とするという二つの期間制限を新たに課すこととしているところでございます。
志位 仕組みは確認いたしました。そうすると、こういうことになります。パネルをご覧ください(パネル3)。
現行法では、一般業務の派遣社員の受け入れは、Aさん、Bさん、Cさんと、たとえ人が代わっても3年までしかできません。ところが政府案では、派遣先企業は、どんな業務でも、人を3年で代えれば派遣社員を受け入れ続けられる。つまり、派遣先企業は、事実上、無期限に派遣労働者を受け入れ続けられる。そういう仕組みになりますね。仕組みの確認です。端的に答弁してください。
厚労相 いま先生からパネルでお示しいただきましたが、派遣先と働く方の間に雇用関係がない派遣労働については、派遣先において正社員から派遣労働者への置き換えを防ぐことが課題とされて、それが「常用代替」(の防止)、先生ご指摘の通りで、これに関しては何ら変わらないと思っています。
一方で働き方が多様化する中で派遣という雇用形態を積極的に選択している方々もあるほか、そうした状況の中で存在しているという現実もございますので、提出を予定している改正案では、多様なニーズに対応できるように派遣先事業所での継続的な派遣労働者の受け入れについて、3年という期間制限を課した上で、これを延長する場合には現場の実態をよく知る「過半数組合等からの意見聴取」を義務づけるとともに、この意見聴取のことがここにはふれられておりませんけれども、これを義務づけるというのが今までなかったものとして入ってくる義務づけではありますが、そして派遣労働者の正社員化を含むキャリアアップ措置を、これも新たに義務づけるとしておりまして、正社員から派遣への置き換えを進めるものではございませんので、いま申し上げたように、「過半数組合等からの意見聴取」の義務づけと、「キャリアアップ措置」の新たな義務づけというのもここにくわえていただかないと、必ずしも正確ではないというふうに思います。
志位 二つのことを言われました。「過半数労働組合の意見聴取」と「キャリアアップ」の問題です。
一つずつ議論していきたいと思うんですが、過半数労働組合(等)から意見を聴取すれば派遣受け入れ期間の延長をすることができるという仕組みになっていることは、間違いないですね。イエスかノーかで。
厚労相 いま申し上げたように、過半数労働組合からですね、意見聴取を受けて反対意見があった場合、これ当然説明をもう一回する。そしてこれを周知をするということも徹底しなければならないという義務づけも新たにしているところでございます。
志位 聴取すれば(派遣受け入れ期間の)延長できるかと聞いたんです。
厚労相 意見聴取をして周知徹底を社内でしていけば(延長が)できると思います。
志位 聴取をすれば延長ができる。つまり聴取さえすれば、3年ごとに人を代えれば期間延長はどこまでもできるという仕組みであることは、確認いたしました。
労組の「同意」は必要ない――「意見聴取」だけで期間延長ができる
志位 労働組合の意見聴取といわれますが、労働組合の「同意」は必要なんですか。イエスかノーかでお答えください。
厚労相 結論的には意見聴取をして、さっき申し上げたように反対意見があった場合には対応方針をきちっと説明をする。それから意見聴取の記録を周知をするということを新たに義務化して、これは労使間の双方向の流れということで実質的な話し合いをしていただくわけでありますが、同意がいるということではありません。
志位 同意が必要ないという答弁でした。すなわち意見を聞くだけであります。(労働組合等の)反対があったとしても(企業が)「対応方針」を説明すれば、派遣受け入れ期間の延長ができるという説明でした。
本気で歯止めをつくりたいんだったら、「同意を必要とする」とすればいいんですよ。ことは労働条件に関わる大問題であって、労使の同意というのは当然であります。同意ではなく意見聴取――聞くだけでは、何の歯止めにもなりません。これでは、これまであった「原則1年、最大でも3年」、それ以上はダメという派遣受け入れの期間制限は、事実上撤廃されることになる。
志位 派遣先大企業の「常用代替」を縛る規制、担保がいったいどこにあるか
厚労相 (まったく示せず)
志位 これでは正社員から派遣社員への大規模な置き換えが進むことになる
志位 派遣受け入れの期間制限が事実上撤廃されたらどうなるか。「派遣は、臨時的、一時的業務に限る、常用雇用の代替――正社員を派遣に置き換えることはしてはならない」――いまでも大原則だと認めましたが、その大原則は担保を失い、正社員の派遣社員への大量の置き換えが進むことになることは火を見るよりも明らかです。
現行法のもとでも、日本を代表する大企業が、違法・脱法な手口で期間制限違反
志位 これまでの労働者派遣法では、「原則1年、最大3年」という派遣受け入れの期間制限がありました。それでもこの期間制限が守られてきたわけでは決してありません。私は、この委員会で、日本を代表する大企業が、あの手この手をろうし、現行法の網をかいくぐり、違法・脱法な手口で、期間制限を超えて派遣労働者を使い続け、正社員の仕事を派遣に置き換え、「派遣工場」をつくるなどの実例を繰り返し告発し、政府に是正を求めてまいりました。この委員会で私が告発してきた、大企業による期間制限違反の事例について、あらためて述べておきたいと思います。
たとえば、日立のグループ企業のある工場では、派遣労働者に、機械部品のワックス組み立てという「同一業務」を、「班」だけ変えて5年間も続けさせていました。
トヨタ車体では、「クーリング」という同一業務であっても3カ月以上派遣を受け入れない期間があれば継続した派遣とみなさないという厚労省の指針を悪用し、配置換えによって、派遣労働者を永久に派遣のまま使い続けようとしました。
いすゞ自動車では、「偽装請負」――実態は派遣先の指揮命令で働く派遣労働なのに、契約上「請負」と偽る違法行為を行い、偽装請負から通算すると4年から6年も派遣のまま使い続け、直接雇用の申し出もないまま、一方的に解雇しました。
マツダでは、違法に「クーリング」を悪用して、4年から5年も派遣のまま使い続け、直接雇用の申し出もないまま、一方的に解雇しました。
パナソニックでは、偽装請負から通算しますと、3年10カ月も派遣のまま使い続け、一方的に解雇しました。
キヤノンのある工場では、製造ラインで働く全員が派遣労働者と、「派遣工場」というべき実態になっていました。正社員から派遣への置き換えを大規模に進めていたのであります。
現行法でもこういう状態が続いてきました。私は、何度も、ここでそれを正すことを求めてきた問題であります。「原則1年、最大3年」という期間制限の規制があっても、あの手この手をろうし、違法・脱法的な手口で規制を逃れ、正社員をリストラして派遣社員に置き換え、あげくの果てにはモノのように使い捨てる。規制があっても日本の名だたる大企業が、こういう横暴勝手をやってきたんですよ。現行法でもこういう状態なのに、期間制限の規制が事実上撤廃されたら、大規模な正社員の派遣社員への置き換えが進むことは、火を見るよりも明らかではないですか。
そこで、総理に問います。派遣先の大企業に常用雇用の代替、すなわち正社員の派遣社員への置き換えをさせないための担保だと言ってきた、派遣受け入れの期間制限を事実上なくしてしまって、それに代わる担保がいったいどこにあるんですか。「常用代替」というのは、派遣先の大企業がやることなんです。今、具体的事例を示した通りです。派遣先の大企業の「常用代替」を縛る規制、担保、いったいどこにあるんですか。これは派遣法の大原則に関する問題ですので、総理に答弁を求めます。
厚労相 もともと、この派遣の制度の中には、今まではですね、「常用代替」防止という発想だけでやってきたわけです。それは大事な話であって、それは当然、踏襲していかなければいけないわけでありますけれども。しかし、その時代でも、実は、係を変えれば、この3年以降も受け入れられるということが、意見聴取もなく、いけたということがございました。今回は、何度も申し上げますけれども、そもそも、今まで、いろんな派遣会社がありまして、問題なところもたくさんあったということで、今まで、実は4分の3が届け出だけだったわけですけれども、今回は、すべてを許可制にして、新たな義務を、一つは常用代替防止という観点からかける、もう一つは固定化の防止という観点からかける、ということで義務化をいろいろやって、正社員になりたい方々はなりやすいように、そして堂々と、ですから、正社員として会社に勤められるようにということと、もう一つは、半数ぐらいの方々は派遣のままでいいとおっしゃっているわけでありますから、そうすると、その個人の方が固定化をされない、そしてキャリアアップがしやすいようにさまざまなことを、義務化を、派遣元、派遣先にしていくと、こういうことになっているわけであります。
したがって、今、「常用代替」防止ということについての担保はいったいどこにあるのかということがございましたが、これは正社員化をすることによって、これは「常用代替」にはならないで、自らが正社員になっていくということでありますから、これは、まず第一に、直接雇用についての雇用安定措置というものを義務付ける。それから、当然ですね、派遣先で正社員として正式に雇ってもらうための教育・訓練やキャリアコンサルティングで、これは、もともと、今、許可制に全部すると申し上げましたけれども、これについても、許可要件として、キャリアアップの仕組みをちゃんと社内で持っている、なおかつ教育・訓練も有給・無償でちゃんとやるということを条件に許可をこれからはしていくわけでございまして、当然、これらをやらないということになれば、指導上、改善命令、事業停止命令、許可取り消しというところまでくるわけでありまして、そういう意味では、派遣元が義務をかけられていることはたくさんある。
一方で、派遣先も正社員募集の情報をきちっと提供しなければいけないとか、これも今まではその規制はなかったわけですけれども。それから、3年間従事した派遣労働者に対しては、募集情報というのをちゃんと派遣先は本人に提供しなければいけないという新たな義務付けをいたしますし、雇い入れの努力義務というものも、今までは努力義務でしたけれども、課すということもございます。また、派遣元に対して派遣先は仕事ぶりの情報をきちっと提供するということについても努力義務を課しているわけであって、確かに、そういうことで、「常用代替」にならないように、採用してもらうならば、正式な社員として、採用してもらうようにということで、新たな規制を数々課しているわけでございます。
正社員になれないのを「キャリアの欠如」に求めるのは、現場を知らないもの
志位 私は、派遣先の大企業を縛る規制、担保がどこにあるか、「常用代替」をさせないような規制、担保はどこにあるかということを聞いたんです。それに対するお答えは、まったくなかったです。長々と答えたけど。
「キャリアアップ」をやるんだということをおっしゃいます。「正社員化の努力」をするんだということもおっしゃいました。しかし、派遣社員が正社員になれないのを、「キャリアの欠如」に求めるのは、現場を知らないものが言うことですよ。私は、多くの派遣労働者から話をうかがってきましたけれども、現実には、派遣労働者の多くが正社員と同等の、あるいはそれ以上の仕事をやっていますよ。新人の正社員に仕事を教えている人もいるぐらいです。にもかかわらず、不当な格差を強いられている。「キャリアアップ措置」などによって正社員になれるという保証はどこにもありません。だいたい、政府案には「キャリアアップ」の目的について、「派遣労働者が段階的かつ体系的に派遣就業に必要な技能および知識を習得することができるように教育、訓練を実施しなければならない」と書いている。派遣労働者としての「キャリアアップ」が原則であって、正社員になるためのものと位置づけられてないじゃないですか。
私が聞いたのは、派遣先の大企業が「常用代替」、すなわち正社員を派遣社員に置き換える、これを防止する、それを縛る規制、担保はどこにあるか、それを聞いているんですよ。情報提供とか、そんな話じゃないんです。きちんと縛る担保はどこにあるか、もう一回答えてください。
厚労相 何度も申し上げますけれども、今までの法体系の中での規制というのが、少なかった中で、今回、新たな義務を課すということを数々やっているわけで、先ほど申し上げたように、それは派遣元に課すということと、それから一方で、今、先生ご指摘のように、派遣先にも課しているわけであって、今、申し上げました通り、派遣先における直接雇用に対して、まず、今までは雇い入れ努力義務というのを、努力義務としてありましたけれども、今度は、正式な雇い入れ努力義務をですね、課すということを法律で明確にしております。
「正社員をなくしましょう」(竹中平蔵氏)――この言葉が現実になる危険がある
志位 何度聞いても、私が聞いた派遣先大企業を縛る規制、担保を示すことができませんでした。いま、(派遣先企業が)派遣労働者への正社員募集に関する情報提供とか、派遣労働者の仕事ぶりの情報を(派遣元に)提供するとか、そういうこといわれましたが、それやったからといって、「常用代替」の防止になりませんよ。
これだけ聞いても結局、「原則1年、最大3年」という期間制限に代わって、派遣先の大企業の「常用代替」――正社員の派遣社員への置き換えを縛る規制、担保はなんら示せなかった。
派遣先の大企業の「常用代替」を野放しにして、仮にどんなに「派遣社員の正社員化の努力」をしたとしても、大穴のあいたバケツに水を注ぐようなものであって、大規模な正社員から派遣社員への置き換えが進むことは避けられません。
政府案に対して、「正社員ゼロ社会に道を開く」という批判があるのは当然のことです。産業競争力会議議員を務め、人材派遣業パソナグループ会長の竹中平蔵氏は、「正社員をなくしましょう」とテレビで公然と言い放ちました。この言葉が現実になる危険があります。
志位 派遣法の抜本改正、均等待遇のルールをつくり、政治の責任で正規社員への流れを
志位 政府が提出しようとしている労働者派遣法改悪案は、派遣受け入れ期間制限を事実上撤廃することで、「常用代替」禁止という労働者派遣法の大原則を覆す、文字通りの歴史的大改悪です。国民の批判によって二度までも廃案になったものを三たび提出することなど、絶対に認められません。法案の提出を断念することを強く求めます。
いま求められているのは、派遣労働を臨時的・一時的業務に厳しく限定する派遣法の抜本改正を行い、均等待遇のルールをつくり、政治の責任で非正規から正規社員への流れをつくることにあることを強く主張しておきたいと思います。
異常な長時間労働――「残業代ゼロ制度」を問う
志位 次の問題にうつります。
第二は、異常な長時間労働の問題です。
まず総理にうかがいます。総理は施政方針演説で、「専門性の高い仕事では、時間でなく成果で評価する新たな労働制度を選択できるようにする」と表明しました。「残業代ゼロ」「過労死促進」と強い批判が起こっているこの制度についてただしたいと思います。
志位 なぜ日本の労働者の残業時間は、ヨーロッパに比べて、異常に長いと思うか
首相 (質問に答えず)長時間残業に関する監督・指導を図っている
志位 残業時間の上限が法律で決まっていないからだ
日本の残業時間は突出して長いうえに、「サービス残業」が上乗せされている
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志位 総理は、この法改悪を「岩盤規制の打破」の名で進めようとしておりますが、日本の労働時間規制は「岩盤」といえるようなものなのか。
パネルをご覧ください(パネル4)。これは、日本とヨーロッパの主要国の労働者の年間残業時間の比較であります。すべての産業のフルタイム労働者1人あたりの平均残業時間の比較です。
日本の182時間に対して、イギリスは78時間、フランスは55時間、ドイツは53時間、オランダ22時間。日本の残業時間は突出して長いものになっています。これに年間平均300時間ともいわれる「サービス残業」が上乗せされている。これが現状です。
総理に基本的認識を問いたい。なぜ日本の労働者の残業時間は、ヨーロッパに比べて、こんなに異常な長さになっているというご認識でしょうか。
首相 労働基準法では原則として1日8時間、週40時間を法定労働時間としており、これを超えて働かせる場合には、限度となる時間等について、労使の協定を締結し、労働基準監督署長に届け出る必要があります。これがまず大前提でありますが、法定労働時間を超えて働かせる場合には、労働協約は時間外労働が月45時間などの基準に適合したものでなければなりませんが、臨時的な特別の事情があるときは、1年の半分を超えない範囲で基準を超えた時間を別に定めることができるとされています。
しかしながら労働基準監督署では、過重労働による健康障害を防止するため、実際の時間外労働が月45時間を超える場合には、その削減に向けた指導を行っています。また本年1月から長時間残業に関する監督・指導の徹底を図るとともに、企業が自主的に労働環境の改善に取り組むよう、その促進に努めています。
なお、まあ時間でなく成果で評価するという新たな制度の検討にあたっては、対象を、グローバルに活動する、活躍する高度専門職として働く人に限っていると。健康に十分留意することにしております。
EUでは「時間外を含め週48時間」という労働時間の上限が法律で決まっている
志位 いま制度の説明をされたんですが、総理、私が聞いたのは、時間外労働がどうしてこんなに長いのかという設問なんですよ。これは、時間外労働すなわち残業時間の上限が法律で決まっていないからなんです。
EU(欧州連合)では、「時間外を含め週48時間」という「労働時間指令」にもとづいて、労働時間の上限が法律で決まっております。ところが日本では、労働基準法で、いまおっしゃられたように、「週40時間、1日8時間」を法定労働時間としておりますが、同法第36条に定める時間外労働協定、いわゆる「三六協定」を労使で結べば、残業時間を自由に決めることができます。
志位 経団連等役員企業の8割が「過労死ライン」を超える残業協定――異常と思わないか
首相 実際はこんなに残業しておらず、念のために結んでいる
志位 異常なことを、異常だと言えない姿勢が、異常だ
「大臣告示」では残業の限度は「月45時間」となっている
志位 いまの総理の答弁にもありましたが、長時間労働が社会問題になるもとで、1998年の労働基準法改正により、労働大臣(当時)は労働時間の延長を適正なものとするため、「協定で定める労働時間の延長の限度」などにつき、「基準を定めることができる」ものとされました。これを受けて、三六協定による時間外労働の限度に関する基準――「大臣告示」が定められ、三六協定で認められる労働時間の延長の限度、すなわち残業の限度が定められました。
厚労大臣に確認したいんですが、この大臣告示で残業の限度とされているのは、週単位、月単位でどうなっていますか。数字だけでいいですよ。
厚労相 いまお話がございましたが、この限度基準でございますけれども、これについては「(大臣)告示」によって1週間については15時間、そして1カ月については45時間となっております。
35社のうち33社で「月45時間」を超え、28社で「過労死ライン」を超えている
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志位 「大臣告示」では、残業の限度は「月45時間」となっているわけです。ただ、この「大臣告示」には法的拘束力がありません。さらにこの「大臣告示」では、先ほど総理も言われましたが、“特別の事情がある時には45時間を超えて残業をさせる協定を結んでもいい”という「ただし書き」がついています。その結果、実態がどうなっているか。つぎのパネルをご覧ください(パネル5)。
これは、日本経団連、経済同友会の役員企業35社が結んでいる残業上限協定であります。わが党が、情報公開制度を活用して、全国14都道府県の労働局に開示請求をおこなって明らかにさせたものであります。
並んでいるこの数字が、1カ月の残業上限時間です。35社のうち33社で、「月45時間」の「大臣告示」を超える残業上限協定を結んでいます。さらに35社中28社、80%は、この赤い網がかかった企業ですが、政府が「過労死ライン」としている「月80時間以上」の残業上限協定を結んでいます。
そのうち13社――東レ、三菱商事、丸紅、王子製紙、東芝、日立製作所、JX日鉱日石エネルギー、NTT東日本、武田薬品、リクルートキャリア、三菱化学、伊藤忠、ウシオ電機、以上13社は、「月100時間以上」の残業上限協定を結んでいます。
総理に問いたいと思います。日本の経済界を代表する大企業が、そろって「月45時間」の「大臣告示」をまったく無視し、「月80時間以上」の「過労死ライン」を超える残業上限協定を平然と結んでいます。異常な長時間労働の先兵になっている。こうした実態を異常だと思いませんか。ほうっておくんですか。私は、衆議院の本会議の代表質問でこの実態を示して、「この現状をどう考えますか」と聞きましたが、総理からは答弁がありませんでした。総理、ここではっきりお答えいただきたい。
厚労相 法定労働時間を超えて働かせるような場合には、いまお話がありましたように必要な三六協定にはですね、時間外労働が月45時間などの基準に適合したものとしなければならないわけでございますけれども、例えば機械トラブルへの対応など臨時的なまあ特別な事情があったり、1年の半分を超えない範囲で基準を超えた時間を定めることができるともされておるところでございまして、ご指摘のように三六協定で月45時間を超える時間外労働を定めた場合は、それをもってただちに労働基準法に違反とはいえないものの、働き過ぎの是正というものは当然重要な課題でありますから、企業は実際の時間外労働を月45時間以下とするようにつとめることとされておるところでございまして、労働基準監督署では過重労働によります健康被害を防止をするという大事な目的のために企業への監督指導におきまして、実際の時間外労働の時間が月45時間を超える場合には、その削減に向けた指導をおこなっているところでございます。
また、私が厚生労働省の中で本部長をつとめております長時間労働削減推進本部というのがございますが、ここにおいて監督指導の強化を目下すすめておりまして、本年1月から、特に長時間残業がおこなわれている事業所等に関する監督指導の徹底をはかるとともに、休み方あるいは働き方改善ポータルサイトというのを開設しておりまして、積極的に情報発信をし、企業の自主的な働き方改革のとりくみを促進するようにつとめております。まあそういうことで、厚労省をあげて長時間労働は排除するということで、のぞんでいるところでございます。
首相 これ実際は、まあ私もちょっと話を聞いたことあるんですが、これは、実際はこんなにしょっちゅう残業しているわけではなくて、念のためにこれは結んでおくと、そういうコンプライアンスをしっかりしているということであります。例えばですね、労使協約で月80時間を超える延長時間を締結した事業所の割合は4・8%で、実際の時間外労働が80時間をこえている事業所の割合は2・2%だということであります。
「過労死ラインを超えても働かせるぞ」という「宣言」が何よりも重大だ
志位 これは上限を定めたもので実態は違うんだということをおっしゃいますが、これさえこえる残業の実態っていうのはざらにあるんですよ。
そして大事なことは、日本経団連、経済同友会の役員企業の8割が、「過労死ラインを超えても働かせるぞ」と「宣言」している、これが何より重大なんです。「特別な場合」とか言いますが、1年間に6カ月までできるんです。6カ月までは「(月)45時間」を超えても働かせることができる。6カ月も「過労死ライン」でやられたら本当にまいっちゃいますよ。
これは実際、そういう「宣言」をしていることが重大であります。政府が決めた「大臣告示」も、「過労死ライン」も、まったく眼中にない。先ほど「指導する」と厚生労働大臣はおっしゃいましたけどね、「大臣告示」を決めてから17年ですよ。「指導する」、「指導する」といいながら、こういう実態があるじゃないですか。これを問題にしている。
異常と言えない。私は、「異常と思わないか」と総理に聞いたんだけど、異常と言えない。この姿勢が異常ですよ。
志位 残業の限度は「月45時間」という「大臣告示」の法律化を求める
首相 慎重に検討すべき課題だ
志位 労働者の命と健康より、財界・大企業のもうけを上に置く、政治の重大な責任放棄だ
志位 私は、もう一つ、論をすすめていきたいと思います。私は、総理の今の異常と言えない異常な姿勢の根本には、「月45時間」という残業の限度の重みを理解されていないんじゃないかと思います。
残業の限度は「月45時間」という「大臣告示」は、労働者の健康と生命を守るうえで医学的根拠を持ったものです。
厚労省通達――「月45時間」を超えると、健康障害のリスクが徐々に高まる
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志位 2001年12月に、厚生労働省は、過重労働による「脳・心臓疾患の認定基準」を決めております。これがその通達であります。そこでは、「脳・心臓疾患」を発症させる過重労働かどうかは、総合的に判断されるべきだが、最も重要な要因は労働時間であるとして次のように述べております。通達を読みあげます。
「(1)発症前1か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合は、業務と発症との関連性が弱いが、おおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まると評価できること
(2)発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できること」
パネルをご覧ください(パネル6)。これは厚生労働省が作製した図をパネルにしたものであります。残業時間が「月45時間以内」の場合は健康障害のリスクが低い。「月45時間」を超えた場合は、長くなればなるほど、健康障害のリスクが徐々に高くなる。「月45時間」を超えた場合、または2~6カ月の平均で「月80時間」を超えた場合は、健康障害のリスクが高いものになる。これは厚労省自身がつくっている図であります。
「大臣告示」は、政府自身が行った検討でも、医学的根拠をもったもの
志位 この厚生労働省が決めた過重労働による「脳・心臓疾患の認定基準」というのは、ここに持ってきましたが、「脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会報告書」――これは2001年11月に出されたものですが、これを根拠にしたものであります。これは非常に詳細な、医学的研究をもとにしたデータが集積されていますが、ここでは脳・心臓疾患の発症と、睡眠時間の関係について医学的研究をもとに次のように結論づけています。
「その日の疲労がその日の睡眠等で回復できる状態であったかどうかは…1日7~8時間程度の睡眠ないしそれに相当する休息が確保できていたかどうかという視点で検討することが妥当と考えられる」
「1日7・5時間程度の睡眠が確保できる状態を検討すると、この状態は、……労働者の場合、1日の労働時間8時間を超え、2時間程度の時間外労働を行った場合に相当し、これは、1か月おおむね45時間の時間外労働が想定される」
つまり、その日の疲労がその日の睡眠で回復できる状態を維持するには、残業時間は「月45時間」までということになります。それを超えると疲労が長期にわたって累積し、「脳・心臓疾患」の原因となってきます。すなわち「大臣告示」で定めた残業時間「月45時間」というのは、政府自身が行った検討でも医学的根拠を持ったものだと思います。この報告書はなかなか詳細な検討を行っています。
ここで一つ、総理に問題提起をしたい。政府が本当に国民の生活・生命・健康に責任を持つというのであれば、残業の限度は「月45時間」とするという「大臣告示」が定めた規制を法律化し、法的拘束力を持ったものにすべきではないでしょうか。これも私は、本会議の代表質問でただしましたが、定かな答弁がなかったので、この場ではっきりとお答えいただきたい。
厚労相 まず私の方からお答えさせていただきたい。先生ご指摘のように、働きすぎの是正、あるいは若者の使い捨てが疑われる企業への対応をきちっとしていかなければならないのはいうまでもないわけでございます。そこで賃金不払い残業とか過重労働が疑われる企業に対して、重点的な指導を行うということで、本年1月から月100時間を超える長時間残業が行われている事業所に対する監督指導を徹底的にやっているところでございます。特に検討を進めている労働時間制度を今、法制化も考えているわけでありますが、健康確保のための時間外労働に対する監督指導等の強化を行う方針でありまして、このとりくみによって働きすぎの是正を図りたいと思っております。
そこで、今お話がありましたように、大臣告示の法制化のご提案でございましたが、これ以上働いてはいけないという労働時間の絶対的な上限規制を一律に求めるというご提案だと思いますが、これについては、働く人の健康確保を図る上で有効だという先生のお考え、意見がある一方で、企業の事業運営の柔軟性に大きな影響を、一律にやった場合は与えてしまうという意見もありまして、こうした関係者の意見を聞きながら、法制化については慎重に検討していくべきではないかと思っておりますし、この労働政策審議会で、平成25年度の労働時間等総合実態調査結果にあっても、45時間を超える労働者がいる事業所が月に10・9%あるということがあるわけですが、本件についても労政審できっちりと議論してまいったわけですけれども、残念ながらいまだ最終的な結論には至っていないというところでございます。引き続き、先生や関係者のご意見に耳を傾けながら、慎重に検討を図ってまいりたいと思います。
首相 われわれ今、ワーク・ライフ・バランスもしっかりと、これは経済界とともに進めていかなければならないと考えていますし、政労使の場でも大きなテーマにしているところでございます。そうしたところを進めている中で、今、志位委員がおっしゃった健康管理という点もきわめて重要な点でありますが、事業の中身によっては、非常に仕事が波動性があって、非常に忙しいときとそうではないときがある。月単位では、非常に忙しいとき、まさにここで稼がなければというときに、45時間を超えていくということはあるというなかにおいて、こうした規定があるわけでありますが、基本は基本でございますし、常にそういうことが行われるということがないように、監督署等においては健康の観点からしっかり見ていくことが重要であろうと思っているところであります。ですが、法定にするということについては、さまざまな観点から、働く人の健康確保を含め、慎重に検討すべき課題であると考えております。
ヨーロッパでやれて日本でできない道理はない
志位 この「(月)45時間」というのは、政府自身が医学的根拠を持って絶対に必要であると決めたものなんですね。たとえば繁忙期にどうしても働かなければならない場合がある。そういう例外事項は法律で検討することがあってもいいと思います。しかし政府自身が「(月)45時間」を超えたら健康障害のリスクが高まると認めているわけですから、これは法制化に踏み切るべきです。
ことは労働者の命と健康にかかわる問題です。ヨーロッパでは労働条件の上限を法律で決めてやっているわけです。ヨーロッパでやれて日本でできない道理はありません。例えば、東芝は、日本では残業上限時間は月130時間ですけれど、ドイツの東芝子会社はわずか月20時間でやっている。ヨーロッパではルールを守っているのに、本国の日本でできない道理はありません。
「過労死・過労自殺」は、15年間で4倍近くに増えている
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志位 「慎重に検討する」ということで、踏み込んだ答弁をされないんですが、残業時間を法律で規制せず、野放しにするという姿勢を続けることが何をもたらすか。「過労死」や「過労自殺」の広がりです。
次のパネルをご覧ください(パネル7)。厚生労働省によりますと、長時間労働や仕事のストレスなどが原因で「過労死」や「過労自殺」をした方は、未遂も含めて、2013年度は196人。15年前、1998年度の52人に比べて4倍近くになっております。「過労死」はヨーロッパでは考えられない、日本だけの異常な現象です。
トヨタ自動車における「過労死」事件――「会社が止めてくれないと」との遺族の訴え
志位 トヨタ自動車における「過労死」について、私は取り上げたい。トヨタにおける残業上限時間は「月80時間」で「過労死ライン」上にあります。トヨタでの「過労死」認定は、これまでに5件にのぼります。
2002年2月には、内野健一さん(当時30歳)の「過労死」事件が起こっております。内野さんは、トヨタ自動車堤工場車体部で班長として働いていました。トヨタの製造部門では、1週間おきで昼夜逆転の不規則勤務が行われていました。加えて「QCサークル」活動――労働者の自主活動の名のもとに行われる品質管理と能率向上のための職場の小集団活動が過重労働に拍車をかけました。亡くなる1カ月前の残業時間は106時間45分に達しました。妻の博子さんは、「享年30歳でした。亡くなる半年ぐらい前から夫の残業がどんどん増え、年が明けてからは異様な働きぶりでした。私は不安にかられていたのですが、その不安は的中し、過労による致死性不整脈で死んでしまったのです」と訴えておられます。
2006年1月にはAさん(当時45歳)の「過労死」事件が起こっております。Aさんは、主力の中型セダン「カムリ」ハイブリッド車のチーフエンジニアとして働いていました。亡くなる前年の2005年には、1年間でアメリカへ6回、のべ49日間出張し、帰っても休むことなく出勤していました。死亡1カ月前の残業時間は月79時間、2カ月前は106時間、6カ月前は114時間でした。妻が作った弁当をそのまま残したり、半分しか食べない状況だったこともあるといいます。
妻のBさんは、「車をつくりあげる喜びで仕事が止まらなくなるんです。『今日もアドレナリンが出っぱなしだった』。帰宅するなり夫はそう笑っていました。職場は常に興奮状態で、みずからを追い込んでいく。だからこそ会社がストップをかけないと」と訴えておられます。
企業は「まだまだ足らない、もっと働け」――ならば政治の責任を果たすべきではないか
志位 「会社がストップをかけないと」と遺族が訴えているときに、何人もの犠牲者を出しながら、トヨタの首脳はどういう姿勢でしょうか。総合自動車ニュースサイト「Responce(レスポンス)」によれば、トヨタ自動車の伊地知隆彦専務(当時)は2011年8月、4~6月期決算発表の席上で「今の労働行政では、若い人たちに十分に働いてもらうことができなくなっている」とのべ、韓国のヒュンダイはトヨタより年間労働時間が1000時間も多いと指摘。「私は、若い人たちに時間を気にしないで働いてもらう制度を入れてもらわないと、日本のものづくりは10年後、とんでもないことになるのではないかと思う」、こう言い放ちました。「会社は過労死するまで働けというのか」と怒りを広げました。
総理に問いたいと思います。「過労死」した労働者の遺族が「会社が止めてくれないと」と訴えている。そのときに会社は止めるどころか、「まだまだ足らない、もっと働け」という。そうであるならば、政治が責任を果たすべきではないでしょうか。重ねて問います。残業の限度は「月45時間」とするという「大臣告示」の規制を法律化すべきです。法律にしてこそ拘束力が生まれ、「過労死」防止の本当の力になる。いかがでしょうか。
首相 先ほど申し上げましたように、既にこの時間外労働が月45時間などの基準に適合したものでなければならない、これが基本でありますが、これを超えた場合については、1年の半分を超えない範囲、基準を超えた時間を別に定めることができるとされております。しかし、労働基準監督署ではですね、そうした健康に被害が出ないように、過重労働による健康障害を防止するために指導を行っているわけでございます。先ほど塩崎大臣からそれを徹底するようにということで、しっかりと指示をしているわけでございます。
そこでいまいろいろな例を挙げられたわけでございますが、いままでの働き方のスタイルをですね、われわれみんなで変えていくという、ワーク・ライフ・バランスの観点から、もう一度これは各企業が再検討していく必要が当然あるんだろうなと、こう思います。
いま挙げられたトヨタ幹部の方がですね、働くということについて、どの部門についておっしゃっておられるかということは分かりません。これは研究職なのか、現場そのものなのかということはもちろんあるんだろうと、こう思うわけでございますが、いわばまあ研究職の場合はですね、時には集中的に研究にまさに没頭するという形で、新たなものを生み出していくことに喜びを覚えていく場合がございます。同時に、それはしっかりと健康管理を、会社としても注意しながら行っていくことが重要だろうと、このように思いますが、基本的には、法制化についてはさっき申し上げた答弁の通りでございます。
重ねて「大臣告示」の法律化を強く求める
志位 残業の限度は「月45時間」とするという「大臣告示」は、今日お話ししたように、政府自身が行った検討でも医学的根拠を持ったものです。ところがそれを、日本経団連、経済同友会役員企業をはじめとする多くの大企業はまったく無視して、異常な長時間労働を強制し、「過労死」を引き起こしている。
それなのに、「大臣告示」の法律化について、これだけ聞いてもやるとはおっしゃらなかった。この姿勢は、労働者の命と健康よりも、日本経団連、財界大企業のもうけを上に置くというものであって、政治の重大な責任放棄だと私はいいたいと思います。重ねて「大臣告示」の法律化を強く求めたいと思います。
志位 「残業代ゼロ制度」――「過労死」がまん延することは火を見るより明らかだ
首相 時間でなく成果で評価、対象を限定、健康確保に十分留意する
志位 (一つひとつを批判)長時間労働がまん延し、「過労死」が激増することは必至だ
志位 問題はそれにとどまりません。総理は「時間でなく成果で評価する新たな労働制度」として、労働時間規制をなくし、どれだけ残業をさせても残業代を払わなくてもよいとする制度――「残業代ゼロ」制度を創設しようとしています。
これは、異常な長時間労働を強制している財界・大企業の、かねてからの宿願にこたえたものにほかなりません。日本経団連は、2005年に「ホワイトカラーエグゼンプション」――ホワイトカラー労働者は労働時間規制の適用除外とし、残業代を支払わなくてもよいとする制度の創設を「提言」し、一貫して労働時間規制の適用除外の制度をつくるために執念を燃やしてきました。ただでさえ異常な長時間労働が横行している日本で、労働時間規制の適用除外の制度を導入したら、どういうことになるか。
「高度プロフェッショナル制度」――労働時間規制を撤廃、日本の労働法制を根幹から覆す
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志位 ここに持ってまいりましたが、厚生労働省の労働政策審議会が提出した「建議」――「今後の労働時間法制等の在り方について」では、「高度プロフェッショナル制度」なるものを創設するとして、次のように述べております。
「一定の年収要件を満たし、職務の範囲が明確で高度な職業能力を有する労働者を対象として、……時間外・休日労働協定の締結や時間外・休日・深夜の割増賃金の支払義務等の適用を除外した労働時間制度の新たな選択肢として、……高度プロフェッショナル制度を設ける」
この「高度プロフェッショナル制度」なるものの最大の問題は、「週40時間、1日8時間」が法定労働時間、それを超えるのは時間外労働時間という考え方を完全に放棄してしまっていることにあります。
これまでの「変形労働時間制」、「フレックスタイム制」、「裁量労働制」などは、さまざまな問題点がありますが、それでも法定労働時間と時間外労働という考え方は、ともかくも残っておりました。ところが、「高度プロフェッショナル制度」なるものは、この考え方を完全に放棄し、時間外労働協定――三六協定を結ばなくてもよい、残業代を払わなくてもよい、そもそも残業という概念そのものがないというものになっております。労働時間規制をなくしてしまおうというものであり、文字通り日本の労働法制を根幹から覆すものにほかなりません。
そこで、総理にうかがいます。いまでさえ「大臣告示」も守らない、「過労死ライン」すら超える異常な長時間労働を進めている財界・大企業に、こんな法律を与えたら、世界でも異常な長時間労働がいよいよ歯止めが利かなくなり、「過労死」がまん延することになることは、火を見るよりも明らかではないですか。これも代表質問でただしましたが、定かなお答えがありませんでした。この場ではっきりお答え願いたい。「過労死」がまん延するんじゃないか。どうでしょう。
首相 この新しい働き方について、法律について、詳しい制度設計については、厚労大臣から答弁させますが、時間ではなく成果で評価する新たな制度の検討にあたっては、対象をグローバルに活躍する高度専門職として働く人に、ぐっと、こう絞っています。そして、当然、健康の確保に十分留意することとしています。具体的には、対象業務や年収について、法律により厳格な要件を定めています。定めるとともに、対象者の健康が損なわれることのないよう、在社時間等を把握したうえで、一定の休日を必ず与えるなどの措置を求めることにしています。これは、いわば、高度なプロフェッショナルな仕事であります。ですから、海外とのやりとりを含めて、夜遅くなることが続く、あるいは研究職において、研究開発がまさに佳境に至ったところにおいて、成果を上げていくために、ある程度の、このフレックスな時間にしていく。しかし同時に休日をちゃんと、これは健康に留意をしなければいけないという考え方から、必ず休日を与えるなどの措置を求める方針であります。働く人たちが健康を保ちつつ、創造性を十分に発揮できる環境をつくっていくという考え方でございます。
「平均年収の3倍」――「交渉力」など根拠なし、導入されればどんどん引き下げられる
志位 いま、いくつかの制度の基本にかかわることをお答えになりました。私が聞いたのは、「過労死」がまん延する危険についてですが、それについては「健康確保措置」をやるんだというような話もありました。
それでは、一つひとつを聞いていきましょう。
まず、「対象労働者が限定されている」とおっしゃいました。労政審の「建議」では、対象労働者を、年収が「平均給与額の3倍を相当程度上回る」ことを法律で決めた上で、具体的な年収額については、1075万円を参考に省令で規定するとしています。そこで聞きますが、「平均給与の3倍」というのはどういう根拠に基づくものですか。平均給与の3倍の賃金をもらう労働者は、特別に体が丈夫なんですか。どんなに働いても「過労死」をしないんでしょうか。そうじゃないでしょう。どういう根拠に基づくものですか、総理。
厚労相 繰り返し申し上げますけれども、今回の新しい制度をいま構想中でありますが、これについては、健康確保というのが大前提であるということをまず申し上げたいと思います。
その上で、3倍の根拠でございますけれども、いまお話があったように、平均給与額の3倍を相当程度上回るといったことを法定し、具体的には1075万ということになったわけでありますけれども、この3倍という数字につきましては、毎勤調査(毎月勤労統計調査)の決まって支給する給与の3倍とする方向で考えております。「日本再興戦略・改定2014」によりまして、新たな労働時間制度の年収要件として、少なくとも年収1000万円以上とされておりましたけれども、さらに労働政策審議会等で示された省令によってすぐに年収要件は引き下げられないようにすべきとのご意見もございました。そういうことで、1000万円以上の水準を確実に担保するとともに、労働条件についての高い交渉力があることを示すうえで、適当な水準として設定をしたものでございまして、月26・1万円×12カ月×3倍ということで、約940万円を相当程度上回るというふうな計算になるわけでございまして、まあそういうことで、交渉力があるということは、自らの労働条件を決めるにあたって、使用者と交渉するうえで、労働者が劣位に立つことがないようにという意味でございまして、いまの3倍という根拠は、いま申し上げた毎勤統計のこの数字から出てきているもので、これは、考え方を法定をするということで、勝手に変えるようなものではございません。
志位 根拠を聞いたのに対して、高度な職業能力をもって「交渉力があるからだ」というお答えでした。しかし、いかに高度な職業能力をもっていたとしても、巨大組織と個人との間で対等な「交渉」などありえませんよ。他の仕事をもっている個人事業主だったらいざ知らず、企業における仕事が唯一の生活の糧である労働者が、企業と対等に「交渉」などできるはずがないじゃないですか。だいたい、この制度の下でも、労働者は使用者の指揮命令下に置かれることは変わりがありません。指揮命令に従わなければ処分される。指揮命令するものと、されるものとのあいだで、対等な「交渉」などありえません。「平均給与の3倍」などというのは、長時間労働、過労死を防ぐ保証などにはなりえないもので、いまいろいろいわれたけれども、何の根拠も示せなかった。
そして、この制度をいったん導入されたら最後、法律を変え、省令を変えれば、どんどんこれが引き下げられることになることは、火を見るよりも明らかです。もともと、日本経団連が2005年におこなった「ホワイトカラーエグゼンプションに関する提言」では、「年収400万円以上」の全労働者を労働時間規制の適用除外にしていました。日本経団連の榊原会長は、全労働者の10%が適用を受けられる制度にすべきだと語っています。産業競争力会議の民間議員の竹中平蔵氏は、「小さく生んで大きく育てる」とあけすけに狙いを語っております。なにより、労政審の「建議」では、使用者側の意見として、「幅広い労働者が対象となることが望ましい」と明記されているじゃありませんか。これは、対象限定になんかなりません。どんどん広がります。
「成果で賃金を払う」――労働時間規制がなくなれば、止めどもない長時間労働になる
志位 次にもう一つ、総理は、施政方針演説で、「時間ではなく成果で評価される新たな労働制度をつくる」といった。答弁でも、いま繰り返されました。そこでこの問題にかかわって、総理に基本認識をうかがいたいと思います。
成果で賃金を払うことが現行法ではできないのか。そんなことはありません。成果で賃金を払うことは、現行法でほとんど規制されていません。たとえば工場における出来高制、営業社員の歩合制、タクシー運転手の歩合制、さらに最近ではさまざまな成果主義賃金が行われています。
結局、あなたがいう「新たな労働制度」なるものの問題は、「成果で賃金を払う」ことと一体に、労働時間規制をなくし、残業代支払い義務をなくしてしまう、ここにあります。「新たな労働制度」だとあなたはおっしゃいますが、「新しい」のは、「成果で賃金を払う」ことではありません。それと一体に、労働時間規制をなくし、残業代も、休日手当も、深夜手当も、一切払わなくてもよいことにしてしまうことにあります。
ここで総理に聞きたいんですが、そもそも成果で賃金を払うということは、一番、長時間労働につながります。歩合制をとっているような業務で長時間労働がまん延していることは周知の事実じゃありませんか。だから、成果で賃金を払うならば、労働時間規制はきっちりやらなければいけない、これが原則じゃないでしょうか。
総理、あなたは、「時間ではなく成果で評価される新たな労働制度」とおっしゃいます。しかし、労働時間とは関係なく、成果で賃金が決まる仕組みが導入され、かつ労働時間の規制がなくなれば、成果が出るまで働かせるということが野放しとなり、止めどもない長時間労働になることは、明らかじゃありませんか、総理。
首相 経団連側の要望と、あるいはかつての「ホワイトカラーエグゼンプション」についての規定を挙げられましたが、それとはまったく今度は別物でございまして、まさに、高度なプロフェッショナルな方々を対象としています。管理職でもないにもかかわらず、1075万円とか、かなりの、これはいわば能力がないとそういう収入を得ることは難しいと思います。そこで、かなり限られてくるわけでございまして、そういう方々の、まず本人の同意がなければいけないということ。これは、希望しない人には適用しない、この原則、これは私から指示として法律をつくる上において、出しているわけでございまして、そして、職務の範囲が明確で、高い職業能力をもつ人材に対象を絞り込んでいくということでございますし、また、働き方の選択によって賃金が減ることがないように、適正な処遇を確保するということが、これが私の指示であって、この指示にもとづいて法律をつくっていくことになります。
そして、こうした限られた方々にとっては、いわば、だらだらという働き方ではなくて、集中的に働いて成果を出して、あとはきっちり休んでいくと、そういうことが可能な職種に限られていくし、可能な人に限られていく。希望して、自分はこう普通のようにだらだら働いていく、そして、なにかインスピレーションが出てですね、そしてそのときに切られてしまうと、次の日にはまたちょっとまた生産性が落ちるというなかでやっていくよりも、まとまってある程度、そんなに残業代、残業をどんどんするということではなくて、まとまってある程度フレキシブルな働き方をしながらですね、家でということもあるでしょうし、しながら、これは成果が出れば、あとはきっちりと休んだほうがいいということもあるわけであります。最初申し上げましたように、きっちりと休日を取らせることが、これは義務付けられているわけでありますし、健康管理はちゃんとやりなさいというなかにおいて、フレキシブルな働き方を可能としていこうと。しかもそれは本人が希望しなければならないということは、はっきりと申し上げておかなければいけませんし、これはもちろん、1075万円でこれは管理職ではない、当然、管理職ではない方々に対して、これを適用していくと、こういうことであります。
志位 労働者の同意を必要とするんだということを繰り返されましたけれど、「この制度を受け入れなければ昇進はないよ」といわれて拒否できますか。一人ひとりの労働者と企業との力関係をみたら、同意せざるを得ないんですよ。だから、労働法があるんです。同意を要件にするのは、労働法の存在意義の否定だと私はいっておきたいと思います。
「健康・福祉確保措置」――土日以外は労働時間は無制限、「過労死促進措置」になる
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志位 そしていま、総理は、休みはちゃんと取らせるんだということをおっしゃいました。次のパネルをご覧ください(パネル8)。
(労政審の)「建議」では、「健康・福祉確保措置」をとるとされていますが、労政審の「建議」を読みますと、「健康・福祉確保措置」について、次の三つのうちのいずれかの措置を講じればいいとされております。読み上げます。
「(1)労働者に24時間について継続した一定の時間以上の休息時間を与えるものとし、かつ、1か月について深夜業は一定の回数以内とすること。
(2)健康管理時間――実際の労働時間のことでしょう――が1か月又は3か月について一定の時間を超えないこととすること。
(3)4週間を通じ4日以上かつ1年間を通じ104日以上の休日を与えることとすること」
この三つのうち、これの全部を満たさなきゃならないという規定じゃないんですよ。三つのうち一つの措置を講じればいいということになっております。
そうしますと、仮に(3)を選んだとすればどうなるか。「年間、104日以上の休日」を保障するというのが、まず驚きですよ。年間104日といえば、休みは土日だけ、祝日も、盆もお正月休みもない、有給休暇もないということですよ。それが年間104日ということです。
それを選択する代わりに、(1)も(2)もなくなっちゃうんです。つまり、104日間の休日以外――年間365日から引きますと、あとの261日、これは、「休息時間を与えなくともよい」、「深夜業をどんなにやらせてもよい」、「健康管理時間――労働時間がどんなに長くなってもよい」ということであります。労働時間は24時間無制限ということになるじゃありませんか。
総理にうかがいます。ちゃんと休みを取らせるから大丈夫だ、健康管理をやるんだといいますが、これでどうして「健康・福祉確保措置」になりますか。「過労死促進措置」じゃありませんか。いかがですか、総理。
厚労相 まずこの大前提はですね、健康を確保するということを考え方として持つことは当然ですけれども、それをどう担保していくかといえば、たとえばパソコンをいつログオンしてログオフしたかということで時間管理もきちっとできるわけでありますし、そういうようなことをやって時間管理も同時にしていくというなかで、いま申し上げたような三つの措置のなかから一つを選択をするということにしているのはですね、これは、健康確保の実効を上げるためであって、それらの措置はいずれも通常の方々の働き方よりは、お話が少しありましたけれども、規制よりも厳しい内容であって、制度を選んだ方が柔軟に働くことによって、その創造性を存分にですね、発揮するために、三つのうちの一つの措置を講ずる形が望ましいと考えているわけでございまして、先ほど少し例がありましたが、たとえば、いまグローバルな仕事の方々が多いわけですけれども、海外と、まあ、会議を持とうと思ったら、こちらの昼間の時間にはできないわけで、向こうがやっている時間に合わせてやるとなると、こちらは1回昼間休んでおいて、夜出勤をしてテレビ会議をやるとか、あるいは電話会議をやるとか、そういうようなこともあるわけでありまして、そういうさいに、柔軟な働き方として、今度の制度が非常に有効ではないかということだったり、あるいは、たとえば化学実験をやりながら、新しいものを開発していくときに、化学反応がどんどん、どんどん進んでいるときに、間を空けるわけにはいかないわけですから、短期集中でやって、あとはどっぷり休むというようなこともありうるわけで、いろんな形で、これからの仕事というのはやっていかなければいけない。しかし、その大前提は、健康は確保するということで、さっき申し上げましたけれども、年収要件をかけていることが、交渉力を有することはないんだとおっしゃいましたが、そんなことは、相対的にやはりあるわけであって、それは労政審のなかでもそれは指摘をされていることでございます。
それから、さっき総理からも申し上げたように、同意をした場合に限ったことでありますし、それから労使の代表によって制度の対象となっている方の在社時間の状況など、制度の運用状況をしっかりとモニタリングする、こういうことが大前提となっているわけでありまして、ご指摘のような極端な長時間労働がですね、強いられるようなことはないようにしていくところでございます。
志位 私は、この(1)(2)(3)の一つを選べということになったら、(3)を選んだら、年間104日以外の日は、無制限で働かせられることになって、「健康・福祉確保措置」にならないじゃないかと聞いたのに対して、長々ながなが話すんですけども、なんの答弁もしていないですよ。答えられないということですよ。対象労働者の同意ということをまたいいましたけれどね、同意を要件にして、なんでもやってよいということになったら、労働法は必要なくなっちゃうんです。
志位 「残業代ゼロ」「過労死促進」の労働基準法改悪案の国会提出はやめよ
志位 「新たな労働時間制度」なるものについて、今日、一つひとつ政府側の言い分について批判してまいりましたけど、どんな理屈をつけてみても、ひとたび導入されれば「残業代ゼロ」での無限の長時間労働がまん延し、「過労死」を激増することになることは必至であります。そしてその対象はいくらでも拡大することになり、多くの労働者の生活と健康を破壊するものになります。「残業代ゼロ」「過労死促進」の労働基準法の改悪は絶対に、私たちは反対であります。この悪法を国会に提出することはやめるべきだということを強く求めておきたいと思います。
最低賃金――大幅引き上げへの方策を問う
志位 最低賃金の大幅引き上げへ、中小企業への直接支援の仕組みをつくることを提案する
首相 志位委員長のご提案は、一つの考え方
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志位 さて、残る時間で、第三の最低賃金の問題について聞きたいと思います。
最低賃金は、貧困と格差をなくしていく上で、最大の決め手の一つになります。ところが日本の最低賃金には、大問題があるということを指摘しなければなりません。その水準が、あまりに低すぎるということです。
パネルをご覧ください(パネル9)。これは日本と欧米各国の直近の最低賃金額を比較したものです。日本は時給平均で780円。アメリカ・オバマ大統領が790円から1101円への引き上げを表明しています。イギリスは960円。ドイツは1186円。オーストラリアは1218円。フランスは1210円。日本は国際的に見ても非常に最低賃金が低い。
日本のシングルマザーは先進国で最も懸命に働いているが、最も貧困な状態に置かれている
志位 最低賃金の貧困は、国民生活のさまざまな貧困の大きな根源となっていますが、それはシングルマザーにも深刻な形で現れています。
昨年、NHKは、「クローズアップ現代」、「NHKスペシャル」で、深刻化する女性の貧困の問題にスポットをあてた番組を放映し、大きな反響を呼びました。
「クローズアップ現代」では、「若い女性に広がる貧困。さらに年々深刻な状況に陥っているのが、10代、20代のシングルマザーです。今、20代のシングルマザーのうち、およそ80%が、年収114万円未満の貧困状態に置かれています」として、広島市に住む28歳のあさみさんの生活を紹介しました。
あさみさんは、4歳と2歳の息子さんを育てています。保育所で、時給800円で働いています。収入は月10万円ほどです。母子世帯に支給されるおよそ4万円の手当などを加えて、何とか家計を維持しているとのことでありました。番組では次のようなあさみさんの言葉を放映しました。
「食費をできるだけ、かけずにかけずに、うどん1玉を3人で食べたり、汁を多めに作って、汁で腹いっぱいにさせるっていうのはあります。……下の子はよく起きるんです。精神的にも金銭的にも1人なので、自分にもしものことがあったらと、ふと思いますね。自分が倒れたら、2人とも餓死するんじゃないかと考えます」
ぎりぎりの生活がひしひしと伝わる訴えでありました。
OECDの調査によれば、日本のシングルマザーは先進国(18カ国の比較)のなかで、就労率はもっとも高く、85・9%が働いている。ところが同じく、OECDの調査によれば、先進33カ国で、一人親世帯の相対的貧困率は、日本は50・8%と最も高い。
日本のシングルマザーは、先進国のなかでも最も懸命に働いています。ところが最も貧困な状態に置かれている。多くのシングルマザーから最低賃金に張りついたような低賃金でのダブルワーク、トリプルワークに追われ、睡眠時間を削り、生活費を削り、ぎりぎりの生活を強いられているという訴えが、私たちにも寄せられています。
総理にうかがいます。こうした事態を打開するためには、もちろん雇用、社会保障、子育て支援など、多面的な支援が必要です。ただわけてもですね、生活の糧は雇用です。ですから、中小企業支援と一体に、最低賃金の大幅引き上げが必要だと考えますが、いかがでしょうか。
首相 安倍政権としてもですね、最低賃金について重視をしております。いわば、消費を喚起する意味においてもですね、経済の好循環を回していくうえにおいてもこの最低賃金が適切に上がっていくことが大切だろうと、こう思っています。ですからこの、例えば平成14年、15年、16年、17年、18年とですね、前年度比の引き上げ額が、14年度はゼロで、15年は1円、16年は1円、17年は7円、18年は5円だったわけでありますが、19年は14円。これは第1次安倍政権のときに14円と2桁一気にいって、それまでのずっと1桁の低い水準をどっと上げることができました。で、今回もですね23年が7円。24年が12円ですか。25年、26年と安倍政権ができて、15円、16円と大幅に引き上げを行っているのは間違いないわけでございまして。これによって初めて、生活保護との乖離(かいり)が、はじめて解消したわけでございます。ま、最低賃金は決定に当たり、労働者の生計費や賃金、企業の賃金支払い能力を考慮することとされています。また、地域差など実情を考慮して、都道府県ごとに定められているわけでございますが、これは当然、都道府県ごとに物価等の水準等も違うわけでございます。それを見ながら、それぞれの地域が決めているということだと思います。ですから、最低賃金額を全国一律にするというご指摘についてはですね、地域ごとの賃金や物価水準の差を反映せず、また、中小企業を中心として労働コストの増加により、経営が圧迫され、結果としてかえって雇用が失われるという面があるのも事実であります。だから志位委員長は、中小企業に支援をしろと、こういうことでございますが、なかなか中小企業にとってですね、この最低賃金がぐっと上がるということに対しては、非常に慎重にならざるを得ないんだろうなあと、思います。そりゃ気持ちとしては最低賃金をぐんと上げて、1000円にできればいいですけれども、となると結局ですね、地域によっては中小小規模事業者は結果としてそうなることによって、じゃあ5人雇ってたところを1人やめてもらって4人になる。あるいはこれはなかなかついていけないなということで、仕事をたたむということも起こりうるわけでありまして。そこで先ほど申し上げましたように、さまざまな観点から定めているということでございますが、この2年連続2桁で上げることができましたので、こういう状況を維持できるように、経済の好循環を図っていきたいとこう思っています。
志位 この2年間にですね、大幅な引き上げをおこなってきたとおっしゃいましたが、昨年の引き上げというのは、全国加重平均で16円、2%にすぎません。消費税の増税と物価上昇分にも及ばない、実質引き下げになっているということは、よくご自覚願いたいと思います。
「育児」時間は1日平均23分――経済的貧困だけでなく、時間の貧困にも苦しんでいる
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志位 私は、シングルマザーにかかわって、もう一つ、問題を提起しておきたいと思います。
多くのシングルマザーは、労働単価が低いゆえに、長時間労働に従事せざるをえず、子どもたちと触れ合う時間が削らなければならない。経済的貧困だけでなく、時間の貧困ということにも苦しんでおります。
国立社会保障・人口問題研究所が発行する定期誌に掲載された「母子世帯の仕事と育児――生活時間の国際比較から」という論文が、シングルマザーの仕事時間と育児時間の国際比較をおこなっております。
このパネルをご覧ください(パネル10)。日本、アメリカ、ヨーロッパ10カ国、あわせて12カ国のシングルマザーの「仕事」、「家事」、「育児」、「睡眠・食事」などの平均時間を比較しています。このパネルはそのうちの「仕事」と「育児」について、主要5カ国を抜き出してグラフにしたものです。青い棒が「仕事」の時間、赤い棒が「育児」の時間です。
日本のシングルマザーは、12カ国で最も「仕事」の時間が長く、土日・休日も含めて、1日平均315分です。一方、「育児」の時間は12カ国で最も短く、1日平均わずか23分です。
この国際比較で、「育児」の時間に分類されているのは、親御さんが子どもとふれあい、一緒に遊んだり、絵本の読み聞かせなど、さまざまな文化的営みをする時間であります。この時間とれない。こういう実態がある。
中小企業に対する社会保険料減免で、最低賃金引き上げをはかる仕組みを
志位 そこで私は、総理に一つ、最賃の問題で提案をしておきたいと思います。
アメリカでは、2007年から09年までの3年間で最低賃金を41%引き上げた。これで540万人が賃上げとなりました。このときアメリカ政府は中小企業に対して、5年間で8800億円の減税措置をとりました。
フランスでは、2003年から05年にかけて、最低賃金を11・4%引き上げました。この3年間にフランス政府は、中小企業に対して、社会保険料の事業主の負担分を2兆2800億円も軽減しています。
一方、日本の最低賃金引き上げのための中小企業支援は、4年間で149億円にすぎません。
ここで提案したい。中小企業に対する、最低賃金引き上げのための直接支援の仕組みをつくることが必要ではないか。そのさいフランスなどでは、社会保険料の減免が支援策になっています。これが一番有効ではないか。社会保険料の減免というのは、赤字経営の中小企業でも負担軽減となり、その分を確実に賃上げにまわすことができます。国がきちんと財政上の手当てをとり、中小企業に対する社会保険料の減免を行うことによって最低賃金の引き上げをはかる、そういう仕組みをつくることを提案したいのですが、いかがでしょう。
首相 最低賃金を引き上げることとですね、中小小規模事業者がしっかりと雇用を確保し、経営を安定化させることができるということの観点からはですね、いま志位委員長がご提案されたことは一つの考え方だと思います。しかし同時にこの財源を確保しなければいけないという大きな課題もあるのは事実であるなとこのように思ったところであります。
志位 一つの考え方とおっしゃいましたので、ぜひ、真剣な検討を私は求めたいと思います。
志位 最低賃金の大幅引き上げ、地域間格差の縮小、全国一律最低賃金制の確立を求める
志位 私は、中小企業の直接支援に踏み出すべきだと。そして最低賃金の大幅引き上げを行う。そのことによって地域の雇用も経済も活性化をはかる。それが中小企業の経営を向上させ、さらに賃上げができるようになる。これがほんとうの経済の好循環ではないかと思います。最低賃金の大幅引き上げともに、地域間格差の縮小の施策をとり、全国一律最低賃金制を確立することを強く求めまして、私の質問を終わります。