2012年11月15日(木)
日本共産党の志位和夫委員長が、13日の衆院予算委員会で行った基本的質疑を紹介します。
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志位和夫委員長 私は、日本共産党を代表して、野田総理に質問いたします。
今日は、いま電機・情報産業の大企業が行っている大量の首切り・リストラ問題にしぼって質問します。
いま進められている大量の首切り・リストラは、労働者の生活と人権をきわめて深刻な形で脅かしている点でも、雇用不安がテコとなって、内需の冷え込みが進み、「デフレ不況」をいっそう深刻にしているという点でも、下請け中小企業と地域経済に甚大な打撃を与えているという点でも、日本社会の大問題になっています。
これは今週号の経済誌(『週刊東洋経済』11月17日号)ですが、「人ごとではない。明日はわが身の解雇・失業」と題する大特集が行われています。
電機・情報産業の大企業は、「経営悪化」を理由に首切り・リストラを進めています。しかし、「経営が悪いから」と労働者の首を切り、目先の利益のみを追い求めるというやり方を繰り返してきたことが、技術開発の土台を自ら破壊し、いっそうの「経営悪化」への悪循環をつくりだしてきているのではないか。私は、そのことは、この10年来の日本の電機・情報産業の衰退という事実によって証明されていると思います。この問題は、日本の産業のあり方にもかかわる重大な問題であります。
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志位 まず、いま進められている電機・情報産業の大企業による首切り・リストラ計画の規模についての認識をうかがいたい。
主要な大企業だけをみても、人員削減数は、パナソニック4万人、ソニー1万人、TDK1万1000人、リコー1万2000人、NEC1万人、シャープ1万人、ルネサス1万4000人というきわめて大規模なものであります。政府として、電機・情報産業の大企業による人員削減計画の全体の規模をどのように把握していますか。
三井辨雄(わきお)厚生労働相 厚生労働省といたしましては、リストラにさいしまして、企業に再就職援助計画の提出を義務付けております。これによりまして就職の状況を把握しておりますが、昨年4月から(今年)9月までのあいだに提出されました再就職援助計画によりますと、離職者数は約11万人、うち電機関連製造業の離職者は約2万7000人となっております。
志位 2万7000という数字は、現実とあわない過少なものですね。届け出を待っているというのではなくて、もっと主導的につかむ必要がある。
私たちが、会社発表や報道などだけをもとにした集計でも、電機・情報産業の大企業による首切り・リストラ計画は、10月末で約13万人となっています。ただし、人員削減計画を公表していない企業も多数あり、さらに非正規社員の削減数は一部を除いて不明であり、その影響は13万人をはるかに超えると考えられます。
2008年の「リーマン・ショック」のさいには、首切り・リストラは、「派遣切り」、「非正規切り」という形で現れましたが、今日の電機・情報リストラは、非正規社員にとどまらず、正社員も標的とされ、しかも製造部門だけでなく、事務・設計・開発部門にまで人員削減の嵐が襲っていることが、重大な特徴となっています。
どのようなやり方で首切り・リストラが進められているのか。それが社会的に許されるものなのか。以下、具体的にただしていきたいと思います。
志位 NECでは、1月26日に、1万人の人員削減のリストラ計画を発表しました。国内2000人、国外3000人、外部委託・非正規社員5000人を削減するというものです。
これを遂行するために、NECでは、繰り返しの個人面談による執拗(しつよう)な退職強要を行っています。
私は、実際に繰り返しの退職強要を受けた2人の労働者から直接に話をうかがいました。お二人は面談の詳細な記録を残しており、それも見せていただきました。(面談記録のコピーをかざし)これがその記録でありますが、たいへん詳細なものです。その実態は驚くべきものでありました。
まずAさんのケースです。Aさんは、システムエンジニアとして他社からヘッドハンティングされて入社し、勤続15年になります。次のような訴えが語られました。総理に認識をうかがいたいので、お聞きいただきたい。
――5月から7月までに合計11回もの面談を受け、退職が強要されました。4メートル四方の狭い部屋に入れられ、窓もなく、会話が外に漏れないように通気口を鉄板でふさいだ面談室で、繰り返し、繰り返し、退職を迫られました。上司に、「今の職場で今のままの仕事を続けてもらうのは難しい」と100回ぐらい言われ、「会社を辞めません」と100回ぐらい言っても、面談は続きました。上司から、「特別転進(希望退職)を真剣に考えてほしい」、「特別転進の理解が得られるまで面接は続ける」と繰り返し言われました。上司に、「面談は苦痛なので、もうやめてほしい」と求めても、「面談は業務の一環だ。拒否するなら、業務拒否になる」と言われ、面談を強要されました。
3回目の面談の翌日、不安や不眠などの症状で心療内科に行き、「適応障害」と診断されました。上司に、「この面談で医者に通うことになってしまった。面談のせいで体調が悪化している。医者からは面談をやめるなどストレスがたまらないようにする必要があるといわれている」と訴えても、「面談は問題ない」として続けられました。
7〜8回目くらいの面談から、死ぬことを考えるようになりました。11回目の面談で、上司に「残れると思った? 残れないよ」と追い詰められたときには、思わず涙があふれ、「私に自殺しろって言うのですか。何回も面談して、私を追い込んで病気にまでさせておいて、さらに追い打ちをかけるんですか。もう自殺するしかないじゃないですか。もうこれ以上、私を追い込まないでください。苦しめないでください」と叫んでしまいました。
こういう訴えであります。
総理の認識をうかがいたいと思います。繰り返しの退職強要のストレスで、病気にされているわけです。それを訴えても、退職強要をやめません。最後には「自殺しろというのか」というところまで追い詰められている。業務命令で、繰り返しの面談を強要し、病気に追い込む――こういうことはあってはならないことだと考えますが、総理いかがでしょうか。
厚労相 お答えさせていただきます。退職勧奨につきましては、全体として被勧奨者の自由な意思決定が妨げられる状況であった場合は、違法な権利侵害となるとした最高裁判例がございます。また一般論として、行き過ぎた勧奨が違法な退職強要と判断される場合もあると考えております。
志位 私が聞いたのは、繰り返しの面談を強要して、病気にまで追い込むというのは、これはあってはならないことではないかと、これを聞いたのです。答えてないです。総理、今度は答えてください。
野田佳彦首相 あの、一般論で申し上げるとするならばですね、ことさらに多数回、長期にわたるなど、労働者の自由な意思決定が妨げられるような状況での退職勧奨は行ってはならないというふうに認識をしています。
志位 今回のようなケースで、病気に追い込むまで退職強要をやるということは、あってはならないことではないかと聞いているんです。
首相 あの、事実関係がわかりませんので、個別のことはお話しできませんが、一般論で申し上げた認識は先ほどの通りであります。
志位 こういうことを、「あってはならない」と言えないというのは、情けないと思いますよ。
志位 つぎにBさんのケースについて、さらに申し上げたい。Bさんは、ソフトウエア開発にたずさわってきた技術者です。勤続21年になります。次のような訴えが寄せられました。
――5月に始まった合計12回に及ぶリストラ面談は、私のすべてを否定するものでした。上司から繰り返し言われたのは、「今まで通りの仕事を続けるのは難しい」という言葉でした。何度、「会社に残ります」と答えても聞いてもらえず、繰り返しこの言葉が投げつけられました。「能力がない」「新入社員にも劣る」などの面罵(めんば=ののしること)もされました。「特別転進制度(希望退職)に応募しない場合は、内戦状態のシリアへの転勤になる」などとも脅されました。たびかさなる面談で、精神的な苦痛を受け、眠れない日々が続きました。食欲もなく、食べても吐き気や腹痛がし、体重は5キロ以上も減りました。私は、新入社員セミナーの仕事で、社長から「貢献賞」を3回――2006年、2008年、2010年にもらったことがあります。仕事に誇りをもってやってきたのに、悔しさを通り越して毎日が悲しい。
こういう訴えであります。
Aさんにしても、Bさんにしても、繰り返しの退職強要を受けているわけですね。
志位 厚生労働省は、「厳しい経済情勢下での労務管理のポイント」というパンフレットを発行していますね。そのなかの「退職勧奨」という項目では、「裁判例によれば、被勧奨者の自由な意思決定を妨げる退職勧奨は、違法な権利侵害に当たるとされる場合があります」として、最高裁の判例を例示しています。それを読み上げてください。
厚労相 退職勧奨について争われた最高裁判例について、パンフレットでは、「ことさらに多数回、長期にわたる退職勧奨は、いたずらに被勧奨者の不安感を増し、不当に退職を強要する結果となる可能性が高く、退職勧奨は、被勧奨者の家庭の状況、名誉感情等に十分配慮すべきであり、勧奨者の数、優遇措置の有無等を総合的に勘案し、全体として被勧奨者の自由な意思決定が妨げられる状況であった場合には、当該退職勧奨行為は違法な権利侵害」とされております。
志位 いま読み上げられましたが、パネルをご覧ください。(パネル1)
これは最高裁の判決ですけれども、この最高裁の判決にてらしても、NECで行われているのは、まさに「多数回、長期にわたる退職勧奨」であり、「自由な意思決定を妨げる退職勧奨」であって、違法な退職強要であることは明瞭であります。
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志位 ところがNECは何といっているか。これは今週号(11月19日号)の『AERA(アエラ)』の「『退職強要』国会で追及」と題する記事ですが、私が本会議の代表質問で、NECの退職強要の問題をただしたことに対して、NEC側の反応が載っております。驚くべきことに、NEC側は、「複数回に面談が及ぶことはあっても、……退職勧奨や退職強要はしていない」と答えています。
しかし、すでに紹介したように、Aさん、Bさんに対して、上司が繰り返し言ったのは、「今まで通りの仕事を続けるのは難しい」、「特別転進(希望退職)を真剣に考えてほしい」、「特別転進の理解がえられるまで面接は続ける」、「特別転進制度に応募しない場合はシリアなどへの転勤になる」という言葉であります。
これは、「会社を辞めろ」という言葉だけは使っていないものの、明らかに繰り返しの「退職勧奨」――違法な退職強要以外の何ものでもないことは明らかでないでしょうか。にもかかわらずNEC側は「退職勧奨はしていない」と言い抜けているんです。こんなことを許しておいていいでしょうか。
ただちに政府として、NECに乗り込んで、実態をつかんで、違法行為を根絶するために、断固たる措置をとるべきじゃないですか。どうですか。
厚労相 個別の事案については控えさせていただきますが、あくまで一般論といたしましては、行き過ぎた勧奨が違法な退職強要と判断される場合もあると考えております。
志位 個別(の事案への答弁)は控えさせていただくというのは、自民党政権がいつも言っていたせりふと同じですよ。しかし、違法行為というのは個別企業がやるんです。「個別の」ということで答弁を避けていたら、行政の責任を果たしたことになりません。
NECの側は、開き直っているわけです。厚生労働省は、こういうパンフレットを出して、“退職勧奨のひどいものはやっちゃいけないよ”と言っているにもかかわらず、これだけのことをやっておきながら(NECは)開き直って、「退職勧奨やっていない」と、厚生労働省をなめているわけですよ。その時に、ほっておいていいんですか。
あらためてきちんと調査に入って、退職勧奨をやめさせてください。大臣、NECに調査に入ってください。
厚労相 さきほど説明申し上げました裁判例の通り、一般論として申し上げさせていただきます。ことさら多数回、長期にわたるなど、労働者の自由な意思決定が妨げられるような状況での退職勧奨は行ってはならないということを認識しております。また厚生労働省ですが、違法な退職強要についての情報を入手した場合には、都道府県労働局やあるいは労働基準監督署で事実を確認し、必要な啓発指導を行うこととしております。今後とも企業に対してしっかりと啓発指導を行ってまいります。
志位 違法な退職強要の情報を入手した場合には指導に入ると言いましたが、今、違法な退職強要の事例を言っているじゃないですか。この場で。あなたは、その「情報」を入手したんですよ。だったら、指導に入ると言ってください。そんな一般論じゃだめです。指導に入ると、やめさせるとなんで言えないのか。
中井洽(ひろし)予算委員長 志位さんに申し上げますが、御党のご調査ですから、間違いはないと思いますが、予算委員会で議論をしていただきます資料は、あらかじめ理事会でご提示いただくことになっています(志位 「出しています」)。私どものところへ、ご調査のAさん、Bさんがどう言ったのかというのが出ているわけではありません。それをもとに質問されますから、政府は一般論で答える以外にありません。ひとつ、そういうことを含めて有意義な討議をお願いします。
厚労相 個別の事案につきましては、具体的に申し上げることは控えさせていただきたいと思います。
志位 私は基本的なことは出しております。パネルの問題、それから総理にお渡しする資料の問題。しかし、個々の、質問の内容全部を、いちいち通知できなければ答えられないという、そんなばかなことはないですよ。
志位 先に進みます。総理に、うかがいたい。この問題は、NECだけじゃないんですよ。他の電機大企業でも違法な退職強要が広がっています。
シャープでは、11月1日から希望退職2000人を募り、複数回の個人面談など違法な退職強要が進められています。私たちのもとに、「4回目の面談がされます。やめたくないが、断りきれないかもしれません」という訴えが寄せられています。「シャープの希望退職とは名ばかりで……実際は指名解雇そのものです。労働者個々に面談と称して呼び出し、ある人には『退職してください』と、また別の人には『君のいる場所はない』などと露骨にいわれています」という訴えも寄せられています。
政府の調査でも、退職強要に関わる相談件数は、2002年度には7137件に対して、2011年度には2万6828件と、9年間で約4倍、史上最高となっています。違法な退職強要が空前の規模に達していることをうかがわせるデータであります。
総理に、うかがいたい。政府として、電機・情報産業の大企業で行われている首切り・リストラの実態を全面的につかんで、違法行為があれば、企業に踏み込んでそれを止めるべきではないですか。それが政治の責任ではないか。総理にその意思があるのかどうか、うかがいたいと思います。
枝野幸男経済産業相 電機・電子産業の所管大臣としてお答え申し上げます。エレクトロニクス産業は世界的な競争が激化する中、各社において事業体質強化に向けたさまざまな対応が検討され、あるいは実施をされています。こうした中で企業にとって事業の選択と集中が不可避であるということも一方では理解できますが、このような場合においても配置転換等により可能な限り雇用の維持に努めることは非常に重要であると認識しております。私としても所管大臣として国内の経済・雇用に与える悪影響を最小限にとどめるべく関係する企業に経営基盤の安定化および雇用維持に向けた取り組みを行うよう要請してきているところであり、引き続きこうした要請を続けながら各社の動向を注視してまいりたいと思っております。
その上で今、ご指摘のありました違法な退職勧奨等の問題については、これは個別のことについては厚生労働省所管のもとできちっとした申請、申し出等があれば、厚生労働省において個別案件として対応していただけると思いますし、あるいは企業ぐるみで大掛かりでしているというような具体的な指摘、あるいは証拠等をお示しをいただければ、経済産業省としても私、所管大臣として調査をさせていただきます。
志位 総理にうかがいたい。違法行為があれば踏み込んでただしていただきたい。いかがでしょうか。
首相 今の経産大臣の答弁の通りではないかと思います。
志位 次にもうひとつ大きな問題に進みたいと思います。日本IBMの問題です。
日本IBMでは、ある日突然、正当な理由なく解雇を通告し、そのまま労働者を職場から締め出す「ロックアウト解雇」というやり方がとられています。私は、突然の解雇通告を受けた労働者から直接お話をうかがいましたが、あまりの非道さにあぜんとする思いでありました。
まず、Dさんのケースです。Dさんは、パソコンのハード・ソフト開発にたずさわってきた技術者で40歳になります。次のような訴えでありました。お聞きください。
――9月18日、午後4時55分、本社のセカンドマネジャー(部長級)から「5時からミーティングをやる」といわれ、指示された部屋に行くと、見知らない2人が入ってきて(人事担当者)、突然、「解雇通告書」を読みあげはじめました。「今日の終業時刻、5時36分までには、私物をまとめて帰れ。明日からは出社禁止だ」と告げられました。すでに午後5時20分を回っています。あと15分、同僚がまだ仕事を続けるなか、上司の監視を受けながら、私物の整理をさせられました。まるで犯罪者のような扱いです。同僚にあいさつすら、させてもらえませんでした。それ以来、一歩も職場に入れない状態となりました。「解雇通知書」には「業績不良」が理由として書かれていましたが、その根拠を会社に求めても何の説明もされていません。
こういう訴えであります。
志位 もう一人、Eさんのケースです。Eさんは、システムエンジニアとして25年間勤続し、51歳となります。子どもさんが中学生と高校生で、社宅に4人暮らしと聞きました。Eさんは、日本IBM入社25周年で表彰され、記念品と特別休暇が与えられました。ところが特別休暇の直後に待っていたのは残酷な通告でした。Eさんから次の訴えがありました。
――勤続25年表彰ということで9月末まで休暇をとり、10月1日に出社した翌日、10月2日に、突然、「解雇通知書」が読み上げられました。通知を受けている最中に、ショックで意識もうろうとなり、その場からタクシーで病院に運ばれました。そのタクシーの中でも上司から「君はもう会社にこなくてよい」といわれました。解雇通知の当日の夜にはIDが使えなくなっていました。労働者の業績を証明するものを取り上げてしまおうという狙いだと思います。
これが勤続25年の表彰をされた方への仕打ちなのです。
志位 総理の認識をうかがいたい。私は、本会議の代表質問で、日本IBMのこうした具体的事例を示し、「労働者に考える暇さえ与えず、有無をいわさず解雇に追い込む。これは明らかに解雇権の濫用であり、絶対に認められません。総理は、このような非道な解雇が許されると考えますか」とただしました。しかし、総理からは答弁がありませんでした。「このような非道な解雇が許されるのか」ということを、私は、聞きました。総理、この場で答えていただきたい。
首相 あの、繰り返しの面談による退職強要であるとか、あるいは能力不足を理由とする解雇等々については、これはまあ、一般論でしかいいようがないのですけれども、たとえば繰り返しの面談については労働者の自由な意思決定が妨げられるような状況での退職勧奨は行ってはならないと認識をしますし、一般論でいえば単に成績不良というだけで解雇が許されるわけではなくて、その程度や今後の改善の見込みなどさまざまな事情を考慮しその可否が判断をされるものと承知しております。ちょっとDさんとかEさんとかおっしゃいますけれど、だから、それは、どういう、本当に事実関係が分かりませんから、一般論としかいいようがございません。
志位 これは、私が、直接聞き取って、ご本人との関係もありますから名前は出しておりませんが、責任を持って質問しているわけであります。
それで繰り返しの退職強要の話を聞いたんじゃないんですよ。いきなり「解雇通知」を突きつけられて――終業時刻の間際にですよ、そしてすぐに出て行けと、これはひどいと思わないかと聞いているんです。総理の率直な気持ちを聞いているんです。どうですか総理、ひどいと思わないですか。
首相 あのう、事実関係が確認できませんけれども、もしそういうことがあるならば、それはあってはならないやり方ではあります。
志位 「あってはならない」という答弁をされましたので先に進みたいと思います。
志位 日本IBMでは、7月から10月にかけて、同じような方法での解雇が大量に行われております。「いつのまにか社員が消えている」ということが職場でいわれております。私の手元には「ロックアウト解雇」を受けた7名の「解雇通知書」があります。委員長、首相にお渡ししてよろしいでしょうか。
予算委員長 承っております。どうぞ。
志位 (手渡す)それをごらんいただきながら聞いてほしいのですが、それぞれの「解雇通知書」には「解雇理由」として次のように記載されているだけです。パネル(パネル2)をご覧ください。
「貴殿は、業績が低い状態が続いており、その間、会社は様々な改善機会の提供やその支援を試みたにもかかわらず業績の改善がなされず、会社は、もはやこの状態を放っておくことができないと判断しました。以上が貴殿を解雇する理由となります」
たったこれだけですよ。「解雇通知」を受けた7名というのは、職種もそれぞれであり、経歴もそれぞれです。しかし、「解雇通知書」に記載されている「解雇理由」は、ごらんになっていただければわかりますが、判で押したように、一言一句、同じものになっています。
労働者が、「業績不良」の具体的理由は何ですか、具体的事実は何ですかとただしましても、会社側は、何の説明もしていません。説明しないといっています。いったいこんな内容が、「解雇理由」として通用すると考えますか。
厚労相 見せていただきました。それで、ここにつきましてはですね、個別の事案でございますから、具体的に申し上げることは控えさせていただきたいと思います。一般論といたしましては、企業は安易に解雇すべきではないと考えています。やむをえず、解雇を行う場合には、法令を踏まえて適正に行っていただく必要があると考えております。
志位 また、一般論でしたけれど、「これが(『解雇理由』として)通用する」ということは言えなかった答弁だと思います。
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志位 もう1枚パネル(パネル3)をご覧ください。これは労働契約法第16条ですが、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」ということが明記されています。
そこでお聞きしたい。IBMの「解雇通知書」に書かれた「解雇理由」なるものが、「客観的に合理的な理由」といえるものでしょうか。つまり客観性を持ち、合理性を持っていると言えるものでしょうか。
厚労相 裁判例に照らしますと、成績不良だけでですね、企業経営に支障が生じるほどのものなのかどうかや、あるいは今後の改善の見込みなど、さまざまな事情が考慮されると思います。そしてその考慮の結果、解雇の合理性が判断されるものと承知いたしております。
志位 また、裁判例の一般論でしたけれども、ただ、「客観的に合理的な理由」であるということは言えませんでした。
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志位 そこで裁判の例に入っていきたいと思うのですけれども、企業が、「業績不良」を理由に正社員をリストラ解雇し、その不当性が争われた事件としては、2001年の「エース損害保険事件」があります。このケースでは、東京地裁で「解雇権の濫用」と判断され、解雇が無効であるとされる判決が下り、確定判決となっております。
これがその判決文(パネル4)でありますが、「長期にわたり勤続してきた正規従業員を勤務成績・勤務態度の不良を理由として解雇する場合は、……それが単なる成績不良ではなく、企業経営や運営に現に支障・損害を生じ又は重大な損害を生じる恐れがあり、企業から排除しなければならない程度に至っていることを要」する。これが基準だということが、確定判決で出ているわけですよ。
ところが、さきほど紹介した、日本IBMが労働者に一方的に突きつけた「解雇通知書」には、ただ単に「業績が低い状態」とだけしか書かれておらず、業績がどう低いのか、客観的な事実、具体的な事実もまったく説明されていません。この判決文のいう、「企業経営や運営に現に支障・損害を生じ又は重大な損害を生じる恐れがあり、企業から排除しなければならない程度に至っている」ことについての具体的な説明は、いっさいありません。この判決に照らしても、IBMのやっていることは問題だと思いませんか。
厚労相 えー、一般論として申し上げます。たんに成績不良というだけで、解雇が許されるわけではないと考えております。また、裁判例に照らしますと、成績不良が、あるいは企業経営に支障を生じるほどのものなのかどうかや、今後の改善の見込みなど、さまざまな事情が考慮されると思います。いずれにいたしましても、個別の解雇事案につきましては、さまざまな事情を総合的に考慮の上、解雇の合理性の有無が判断されるものと承知しております。
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志位 私は、IBMについては、あなたにも「解雇通知書」を見せたでしょう。さきほど、(閣僚の)みなさんに示しました。この「解雇通知書」のやり方と、この確定判決を、照らし合わせてみて、この判決に照らしても、IBMのやっているやり方は問題だと思わないかと聞いているんです。これ、一般論で逃げることのできる話じゃないですよ。具体的に全部資料を出しているんですから、答えてください。問題だと、なぜ言えないのか。
厚労相 あのー、IBMにつきましては、解雇の通告を受けた方が、その有効性を争う訴訟を提起していると聞いております。司法の場における判断を注視していきたいと考えております。
志位 訴訟をやっていますよ。しかし、訴訟に訴えなければ解決できないんだったら、政治は何のためにあるのか。政治がものを言わなかったらいけない問題だと、私は思います。
さきほど、紹介したEさんは、勤続25年にあたって、「永きにわたる貢献に感謝し記念品をお贈りいたします。今後ともますますのご活躍を期待します」と社長から表彰を受けているのです。その直後に解雇されている。突然の解雇通知を受けた労働者のなかには、部署内にある各チームのリーダーの総意により「月間MVP」を受賞した労働者もいます。2011年、12年と連続して業務改善活動が評価されたことにより、部門内大会決勝に進出した労働者もいます。どの労働者も、まじめに働き、さまざまな表彰を受けてきた立派な労働者ですよ。まともな「解雇理由」など書きようがないんです。
志位 総理にうかがいたい。こんな無法な解雇を横行させたらどうなるかということを考えていただきたい。ことは日本IBM、1社の問題ではすまなくなってきますよ。
日本IBMの大歳(おおとし)卓麻元社長は、「日本IBMは人事制度改革で日本の毒味役になる。つまり我々が毒味してみて、大丈夫そうだとなれば、日本の会社の皆さんもやりやすいんじゃないか」、こう公言してはばからなかった人なんです。
さきほど、NECで退職強要を繰り返して、労働者を神経疾患や自殺寸前に追い詰める事態が引き起こされているということを明らかにしましたが、実は、これは日本IBMですでにこれまで行われていた、もう「毒味」がされていた手法でした。それが全国に広がったんですよ。
総理にうかがいたい。いま日本IBMが開始した、ある日突然、正当な理由なく解雇を通告し、そのまま労働者を職場から締め出す「ロックアウト解雇」という「毒味」を許したら、日本中の大企業にこの無法なやり方が横行し、解雇自由の真っ暗闇な社会になってしまうことになります。政府として、無法な実態をつかみ、企業に乗り込んででも、これをやめさせることが必要じゃないですか。総理、お答えください。
厚労相 えー、ことさら多数回ですね、長期にわたって退職勧奨を行うなど労働者の自由な意思決定が妨げるような状況での退職勧奨は行ってはならないと認識しております。今後とも必要なですね、啓発、指導を行うなど、しっかりと対処をしていきたいと、このように思っております。
志位 ことさら多数回の退職勧奨の話じゃないんですよ、今やっているのは。いきなり「解雇通知」をつきつけられて、その場で「ロックアウト」されるというやり方を許しておいていいのかと聞いたんです。総理、答えてください。
首相 あの、安易な雇用調整をやってはいけないということは、これは間違いありません。では、そのやり方については、いまずっと一般論でしかお答えができていませんけれども、これは過去の最高裁の判例等を踏まえながらわれわれ答弁するしかありません。あの、個別の案件、当然、共産党のトップの方がこうやって、あのー、お尋ねでありますから、しっかり調査をされたうえでのお尋ねだとは思いますが、ただ、DさんとかEさんとか、こういうことがあったからといわれた中で、われわれも、例えば、日本IBMの場合は、これは訴訟にもなっている話でありますので、そういうことも踏まえると、その個別に踏み込んだお話を事実を踏まえないでお話をすることはできないということは、お許しをいただきたいと思います。
志位 訴訟ということをまた言われたけれど、訴訟に訴えられている方は何人かおられるけれど、訴訟できなくて泣き寝入りせざるを得ないという方も、たくさんいるわけですよ。訴訟しかもう解決の手段がないっていうのでは、これは政治は何のためにあるのかということに、私はなると思います。
志位 私は、この問題について、ずっと聞いたけれども、総理は、一般論としてしか答えないというのは、情けない態度だということをいわなければなりません。
志位 最後に、日本の産業のあり方について、総理に見解をうかがいたいと思います。
いま日本の電機・情報産業は、深刻な衰退の危機にあります。かつて世界の5割のシェアを誇った半導体生産は2割に落ち込みました。ノートブック・パソコンでも日本は敗退しました。日本で生まれ、日本の消費者が育てた液晶テレビ、液晶パネルでも敗退しました。
なぜここまで衰退したのか。私は、その大きな原因は、ごく目先の利益だけを追い求め、企業にとって命である人間をどんどん切り捨ててきたことにあるのではないかと思います。NECは、株主への配当を復活させるために、1万人の人間を切り捨てると言っています。こういうやり方に未来はあるのか。
こういう経営姿勢こそが、電機・情報産業の命である創造的な技術開発の力を奪っていったのではないでしょうか。
製造部門を海外に安易に移転し、技術・開発部門と切り離したことが、新製品の開発の力を弱めていきました。
リストラの矛先が、技術・開発部門にまで向けられたことによって、優秀な技術者ほどプライドが傷つけられ、他社・他国に転職してしまい、技術流出が進み、新製品開発の力はいよいよ弱まりました。
誇りをもって働いてきた労働者をモノのように切り捨て、技術開発の土台を自ら破壊し、一層の「経営悪化」への悪循環をつくりだしている――これがいまの日本の電機・情報大企業の実態ではないでしょうか。
私は、本会議の質問で、「生きた人間を人間扱いせず、力ずくで解雇に追い込む、このような恐るべき無法の横行を放置していて、日本経済の再生はありえないと考えますが、いかがですか」と総理にただしましたが、総理から答弁はありませんでした。
私は、人減らしのリストラでは、日本の電機・情報産業の「復活」は決してありえないと考えますが、総理の見解を求めたいと思います。
首相 個別の業界のですね、その経営のあり方とか、労使の関係について私がとやかくいうということは妥当ではないと思います。いうまでもなく、これはずっといってきたことではありますが、企業として安易な雇用調整は行うべきではありません。政府としては個別の事案に応じて離職者の受け皿確保にも取り組むなど、地域経済、雇用への影響にも十分配慮し、雇用の維持や再就職援助に取り組んできております。
志位 「個別の企業」で逃げ続けて、最後は「個別の業界」ですか。そうしたら何にも答弁できないことになりますね。
志位 ヨーロッパでは、こういう際には、政府が乗り出して、身勝手なリストラに待ったをかけています。フランスでは、国内最大手の自動車会社プジョーが、8000人の解雇計画を発表したさいに、オランド新大統領が、介入して、リストラ見直しを迫っています。
日本でも、政治の役割が問われているのではないか。13万人もの人々が首切り・リストラに苦しめられているときに、政府が無為無策でいいのか。電機・情報産業の大企業の内部留保は26兆円にも及び、雇用を守る力を持っています。この力をもって、雇用に対する社会的責任を果たさせる、それをさせることこそ政府の責任だということを最後に主張して、私の質問を終わります。