2012年2月11日(土)
衆院予算委員会で10日、基本的質疑に立った日本共産党の志位和夫委員長。野田政権がねらう消費税大増税の論拠を突き崩し、「政治の姿勢を変えれば展望は開ける」と迫りました。
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志位氏がまず取り上げたのが、消費税率10%への引き上げ、約13・5兆円の大増税で社会保障はよくなるのかという問題です。
岡田克也副総理は、消費税増税で新たな「社会保障の充実」に充てるのは2・7兆円、1%程度だと答えました。志位氏は「社会保障の『充実』にあてるのはわずか1%。残り4%は既存の社会保障費の財源と置き換わるだけだ」と指摘。しかも「社会保障と税の一体改革」素案では「たくさんの社会保障切り捨てのメニューが並んでいる」と追及しました。
年金の連続削減や医療費窓口負担の引き上げなど当面の削減だけで2・7兆円。年金支給年齢引き上げが実施されれば、70歳までの引き上げで10兆円にも及びます。
志位氏は「仮に2・7兆円が『充実』にあてられても、はるかに上回る社会保障の切り下げだ。社会保障全体の水準が引き上がるわけではないのは明瞭だ。このことを認めるか」と迫りました。
野田首相は答弁に立たず、岡田副総理は年金削減について「ルールに基づいてやっている」などと正当化。志位氏は「社会保障全体の水準が『引き上がる』といえなかったのは重大だ」と指摘しました。
「一体改革」で国民生活はどうなるのか―。志位氏は、東京都葛飾区の75歳以上の夫妻世帯で、2人あわせて年金月額18万円のモデル(図@参照)を示して追及。「合計で17・5万円の実質負担増だ。まるまる1カ月分の年金が消える。『社会保障を持続可能に』というが、家計は持続不可能ではないか」と迫ると、野田首相は「加算してきた分の調整を行うということだ」と取りつくろいました。
日本の年金は基礎年金だけの人が平均月5万円に届かない極めて低い水準。志位氏は「酷寒のなか、家に帰っても電気代を節約し、風呂も灯油の値上がりで我慢している」(63歳・男性)など、年金受給者の悲鳴を突きつけ、「無慈悲な年金削減政策はやめるべきだ」と迫りました。
野田首相は「一部の人たちの声はわかるが、全世代でどう対応するかという視点も必要だ」と強弁。志位氏は、民主党がマニフェストで「年金給付の水準を高める」と公約していたことをあげ、「政権についたら、年金削減を当たり前のような顔をして、続けるのは許されない」と一喝しました。
志位氏は、政府が「社会保障の充実」の一つにあげる「子ども・子育て新システム」について、市町村の保育実施義務をなくし、保護者に自力で保育所を探させ直接契約させる大改悪だと指摘。あらゆる世代に「社会保障の切り捨てと消費税大増税を押し付けるのが『一体改革』の正体だ」と強調しました。
政府は「社会保障の安定財源を確保するため」というが、そうなるのか―。志位氏は、1997年に消費税を5%へ引き上げた橋本内閣と現在の税収(図A)を比較し、政府の論拠に切り込みました。
増税前の1996年度の税収は90・3兆円ですが、2010年度は76・2兆円へと14兆円も減少。消費税収は増えても、国・地方の税収は大きく落ち込んでいます。
安住淳財務相は、その原因について「景気の低迷があったことも事実」と認めざるをえませんでした。志位氏は「消費税を増税しても、経済が悪くなれば全体の税収は減る」と述べ、橋本内閣の消費税増税に原因があったと指摘。野田首相も野党時代の2005年2月の国会質問で「もっとも愚かで、もっとも無意味で、破壊的な経済政策」との海外紙の論文を紹介し、「厳しい総括が必要だ」と、当時の谷垣禎一財務相(現・自民党総裁)を批判していたことを紹介しました。
これには、首相もアジア通貨危機などと「重なって厳しい状況になった」と認めざるをえませんでした。
志位氏は、今回の大増税は、可処分所得が減り続けるなか、年金削減、子ども手当削減、保険料引き上げなどで総額20兆円を超える負担増を押し付けると指摘。「橋本内閣よりも、はるかに破壊的な経済政策となる。消費がますます冷え込み、景気がいっそう悪くなることは明らかだ」と強調しました。
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雇用の7割を支える中小企業への影響も極めて深刻です。
「中小企業にとって消費税の一番の苦しみは、消費税を価格に転嫁できないことだ」。こう述べた志位氏は、中小企業ほど転嫁できない実態を提示。転嫁できなくても払わなければならず、増税されればさらに景気が悪くなり、商売は成り立たなくなる―との痛切な声(別項)をぶつけ、「どうやって払えるのか」と迫りました。
首相は答弁に立てず、安住財務相や枝野幸男経産相が入れ代わり立ち代わり「転嫁できるようにする」と答えるだけ。志位氏が「大増税をかぶせたら、日本経済を支える中小企業が持ちこたえられると思うか」と重ねて問うと、首相はようやく答弁にたったものの、「円滑に転嫁できるような仕組みをつくる努力をする」と繰り返し、経営への打撃に触れることはできませんでした。
志位氏は、「廃業が増え、地域の崩壊すら招きかねない」と増税による経済破壊を懸念する、全国商工会連合会会長、全国中小企業団体中央会、日本チェーンストア協会の声を紹介。内需の柱となる家計、中小企業に打撃を与える消費税の大増税は「日本経済を破たんに追い込み、財政破たんもいっそうひどくする。断固反対する」と強調しました。
豆腐屋(店主、両親、従業員2人) 消費税納税額 41万円
赤字を補填(ほてん)しながら消費税を払うために、家族の保険を解約せざるを得なかった。両親への給料は払えていない。主力商品に増税分を転嫁することは非常に難しい。
製造業(社長、息子、従業員1人、パート1人) 消費税納税額 91・4万円
社長が無収入で、預金を取り崩して赤字を補填して消費税を払っている。転嫁どころか、逆に、大手メーカーからは消費税を口実に下請け単価が切り下げられてきた。増税されたら、町工場はなくなってしまう。
どうやって社会保障充実と財政再建をすすめていくのか―。志位委員長は、7日に日本共産党が発表した「消費税大増税ストップ! 社会保障充実、財政危機打開の提言」を野田首相に手渡し、その中身を示しました。
「提言」で提示した財源論は、▽まずムダ遣いを一掃し、増税するなら富裕層・大企業に応分の負担を求める▽次の段階では、社会保障を抜本的に拡充する財源は国民全体で力に応じて支え、累進課税を強化する所得税の税制改革を行う―というもの。これらの改革によって消費税に頼らなくても18兆〜21兆円の財源をつくり出すものです。
志位氏は、「提言」にかかわって政府に2点をただしました。
一つは、富裕層への課税問題です。最高税率の引き下げや証券優遇税制(20%→10%)によって、所得が1億円を超えると逆に所得税の負担率が下がっていることを指摘。「証券税制は欧米はだいたい30%だ。日本の10%は異常きわまる水準というほかない」と強調し、証券優遇税制の2年延長が景気回復とは関係がないとただしました。
野田首相は景気との関係を示せず、「証券・金融業界が機能するように」というだけで、2014年1月から20%に戻すと言い訳。志位氏は「戻すといって、何度も延長され続けてきた」と批判しました。
志位氏は、「私たち富裕層に課税強化を」と訴える投資家ウォーレン・バフェット氏が「税率を理由として投資から遠ざかる人を見たことはない」と述べていることをあげ、税率と投資は関係ないと批判。証券優遇税制をやめて欧米並みにし、所得税の最高税率を1998年の水準に戻すこと、高額な株や不動産などに課す「富裕税」の創設―を提起しました。
志位氏はもう一つの問題として、消費税大増税の一方で、来年度実施される1・4兆円にのぼる法人税の減税を追及。安住財務相は「中小企業の法人税率も引き下げた」などと言い訳。これに対し志位氏は「中小企業の73%が赤字だ」と批判し、「大部分は大企業への恩恵だ。どうして雇用や国内投資につながるのか」と迫りました。野田首相は「投資や雇用につなげていくという可能性に期待している」などと述べ、まともに答えられませんでした。
志位氏は、経済産業省の「海外事業活動基本調査」(表)を示し、企業が投資先を選ぶとき最も重視するのは税金ではなく需要だと強調。法人税減税と一体で消費税大増税を行えば「内需をさらに落ちこませ、国内投資減、産業空洞化、雇用減をもたらし、内需減少と産業空洞化の悪循環の引き金を引く」と批判しました。大企業への減税バラまきは中止し、大企業優遇税制を見直すよう要求。「政治の姿勢を変えれば、消費税に頼らなくても社会保障充実と財政再建の道は開かれる」と主張しました。
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