2011年9月10日(土)「しんぶん赤旗」

BSフジ 志位委員長、大いに語る


 日本共産党の志位和夫委員長が生出演した8日夜放送のBSフジ番組「プライムニュース」。野田新政権をどうみるか、日本共産党の震災復興、原発・エネルギー政策などテーマは多岐にわたり、志位氏は、司会の反町理(そりまち・おさむ)フジテレビ報道局政治部編集委員、八木亜希子同元アナウンサーらと語り合いました。


“アメリカ直結政権”示した前原発言

 冒頭、民主党の前原誠司政調会長の発言をめぐって議論に。前原氏は、訪問先のワシントンでの講演(7日)で「自衛隊とともに行動する他国軍隊を急迫不正の侵害から防衛できるようにする」と述べ、国連平和維持活動(PKO)での自衛隊の武器使用基準緩和や武器輸出三原則の見直しに言及しました。

 志位 「自衛隊とともに行動する他の軍隊を防衛できるようにすべきだ」というのは、言葉をかえていいますと、他国の軍隊と自衛隊が共同で武力の行使を行えるようにするということなんですよ。これは、PKOの法律ができたときも一番の要の問題として議論されて、政府側は「正当防衛のみに限る」ことをもって(憲法)9条と背反しないという説明をしました。その一番の要の部分をとり外してしまおうというわけですから、9条に反する動きです。

 そして、いったんこうやって外すとどうなるか。国連が決定、あるいは「授権」した戦争がいろいろありますよね。たとえばアフガニスタンに対する報復戦争。あれは国連安保理が一応「授権」したことになっている。こういう場合に多国籍軍が編成される。そういう多国籍軍でも国連の旗があれば、一緒に肩を並べて武力の行使をやる道が開かれてくる。その先に、国連の旗がなくても集団的自衛権ということで、日米で共同の軍事行動をとる。そこにずっと道を開いてくる方向ですから、(前原氏は)大変危険な発言をされた。

 しかも総理が(国会で)所信表明演説をする前に、アメリカに政調会長が出かけて、アメリカに最初に「所信表明」をしてくること自体も、どっちの方を向いて政治をやっているのかが問われる発言だと思います。

 反町 国際貢献のあり方の一つの論点だと思いますが、国会で正面から議論が展開される材料になりますか。

 志位 本当の意味での世界平和への日本の貢献とは何か、国連との関係はどうあるべきかは正面から議論されるべきだと思いますね。

 私自身も去年国連本部でやられたNPT(核不拡散条約)再検討会議に参加して、核兵器廃絶のための(国際)交渉を開始すべきだと主張しましたが、(国連の)活動の99%は非軍事の活動、平和のための活動、飢餓や貧困をなくすなどの活動です。そこに力を注がず軍事の方でばかり国連の旗を利用する。それが武器輸出三原則の緩和問題とも重なってくる。結局、日米で共同して、たとえば戦闘機などを技術開発するという名目だけれども、日米が軍事的にさまざまな一体化をはかる。情報の面でも作戦でも一体化する。こういう流れの一こまですからね。これも武力行使の問題とリンク(連動)する、非常に危険な方向だと思います。

 反町 そうすると、日米安全保障体制というものが是か非かというところから全部話が広がってくると思うんですけども。

 志位 つながってくる話だと思いますね。PKOということになっているけれども、結局はアメリカとの共同の軍事作戦が念頭に置かれている。武器輸出三原則もそうです。ですから、そういう方向に日本がどんどん進んで、軍事共同を進める方向が、果たして未来はあるのかと。

 アメリカがやった戦争は、アフガン戦争もうまくいってない。イラク戦争は違法な侵略戦争でした。いまの世界は、そういう戦争のやり方、物事を力ずくで解決しようという時代ではなくなっているわけですよ。そのときにこういう(軍事的対応の)ことばっかり熱心に唱える。しかもアメリカに最初に行って誓約する。これは本当に“アメリカ直結政権”というのが出たと思いますね。

 「ブレインキャスター」役の中野晃一上智大学准教授は前原氏の発言に「あさましい」「政治家としての学習能力に関して不思議な感じ」とコメント。志位氏は、先の民主党代表選でも沖縄・米軍普天間基地問題が何も議論されなかったことを指摘し、「国内で議論しないでアメリカに行っていう。『あさましい』という発言がありましたが、私も同感です」。

野田新政権どうみる――看板は民主党でも、中身は自民党とかわるところなし

 テーマは野田新政権の見方に移り、志位氏はこの政権で「象徴する行動が二つあった」と指摘しました。

 志位 一つは、(野田佳彦首相は)内閣をつくる前にまず自民党、公明党の党首と会談されたでしょ。そして「『3党合意』を守ります」と誓約した。「3党合意」というのは、子ども手当を廃止する、高校(授業料)無償化を見直す、民主党の看板政策を全部見直してしまおうという内容です。さらに3党の枠組みで、法人税の減税を一緒に進めましょう、復興増税も一緒に進めましょうというものです。そのための協議機関をつくりましょうというのが最初の行動だった。「民自公3党の翼賛体制」でことを進めようという性格がはっきり出たと思うんですね。

 もう一つは、これも組閣の前の日に(野田首相は)日本経団連の米倉(弘昌)会長と会って、“これからはお知恵を拝借したい”と(要請した)。経済・財政に関して、経団連も入ってもらって“司令塔”――「国家戦略会議」をつくり、ここでいろいろな物事を決めていく仕掛けを新たにつくるのでご協力を、といった。(元首相の)小泉(純一郎)さんのときに「経済財政諮問会議」がありましたよね。あそこで社会保障の切り捨てとか、庶民増税とか、いろいろな問題をみんな決めて、一気に押し付けてきた。同じ仕掛けをつくろうということを財界側にいって、米倉さんの方は大喜びで、一緒にやりましょうと。

 この「民自公の3党翼賛体制」「財界直結内閣」という二つが出たと思うんですよ。さっきの前原さんの(立場を)含めると「財界・アメリカ直結」ですね。看板は民主党政権でも、中身は自民党になった。自民党とかわるところはもうほとんどないのが印象ですね。

 八木 実際に(野田首相が就任の)あいさつにこられたときはどういうお話を。

 志位 これは最初のごあいさつですから、お互いに立場は違うけれども、フェアに論争しましょうというような話です。

 民主党の立場が自民党と違いがなくなってしまった。そうなると考えてみなければならないのは、2年前の夏の総選挙で民主党は「自民党政治を変えます」といって政権交代したわけですよね。あのときに民主党に1票投じた方は、民主党だったら自民党(政治)を変えてくれるだろうと思って1票を投じたはずなんですね。ところが自民党と同じになってきますと、これはそういう方々の気持ちをみんな裏切ることになると思う。ですからこういう流れには正面から対決して、大いに論戦もし、国民と一緒の運動も大いに起こしていきたいと思っています。

 反町 前原政調会長は、事実上の事前審査制、法案を国会に提出する前に党の了承を得てくださいよと(している)。

 志位 前の自民党の政策決定システムは、まさにそういうシステムだった。その結果、「族議員」をたくさん生んだわけです。だからやめようということで、いったんはやめたはずだった。今度そういう形ですべて政調会長を通して政策が決定されるということになると、政調会長の部屋の前にたくさんの人が列をなすということになるでしょう。こういう体質という点でも自民党と似たり寄ったりということになったと思います。

財界・アメリカ中心――二つの根っこを切り替え国民中心に

 民主党政権2年をめぐって「鳩山(由紀夫)さんや菅(直人)さんのこういうところを残してほしかったというところは」(八木氏)との質問も。志位氏は次のようにこたえました。

 志位 鳩山さんが最初に総理になったとき掲げたマニフェスト(政権公約)――日米安保、大企業・財界に対する姿勢は私たちと違いますけれども――には、「政治を変えてほしい」という国民の願いがプレッシャーとしてはたらいていますから、前向きの政策の要素もいろいろあったと思うんですよ。たとえば子ども手当、高校授業料の無償化、生活保護の母子加算の復活などですね。そういう問題では私たちは協力しましょう、しかし間違いは厳しく反対しますよ、ということでやってきました。

 しかし、だんだん(民主党政権が政策を)進めていくうちに悪い要素が前面に出てきました。そのきっかけになったのは普天間基地の「移設」問題だったと思うんですよ。「国外・県外(移設)」と鳩山さんは公約したのに、結局「県内移設」を押し付けることになった。これが大きな最初の公約破りになった。

 菅さんに交代して出てきたのは消費税の増税です。これも公約に背くことを言いだした。それからTPP(環太平洋連携協定)参加を急に言いだした。大震災が起こったあと、震災・原発にまともに対応できない。こういう流れの中で、アメリカ・財界中心の政治という土台が変わらないものですから、結局3代目(の野田首相)は自民党(政治)に帰ってしまったということですね。

 土台を変えないと日本の政治は変わらない。外交といえばアメリカの方ばかり向いている、世界全体を見ない。内政といえば、財界の言いなりにやっていればうまくいくと考えている。この土台そのものを変えないと、本当の変革を日本の政治でやることはできないと思うんですね。それを私たちが担って大いにやっていきたいと思います。

 反町 与党になるのは、こういうことなのかなという2年間だったというのは違うんですか。

 志位 与党になる際の軸足が定まってなかった。普天間の問題で最初につまずいたのは、日米同盟をとるのか、それとも沖縄県民の意思をとるのかと迫られ、(民主党は)日米同盟は絶対守りぬくという立場を変えられませんから、結局沖縄県民の気持ちを捨ててしまうということになるわけですよ。それから、「国民の生活が第一」といいながら、実際は「財界第一」の立場を捨てられないから、突然消費税(増税)やTPPが出てきたりする。このアメリカ・財界中心という二つの根っこを本当に国民中心に切り替えないと政治はよくならないことを実証したのが、この2年間だったと私は思っています。

野党であっても、国民要求にこたえて政治を前に動かす

 中野氏は、非正規労働の広がりなどをあげ、「本来であれば共産党のような政党が(国民の)受け皿になるべきなのに、そういうふうには見えていないのは、共産党が国民に対して責任を果たしていないということにはならないのか」と質問。志位氏は、日本共産党が国会で派遣労働の問題を繰り返し取り上げ、使い捨て労働を許さないたたかいも起こっていることをあげてこたえました。

 志位 私たちはたしかに与党の経験はありません。ただ野党ではあっても、たとえば派遣労働の問題についても、震災の問題についても、政治を一歩でも二歩でも前に動かすためにいろいろな提言をやってきましたし、一致点があれば他党と協力するということもやってきました。

 たとえばいま被災地に行きまして一番大きな問題の一つになっているのが「二重ローン」の問題なんです。借金を抱えたまま津波で(自宅・店舗を)流されてしまった事業者がたくさんいらっしゃるんですね。このまま放置しておけば大量の廃業が起こる。ですからこれは一刻も猶予できないということで、国が責任をもって債権を買い取って凍結、減免する。そういう債権買い取りの公的機構をつくる必要があることをずっと国会で提案してきました。これは珍しい形なんですけれども、参議院の段階で自民党、公明党に共産党も賛成して法案が通るというようなことにもなりました。これはまだ実現していませんが、ぜひ実行させたい。一つひとつの課題で、そういう努力は私たちなりにやっているということも知ってもらいたいと思います。

 反町 なるほど。

震災復興――生活と生業の基盤回復のためにこれまでの枠を超えた公的支援を

 志位 復興の目的が何に置かれるべきかといえば、一人ひとりの被災者の壊された生活と生業(なりわい)の基盤を回復すること。これは自力ではできませんから。これまでの枠を超えた公的な支援が必要だという考え方で、私たちはいろいろな提言をしてきました。

 たとえば、私も先日岩手県に行ってきましたけれども、地域医療の破壊が大問題になっている。(陸前高田市の)高田病院とか(大槌町の)大槌病院、県立病院が全壊です。ところが(県の)「復興計画」に病院(再建)が入らないわけですよ。この機会に病院の機能を「集約化」してしまおうという動きになっている。病院が「集約化」されて遠くになってしまったら、ますます人が住めなくなりますね。公的病院への支援を強め、民間の診療機関にも抜本的な支援の仕組みを創設することを求めていきたいと思っています。

 反町 個人資産にたいする損害補償と、都市インフラ(基盤)に対する復旧策というのがまぜまぜになっているんですけれども、その線を引かれていますか。家を流された人への支援と、道路とか病院とか公的インフラに対するものとの線引きはされているんですか。それとも全部、国が面倒みるべきだという考えですか。

 志位 まず公的なインフラ、たとえば公立病院とか学校とか、そういうものが壊された。これに対する支援はやはり国が全面的にやるのは当然です。同時に、(破壊された)個人資産に対する公的支援、補償も拡充する必要がある。被災者生活再建支援法では、住宅の全壊の場合で300万円が出るようになっているわけですけれども、拡充が必要です。それから住宅以外には公的支援の枠組みがないんですよ。たとえばご商売されている方が商店を壊された。こういうものに対する公的支援の枠組みがない。民間の病院がいま支援の枠外にあるのも、これも個人資産の形成には公金は使わないという考え方があるから民間病院は支援しないということになるわけですね。しかし、実際にはそれでは立ち直れないということは明らかなわけですから、やはり被災者のお一人お一人が自分の力で再出発できるところまでの基盤を回復する。これは、憲法13条の幸福追求権、25条の生存権に照らしても当たり前の仕事ではないかということで、私たちは阪神・淡路大震災の時から一貫してずっと求め続けてきた問題なんです。

復興財源どうする――歳出・歳入の見直しと、大企業の内部留保の活用で

 八木 いろいろな支援を被災地の方々にというお話だったんですけれども、そういうなかでも問題になるのが財源の確保ですが、これについてはどういうふうにお考えですか。

 志位 (日本共産党の復興財源の提案を示したフリップを示して)私たちは二つの柱を提案していまして、まずは歳出全般の見直し。とくに不要不急の大型公共事業という点では、たとえば東北でも鉄道の再建はそっちのけにして高速道路を最初につくるという動きがあります。こういうのを見直す。それから米軍への「思いやり予算」。これはこの際きっぱりやめる。それから原発の推進経費で3500億円くらいのお金を使っています。それから政党助成金。これはやめると。

 もう一つ、法人税減税をこんな時にやっていいのか。これは中止する。さらに、証券優遇税制というのがありましてね。株で取引したり配当にかかる税金が日本の場合はたった10%と、これをまた継続しようとしているわけですね。私がこの前、外国特派員協会で話したらびっくりされまして、アメリカ、フランス、イギリスはみんな株にかかる税は30%前後ですよ。ですからこれは10%を引き上げてまともな水準にする。法人税減税と高額所得者減税のバラマキの中止で、2兆円くらいのお金は出てきます。

 それをやりながら「震災復興債」を一般の国債とは別枠で出そうと(いう提案です)。つまり市場に出さない、相対(あいたい)取引の国債という形で出す。いま大企業が巨額の内部留保をためこんでいますでしょう。リーマン・ショック後の2年間もさらに増やして257兆円と、すごい額なんですよ。ですからこの大企業に復興債の引き受けを要請して、当座のお金はこれで確保すると。こういう全体の考え方を持っています。

政府のいう臨時増税――大企業に負担増なく、サラリーマンだけに負担増押し付け

 志位 (フリップに)「復興増税には強く反対」とあるのは、いま「復興増税」ということで、法人税と所得税の臨時増税をすると(政府は)いっているんですが、これはちょっとインチキでしてね。法人税の増税というのですが、まず法人税の減税をしようとしているわけですよ。この減税分を戻しましょうという話なのです。ですから増税でもなんでもなく、大企業からすれば1円の出費にもならないんですね。これを何年かやって(法人税)減税はいずれやるわけです。つまり減税の時期を少しずらしましょうというだけのもので、そうすると大企業の方は増税ではない。のこるのは所得税の定率増税ということになると、サラリーマンだけが一方的に取られる。庶民増税に頼るやり方は、私たちは反対です。

 大山泰解説キャスター 野党同士で増税反対で組む考えはあるんですか。

 志位 全体の考え方に違いがあるんですね。たとえば法人税減税にたいする態度とか、証券優遇税制にたいする態度ではずいぶん違ってくる。ですから対案のところで分かれてくるという問題があるから、本格的な共闘というのはなかなか難しい。

 反町 郵政株の売却はどうですか。いま議論が出ていますけれども。

 志位 私たちは賛成できないですね。株式会社化という方向に私たちは賛成できません。株式会社になったら、もうからないところからは撤退するということになりますから。

 反町 なるほど。

 志位 過疎のところから郵便局がどんどんなくなるということになりますから。

 反町 (国民新党の)亀井静香さんの理屈じゃだめなんですね。

 志位 亀井さんにはよくいっているんですよ。亀井さん、民営化反対というなら、ちゃんと公社化すればいいではないですか。そうしなかったら筋が通らないでしょうと。

 中野 いまおっしゃっていた法人税減税に関しては、私もあまりそういう考え方したことがなかったので、「ああなるほど」と思わせる部分はある。そういった意味ではどういう公平な分担を納得できる形でつくるのかというと、もちろん経済成長も必要なわけですけれども、なかなかこれを一般国民だけで負担しろというのは難しい話かなという感じはしますね。

原発再稼働――まともな対策もなく、規制機関もないもとで、再稼働など許されない

 八木 野田さんは、現在定期点検中の原発の再稼働に前向きな姿勢を見せているわけですが、志位さんはどういうお考えでしょうか。

 志位 まだ原発事故の収束もできていない。原発事故に関する事故調査もできていない。教訓も引き出されていない。対策もとっていないわけでしょう。そういうなかで原発を動かすというのは、とんでもないことだと、まずいいたい。

 それからもう一つ。原子力を規制する規制機関が問題になったわけですよ。原子力安全・保安院が経済産業省という推進機関のもとにある。しかも「やらせ」までやっていたことが問題になりましたでしょう。保安院というのはまったく規制機関としては失格です。保安院に代わる本当の規制機関をすぐにつくらなければならないわけですよ。つまり、本当の意味で推進機関から独立し、「安全神話」にもとらわれない、「原子力村」の人たちには退いてもらって、専門家を結集した規制の体制をつくる必要があるわけです。ところがそれをやらないまま稼働だけやる。それでは、なんの規制と監視もないなかで(原発を)動かすということになりますから、私たちは反対です。

「原発ゼロの日本」へ――撤退の政治決断を求める

 反町 共産党の「エネルギー基本計画」というのはどういう形なんですか。たとえば原発依存度は何%くらいまでもっていったらいいのか。再生可能エネルギーはどのくらいか。そのイメージはありますか。

 志位 私たちは今度の福島原発事故を受けて、原発には、他の事故にはない「異質の危険」があるといっているんですよ。いったん放射性物質が外部に漏れ出したら、これを抑える手段を持っていない。「空間的」にどこまでも広がっていく。「時間的」にもいつまでつづくかわからない。それから一つの地域社会を破綻の危機に陥れていく。こんな種類の事故というのは他にないですよね。

 これは原発という技術が、本質的に「未完成で危険な技術」だということからきています。その一番の危険の本質は、どんな原発も、原子力エネルギーを取り出す過程で莫大(ばくだい)な「死の灰」をつくる。100万キロワットの原発でしたら、1日で広島型原爆3個分の「死の灰」をつくる。これを閉じ込めておく保障がない。

 八木 そういうなかでどういう中長期的な(計画を)…。

 志位 私たちは、原発からの撤退をまず政治決断すべきだという立場です。

 反町 即時ですか、徐々にですか。

 志位 私たちとしては、5年から10年以内に「原発ゼロの日本」にする。それと同時並行で、再生可能エネルギーの普及に全力で取り組む。日本で利用可能な再生可能エネルギーの量は、環境省の試算でだいたい原発の40倍はあるといわれていますから、最大のスピードでこれをやりながら、5年から10年以内には「原発ゼロの日本」にしようと。

 反町 (再生可能エネルギーで)電気料金が高くなってもいいんですか。

 志位 よく電力会社から「原発は安い」といわれるが、これはインチキでね。たとえば「バックエンド」の費用――使えなくなった炉は廃炉にしなければならない。それを含めた後始末が必要ですね。これにはものすごい費用がかかるんですよ。この「バックエンド」の費用などは計算されていませんしね。ですから実際は安いということはないんですね。

 しかも今度みたいな事故を起こしてしまったら、これは安いどころの話ではないわけで、いったいどれだけのお金が後始末にかかるのか想像もつかないわけですね。そういう意味からいっても、安いということにはならない。だいたい人間の命と、電気料金の低い高いということはてんびんにはかけられないですよ。やっぱり人間の命、子どもたちの未来を考えたら、原発との共存はつづけられないというのが私たちの立場です。

アメリカや大企業についてどう考えるのか?

 番組では視聴者から寄せられたメールが紹介されました。このなかで「アメリカも大企業も否定する共産党の未来像が見えません。たとえば、どんな国のようになるのでしょうか」(宮城県の50代の自営業者)との質問に志位氏は次のようにこたえました。

 志位 私たちは、アメリカを否定しているわけでもないし、大企業の否定でもないんです。アメリカだけを見て、アメリカのいいなりになっている状態から、本当の独立国といえる日本にしていく必要があるということをいっています。大企業との関係でも、大企業をつぶそうとか、大企業を敵視しようという立場でもないんです。

 反町 「復興債」を買わせるとか。あまりフレンドリーにはみえませんよ。(笑い)

 志位 野田さんみたいなフレンドリーじゃないですよ(笑い)。ただ、私たちが大企業に求めるのは、大企業がその力にふさわしい社会的責任を果たしてほしいということなんです。

 たとえば、ヨーロッパでは同じ資本主義国でも、ずいぶんたくさんのルールがあるでしょう。解雇を規制するルールがある。均等待遇のルールがある。それから男女平等だってずっと進んでいますよね。こういういろいろな問題で、大企業が社会的責任を果たす。中小企業との取引をみても、日本は下請けの重層構造になっているけど、ヨーロッパのほうでは下請けという概念そのものがなくて、対等な取引を行っています。

 ですから、私たちが求めているのは、大企業が目先の利潤追求だけに熱中し、社会全体のことを考えないやり方をあらためて、社会的な責任を果たす必要があると。そのために政治が、社会的ルールをつくる必要がある。ヨーロッパのような「ルールある経済社会」をつくろうというのが、私たちの考えなんです。

若者の中での活動はどうなっているのか?

 中野 原発のこともおっしゃっていたんですが、いろんな反対運動が起きていないわけではなくて、日本なりの形で若者たちの運動とか出てきている。そこにたいして、どこまで(共産党は)目が向いているのか。そこをくみ上げないことが結局、自民党でもないし、民主党でもないしという無党派層であったりとか、あるいは政治そのものに期待しないというふうになっていて、それが差別だとか暴力だとかに向かっている場合もあると思うのですが。

 志位 若いみなさんとの関係は、私たちの努力を、もっともっとやらなければならない分野だと思うのです。ただ、この間、いくつか接点が大きく広がったなという点もあるんですよ。先ほどお話しした派遣労働の問題は、私たちが国会で取り上げ、インターネットでも爆発的にたくさん見ていただいて、連帯の活動が広がっています。それから、原水爆禁止世界大会に先日私も参加しましたが、若者がたくさん参加している。そういう連帯がずいぶんこの間広がりました。

 反町 その若者が投票行動に行かないのはどうしてだと党としては分析されているのですか。それが議席に結びつかないのは、投票に行かないというのが一番大きいのではないですか。若者の政治的無関心を投票所まで動かすところまでいっていないということですか。

 志位 若い方々に、私たちの目指す日本の未来像、ビジョンが伝わっていない、これは私たちがうんと努力しなければいけない。ただ、先ほどの原発の問題でも、いま若者のなかでいろんな運動が起こっています。「素人の乱」という運動もある。それに共産党も参加します。そうしますと、自然な対話になりまして、宣伝カーを貸して一緒になって動いたりしています。いま、若い人たちの中で、震災・原発を受けて、「自分もなにかしたい」「これまでの政治でいいのか」という新しい探求が起こっていますよね。震災ボランティアなども私たちが募集しますと、いまのべ1万4千人になっていますが、若い方々の活躍が目立ちます。平和の問題、震災の問題、原発の問題、若い方が「なにか人の役に立ちたい」という思いをずいぶん強めているという新しい流れがあると思うので、ここは私たちの頑張りどころだと思います。

解散・総選挙にたいする態度は?

 反町 その頑張りどころの中で、いつごろ、どんなテーマが争点になって解散・総選挙になると推測されますか。

 志位 推測の問題は私がいう問題ではないのですが、私がいっておきたいのは、野田首相が掲げているような「税と社会保障の一体改革」といって、消費税を10%に引き上げるという動きがありますが、こういう大きな問題を来年3月までに法案を出して、一気に通してしまおうといっている。しかし、この前の総選挙では少なくとも「4年間は上げません」といっているわけです。上げませんといったら、上げる法律も通さないものだと普通みんな思いますよ。

 反町 それは、また別。プログラム法は準備しておかなかったら、そんとき急に今日から上げるというわけにはいかないじゃないですか。

 志位 そういうふうには説明しなかったじゃないですか。私たちは、「一体改革」といわれているものは、社会保障についても、年金も医療も切り縮めていく「一体改悪」ですから反対です。少なくともそういうことを国民に相談抜きにやるのはよくない。そういうことをやるというなら、(事前に)国民の審判をあおぐべきです。

日本の大企業の税・社会保障負担は、けっして高くない

 反町 神奈川県の方からこういうメールが来ています。「株式取引にかんする件です。10%をやめてアメリカ・ヨーロッパ並みにという話ですが、それならば、消費税、所得税、法人税もアメリカ・ヨーロッパ並みにということになると考えますが、いかがでしょうか」。そういうことではないんですよね。

 志位 はい、それは違いますね。ただ先ほどいった法人税のことで一ついっておきますと、よく日本の法人税は高いといいますが、そこも一つ「神話」がありまして、ヨーロッパと比べると、ヨーロッパは社会保険料の企業負担が日本よりずっと重いんです。企業が払うのは税と保険料です。これをセットで考えると、日本(の大企業の負担)はだいたい、ドイツの7割、イギリスの9割程度。ですから、決して高い水準じゃないということは言っておきたいと思います。

尖閣諸島の領有権をどう考える?

 八木 東京都の30代の方です。「共産党は中国の尖閣(せんかく)諸島への領土主張をどう考えますか。自国防衛が欠かせない事項と思いますが」

 志位 尖閣諸島は日本の領土だと強く主張しています。この問題で、日本政府の姿勢で一番問題だと私が思うのは、1972年に日中国交回復をしたさいに、周恩来首相と田中角栄首相が会談しているんです。その記録を見ると、田中首相のほうから、「尖閣をどうしましょうか」と聞いている。周恩来首相は、「あれは、いま議論しないほうがいい」という。それで引き下がっている。ただの一回も、中国側に、これは日本の領土だと、国際法上も歴史上も日本の領土だということを、正面から理を尽くしてちゃんと言っていないんです。92年に中国が(自国領に)編入する手続きを自分の国でとったさいも、日本は本格的に抗議していない。言うべきことを言わないで、いままできているということが、私は一番の大きな問題だと思います。