2011年2月4日(金)「しんぶん赤旗」
日本共産党の志位和夫委員長が2日の衆院予算委員会で行った基本的質疑の内容を紹介します。
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志位和夫委員長 私は、日本共産党を代表して菅総理に質問いたします。
まず全日空と並んで日本の空の足を支える日本航空で進められている、企業再生のあり方についてただしたいと思います。
日本航空は、経営破たんのもとで、1万6000人の人員削減を進めたうえ、昨年末に165名のパイロットと客室乗務員の整理解雇を強行しました。
この整理解雇は、労働者の基本的権利を侵害する違法・不当なものであり、すでに撤回を求めて提訴が行われております。
経営の再建は一義的には企業の責任で行われるものであり、私は人員削減の全てを否定するものではありません。しかし、空の安全を確保することは、政治が直接に責任を負わなければならない問題です。その立場から具体的にただしたいと思います。
志位 この問題について、総理は、私の代表質問に対して、「日本航空の再生にあたっては、安全な運航の確保を大前提としつつ、経営改善を実現していく」と答弁されました。再生を進めるさいに「安全が大前提」という考え方は、私もその通りだと思います。「再生の大前提は安全」――これが政府の立場だということを、まず最初に確認しておきたいと思います。端的にお答えください。
菅直人首相 まさに公共交通でもありますし、航空という、飛行機という極めて安全性に気を配らなければならない分野でありますので、その点はおっしゃるとおり、安全性が大前提でなければならないと、こう考えております。
志位 「安全が大前提」とおっしゃられました。私は、ここに、日航の社外の識者や専門家など5名で構成する「日本航空 安全アドバイザリーグループ」のまとめた報告書を持ってまいりました。座長は、(評論家の)柳田邦男さんがやっておられます。2009年12月にまとめられた「守れ、安全の砦(とりで)」と題した「新提言書」です。そこにはこのように述べられております。
「安全への投資や各種取り組みは、財務状態に左右されてはならない……財務状態が悪化した時こそ、安全への取り組みを強化するくらいの意識を持って『安全の層』を厚くすることに精力を注がなければならないのである。決して安全の層を薄くすることで、コスト削減を図ってはならない。薄氷を踏みながら航空機を運航するエアラインを、誰が選択するだろうか」
私は、高い見識が書かれていると思って読みました。
この点で、日航の新会長になった稲盛和夫氏の発言を見ますと、率直にいって重大な危惧を持たざるをえないのであります。
稲盛会長は、最近の日本経済新聞のインタビューで、「1年前は……『安全が第一で、利益は二の次』だった。今後は、……数字に強い人材の育成につなげる」と述べています。毎日新聞のインタビューでも「就任直後は『航空会社は安全と定時運航、サービスが第一。利益は二の次』と言う人すらいた。……責任感があって数字に強い幹部を育成する」。こう述べております。
「安全の層」を厚くすることに力を注がなければならないときに、「安全が第一」が問題があるかのように(日本航空の)トップが言うことには、私は大きな危惧を感じざるをえないのであります。総理は、「再生の大前提は安全」とおっしゃいましたが、そのお考えともこれは食い違いがあるとお感じになりませんか。
中井洽予算委員長 大畠国交大臣。
志位 総理に(聞いている)。
大畠章宏国交相 志位議員のご質問にまず私のほうからお答え申し上げたいと思います。ものづくりでも、あるいは航空という乗り物でも、安全第一ということが大前提であることはその通りだと思います。そういう方針で、会社の更生にあたっていただきたいと私は考えております。
志位 その安全第一という考え方と齟齬(そご)をきたすような発言ではないかと総理に聞いているんです。
首相 どういう場面で、どういう前後の脈略で、おっしゃられた言葉を紹介されたのか分かりませんので、正確に言葉としてどうこう申し上げることは差し控えたいと思います。私が理解している日航のこれまでの状況は、どちらかといえば、「親方日の丸」――場合によってはいろいろな政治的な関係も含めて、なんとか、国があるいは政治が、困ったときには助けてくれる、という意味で、いわゆる民間企業としてきちんと、もちろん安全はもちろんでありますが、同時に数字といいましょうか、利益といいましょうか、そういうものに対するそのしっかりした対応能力がなかったという趣旨のことは、よくお聞きしておりました。時々、分かりやすく、八百屋の主人もできるような人材がいないんだ、ということも時々、紹介されておりました。
ですから私は、安全との関係でそれを軽視したということではなくて、従来の日航がそういうその「親方日の丸」的な体質が強かったことに対して、もっとしっかり民間企業としての経営能力を強めたい、そういう趣旨で言われたのではないかと、そのように推察ないしは理解をいたしております。
志位 安全の軽視ではないとおっしゃられたんですが、それでは事実を見ていきたいと思います。
稲盛氏のもとで、どういうやり方で人員削減が進められてきたか。先ほど紹介した「安全の層」を厚くする方向か、逆に薄くする方向か。二つの大きな問題を私は指摘したいと思います。
志位 第一は、日航が、年齢の高い人から選別して、退職強要と整理解雇を行ったという問題です。その結果、日航では55歳以上の機長、48歳以上の副操縦士、53歳以上の客室乗務員が1人もいなくなりました。
(パネル1を示す)ちょっとこのパネルをご覧いただきたいんですが、これは日本乗員組合連絡会議の調査による資料に基づいて、日本航空と全日空の機長の年齢構成をグラフにしたものです。上が日本航空、下が全日空です。40歳から64歳までの機長の数を、年齢ごとに棒グラフにしたものです。日本航空の55歳以上は、点線でかこんでありますが、これは、この間の人員削減ですでに退職・解雇された機長であります。そっくりいなくなりました。人員削減の結果、日本航空では55歳以上のベテランの機長が1人もいなくなっているんです。これは、全日空と比較しますと違いが際立ってきます。
総理にうかがいたいのですが、総理は、日本航空ではリストラ・解雇によって、こういう機長の年齢構成になっているということをご存じでしょうか。
首相 いまこういう表をいただきまして、「ああ、こうなっているのか」と分かりましたが、必ずしも日本航空の再建にあたってどういう形の、いわゆる人員整理が具体的にどういう形で行われているかというところまで詳細にフォローする立場ではありませんので、詳細なことまでは承知いたしておりません。
志位 詳細にフォローしていないということですが、全体のこの状況については、知らないではすまない問題なんですよ。空の安全には国が責任を負っているわけですから。
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志位 経験を積んだベテランのパイロット、客室乗務員の存在が、いかに空の安全にとって重要か。
2009年1月、ニューヨークで「ハドソン川の奇跡」と報道された飛行機事故が起こりました。US航空のエアバス320が、離陸直後、高度850メートルでエンジンに鳥の群れを吸い込み、両エンジンとも停止する深刻な事態に陥った。しかし、機長を中心とした見事なチームワークで、ニューヨーク・ハドソン川への緊急着陸を成功させ、乗客乗員155人のうち1人の犠牲者も出さず、奇跡の生還を果たしたという事故であります。
私は、事故調査報告書も読んでみましたけれど、エンジン停止から着水までわずか3分30秒です。この間に乗務員は、補助動力の始動、管制塔との連絡、エンジン回復の試み、機体のコントロール、着水準備などを冷静にやり抜いています。機長のサレンバーガー氏は57歳、副操縦士は49歳――機長、副操縦士とも日航が今回切り捨ててしまった世代であります。経験と熟練を積んだパイロットの存在が、危機にさいしていかに大切かを痛感させる事故だったと思います。
ここに私、もってまいりましたが、そのサレンバーガー機長が、米連邦下院議会の小委員会で証言をしています。(機長は)「命が救われたのは、熟練を積み、よく訓練された乗務員のおかげです」、こう副操縦士と客室乗務員の「素晴らしいチームワーク」を称賛するとともに、機長は次のような警鐘を鳴らしています。
「安全のための措置を採算の圧力で犠牲にしてはなりません。空の安全にとって最も重要なものは、経験を積みよく訓練されたパイロットなのです」「パイロットの経験と熟練が少なくなれば、否定的な結果をわれわれは目撃することになるでしょう」
この証言は重く受け止めるべきだと考えますが、総理いかがでしょう。
国交相 ただいまのご質問ですが、私も、ものづくりの世界で仕事をしてまいりましたが、年齢とともに多くの経験を積み、いろんな場合に適切な対応ができるのは経験者だということを私も知っています。いまご指摘の件につきましては、どのような形で安全を確保して企業の再生をはかるのかということについては、しっかりと私も(関係者を)およびして確認したい。
志位 経験の重要性をしっかり知っているという答弁でした。
私は、日本航空で長く機長を務めてこられた多くの方々から話を聞きました。パイロットには、技術と知識と経験の三つが必要だというお話でした。そのうち、技術と知識は、研鑽(けんさん)によって得ることができる。しかし、経験だけは時間を経ないと得られない。そして、この経験の積み重ねこそが、ギリギリという危険な場面に遭遇したさいに、決定的な役割を果たす――これが異口同音に言われたことでした。
これはJALが作成した訓練マニュアルの一部であります。航空機をつくったボーイング社自身が作成した「トレーニングマニュアル」が引用されています。そこではマニュアルにないような、想定されないような危機に遭遇したらどうするかについて、次のように述べています。
「ガイドラインがほとんどない状況に直面することもあります。この非常にまれにしか起こらない事態に対して、全てをカバーするような手順は不可能であり実際的でもありません。このような事態に遭遇した場合にとるべき適切な行動のためのガイドラインは、『それまでに積み上げられてきた経験や知識』――『コンベンショナル・ウィズダム』と書いてあります――とよばれているもので、最も安全な方法と判断される行動を状況に応じて決定するというものです」
これは総理にうかがいたいのですが、危機に遭遇したさいに最後に頼るべきは、「それまでに積み上げられてきた経験や知識」だとメーカー自身がいっている。そうしますと、経験の厚い人、年齢の高い人から解雇する。最も経験を積み、それを次の世代に継承すべきベテランの乗務員を残らず解雇する。このやり方は「安全の層」を薄くするものだと私は考えますがいかがでしょう。今度は総理。
首相 一般的にいえば、先ほど志位委員長も言われましたけれど、どういう社会であっても新しい技術の習得とか、そういうことは比較的若い人が適当かもしれませんが、やはり経験がものをいうといいましょうか、そういう分野もたくさんあります。政治の分野でも両面があると思いますし、あらゆる分野であると思います。そういう点で、いま言われたこと自体を私は否定するつもりはありません。
ただ、そのことと、どういう形の人員構成、あるいは年齢構成をとるかということは、それは当然、安全性を考えたうえで、それぞれ判断されるべきもので、何か一義的にこうあるべきということを特に私のような立場の者がどう考えるかといわれても、それぞれの分野、それぞれの社会によって基準も違うでしょうし、考え方も違うでしょうから、私からこうあるべきというところまでは申し上げることはできません。
志位 いろいろおっしゃいましたけれども、私の指摘――これでは「安全の層」を薄くするのではないかということについて「否定するつもりはない」ということをおっしゃられたのは、重要な答弁だと受けとめておきたいと思います。(首相うなずく)
私は、年齢の高い人、経験を積んだ人から解雇するというやり方は、空の安全にとって最後に頼るべき経験の重要性、これを否定する思想、考え方、やり方だと思います。まさに「安全の層」を薄くするものだと言わざるをえません。
志位 もう一つ問題があります。
第二は、日航が、過去の病気欠勤や乗務離脱の日数を、整理解雇の基準にしたことです。
航空法では、運航乗務員の心身に起因する事故を未然に防止することを目的として、航空身体検査を定期的に行うことを義務づけております。この身体検査は運航の不安全要因となりうる乗員の心身状態を徹底的に排除するもので、ごくわずかの不調でも乗務を禁止する、「健康であっても不適合と判定される場合もある」と、政府のマニュアルに明記されているような厳しいものです。だからこそ、常に一定割合で乗務できない「乗務離脱者」が存在しております。
そして、重要なことは、この制度は、乗員の自己申告によって支えられているということです。たとえば、睡眠障害や腰痛は、外的検査をやってもわかりません。自己申告ではじめてわかるわけであります。そういう検査で、過去の病欠や乗務離脱を整理解雇の基準としてしまう前例をつくってしまったらどうなるか。そういうことをやってしまったら、今後は、体調不良があっても躊躇(ちゅうちょ)なく会社に申し出るということが難しくなるんじゃないかと、私はこういうことを強く危惧しますが、いかがでしょう。
国交相 ただいまのご指摘でございますけれども、志位委員長からお話がありますように、安全第一というのが、まず大前提でございまして、国土交通省としても、これまでも、日本航空に対して航空法にもとづく立ち入り検査や報告・聴取により、安全管理体制について監視・監督を行ってまいりましたし、今後とも安全な運航の確保については日本航空に対してしっかり監督していく所存であります。
なお、ただいま、具体的にご指摘をいただきました整理解雇につきましては、司法の場で判断されることとなっているため、お答えは控えさせていただきたいと思っております。
志位 これでは躊躇なく体調不良を申し出ることができなくなるんじゃないかと聞いたわけです。整理解雇の問題は、いま司法で争っているにしても、安全の問題は、飛行機が飛んでいるんですから、いまも責任を負うべきなんですよ。ちゃんと答えてください。
国交相 ただいまの具体的なご指摘につきましては、私どもでもまだ確認をしておりませんので、ぜひ確認をして、そのような状況にもしもあるとすれば、私もいろいろと考えるところがありますので、適切なかたちにすることがいいと思います。
志位 「確認をして、適切に対処したい」ということですので、ぜひこれはやっていただきたいと思います。
志位 総理にうかがいたい。これは、世界100カ国、10万人の民間パイロットで組織する国際操縦士協会が、昨年11月16日に発表した声明です。日本航空が病欠などを整理解雇の基準にしたことについて、このように述べております。
「正当かつ社内規定に準じて病欠したにもかかわらず、……病欠記録を……整理解雇基準に用いることは、航空の安全を脅かすものである。この悪(あ)しき前例が出来あがれば、乗員は体調不良にも関わらず、職を守るために乗務に就かざるをえない危険な状況が発生しかねない」
私は、本会議でこの警告を引き、「『空の安全を危険にさらす』との世界のパイロットの声にどうこたえるつもりですか」と総理におたずねしましたが、定かな答弁がありませんでした。いま、「しっかり再検討もする」と大臣もおっしゃられたけれども、ぜひこの警告を受けとめて、総理自ら、そういう職場で体調不良が申し立てられないという状況は一掃していただきたい。もしあったら一掃していただきたい。
首相 ご指摘されていることは、私も私なりに理解いたします。つまりは、体調不良でも無理をして乗務をするようなことになるという原因をつくることは好ましくない、よくないということは、その通りだと思います。そのことに関して、どのようなかたちで、誰がどう判断するかということはありますが、さきほど、国交大臣からも答弁がありましたので、少なくとも、そういうことにならない方向で、しっかりと見守っていきたいと考えております。
志位 「そうならないように見守っていきたい」ということは、ぜひやってほしいんだけれども、今回の整理解雇のやり方そのものが、そういうことにつながることを私は問題にしたので、そこにさかのぼって見直していただきたいと強く要請します。
志位 今回の日航の人員削減のやり方は、ずっときょう縷々(るる)申しましたけれども、「空の安全」よりも利益中心、利益追求を優先するものといわざるをえません。国民が願っている日航は、何よりも「安全な日航」ですが、その願いにそむくものといわざるをえません。
そもそも日本航空の経営破たんの責任は、政府の過大な需要予測による空港乱造や、「国策」で米国から総額約2兆円もの高額なジャンボ機を大量購入するなど、政府と日航旧経営陣にあり、それを労働者に転嫁することは許されるものではありません。
この整理解雇は、日航が1460億円もの利益を上げていること、自ら設定した人員削減目標を超過達成していることだけをみても、(最高裁)判例で確立している「整理解雇の4要件」を蹂躙(じゅうりん)することは明らかだと考えます。
日本航空の無法な整理解雇は、すべての労働者の権利を侵害し、さらにすべての国民の命と安全にかかわる重大問題です。私は、政府に、日本航空による無法な整理解雇を中止するよう強く指導することを求めます。
同時に、委員長に提起したい。国会として、今回のリストラ計画全体を、航空の安全の観点から徹底的に再検討するために、日本航空の稲盛会長を、本委員会に参考人として招致するとともに、この問題での集中審議を行うことを提案するものです。おはからい願いたい。
予算委員長 予算委員会理事会で協議いたします。
志位 次に、総理が「平成の開国」として推進しているTPP(環太平洋連携協定)についてただします。
志位 (パネル2を示す)このパネルは、東アジア諸国とTPPとの関係を示したものです。総理は、「アジアの成長を取り込む」などと述べて、その方策としてTPPを位置づけておられます。しかし、中国、韓国、インドネシア、タイなどは、TPPと一線を画す態度をとっております。東アジアの13の国々のなかで、TPP交渉に参加しているのは、シンガポール、ブルネイ、ベトナム、マレーシアの4カ国だけであり、人口でいえば東アジアのわずか5・7%にすぎません。しかもそのすべてが、すでに日本とFTA(自由貿易協定)、EPA(経済連携協定)を締結している国々です。したがって、日本にとってのTPP参加の意味あいというのは、事実上、米国とのFTAの締結ということになるのではないか。
仮に、日本がTPPに参加して10カ国の枠組みになったとしますと、日米だけで(参加国の)GDP(国内総生産)の90・8%を占めることになります。まさに事実上の日米FTAです。
しかも2国間のFTA交渉ならば、関税撤廃の除外品目の交渉の余地がありますが、TPPというのは原則例外なしの関税撤廃がルールとなっているわけです。つまり、日本にとってのTPP参加とは、端的にいって、「例外なしの関税撤廃を原則とする日米FTAの締結」ということになるんじゃないでしょうか。いかがでしょうか、総理。
前原誠司外相 APEC(アジア太平洋経済協力会議)21カ国・地域がございますけれども、このAPECは経済統合をめざしていこうということでFTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)というものをめざしているわけであります。TPPはそのなかの一つの道筋として考えられているわけでございまして、現状の9カ国だけを考えて物事を見るのではなくて、FTAAPに向けた道筋のなかで日本がどのような方策を選んでいくのかという観点からも物事は考えるべきだと思います。
同時にASEANや、あるいは日中韓FTA、そういったものもわれわれは研究し、そしてそれについて結論を出したうえで臨んでまいりたいと思っておりますので、別にアメリカだけではなくてAPEC加盟国、あるいは他の国も含めてできる限りの自由貿易を進めていきたいと考えております。
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志位 「TPPはFTAAPに向けた道筋だ」とおっしゃいました。しかし、韓国、中国は参加していないわけです。ASEANでGDP1位のインドネシアの政府は、TPPについて、「厳しい条件だ」「国内準備が不十分であり、まずは地域貿易の枠組みに力をいれることが先決だ」と否定的であります。それからASEANでGDP2位のタイ政府も、まずは「ASEANが中心になってすすめるべきだ」とTPPに一線を画す立場です。さらにASEANのスリン事務総長は、「いま、ASEANが重視しているのは、東アジアの域内での経済連携だ」といっております。
TPPが、東アジア全体に広がる動きになっているとは、これは言えない。アメリカ主導の枠組みです。アジアの成長の取り込みどころか、アメリカの対日経済戦略に日本が組み込まれるというのが、TPPの真実の姿だと私は言わなければなりません。
志位 このTPP参加によって失うものは何か。今度は総理にお聞きしたい。
志位 まず何よりも国民への食料の安定供給です。TPPとは農産物も含めてすべての品目の関税をゼロにする協定です。「関税ゼロ」となったら、農水省の試算によると、食料自給率は40%から13%に急落し、コメ生産の90%は破壊され、農林水産物の生産は4兆5千億円も減少する。
政府は、昨年3月に、食料自給率を40%から50%に引き上げる「食料・農業・農村基本計画」を閣議決定されていますね。
「自給率50%」と「関税ゼロ」、どうやってこれ、総理、両立できるんでしょうか。私は、本会議で質問したんですけれども、定かな答弁がありませんでした。総理、今度はお答え願いたい。
予算委員長 玄葉光一郎国家戦略担当大臣。
志位 総理に聞いているんです。
玄葉光一郎国家戦略担当相 委員長がおっしゃるとおり、TPPがどうなるかについては定かではありません。同時に、私たちは6月に総理としてTPPに対して交渉に参加するかどうかを判断をするという段階でございます。そのうえで、昨年11月に「包括的経済連携に関する基本方針」をうちたてて、私たちは、たしかにハイレベルの2国間の経済連携を進めるということは決意をしたところでございます。したがって新たな「開国」を奇貨として、農業の再生をめざすという立場でございます。
もともと農業の問題については、この経済連携あるなしにかかわらず、どうするのかというのはそもそも待ったなしではないかと思います。したがって、今回のこの経済連携を進めることを契機にして、守りの部分と同時に、たとえば鹿野農水相もおっしゃっているように、輸出も含めて、ブランド化も含めて、6次産業化も含めて、その対策を6月までにしっかりまとめるというのがわれわれの方針でございます。
志位 私は、「自給率50%」と「関税ゼロ」がどうしたら両立するのか聞いたんですよ。何の答弁もしてないじゃないですか。
総理は答弁のなかで、本会議の答弁ですけれど、結局、「農地集約による大規模化」、「戸別所得補償制度」、これをやればなんとか「両立」するんだという答弁でした。そういうことですか。今度は総理です。
首相 まず、TPPについていまそこに表をならべられていたわけですが、私の全体の見方と志位委員長の見方はやや違っているなという感じがいたしております。つまり、日本はもともと貿易の自由化の優等生とも言える国で、WTO(世界貿易機関)ドーハ・ラウンドにも積極的にかかわってきたわけですが、残念ながらこの10年近くだけをみると、たとえばお隣の国の韓国がアメリカとのFTA、あるいはEUとのEPA等々進む中で、残念ながら日本がそういうところとの2国間、あるいは地域間の経済連携の対応が足踏み状態にあったなかから、これからどうしていこうかということで、APECの始まる前にわが内閣として、こうした問題に基本的には積極的に取り組んでいこうと。そういうなかでTPPについても情報収集を含めて関係機関と協議をしようと。そういうところでを決定いたしたわけであります。ですから、大きな日本の姿勢、あまり長くなったら恐縮ですから、この程度にしますが、つまりは貿易だけではなくて、若い人が海外に留学する数も減っているとか、そういう内向きな日本をこのままでいいのかという、そういう問題意識も含めて、この問題も考えているわけであります。
そのなかで現在農業のことについていろいろと関連したことを言われました。これも他の大臣からも話がありましたが、農業政策に関しては大変な現在、大きな改革を必要としている時期だと思っております。この10年、20年の間でも農業生産が約20%減っておりますし、そして就業している人の平均年齢が66歳になっていることを考えますと、いずれにしてもこの改革が重要であります。そのなかでいま自給率の問題もいわれましたけど、つまり自給率を高めるために、まず自給率そのものよりも、耕地面積そのものがいま減っているわけでありまして、そういう放棄地をどうやってもっと若い人にも参加してもらって、活力ある農業をやっていくのか。そのなかには、土地利用型のコメの問題と野菜等では対応が若干違います。そういうことも含めて現在、農業の改革の本部をつくって進めているところでありまして、これからそうした農業改革の方向性が出てくる中で、先ほどご指摘のあった50%の自給率というものも両立できる方向性をめざしていきたい。さきほど40%から13%というのは、前提としてはなにも対応しなかった場合にそうなるという試算だと、そのように聞いているところであります。
志位 私は、「関税ゼロ」と「自給率50%」はどうして両立するのかと聞いたんですが、いま長々と話したけれども、両立する方途についてはなんら答弁ができませんでした。
ただ、総理は、少なくとも本会議では、「大規模化」と「戸別所得補償」とを、これは「両立」の方途だとしておっしゃったので、私は、聞きたいと思うんですよ。
「大規模化」とおっしゃいますが、アメリカの農家1戸当たりの耕地面積は日本の100倍以上、オーストラリアはなんと1500倍ですよ。この圧倒的な格差は、広大な平原に展開するアメリカやオーストラリア、急峻(きゅうしゅん)な山地や複雑な地形で営まれる日本という、国土条件を背景にしたもので、人為的な努力で埋められるものではありません。日本でアメリカやオーストラリアのような規模拡大は到底できない。
ここに、2007年2月に農水省が発表した「国境措置を撤廃した場合の国内農業等への影響(試算)」がございます。これをみますと、「生産性向上努力と関税水準」という項目でこう書いてあります。
「狭い国土、湿潤で病害虫が発生しやすい気象、高い人件費等わが国の農業生産の前提となる諸条件の下では、(大規模化や技術革新によって)農業者の生産性向上努力を最大限引き出したとしても、国土条件が大幅に異なり、経営規模にしてわが国の百倍から数千倍もの大規模経営が広がる米国や豪州のような国で生産される低廉な農産物との価格差を完全に解消することは不可能」
こう言っているわけですよ。ですから、これは政府自身が、「大規模化」をはじめとする「生産性向上努力」をいくらやっても、アメリカやオーストラリアと競争することは不可能と言っているじゃないですか。今度は農水大臣。農水省の文書でしょう。
鹿野道彦農水相 まず冒頭に申し上げますけれども、基本的にまだTPPに参加をするかどうかは決めてないわけです。ただ、先ほど玄葉大臣から申し上げましたとおりに、これからのわが国として、この人口減少というようななかで、やはり国民的安定を図っていかなければならない。その場合やはりこの経済成長も必要だ、その一環としてやはり市場を広げていく必要がある。そうすると外国に対して、諸外国に市場を広げていくということであれば、受ける側も市場をやはり広げていく必要があるんではないかと。こういうようなことから、私たちは昨年の11月にこのEPAというものを推進して、そしてアジア全体も含めたわが国のこの成長のあり方というものを考えていこうと決めたわけであります。そのなかでTPPというふうなものにどうするかは、いろんな情報をとって農産物だけの問題ではありませんから、24の分野においていろいろ協議をしているってことですから、そういうようなことも情報を収集してどうするかということを決めていくということであります。
(文書は)いまの段階で、当然2007年において、なかなか今日の状況の中では思い切ったこの外国並みの比較できない状況というもので、政策的にも限界があるんじゃないか、そのための報告でございますけれども。しかしそれは、(自由化に対して)何もしないという、現在の国境措置というようなもののなかで、いろいろなことも含めて言っているわけでありますから。私どもとしてはそういう今日のわが国の置かれておる農業の実態、こういうふうなものを含めたなかで、どうあるべきかを総合的に判断をしていくという意味で、これからの議論がなされていくと思っております。
志位 「何もしないで」というふうにもおっしゃったけれども、「生産性向上(努力)」をぎりぎりやったとしても、とても競争できないと農水省自身が言っているんですよ。
志位 それから、ここ(農水省の試算)に、もう一つ重大なことが書いてあります。「戸別所得補償」とあなた方はおっしゃるけれども、この農水省の試算を読みますと、関税などの国境措置を撤廃した場合には、かりに巨額の税金を投じて農産物の価格下落に見合う差額を補てんしたとしても、こう書いてあります。「国内農業等の生産減少、食料自給率の低下等は避けられない」。こう結論付けているんですよ。
そして、「国産農産物の価格低下分を補てんするための費用だけで、少なくとも毎年約2兆5千億円が新たに必要になる」と試算するとともに、このような巨額の財政支出は「農業者も含め国民(納税者)の理解を得られないため、実施は困難」だと言っている。
ですから、これは農水省自身が、これは(米国や豪州などとは)競争にならないと。いくらお金をつぎ込んでも、「関税ゼロ」にしたら、「自給率低下は避けられない」と言っているわけですから、TPP参加というのは、国民の願いである食料の自給率の向上とは、絶対両立しないということを、はっきりと言っておきたいと思います。
志位 さらにもう一つ失うものがあります。日本の経済主権です。
ここに、外務省、財務省、農水省、経産省が1月20日に作成した「TPPに関する各国との協議」と題する報告書がございます。TPP協定交渉参加国からの情報収集の結果を取りまとめたものであります。次のように述べております。
(パネル3を示す)その中心部分をパネルにしましたが、「センシティブ品目(重要品目)については、原則として除外や再協議は認めず、長期の段階的関税撤廃といったアプローチによるべきという考え方が基本」。関税撤廃ということです。
「新規参加には全ての交渉国の同意が必要であり、そのためには新規参加希望国がTPPの目指す高い水準の自由化交渉に真剣に取り組む用意があるとの信頼を全交渉国から得る必要がある。なお米国は、新規参加を認めるためには議会の同意を取り付けることが必要」
「日本が関税撤廃のみならず非関税措置の改革にも取り組むことを期待」
こういう報告書ですが、総理にうかがいたいのですが、この報告書を受けておられますか。
予算委員長 最初に鹿野農水大臣から、2007年の(志位「いや、〈総理に〉受けているかどうか〈を聞いている〉」)いや、志位さんご指摘の報告書を今どうあつかっているかの答弁をいただき、そしてそのあと、総理から答弁いただきます。鹿野農水大臣。
農水相 2007年の報告というものにつきましては、今日のわが国のこの地政学的ななかにおけるわが国の農業として、他の外国とのいろんな意味での比較というふうなところからの、考え方というものが述べられたわけであります。ゆえに私どもが、TPPというふうなものについてまだ決めておりませんけれども、その判断をする場合は、当然わが国の農業の実態というふうなものを踏まえたなかで、そしてこのどういう国内政策を行うことができるかということも、総合的に判断したなかで決めていくということになるわけであります。
志位 (総理は)報告を受けているかどうか。
首相 TPPに関する各国との協議というのはいろんな形で進んでおりまして、まあ100%すべての報告を受け取るかどうかは別として、適宜報告は受けております。
志位 この報告書には、ここにありますように、TPP参加には「全ての交渉国の同意が必要」、とくに米国については「議会の同意を取り付けることが必要」、関税撤廃だけでなく関税以外の貿易障壁――つまり非関税障壁の撤廃に取り組むことも要求される、と述べております。要するに、これから日本がTPPに参加するためには、関税の問題でも、非関税障壁の問題でも、米国政府と議会の要求を丸のみにせざるを得なくなるということであります。
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志位 そうなったらどういうことになるか。例えばここに、2010年3月に米国通商代表部が議会に提出した報告書があります。そこでは、いろんなこと書いてありますけれど、例えば食品安全に関わる対日要求として、次のような項目が列挙されております。
「牛肉のBSE対策で日本がおこなっている月齢制限などの規制を緩和せよ」
「コメ輸入のさいの安全検査を緩和せよ」
「ポスト・ハーベストの食品添加物の表示をやめよ」
「有機農産物の殺虫剤・除草剤の残留を認めよ」
こういうことがずーっと書いてあるんですよ。これらのことは、結局は、交渉の中で丸のみせざるを得なくなる。食料を完全に外国頼みにしたあげく、外国から輸入する食料の安全基準までアメリカ言いなりになる。総理、こういうことじゃないですか。総理、あなたが答えてください。
国家戦略相 まず志位委員長からご指摘のあった、農業の話、鹿野大臣とともに私、再生会議の副議長を務めておりますから、一つだけ申し上げますけれども、まずははっきり申し上げて、関税がゼロになるとは分かりません。もう一つ、輸出が促進されればそれだけで自給率が上がります。それともう一つは、国民全体で支える農業をつくろうという思いもあって、6月の再生会議の報告に向けていま取り組みをしているということをひとつ申し上げます。
同時に今のご質問でありますけれども、非関税障壁についてはそれはたしかに、金融も通信もそれぞれあるでしょう。あるいは医薬品もあるでしょう。だけれどもこれは、取引のベースをそろえるという意味では、必ずしも日本側にすべてデメリットかと言われれば、むしろメリットの方が大きい分野だってたくさんございます。ですから、そういったことも総合的に勘案しながら、これから最終的に判断をしていくということになろうと思います。
志位 関税がゼロになるとは限らないと言ったんですけれども、(政府4省の報告書にあるように)「関税ゼロが原則だ」というふうな情報を収集しているじゃありませんか。交渉のなかでなんとかするというけれども、アメリカは、政府だけじゃなくて「議会の同意も必要だ」と(政府報告書に書いてある)。議会の承認が必要だということは、(アメリカの)民主党だけじゃなくて共和党にも認めてもらわなければならないということなんですよ。結局は、(米国の要求を)丸のみしなければならないということになる。
TPPは、食料だけでなく、郵政民営化などの金融や保険、医療の規制緩和、労働の規制緩和、あらゆる分野が交渉対象とされています。24分野と言われていますけれども、日本の経済主権を、すべて米国に委ねるということにならざるをえないと私は考えます。
志位 私たち日本共産党は、「開国」どころか、日本という国のあり方を根本から壊すTPPの参加には絶対に反対です。日本がとるべき進路としては、次の二つの方向が大事だと考えます。
第一に、貿易の拡大は当然ですが、食料、環境、雇用など市場まかせにしてはならない分野まで自由化一辺倒であってはならない。とくに食料については「食料主権」――自国の食料は自国で生産するといった立場に立った貿易ルールの確立が、飢餓や食料不足が地球規模で広がるなかで、とりわけ大切であります。
第二に、米国に経済の面でも追随する道ではなくて、東アジアの諸国との経済連携を進めることが大切だと思います。大きく成長しつつある東アジア諸国と、多様な農業を互いに尊重し、共存共栄を図りながら、平等・互恵の経済関係を発展させる。こうした方向にこそ私は日本の未来があると(考えます)。
私たちの考えを表明するものであります。
志位 次にすすみます。社会保障の問題です。
安心できる社会保障をつくることは、国民多数の強い願いです。総理は、「社会保障改革とともに、消費税を含む税制抜本改革」をすすめると表明されました。しかし、現にすすめていることは何か。
志位 私は、本会議の代表質問で、全国どこでも大問題になっている高すぎる国民健康保険料の問題を取り上げました。(パネル4を示す)
これは、所得300万円の4人家族、30歳代の両親と子ども2人世帯の国保料(税)です。札幌市は45万6500円、さいたま市は39万7100円、新潟市が39万600円、大阪市が42万8700円、京都市が45万3700円、岡山市が43万800円、福岡市が46万8000円。どこも300万円という所得の1割を大きく超える保険料(税)なんですね。
昨年3月、参議院の予算委員会の質疑でわが党の議員が、政令市での国保料の実態を示して、鳩山(由紀夫)首相の認識をただしたことがあるんです。その1年前と比べても、それぞれ各市とも上がっております。そのときの鳩山首相の答弁は、「所得300万円の方が、その1割以上の国保料を払わなければならないのは、率直に申し上げて相当高い」。こういう答弁でした。菅総理の率直な感想をうかがいたいのですが、菅総理もこの実態は「相当高い」というご認識だと思いますが、いかがでしょう。
首相 所得300万円に対して10%をかなり超える負担というのは、負担感としてはかなり重いという、そういう感じはいたします。
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志位 「かなり重い」と。これはやはり総理もお認めになったわけですが、そうであるなら、なぜそれに追い打ちをかけるようなことをするのか。
民主党政権は昨年5月、厚生労働省の通達で、市町村が独自に行っている一般会計から国保会計への繰り入れをやめ、「保険料の引上げ」に転嫁せよとの号令をかけています。いま、(全国の)市町村は、財政が苦しい中でも必死に努力して、総額で3700億円の公費を繰り入れて、国保料のこれ以上の値上げを抑える努力をしています。それをやめたら国保料は、さらに1人平均1万円、4人家族で平均4万円もの値上げになってしまいます。
私が、本会議で、高すぎる国保料の値上げに追い打ちをかけるこの通達はただちに撤回すべきだとただしたのに対して、総理はどうお答えになったか。「ご指摘の通達は、保険料引き上げだけでなく、収納率向上や医療費適正化策などの推進など、国保財政安定化のための施策を提言したものです」という答弁でした。要するに、“国保料の引き上げだけでなくていろいろやっている。国保財政安定化のためには国保料引き上げは当然だ”という答弁だったと思います。
今でさえ、高すぎて払えないという悲鳴が列島にうずまいているときに、4人家族で平均4万円もの保険料引き上げの通達を出す。総理、胸に痛みを感じませんか。「かなり重い」とおっしゃられましたね。そういう通達、胸に痛みを感じませんか。
細川律夫厚生労働相 志位委員のご質問にお答えいたしますが、国民健康保険、ご承知のように保険財政がたいへん規模が小さい、不安定になりやすいということで、財政運営の広域化というのがいま大きな課題となっておりまして、都道府県が市町村国保の広域化を支援するための方針、これは広域化等支援方針といっておりますが、それを策定して広域化を推進しているところでございます。
さきほどご指摘のありました点につきましては、昨年の5月、広域化支援の方針の策定のために技術的な助言として都道府県に通知をしたものでございまして、そのときに一般会計繰り入れによる赤字補てん分についてはできる限り早期に解消に努めること、とまあこういったことをいったわけです。したがって、これについては、市町村における一般会計繰り入れを禁止するとか、そういうことではなくて、国保財政の健全化のためには計画的、段階的に赤字解消に取り組んでほしいと。そのためには、保険料を引き上げるだけではなくてですね、収納率(向上)とか、あるいは医療費の適正化とか、そういうことを推進すべきだというようなことを助言いたしたものでありまして、その点ご理解をいただきたいと思います。
志位 市町村の一般会計からの繰り入れを禁止したものではないというふうにいうんですけれども、それ(繰り入れ)を「解消」するために「保険料引上げ」(の推進)と(通達に)はっきり書いてありますよ。
志位 いま、「収納率向上」とおっしゃいました。「収納率向上」という掛け声でどんなことがやられているのか。無慈悲な保険証の取り上げと、過酷な保険料の取り立てです。
いま、国保料の滞納世帯は、445万世帯、加入世帯の2割にのぼっています。正規の保険証を取り上げられ、資格証明書や短期保険証に置き換えられた世帯は152万世帯にのぼります。
さらに、取り立てでは、滞納者への脅迫まがいの督促、プライバシー無視の財産調査、預貯金、生活必需品の差し押さえなどが各地でひどくなっています。今朝(2日朝)のNHKテレビでも、年金を差し押さえられてしまった方が自殺されたということが、特集番組で放映されておりました。
志位 私は、一例を述べたい。大阪市で飲食店を経営している男性からの訴えです。不景気で客足が落ち、昼間は夫婦ともにパートで働き、必死に子ども2人を育ててきたが、この間、急激に経営が悪化し、国保料の支払いが困難になった。それでも毎月、区役所の窓口に相談して、分割納付を続けてきた。ところが昨年12月、市から、「財産調査の結果、財産が判明した」として、「滞納金・延滞金あわせて83万5千円を払わないと差し押さえを実行する」と通告された。判明した財産とは何か。子どもたちのための学資保険ですよ。長男は今年大学受験です。次男は高校2年生。この2人の大学入試、入学金、学費の支払いのためのものですよ。「必死に分割納付を続けてきたのに、子どものためにコツコツ積みたててきた学資保険まで差し押さえる。子どもを大学にやることを許されないのか」という痛切な訴えであります。全国各地で、こういった強権的な差し押さえが急増しております。
保険料が高すぎて払いたくても払えない人から保険証を取り上げる。経営難のなかでも、約束どおり、保険料を分納している人が、学資保険まで「財産」と認定されて、「耳をそろえて滞納分を払え」と脅され、差し押さえの制裁を受けるという事態が現に起こっているんです。これはあまりにひどい事態だ。これが「収納率向上」の実態なんですよ。これはあまりにひどいと思いませんか。
首相 いま、志位委員長が言われたことそのものは、ほんとに胸の痛む思いもいたしております。
ただ、全体のことをちょっと申しあげますと、国民健康保険そのものの構造的な問題があることはよくご承知だと思うんです。つまりは、比較的所得の少ない人、あるいは職業に就いていない人が多く入っておられるわけです。先ほど一般会計からの繰り入れということを言われましたけれども、一般会計というのは自治体の一般会計ですから、自治体で納税した人の、それの一部を国保に入れるということで、それを否定しているわけではありませんが、たとえばサラリーマンの人は、自分の健康保険料をとられたなかで税金を払っているわけです。そういったことを含めて、国保という制度がかつては、個人で営業しているお店とか農業とか、それなりの収入がある人を前提として組まれた制度が、いまやそういう制度の実態が変わってきたということを踏まえて、今後の国保制度がどうあるべきかということで、先ほどらいの厚労大臣の見解も示されているんです。
私は決して消極的なことを申しあげているわけではなくて、こういう問題も含めて、社会保障のあり方という大きな土俵のなかで議論していただきたいと思っております。
志位 いま、構造的な問題だということをおっしゃいましたけれども、国保の最大の構造的な問題は、1984年には国庫負担が50%であったのが、いま24%まで減らされた。ここにこそ最大の構造問題があるんですよ。
そして民主党は、「政権をとったら国庫負担を9千億円増やす」といってきたんですよ。そして保険料を下げるといってきたんですよ。それがあなたがたのマニフェストに書いてあったんですよ。それを放り投げて、高すぎる国保料をさらにもっと値上げする、こんな通達を平然と出す。こういうやり方は、絶対に改めるべきだということを最後に強く求めて、私の質問といたします。