2011年2月3日(木)「しんぶん赤旗」
2日の衆院予算委員会の基本的質疑で、国民の命と安全を守る政治への転換を求めた日本共産党の志位和夫委員長。日航の人員削減、環太平洋連携協定(TPP)、高すぎる国保料―という国民にとって大事な三つの問題で政治の責任をただしました。
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志位氏は空の安全が脅かされているとして、経営再建中の日本航空で行われた1万6000人の人員削減と165人のパイロット・客室乗務員の整理解雇を取り上げました。
志位氏は、日航社外アドバイザリーグループが2009年に出した「新提言書=守れ、安全の砦(とりで)」が、「『安全の層』を厚くすることに精力を注がなければならない」と指摘していることを紹介。
一方で、日航の稲盛和夫会長が新聞インタビューで、「(これまでは)『安全が第一で、利益は二の次』だった」として利益を優先させる姿勢を示していることをあげ、首相の見識を問いました。
菅直人首相は、「航空は安全性が大前提でなければならない」と述べながら、稲盛氏の発言について「民間企業として経営能力を強めたい趣旨で言われたのでは」と擁護しました。
志位氏は、日航の人員削減のやり方として、年齢の高い人からやめさせ、55歳以上の機長、48歳以上の副操縦士、53歳以上の客室乗務員が1人もいなくなったことを、グラフを示して指摘しました。
志位 日航ではリストラ・解雇によってこういう年齢構成になっていることをご存じか。
首相 こういう表をいただいて分かりました。
状況を把握していないことを認めた首相。志位氏は、「空の安全には国が責任を負っているのだから、知らないではすまされない問題だ」と述べ、09年にニューヨークで起きたUSエア機事故の例をあげました。57歳のベテラン機長と49歳の副操縦士ら乗員が協力し、機体をハドソン川に不時着させ、乗客・乗員155人のうち1人の犠牲者も出さず奇跡の生還を果たした事例です。2人とも、日航で切り捨てられた世代にあたります。
この機長(サレンバーガー氏)が米議会公聴会で「空の安全にとって最も重要なのは経験をよく積みよく訓練されたパイロットだ」と述べていることもあげ、「経験の厚い人から解雇する(日航の)やり方は『安全の層』を薄くするものだ」とただすと、大畠章宏国交相は「どのように安全を確保して再生を図るのか(日航関係者を)呼び確認する」と約束しました。
もう一つの人員削減のやり方は、病気欠勤や乗務離脱の期間などを整理解雇の基準にしたことです。
航空法は、パイロットの心身に起因する事故を未然に防ぐため身体検査の定期実施を義務付け、異常があれば自己申告によって乗務を離脱することになっています。民間パイロットで組織する国際操縦士協会は昨年、日航の基準について「航空の安全を脅かす」と警告を発しました。
志位 病欠や乗務離脱を整理解雇の基準にすれば、体調不良があっても会社に申し出ることが難しくなる。
国交相 ぜひ、確認をして、そのような状況であれば適切な形にするのがいい。
首相 ご指摘は理解します。体調不良でも乗務するような原因をつくるのはよくない。そうならない方向で見守っていく。
志位 ぜひやっていただきたい。
志位氏は、日航破たんの責任は、空港乱造などをすすめた政府と日航旧経営陣にあり、1460億円もの利益をあげ人員削減目標も達成しているもとで整理解雇に道理がないことを強調。「日航のやり方は空の安全より利益追求を優先させるものだ。無法な整理解雇を中止するよう強く指導せよ」と求めました。
財務状態が悪化した時こそ、安全への取り組みを強化するくらいの意識を持って、「安全の層」を厚くすることに精力を注がなければならないのである。決して「安全の層」を薄くすることで、コスト削減を図ってはならない。薄氷を踏みながら航空機を運航するエアラインを、誰が選択するだろうか。
安全上の措置を常に改善することや現行の広範囲の訓練を行うことに対する注意を、経済上や財政上の圧力のためにそらすことがあってはなりません。航空業界においてギリギリの線、つまり安全設備で最も重要な唯一の要素は、経験を積み、よく訓練されたパイロットなのです。
正当かつ社内規程に準じて病欠したにもかかわらず、当該乗員たちの病欠記録を、JAL管財人が整理解雇基準に用いることは、航空の安全を脅かすものである。この悪(あ)しき前例が出来上がれば、乗員は体調不良にも関わらず、職を守るために乗務に就かざるをえない危険な状況が発生しかねない。
“食の安全”にかかわる問題として、環太平洋連携協定(TPP)参加問題を取り上げた志位氏は、TPP参加・交渉国に日本が加われば、日米でGDP(国内総生産)の90・8%を占めることになると言及。シンガポールなど4カ国はすでに日本と自由貿易協定(FTA)、経済連携協定(EPA)を結んでおり、「日本にとってTPP参加とは、例外なしの関税撤廃をルールとする日米FTAということだ」と指摘しました。
TPPについて前原誠司外相は、アジア太平洋経済協力会議(APEC)21カ国・地域によるアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)をめざす「一つの道筋だ」とごまかしました。
志位氏は、中国、韓国はTPPに参加しておらず、インドネシアやタイも、「まずは地域貿易の枠組みに力を入れることが先決」「まずは東南アジア諸国連合(ASEAN)が中心になって(経済連携を)すすめるべきだ」と一線を画す立場をとり、ASEANのスリン事務総長も「ASEANが重視しているのは東アジア域内での経済連携だ」と述べていることを紹介。
「東アジア全体に広がる動きになっていない。アメリカ主導の枠組みであり、アメリカの対日戦略に日本が取り込まれるというのがTPPの真実だ」と告発しました。
志位氏はTPP参加で「何よりも国民への食料の安定供給が失われる」と強調しました。
政府は昨年3月に閣議決定した「食料・農業・農村基本計画」で、食料自給率を40%から50%に引き上げることを掲げています。
志位 自給率50%と関税ゼロはどうやったら両立するのか。
首相 農業改革本部で改革の方向性が出てくる中で、自給率と両立できる方向性をめざしたい。
苦し紛れの首相に対し志位氏は、農水省がまとめた07年2月の報告書「国境措置を撤廃した場合の国内農業への影響」を提示。大規模化などの「生産性向上」努力をしても米国や豪州との競争は不可能であり、毎年2兆5000億円の価格補てんをしたとしても「食料自給率の低下は避けられない」としていることをあげ、「TPP参加は、食料自給率向上という国民の願いとは両立しない」と批判しました。
志位氏は、「さらに失うのは日本の経済主権だ」として、TPP参加は米国政府と同議会の同意が必要であり、米国が「牛肉のBSE(牛海綿状脳症)対策で日本がおこなっている月齢制限などの規制の緩和」「コメ輸入の際の安全検査緩和」など、食品安全基準まで放棄するように迫っていることを紹介。TPP参加によって「食料を輸入頼みにしたあげく、輸入食料の安全基準までアメリカいいなりになる」と指摘しました。
政府は「TPPに参加するとは決まっていない」(鹿野道彦農水相)、「(自由化で)メリットが大きい分野だってある」(玄葉光一郎国家戦略相)とごまかしました。
志位氏は、「日本という国を根本から壊すTPP参加には反対だ」と表明。(1)食料主権にたった貿易ルールの確立(2)東アジアとの経済連携をすすめ、平等・互恵の経済関係を発展させること―こそ日本の未来があると提起しました。
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命にかかわる大問題として志位氏が取り上げたのが、国民健康保険(国保)の高すぎる保険料(税)です。
札幌市をはじめ政令市の国保料を示すパネルを掲げた志位氏。所得300万円の4人家族で、約39万円から47万円にも達し、所得の1割を大きく超える実態を告発しました。(図参照)
昨年の参院予算委で「相当高い」とした鳩山前首相の答弁をひいて認識をただした志位氏に対し、菅首相も「負担感としてはかなり重い感じはする」と述べざるをえません。
ところが、民主党政権は昨年5月、高すぎる保険料のさらなる値上げにつながる通達を出しています(別項)。保険料軽減のために国保会計に税金を繰り入れるのをやめ、値上げに転嫁するよう市町村に号令をかけたのです。志位氏は、全国の市町村は約3700億円の税金を繰り入れており、これをやめれば保険料は年1人平均1万円、4人家族で4万円もの値上げになると指摘しました。
志位 今でさえ「高すぎて払えない」という悲鳴がうずまいている。そのときに、4人家族で平均4万円もの保険料引き上げの通達を出す。胸に痛みを感じないのか。
細川律夫厚労相 国保財政の健全化のために、保険料を引き上げるだけでなく、収納率(向上)や医療費適正化も推進すべきだと助言したもの。
細川厚労相の答弁に対し、「収納率向上の名で実際にどんなことがやられているか」と述べた志位氏は、保険料滞納者への脅迫まがいの督促、人権無視の財産調査、預貯金や生活必需品の差し押さえなどの実態を告発しました。
大阪市で飲食店を経営する男性の例。不景気で経営が悪化し、保険料を分割納付しているにもかかわらず、市は「調査の結果、財産が判明した」と、滞納金・延滞金83万5千円を支払わなければ、2人の子どもの大学入試や学費の支払いのためにこつこつ積み立ててきた学資保険を差し押さえると通告してきたのです。
志位 これが「収納率向上」の実態だ。あまりにひどいと思わないのか。
菅首相 言われたことそのものは、胸の痛む思いがする。ただ、国保には構造的な問題がある。今後の国保制度がどうあるべきかということで、先ほどらいの見解も示されている。
志位 構造的問題というなら、最大の問題は国庫負担率を50%(1984年)から24%にまで減らした結果、保険料が高騰していることだ。
志位氏は、野党時代の民主党が国保への国庫負担を9000億円増やすと言明していたことも指摘し、「公約もほうり投げ、高すぎる保険料をさらに値上げする通達を平然と出す。こういうやり方は改めるべきだ」と強く主張しました。
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