2011年1月28日付「しんぶん赤旗」

志位委員長の代表質問に対する菅首相の答弁(要旨)


 日本共産党の志位和夫委員長の代表質問(27日、衆院本会議)に対する菅直人首相の答弁(要旨)は次のとおりです。

 【鳥インフルエンザへの対策】鳥インフルエンザのまん延防止は重要な課題だと認識しており、殺処分などの初動対応を行っている。感染経路究明のため、専門家を現地に派遣し、発生農家等には家畜伝染病予防法にもとづく手当金等が支払われることになっている。関係省庁と県が連携し引き続き感染拡大防止に全力をあげる。

 【働く人の賃金】日本経済を本格的な成長軌道に乗せ、豊かな暮らしを実現するには雇用の創出を起点とした需要の創造が必要である。

 そのため、新成長戦略の実行により、新たな雇用と需要を創造していくとともに、ジョブサポーターの増員や求職者支援制度、雇用促進税制の創設など、雇用をつなぐ、つくる、守るという取り組みをすすめている。

 ご指摘の国連貿易開発会議の報告書については、わが国では賃金の増大により個人消費が伸びる余地があるとの指摘を行ったものと理解している。

 【総合的な賃上げ政策】非正規労働者の正社員化については、事業主が正社員転換制度を導入し、実際に適用した場合には奨励金を支給する制度を設けた。派遣先事業主が派遣労働者を直接雇い入れる場合に、奨励金を支給する制度も設けた。これらを活用して、非正規労働者の正社員としての就職を支援している。そのほか労働者派遣法改正や労働政策審議会における有期労働契約のあり方の検討などの取り組みを行っている。

 【最低賃金引き上げ】昨年6月に策定した新成長戦略に、2020年までの目標として全国最低800円、全国平均1000円の実現に取り組むことを盛り込んだ。

 最低賃金の引き上げで最も影響を受ける中小企業に対しても、地域の中小企業団体とも連携した相談窓口の整備や賃金引き上げに資する業務改善への助成等の支援を講ずるとともに、技術開発や新事業展開支援など総合的な施策を講じていく。

 【公契約法の制定】公契約の契約先企業における賃金等の労働条件については、具体的あり方は当該企業の労使間で自主的に決定されることが原則。発注者である国の機関や地方公共団体も含めて幅広く議論をすすめるべきだ。

 【労働者の賃金格差】中小企業への総合的な支援策に加え違法な買いたたき等を排除するため、独占禁止法や下請け法の厳正な執行に取り組んでいる。昨年11月には公正取引委員会で、優越的地位の乱用にかんする独占禁止法の考え方を策定、公表し、どのような行為が優越的地位の乱用に該当するかを明確化することで規制の実効性確保に努めている。

 【退職強要、解雇等のルールの強化】労働者の自由な決定を妨げる退職勧奨は違法な権利侵害にあたるとされた最高裁判決が存在する。解雇については労働契約法において客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を乱用するものとして無効とするとされている。雇い止めについては、一定の場合には解雇権乱用法の類推適用がなされるとの判例法理が確定している。

 今後も、適切な労務管理が行われるよう、こうした労働関係法令や裁判例について周知啓もうに取り組んでいく。

 【日航の整理解雇】

 具体的な人員削減の進め方については、日航において適切に判断されるべきものだが、整理解雇については司法の場で判断されると理解しており、答えは差し控えたい。

 【TPP参加の意味】TPP協定参加9カ国のなかで、わが国はシンガポール、チリ、ブルネイ、ベトナム、マレーシアとEPAを締結済み。他方、ペルー、米国、豪州、ニュージーランドとはEPAは結んでいない。

 9カ国のなかで米国がGDP、貿易額等で圧倒的に多いことは事実だが、アジア太平洋地域全体が自由な貿易圏として発展していくことが重要だと考えている。

 TPP協定は、昨年11月の横浜APECで採択された横浜ビジョンで、わが国が重視するアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)を追求する基礎となると位置付けている。

 【TPPと農業政策】「貿易を自由化したら農業が危うい」という声があるが、私はそのような二者択一の発想はとらない。過去20年で国内の農業生産は2割減少し、若者の農業離れがすすんでいる。農業従事者の平均年齢は66歳に達する。農林漁業の再生は待ったなしの課題だ。

 現在、私が議長の「食と農林漁業再生実現会議」で、独自産業化、農地集約による大規模化、戸別所得補償制度のあり方など、農業の潜在力を引き出す大胆な政策対応を検討している。6月をめどに基本方針を、10月をめどに行動計画を策定していく。

 【TPP協定と経済主権】私は、第一の国づくりの理念に「平成の開国」を掲げている。貿易・投資の自由化、人材交流の円滑化により経済を開くことは世界と繁栄を共有する最良の手段だ。

 TPP協定は、APECの横浜ビジョンにおいてアジア太平洋自由貿易圏の基礎と位置付けられている。さらに、TPPは世界の成長センターであるアジア太平洋地域の成長とエネルギーを日本に取り込むためにも重要だ。日本の経済主権をすべて米国にゆだねるとか、売国の政治とかの指摘はまったくあたらない。

 昨年策定した包括的経済連携に関する基本方針に従い、関係国との協議の結果や国民の理解の深まり具合なども総合的に勘案しながら、今年6月をめどに交渉参加について結論をだす。

 【食料の確保と貿易ルール】過去20年間で農業生産が20%減少し、耕作放棄地が増加するなど、食料安定確保の観点からさまざまな問題を抱えている。農業再生が急務であり、しっかり取り組んでいく必要がある。

 わが国は食料純輸入国であり、貿易ルールの確立にあたって安定的な食料確保が重要な課題でもある。多様な農業の共存と食料問題の解決を目指して、農産物貿易ルールをめぐる議論に積極的に参加していく。

 【後期高齢者医療制度】新制度は加入する制度を年齢で区分せず、75歳以上も現役世代と同じ国保か被用者保険に加入することとした。多くの高齢者の受け皿となる国保の財政運営を段階的に都道府県単位化し、国保の安定的な運営を確保する。老人保健制度に戻すことは、事務を担う市町村や拠出金を負担する被用者保険の保険者も反対であるなど、国民の理解をえるのは困難だ。新制度は幅広い国民・関係者の納得いく制度とする必要があり、低所得の方への保険料軽減措置や窓口負担のあり方も含め、引き続き、厚労相のもとで検討していく。

 【国保財政】国民健康保険は他の医療保険制度に比べて多くの補助がされているが、財政は厳しい状況にある。昨年の通常国会で、09年度で期限を迎えた財政基盤強化策を5年間延長する国民健康保険法改正をおこなった。

 ご指摘の通達は、保険料引き上げだけでなく、収納率向上や医療費適正化策の推進など、国保財政安定化のための施策を提言したもの。引き続き、地方自治体の意見も聞きながら、国保財政の安定化を図っていきたい。

 【税と社会保障】11年度税制改正で、デフレ脱却と雇用のための経済活性化、格差拡大と固定化の是正などを大きな柱として、法人実効税率の引き下げのほか、雇用促進税制の創設や税制の再配分機能回復のための所得・資産課税の見直しもおこなう。法人実効税率の引き下げは企業が海外へ移転して雇用が失われることを回避し、国内投資の増加や雇用創出につながる効果が期待される。

 産業界は、政府が国内投資促進策を講じる場合に、10年後には約100兆円の設備投資をめざす考えを示しており、国内投資や雇用の拡大に積極的にとりくんでいただけると考える。

 11年度予算案では、社会保障予算は5%増を確保。防衛費は新大綱に示された「動的防衛力」を構築するため、真に必要な機能に資源を選択的に集中して、構造的な変革を図ることにしている。

 【普天間基地「移設」】昨年5月の日米合意を踏まえ、沖縄のみなさんに誠心誠意説明し理解を求めながら最優先で取り組む。

 沖縄のいっそうの負担軽減を実現すべく、沖縄政策協議会などの場で沖縄の方々の意見もうかがいながら、全力をあげて取り組む。

 【日本外交の姿】国際社会が大きく変化するなか、我が国周辺には依然として不確実性、不安定性が存在する。平和と安定を確かなものとするためには、現実主義を基調にして世界の平和創造に能動的に取り組む外交・安全保障政策の推進が不可欠だ。

 このような認識のもと、我が国自身の防衛力を構築するとともに、外交・安全保障の基軸である日米同盟をいっそう深化させる、アジア太平洋諸国との関係強化に努める、開発援助や国連平和維持活動などの分野で地域や世界の平和と安定や人間の安全保障の確保にも貢献する―という基本的な考え方に立脚し、尖閣諸島、北方領土、北朝鮮をふくめ着実に外交を推進していかなければならない。

 対米従属、軍事偏重、外交不在が日本の外交の姿だという指摘はまったくあたらない。