2011年1月28日(金)「しんぶん赤旗」
日本共産党の志位和夫委員長が、27日の衆院本会議でおこなった代表質問は次の通りです。
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私は、日本共産党を代表して、菅総理に質問いたします。
質問に入る前に、各地に被害をもたらしている鳥インフルエンザ問題で、政府が防疫体制の徹底、農家への補償などの対策に万全を期すよう求めるものであります。
一昨年の政権交代で国民が民主党政権に寄せた期待は、幻滅に、そして怒りへと変わっています。私は、いくつかの国政の基本問題で菅政権の問題点をただすとともに、今日の閉塞(へいそく)状況を打ち破る方策を提案するものです。
まず日本経済の危機をどう打開するかについてです。今の日本を覆う閉塞感の根源に、働く人の賃金が長期にわたって減り続けているという問題があることは、立場の違いを超えて広く指摘されていることです。民間の賃金は、ピーク時の1997年から年収で平均61万円、総額で30兆円も減りました。年収200万円以下の「働く貧困層」は1100万人まで増えました。今春就職予定の大学生の就職内定率は68・8%と過去最悪です。その一方で、大企業の内部留保――ため込み金は増え続け244兆円に達し、現金、預金など手元資金だけでも62兆円と「空前のカネ余り」になっています。
こんな異常な「賃下げ社会」でいいのかが問われています。一方で働く人の貧困の拡大、他方でごく一握りの巨大企業への富の蓄積――これがGDP(国内総生産)の6割を占める家計消費と内需を冷え込ませ、日本の経済成長を止めてしまっているのです。総理、ここにこそ日本経済の抱える最大の問題があるという認識はありますか。
国連貿易開発会議(UNCTAD)の最新の報告書は、日本を名指しして、輸出競争力を理由に人件費を抑える従来の手法から、賃上げを通じた内需拡大と雇用創出への転換を求めました。賃上げを通じて、日本が家計と内需主導の健全な経済成長を実現することは、国際的要請ともなっているのです。総理は、国連機関のこの提起をどう受け止めますか。答弁を願いたい。
この問題を、労資の問題と、政治が傍観していることは許されません。私は、「賃下げ社会」から脱却するために、政府がつぎのような総合的な賃上げ政策を「ワンパッケージ」で実行することを、提案するものです。
第一は、労働者派遣法の抜本改正、有期労働の規制強化、均等待遇のルールの確立などによって、非正規社員を正社員にすることです。低賃金で不安定な非正規雇用の拡大こそ、「賃下げ社会」の最大の要因であることは、政府の『労働経済白書』も認めています。「雇用は正社員が当たり前」のルールを確立すべきだと考えますが、いかがですか。
第二は、最低賃金を時給千円以上へと大幅に引き上げることです。そのためには、中小企業への支援の抜本的拡充が必要です。欧米では最賃引き上げのために年間数千億円もの予算を組んでいます。ところが、政府の「最低賃金引き上げに向けた中小企業への支援事業」はわずか50億円、あまりにお粗末ではないですか。中小企業への支援の抜本的拡充と一体に、時給千円以上を本気で目指すべきです。国や自治体が発注する事業での「官製ワーキングプア」をなくす公契約法を制定すべきです。答弁を求めます。
第三は、雇用の7割を支えている中小・零細企業への本格的な支援で、大企業で働く労働者との賃金格差をなくすことです。いま、中小・零細企業の労働者の賃金は、大企業の5割から7割にまで落ち込んでいます。大企業による中小・零細企業への際限ない「単価切り下げ」などが、そこで働く労働者の賃金を押し下げているのです。大企業と中小・零細企業との公正な取引のルールをつくり、労働者の賃金格差をなくすことを、産業政策の大目標の一つにおくべきではありませんか。
第四は、違法な退職強要、解雇、雇い止めをやめさせ、解雇規制のルールを強化することです。
この点できわめて重大なのは、日本航空が、経営破綻を理由に、1万6千人もの人員削減を強行したうえ、昨年末に165名のパイロットと客室乗務員の整理解雇を強行したことです。この整理解雇は、日航が1460億円もの利益をあげていること、すでに自ら設定した人員削減目標を超過達成していることだけを見ても、判例で確立している「整理解雇の4要件」を乱暴に蹂躙(じゅうりん)するものであることは明白です。
さらに、世界100カ国以上、10万人の民間パイロットで組織する国際操縦士協会は、日航が、病欠などを整理解雇の基準としたことについて、「このあしき前例が出来上がれば、乗員は体調不良にもかかわらず、職を守るために乗務に就かざるを得ない危険な状況が発生しかねない」と、安全性への深刻な懸念を表明しています。
総理は、19日、日航の稲盛会長と会談し、「私が期待した以上の成果を上げた」と称賛しました。日航の整理解雇は「整理解雇の4要件」を満たすものだと考えているのですか。「空の安全を危険にさらす」との世界のパイロットの声にどう答えるつもりですか。わが党は、総理が、無法な整理解雇を中止するよう日本航空を強く指導することを求めます。見解をうかがいたい。
つぎにTPP(環太平洋連携協定)について質問します。総理は、施政方針演説で、「平成の開国」を掲げ、TPP交渉参加にむけた協議を表明しました。
総理は、「アジアの成長をわが国に取り込む」などとのべ、その方策としてTPPを位置づけています。しかし、韓国、中国、タイ、インドネシアは、TPPと一線を画す姿勢をとっています。アジアでTPP交渉に参加している国は、シンガポール、ブルネイ、ベトナム、マレーシアだけであり、そのすべてが日本とFTA(自由貿易協定)、EPA(経済連携協定)をすでに締結している国です。したがって日本にとってTPP参加の意味あいは、米国とのFTAということになるのではありませんか。
そのことによって失うものは何か。まず何よりも国民への食料の安定供給です。TPPとは、農産物も含めてすべての品目の関税をゼロにする協定です。「関税ゼロ」となれば、食料自給率は40%から13%に急落し、コメ生産の90%が破壊され、農林水産物の生産は4兆5千億円も減少する。これは他ならぬ農水省がおこなった試算です。政府は、昨年3月に、食料自給率を40%から50%に引き上げる「食料・農業・農村基本計画」を閣議決定しています。「自給率50%」と「関税ゼロ」がいったいどうしたら両立できるのですか。具体的に説明していただきたい。
「大規模化」ですか。しかし日本で最も平均耕地面積が広い北海道と比べても、アメリカは10倍、オーストラリアは約150倍という広さであり、どうやって競争するというのですか。「戸別所得補償」ですか。しかし農産物だけで4兆1千億円もの生産減による減収を、すべて所得補償で補うのですか。その財源をどこから持ってくるのですか。どれも現実を全く無視した暴論ではありませんか。
「自給率50%」と「関税ゼロ」は、絶対に両立不可能であり、TPP参加は、農林水産業を破壊し、関連産業を破壊し、地域経済を破壊し、国土と環境を破壊し、そして国民への食料の安定供給を破壊する「亡国」の道だと考えますが、いかがですか。
もう一つ失うものがあります。それは日本の経済主権です。1月20日付で政府がまとめた「TPPに関する各国との協議」と題する報告書があります。そこには、TPPに参加するには、「全ての交渉国の同意」が必要であり、米国については「議会の同意を取り付けることが必要」だと明記されています。これから参加する国は、米国の要求を一方的にのむしかなくなるのです。TPPは、食料だけでなく、金融、保険、医療、国の公共事業への参入、看護師などの労働力の自由化も、交渉内容とされていますが、これらにかかわる日本の経済主権をすべて米国にゆだねることになるのではありませんか。これを「売国」の政治といわずして何というのか。
日本共産党は、「開国」どころか、「亡国」と「売国」のTPP参加には絶対に反対です。経済の世界化がすすむなかで、貿易の拡大はもとより当然の流れです。しかし、食料、環境、雇用など、市場まかせにしてはならない分野まで自由化一辺倒であってはなりません。とりわけ食料については、世界の大きな流れとなりつつある「食料主権」――自国の食料は自国で生産するという立場にたった貿易ルールの確立こそ強く求められています。そのことは地球的規模での食料不足と飢餓が広がるなかで、いっそう切実です。総理の見解を求めます。
総理は、施政方針演説で、「社会保障改革とともに、消費税を含む税制抜本改革」をすすめると表明しました。
しかし「社会保障改革」といいますが、菅政権が現にすすめていることは何でしょう。自公政権時代につくられた社会保障費削減の「傷あとを治す」という公約を投げ捨てただけではなく、逆に、「傷口を広げ」、そこに塩をすり込む冷酷な政策を、あらゆる分野で押しつけることではありませんか。
後期高齢者医療制度の問題で、政府が決定した「新制度」案は、75歳以上を形式だけは国保や健保に戻しつつ、引き続き現役世代とは「別勘定」にするというものです。これでは、民主党が総選挙で即時廃止すると公約した「国民を年齢で差別する仕組み」がそのまま残るではありませんか。
さらに「新制度」案には、自公政権ですら手をつけられなかった所得の少ない人への保険料軽減措置の縮小、70から74歳の窓口負担の2割への引き上げも盛り込まれています。これも、窓口負担や保険料負担の維持・軽減という民主党の総選挙公約に真っ向から反するものではありませんか。差別温存、負担増拡大の「新制度」案は撤回すべきです。後期高齢者医療制度は即時廃止し、老人保健制度に戻して差別の根を断ち、国庫支出を増額して、誰もが安心してかかれる医療制度への改革をはかるべきです。総理の答弁を求めます。
高すぎる国民健康保険料の問題も、全国どこでも大問題です。滞納世帯は、445万世帯、正規の保険証が取り上げられた世帯は152万世帯におよび、お金の心配で医者にかかれず命を落とす悲劇が後を絶ちません。
政府は、保険証取り上げなどの非道な制裁、預金・給与の差し押さえなど、生存権を侵害する取り立てを強化していますが、08年度の国保料の収納率は80%台に下落し、最低を記録しました。どんなに厳しい制裁や取り立てでも収納率向上に役立たない――保険料が高すぎて払いたくても払えないのです。それならば、自公政権が減らしつづけてきた国庫負担を増やして国保料を引き下げる――これが国保制度を持続可能にする唯一の方法であり、民主党もかつては公約してきたことではありませんか。
ところが民主党政権がおこなったことは、市町村がおこなっている一般会計からの国保会計への繰り入れをやめ、「国保料の引き上げ」に転嫁せよという通達を出すことでした。いま、市町村が独自におこなっている繰り入れの総額は3700億円に達し、それをやめれば国保料はさらに1人平均1万円もの値上げになります。高すぎる国保料にさらに追い打ちをかける通達はただちに撤回すべきです。国庫負担を増やして国保料値下げに踏み切ることを、強く求めるものです。
他方、「税制改革」といいますが、菅政権が最初に手をつけたことは何か。法人税の税率を5%引き下げ1兆5千億円もの大企業への減税のバラマキをおこなうこと、証券優遇税制の2年間延長による大資産家への減税をつづけることです。総理は、これが「雇用と投資」につながるかのようなことを言っていますが、その保障はどこにあるのですか。具体的に示していただきたい。「空前のカネ余り」にある大企業に減税しても、内部留保がさらにつみあがるだけではありませんか。
一方で社会保障の切り捨てを続け、他方で大企業への減税のバラマキをおこないながら、消費税の増税など論外というほかありません。いまとりくむべきは、社会保障を削減から拡充に転換すること、大企業・大資産家への行き過ぎた減税をただして応分の負担を求めること、米軍への「思いやり予算」をはじめ軍事費に縮減のメスを入れる改革ではありませんか。
最後に米軍基地と日本外交の問題です。総理は、沖縄・普天間基地の問題について、「辺野古移設」の日米合意をあくまで推進する立場を表明しました。しかし、「県内移設反対」「普天間基地の閉鎖・撤去」という沖縄県民の総意は、もはや揺らぐことはありません。それは、仲井真知事が「県内はすべてバッド」と否定していることからも明らかです。総理は、本気で「県内移設」が可能だと考えているのですか。県民の意思はもはや変わることはないことを率直に認め、日米合意を白紙に戻し、無条件で普天間基地の返還を求める立場に、いまからでも立つべきではありませんか。総理が説得すべきは沖縄ではありません。米国政府こそ説得すべきなのであります。
これは世界のなかで日本がどういう進路を歩むか、その選択を問う問題でもあります。基地押しつけ勢力は、尖閣問題、朝鮮半島問題、千島問題など、日本を取り巻く紛争問題をあげて、「日米安保の強化が必要だ。沖縄の基地はやむをえない」などと言いつのります。政府は、「動的防衛力」などと自衛隊を米軍とともに海外に展開する軍隊に変質させ、今後5年間で23兆5千億円にのぼる軍備増強をすすめようとしています。しかし、日本を取り巻く紛争問題の解決に必要なものは軍事同盟という“戦争力”でしょうか。国際的道理に立った“外交力”こそ必要ではないでしょうか。
そして、日本政府は、そうした“外交力”を発揮してきたといえるでしょうか。尖閣問題でも、千島問題でも、歴史的事実と国際的道理に立った外交交渉をやってきたといえるでしょうか。朝鮮半島の問題でも、対話と交渉による解決のために、憲法9条をもつ国にふさわしい外交努力を果たしてきたといえますか。対米従属、軍事偏重、外交不在こそ、日本外交の姿ではありませんか。
ここでも転換が求められています。日本共産党は、憲法9条を生かした平和外交によって東アジアに平和的環境をつくる努力を重ねつつ、日米安保条約を解消し、対等・友好・平等の日米関係への転換という目標を高く掲げて奮闘する決意を表明し、質問を終わります。