2010年7月1日(木)「しんぶん赤旗」

内需主導の健全な日本経済の発展を

BSイレブン「各党を直撃」 志位委員長が語る


 日本共産党の志位和夫委員長は30日放映されたBSテレビ「BSイレブン」の「IN side OUT〜参院選スペシャル〜」に出演し、消費税増税問題を含む日本経済のゆがみの原因と根本的打開の方向について大いに語りました。聞き手は小西克哉・国際教養大学客員教授と金子秀敏・毎日新聞論説委員で、番組サブタイトルは「各党を直撃 共産党」。その議論の行方は――。


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(写真)日本BS放送「IN side OUT」に出演する志位和夫委員長

 冒頭、小西氏が「この参院選、有権者の関心が一番高いのは?」と質問。志位氏の答えは明快でした。

消費税増税の本当の狙い――大企業減税の財源づくり

 志位 やはり消費税の問題は関心が高いですね。とくに、民主党と自民党がそろって「税率10%」を公約したことは大きな衝撃を与えています。これではくらしが成り立たない、商売が続けられない、工場がつぶれると。増税は絶対に認められないという方がかなりおられます。そして、この問題で「やむを得ないのかな」と思っている方も、本当の狙いがどこにあるのかということを話していくと変わっていきますね。

 「本当の狙いは財政再建ではないのですか」と小西氏が声を上げたのに対し、志位氏は「財政再建でもなければ、社会保障の財源でもありません」ときっぱり。次のようなやりとりになりました。

 志位 民主党のマニフェストには、「強い経済」の目玉として、法人税の税率引き下げが書いてあります。「強い財政」の目玉が消費税の増税で、これがセットで出ています。そこで、法人税をどれくらい減税するのかですが、財界筋ではいまの実効税率40%を25%まで下げろという数字が出ています。それから経済産業省が出した「産業構造ビジョン2010」という文書でも、25%という数字が出てくる。そうすると、だいたい平年度ベースで9兆円の税収の穴が開くんです。

 小西 9兆円下がっちゃうわけですね。

 志位 下がっちゃう。では、消費税を5%上げていくら新たな税収が出るかというと、11兆円です。すなわち、11兆の税収が新たにできても、法人税の穴が9兆円あるから、ほとんどがこれに使われることになります。

 小西 なるほど。

 志位 今回の消費税増税というのはたいへん悪質で、はっきり言えば大企業減税の財源づくりのための消費税増税です。これが本当の目的だということを私たちはいま訴えているんです。そうすると、「消費税は福祉のためだから仕方ないか」と思っている方も、「財政が大変だから仕方がないのか」と思っている方も、「大企業減税の財源づくりのためにやるならこれはとんでもない」と変わっていきます。

法人税は高いか――そこには“二つの仕掛け”がある

 それでも、「(法人税率)40%はやっぱり高いですよね」という小西氏。志位氏はすかさず「そういわれるが、実は日本の場合は二つ仕掛けがあるんです」と述べ、「高い」法人税をめぐる「謎解き」が始まりました。

 志位 仕掛けの一つに、大企業向けの優遇税制があります。たとえば研究開発減税などで、課税ベースが狭くなっているんです。私たちが計算してみると、大企業の上位100社の法人税の実質負担率はだいたい30%で、ヨーロッパと同じ水準なんですよ。

 小西 つまり、何かのプロジェクトを研究開発だと計上しておけば、それは法人税の対象外となる?

 志位 控除になる。それからこの優遇税制というのは、巨大企業になればなるほど効いてくるんです。外国税額控除とか連結決算などいろいろな仕掛けがあって。たとえばソニーの法人税の実質負担率は12%です。それから経団連会長を出している住友化学は16%、パナソニックは17%です。

 ここで小西氏は、「にもかかわらず、なぜ法人税減税を民主党は推進するのか」と疑問をぶつけました。

 志位 なんといっても、日本経団連の号令です。4月に「成長戦略2010」というのを出して、そこに消費税を一刻も早く引き上げろ、法人税を引き下げろとセットで言っています。非常に印象的だったのは、菅政権の発足直後、民主党幹事長が経団連の本部を訪ねて、「これからは経団連と同じ方向の成長戦略を携えていきます」と言ったことです。

 小西 なるほど。

 志位 「高すぎる法人税」というのは事実と違うという点では、もう一つの仕掛けがあります。社会保険料負担の問題です。日本の企業の社会保険料負担というのはヨーロッパと比べてずっと低い。企業が払っているのは税金だけでなく、社会保険料負担と両方でしょう。ですから税と社会保険料を込みで計算しますと、これは昨年12月に政府が出した数字ですが、日本の大企業の負担は、たとえばフランスの7割です。大企業の負担が重すぎるというのは財界の作り事なんです。それを財界にハイハイと言って、民主党は今度、大企業の法人税減税とセットで消費税の増税を出してきたわけです。

 この問題では金子氏が、「(民主と自民で)増税をするための翼賛体制をつくろうというのが今度の選挙ですよね」と発言。一方、小西氏からは、「共産党はどう財政再建をするのですか」と質問が出て、こんなやりとりになりました。

財源論――軍事費の無駄削り、相応の負担求めてこそ

 志位 民主党の人たちは「事業仕分け」を華々しく言うけれども、仕分けの対象になっていないものがあります。5兆円の軍事費です。

 小西 なるほど。

 志位 軍事費の中でもまず、正面装備です。たとえばヘリ空母とか、新しいイージス艦とか。こういうものは必要ない。わけても米軍への「思いやり予算」や米軍再編費などは3370億円で、民主党政権になって史上最大になりました。こういうものは必要ない、ここにきちんとメスを入れるというのが一つです。

 それからもう一つは、大企業と大資産家に対する優遇税制、とくに行き過ぎた減税を見直すことです。大企業と大資産家には世間並みの負担、もうけ相応の負担をしてもらう。大資産家についていうと、日本では証券優遇税制というのがあります。株の取引とか配当にかかる税金は10%しかない。本則はもともと20%ですが、いまは100億円もうけても10億円払えばすむんです。こんなに大資産家優遇の税制をやっている国はありません。私が外国特派員協会で話したらみんなびっくりしました。アメリカでも30%ですから。私たちはまず、20%の本則に戻して、それから富裕層は30%にすると主張しています。これで兆という単位のお金が出てきます。

 志位氏の説明を受けて小西氏は、「企業は最低限のギリギリのマージンで動いているというイメージがあるが、実は余裕があるんですか」と声を上げ、やりとりはつづきます。

 志位 ギリギリではありません。この10年間の日本経済の全体の大きな動きを見ますと、だいたい大企業の利益は、15兆円から三十数兆円に倍以上になっています。ところが、働く人の賃金は総額で1割減っている。ずっと雇用者報酬は減っているんです。そのためにGDPは10年間まったく伸びず、成長が止まっているんです。ではいったい、大企業がそれだけもうけたお金はどこに回ったのか。大企業の内部留保になっているんですよ。だいたい142兆円から229兆円に内部留保が増え、ようするにため込み金になっている。

 リーマン・ショックの後に若干、内部留保は下がったけれども、多くの企業はまたV字回復で、いままた内部留保を積み増しているわけです。とくに手持ちの余剰資金、たとえば現金とか預金とかすぐに使える形でのお金、これは上場企業だけで63兆円もあります。日経新聞が「空前のカネ余り」と書きました。

政府の経済政策――内需冷えこませる荒唐無稽

 小西 菅首相は、消費税を上げて税金を取っても、それを新しい成長分野に投資をする、介護、医療とかで雇用を生み出すといっていますが…。

 志位 荒唐無稽(むけい)ですね。

 小西 僕らの常識でもちょっとなかなか理解しがたい。

 志位 消費税を上げるということは、その分だけ国民の所得を奪うということです。消費税を5%上げれば、12兆円の増税です。12兆円の所得がガボッと減るんですから。

 小西 でも、(菅首相は)雇用を生むところに投資すると。

 志位 投資したって、所得がガボッと減ったら内需そのものが冷え込んで、消費そのものが冷え込むではないですか。需要のないところに投資は生まれません。消費税を増税して景気がどうなったかといえば、かつて1997年に橋本内閣のもとで3%から5%にしたでしょう。あのときは医療費の値上げも一緒で、年間9兆円の負担増でしたが、ちょっとよくなりかけた景気が真っ逆さまに悪くなりましたよね。橋本さん自身も、増税が景気悪化の原因だったと認めました。2%でそうですから、5%で景気がよくなるなんて、本当に荒唐無稽としかいいようがありません。

 小西氏からは、日本共産党の雇用政策への質問がつづきます。

 志位 菅さんは「雇用を生む」「雇用を生む」とよくいいますが、たとえば環境だとか福祉とか、そういうところに新しい雇用を生み出していくことは大事だと思います。

 同時に、私たちは、非正規から正規への雇用の転換、これこそ一番大事だと思うのです。いま、働いている人の3人に1人は派遣とかパートなどの非正規雇用労働者です。若者や女性の2人に1人は非正規雇用です。ヨーロッパでは労働者全体の1割前後ですから、日本はまったく異常です。私たちは、派遣労働に象徴されるような「使い捨て」労働をなくして、雇用は正社員が当たり前の社会にすることを、雇用問題の中心に据えています。それによって、安定した雇用と、安定した収入を確保・保障するということです。

 小西氏は、ヨーロッパの雇用環境が、財政赤字などに影響しているのではと指摘しましたが――。

雇用――国内で内需を壊してきた大企業の身勝手

 志位 それは逆ですね。財界はよく、労働者の賃金を上げたり、正社員を増やしたりすると企業は逃げ出すと言います。税金の問題でも同じで、税金が高いから逃げていくんだと脅しますよね。

 しかし、これも政府(経済産業省)の統計なんですけれども、企業が投資のポイントをどうやって選ぶかを調査したものがあります。そこでは大企業製造業の70%が、「需要を求めていく」としています。これがダントツの第1位の理由です。つまり、需要のあるところに投資をするということです。ですから、何で国内に投資しないのかといえば、国内の需要が冷え込んでいるから、内需が冷え込んでいるからなんですよ。それで海外に投資し、空洞化が起こるんです。

 それではだれが内需を冷え込ませたかといったら、自分自身です。つまり、大企業が自分たちはもうけを上げる、ところが労働者は派遣に置き換える、あるいは賃下げをやる、リストラをやる、中小企業は単価の買いたたきをやる。こうやって内需をずっと痛めつけてきて、日本では投資をする先がなくなって、海外に出て行っているわけですよ。

 だから、海外に出て行く理由として、日本の労働コストが高いとか、税金が高いとかいうのは財界の作り事です。アメリカと比べたって労働コストは高くありませんから。税金もヨーロッパに比べてさっき言ったような状況ですから。彼らは日本に内需がないから需要を求めて海外に行くんです。

 ここで小西氏が「どうです金子さん、この話は説得されていいんですかね(笑い)」と振ると、金子氏は、「そうですね。産業構造調整とワンセットで賃金の調整をしなければいけないのに、とにかく(大企業を)外へ出す、あるいは派遣労働者に切り替えるということをこの20年間やってきたんですよね」と応えました。さらに話題は日本共産党の経済改革へとつづきます。

経済改革――大企業規制のルールづくりで巨額の内部留保と利益を還元させる

 志位 企業の内部留保がどういう形で現存しているかを調べてみましたが、この10年間で国内の設備投資はまったく増えていないんです。つまり、国内の設備投資、国内の土地とか機械とか、そういう形で現存している内部留保はまったく増えていないんです。どこが増えているかというと、企業買収など海外での投資です。

 小西 なるほど。

 志位 つまり、国内で労働者からお金を吸い上げる、国内で中小企業をたたいて、下請けいじめをやって吸い上げる。これを国内で投資しないで、海外に行って荒稼ぎすると。こういうやり方を大企業はやっているわけです。

 小西 共産党はそういった大企業の行動をどうするんですか。

 志位 国の経済のことを考えずに身勝手な荒稼ぎをすることを規制するルールをつくります。たとえば労働者派遣法を抜本改正して派遣労働を「抜け穴」なしに規制すれば、正社員に置き換えざるを得なくなる。あるいは、大企業と中小企業との関係でも、下請けの単価たたきなどをやめさせる公正な取引のルールをつくる。そういうことをやれば、巨額の内部留保と利益が雇用と中小企業に還元されます。還元されれば内需が活発になります。そして内需主導の健全な経済をつくっていく。これが日本共産党版暮らし応援の“成長戦略”です。