2010年6月15日(火)「しんぶん赤旗」
日本共産党の志位和夫委員長が14日、衆院本会議で行った代表質問は次の通りです。
私は、日本共産党を代表して、菅総理に質問いたします。
まず冒頭に、宮崎県の口蹄(こうてい)疫問題について質問します。事態はきわめて深刻であり、被害のさらなる拡大を許せば、日本の畜産に壊滅的な打撃を与えることになります。被害拡大の防止は、感染家畜の殺処分と埋却をいかに迅速に行うか、ウイルス拡散を防ぐ消毒措置をどれだけ徹底して行うかにかかっています。これまでの数倍の取り組みが必要であり、国の責任であらゆるマンパワー(人的資源)を集め、対策を行うべきです。手塩にかけて育ててきた家畜が殺処分される被害畜産農家の苦悩は筆舌につくせないものがあります。被害農家の経営と生活を守るために、政府はあらゆる施策をつくすべきです。総理の答弁を求めます。
さて総理。あなたの前任者――鳩山前総理は、わずか8カ月余で退陣に追い込まれました。「政治を変えてほしい」という国民の期待と、自ら掲げた公約を裏切ったことに対する、国民の大きな怒りが政治を動かしました。鳩山政権を引き継いだ菅政権は、国民の怒りをきちんと受け止め、反省すべきは反省するという姿勢で出発すべきです。
ところが総理の姿勢はどうでしょう。総理は、所信表明演説で、鳩山前総理の辞任によって、普天間基地問題、「政治とカネ」の問題は、「けじめ」がついたとのべました。総理は、この二つの問題は、首相が交代したことで、一件落着と考えているのでしょうか。もしそうだとすると、とんでもない認識違いといわなければなりません。
まず「政治とカネ」の問題です。民主党の小沢前幹事長の疑惑は、政治資金収支報告書へのウソの記載の問題にとどまりません。ゼネコンからヤミ献金を受け取っていたのではないか、公共事業という国民の税金で行われる事業を食い物にしていたのではないかという、それが刑事訴追の対象となるかいかんにかかわらず、けっして看過してはならない政治的道義に関する疑惑が問われているのです。
ところが、小沢氏は、証人喚問にも参考人招致にも応じず、国会の場でただの一度も説明をしていません。これだけの重大な金権疑惑がもちあがったときには、自民党政権のもとでも、証人喚問や参考人招致など何らかの対応がとられてきたものでした。ところが民主党政権のもとでは、それらの対応が何一つおこなわれていないのです。
総理に端的にうかがいます。総理は、小沢前幹事長の巨額の政治資金をめぐるさまざまな疑惑は、一点の曇りもなく晴らされたという認識なのですか。そうでないと言うなら、国民への説明責任を果たすために小沢氏にたいして自らすすんで証人喚問に応じるよう指示するなど、民主党代表としてのリーダーシップを発揮すべきではありませんか。その覚悟、意思はありますか。答弁を求めます。
つぎに沖縄・普天間基地の問題について質問します。総理は、所信表明演説で、日米合意にもとづく普天間基地の県内移設――名護市辺野古の美しいサンゴの海を埋め立てての巨大基地の建設を、「何としても実現しなければなりません」と宣言しました。
総理は、「沖縄の負担軽減に尽力する」とのべましたが、巨大基地の建設をおしつけながら、「負担軽減」を言ってもむなしいだけです。日米合意では、鹿児島県徳之島と日本本土に米軍の訓練を分散するとしていますが、これは沖縄の負担軽減にはまったくならず、基地被害を全国に拡大するだけです。そのことは、2006年の日米合意で、米軍機の訓練を本土に分散移転するとされた嘉手納基地に、世界各地から米軍機が多数飛来するようになり、基地被害がかえって深刻になったという事実からも明らかです。
民主党政権が、「移設先探し」の果てに米国と合意した方針は、自公政権時代の方針に戻ったというだけでなく、基地被害の分散・拡大という点で、より悪い方針となったといわなければなりません。
私がまずただしたいのは、こんな方針が、沖縄県民の合意を得ることができると、総理が本気で考えているのかということです。
沖縄では、4月25日に、9万人が集った県民大会が開かれ、沖縄県知事、県内41自治体のすべての市町村長(代理を含む)が参加し、普天間基地の閉鎖・撤去、県内移設反対が、県民の文字通りの総意として確認されました。私も、この県民大会に参加して、米軍基地への怒りが沸騰点を超えたと肌身で感じました。基地に隣接する普天間高校で学ぶ女子生徒のつぎの訴えは、ひときわ胸をうつものでした。「学校までの通学路は、どこまでも長い基地のフェンスが続きます。基地から上がる星条旗が見えます。いったいフェンスで囲まれているのは基地なの。それとも私たちなの」。米軍は自由であり、沖縄の人々は自分たちの島に住みながら不自由を余儀なくされていることを、痛切に告発した言葉でした。
5月28日、政府が、名護市辺野古への「県内移設」の日米合意を、沖縄県民の頭越しにかわしたことは、沖縄県民の怒りの火に油を注ぎ、島ぐるみの団結をいっそう強固なものとする結果となりました。日米合意の直後に、琉球新報と毎日新聞が合同でおこなった県民世論調査では、辺野古移設に反対が84%と圧倒的多数となりました。さらに、日米安保条約について、「維持すべき」と答えたのはわずか7%にまで落ち込み、「平和友好条約にあらためるべきだ」「破棄すべきだ」は合計で68%となりました。「民意無視への失望顕著」「安保の根幹に矛先」――琉球新報は大きな見出しでこの結果を報じました。
沖縄のこの怒りは、けっして一過性のものではありません。そこには凄惨(せいさん)な地上戦を体験し、占領下で民有地を無法に強奪され、戦後65年にわたる基地の重圧が、忍耐の限界を超えているという歴史の累積があります。沖縄県民の心には、共通して刻まれている痛ましい事件、事故があります。1955年には、6歳の少女が、強姦(ごうかん)され、殺されて、海岸に打ち捨てられました。1959年には、小学校に米軍ジェット機が墜落・炎上して、児童11人を含む17人が亡くなりました。1965年には、米軍機から落下傘で落とされたトレーラーが民家を直撃し、少女が自宅の庭で押しつぶされて死亡しました。1995年には、少女への暴行事件が、島ぐるみの怒りをよびおこしました。2004年には、普天間基地に隣接する沖縄国際大学に米軍ヘリが墜落し、あわや大惨事という事故が起こりました。これらは沖縄県民ならば誰もが知る、忘れることができない、共通して心に刻み込まれた悲劇です。この長年の基地の重圧、悲劇の累積が、いま抑えようもなく噴き出しているのです。
総理。沖縄の情勢は決して後戻りすることはない限界点をこえた、県民の総意に逆らう県内移設という方針では絶対に解決は得られない、県民の合意を得ることは絶対に不可能な方針だ――この事実を直視すべきではありませんか。訓練の移設先とされた徳之島も島ぐるみで反対の意思を表明しています。これらの事実を直視するならば、普天間問題の解決の道は、移設条件なしの撤去――無条件撤去しかないことは明らかではありませんか。
私は、4月末から5月上旬にかけて米国を訪問し、米国政府にたいして、沖縄県民の声を伝え、沖縄の苦難の歴史を伝え、普天間問題の解決の道は無条件撤去しかないということを、率直に伝えました。先方とは、意見の厳しい対立がありましたが、沖縄県民の声を米国にありのままに伝える。これこそが問題解決の出発点ではないでしょうか。
私は、総理が、辺野古移設を決めた日米合意を白紙撤回するとともに、沖縄県民の苦難、沖縄県民の声を、米国政府に率直に伝え、普天間基地の無条件撤去を求めて米国と本腰の交渉を行うことを強く要求します。総理の答弁を求めます。
私がさらにただしたいのは、総理自らがこれまで沖縄県民に対してのべてきた言明にてらして、日米合意をどう説明するのかということです。
総理は、民主党幹事長だった2001年7月、沖縄での記者会見や演説で、「海兵隊は即座に米国内に戻ってもらっていい。民主党が政権を取れば、しっかりと米国に提示することを約束する」などと明言しています。
さらに総理は、民主党代表代行だった2006年6月1日の講演で、つぎのようにのべています。「よく、あそこ(沖縄)から海兵隊がいなくなると抑止力が落ちるという人がいますが、海兵隊は守る部隊ではありません。地球の裏側まで飛んでいって、攻める部隊なのです。……沖縄に海兵隊がいるかいないかは、日本にとっての抑止力とあまり関係がないことなのです。……(米軍再編では)沖縄の海兵隊は思い切って全部移ってくださいと言うべきでした」
この発言は、真実をのべています。4年前に総理がのべたように、海兵隊とは日本の平和を守る抑止力ではありません。その展開先が、イラクやアフガニスタンであるという事実が示すように、世界に攻め込む侵略力なのです。
総理に問いたい。あなたが実行を誓った日米合意には、沖縄の海兵隊について「日本を防衛し、地域の安定を維持するために必要な抑止力」と明記しています。なぜ総理は、4年前には自ら否定していた「海兵隊は抑止力」という立場に立つことになったのですか。「民主党が政権を取ったら沖縄の海兵隊は米国内に戻ってもらう」という県民への「約束」はどうなったのですか。沖縄県民が納得できる説明を求めます。それができなければ、総理は、ただ米国言いなりに、自らの主張さえ投げ捨てたというそしりを免れることはできないということを、きびしく指摘しなければなりません。
つぎに国民生活と日本経済について質問します。総理は、所信表明演説で、「強い経済」「強い財政」「強い社会保障」の一体的実現をはかることを強調されました。問題は誰にとって「強い」のか。これが問われます。
まず経済のあり方です。この10年間、日本経済は、長期の低迷と後退から抜け出せずにいます。日本は、主要先進国でただ一つ、GDPが伸びない「成長の止まった国」になり、ただ一つ、雇用者報酬が減った「国民が貧しくなった国」になってしまいました。10年間に、大企業の利益は2倍以上に急増したにもかかわらず、働く人の賃金は1割も減り、大企業の内部留保が142兆円から229兆円へと膨れ上がりました。
このゆがみは、民主党政権のもとで、いっそうひどくなっています。大企業は、今年の3月期決算で軒並み黒字決算を計上し、「V字回復」を達成しました。不況の影響で売上高は大幅に減少しましたが、「派遣切り」「下請け切り」などの徹底したコスト削減によって、黒字を回復したのです。空前の大リストラによって得た大企業の利益は、またもや内部留保としてため込まれ、現金、預金などの手元資金だけでも過去最高の63兆円も積み上がり、大企業は「空前のカネ余り状態」です。その一方で、失業、倒産、賃下げはますます深刻です。
総理は「強い経済」と言いますが、「大企業をもっと強くする、そうすればその利益がいずれは国民の暮らしにまわり、経済も成長する」――こうした経済政策の破たんはいまや明らかです。大企業を応援する経済政策から、国民生活を応援する経済政策への大本からの転換が必要だと考えますが、総理にその意思がありますか。
そのためには、人間をモノのように「使い捨て」にする労働をなくし、「雇用は正社員が当たり前」の社会をつくることは、最優先の課題です。ところが政府が国会に提出した労働者派遣法「改正」案は、「製造業派遣、登録型派遣の原則禁止」と言いながら、「常用型派遣」や「専門業務」を「禁止の例外」にするなど、「抜け穴」だらけの「ザル法」となっています。財界の圧力に屈した結果です。派遣法は、「抜け穴」なしの抜本改正案を、つぎの国会に出し直すべきだと考えますが、いかがですか。
中小企業は、雇用の7割を支える日本経済の根幹です。ところが、「仕事がない」「単価の切り下げ」など、多くの企業が倒産・廃業に追い込まれています。下請け中小企業に対する「買いたたき」「一方的な発注打ち切り」など、現行下請法をも踏みにじった大企業の無法を一掃するために、政治が強いイニシアチブを発揮すべきです。下請法、独占禁止法を改正・強化し、大企業と中小企業の公正な取引のルールをつくるべきです。東京大田区、東大阪市など、日本を代表する町工場の集積地が危機的状況にあります。高い技術力をもち、日本の産業を土台から支えている町工場は日本の宝であり、その灯を消してはなりません。家賃・機械のリース代など固定費への直接補助に踏み出すべきです。総理の答弁を求めます。
つぎに社会保障についてです。総理の言う「強い社会保障」が、自公政権がすすめた社会保障費削減路線によって弱体化された社会保障を立て直すという意味であるならば、自公政権が社会保障制度に残した「傷跡」を治すことが、第一の仕事になるはずです。
ところが、自公政権が残したもっとも大きな「傷跡」の一つである後期高齢者医療制度について、所信表明演説では一言も触れられませんでした。総理には、鳩山前総理を退陣にまで追い込んだ国民の怒りの大本に、「差別医療制度はただちに廃止」という公約を反故(ほご)にし、4年後まで「先送り」にするとした裏切りがあったという反省はないのですか。しかも民主党政権のもとで、後期医療制度に代わる「新しい制度」として、「65歳以上の高齢者は、全員国保に加入させたうえで、別勘定にする」という制度が検討されていることは重大です。特定の年齢以上の高齢者を、「別勘定」にして、重い負担と給付削減を押し付ける。ここに「姥(うば)捨て山」との批判が集中したのではありませんか。「姥捨て山」の“入山年齢”を75歳から65歳に引き下げるとんでもない「新制度」に国民の理解が得られると考えているのですか。日本共産党は、後期高齢者医療制度はただちに廃止し、75歳以上の高齢者の医療費を無料にすることを強く求めるものです。
医療費の窓口負担を3割に引き上げたことも、自公政権が残した重大な「傷跡」です。重すぎる窓口負担に多くの国民が悲鳴をあげ、深刻な受診抑制が起きています。欧州諸国など多くの先進国では、窓口負担は無料または少額の定額制であり、入通院とも3割負担は日本だけです。民主党は、小泉内閣がすすめた3割負担への引き上げに反対し、日本共産党とともに「3割負担撤回法案」を提出しました。総理が、民主党の代表を務めていたときです。あなたがつくった2003年総選挙マニフェスト――「菅マニフェスト」では、「受診抑制を解消し、早期発見、早期治療を促進するためにも、……健保本人の医療費自己負担は2割に引き戻す」と書いてあります。総理、この公約を実行する意思はありませんか。
緊急課題として、いま一つ提起したい。B型肝炎問題です。2006年6月16日に最高裁において、集団予防接種における注射器の回し打ちによる感染被害として国の責任が断罪されてから4年を迎えます。この間、政府の謝罪さえ聴くことができないまま10人の原告が亡くなっています。全面解決は文字通りまったなしです。政府が、裁判所の勧告を受けて、和解協議に応じる態度を表明しながら、具体的な解決策は何ひとつ示していないことに、強い批判が集中しています。国の責任をはっきり認め、政府として患者のみなさんに謝罪するとともに、早期全面解決のために、具体的な解決策を示し、誠実に協議を開始すべきです。総理にその意思はありますか。
最後に、財政についてです。日本経団連は、今年4月に発表した「経団連 成長戦略 2010」で、財政再建のための税制改革として「消費税を一刻も早く引き上げ(る)」ことを求める一方で、法人税の引き下げを求めています。しかし、そもそも、消費税という税金を払っているのは、販売価格に転嫁しきれずに身銭を切って税金を納めている中小業者と、消費者・国民であって、価格に転嫁する力をもつ大企業は1円も負担しない税金です。財政再建のツケは、すべて国民が払え、大企業は1円も出さない、もっと税金をまけろ――総理、これはあまりに身勝手な要求だと思いませんか。
一昨日、民主党の参院選公約には、「法人税率引き下げ」とともに、「消費税を含む税制の抜本改革をおこなう」ことが明記されるとの報道がなされました。総理、あなたの言う「強い財政」とは、大企業減税の穴埋めに消費税増税をおこなうという、財界の身勝手につき従うということなのですか。しかと答弁いただきたい。
「財政再建」、「社会保障財源」を真剣に考えるならば、まず年間5兆円にのぼる軍事費にこそ削減のメスを入れるべきです。米軍への「思いやり予算」やグアム移転費用など、過去最大3370億円に膨れ上がった米軍関係予算は撤廃すべきです。行き過ぎた大企業と大資産家への減税を見直し、応分の負担を求めるべきです。大企業の過剰な内部留保と利益を、雇用と中小企業に還元し、内需を活発にすることで、日本経済を健全な発展の軌道にのせ、税収を確保する経済政策をとるべきです。
大企業減税の穴埋めに消費税増税という道は、財政再建にも、社会保障財源にも役立たず、庶民の暮らしを破壊し、景気を破壊し、日本経済の危機をいっそう深刻にするものとして、日本共産党は、断固として反対することを表明して、質問を終わります。