2009年10月30日(金)「しんぶん赤旗」

新政権 見えない「転換」

志位委員長代表質問

暮らし・平和 “要”の問題迫る


 国民の暮らしから安心と希望を奪った旧来の政治からの転換をはかることができるかどうかが、鳩山新政権に問われている――。29日の衆院本会議で日本共産党の志位和夫委員長はこう述べて、「いま強く転換が求められている肝心要の問題」について首相の見解をただしました。首相から、自公政治からの転換の中身は示されたのか――。


雇用 正社員が当然の社会に

首相 通常国会に派遣法改正案

写真

(写真)鳩山首相の所信表明演説に対し、代表質問をする志位和夫委員長=29日、衆院本会議

 自公政治のもとで進んだ「人間らしい雇用の破壊」をどうただすかは、「転換の要」中の「要」です。志位氏はこの問題で、「二つの喫緊の課題」をあげました。

 一つは、失業者とその家族をホームレスにしない取り組みです。

 志位氏は、(1)失業給付の緊急延長(2)求職活動中で困窮しているすべての失業者への生活・住居支援の拡充(3)中小企業への雇用調整助成金の抜本的拡充―の三つの対策を提案し、政府の決断を迫りました。

 二つ目は、大企業の横暴を抑え、人間らしい労働のルールを再構築することです。

 エコカー減税による増産に非正規雇用の復活で対応するトヨタの例を挙げ、「大企業の横暴勝手を許していいでしょうか」と追及。「『雇用は正社員が当たり前の社会』をめざすべきだ」と述べ、労働者派遣法の抜本改正を求めました。

 鳩山首相は「企業が安易な雇用など行わないよう、労働関係法令順守の指導を徹底していく」と前向きに答弁。派遣法の改正でも、「(所信表明では)逐一触れていないが重要性に関しては十分に認識している」と述べ、来年の通常国会への法案提出を初めて言明しました。

沖縄新基地 一喝され迷走 これで対等か

首相 米軍の抑止力も必要

 外交では、「アメリカとどう向き合うのか」が、旧来政治からの「転換の要」です。その重大な試金石が、日米間の不平等の象徴である沖縄の米軍普天間基地問題にあると指摘し、沖縄県民の思いを受けとめ、従属外交を転換した対米交渉を強く求めました。

 鳩山首相は、総選挙中の党首討論で、普天間基地「移設」について「県外移設か国外移設」と明言しました。ところが、20、21両日に来日したゲーツ米国防長官が、日米合意をたてに同県名護市辺野古への新基地建設を強圧的態度で求めて以来、公約を覆す発言が閣僚から相次いでいます。

 「米国に一喝されたら、態度を変え公約を覆す。こんなことでどうして対等の日米関係といえるのか」―志位氏は、自公政権時と変わらない対米従属の姿勢をただしました。

 辺野古への基地移設方針が持ち上がって13年。各種世論調査では基地建設反対が圧倒的です。

 「新基地建設のための杭(くい)を一本も打たせていない事実にこそ、沖縄県民の意思は示されている」―こう力説した志位氏は、「危険きわまりない普天間基地の即時閉鎖、県内移設・新基地建設は許さないという県民の思いをしっかりと受けとめ、本腰を入れた対米交渉を行え」と迫りました。

 首相は、「沖縄の思いをしっかり受けとめる」「日米間で真剣に取り組んでいく」と答えながらも、「在日米軍の抑止力も安全保障上必要だ」「過去の日米合意もある」と指摘し、「真剣な検証を行っている。最終的には私自身が決める」と述べるだけ。「対米従属政治とはまったく思っていない」と弁明しました。

後期医療 延命は痛み増すだけ

首相 「廃止」いいつつ先送り

 社会保障での政治変革の「要」は、自公政権がすすめた削減路線を拡充に転換することです。

 志位氏は削減路線の「最悪の象徴」として、世界に例のない年齢での差別を持ち込んだ後期高齢者医療制度をとりあげ、鳩山首相が「新しい制度」ができるまでは廃止しないという「先送り」方針なのかとただしました。

 昨年5月に4野党(民主・共産・社民・国民新)が共同提出した廃止法案は、制度をただちに廃止して老人保健制度に戻すとし、民主党の答弁者もそれが「非常に重要」としていたのです。

 ところが鳩山首相は、「まさに年齢で人間を差別する、大変けしからん制度」と述べて「廃止」を明言しつつ、「たびたび見直して混乱を生じてはいけない」などとして、老人保健制度に戻すことは拒否。「新制度」への移行を「先送りではない」と弁解しました。

 しかし、志位氏が指摘したように、「延命させればさせるだけ『差別への怒り』を広げ、2年ごとの保険料引き上げという痛みを増す」のが後期高齢者医療制度。「多くの高齢者から『とても4年も待てない』と強い怒りの声が上がっている」のです。実際、厚労省は来年4月には保険料が全国平均で10・4%上がると試算しています。

 「この制度をすみやかに廃止することこそ、混乱の原因を大本から取り除く解決策」(志位氏)です。

財源 「思いやり」予算メスを

首相 「包括的見直し」言及したが…

 「いったい財源は大丈夫か」―。志位氏は国民に広がる不安の声を取り上げて、(1)税金の使い道の優先順位(2)財源を庶民増税に求めるべきでない(3)軍事費、大企業・大資産家優遇をひきつづき「聖域」とするのか―の3点を質問。「聖域」にメスを入れる問題で、米軍への「思いやり」予算と証券優遇税制を取り上げました。

 米軍への「思いやり予算」は、概算要求では、自公政権時代と同じ水準の1919億円。志位氏は「日米地位協定上も支払う義務のない『思いやり予算』に切り込む意思はあるのか」と迫りました。

 鳩山首相は「包括的な見直しが必要」と初めて言及しましたが、概算要求額についてはなにもふれませんでした。

 また、証券優遇税制の問題では、現在日本では株取引などで得た所得に対する税率はわずか10%。アメリカの25%やフランスの30%と比較して、格段の低さです。

 志位氏は「汗水たらして働いて得た所得より、濡(ぬ)れ手で粟(あわ)の不労所得のほうが税金が軽いというのは異常」と追及。鳩山首相は「時限的措置」と述べたものの、「政府税調でしっかりと議論したい」とするだけでした。

 財政問題で新政権の弱点が浮かび上がりました。

農業 歯止めない自由化反対

首相 FTAなど国際交渉を推進

 志位氏は、「食料自給率が4割にまで落ち込んだ日本農業をどう再生させるか、日本国民の存亡がかかった大問題」とし、歯止めのない輸入自由化からの転換が「要の問題だ」と強調しました。

 EU(欧州連合)20%、ブラジル35%、韓国62%…。志位氏は、他国の農産物の平均関税率もあげ日本の関税率12%が異常に低いという認識があるかと追及。民主党がマニフェストに明記した自由貿易協定(FTA)の「促進」が不安と怒りをよびおこしているとして、「これ以上の輸入自由化、関税撤廃を絶対に行うべきではない」と力説しました。

 志位氏は、政府の「関税撤廃とセットの戸別所得補償制度では、穴のあいたバケツに水を注ぐようなもの」と批判。「農産物の価格保障と所得補償を組み合わせ、再生産が可能な農家収入を保障することと、関税など国境措置の維持・強化を進めることが必要だ」と提起しました。

 これに対し鳩山首相は「戸別所得補償制度は、決して関税の撤廃が前提ではない」と述べながら、「FTAやWTO(世界貿易機関)などの国際交渉の推進」と「食料自給率の向上、農業、農村地域の振興を損なわない」と両立不可能な立場を表明しました。