2009年1月31日(土)「しんぶん赤旗」

志位委員長の代表質問 衆院本会議


 日本共産党の志位和夫委員長が、三十日の衆院本会議でおこなった代表質問は次の通りです。


急速な「非正規切り」――「政治災害」だという認識と反省はあるか

写真

(写真)代表質問する志位和夫委員長=30日、衆院本会議

 日本共産党を代表して麻生総理に質問します。

 まず雇用問題についてです。いま景気悪化のもとで、大企業が競い合って「派遣切り」「期間工切り」をすすめ、きわめて深刻な社会問題を引き起こしています。

 この年末・年始に、市民・労働団体によって東京・日比谷公園に「年越し派遣村」がつくられ、全国から集ったボランティアの力によって、労働者の命をつなぐ働きをしました。しかし、「派遣村」が支援できたのは、極限の貧困状態に突き落とされた人々のごく一部です。その何十倍という人々が、寒空のもとで公園や路上でのホームレス生活をしいられ、その数はやむことなく拡大しています。

 私が、総理にまずただしたいのは、こうした事態を引き起こした政治の責任をどう自覚しているのかということです。従来の不況では、まず株価が下落し、続いて需要が落ち込み、雇用悪化は遅れて起こっていました。ところが今回は、株価暴落と同時に、大企業が先を争うように「非正規切り」をはじめ、すでに深刻な雇用破壊が社会を覆っています。

 なぜこのような急激な「首切り」が引き起こされたのか。歴代自民党政権が、一九九九年の派遣労働の原則自由化と二〇〇四年の製造業への拡大など労働法制の規制緩和をすすめ、「いつでも首切り自由」の非正規労働者を急増させたことが、急激な「首切り」を引き起こす原因となったことは明らかではありませんか。いま起こっている事態は、政治の責任で引き起こされた「政治災害」だという認識と反省が必要だと考えますが、いかがですか。

職を失ったすべての人々に住居と生活と再就職の支援を

 「政治災害」であるならば、政治の責任で解決すべきです。私は、政府が、つぎの三つの仕事に同時並行でとりくむことを強く求めるものです。

 第一は、「派遣切り」「期間工切り」によって職を失ったすべての人々に、住居、生活、再就職の支援をおこなうことです。

 「派遣村」は、政府の失業者対策が、まともに機能していない実態を明るみにだしました。寒空のもとに放り出され、命の危険にさらされている人々を救済するために、全国に一時避難所を開設し総合相談窓口を設置すること、再就職を支援する緊急小口貸付資金を思い切って拡充すること、「住所不定」状態に突き落とされた人々も含めて再就職にむけた緊急避難として生活保護をおこなうことを強く求めます。

 雇用保険の受給者の割合が失業者の20%台に落ち込み、多くが生活保護によってしか救済できないというのは、異常な事態です。雇用保険の六兆円を超える積立金を活用し、未加入者も含めたすべての失業者に雇用保険による支援がゆきわたるよう制度の抜本的拡充をおこなうことも急務であります。以上の諸点について、総理の見解を求めます。

これ以上の被害者を出してはならない――大企業への本腰を入れた監督・指導を

 第二は、これ以上の大量解雇による被害者を出さないために、大企業への本腰を入れた監督・指導をおこなうことです。

 いま大企業がすすめている大量解雇は、やむを得ないものでは決してありません。昨年末、共同通信社が、トヨタやキヤノンなど、日本を代表する大手製造業十六社が、四万人を超える人員削減をすすめながら、この六年半で内部留保――ため込み金を十七兆円から三十三兆六千億円へと過去最高にまで増やしている事実を報じました。このわずか0・4%を取り崩しただけで、四万人を超える人員削減計画は撤回できます。だいたい、誰のおかげでこれだけのため込み金が積み上がったのか。正社員を減らし、派遣や期間工に置き換え、それらの人々の血と汗と涙の上にため込んだお金ではありませんか。そのごく一部を雇用を守るためにあてることは、企業の当然の社会的責任だと考えます。総理の見解を問うものです。

 さらに、共同通信社の調査では、この不況下でも、大手十六社のうち五社が株主への配当を増やし、五社は配当を維持しています。残る六社は未定で、配当を減らす企業は一社もありません。大株主への配当を増やしながら、労働者の首を切る。私は、これは資本主義のあり方としても堕落だと考えます。総理はどうお考えでしょうか。

 大企業による非正規労働者の大量解雇の多くが、現行法のもとでも違法なものであることもきわめて重大です。たとえば、政府の調査でも、非正規社員の解雇計画の44%が契約途中の解雇となっています。しかし、労働契約法では、派遣社員であれ、期間社員であれ、有期雇用の契約途中の解除は、正社員の解雇よりも厳しい条件のもとでしか許されないとされており、多くが違法解雇だと考えられます。契約途中の解雇のうち、政府が違法解雇として是正を求めたもの、解雇を撤回したものが何件あるのか、明らかにされたい。

 さらに、自動車、電機などの大企業で「雇い止め」にされた派遣労働者から、私たちに寄せられている訴えでは、偽装請負で働かされていた期間などもあわせると、四年から五年という長期にわたって同じ仕事で働かされていたケースが、少なくありません。現行法では、派遣労働は最長でも三年までと決められ、その期間をこえたら受け入れ企業は直接雇用を申し出る義務が課せられています。とうの昔に直接雇用、正社員にするべき労働者を、派遣のまま働かせたあげく、最後は一片の紙切れで解雇する。これは、違法な「雇い止め」の乱用以外の何ものでもありません。政府が「雇い止め」の乱用として、是正を求めたものが何件あるのか、明らかにされたい。

 いま必要なのは、「非正規切り」をやめさせるために、まず現行法を最大限に活用した大企業への強力な監督・指導をおこない、実効ある措置をとることであります。総理にその意思があるかどうか、答弁を求めます。

二度と「政治災害」を起こさせないための抜本的な法改正を

 第三は、二度とこうした「政治災害」を起こさせないための、抜本的な法改正であります。いま政府のなかからも、製造業の派遣の禁止という声があがっています。製造業の派遣禁止は当然ですが、それではサービス業の派遣はいいのか、物流の派遣はいいのか。どんな業種であれ、「使い捨て自由」の労働は許さない法改正こそ必要ではないでしょうか。

 そのためには、労働者派遣法を一九九九年の原則自由化前に戻し、不安定な登録型派遣は原則禁止する抜本改正がどうしても必要です。そのさい、派遣労働の大部分が、現行法でも禁止されているはずの常用雇用の代替であるという実態をふまえ、派遣として働いている労働者が職を失わず、直接雇用に移行する経過措置を設けることを提案するものです。

 未来ある若者が、懸命に働きながら、ある日突然、仕事も住居も奪われてしまうような社会に、未来はありません。人間を人間として大切にする経済社会をつくるために政治が責任を果たすときです。総理の見解を求めます。

異例の速さでの景気悪化の原因と責任をどう認識しているか

 つぎに景気対策について質問します。今回の景気悪化の特徴は、政府自身が認めているように、かつてなく急速に、墜落するような勢いで景気悪化がすすんでいるところにあります。まず総理にただしたいのは、こうしたかつてない急速な景気悪化がなぜ起こっているのか、その原因をどう認識しているかという問題です。

 総理は、昨年末の日本経団連の会合でのあいさつで、日本の景気悪化について、「アメリカ発世界金融危機」など「海外発の大きな『津波』みたいなものにのみ込まれてしまった」とのべながら、「日本経済自身に何か構造的な問題があったわけではありません」と強調しています。景気の急速な悪化は、もっぱらアメリカからの「津波」によるものであって、自公政権の経済運営には問題はなかったというのが、総理の認識なのでしょうか。

 アメリカから「津波」が押し寄せたことはたしかですが、私は、歴代自公政権がすすめてきた経済路線によって、「津波」から国民の暮らしと経済を守る「防波堤」を破壊してしまったことが、被害を甚大にしたと考えます。この間、「構造改革」の名でおこなわれてきたことは、国民の暮らしを犠牲にして、一部の輸出大企業の応援に熱中することでした。その結果、一握りの輸出大企業は空前のもうけをあげましたが、勤労者の賃金は引き下げられ、非正規雇用への置き換えがすすみ、庶民増税と社会保障切り捨てが追い打ちをかけました。

 内需・家計を犠牲にして、外需・輸出だけで稼ぐ。このゆがんだ路線をつづけた結果、日本経済は異常な外需頼みの脆弱(ぜいじゃく)な体質になってしまいました。そのもろさが、アメリカ経済の破たんをきっかけにした景気の墜落となってあらわれているのではないでしょうか。「構造改革」路線への根本的反省と清算が求められていると考えます。総理の見解を求めます。

内需主導の経済への抜本的な体質改善を――五つの具体的内容を提案する

 総理は、一月六日の本会議で、「内需主導の持続的成長を実現できるよう、経済の体質転換をすすめていく」とのべましたが、本気で内需主導の経済をつくるというなら、大企業応援から家計応援へ、つぎの五点で政策の抜本的転換をはかることが求められます。

安定した雇用を保障する

 第一は、安定した雇用を保障することです。雇用破壊が景気悪化を深刻にし、さらに雇用破壊をもたらすという悪循環を断つためにも、大企業による大量解雇をやめさせることは急務です。あわせて非正規労働者の正社員化、「サービス残業」の根絶、週休二日と年休の完全取得によって、新たな雇用を創出する道を、政治のイニシアチブで推進することが必要です。安定した雇用なくして内需主導の景気回復なしと考えます。答弁を求めます。

社会保障を

削減から拡充に

 第二は、安心できる社会保障を築くことです。社会保障予算の自然増を毎年二千二百億円ずつ削減するという路線は事実上続けられなくなっています。ところが、麻生内閣は、なおも二〇一〇年度、一一年度と削減路線をつづけると宣言しています。破たんした削減路線にしがみつくのは、もうやめるべきではありませんか。

 二〇〇二年度いらい削りに削った社会保障予算は一兆六千二百億円になりますが、それを復活させ、後期高齢者医療制度撤廃、国保料の引き下げ、子どもの医療費の無料化、介護の保険料・利用料の減免、障害者福祉の「応益負担」の廃止などにあてるべきではありませんか。

 社会保障の拡充は、国民の暮らしを直接温め、将来不安をとりのぞき、福祉の雇用を増やすという「一石三鳥」の経済効果もあり、内需主導の景気回復にも大きな力を発揮するに違いありません。総理の答弁を求めます。

中小企業の仕事と資金繰りの支援を

 第三は、中小零細企業の仕事と資金繰りを保障し、経営を応援することであります。中小企業への信用保証について、根拠のない業種指定をやめ、全業種を対象とした全額保証に踏み切るべきです。また、六大銀行が、この一年で、大企業向け貸し出しを六兆円も増やしながら、中小企業向け貸し出しを一・一兆円減らしていることは、金融への社会的責任を放棄するものとして許せません。早急な指導・是正が必要であります。総理の答弁を求めます。

日本農業再生へ、価格保障・所得補償を

 第四は、日本の農林水産業の再生をはかることです。地方にうかがうと、農業の衰退が地域社会全体の衰退につながっていることを痛感させられます。農業生産を増やすことは、その地域の食品、サービス業、製造業を活発にする大きな波及効果があります。農業再生こそ地域経済再生の要であります。

 そのためには農産物の価格保障・所得補償によって、安心して再生産できる農業にしていくことがどうしても必要です。また、歯止めのない輸入自由化にストップをかけて、各国の食料主権を尊重した貿易ルールをつくることが不可欠です。ここでも抜本的な政策転換が必要だと考えますが、見解をうかがいます。

国民の審判仰がずに消費税増税は許せない

 第五は、消費税の問題です。政府は、二〇一一年度までに消費税増税法案を成立させる方針を法律の付則に書き込んだ予算関連法案を提出しました。実施時期は別途決めるとしていますが、消費税増税にレールを敷く法律をこの国会で通してしまおうということに変わりはありません。

 わが党は、これだけ貧困が大問題になっているときに、それに追い打ちをかける消費税増税はもとより反対です。また大企業や大資産家への行き過ぎた減税や巨額の軍事費にメスを入れれば、消費税に頼らなくても社会保障を支える財源をつくれると具体的提案を示しております。

 同時に、私が強調したいのは、政府・与党が、消費税を上げたいというのであれば、事前に国民の審判を仰ぐべきではないかということです。事前に国民に相談することなく、増税へのレールを敷く法律をこの国会で強行するというのは、税金のあり方は国民が決めるという民主主義の大原則を踏みにじるものではありませんか。

暮らし守る「ルールある経済社会」を

 日本の資本主義は、「ルールなき資本主義」とよばれてきました。それを大本から正し、雇用でも、社会保障でも、中小企業でも、農林漁業でも、税制でも、暮らしを守る「ルールある経済社会」を築くことこそ、景気回復の土台をつくり、強く健全な日本経済をつくる大道だということを強調したいのであります。

世界における日本の進路――いま求められる「新しい秩序」とは何か

 最後に、大きく変化しつつある世界における日本の進路について質問します。総理は施政方針演説で「世界にあっては『新しい秩序創(づく)りへの貢献』」を目指すとのべました。それでは総理のいう「新しい秩序」とはどういうものなのか。二つの点で端的に問いたい。

 一つは、国連憲章にもとづく平和の国際秩序を守る立場にたつのかどうかです。イラク戦争という国連憲章を無視した無法な戦争は、世界で孤立を深めたすえに、米国大統領選挙でも「ノー」の審判を受けました。この戦争を支持しつづけた自公政権の態度が厳しく問われています。イラク戦争が開始された二〇〇三年当時、総理は、自民党政調会長でしたが、「国連と米国が分裂した。そのときにとるべきは米国だ」と、小泉首相に「進言した」と著書のなかでのべています。国連と米国の立場が異なったら、米国を優先させるというのが、総理のいう「新しい秩序」なのですか。しかとお答え願いたい。

 いま一つは、軍事同盟絶対の「秩序」を目指すのか、それから脱却して平和の共同体の担い手となるかであります。世界の大勢は、アジアでも、ラテンアメリカでも、軍事同盟は過去のものとなりつつあり、それに代わって外部に敵を求めない平和の地域共同体が力強く発展しています。そのときに、「日米同盟」を絶対化し、米軍基地の強化をはかり、インド洋に加えソマリア沖へと自衛隊派兵を拡大し、憲法九条まで変えるという、アメリカいいなりの古い体制をつづけていいのかが、問われています。

 「新しい秩序」というのなら、国連憲章にもとづく平和の国際秩序をめざし、日米軍事同盟から脱却して、対等・平等・友好の日米関係を築くことこそ、二十一世紀の世界の大きな変化にそくした道であることを強調して、質問を終わります。