2008年1月23日(水)「しんぶん赤旗」
日本共産党の志位和夫委員長が二十二日の衆院本会議で行った代表質問は次の通りです。
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日本共産党を代表して、福田総理に質問します。
まず暮らしの問題です。
総理は施政方針演説のなかで、「生活者が主役」という言葉を繰り返しました。しかし、貧困と格差がすすみ、国民生活がいわば「底が抜けてしまった」ような不安と危機にみまわれている現状をどう打開するのか。その具体的処方せんは、何も語られませんでした。
そこで四つの角度から総理の基本的見解をただします。
雇用
第一は、雇用の問題であります。
この間、派遣最大手のグッドウィルに事業停止処分がくだされました。港湾、建設など禁止されている業務への違法派遣、二重派遣、偽装請負など、派遣労働が「無法の巣窟(そうくつ)」とされている実態が明るみにだされました。
労働者派遣法のあいつぐ規制緩和によって、派遣労働者は三百二十一万人に急増し、そのうち二百三十四万人は登録型派遣――派遣会社に登録しておき仕事があるときのみ雇用するというきわめて不安定な状態のもとにおかれています。
派遣労働者の苦しみは、その多くが懸命に働いても年収二百万円以下という異常な低賃金だけではありません。社会保険に入れない、残業代が出ない、交通費が出ない、社員食堂が使えない、名前でなく「ハケンくん」などと呼ばれるなど、人間としての尊厳をふみにじられる差別をうけ、モノのように使い捨てにされていることが、若者たちを深く傷つけています。
「一度派遣に入ったら抜け出せません。私たちは苦しんで涙して働いても希望も何もありません。若者が生きられない。こんな世の中であっていいでしょうか」
これは、私たちに寄せられた痛切な声であります。総理の基本認識をうかがいます。こんな働かせ方が、あなたのいう「若者が希望がもてる社会」にふさわしい働き方といえるでしょうか。答弁を求めます。
政府は、派遣労働の規制緩和をすすめるさい、「臨時的、一時的なものに限定し、常用雇用の代替にしてはならない」ことが原則だと繰り返し言明してきました。しかし、現実をみれば、正規雇用が減り、非正規雇用が急増し、派遣労働が常用雇用の代替とされていることは明らかではありませんか。総理はこの現実を認めますか。
「常用雇用の代替にしてはならない」というなら、労働者派遣法の抜本的改正に踏み込み、派遣は臨時的・一時的業務に制限し、日雇い派遣やスポット派遣というきわめて不安定な登録型派遣はただちに禁止し、均等待遇のルールをつくるべきではありませんか。総理の答弁を求めます。
社会保障
第二は、社会保障の問題です。
年金記録問題について、総理は「私の内閣で解決する」と明言しましたが、早くも「ねんきん特別便」の見直しが必至になる事態が生まれています。問われているのは、侵害された国民の権利を回復するために、国民に最大限の情報を伝え、協力をお願いし、国民の知恵と力を結集して解決をはかるという姿勢に徹するかどうかであります。総理の答弁を求めます。
二〇〇八年度は、一昨年の通常国会で自民・公明が強行した「医療改革法」が本格的に始動し、療養病床の大幅削減、公立病院つぶしなど、さらなる医療荒廃が引き起こされようとしています。とりわけ国民の怒りが噴き出しているのが後期高齢者医療制度です。
「私たちは、焼け野原だった日本を必死に働いて復興させた世代です。『後期高齢者医療制度』を知ったとき、その私たちがいま、国から棄(す)てられようとしていると思いました。悔しい」
いま、私たちのもとに、全国からこうした声がたくさん寄せられております。
この制度にたいする高齢者の怒りは、負担増への怒りだけではありません。七十五歳という年齢を重ねただけで差別される――国保や健保からおいだされ、別枠の制度に囲い込まれ、過酷な保険料徴収がおこなわれ、診療報酬も別建てとされて保険医療が制限されるなど、人間としての存在が否定されたような扱いを受けることへの深い憤りなのです。
「私たちはいま、国から棄てられようとしている」――総理は全国の多くの高齢者のこの声にどう答えますか。そもそも、いったいどこに七十五歳で区切る根拠があるのですか。年齢によって高齢者を切り離して格差をつける制度を導入しようなどというのは、国民皆保険の国では世界でも日本だけではありませんか。
政府は、国民の激しい怒りを前に、高齢者の負担のごく一部分の一時的凍結をうちだしています。こうした目先の取り繕い、ごまかしをしなければならないのは、制度の破綻(はたん)を自ら認めたものであり、後期高齢者医療制度の実施はいまからでも中止することを強く要求するものであります。
また医療、年金、介護、障害者福祉など、あらゆる社会保障制度の改悪の根源にある、社会保障費抑制路線――社会保障予算の自然増を認めず、毎年二千二百億円ずつ削減する路線を転換することを要求します。総理の答弁を求めます。
農業と食料
第三は、農業と食料の危機であります。
この十年あまりで、生産者米価は四割近く下落し、二〇〇六年産の米価は一俵あたり平均一万四千八百二十六円まで落ち込みました。コメの生産費は農水省の計算でさえ、一俵あたり一万六千八百二十四円なのに、それを大きく下回りました。この米価で得られる農家の一時間あたりの労働報酬は、わずか二百五十六円にすぎません。ほとんどの農家がコメづくりをつづけられなくなるがけっぷちまで追い込まれています。
米価の異常な下落は、政治の責任以外の何ものでもありません。政府はこの十年あまり、WTO(世界貿易機関)農業協定にあわせてコメの価格保障を廃止し、コメ市場の下支えも撤廃し、米価を市場まかせにしてきました。コメの輸入拡大が、米価下落に拍車をかけました。総理、どんな言い訳をしても、米価収入を時給二百五十六円まで下落させた農政は、大失政というほかないではありませんか。総理は、その重大な政治責任をどう自覚されているのでしょうか。
日本の食料自給率は世界でも異常な低さの39%まで低下しました。日本農業の立て直しは、ひとり農家の存亡にとどまらず、日本国民の存亡、国土と環境の存廃にかかわる大問題であります。わが党は、そのためにつぎの三つの政策転換を強く求めます。
一つは、農産物の価格保障と所得補償を組み合わせて、農家が安心して農業に打ち込める再生産を保障することです。生産者米価については、不足払い制度を創設し、農家の手取りを、当面、生産費に見合う一俵一万七千円以上に引き上げるべきであります。
二つは、大多数の農家を切り捨てる「品目横断対策」を中止し、家族経営を応援するとともに、大規模経営や集落営農もふくめて、農業を続けたい人やりたい人すべてを応援する農政に切り替えることです。
三つは、無制限な輸入自由化をやめ、国連人権委員会が採択した「食料主権」――各国が食料・農業政策を自主的に決定する権利を保障する貿易ルールをつくることをめざすべきです。総理の答弁を求めます。
税金のあり方
第四は、税金のあり方の問題です。
二つの問題にしぼって、端的にうかがいます。
一つは、道路特定財源の問題です。道路特定財源の最大の問題点は、ガソリン税など自動車関係の税金が、道路建設にしか使えないという、このシステムが、無駄な道路づくりの「自動装置」となっていることにあります。さらに、「暫定税率」と称して税率を上乗せしてきたことは、無駄な道路づくりを加速させてきました。
政府は、今後十年間で五十九兆円を使う「道路中期計画」の策定をすすめています。国民生活にほんとうに必要な道路の計画を積み上げるのでなく、はじめに五十九兆円を使い切ることを決める「総額先にありき」という方式は、それ自体が無駄な道路づくりをやみくもに進める方式にほかなりません。実際、その内容をみると、全国各所で、拠点空港や港湾から十分以内で高速道路に接続する道路をつくるなど、不要不急の計画が満載されています。
政府が、「暫定税率」を含めて年間五・六兆円におよぶ道路特定財源をさらに十年間延長することに固執している理由は、五十九兆円という「道路中期計画」にそのお金を使い切ることにあるのではありませんか。
わが党は、道路特定財源をやめて一般財源化し、道路だけでなく、福祉や教育、暮らしにも自由に使えるようにすることを要求します。
また、「暫定税率」を撤廃することを要求します。
「道路中期計画」を撤回し、道路は、国民生活からみて必要不可欠で、緊急性の高いものをよく吟味し、しぼって整備することを求めます。
さらに、二酸化炭素の排出量を考慮した環境税を導入することを提案するものです。総理の見解を求めます。
いま一つは、「庶民に増税、大企業に減税」という「逆立ち」した税金のあり方をただすことです。
総理は、施政方針演説のなかで、社会保障のための「安定的な財源」として、「消費税を含む税体系の抜本的改革について早期に実現を図る」とのべました。
昨年末に発表された「与党税制改正大綱」では、消費税を、社会保障をまかなう「主要な財源」と位置づけたうえで、「社会保障財源を充実する」と明記しています。総理も、消費税を社会保障をまかなう「主要な財源」と位置づけ、それを「充実する」という立場――すなわち社会保障のためとして消費税を増税するという立場でしょうか。国民の暮らしの支えとなるべき社会保障の財源に、国民の暮らしを破壊する消費税をあてることには、わが党はもとより反対ですが、総理は自らの立場を正直にのべるべきです。
他方で、総理は、施政方針演説のなかで、大企業向けの研究開発減税をさらに拡充するとのべました。
この十年間で、大企業に対しては、法人税率を大幅に引き下げたうえに、数々の特権的な減税によって、五兆円を超える減税のばらまきがおこなわれています。総理、空前の利益をあげている大企業へのゆきすぎた減税をただすことこそ必要ではありませんか。研究開発減税の拡充という、一握りの巨大企業だけが潤うさらなる減税のばらまきをおこなうというのは、まったく向いている方向が逆さまではありませんか。答弁を求めます。
以上、雇用、社会保障、農業、税金のあり方――四つの角度から問題点をただしてきましたが、いま経済政策の軸足をどこにおくかが、きびしく問われています。
これまで政府は、「企業が栄えれば、めぐりめぐって家計に波及し、国民生活がよくなる」という「成長」シナリオを唱え続けてきました。ところが昨年末以降の「月例経済報告」では、このシナリオを口にできなくなりました。大田経済財政特命大臣の演説でも、「企業の体質は格段に強化」されたが、「賃金上昇に結び付かず、家計への波及が遅れている」と認めざるをえなくなりました。大企業中心の「成長」シナリオは破綻しました。
それならば、経済政策の軸足を、大企業から家計・国民へと転換させるべきではないでしょうか。家計を直接応援する政策に切りかえるべきではないでしょうか。私は、そうしてこそ、貧困と格差を打開し、日本の経済と社会を健全に発展させる道が開かれると確信するものです。総理の見解を求めます。
地球環境問題
つぎに地球温暖化から人類の未来をいかに救うかについて質問します。
総理は、施政方針演説で、「世界の先例となる『低炭素社会』への転換を進め、国際社会を先導する」と意気込みました。それならば答えていただきたい問題が二つあります。
第一は、国際社会における日本政府の対応です。
昨年十二月、インドネシア・バリ島で、国連気候変動枠組み条約第十三回締約国会議(COP13)が開催されました。この会議では、国連が「今後二十年の努力が重要」だとのべたことを受けて、EU(欧州連合)が二〇二〇年までに先進国が温室効果ガスの30%削減をおこなうという数値目標を主張しました。
ところが、会議で採択されたロードマップには、この数値目標を書き込むことはできませんでした。二〇二〇年までの数値目標を書き込むことを邪魔した国として、きびしい批判の的となったのは、アメリカ、日本、カナダでした。総理、日本政府が国際社会でとっている行動は、「国際社会を先導する」どころか、足をひっぱるものではありませんか。
総理は、施政方針演説で、北海道洞爺湖サミットで、「二〇五〇年までに温室効果ガスの排出量を半減させる長期目標」の合意をつくるとのべましたが、いま大切なのは、長期目標を実効あるものとするためにも、二〇二〇年までの中期削減目標を明確にし、先進国の合意とすることです。日本政府は、国際政治の場で、EUが主張している二〇二〇年までに30%削減という目標をふまえ、中期削減目標を正面から掲げるべきだと考えますが、総理にその意思はありますか。
第二は、京都議定書で、日本は、二〇一二年までに6%削減という目標を世界に約束しているにもかかわらず、現状では削減どころか6・4%も増やしているという問題です。
これは欧州諸国が、政府と経済界との公的な削減協定の締結、自然エネルギーの大規模な導入、削減目標を企業ごとに明確にした排出量取引、環境税の導入など、政府がイニシアチブを発揮した規制と誘導によって、大幅削減に踏み出していることと対照的です。
日本政府の対応の最大の問題は、産業界の温室効果ガス削減を日本経団連の「自主行動計画」まかせにしてきたことにあります。このままでは目標達成の保障はありません。政府は、欧州諸国がおこなっているように、経済界に削減を義務づける公的協定を結ぶべきではありませんか。総理の答弁を求めます。
自衛隊の海外派兵の恒久法
最後に、自衛隊の海外派兵の恒久法について質問します。
総理は、施政方針演説で、「迅速かつ効果的に国際平和協力活動を実施していくため、いわゆる『一般法』の検討を進めます」とのべました。ここでいう「一般法」とは、アフガニスタン戦争、イラク戦争など、個別の戦争ごとに特別措置法をつくらなくても、政府の判断で自衛隊の海外派兵ができる、いわゆる恒久法を意味するものだと思います。
総理、なぜいま恒久法なのですか。だれのための恒久法なのですか。米国のアーミテージ元国務副長官は、恒久法についての日本国内の議論に「励まされる」とのべ、「米国は、短い予告期間で部隊を配備できる、より大きな柔軟性をもった安全保障パートナーの存在を願っている」とのべました。恒久法とは、アメリカが世界のどこでおこした戦争でも、その支援のために自衛隊を派兵する法的枠組みをつくるものではありませんか。
紛争がおきても外交的・平和的に解決する――「戦争のない世界」をめざす流れこそ世界の圧倒的大勢です。この流れに逆らい、憲法九条を踏み破って恒久的な海外派兵法をつくる動きに、日本共産党はきびしく反対することを表明して、質問を終わります。