2005年O8月07日、日曜1面に掲載

志位日本共産党委員長・安倍自民党幹事長代理

テレビ初討論

「あの戦争は正しかった」とする靖国の戦争観を問う


自民党閣僚経験者・ハンニバル、ナポレオン大書の話では分が悪い

政治学者・21世紀日本がどう進むべきか考えさせる討論

 「待ちに待った対決」と新聞のテレビ欄でも注目された、日本共産党の志位和夫委員長と自民党の安倍晋三幹事長代理との初の直接対決(7月31日、テレビ朝日系「サンデープロジェクト」)。小泉純一郎首相の靖国神社参拝問題について、首相に参拝中止を迫った志位氏と、次の首相も参拝すべきだと主張する安倍氏との討論から浮かび上がってきたものは――。

 「私は安倍さんにはっきり間きたい。二つ聞きたい問題があります」――志位氏はずばり問いました。

 ――過去の日本の戦争を、靖国神社のように「自存自衛」の正しい戦争だと考えているのか。

 ――東京裁判で有罪判決を受けたA級戦犯について、靖国神社のいうように「ぬれぎぬだ」と、罪がなかった人たちだと考えているのか。

 たいして安倍氏。

 「いまのスタンダード(基準)で当時の状況を断罪しても意味はない」「大平(正芳)首相は『A級戦犯の問題、大東亜戦争の問題は歴史が判断を下すだろう』と(のべた)」

 戦争の性格について言を左右に明言を避け続ける安倍氏は、ついにはこんな珍妙な発言も。「ハンニバル(紀元前にポエニ戦争をたたかったカルタゴの将軍)は象までつれてローマを侵略したが、戦争犯罪ではない」「ナポレオン戦争だってフランス側とイギリス側では評価が違う…」

 「だれがこんな入れ知恵をしたのか…」と嘆息ぎみに語るのは、ある自民党閣僚経験者。

 「現代の話をしているのに大昔の話を持ち出すなどメチャクチャだ。明らかに安倍君の分が悪い」

 「久々に痛快なものを見た。終始安倍さんは議論をぼかして逃げ回っていた。またこのようなガチンコ対決を見たい」(長野県の男性・35歳)――こんな反響が日本共産党本部に寄せられました。

 「安倍氏は自分の言葉では何も語ろうとはしなかった。明確な歴史認識がないのか、あってもテレビカメラの前ではいえないようなものなのか」という政治学者の江藤俊介さんは、こう付け加えました。

 「過去の戦争をどう評価するかは、日本の現在と未来にかかわる問題であり、政治家の資質が問われます。侵略戦争を反省して世界・アジアとともに進むのか、それとも総スカンを食らってつまはじきになるのか――21世紀をどう進むべきか考えさせられた討論でした」田中倫夫記者

テレビ対論・紙上再現

志位委員長VS安倍幹事長代理

志位氏・日本の戦争は「自存自衛」か、A級戦犯は「ぬれぎぬ」か
安倍氏・今の基準での断罪は意味ない

 小泉首相の靖国神社参拝問題をめぐる日本共産党の志位和夫委員長と自民党の安倍晋三幹事長代理のテレビ討論。

 「靖国神社の問題の一番の核心、本質というのは、靖国神社がそもそも、あの戦争に対してどういう立場をとっているか、どういう歴史観、戦争観に立っているかという問題です」

 こうのべて志位氏がとりあげたのは靖国神社の軍事博物館「遊就館」の図録。その冒頭で、同神社の宮司は先の戦争について「自存自衛の為(ため)」「避け得なかった戦ひ」とのべ、「近代史の真実を明らかにする」、これが靖国の「使命」だといっています。

 番組キャスターの田原総一朗氏が一枚のフリップ(解説用図)を取り出しました。靖国神社の冊子にある「アジアの国々と共に栄えていくためには、戦わなければならなかった」という一節です。

 安倍氏 宮司がそういうことをいっても、ことの本質ではない。歴史観、靖国神社にはいろんな考え方、見方があって、白や黒、正義・不正義と切れるものではない

 志位氏 日本政府は村山首相談話(1995年)や、小泉首相自身がこの前(4月)のアジア・アフリカ会議で、「侵略と植民地支配への痛切な反省とお詫(わ)び」を言って、これが政府の一応の歴史観だ。ところが靖国神社は「正しい戦争だった」と言い切っている。首相がここに参拝すると、靖国神社の戦争観に“お墨付き”を与えることになる。

 安倍氏 植民地支配と侵略という側面を否定しているわけではない。歴代のほとんどの首相が参拝しているが、この人たちが日本を軍国主義にしようとしたのか、再び世界を侵略しようとしたのか。(戦争観と)靖国に参拝することは別問題だ。

 志位氏 戦争でなくなられた方への追悼は政府の責任だ。問題は追悼の場として靖国神社がふさわしいかだ。政府の戦争観ともまったく違った「正しい戦争だった」という戦争観を持ち、広げることを「使命」としていることが問題なのだ。

 田原氏が再びフリップを出し、「(ABC級戦犯が)一方的に“戦争犯罪人”というぬれぎぬを着せられ(た)」という靖国神社の主張を紹介、安倍氏に見解を求めます。

 「A級戦犯は国民に対する責任は大きなものがあるが、戦勝国に裁かれたという大きな問題がある。A級戦犯でものちに法相になったり、外相になって勲一等を授けられている。国内法的には犯罪者ではない」(安倍氏)

 これに、志位氏から端的な質問がぶつけられました。「安倍さん自身は『自存自衛の戦争だ』と考えているのか」「A級戦犯は『ぬれぎぬだ』と考えているのか」

 対する安倍氏は「歴史観について政治家が発言することは別の意味を持っている」「大平元総理はA級戦犯が合祀(ごうし)されてから2回も参拝している」「そのときにA級戦犯、戦争について聞かれ、『歴史が判断を下すだろう』と答えた。これこそが政治家として英知ある行動だ」。自分の考えではなくて人の考えを並べ立てました。「ハンニバル」「ナポレオン」という歴史的人名が安倍氏の口から出たのは、この“はぐらかし”のなかでした。そして、「鬼の首をとったように、お前らまちがっただろう、侵略しただろうということを、同じ日本の中でいいあうことは極めて非生産的だ」と。

 先の戦争の誤りを認めようとしない安倍氏に、志位氏はこう迫りました。「日本とドイツのやった侵略戦争が間違いだというのは戦後の世界の土台だ。国連憲章も、日本国憲法も、ポツダム宣言もこの立場で書かれている。これをひっくり返すことになる」

アジアの痛み

 この戦争でアジアで2千万人以上の人が犠牲になっている――志位氏は、日本が1932年の「満州事変」で「満州」(中国東北部)に攻め入って「満州国」をつくり、37年に日中戦争に全面拡大をし、41年に太平洋戦争という形で東南アジア全体に侵略を広げたことを指摘、こう続けました。

 「かいらい国まででっちあげた国は日本しかない」「安倍さんの議論の中には、あまりにも痛みを受けた側の民族に対する理解がない」

 最後に番組のコメンテーターから「A級戦犯が合祀されている靖国神社に首相がいくという問題をどう打開するのか」と問われ、安倍氏は「中国共産党一党支配の正当性の必要から、残虐な日本に勝った、日本はまた軍国主義化する危険性がある(と主張している)」と、参拝をやめても問題は解決しないという考えを示しました。

 「そういう勘ぐりをもって外交をやったらだめだ」と志位氏。「あなたのいうようにあれこれの推測を持って相手の国を論じて、相手が悪いんだ、だから筋の通らないことをやってもいいんだということをやるのは、外交として一番悪いやり方だ」ときびしく批判しました。

 放送を見ていたマスコミ関係者は「最後のやりとりを見ていて、安倍さんを将来、総理大臣にすることに不安を感じだした」と話しました。