2006年1月25日(水)「しんぶん赤旗」

志位委員長の代表質問

衆院本会議


 日本共産党の志位和夫委員長が二十四日の衆院本会議でおこなった代表質問(大要)は次の通りです。


■政府が緊急に対応すべき二つの問題――豪雪災害、BSE問題について

 日本共産党を代表して小泉首相に質問します。まず、政府の緊急な対応が求められる二つの問題についてうかがいます。

■豪雪災害――「これ以上の犠牲者は出さない」という立場で万全の対策を

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(写真)代表質問にたつ志位和夫委員長=24日、衆院本会議

 一つは豪雪災害の問題です。私は昨年来の豪雪災害によって亡くなられた方々に深い哀悼の気持ちをのべるとともに、豪雪で日々ご苦労されているみなさんに心からのお見舞いを申し上げます。

 記録的な豪雪は、地域の生活に大きな困難をもたらし、住民のみなさんは心身ともに疲れ、厳冬期を迎えて不安をつのらせています。既にわが党は政府にたいし「豪雪災害に関する緊急の申し入れ」を行っていますが、いま何よりも重要なことは、政府が「これ以上の犠牲者は絶対に出さない。被害の拡大は最小限に抑える」という立場に立ち、雪下ろしやライフラインの確保をはじめ万全の対策を講じることです。

 現地にうかがったわが党議員団にたいし、「現地では“これ以上被害を広げてはならない”と懸命にとりくんでいる。政府もそれにこたえる対策を」という切実な要望が出されました。この声を肝に銘じて対策にあたるべきであります。首相の答弁を求めます。

■BSE問題――国民の安全より米国の要求を優先させた責任が問われる

 いま一つは、米国産牛肉のBSE(牛海綿状脳症)汚染問題です。政府の輸入再開は、危険部位の除去、月齢二十カ月以下という二つの条件を米国が順守することを前提に行われたものでしたが、この前提が守られる保障がまったくなかったことを今回の事態は明らかにしました。

 加えて深刻なことは、米国が二つの条件を守っているかどうかを確認するために、農水省と厚労省が米国内の食肉処理施設を査察し、「適切」と認定した直後に、今回の事態が起こったことです。一連の経過は、政府のBSE対策なるものが国民の安全よりも米国の要求を優先させた、まさに「偽装」対策だったことを示しています。首相はその重大な責任をどう認識しているのですか。

 輸入牛肉対策を根底から見直し、全頭検査、全月齢の危険部位除去といった日本と同様の安全基準が確保されるまで、米国産牛肉の輸入は再開しないという方針を明確にすべきであります。首相の答弁を求めます。

■小泉「構造改革」は何をもたらしたか――三つの害悪を問う

 次にただしたいのは小泉「構造改革」が何をもたらしたかという問題です。首相が「官から民へ」「小さな政府」の掛け声で進めた規制緩和万能路線の害悪がいま次々に明らかになっています。

■耐震偽装――規制緩和で建築行政に「大穴」を開けた政治の責任を問う

 第一は、耐震強度偽装事件です。無法行為を行った当事者たちの責任、政治家の関与について徹底的な糾明を行うことは当然です。同時に、問題の根本は、一九九八年の建築基準法改悪で、建築確認を「官から民へ」といって民間検査機関に「丸投げ」できるようにした規制緩和にあります。

 わが党は一九九八年の法改悪の際「民間任せでは検査の公正・中立性の確保は困難になる」「安かろう悪かろうという検査になる」と警告し、この法改悪に厳しく反対しました。この警告は現実のものとなりました。民間検査機関による検査が急増し「安さ」と「速さ」の競い合いがおこり、「安全」は置き去りにされました。ゼネコンや住宅メーカーなどが出資する民間検査機関が増加し、ゼネコン・住宅メーカーが自分の物件を自分の手で「検査」するという、公正・中立性が損なわれる事態が進みました。

 いま問われているのは、倫理も使命感もない悪徳業者の責任だけではありません。建築行政という国民の命を守る制度にまで、規制緩和と利潤第一主義をもちこみ、「大穴」を開けてしまった自民党政治の責任が問われているのであります。住宅ローンをかかえて苦しむ被害者への補償と、再発防止も、問題のこの根本にメスを入れる立場にたってこそ、責任ある解決の道が開かれます。首相の見解を求めます。

■ライブドア事件――「堀江氏の成功は、小泉改革、規制緩和の成果」

 第二は、ライブドア事件です。自社の株価をつりあげ、そこで得た資金を元手に企業買収を繰り返す。そのなかで偽計取引、うその情報の流布、粉飾決算などの違法行為が行われていた疑惑が大問題になっています。

 この事件の根本にあるのは何か。ライブドアが株価つりあげに使った手法は、株式交換、株式分割、投資事業組合という三つの手法を組み合わせて「錬金術」を行うというものでした。株式交換は九九年の商法改正で導入されたものです。株式分割も二〇〇一年施行の改正商法で自由勝手にできるようになったものです。ここでも事件の根本にあるのは、自民党政治が進めた規制緩和万能路線ではありませんか。

 安倍官房長官は「堀江さんの仕事の成功は、小泉改革の成果、規制緩和の成果だ」とのべていました。私もその通りだと思います。首相は、自分の進めた規制緩和万能路線が、ライブドア事件の土壌をつくったという認識と反省がありますか。

 首相はいまになって他人事のような発言を繰り返していますが、「人の心はお金で買える」と公言してはばからなかった堀江氏を、「改革の旗手」などと「勝ち組」のリーダーとして持ち上げ、党運営への協力を仰ぐことまでしたのは、小泉首相、自民党ではなかったか。その責任をどう自覚されているのか。しかとお答えください。

■格差社会と貧困――深刻な現状への認識と責任を問う

 第三は、格差社会と貧困の広がりという問題です。首相に二つの点をただしたい。

 一つは現状への認識の問題です。首相がこの問題について問われ、「格差拡大というのは誤解だ」とのべたと報道されたことに私は驚きました。一九九七年と比較して生活保護世帯は六十万から百万世帯に、教育扶助・就学援助を受けている児童・生徒は6・6%から12・8%に、貯蓄ゼロの世帯は10%から23・8%に、どれも激増しています。首相の目には、貧困と格差のなかで苦しむ庶民の姿は入らないのでしょうか。この事実を前にしても「格差拡大は誤解だ」というのですか。

 いま一つはこうした現状をつくった責任の問題です。大企業・財界は正社員を減らし派遣・パートなど非正社員への置き換えを進め労働者の三人に一人、若者の二人に一人は不安定雇用のもとにおかれ、その八割は月収二十万円未満という極端な低賃金です。格差社会と貧困の広がりの根本に派遣労働の自由化など小泉政権の進めた規制緩和万能路線があるという責任の自覚はありますか。答弁を求めます。

■「ルールなき資本主義」をただす経済改革を

 耐震偽装で国民の命を危険にさらし、「ぬれ手で粟(あわ)」の「錬金術師」を生み出す一方で、格差と貧困によって国民から夢も希望も奪い去る。こんな寒々とした弱肉強食の政治をつづけていいのかが問われています。

 日本共産党は、小泉政治によって極限にまでひどくなった「ルールなき資本主義」をただし、国民の安全に責任を持ち、人間らしい労働を支え、格差と貧困を是正する――人間が人間として尊重されるルールある経済社会への改革を、強く求めるものです。

■庶民増税と社会保障切り捨て――税財政の二つのゆがみをただせ

 次に庶民増税と社会保障の切り捨てについて質問します。

 来年度予算案に盛り込まれた国民負担増は定率減税の全廃、お年寄りの医療費の値上げなど二兆七千億円にもなります。小泉政権発足以来、二〇〇二年度予算から二〇〇六年度予算案までの五回の予算編成で、国民におしつけた負担増を合計すると年間十三兆円にのぼります。歴代自民党政権でもこれほど巨額の国民負担増をおしつけた政権はかつてありません。

 これだけの負担を国民におしつけて、国の借金はどうなったか。小泉政権が五回の予算編成で新規に発行した国債――新たな借金は、何と百七十兆円にのぼります。これは、その前の五年間――一九九七年度から二〇〇一年度の予算編成での新規国債発行の百五十三兆円を大きく上回ります。自らを「世界一の借金王」と称した小渕首相などが五年間で発行した新規国債よりも、小泉首相が五年間で発行する新規国債のほうが多いのであります。小泉首相は「史上最悪の借金王」と呼んでも過言ではありません。

 なぜ空前の国民負担をおしつけながら空前の新規国債発行となるのか。税財政に二つの大きなゆがみがあるからです。

 第一は、大企業、大資産家への減税を、温存・拡大していることです。小泉政権は前政権が行った法人税・高額所得者減税を続けただけでなく、研究開発減税やIT減税など大企業むけの減税をさらに拡大しました。加えて株式の配当や譲渡にかける税金を税率10%まで大幅に引き下げました。大企業には減税、庶民には大増税。額に汗して働く庶民への税金よりも、株取引で巨額の富をえた「錬金術師」への税金が軽い。こんな不合理なことがありますか。空前のもうけをあげている大企業、大資産家に、もうけ相応の負担を求めるべきではありませんか。答弁を求めます。

 第二は、巨大開発の無駄遣いを温存・拡大していることです。首相は「公共事業の総額を減らした」といいますが、削減したのは住宅、福祉、学校など国民生活に不可欠の事業であり、関西国際空港二期事業、スーパー中枢港湾、大都市部の高速道路、大型ダムなど、巨大開発の無駄遣いは温存・拡大しています。「聖域なき歳出削減」といいながら、ここには巨大な「聖域」がつくられているではありませんか。

 この税財政の二つのゆがみにメスを入れなければ、どんなに国民負担を増やそうと借金は増える一方です。その借金を口実に消費税増税をおしつけるなど、絶対に許せる話ではありません。

 日本共産党は、格差拡大と貧困に追い打ちをかける庶民への負担増に反対します。大企業と大資産家への応分の負担によって、所得を再分配し、格差を是正する、公正で民主的な税財政への改革を強く要求します。首相の見解を求めます。

■外交・平和にたいする基本姿勢を問う

 つぎに外交・平和にたいする基本姿勢について質問します。

■靖国参拝問題――戦後世界の秩序を土台から否定する行為をただせ

 首相が靖国神社参拝に固執しつづけていることは、日本外交の孤立とゆきづまりをいよいよ深刻なものとしました。問題は、中国、韓国など、アジアの諸国との関係悪化だけにとどまりません。

 米国のブッシュ大統領は昨年、対日戦勝六十周年の記念演説で「アジア解放のための戦争」という、靖国神社が立っている侵略戦争正当化論を厳しく批判しました。首相の連続参拝にたいして米国下院のハイド外交委員長は「遺憾」の意を伝える書簡を日本政府に寄せました。首相は、米国政府や議会からも寄せられている懸念や批判をどう受け止めているのですか。

 戦後の国際秩序は、かつて日独伊が行った戦争が侵略戦争であったという共通の認識のうえになりたっています。「日本は正しい戦争をした」と宣伝することを自らの使命においている靖国神社に首相が参拝することは、戦後の国際秩序を土台から否定する行為にほかなりません。この問題を、居直りや既成事実の積み重ねで「解決」できると考えたら大きな考え違いです。侵略戦争への反省を、言葉だけでなく行動でも示してこそ、世界とアジアの信頼を回復する道が開けます。首相の見解を求めます。

■「米軍再編」――世界に類のない異常な従属性を問う

 日米両国政府が「米軍再編」の名で、基地強化と日米の軍事一体化を進めようとしていることに、全国の自治体から厳しい怒りと批判が広がっています。首相に三点に絞ってうかがいたい。

 第一。首相は二〇〇四年十月に「自治体と相談し、自治体がOKしたら米側と交渉する」と明言していました。ところが自治体と何の相談もなく、米側との協議で勝手に基地強化案をつくっておしつけようとする。これは自らの言明をほごにし自治体の意思をまったく無視した乱暴きわまるやり方ではありませんか。

 第二。在日米軍は沖縄・岩国の海兵隊、横須賀の空母打撃群など、海外遠征専門のいわば“殴り込み”部隊です。キャンプ座間に移設しようという米陸軍の新司令部も、イラク戦争で多くの人々の命を奪った“ストライカー旅団”と呼ばれる“殴り込み”部隊の司令部です。米国が地球的規模で行っている「米軍再編」のなかで、日本のように海外遠征専門の部隊の強化をはかっている国がほかにありますか。

 第三。今回の「米軍再編」で、約一兆円といわれる海兵隊司令部のグアムへの移転費用を日本が負担するという計画が進行しています。米国の領土にある基地の建設に、日本国民の税金を投入するということは現行法では許されず、歴史上も世界でも類のないことではありませんか。

 首相は基地強化受け入れを「平和と安全の代価だ」とのべておしつけようとしています。しかし基地強化の動きは、日本の「平和と安全」とは無縁なばかりか、日本を地球的規模での“殴り込み”戦争の一大根拠地にし、世界とアジアの平和を脅かす震源地に変えるものにほかなりません。日本共産党は、この動きに、正面から対決して、自治体ぐるみのたたかいの一翼を担い、力を尽くすものです。

■憲法改定――「海外で武力行使する国」づくりは許さない

 最後に、憲法問題について質問します。

 自民党は昨年十一月の党大会で「新憲法草案」を正式に決定しました。この「草案」は憲法九条二項を削除し「自衛軍の保持」を明記するとともに、その任務として「国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動」なるものへの参加を規定しています。

 ここでいう「自衛軍」の海外での「活動」には武力の行使も含むのではありませんか。これは米国がイラク戦争のような戦争を引き起こした際に自衛隊が武力行使をもって参加することを可能にするものではありませんか。はっきりお答え願いたい。

 米国のアーミテージ前国務副長官は昨年末、日本のメディアに寄せた一文のなかで、日本は、イラクへの自衛隊派兵などで、すでに「地球規模のパートナー」となったが、これから先の課題は「その軍事力によってどのような地球的役割を果たせるか」にあり「その決断には憲法九条の問題がかかわっている」とのべています。“地球的規模での軍事力の行使のために九条の改定を”――これが米国の要求です。首相はこの要求にどのようにこたえますか。

 二十一世紀の世界の大勢をみれば、軍事力でなく平和的な外交によって問題を解決する流れが大きく広がり、そのなかで日本国憲法第九条に対して国際的にも新しい注目と評価が寄せられています。日本共産党は、世界に誇るこの日本の宝を守り抜くために、憲法改悪反対で一致する政党、団体、個人と力をあわせ、広大な国民的共同をつくるために全力をあげることを表明して質問を終わります。