2004年6月28日(月)「しんぶん赤旗」

NHK党首討論での 

志位委員長の発言

(大要)


 日本共産党の志位和夫委員長は、二十七日放映されたNHK「日曜討論」の参院選特集「党首討論」に出演し、不良債権処理と雇用・中小企業対策、財政再建、郵政民営化など小泉「構造改革」をめぐる問題と、憲法「改正」問題について、各党党首と討論しました。発言の大要を紹介します。他の出演者は、自民党・小泉純一郎、民主党・岡田克也、公明党・神崎武法、社民党・福島瑞穂の各党首でした。司会は山本孝・解説委員。

経済改革

志位 「中小企業と家計を支える政治でないと景気はよくならない」

首相 「大手の業績が中小におよぶ」と“おこぼれ理論”

 NHKでの党首討論は公示直前につづいて二回目。今回は、「小泉構造改革」と「憲法改正」がテーマになりました。冒頭、「小泉構造改革をどう評価するか」との質問に、与党側が「金融改革、税制改革、規制改革、歳出改革を着実に進めている」(小泉首相)、「不良債権の処理が目標達成の見通しで進んでいる」(神崎氏)と自画自賛。司会者から「成果の一つと評価できますか」と問われ、つぎのようにのべました。

 志位 評価できませんね。確かに大銀行のバランスシート(貸借対照表)は、多少改善されたという面があるのかもしれません。しかし、実際に、中小企業にたいする貸し出しがどうなっているかということを調べてみましたら、小泉政権の三年間で、二百三十兆円の貸し出しがあったのがいま百八十兆円ですよ。五十兆円減った。四分の一の金融を吸い上げてしまったということになりますと、人間でいったら血液の四分の一をとられてしまったらほんとうに大変なことになるわけですが、いま、貸しはがし、貸し渋りはすごいです。ですからこの問題については、日本経済の一番の主役である中小企業をきちんと支えるような政治になっていないと思いますね。

 もう一つ、日本経済を見るさいに大事なポイントは家計だと思うんです。家計をみますと、やはりこの数年間で賃金の破壊と雇用の破壊が進んでいる。サラリーマンの世帯平均で六年間で平均所得が六十八万円減っている。それから正規雇用が減って不安定雇用に置きかえられるという雇用の非常な不安定化という問題が起こっています。中小企業と家計を支える政治でないと景気はよくならない、こう思います。

 志位氏などの発言を受けて、司会者が「調査によると家計の所得格差が広がっている」と指摘。首相は「大手の企業は中小に支えられている。大手の業績が改善すれば、中小企業にも必ず及んでくる」とのべ、大企業の“おこぼれ”で経済がよくなるという破たんした立場に固執。岡田氏も「総理がいうように波及する部分がないとはいわない」と一部同調しつつ、「しかし、所得格差の広がり、貯蓄率の低下は放置できない」とのべました。

雇用対策

志位 「長時間労働、サービス残業ただし、雇用を増やす政策を」

首相 「若者の認識が問題」と責任転嫁

 家計格差の広がりとかかわって、雇用の問題が話題になりました。司会者から「雇用が不安定になっているのはどこに問題点があるか」とたずねられ、志位氏はつぎのようにのべました。

 志位 これはやはり、政府主導でリストラ応援の政治をやってきた。つまり、「雇用の構造改革」と称して、正規社員を減らし、非正規、あるいは不安定雇用、パート、派遣労働などにずっと置き換えるようなことを政府主導でやってきたところに問題があります。いま状況を聞きますと、一番深刻なのは若者です。五人に一人はフリーターとよばれる状況にある。そしてそうした若い方々は、調べてみますと、平均年収は百六万円とものすごく低いです。いつクビになるかも分からない。社会保険にも入れない。職業訓練も受けられない。なかなか結婚もままならない。少子化も進みます。

 若い人と話していますと、「人間は物ではない」と、「人間を使い捨てにするような政治、社会であったら未来はない」と、おっしゃいます。若い方々がそういう状況に置かれているというのはほんとうに深刻で、私は、長時間労働、「サービス残業」をただして安定した雇用を増やす、それから「同一労働・同一賃金」など「均等待遇」のルールをつくる。雇用を増やすところに政策を転じなければいけないと思います。

 志位氏の発言をうけ、司会者が「二十四歳以下の失業率が高い。この国の将来にかかわる問題」と首相をただしましたが、首相は「若者に職につくことが大事だという認識をもってもらうか(が大事)」などと若者の認識に責任転嫁しました。神崎氏は、雇用の流動化を前提に「セーフティーネット」を主張するだけ。岡田氏は「同じ働き方に同じ待遇をすることは大事」、福島氏は「労働法制の規制緩和が問題」などとのべました。

中小企業対策

志位 「中小企業を守るルールをつくる必要がある」

岡田氏 「不良債権処理が遅すぎた」と加速化要求

 不良債権処理にかかわって、岡田氏が「不良債権処理が遅すぎたため、無駄に倒れた(中小)企業がたくさんある」とのべ、不良債権処理を急ぐべきだと主張。これにたいし、志位氏は次のように指摘しました。

 志位 私は、無理やり期限を決めて切っていくやり方はよくないと、とくに、中小企業を支えている地域金融、信用組合、信用金庫をどんどんつぶしてきたわけですよ。小泉さんの政治のもとで、これが地域経済をどれだけ冷え込ませたか分からない。

 もう一点、中小企業についていいますと、さきほど小泉さんは大企業がもうけをあげたと、いずれ中小企業に及ぶといったんですが、逆なんですよ。一部大企業のもうけは、中小企業をいじめてもうけをあげている(ものです)。

 ここに持ってきているんですけど、ある純益一兆円を超える自動車メーカーの下請け中小企業が従業員にだしているアンケートなんです。“30%の単価切り下げを求められている”と、このもとで“企業を続けるかどうか、答えてください”という(従業員にたいする)アンケートです。ここまでおいつめられている。ようするに単価の買いたたきをやられて、そのうえに(大企業は)もうけているわけですよ。

 私は、そういう下請け単価の問題一つとっても、中小企業をきちんと守るルールをつくる必要がある(と思います)。

 首相は「民主党と共産党は違う。(民主党は)不良債権(処理)が遅すぎると、共産党はもっとゆっくりやれと、右からも左からも攻撃を受けて、中間をやっている」などと発言。志位氏は「中間じゃないですよ」とたしなめました。

財政改革

志位 「巨額の公共事業、歳入に大穴つくった大企業減税みなおせ」

岡田氏 「国家公務員の人件費10%カットを」

首相 「経済全体を考えて」

 財政改革にかかわって、岡田氏が「公共事業の三割カット」や「国家公務員の人件費10%カット」などを主張。首相は「国債も減らし、公共事業も減らすと景気対策はどうなるのか、経済全体に与える影響を考えないといけない」などとのべました。志位氏は、つぎのようにのべました。

 志位 公共事業の問題についていいますと、減らしてきたというけれども国と地方と公団で四十兆ですよ。こんな巨額な規模を使っているところはない。さらに軍事費が五兆円。これもやはり、アメリカの同盟国のなかで、世界で第二位です。ここまで増えてしまっているものにズバッとメスを入れる必要があると思います。

 同時にもう一つカギがあるのは、歳入の問題だと思うんですよ。私は、調べてみてちょっと驚いたのは、この十六年間で法人税が年間二十八兆円あったのが、いま十五兆円ですよ。十三兆円も法人税を減らしてるんです。

 もちろんこれは景気が悪くなったという影響はあります。しかしだいたい試算してみたら、半分は法人税を引き下げてきた結果です。法人税をどんどんどんどん下げてきてしまった。いまの日本の大企業の税と社会保険料負担の水準はヨーロッパの水準の五―八割ぐらいまで下がっちゃってる。フランスの半分ですよ。ここまで下げてしまったことが、いまの歳入の大きな穴になっちゃってる。

 ですから、これは応分の負担を求めていく方向で徐々に引き上げが必要だと思います。

志位 「『郵政民営化』は銀行業界の発想、国民は反対」サービス切り捨ては許されない

 郵政三事業の「民営化」問題が議論になり、小泉氏は「来年の国会には法案を提出する。四十万人近い国家公務員じゃなきゃ、郵政三事業はできないのか」と発言。岡田氏は「問題は民営化の中身だ。郵貯、簡保入れて三百五十兆円をなんとかしないといけない」とのべ、「民営化」を競う姿勢を示しました。これにたいし、志位氏は、次のように指摘しました。

 志位 小泉さんが何度「民営化」の旗を振っても、国民の世論調査をやりますと「民営化」反対が多数なんですよ。これは国民の願いから出発したものじゃなくて、はっきりいって銀行業界の願いから始まったものだと私は思います。

 国民が一番心配しているのは何かといいますと、やはり身近な郵便局、つまり郵便貯金とか簡易保険の窓口がなくなってしまうのではないかと、つまりサービスが悪くなるんじゃないかと、これを一番心配しているわけですね。現に大手の銀行は、地方に置いている支店などを、どんどん閉鎖する。みんな機械に代えていきますよね。こういう状況があるわけです。

 「民営化」されたらそういう状況になってしまうんじゃないか。これはみんな一番心配している。こういう問題についても、まったく具体的な姿を示さないまま、ただもう「民営化」に遮二無二進むっていうやり方は、私はこれはほんとうに反対です。

 私たちが改革として提起したのは、郵貯、簡保の資金は、これまでのような投機的な運用とか、無駄づかいに使うというやり方をしないで、中小企業とか、医療・福祉の施設、こういうところにまわすという運用の仕方の改善は必要だと思います。

 いまのような「民営化」は私たちは反対です。

 志位氏の発言にたいし、首相は「共産党、社民党は、大事な仕事は公務員がやるべきだという発想だ」「国鉄でも、NTTでも民営化をされてサービス低下したか」などと発言。志位氏は「地方のローカル線がどんどんなくなったじゃないですか」と反論しました。首相がかさねて「サービスが向上して税金の負担が減っている。道路も、鉄道も、空港も、税金を使うんです」などとのべたのにたいしても、志位氏は「国鉄の民営化で(国民は)二十八兆円の借金を押しつけられました」と批判しました。

集団的自衛権

志位 「9条改憲すればアメリカと一緒に『戦争する国』に」「9条全面実施めざし、自衛隊の段階的解消を」

 最後に、憲法「改正」問題について議論になり、小泉首相は、「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」としている第九条二項について「あいまいな文章だ。自衛隊が憲法違反なのか、合憲なのか(はっきりしない)」と発言。志位氏がこれを受けて、つぎのように反論しました。

 志位 たしかに九条から見て、自衛隊は違憲の存在なんですよ。それをつくったのは、自民党の責任なんです。そして、小泉さんは「(九条の)後段を取り外せ」というわけですよね。「後段に戦力を書け」と。いまの自衛隊の存在というのを書くだけのことなのかというふうに思われる方もいるかもしれないけれど、私は、ことはそんなに生やさしいものではないということを見る必要があると思うんです。

 九条というのは、後段があるおかげで九条なんですよ。後段がなくなったら、「普通の国」と変わらなくなる。もし、これを外しちゃったら、海外での戦争が自由にできる国になる。アメリカと一緒に、そういう戦争ができる国になるというところに、一番の問題がある。

 神崎氏は「タブーを設けないで、九条についてもいま(党内で)議論している」と発言。岡田氏は「国連が行う集団的安全保障にたいして、もっと協力していくべきだ。憲法できちんと位置づけるべきだ」とのべ、ともに九条改憲の姿勢を示しました。首相も「民主党と共通の認識だ」と同調しました。首相が「自衛隊そのものが憲法違反だというと、自衛隊をなくしていかなきゃいけない。どうやって、国防の任務をはたすのか」とのべたのにたいし、志位氏は次のように反論しました。

 志位 私たちは、自衛隊の解消、すなわち憲法九条の完全実施ということを目標においていますけれども、一足飛びにやれといっていません。やはり、順を追って、段階を追って、やっていく必要がある。安保条約をなくすという考え方に、私たちは立っていますけれども、そのときでも、自衛隊はまだなくせない。かなり大幅な軍縮をやります。

 アジアの地域で、新しい平和の流れが広がって、東南アジアのほうはASEAN(東南アジア諸国連合)があって、平和のたかまりがありますが、北東アジアも、(北朝鮮問題で)いま六カ国協議をやっていますけれども、ああいう方向がずっと実って、アジア全体がもう戦争の心配がない、国民だれもが、“もう自衛隊がなくても安心だ”というふうに、国民のみんなが思えるようになってはじめて、この措置をとるというのが私たちの考えです。

志位 「集団的自衛どころか米国と一緒に集団的侵略の立場に」

首相 「憲法改正し、アメリカと一緒に行動できるようにする」

 つづいて、自衛隊が海外で武力行使することを可能にする「集団的自衛権」の問題が議論になり、岡田氏と神崎氏が“慎重姿勢”を示したのに対し、首相は「憲法を改正し、日本が攻撃された場合には、アメリカと一緒になって行動できるようにする」とのべ、集団的自衛権の行使をできるように改憲したいとの意向を表明しました。これにたいし、志位氏は次のようにのべました。

 志位 いまの九条からいったら、決して(集団的自衛権の)行使はできないというのは明りょうです。九条からすれば、決して行使をしてはならないというふうになります。

 この集団的自衛権という問題、「自衛」という言葉が入っていますから、何か防衛的な感じがするんですけれども、集団的自衛権の名で行われてきた戦争の歴史は何だったか。これは事実を見る必要があると思うんです。アメリカのベトナム侵略、グレナダ侵略、集団的自衛権の名でやられたんです。旧ソ連のチェコ侵略、アフガン侵略、これも集団的自衛権の名でやられた、この事実がある。

 それからもう一点、アメリカがいま、どういう戦略をとっているかというと「先制攻撃戦略」ですよ。これをイラクで発動した。発動する理屈は、「大量破壊兵器がテロリストに渡ったら大変だ。だから、やられる前にやっつけるんだ」。これでやったわけですけれども、大量破壊兵器は見つからない。つまり、この説明の論理は、破たんしたわけですね。

 いま、このアメリカと一緒に、戦争をやるというふうになったら、集団的自衛どころか、“集団的侵略”をやる国になってしまうと。そういう危険な立場に日本を置くのが、集団的自衛権という名で行われている事柄の真相だと、私は思います。

 岡田氏も「志位さんがいわれたような問題が現実に出てくる、そういうことを認めるのかどうか」などと発言。神崎氏は「党内で議論したい」とのべるにとどまりました。