2003年10月2日(木)「しんぶん赤旗」

衆院予算委 志位委員長の総括質問

米国追従のイラク派兵やめよ


 米国に一喝されて自衛隊派兵の準備を急ぎ、米国の「単独行動主義」への国際的批判を批判とは受け取らない――一日の衆院予算委員会で日本共産党の志位和夫委員長は、イラク戦争をめぐる小泉純一郎首相の米国言いなり姿勢をただしました。


志位 「必ず派遣」と断言した根拠は?

首相 (答えられず)

志位 答えないのは、米国の圧力だからだ

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小泉首相を追及する志位和夫委員長=1日、衆院予算委員会

 志位氏は初めに、自衛隊派兵をめぐって小泉首相の立場が変わっていることを追及しました。

 七月二十五日の参院外交防衛委員会で小泉首相は、イラク特措法案に関連して「(自衛隊は)状況を見て派遣しない場合もあるし、派遣する場合もある」と答弁していました。

 ところが、九月八日のテレビ討論番組では、「イラク支援に日本はひるんではならない」「(自衛隊が行かない選択肢は)ありません」と明言しています。

 志位氏は「七月には二つの選択肢があると言っていたのが、九月には『行かない選択肢はありません』と言った。イラクのどういう状況をみて、そう判断したのか」と追及。小泉首相は「状況を満たせば自衛隊を派遣する」とのべ、質問にはまったく答えません。

 志位氏はさらに「七月二十五日から九月八日までの間に、イラクの状況は良くなったのか、悪くなったのか」と追及。小泉首相はこれにも答えられませんでした。

 志位氏はこの期間にイラクで起こった主な武力衝突やテロについて、米英占領軍への攻撃の拡大だけでなく、外国公館への攻撃や米英軍以外の駐留兵への攻撃、国連事務所へのテロ攻撃など、それまでとは質の違った状況の悪化があると指摘しました(別表参照)。

 志位 これだけの事態が次々に起これば、派兵に慎重になって当然のはず。逆に「必ず派遣する」という方向にかじを切ったのはなぜか。

 小泉 状況をよく見極めて、自衛隊にできることがあれば、派遣しないという選択肢はない。

 志位 答えられないのはアメリカの圧力だったからだ。

 志位氏は、国連事務所襲撃直後には派兵にちゅうちょしていた日本政府が、アーミテージ米国務副長官の「逃げるな」の一言で早期派兵に急カーブを切ったことを、その間の日本政府の対応から指摘。「首相は口を開けば『自主的に判断する』というが、アメリカの一喝で一気に早期派兵に向けた動きが強まったというのが、ことの真相だ」と批判しました。

志位 わずか18日間で349件の武力事件 まさに全土が戦場

首相 テロは日本でも起こる

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志位委員長の質問に聞き入る人たち=1日、衆院予算委

 イラクの現状が、はたして首相のいうように、「戦闘地域には行かない。戦闘行為に参加しない」という生易しい建前が通用するものなのか−。志位氏はイラク駐留米軍のサンチェス司令官が七月三十一日の記者会見で「戦闘地域を…はっきりと区別する線を引けるだろうか。もちろんできない」とのべていることを紹介。小泉首相の認識をただしました。

 小泉首相は質問には答えず、「多くの国の人が汗をかいている」「どこでテロが起きるかわからない。日本でも可能性を問われればわからない。安全なところはないと言っても過言ではない」などと長々と答弁。志位氏はフランスやドイツ、中国、インド、パキスタン、アラブ連盟諸国が派兵しないと表明していることを指摘し、「国連がおこなう人道支援への参加は当然だが、占領軍支援のための派兵には反対だ」と強調しました。

 志位氏はパネル(右の図)を示しました。国連のイラク事務所の治安局が一−四日ごとに発表している「セキュリティー・アップデート」(最新治安情報)をもとに、九月八日−二十五日にイラク全土で起きた武力事件をまとめたものです。わずか十八日間で三百四十九件の事件がイラク全土を覆う形で起こっていることがわかります。

 志位 イラク全土がまさに戦場だ。自衛隊の行く余地などどこにもないではないか。

 小泉 よく状況を見極めて、戦闘地域でない、自衛隊が貢献できる地域があれば派遣する。

 志位氏はサンチェス司令官がさらに、「米軍がイラクにとどまる限り、攻撃と死傷者は続くだろう」とのべていることを紹介。「米軍がいるところが戦闘地域になる。その支援に自衛隊が出て行けば、そこが戦闘地域になる。『戦闘地域には派遣しない』などという首相の建前は、虚構のまた虚構だ。虚構にもとづいた自衛隊派兵は許されない」と強調しました。

志位 アナン演説は米国批判。認めるか

首相 アナンさんに聞いてください

志位 米国批判を認めない。 それを米国いいなりという

 「米軍によるイラク戦争が間違った戦争であり、不法な軍事占領にイラク国民全体が怒りと反発と憎しみを強めていることが、泥沼化の根源にある」。志位氏は最近の日本の新聞も「対米感情、悪化の一途」という特集記事を組んでいることを指摘しました。

 いま、国際社会は戦争の根源にある無法性そのものをきびしく追及しています。志位氏は、九月二十三日の国連総会でアナン国連事務総長が行った演説(別項)を読み上げました。

 アナン氏は名指しこそしなかったものの、イラクに対する無法な戦争をおこなった米英両国が主張する「先制攻撃」と「単独行動」の論理について、「国連憲章への根本的な挑戦」と批判しています。

 小泉首相はこのアナン氏の批判を「一般論だ」(衆院本会議での答弁)とごまかしています。志位氏は「そんなごまかしは到底通用しない。アメリカに対する事実上の批判だ」と迫りました。

 小泉首相はアナン氏が同じ演説で「危機にさらされていると感じている加盟国の懸念に正面から対処しなければ、一国主義を非難するだけでは不十分である」「われわれは集団的行動を通じてこれらの懸念に有効に対処できることを示さなければならない」とのべていることを引いて、「イラクの復興支援にあたらなければならない」「フランスもドイツも米国に軍隊を引き揚げろとは言っていない」とまったく筋違いの答弁を繰り広げます。

 志位氏は「国連がきちんとした枠組みを示す必要があるというのがアナン氏の趣旨だ」と反論。次のようなやりとりになりました。

 志位 「先制攻撃」「単独行動」の論理は「国連憲章への根本的な挑戦だ」というアナン氏の批判は、アメリカに対する批判だという認識はあるのか。

 小泉 アメリカは国連憲章にもとづいてイラク戦争を開始した。見解の相違だ。

 志位 アメリカが国連憲章にもとづいて戦争したというのは、アメリカが言っていることをうのみに言っているだけだ。国連憲章違反というのは世界の常識だ。アナン氏が批判の対象にしたのはアメリカなのか。認めないのか。

 小泉 それはアナンさんにじかに聞かないとわからない。

 小泉首相の開き直り答弁に委員会室は騒然。志位氏が重ねて「アメリカ以外にあるのか」とたずねても、「そんなに聞きたかったらアナンさんに会って問いただしてくれ」と逃げるばかり。

 志位氏は「アナン、ワシントンを批判」と報じた米紙も示し、「これほど明りょうなアメリカ批判をそれと認めない。アメリカが言うことはなんでも言いなりになるくせに、アメリカが批判されたときには、その事実すら認めない。それをアメリカ言いなりというのだ」と批判しました。

 志位氏は「アメリカ言いなりのイラク派兵計画は中止し、イラク問題の真の解決は米軍主導の占領支配から国連主導の復興支援に軌道を切り替えて、イラク国民に主権を返還し、イラク国民が主人公になった国づくりを行うことにある」と強調しました。

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自衛隊のイラク派兵をめぐる動き

 7月25日 小泉首相がイラクへの自衛隊派兵について「状況を見て派遣しない場合もあるし、派遣する場合もある」と答弁

  9月7日 バグダッドのヨルダン大使館前で車両が爆発。外国公館を狙った攻撃は初めて

   16日 バスラでパトロール中のデンマーク兵が銃撃戦で死亡。米英軍以外の兵士が攻撃で死亡したのは初めて

   19日 国連の駐イラク事務所が爆弾テロで襲撃される

   20日 石破防衛庁長官が「治安回復には相当時間がかかる。年内(の自衛隊派兵)は難しいかもしれない」と発言

  8月末  アーミテージ米国務副長官が日本政府の中東担当特使に「逃げるな」「お茶会ではない」と自衛隊派兵を迫る

  9月1日 日本政府が自衛隊派兵のための政府調査団の早期派遣を表明

    6日 岡本行夫首相補佐官が治安情勢などの調査のためイラクに出発

    8日 小泉首相がイラクへの自衛隊派兵について「イラク支援に日本はひるんではならない」「(自衛隊が行かない選択肢は)ありません」と発言

   14日 政府調査団がイラクに出発


 アナン国連事務総長の国連総会演説(九月二十三日)から

 国連憲章五一条は、攻撃された場合、すべての国が自衛の固有の権利を有することを規定している。しかし、これまでは、国家がそれを超えて、国際の平和と安全へのより幅広い脅威に対処するために武力の行使を決定するには、国連が与える特別の正当性が必要だと理解されてきた。

 だが今や、大量破壊兵器による「武力攻撃」が、いつ何時でも、警告なしに、あるいは秘密グループによって起こされかねないので、こうした理解はもはや通用しないと唱えている若干の国がある。

 これらの国は、それが起こるのを待つのではなく、国家には、先制的に武力を行使する権利と義務があり、たとえ他国の領土にたいするものであっても、また、たとえ攻撃に使われる可能性のある兵器システムがまだ開発途上であっても、行使できるのだと主張している。

 この主張に従えば、国家は安保理での合意を待つ義務はなく、代わりに、単独で、あるいは臨時の連合を組んで行動する権利を保持している、ということになる。

 この論理は、たとえ完全ではないにしても、過去五十八年間、世界の平和と安定が依拠してきた原則にたいする根本的な挑戦である。