2003年3月22日(土)「しんぶん赤旗」

イラク問題で緊急質問

衆院本会議で志位委員長


 日本共産党の志位和夫委員長が、二十日深夜の衆院本会議で行った小泉純一郎首相への質問(大要)は次の通りです。


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質問に立つ志位和夫委員長=20日夜、衆院本会議

 日本共産党を代表して質問します。

 本日、米英軍によって、イラクにたいする軍事攻撃が開始されました。この戦争は、ひとかけらの道理もない、無法な戦争であります。地球的規模で広がった平和の願いをふみにじり、戦争という暴挙に訴えた米英両国政府に、わが党はきびしい抗議を表明します。そして、野蛮な軍事攻撃を、ただちに中止することを強く求めるものであります。

 小泉首相は、この戦争にただちに「支持」をあたえましたが、憲法九条をもつ国の政府として、こんな恥ずかしい態度表明はありません。私は、三つの角度から、首相の基本的立場をただすものです。

国連憲章にもとづく平和秩序をくつがえす無法な先制攻撃

 第一に、この戦争は、国連憲章にもとづく世界の平和秩序をくつがえす、無法な先制攻撃の戦争であるということです。

 首相は、国連安保理決議六七八、六八七、一四四一をもちだし、「武力行使の根拠となりうる」とのべました。しかし昨年十一月に採択された決議一四四一が、武力行使の根拠になりえないことは、政府も認めてきたことです。

 決議六七八も、十三年も前、湾岸危機のさいに、クウェートからのイラク軍の排除のための武力行使を容認したものであり、今回の戦争の根拠になりえないことは明りょうです。決議六八七は、湾岸戦争の停戦の条件をさだめたものですが、「停戦協定違反」をもって、武力行使の根拠にすることも不可能であります。停戦協定の当事者は国連であり、その違反と失効を決めることができるのは国連だけですが、国連安保理はそのような決定をしていないではありませんか。

 首相のもちだした三つの安保理決議は、どれも戦争を正当化する法的根拠になりえないものではありませんか。だからこそ、米英は、あれほど執拗(しつよう)に新しい決議の採択を安保理に迫ったのであり、それが孤立し、失敗したことは、この戦争が国連を無視した無法の戦争であることを、自ら証明するものではありませんか。首相は、この戦争が、いったいどのような国際法上の根拠にもとづいていると考えているのですか。答弁を求めます。

 この戦争が、国連憲章を蹂躙(じゅうりん)した先制攻撃の戦争であることは明りょうです。こんな無法の横行を許すなら、ことはイラク問題での無法にとどまらず、国連憲章を土台においた世界の平和秩序を正面から破壊することになります。人類が多年にわたって築いてきた平和のルールをくつがえすこの暴挙を、絶対に許すわけにはいきません。

査察による平和解決を断ち切る暴挙−−政権転覆を目的にした戦争が許されるか

 第二に、この戦争は、ようやく本格的軌道にのりつつあった国連の査察による大量破壊兵器の廃棄という平和解決の道を、力ずくで断ち切るものであります。

 昨年十一月の決議一四四一によって再開された国連による査察は、本格的な軌道にのりつつありました。国連査察団のブリクス委員長が、三月七日におこなった報告では、ミサイル廃棄をはじめ実質的な成果があがりつつあることを指摘し、イラクの協力姿勢は十分とはいえないものの「積極的」「自発的」な方向への変化がおこっていることを「歓迎」し、「武装解除のための残された未解決の問題点」を具体的に列挙し、それを解決するための「作業計画」をちかく安保理に提出するとのべ、「数カ月の査察延長」があれば、問題は平和的に解決できるとのべていました。「作業計画」は、十七日、安保理に提出され、査察を本格的軌道にのせるための協議がまさにはじまろうとしていたのであります。

 国連の査察の継続・強化による平和解決への道は、大きく開かれていたのであります。戦争は、この国際社会の努力を力ずくで断ち切り、台無しにする暴挙といわなければなりません。ブリクス委員長は、三月十八日、「三カ月半で査察の門戸を閉じることは筋が通らない」と、査察が断ち切られたことへのきびしい批判をのべました。いったい首相は、査察を断ち切り、戦争にきりかえなければならない、どういう理由があったと説明するのですか。お答えいただきたい。

 首相は、「フセイン政権に武装解除の意思がないことが断定された」として、戦争支持の理由としました。しかし、昨日の党首討論で、私が、その「断定」をおこなったのはいったい誰か、とただしたのにたいして、首相は答弁ができませんでした。

 国連安保理はそのような「断定」をおこなっていません。「査察はもはや意味がない」という勝手な「断定」をおこなったのは、米国です。アメリカが勝手にくだした独断を唯一のよりどころにして、戦争支持の理由とする−−これはまともな独立国の政府なら到底恥ずかしくてできない、思考停止の対米追従の態度そのものではありませんか。

 平和解決の道を戦争で無理やり断ち切る米国政府の行為は、アメリカにとっては、大量破壊兵器の廃棄が実は目標でなく、フセイン政権の打倒こそが本来の目的だったことをしめしているのではないか。そのことは、ブッシュ大統領が、この戦争の目的を、イラクの現政権を転覆し、米国いいなりの体制を中東諸国におしつけることにあることを、あからさまに表明したことでも、証明されました。

 ある政権が、どのような問題をもっているにせよ、そのあり方を決める権利をもっているのは、その国の国民だけです。首相は、米国ならば、勝手に他の国の政権を転覆し、自分の気に入る政権をおしつける特別の権利をもっているとでも考えているのですか。このような横暴は、どの国であれ、国連憲章できびしく禁止されている他国への主権侵害、内政干渉そのものとなることは、あまりにも明りょうではありませんか。

罪なき人々の犠牲ははかりしれない

 第三に、この戦争がもたらす罪なき人々の犠牲は、はかりしれないものがあります。米英軍による爆撃にさらされているのは、罪なき民間の人々、お年寄り、女性、子どもたちであります。

 国連の内部文書では、戦争によって五十万人の死傷者、三百万人の難民・避難民が生まれることを予想していますが、いったい首相は、この戦争が、どれだけの罪なき人々の犠牲をもたらすと認識しているのですか。

 ユニセフ(国連児童基金)のベラミー事務局長は、イラクの総人口二千二百三十万人の半数、千百三十万人が十八歳未満の子どもであること、四人に一人の子どもが栄養失調、八人に一人の子どもが五歳までに死亡すると指摘し、「戦争は、子どもたちにもっとも大きな犠牲をしいる」と訴えています。首相は、この訴えを、どう受け止めますか。

 首相は、「イラクが大量破壊兵器を持っているかもしれない」という疑念だけで、このような非人道的な犠牲を、「やむをえないこと」と合理化するつもりですか。しかと答弁をお願いしたい。

イラク戦争は即時中止をもとめる−−日本政府は戦争支持をやめよ

 日本共産党は、無法で野蛮な、イラク戦争をただちに中止すること、日本政府が恥ずべき戦争支持の態度を、ただちにあらためることを強く求めます。

 平和を願う世界と日本の人々と手をたずさえ、この無法な戦争をやめさせるために、全力をつくすことを表明し、質問を終わります。


志位委員長への首相答弁

 二十日の衆院本会議で行った志位和夫委員長の質問に対する小泉純一郎首相の答弁(要旨)は次の通りです。

 (武力行使の法的根拠)イラクは諸義務の履行のための完全な協力を行っておらず、決議一四四一の規定に基づき、さらなる重大な違反が生じており、湾岸戦争の停戦決議六八七の重大な違反が生じていることから停戦の基礎が損なわれ、決議六七八に基づき武力行使が正当化される。このようなわが国の見解は、米英が表明した見解とも一致している。

 (査察を断念する理由)イラクが最近になって査察に小出しに協力するようになったのも、米国等の強力な軍事的圧力があってこそだ。イラクの姿勢が根本的に改められない限り、査察は有効たりえない。わが国を含む国際社会の懸命な努力が尽くされ、イラクの対応を根本的に変えるための見通しが全く見いだせない状況の下、武力行使に至ったことはやむを得ないことだ。

 (米国の姿勢について)米国政府は従来から、達成すべき目標は、関連安保理決議で義務付けられた大量破壊兵器の廃棄だと明確にのべている。わが国としても、湾岸戦争の停戦条件を含めた決議六八七の重大な違反が生じていることから、停戦の基礎が損なわれ、決議六七八に基づき武力行使が正当化されると考える。

 (武力行使による被害)イラクでの戦闘が一刻も早く、人的物的被害もできるだけ少なく終結することを心から望んでいる。同時に、イラクが一日も早く再建され、イラクの人々が自由で豊かな社会の中で暮らしていけるようイラクの復旧・復興のため国際社会と協調して、できる限りの支援を行っていく。

 戦争の犠牲については、ご指摘の数字は、サダム・フセイン政権の下でのイラク国民の厳しい状況を指摘したものだ。武力行使なしに大量破壊兵器が廃棄されることが最善であることは言うまでもない。しかし、平和的解決のための機会を与えられたにもかかわらず、イラクがその機会をいかそうとせず、安保理決議違反を繰り返してきたことが問題ではないか。

 ブッシュ米大統領は、紛争となった場合、米国はあらゆる方法で無辜(むこ)の市民を守る責任を受け入れるとのべている。

 (日本政府の立場について)イラクはかつて、イランに対しても、自国民に対しても、残酷な化学兵器を使用し、多数の犠牲者を出した。大量破壊兵器の廃棄は湾岸戦争の停戦条件だ。しかし、イラクは国際社会との約束を破り、十二年間、国連決議を破り続けてきた。武力行使なしに大量破壊兵器の廃棄を実現することが不可能な状況下では、米国等による行動を支持することが適切だ。