2002年11月15日(金)「しんぶん赤旗」

CS放送 朝日ニュースター

志位委員長語る

イラク問題、「不良債権処理の加速」をどうみるか


CS朝日ニュースターに出演する志位和夫委員長(左)。聞き手は峰久和哲朝日新聞政治部記者

 日本共産党の志位和夫委員長は十三日放映のCSテレビ「朝日ニュースター」の番組「各党はいま」に出演しました。このうち、イラク問題、小泉内閣の「不良債権処理加速化」について質問に答えた部分を紹介します。聞き手は朝日新聞の峰久和哲記者です。

イラク問題──国連の枠組みのなかで平和的解決を

 峰久 まず、国連安保理の対イラク決議―大量破壊兵器の査察を受け入れるということですね――これについて、まずこういった動きになったことについては、どういうふうに評価されますでしょうか。

国連安保理決議――「武力行使の自動性を排除」との仏ロ中の共同声明は重い意味

 志位 十一月八日の国連安保理決議一四四一ですが、この決議をめぐってたいへんに大きな争点となったのは、イラクが義務の不履行をやった場合に自動的に武力行使を認めるのか、それとも義務の不履行があった場合でも、自動的な武力行使は認めないのか、という点だったわけです。

 一四四一の決議自体は、結論的にいいますと、国際社会の平和解決を願う大きな圧力のもとで、そういう自動的な武力行使を排除するという内容となったと思います。

 このことは決議の文面でもあらわれているわけですが、当事国の言明として重要なのは、まず提案国であったアメリカのネグロポンテ(国連)大使によって、「本決議には、武力行使にかんして『隠された引き金』も『自動性』も含まれていない。もしイラクのさらなる違反があれば、UNMOVIC(国連監視検証査察委員会)、IAEA(国際原子力機関)ないし(国連)加盟国によって、安保理に報告され、その件は討論のために安保理に戻されることになる」という言明がされたことです。

 そして非常に重大な言明だと考えるのは、同じ日に、フランス、ロシア、中国が共同声明を出しているのです。

 「決議一四四一は、武力行使におけるすべての自動性を排除した。イラクがその責任を果たさなかった場合、第四、十一、十二項が適用されるであろう。そのような責任の不履行はUNMOVIC委員長とIAEA事務局長によって、安保理に報告される。そしてこの報告にもとづいて安保理において次にとられる措置が決定されるだろう」

 ですから、もしイラクによって、かりに、義務の不履行という事態があったとしても、自動的な武力行使はできない。安保理にまず報告し、安保理として次なる行動を決めるということが明確にされた。そういうことを、アメリカが言明し、そしてなによりも三つの安保理の常任理事国が共同声明という形でそのことを確認したことの意味は非常に重いものがあります。

 (国連安保理事会で)唯一のアラブ国だったシリアが賛成したことについても、代表がこういっています。

 「シリアは米国と英国、およびフランスとロシアから、決議がイラク攻撃の口実に用いられないし、『自動性』の基礎とならないという保障をあらためて与えられた後に、賛成票を投じた」

 「自動性」にならない、ここがはっきりしたから賛成したということをいっているわけです。ここで(安保理の)コンセンサスがつくられたということの意味は非常に重いですね。

 私はこの状況のもとで、国連の枠内で平和的な解決のために全力をあげるべきだと(思います)。その枠の外に出て一方的な軍事力行使をやることはやめるべきです。もちろんイラクはこの安保理決議を受け入れるべきです。これらがいまの大事なポイントだと思います。

一方的な軍事力行使をやれば、国連憲章だけでなく、安保理決議違反になる

 峰久 「あらゆる国際紛争に関して、国連の枠組みにおける平和的解決」。日本共産党がずっとそれを主張してこられたと思うんですけれども、そういう日本共産党の立場からすると、今回の安保理決議は評価できるというふうに理解してよろしいでしょうか。

 志位 国連の枠組みのなかでの平和的解決の可能性に道を開いたと(思います)。

 安保理の外で米国の首脳陣がいっていることは、国連が行動しないんだったらアメリカは一方的に軍事力行使をする、ということを相変わらずいっております。

 しかし、もしそれをやったとしますと、これは国連憲章に反する先制攻撃というだけではなくて、国連安保理決議の手続きをふまえない、つまり一四四一決議をふまえない、という二重の国連無視ということになりますから、私はそういう意味で、平和的解決の道を開いた、可能性を開いたものだと(思います)。その可能性を現実のものにする努力が国際社会に求められていると思います。

国連の枠組みのなかの平和解決の可能性――これを現実のものにするたたかいを

 峰久 アメリカの世論というのは中間選挙を見ますと、ブッシュ大統領の対イラク強硬姿勢を強く支持した。その意味では私たち中間選挙の結果を見た際には、ちょっと危ないことになるんじゃないかという感じをもったんですけれども、そういったことは国際社会が許さないということになったと見てよろしいんでしょうか。

 志位 (国連安保理決議には)国際社会の非常に強い平和解決を願う圧力というものが反映されていると思います。

 この間、緒方国際局長を団長とする党の代表団が中東六カ国を歴訪したんですが、中東の声、アラブの声は、ともかく戦争回避、平和解決、ということでは非常に強いものがあります。どんなことがあっても戦争は回避しなきゃならないという、この全世界の諸国民の運動、諸政府の声、この力が働いていると私は思います。

 もちろん、これ(平和的解決)はあくまで可能性であって、ほんとうに平和的な解決ができるかどうかというのは、今後のたたかいによって決まります。アメリカの(政府)首脳部の発言を見ますと、国連が行動しなかったら一方的にやるということはまだ言いつづけていますから、やはりその道は許さないということが、引き続きたいへん大事になっていると私は思います。

「不良債権処理の加速」──日本の産業と金融を土台から壊す政策の転換を

 峰久 (日本経済について)基本的な考えをうかがいたいのですが、「不良債権処理」を加速することと、「デフレ対策」をすすめるということ、どっちを優先するかといえば、どっちというふうにお考えですか。

家計と需要を活発にすることを優先させてこそ、「不良債権」問題も解決する

 志位 これは「デフレ対策」という言葉の意味にもよるんですが、景気対策をしっかりやる、私たちの言葉でいえば、家計を活発にして、需要を活発にして、景気がよくなるような対策をとるということを優先させるという意味では、こちらを優先させるべきです。そのなかでこそ、「不良債権」の問題も解決できる。

 この間のやり方というのは、それを逆に、「不良債権」をともかく無理やり期限を決めて、(銀行の)バランスシートから落とすということをどんどんすすめた結果、逆に「不良債権」が増えるという悪循環に陥っているわけです。景気悪化と「不良債権」の拡大という悪循環に陥っているわけですから、ここは大きく軌道を変えるべきだと、転換が必要だという立場です。

ちゃんと借金を返し、黒字決算の企業まで、「不良債権」として「処分」の対象に

 峰久 「不良債権処理」をうんと加速しようという「竹中プラン」から、いろいろ紆余(うよ)曲折があって、十月三十日に政府が「総合デフレ対策」を出しました。これについてはまず総括的な評価をうかがいます。

 志位 まず「不良債権の早期最終処理」ということで、この一年余り、小泉首相はこれに熱中してきたわけですが、それが何を引き起こしているか、その現状認識が必要だと思います。

 この前、党首討論でその問題を取り上げたのですが、二重の意味で中小企業を痛めつけ、苦しめている。たいへんな塗炭の苦しみを味わわせているというのが実態だと思うんです。

 二重というのは、「不良債権の早期最終処理」という場合、いわゆる「不良」とされた中小企業はつぶすという方針ですね。これによる苦しみというのはたいへんなものです。「不良」とされている企業というのは必ずしも不良な企業ではない。私たちが現場に行ってつかんでみますと、実態はちゃんと借金も契約通り返済している、決算も黒字、それなのに先の収益の見通しが悪い、そんな理由を勝手につけられて、一方的に「あなたは『不良債権』だ」ということで処分される、RCC(整理回収機構)に送られる。こういう例があとをたたないわけで、これ自体も大きな問題なんです。

貸出金利引上げ、「貸しはがし」――この圧力がすべての中小企業に

 志位 もう一つ大きな問題がありまして、それをどんどんやりますと、銀行の自己資本が減るわけですよ。これまでは株の含み益を「不良債権処理」の原資にしてきたんですが、もう(株価が下がって)含み益がありませんから、どんどん自己資本が目減りしていくわけです。そうしますとBIS(国際決済銀行)基準を下回る。これをなんとか取り戻さなければならないということで、銀行は二つの行動をいまやっている。

 一つは貸出金利をどんどん引き上げる。これをやっています。もう一つは、資産を圧縮する「貸しはがし」ですね。これを両方やることによって、自己資本比率をともかく引き上げようという行動にいっせいに走っているわけですね。金利引き上げと貸しはがしは猖獗(しょうけつ)をきわめています。

 私はこの前の党首討論で取り上げたのですが、この五年間で中小企業向け貸し出しというのは(全国の銀行で)六十兆円減ったんですよ。そのうち半分の三十兆円はこの一年間で減っている。この一年間でガクッとものすごい規模の「貸しはがし」が起こっている。この「貸しはがし」、金利引き上げの圧力というのは、「不良」とカウントされた企業だけではなくて、「優良」とカウントされている、あるいは「健全」とカウントされている、こういう中小企業も含めて、すべての中小企業に対して、いっせいに襲いかかっているわけですね。

 私はUFJ銀行の内部「マニュアル」を出して追及したんですが、「金利引き上げに応じなければ取引をやめる」という立場で交渉しなさいとはっきり書いてあります。いまほんとうにそれが中小企業全体を押しつぶしている。

 そうしますと、「健全」といわれている企業もこれまで金利2%だったのが、3%、4%になったら、これで経営悪化になりますよね。今度は「不良」に落ち込んでいく。「不良債権」をそういう意味でも拡大させる、まちがった方策をこの一年間でやってきた。

「加速」策が実行されれば、貸出総額の半分以上が減るという大手銀行も

 志位 それを「加速する」というのが今度の(政府)案なんですが、この「加速する」という場合、いろんなしかけがあって、結局アメリカ流の方式を持ちこむ(ということです)。

 一つは、「ディスカウント・キャッシュ・フロー」(DCF)といいまして、資産査定をやる場合にも、将来の収益見通しで査定をやる。こんな不況のもとで見通しがいい企業なんてごくまれですよ。これでみんなきびしくされる。実態にあわない異常にきびしい査定をやる。

 それから二つ目に、銀行の自己資本自体も、「税効果会計」の見直しという形で、アメリカ流のやり方でやって、これを人為的に減らす。

 三つは、(銀行の自己資本が)足りなくなったら公的資金(注入)という形で国有化という道も開いていく。

 こういう方向ですから、これをやった場合、どういうことになるかということで、日本総研というシンクタンクが試算をしていますが、最悪で、大手銀行だけで九十三兆円の貸し出し減が起こる。大手銀行はいま貸し出しは、だいたい二百数十兆円です。九十三兆円といったら、三分の一ぐらいを貸しはがす。

 みずほホールディングスの社長は「うちは三十兆円貸し出し減になる」と言いましたよ。みずほの場合は(法人向けは)五十八兆円ですよ、貸し出しが。そうすると半分以上を貸しはがす。この一年間、三十兆円の貸し出しが落ちたというが、「加速」方針をやったら、みずほ一社でそれと同じだけの「貸しはがし」が起こることになる。

 これをやったらほんとうに日本の産業というのは土台から崩されることになります。こういうやり方は、暴走中の暴走というほかないやり方で、大もとから見直すべきだと思いますね。

「産業再生機構」――銀行がやるべき仕事を、税金で肩代わりという本末転倒

 峰久 今度の「総合デフレ対策」、一つの目玉が産業再生機構。塩川財務大臣がおもに大企業対象だとか、十兆円使うだとか、そういう発言をついさきほどされました。この「産業再生機構」の創設ということについては、なんらかのプラスの評価はできるんでしょうか。

 志位 いや、産業の土台をつぶすようなことを一方でやって、産業の血液である金融をまさに、ものすごい勢いで引き締めて、「貸しはがし」ということを一方でやっておいて、「再生」も何もありませんよ。

 しかもいま政府が出している計画というのは、銀行のもっているちょっと「あぶない」とされる債権を二つに切り分けて、「だめ」なものはRCCに送って処分してしまう。そうでないものは「産業再生機構」なるものでなんとかするということですが、もともと融資先にきちんとお金を貸して、立ち行くようにするのは銀行の責任なんですよ。

 銀行の責任を国がかぶって、それでリスクを背負って、もし企業がつぶれたら、(損失を穴埋めするために)そこに公的資金を入れてあげましょうと(いう)。銀行の肩代わりをしてやる話です。やはりそういうやり方ではなく、きちんと銀行に産業再生の仕事を果たさせるべきだと(思います)。

 むちゃな「不良債権処理の加速」という方針をやめて、景気全体をよくする中でこの問題を解決する。銀行にちゃんと金融機能を果たさせるという方向での切りかえをやらなければだめです。こういうやり方で国がその代わりにやるというのは、本末転倒だと思います。

米国の大手投資銀行、投資ファンドによる日本の金融の食い荒らしを許すな

 峰久 いまの政府・与党内の構図として、「不良債権処理」を加速する小泉・竹中陣営とそれに対する「守旧派」に二分されているわけです。政府・与党はいったいどうなっているんだという感じがするんですけど、志位さんのほうからごらんになって、いまの与党内の状況はどうなんでしょうか。

「不良債権の早期処理」「加速」――米国の圧力ですすめられた

 志位 やはり竹中「加速策」にたいして、いくらなんでもこれをやったら日本の産業はたいへんだっていう危機感があるということはよく見ておく必要がある。

 なぜ竹中「加速策」が出てきたかという背景を見ますと、もともと「不良債権の早期最終処理」というのが始まったのは、去年の三月の森・ブッシュ会談からです。このときに向こうからやれと言われてそこで始まって、小泉政権が始めたというのが経過でしょう。

 今度の竹中案だって、九月に小泉・ブッシュ会談をやって、「不良債権処理」が遅れているじゃないかと、もっとしっかりやれと尻をたたかれて、出たのが「加速策」です。全部アメリカの圧力で始まっているわけです。

 なぜこんなむちゃくちゃな、日本の産業を壊すようなことをやるのかという根底には、アメリカの意向というものが強く働いている。

 とりわけ、いまアメリカの銀行というのは主流が投資銀行ですよね。ゴールドマン・サックスとか、ああいう大手の投資銀行が主流になっています。こういう大手の投資銀行、それから投資ファンド――いわゆる「ハゲタカ・ファンド」と言われる、こういう勢力が日本の金融を支配下において食い荒らしていくと、そのままにまかせていくように道を開いてやるという意向が深く働いていると思います。

「韓国に学べ」(竹中大臣)――新生銀行のような国有化↓外資のっとりの危険

 志位 よく竹中さんは「韓国に学べ」というでしょう。では、韓国はどうなっているかというと、九つの大手銀行があってそのうち七つが国有化されているんです。それでそのうち多くがアメリカ系の外資に買い取られてしまっている。もう乗っ取られてしまっているわけですね。

 日本でもすでに新生銀行という例があるでしょう。新生銀行は、旧長銀がつぶれたときに三兆円の税金を使って「不良債権」を全部きれいにして、十億円でリップルウッドというアメリカの投資会社に売却して大もうけをあげさせた。そしていまどんな銀行になっているかというと、まともな融資をしませんよ。「貸しはがし」がものすごいひどいやり方でやられて、去年の十月に業務改善命令を受けた第一号(の銀行)になりました。まさにまともな融資機能をやらないそういう銀行になっている。それが三兆円使った結果なわけです。ああいう種類のものが、大手銀行でさらにいくつもつくられる危険があるということを、私は見ておく必要があると思います。

「不良債権を市場に出せ」――「ハゲタカ・ファンド」による食い荒らし

 志位 それからもう一つ、ブッシュ大統領が小泉首相に送った「親書」なるものの中で、「不良債権を早く市場に出せ」といっているでしょ。このことは向こうからはっきり言われているわけです。つまり、アメリカのほうは「不良債権」をビジネスとして食い物にする投資ファンドがずいぶん発達していて、日本ほど「不良債権」のおいしいところはないといって、早く市場に出してビジネスが成り立つようにしてくれと公然と言ってくる。ですから、このねらいもあると思います。

 日本の金融を米国の大手投資銀行の支配下に置く、さらに、「不良債権」を早く市場に出して「ハゲタカ・ファンド」が食い荒らす、こういうことをいまやろうとしているというのが、事の本質で、私はこれは国を売る、たいへん売国的なことだと思います。

 私は、これはいろんな立場の違いはあっても、こういうアメリカの金融資本による日本の金融の蹂躙(じゅうりん)を許していいのかという問題を、いま大問題にしていく必要があると思います。