2002年11月7日(木)「しんぶん赤旗」
日本共産党の志位和夫委員長は六日の党首討論で、全国で大問題となっている中小企業に対する貸し渋りと貸しはがしの問題で、小泉純一郎首相を追及しました。
志位委員長 私は、いま全国どこでも大問題になっている、中小企業に対する貸し渋りと貸しはがしの問題について質問します。
これは、日銀の資料からつくったグラフですが、この五年間で全国の銀行から、中小企業むけの貸し出しが、どれだけ減ったかのパネルです。
九七年から二〇〇二年までの五年間で六十・二兆円もの貸し出しが減っている。率でいえば15・8%の減です。
しかも重大なのは、九七年から二〇〇一年までの四年間は三十・八兆円の貸し出し減だったのが、この一年間、小泉さんの政権になってからの一年間で、さらに三十兆貸し出しが落ちている。四年分の貸しはがしが一年で一気に起きたというのが、このグラフであります。
なぜこういう事態になったかというのは、私は小泉内閣が「不良債権の早期最終処理」という方針に大号令をかけた。この大号令のもとで、銀行が「不良債権の処理」を無理やりすすめた。そして(銀行の)自己資本が減ります。自己資本が減るもとで、銀行は一方では貸出金利の引き上げ、これでもうけをかせぐんです。もう一方では貸しはがしをやって資産の圧縮をやる。この二つの行動をとりました。そのもとでこういう事態が引き起こされている。
いま全国の中小企業に状況をききますと、銀行から猛烈な圧力がかかっていまして、「貸出金利の引き上げに応じろ、さもなくば融資の打ち切りだ」、この圧力がものすごい勢いでかかっています。
私はきょうここに、UFJ銀行の内部「マニュアル」、わが党が独自に入手したものでありますが、もってまいりました。今年の六月のものですけれども、これをみますと、「適正金利への引上げに応じなければ取引解消も辞さない」、この方針のもとで「交渉」をやれとはっきり書いてありますよ。
これは全部の銀行がいっせいに、この貸しはがし競争をやっています。そのもとで、ちゃんと借金も返している、しかも決算は黒字、こういう中小企業への融資が断ち切られて、経営困難に一気に追い込まれている。
総理にうかがいたいのですが、「不良債権の早期最終処理」という方針は、「不良債権」とされた企業を倒産に追い込むだけではない。「健全」とされている中小企業もふくめて、中小企業全体に対して貸出金利引き上げ、貸し渋り、貸しはがし、こういう事態を引き起こす原因になっていると、こういう認識はあるでしょうか。端的にうかがいたい。
小泉純一郎首相 いまの貸しはがしの指摘の点、私は全部とはいえませんが、かなりの地域において、かなりの金融機関にあると思っております。いままでもそういう中小企業に対しては、大手と違った特別の配慮がなされるべきではないかというような、いろいろなご意見をうかがっております。
かなり「不良債権処理」の問題が起こる前からですね、金融機関に対していろいろ、おかしいんじゃないかとか、あるいは金融機関というのは、晴れのときにはお金を貸して、雨のときには傘をはがすというような、借りる必要のないときには借りろ、借りろといって、そしてほんとうに借りたい、お金のないときには貸してくれないというようなことに対して、晴れのときに傘を貸して、雨のときには傘をとっちゃうというような言い方をいわれるぐらい、この「不良債権処理」が起こる前からかなりあったんです。
そういうことについては私は、金融機関の担当者もやはり率直にそういう声を真剣に受け止めてもらいたい。どこがほんとうに伸びる企業か、そしてどこが立ち行かない企業かという面について、審査能力等の面もあります。こういう点につきましても、私は今後、金融機関が「健全」化していくうえにおいて、こういう意見にも耳を謙虚に傾けてもらいたいと思っております。
そして今回の「不良債権処理」がいつまでたってもなかなか断行しにくい、「不良債権処理」を「加速」すれば倒産が起こる、失業者が出るということでありますけど、やっぱり健全な金融機関ということは、産業全体にとって大きな影響がありますが、これを私は早く処理しないと、日本経済が再生しないだろうという観点からやっているわけでありまして、いまいったような副作用といいますか、悪い面の影響をできるだけ避けるような支援も出しながら、私はこの時点におきまして、やはり「不良債権の処理」というものはすすめていかなければならない、そう思っております。
志位 金融機関の姿勢に問題があるというのは当たり前なんですが、私は、小泉政権がそれ(「不良債権の早期最終処理」)を一気にやれという方針をとったもとで、それがひどくなっているじゃないかと、あなたの責任についてただしたんですよ。それへの自覚がなかったら、ほんとうにだめだと思う。
志位 あなたはいま「不良債権の処理」をやれば、いいところに資金が回るようになるっていったけれども、新生銀行をごらんなさい。新生銀行は国民の税金を三兆円使って「不良債権」を全部きれいにしたけど、貸しはがしの先頭に立っているのは新生銀行でしょう。ですから「不良債権」を「処理」すれば融資がうまくいくなどというのは、これは神話にすぎない。
それを「不良債権処理の加速」という方針をとったらどういうことになるか。日本総研の試算では、大手銀行だけで、九十三兆円の貸し出しが減る(別項)。みずほホールディングスの社長によりますと、政府の方針が実行されたら、みずほだけで「三十兆円の貸出減」(別項)。みずほというのは、貸出総額が五十八兆ですよ。「不良債権」が五兆ですよ。五十八兆のうち三十兆円貸し出しを減らしたら、これは「優良」のところも全部貸しはがすことになるわけで、こんなでたらめなやり方はほんとうにやめるべきだということを考えますが、いかがですか。
首相 「不良債権処理」をするから倒産が増える、失業が増える、一面では確かに事実だと思います。しかしながら、それをやらなかったらどうなるのか。もっと経済の再生は遅れます。乗り越えなきゃならない壁なんです、「不良債権処理」。そのために私はこれを「加速」させなきゃならんと思って、やっておるわけです。
志位 「不良債権処理」が、その(「不良債権」拡大という)悪循環をまねくことも事実であきらかであって、やはり日本経済を土台から破壊するやり方は、転換すべきだということを主張し、終わります。
UFJ銀行の「格付開示マニュアル」(表紙)。各銀行は、企業の業績・財務状況や、業界の景況などにより融資先をランク付け(格付け)し、貸出金利などの融資条件を定めています。新たに金利の引き上げを顧客にのませるために、この格付けを使っています。融資先と交渉するさいの具体的な対応の仕方をまとめたのが、このマニュアルで、「引上げに応じなければ取引解消も辞さない」と明記。
93兆円の貸し出し減に――日本総研の試算
「竹中案を仮に実行した場合には、銀行の自己資本比率の急激な低下が確実視されるため、個々の銀行サイドは、リスクアセットの急激な圧縮や、貸出金利の大幅な引き上げによる収益強化によって対応せざるを得なくなる」
「とくに影響の大きい4大銀行グループでは、基準見直しによって自己資本比率は、平均で6.59%に低下すると試算されるが、仮に10%水準に同比率を回復させるためには、93.2兆円ものリスクアセットの圧縮が必要になる」
「前田晃伸・みずほホールディングス社長は『(報道されるような)繰り延べ税金資産を制限されれば、貸し出しなどの資産を30兆円減らさざるをえない』と、竹中案が金融ひっ迫を招きかねない危険性を指摘」(「毎日」十月二十四日付)