2002年10月23日(水)「しんぶん赤旗」

衆院本会議

志位委員長の代表質問(大要)


 日本共産党の志位和夫委員長が二十二日の衆院本会議でおこなった、小泉首相の所信表明演説への代表質問(大要)は、つぎの通りです。

 日本共産党を代表して、小泉総理に質問します。

 私はまず、総理が、「構造改革」の名ですすめている経済政策の二つの重大問題について、ただしたいと思います。

不況下で国民に巨額の負担増をしいる道をすすんでいいのか

 第一は、このたいへんな不況下で、国民に巨額の負担増をしいる道をすすんでいいのか、という問題です。

 今年から来年にかけて、医療費の値上げ、介護保険料の値上げ、年金給付の切り下げ、雇用保険料の値上げなど、社会保障の分野だけで総額三兆円をこえる空前の負担増の計画がすすめられています。すでに十月から、高齢者の医療費の値上げが強行されましたが、これは、「在宅の医療がもう続けられない」「窓口負担だけで精いっぱいで薬代が払えない」など、深刻な受診の抑制を、全国でひきおこしています。

 くわえて政府の来年度税制改革の方針では、配偶者特別控除や特定扶養控除の廃止・縮小など所得税・住民税の増税、赤字で苦しむ中小企業に重くのしかかる法人事業税への外形標準課税の導入など、庶民・中小企業増税が目白押しです。

 この負担増計画を前にして、多くの国民が思い出すのは、一九九七年度に橋本内閣によって強行された消費税増税や医療費値上げなど、九兆円の負担増でしょう。これは当時、弱々しいが回復の途上にあった景気を、どん底に突き落としました。さらに財政もいっそうの泥沼においやりました。

 かわって登場した小渕内閣によって、「景気のたてなおし」という名目で、公共事業への放漫財政、大銀行への巨額の税金投入が、野放図におこなわれた結果、国と自治体の借金は、この五年間で四百九十二兆円から六百九十三兆円へと、二百兆円以上も増えたのです。

 総理、「財政がたいへんだ」という理由で、不況下で、国民に巨額の負担増をおしつければ、経済も財政も共倒れとなる――これは橋本内閣の大失政によって、すでに証明されていることではありませんか。

 さらに五年前の負担増にくらべても、今回の負担増は、国民の所得の大きな落ち込みに、追い討ちをかけるという点で、その影響はいっそう甚大であることを指摘しなければなりません。政府の国民経済計算によれば、九兆円の負担増が強行された九七年度には、雇用者所得は六兆円増えていました。それでもそれを上回る負担増によって、家計は底割れとなりました。

 しかし、小泉内閣になってからのこの一年間でみると、リストラ、倒産、失業がすすみ、雇用者所得は九兆円も減っているのです。そこに社会保障と増税で数兆円規模での負担増の追い討ちをかけたら、日本経済はどうなるか。慄然(りつぜん)とする結果となるのではないでしょうか。総理はいったい、この国民負担増政策が、日本経済にどのような影響をおよぼすと認識しているのですか。明確な答弁をもとめるものです。

「不良債権処理の加速」という中小企業つぶしの道をすすんでいいのか

 第二は、「不良債権の早期処理」というかけ声で、中小企業をつぶす道をすすんでいいのかという問題です。

 総理は、所信表明演説のなかで、日本経済を発展させる「潜在力」として、東大阪市や東京・大田区など、高度な技術を集積している中小企業をあげました。しかし、技術の最先端で頑張っている中小企業が、総理がすすめている「不良債権の早期処理」という方針のもとで、どのような状態におかれているかを、ご存じでしょうか。

 この九月に、野村総合研究所が主催して、東京・大田区でセミナーがおこなわれました。そこで講演した大田区産業振興協会の専務理事の方は、「中小企業のやる気を失わせる大きな要因が、金融問題である」として、金融機関が、新製品を開発したり、優れた技術をもっている企業の技術評価をおこなわず、高い金利をおしつけたり、融資をおこなわない状況があること、中小企業の面倒見の良かった信用組合が昨年十一月に倒産したため、手形の割引にさえ困難をきたしている現状となっていることを報告し、「中小企業にとって現在の金融システムは役立たないどころか、重石になっている」「金融の役割は実体経済をサポートすることであり、決して押しつぶすことであってはならない」と訴えています。総理は、この声にどう答えますか。

 この一年余、小泉政権のすすめてきた「不良債権の早期処理」という方針のもとで、中小企業への貸し渋り、貸しはがし、金利の引き上げなどが猛烈にすすめられ、銀行の中小企業向け貸し出しは、一年間で三十兆円――総額の13%も減りました。地域金融を支えてきた信用金庫、信用組合に、金融庁が土足で入り込み、五十六もの信金・信組が、無理やりつぶされ、多くの中小零細企業の命綱が断ち切られました。

 私は、昨年六月の党首討論で、この方針を強行すれば、「景気を悪くして、ますます不良債権を膨らませることになる」と強く警告しました。事実は、その通りとなりました。この一年間で、十兆円の不良債権が「処理」されましたが、新たに二十兆円の不良債権が発生し、総額は三十二兆円から四十二兆円に、十兆円も増える結果となりました。総理は、こうした悪循環におちいった責任を、どう認識しているのですか。

 総理は、所信表明演説で、「不良債権処理を本格的に加速し、平成十六年度には不良債権問題を終結させます」とのべました。これは、この一年余の経験にてらしても、無謀きわまりない方針といわざるをえません。端的に、三点、総理の認識をただしたい。

 一つ。この方針を強行した場合に、いったいどれだけの新たな倒産と失業が生まれると見込んでいるのですか。UFJ総合研究所の試算では最大で百六十五万人の失業増という数字もあります。政府として責任をもって明らかにされたい。

 二つ。この方針を強行することによって、日本経済にどれだけの不況圧力が加わると認識しているのですか。いっそうの景気悪化が、不良債権の新たな発生をもたらさない保障は、いったいどこにあるのですか。

 三つ。竹中経済財政・金融担当大臣は、銀行への公的資金の投入も「一つのありうる結果」とのべていますが、総理も同じ見解ですか。中小企業つぶしの政策を「加速」させるために、国民の税金を使うというのは、断じて許せるものではありません。

 総理がいま強行しようとしている、不況下での巨額の国民負担増、「不良債権処理の加速」という方針は、双方とも、すでに大失敗が証明ずみの政策です。その教訓を真剣に学び、根本から再検討することを強くもとめるものです。

国民生活の再建なくして、日本経済の再建なし――日本共産党の緊急要求

 日本共産党は、深刻な経済危機から国民の暮らしをまもり、経済危機を前向きに打開する一歩をふみだすために、つぎの四つの緊急要求を提案するものです。

 第一は、社会保障の三兆円の負担増計画を中止することです。国民の暮らしの支えとなるべき社会保障が、逆に国民に襲いかかる――この事態は、たんに当面の負担増だけでなく、将来不安をひどくし、経済に致命的な打撃をあたえます。すでに決まったことだからやむをえないとしないで、またたとえ社会保障の制度の将来像についての立場に違いがあっても、現在の深刻な経済情勢にてらして、負担増計画を根本から再検討すべきではないでしょうか。

 第二は、庶民や中小企業への増税計画をやめることです。国民にとってとりわけ我慢がならないのは、一方で、所得税・住民税の増税や、九割以上の中小企業が増税となる外形標準課税をおしつけながら、他方で、大企業などへの減税計画をすすめていることです。庶民から増税で吸い上げ、大企業に減税でばらまくという逆立ちした政策は、根本からあらためるべきではないでしょうか。

 第三は、「不良債権処理」の名による中小企業つぶしの政策を転換することです。長期不況で苦境にある企業を、「不良債権」と決めつけて切り捨てるのではなく、内需を活発にし、企業の経営が立ち行くようにして、この問題を解決することこそ、政治の責任です。

 またわが党は、金融機関に、地域の住民や事業者の金融上の要望にきめ細かに対応することを義務づける「地域金融活性化法案」を提案しています。米国でも、金融機関に営業地域の資金需要に適切にこたえる責任があることを明記した「地域再投資法」がつくられています。日本でも同じように、地域金融に責任を負うルールをつくることを提案するものです。

 第四は、「サービス残業」をはじめとする職場の無法を一掃するとともに、失業者への生活保障を充実させることであります。わが党は当面、すくなくとも失業率が3%程度の水準に戻るまでの緊急措置として、(1)雇用保険の給付期間をせめて一年間まで延長し、その財源はリストラで大量に失業者をつくった大企業から特別保険料を徴収するなどして確保すること、(2)雇用保険が切れ、生活が困窮する失業者への生活保障制度を創設すること、(3)学費などの緊急助成制度、住宅ローンのつなぎ融資など、家庭を維持するための制度を創設すること、(4)臨時のつなぎ就労の場を自治体がつくること、を提案するものです。長期不況のもとで、不幸にして職を失った人とその家族を、社会全体の連帯で支えるために、国は責任をもった対応をおこなうべきであります。

 わが党の四つの緊急要求をつらぬいているのは、「国民生活の再建なくして、日本経済の再建なし」という立場であります。

 そのために必要とされる財源は、来年度予算でも、「聖域」とされようとしている二つの分野――わずか3%の削減のうえ全体の事業量は減らさないとされている公共事業費、世界第二位の五兆円にのぼる軍事費にメスを入れることで、まかなうべきです。

 わが党の提案にたいする、総理の真剣な検討と見解をもとめるものです。

イラク攻撃――この戦争を合理化できる理由があるか

 つぎに米国によるイラクへの軍事攻撃の問題について質問します。アメリカのブッシュ大統領は、十月七日にオハイオ州シンシナティでおこなった演説のなかで、「イラクの政権転換のみが、わが国に対する重大な危険を除去する確実な手段である」として、「そのために軍事行動が必要となるかもしれない」と、イラクへの先制攻撃を辞さないことを、世界にむかって宣言しています。

 日本共産党は、この間、戦争回避と平和解決のための独自の外交活動にとりくんできました。中国の江沢民総書記、ベトナムのマイン書記長と、わが党の不破哲三議長との会談では、「イラク攻撃反対」での一致点を確認しました。

 さらに現在、緒方靖夫参議院議員を団長とするわが党の代表団が、中東六カ国――ヨルダン、イラク、エジプト、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、カタールを訪問中です。わが党代表団と会談したヨルダンのラワーブデ上院第一副議長は、「アラブ人には一人として、イラク攻撃を支持するものはいません」と言明しました。わが党代表団は、エジプトのムバラク外務次官、サウジアラビア諮問評議会のアッカース外交委員長とも、「イラク攻撃反対」での一致点を確認しました。

 さらに十月十三日に、わが党代表団は、イラクのハマディ国会議長らと会談して、大量破壊兵器にたいするイラク政府の立場をただしました。わが党代表は、イラク側のこれまでの対応のなかにも、事実を隠したり、他をあざむいたりするなどの問題点があったことを率直に指摘し、国際社会に真実を明らかにする積極的姿勢をしめすことをもとめました。これにたいしてハマディ議長らは、「八つの大統領宮殿を含むすべての施設、場所への査察を無条件で認める」というイラク政府の立場を言明しました。これは政治的解決にむけての重要な前進です。

 わが党はひきつづき、この問題の平和解決の声が、国際政治で多数になるように全力をつくすつもりであります。

 この立場から、まずつぎの二点について、総理の見解をもとめるものです。

 第一は、イラクへの戦争は、アフガンへの報復戦争とは性格を異にするということについてです。わが党は、アフガンへの報復戦争にも反対しましたが、あの戦争については、米国への同時多発テロを「武力攻撃」とみなして、それへの「反撃」とする議論もありました。しかし、イラク攻撃は、事情が異なっています。米国政府は、同時多発テロとイラク政府をむすびつけるいかなる証拠も、国際社会にしめすことができないでいます。「テロへの対抗」を、イラク攻撃の大義名分にする議論はなりたたないと考えますが、まずこの点についての総理の見解をただすものです。

 第二は、イラクの大量破壊兵器問題の解決についてです。この問題で、イラクは、湾岸戦争の停戦にあたっての国連安全保障理事会決議六八七がもとめている、大量破壊兵器を廃棄するという義務を果たす責任があります。この点で、十月一日に、国連とイラク政府との間で、一部の大統領関連施設をのぞく、すべての施設の無条件査察再開で合意が達成されたのは重要な前進でした。さらに、十月十三日には、イラク政府は、八つの大統領宮殿についても、無条件で査察を受け入れることを、言明しています。イラクへの無条件の査察を実施することに、すでに障害はないはずです。

 総理は、所信表明演説のなかで、「国連査察官の無条件の復帰を認めるとイラクが表明したことは、解決への第一歩です」とのべました。これを「解決への第一歩」とみるなら、それを国連の場で具体化するための、日本政府としての外交努力が必要です。無条件査察を具体化し、査察を実行に移し、この問題の政治的解決をはかるよう、日本政府として国連の場で努力すべきではありませんか。大量破壊兵器の問題は、あくまで政治的交渉で解決すべき問題であり、戦争に訴えることを選択肢にしてはならない性格の問題であると考えますが、総理の見解を問うものです。

先制攻撃の戦争に、日本政府としてきっぱり反対と協力拒否の意思表示を

 ブッシュ政権が九月二十日に発表した「米国の国家安全保障戦略」では、「テロリストやそれを支援する国」など米国への敵対者にたいしては、「必要とあらば米国は先制的に行動する」と、国連憲章が明りょうに禁止している先制攻撃の戦略を公言しました。もしもこれが許されるなら、二十一世紀の世界は、法の支配にかわって、恐怖と力が支配する、暗澹(あんたん)たるものとなるでしょう。

 私は、総理が、イラク攻撃に反対する明りょうな意思表示を、この場でおこなうことを強くもとめます。米国の先制攻撃の戦略に反対することを強くもとめます。万一、米国が戦争をひきおこしたとしても、日本は一切の協力を拒否するという言明をおこなうことを強くもとめます。総理が、国連憲章にもとづく世界の平和秩序をまもるという立場にたつならば、これは当然のことであるはずです。総理の答弁をもとめるものです。

 また、米国が無法な世界戦略をあらわにしつつあるもとで、その戦争に参戦する有事三法案は、この国会できっぱり廃案にすることを、要求するものです。

日朝国交正常化交渉にあたって――拉致問題と核問題について

 最後に、二十九日に再開される日朝国交正常化交渉についてです。九月十七日の日朝首脳会談で、総理が国交正常化交渉を再開する決断をしたことにたいして、私は、翌日の党首会談で、「首相の決断は、重くつらいものであったと思うが、『交渉なしに改善ははかられない』という立場からの決断を、強く支持する」と表明しました。

 わが党は、一九九九年の国会において、当時の日朝間で深刻化していた軍事的対応の悪循環を打開するためにも、ミサイルの問題、拉致の問題、過去の清算の問題など、両国間の懸案を解決するためにも、政府間の交渉ルートを開くことを提案してきました。交渉によってこそ問題の解決がはかられるというのが、わが党の一貫した立場です。

 拉致問題は、生存が確認された被害者の方々の一時帰国が実現しましたが、生存が確認されていない方々の消息をはじめ、真相の究明、責任者の処罰、被害者の方々への謝罪と補償などを、今後の交渉をつうじて解決することを強くもとめるものです。

 昨日、公明党の代表が、拉致問題を利用して、事実をゆがめる、わが党への不当な中傷をこの壇上でおこなったことは、断じて黙過できません。

 公明党の代表は、わが党を「北朝鮮と親密な関係を続け」た党であるかのようにのべましたが、わが党は、北朝鮮が一九七〇年代に金日成の個人崇拝をおしつけてきた時にも、八〇年代にはいって数々の国際的な無法行為をおこなった際にも、それをもっともきびしく批判した党です。そのために朝鮮労働党とわが党の関係は、長く断絶状態となっています。

 この問題をあえてとりあげるなら、北朝鮮の国際的に異常な行動が問題となった時期――一九七二年に、北朝鮮に党の委員長を団長とする代表団をおくり、金日成の個人崇拝に迎合する「共同声明」を出した公明党の行動こそ、反省がもとめられるのではないでしょうか。

 公明党の代表は、わが党が、拉致疑惑という言葉をつかったことを問題にしましたが、当の公明党自身が、首脳会談直前の八月の末まで拉致疑惑という言葉を使いつづけていたことを、どう説明するのでしょうか。

 拉致問題という深刻な問題を、党略の手段に利用するようなやり方は、国民に責任をおう政党として、自戒すべきだということを、はっきりとのべておきます。

 十六日、米国政府によって、北朝鮮が核兵器開発をおこなっていることを、北朝鮮当局者が認めたとの発表がされました。これは、核兵器問題について、「国際的合意を順守」することを明記した「日朝平壌宣言」に違反するものです。

 わが党は地球的規模での核兵器の緊急廃絶を強くもとめてきた党であり、この立場から北朝鮮の核兵器開発にきびしく反対します。日本政府は、「日朝平壌宣言」の合意にもとづき、北朝鮮に核兵器開発を即時中止し、国際機関による査察を受け入れることを、今後の交渉のなかで強くもとめるべきです。それは日本国民の安全にとってのみならず、世界の平和にたいするわが国の国際的責務でもあります。

 今後の正常化交渉には、困難も予想されますが、日朝間の諸懸案が理性と道理をもって解決され、両国関係が敵対から友好にかわることを、わが党は強く願ってやみません。この問題についての総理の見解をもとめて、私の質問を終わります。


志位委員長代表質問

小泉首相の答弁(要旨)

 二十二日の衆院本会議で日本共産党の志位和夫委員長がおこなった代表質問に対する小泉純一郎首相の答弁(要旨)は次の通りです。

 一、(不況下での社会保障改革などの経済や財政への悪影響)社会保障制度については、国民の理解と協力を得ながら、今後給付と負担の見直しをはじめとする制度改革が避けられないと考えている。

 税制改革については、持続的な経済社会の活性化を実現するためのあるべき税制の構築に向けて抜本的な改革に取り組むこととし、現下の経済情勢を踏まえ多年度税収中立の枠組みの下、一兆円を超えるできる限りの規模の減税を先行させることとしている。不良債権処理の加速は日本経済の再生に必要なものであり、それに伴う雇用や中小企業への影響に対しては、細心の注意を払いセーフティーネットには万全を期す考えだ。

 これらの取り組みと合わせ、構造改革を総合的に遂行することにより、国民の将来不安の解消を通じた消費や投資の活性化、金融機能の再生、新規成長分野への資源の投入、都市再生など、民間のビジネス機会の拡大による投資拡大、雇用増加、コスト低下などの効果が発現し、民間需要主導の経済成長が実現されるものと考えている。

 一、(中小企業金融について)やる気と能力のある中小企業が、破たんする事態を回避するために、月末を目途に信用保証制度の充実など、実効ある資金供給円滑化のためのセーフティーネット策を取りまとめていく。

 一、(不良債権の処理額を上回る新規発生について)平成十四年三月期の全国銀行の不良債権については、積極的な最終処理により、九・二兆円が処理された一方、その残高は四十三・二兆円と、前年度末に比べ九・六兆円の増加となっている。

 これは厳しい経済情勢の影響があった一方で、金融庁の特別検査などにより、むしろ不良債権の徹底的な洗い出しを行ったこと等によるものであり、悪循環に陥っているとの批判はあたらない。

 一、(不良債権処理の方針)不良債権処理の加速は金融機関の収益力の改善や、貸出先企業の経営資源の有効利用などを通じて、新たな成長分野への資金や資源の移動を促すことにつながるものであり、他の分野の構造改革と合わせて、実施することにより、日本経済の再生に資するものと認識している。政府としては国民に不安を与えることがないよう、不良債権処理の加速に伴う、雇用や中小企業の経営の影響に対しては細心の注意を払い、セーフティーネット策を含む、総合的な対応策を取りまとめることにしている。

 一、(公的資金の投入について)不良債権処理の加速の結果として、議論されるべきものと考える。現在、金融担当大臣が、不良債権処理の加速の具体策について、さまざまな観点から検討を行っているところであり、それを踏まえて対応したい。

 一、(大企業減税について)今回の税制改革は、持続的な経済社会の活性化に資する観点から、個人・消費課税、法人課税を含む広範にわたる税目についてあるべき税制の構築に向けた改革に取り組むものであり、大企業に減税をするために個人に対する増収措置を検討するというものではない。

 一、(地域金融活性化法案について)金融機関の融資状況には、基本的には自主的な経営判断、すなわち市場メカニズムに従っておこなわれるべきであり、共産党提案のように一律での基準にもとづいて各金融機関の活動を評価すること等については慎重に考えるべきもの。米国の地域再投資法は、米国の社会経済状況を踏まえて導入・実施されているものであり、同様の制度をわが国に導入することについては慎重に考えるべきだ。

 一、(雇用保険について)雇用保険の単なる給付日数の延長は失業者の滞留を招くというおそれもある。また企業ごとに保険料を異ならせることは、雇用保険がすべての労使の共同連帯による保険制度であることから適切でない。雇用保険が切れた失業者の生活保障については、離職者支援資金の貸し付けを行っている。

 一、(失業者の臨時就労)地方公共団体において、緊急地域雇用創出特別交付金を活用し、各地域の実情に応じた緊急かつ臨時的な雇用・就業機会の創出にすでに取り組んでいる。

 一、(失業者家庭での緊急助成制度など)保護者の失職や倒産等の家計急変者に対応するため、無利子で貸与を行う緊急採用奨学金を年間を通じて随時受け付けており、現在のところ希望者に貸与することが十分に可能。失業者などの住宅ローンの負担軽減については、住宅金融公庫における返済期間の延長などの特例措置について周知徹底を図っていく。

 一、(公共事業費・軍事費)公共投資については改革と展望にそって、平成十四年度の10%削減に引き続き、平成十五年度においても3%以上の削減を図ることとしている。防衛関係費については、経費の効率化、合理化に努めることとしている。

 一、(イラク問題)重要なのはイラクが実際に査察を即時、無条件、無制限に受け入れ、大量破壊兵器の廃棄を含むすべての関連安保理決議を履行することであり、このため、必要かつ適切な安保理決議が採択されるべきだ。これについて、日米の意見は一致しており、わが国は国際社会と協調しつつ、外交努力を継続していく。

 なお、米国による軍事行動を予断することは、差し控えたい。

 一、(拉致問題)政府としては、拉致問題の解決を国交正常化交渉の最優先課題としてとりあげていく考えだ。まずは、被害者の方々、ご家族のご意向も踏まえながら、事実解明に全力をあげるとともに、被害者のご家族を伴った帰国についても、早期に実現するよう取り組んでいく。

 その上で、この問題について今後、北朝鮮に対していかなる対応を求めていくかについては、国交正常化に向けた過程で総合的に検討していく考えだ。

 一、(北朝鮮の核開発問題)国際的な平和と安全、不拡散体制にかかわる問題であるとともに、これはわが国自身の安全保障にとっても、重大な懸念だ。わが国としては、アメリカと韓国、三国連携のもと、日朝平壌宣言にもとづき、国交正常化交渉等の場で、北朝鮮側に対してその解決を強く働きかけていく考えだ。