2002年8月23日(金)「しんぶん赤旗」

CS放送朝日ニュースター

志位委員長語る

長野県知事選、小泉財政と外交、住基ネット、郵政民営化問題について


 日本共産党の志位和夫委員長は、二十二日放映のCS放送・朝日ニュースターの番組「各党はいま」に出演し、長野県知事選、小泉内閣の予算編成方針、外交、住基ネットと郵政民営化の問題などについて質問に答えました。聞き手は、朝日新聞の峰久和哲記者です。

長野県知事選──「脱ダム」の流れを前進させるか、後退させるかが焦点

 峰久 国会と国会の合間で、政界小休止という感じですが、長野県でとても熱い選挙戦が繰り広げられています。(県知事選は)九月一日の投票ということですが、各党が政党色を表に出さない選挙戦を繰り広げている中で、共産党は非常にはっきりした対応をしています。失職されたばかりの田中康夫さんを支援する立場を鮮明にしておりますが、田中さんのどこを評価しておられるんでしょうか。

不信任案に反対した立場から、独自の判断で田中康夫さんを応援

 志位 もともと、なぜ知事選が行われることになったかといいますと、県議会のダムに固執する多数派が、無理やり知事の不信任を行うという暴挙をやりました。それに対して私たち日本共産党の県議団五名が、唯一反対を貫くという対応をとりました。

 経過からしても不信任案に反対、つまり信任するという立場を表明しているわけで、私たちの独自の判断として田中康夫さんを応援して、勝利のために力をつくすという方針で頑張っているところです。

 峰久 はい。

 志位 やはり一番の争点は、「脱ダム」の流れを前進させるのか、後退させるのか、ここにあります。この問題でほかの候補も、「理念としては『脱ダム』はよい」とおっしゃるんだけれど、具体論になりますと、浅川ダムと下諏訪ダムという二つのダムを中止するという田中知事の判断にたいして、(ダムの)推進ということになる。ムダ遣い、環境破壊、そして危険なダムをやめさせて、県政のあり方を公共事業中心から福祉や環境中心に切り替えていくという流れにしっかり立っている候補者は田中康夫さんだけです。そういう立場で私たちは応援しているということです。

 峰久 田中さんについては、いわゆる政治手法だとか政治家としての資質に疑問を呈する声がなくもないんですけれども、いかがでしょうか。

 志位 ダムの問題一つをとっても、県に「治水・利水ダム等検討委員会」というのをつくって、そこにすべての県議会の会派代表が入って、市町村長の代表も入って、専門家も入って、一年間かけて住民の意見も聞いて、議論をつくして、そして「ダムなし」の治水・利水という答申が出た。田中知事はそれを尊重するということで、代替案を示してその具体化を図ってきたというのが経過ですから、私は、手続き的にも民主的な手順をしっかりつくしていると思います。

 それから、田中さんがやってきた手法として、私がたいへん注目しているのは、車座集会です。地域的にも山奥まで行ってやったり、あるいは分野でもいろいろやって、直接そこで住民のみなさんの生の声に耳を傾けて行政をやっていくなかで、いろいろな新しいアイデアも生まれてきている。なかなかの新しい流れだなと思って注目しているところです。

 峰久 田中さんはダム以外にも、二年弱の間にいろんなことをやってこられたと思うのですが、残念ながらあまりダム以外には成果というものが前面には出てこないような気がしているんですけど。評価できるという点がいくつかありますか。

福祉・環境型の公共事業や30人学級など県政の流れの変化

 志位 私は、二つのダムを中止するというのは、県政を変える象徴的な出来事だと思うんですが、県政を調べてみまして、公共事業中心の税金の使い方から、社会保障の方に税金の使い方をかなりシフトしてきているということがいえます。

 公共事業の中身も、従来型のいわゆる土木といわれるような古いタイプの公共事業を削って、福祉・環境型の公共事業を増やしています。たとえば、田中知事が最初に組んだ二〇〇一年度予算を見ますと、公共事業の総額は14%減っているんですよ。ところが、福祉型の公共事業は77%も増えている。小規模なケアハウスとか、特養ホームとか、こういうところにはお金をつけているんですね。

 それから、私がこれもなかなかのものだなと思ったのは、森林整備に力を入れていることです。この予算を一・五倍にしています。森林整備というのは、環境の保全にもなる、林業の振興にもなる、それから山間部の雇用対策にもなる。新しい環境型の公共事業ですが、こういうところにもお金をつけている。

 もう一つあげますと、三十人学級を小学校一年生から始めたということも、県民のずっと長い間の要求と運動があるんですけど、成果だと思いますね。

 こういう仕事を二年ぐらいの間にやったわけですからね。その全体をよく見て評価していただきたいなと思います。

小泉財政──「国民には大収奪、大企業にはバラマキ」という特徴がむきだしに

 峰久 “自民党政治をぶっ壊す”といって、小泉さんは昨年、登場なさって、いわばばらまき型の政治から新しい政治を志向してきたはずなんですけど、いかがでしょう。いま各省庁が概算要求に向けいろいろ調整し、予算づくりがこれから始まろうとしているところですけど、いまの小泉財政をどう見ておられますか。

 志位 来年度予算の基本方針――骨格部分が出てきたんですけど、一言でいいますと、「国民には大収奪、大企業にはバラマキ」という特徴がハッキリ出てきたと思います。

 去年の予算は、まだバラマキのところは少し抑えたような予算で、「痛みをひとしくわかちあいましょう」という調子だったんですけれど、今年は、「痛み」は国民にガーッといくけれども、大企業の方にはカネをばらまくという特徴ですね。

 「国民大収奪」と私がいっているのは、まず社会保障の医療、年金、介護、雇用保険と四つの分野で、すべて負担増、給付減が計画されていまして、これはだいたい三・二兆円ぐらいの影響が出てくる危険がある。

 峰久 負担増ということですね。

一方で負担増、一方で賃下げ競争では、家計も経済も破壊的結果に

 志位 負担増、あるいは給付のカットですね。それがどういう状況の中で押しつけられているかということが重要です。国民経済計算の雇用者所得という数字があるんですが、二〇〇一年度で国民全体でどれだけ雇用者所得が減ったかというと、四・一兆円も減っているんです。四・一兆円減っているところに、三・二兆円の社会保障の負担増をかぶせる。

 しかも今度、人事院勧告で公務員は、年収にしますと2・3%の給与をカットする。これは影響がだいたい七千億円ですね。「官民格差の是正」とかいっているけれど、リストラをどんどん応援して、政府主導で、民間の給与をうんと減らしてきたわけです。減らしておいて、「格差」ができたから今度は公務員の給与を減らそうと。そうしたらまた民間を減らしますよ。あるいは公務員の給与を減らしたら、今度は年金の方も、物価スライド凍結を解除して、減らしていこうと。こういう賃下げ競争、賃下げスパイラルを政府主導でやっている。

 一方で負担増を押しつけて、一方で賃下げ競争をすすめるというやり方を、いまのこういう経済情勢のもとでやったら、私は、家計も経済も破壊的な結果になると思う。これはほんとうにやめさせる必要がある。

 大企業へのバラマキという点では、法人税減税などを中心とする大企業むけの減税ですが、これは一兆円を超える規模だと。二兆円という人もいますけれども、これをどんと出してくる。しかも、これにはちゃんと「税収中立」という添え書きがついていて、いずれは所得税の控除の見直しとか、法人事業税への外形標準課税の導入とか、結局、庶民・中小企業増税でかぶってくるということになりますから、こっちの方も大企業には大規模にばらまくけれども、庶民につけをまわすという方向です。

 こうした逆立ちした経済運営というものをほんとうに見直さないと、私は橋本内閣の二の舞いになるといっているんですよ。橋本内閣が九七年に消費税の値上げをはじめ九兆円の負担増を強行した。そのときは、さっきの国民経済計算の雇用者所得は九七年度でみると、年間六・三兆円増えていたんです。つまり、景気が回復して増えていた。六・三兆円増えていたところに、九兆円の負担増をかぶせて、差し引きで大きな所得の減少が起こって、景気をぺちゃんこにしたのですけれども、いまは四・一兆円も減っているところに、さっきいったように次から次へと負担増をかぶせていくというやり方をやろうとしている。これはもう経済がむちゃくちゃになります。

 ですから、いまこれを転換する。大規模にばらまくカネがあるんだったら、私はまず国民の家計をたてなおす、とくに社会保障の負担増をやめさせるというところに、まず財政の出動をやるというところに切り替えるべきだと強くいいたいですね。

 峰久 企業税制を変える、外形標準課税を導入することはどうですか。

外形標準課税は、中小企業の経営悪化と人減らし促進をもたらす

 志位 外形標準課税の導入といわれているものは、結局、赤字の中小企業が一番の被害を受けることになります。外形標準課税というのは、資本金とともに、賃金にもかかるでしょう。ですから、結局、これをかけられますと、中小企業は人減らしをせざるをえなくなるわけですよ。この一年間でも、大企業はだいたい百万人ぐらいの人減らしをやっています。ところが、中小企業をみますと、ほとんど人を減らしていないんですよ。いま、この失業がひどいもとで、雇用を支えているのは中小企業なんです。この中小企業に外形標準課税をかぶせたら、経営悪化と、それから外形標準課税自体が賃金にかかるという点で、人減らし促進税制ですから、そういう二重の意味で雇用破壊にもつながる。ですから、私はこれは絶対やるべきでない選択だと思いますね。

アメリカの戦略──核兵器使用をふくむ先制攻撃論を公然とのべた「国防報告」

 峰久 まもなくアメリカの同時多発テロから一年。ブッシュ世界戦略のなかで、日本の外交がかなりほんろうされた印象があります。アメリカはまた、イラクなどに対してかなり強硬な戦略を打ち出しています。アメリカの戦略について評価をうかがいたいのですが。

「敵性国家の政権転覆」――イラクへの“宣戦布告状”

 志位 私は、アメリカの国防総省が八月十五日に議会に提出した「国防報告」は、非常に重大な内容が盛り込まれたと思っているのです。

 これまでもアメリカ政府は、QDRという「四年ごとの戦力見直し」とか、NPRという「核態勢の見直し」など、いろんな報告書を出してきました。それから、ブッシュ大統領自身の「悪の枢軸」発言とか、いろいろな一連の発言があります。それらをすべて集大成して、一本にまとめたという印象があります。

 報道されている範囲でみましても、一つは、先制攻撃論を公然とのべているということですね。「米国を守るには予防、場合によっては先制が必要である。最良の防衛は良質の攻撃である」と、はっきり言い切っているわけです。

 二つ目に、核兵器使用について選択肢だという表現が出ています。「事前にあらゆる(攻撃手段使用の)可能性を否定してはならない。勝利をうるためには手持ちのあらゆる手段をもちいる」と。「あらゆる手段」というなかには、当然、核兵器の使用が入るわけですね。

 三つ目に、私が読んでいてぞっとしたのは、「敵性国家の政権転覆」ということがハッキリ書いてあるのです。「敵性国家の政権交代を含めた決定的な打撃を与える必要がある」と。これはまさにイラクが念頭にある。イラクのフセイン政権を打倒するということです。アフガニスタンの政権をひっくりかえしたのと同じ事を、いわば世界中でやるんだ、まずイラクがターゲットだ、といわば“宣戦布告状”です。

 そういう内容が入っていて、実際にそういう方向でイラク攻撃の具体化の準備という問題が、現実の日程にのぼりつつあって、今年の暮れから来年にかけて、非常に事態が緊迫してくる。

 こういうやり方というのは、国連憲章にまったく反するわけです。国連憲章というのは、武力攻撃が発生したときの自衛の措置としてのみ、(個々の加盟国の)武力の行使を認めているわけですから、先制攻撃などというのはどんな理由をつけても、世界の平和秩序を壊すもの以外の何ものでもありません。

 しかも、もしイラクに発動されたとなりますと、これは現実の問題として、いろいろな報道がありますけれども、二十五万の兵力で空と陸からバグダッドを占領すると。イラクの方はバグダッドで迎え撃つと。ただバグダッドには五百万人が住んでいるわけですよ。そこでそういう戦争をやった場合の被害はどうなるか。

 さらに、イスラエルをまき込んだ中東の大戦争になる危険がある。イスラエルのある有力紙は、もしそうなったら、イスラエルは核兵器を使って応戦するだろうという恐ろしいことも書きました。まさにそういう中東全体を巻き込んだ戦争になるということで、世界中が心配しているわけです。

 だから、ヨーロッパでも、ドイツ、イタリア、フランスは反対です。イギリスはブレア首相は賛成の方向だけれども、議会は割れているし、イギリスの国教会は反対です。大論争が起きています。それから中東諸国はほとんど反対の意思表示をしている。

 そういうなかで日本が、この問題で、アメリカに唯々諾々と従いつつある。こういうなかで有事法制も執念をもって通そうとしているというのは、非常に危険だと思います。

 いま、そういう戦争の拡大という方向を許さない全世界的な世論と運動の結集が必要だと思います。

住基ネット──みずからの約束すら破った無理押しは許せない。今からでも見直し・中止を

 峰久 八月五日から住民基本台帳ネットワークの一次稼働ということですが、それに反対している自治体もある。横浜市などは「参加するかしないかは市民一人ひとりの判断にゆだねる」という選択制をはっきりさせました。それに対して神奈川県の方は、「それは違法であるから、受け入れられない」ということでもめているわけです。どのように思いますか。

 志位 いま四つの自治体ですが、選択制を宣言したところもあるし、参加しないと宣言した自治体が出てくるのは当然のことです。

 これはもともと(一九九九年に)住基ネットの法律が通るときに、個人情報の漏えいあるいは不当な利用ということが問題になって、個人情報保護法をつくりますというのが、小渕首相(当時)の国会答弁で、(法律の)付則にもはいったわけですね。

 峰久 「所要の措置」ということですね。

 志位 そうです。少なくとも政府の論理からいっても、これをやらないで、住基ネットを発動するということは通らないはずなんですよ。ですから、むこうが法律を守っていないということをまず第一点にいいたいことです。

 もう一つ、では個人情報の保護法案がちゃんとできればいいかというと、それですまない問題をかかえていると思います。まずどんなコンピューターのネットワークシステムでも、絶対に情報が漏れないシステムというのは理論的にありえないというんですね。これはどんなものであっても、入っていく方法はあるわけで、必ず個人情報の漏えいということがおこりうる。

 もう一つ、国民に十一ケタの背番号をふるということは、国民的な合意がないですよ。生まれたときから死ぬときまでその番号を全部通されて、そこにいろんな情報が入っていく。これに対して、けっこうですという合意はないですね。みんな薄気味悪い、やっぱり一つの巨大な権力による管理社会がつくられるんじゃないかという不安をもっているわけです。

 そういう問題をいろいろかかえているなかで、これを無理押ししてやったわけで、いまからでも見直し・中止する選択をとるべきだと思います。

 峰久 この住基ネットの背後にいわゆる「電子自治体」「電子政府」構想、さらにはその背後には「e―JAPAN計画」、五年後には日本は世界でも屈指のIT大国になるというものをにらんだものだと思いますが、そういった発想そのものはいかがですか。

 志位 私はその点で、朝日新聞論説委員の高成田さんが「インストラック」というなかでお書きになっているのを、インターネットでみたんですが、住民票の交付回数がどれだけあるかというと、全国で年間八千五百万件というから、国民一人あたりにすると一年に一回あるかないかだと。しかもある地方自治体の話では、住民票の写しを求める三分の一は金融業者からのものであって、本当に住民が必要とするのは二年に一回程度ではないかという話なんですね。利便性、利便性というけれども、むしろ、情報の漏えいとか不当な利用という危険性の方がはるかに大きいものがあるということではないでしょうか。

郵政民営化──大銀行の要求で、国民にとっては便利なことは一つもない

 峰久 次に郵政民営化です。(先の国会で)郵政改革の法案が通りました。あの法案そのものは決して民営化を目指すものではない、公社をつくろうというもの、また民間の参入を許そうというものなんだけれども、できたばっかりのときに小泉さんは「これは民営化への第一歩なんだ」とはっきり話している。そういう首相の姿勢についてどうお考えですか。

 志位 私は、立場は違いますが、あれを民営化への第一歩だというのはまさにその通りだと思っています。郵政というのは三事業ある。今度の法案では、郵貯と簡保には手を着けていないわけですね。しかし、郵便事業については民間参入を可能にするという点では一つ穴をあけたわけですね。こちらから崩していこうということで、民営化への一歩はスタートしたということだと思うんです。

 郵政三事業の民営化というのは、国民がのぞんで「民営化してくれ」といったところから始まったわけじゃない。これは、大銀行がこれからいろんなところでリスクの高い商売をしていくうえで、国民が安全に預けられる郵便貯金が邪魔で邪魔でしょうがない、これをなくしてしまおうというところからきているわけで、大銀行の要求なんです。郵便局がなくなって、あるいは郵便貯金がなくなって、国民にとって便利なことは一つもないです。ですから、私は、今度の事態というのは、これを崩していく一歩になってきているところをしっかりみて、いまの「まやかしの改革」は反対する立場です。

 やっぱり、郵便事業についていいますとね、特定郵便局長会を手足にしてぐるみ選挙をやったり、そういうことが一番問題なわけですから、その改革こそきちんとやるべきだというのが私たちの立場です。

 峰久 小泉さんの問題意識としては、郵便事業というのはまだ小さな問題で、郵便貯金が資金としていろんな特殊法人とかムダなカネのもとになっているんじゃないか。そういう問題意識だと思うんですが。

 志位 財投がムダな公共事業に使われてきた。これは出口の問題です。これはちゃんと直さないといけないと思いますよ。しかし、出口でムダなところに使われているから入り口をなくしてしまえというのは暴論ですね。私は、財投の使い方の民主的改革をしっかりやればいいと思っています。(政府は)そっちの方はやらないじゃないですか。たとえば、財投でやっている事業として関空二期工事とか一連の事業があるでしょう。ああいうところにはメスを入れないじゃないですか。そっちの方はメスを入れないで、出口は悪いから入り口をなくしてしまえという議論は暴論だと思いますね。

 峰久 どうもありがとうございました。