2002年3月21日(木)「しんぶん赤旗」

コメンテーターも“日本外交ピンチ”

鈴木議員の対ロ秘密外交

テレビ朝日系番組 志位委員長が語る


 日本共産党の志位和夫委員長は二十日昼放送のテレビ朝日系「ワイド!スクランブル」に出演し、前日の記者会見で公表した鈴木宗男衆院議員とロシュコフ・ロシア外務次官との秘密会談記録について語りました。


 番組は初めに、鈴木氏が「二島先行返還」論を展開していた昨年三月五日の会談記録の概要を、志位氏の記者会見の様子を交えて紹介。「ロシアのロシュコフ次官は『してやったり』と思ったのではないか。大きな歴史の流れから見れば大変マイナスなことをやってしまった」という青山学院大学の寺谷弘壬教授のコメントを紹介しました。

 さらにこの会談に外務省の東郷和彦欧州局長(当時)が出席していたことを紹介。川口順子外相が「政府は『二島先行返還』論について提案したことはまったくない」と否定していた映像を示したうえで、「東郷局長と話し合った結果だから、外務省は違うと言えなくなる」(寺谷教授)と指摘しました。

これは「裏取引」、中身も「二島返還でおしまい」論

 番組は志位委員長を交えて、スタジオでのやりとりになりました。

 司会者が会談記録の入手経過について質問。志位氏は「おととい(十八日)の夕方、私の国会の事務所に封書で届けられました」と明かし、その信ぴょう性について次のようにのべました。

 志位 一晩かかって精査をやりまして、昨年の三月五日の秘密会談の記録なんですが、そこにいたる経過、その後の三月二十五日にやられた森・プーチン会談、いわゆるイルクーツク会談の結果、その全体を照らし合わせて、すべて符合する。事実に符合し、矛盾するものが一つもないということで、これは間違いないと判断して、私のところに来たものでしたから、これを公表する義務があると思って公表しました。

 この会談記録の問題点として志位氏は、(1)二重交渉(2)政府批判(3)二島先行返還を主張(4)外務官僚が同席――と書かれたパネルを示して、次のようにのべました。

 志位 いくつかまとめてくださっていますが、まず二重交渉という問題ですね。正規の政府間の交渉とは別に、鈴木議員が東郷局長といっしょに秘密交渉、裏交渉をやっていた。そして政府のともかくも公式の領土の方針と別の方針を、その場で相手方に伝達したということですから、これは非常に重大な問題だ。はっきりいいまして、裏取引ですね。ロシア側との裏取引を鈴木議員、東郷局長がいっしょになってやっていた。

 それからやっていた中身が問題なんです。(パネルに)「二島先行返還」ということが書いてあります。先ほども言われたように、“歯舞には人が住んでいないから返してくれ、色丹はせまいから返してもロシアにたいした損はないから返させてくれ”ということを言っているわけですが、「二島先行返還」というのは、もっと正確に言いますと、「二島返還でおしまい」論を主張しているということなのです。

 (千島列島地図のパネルを示して)色丹・歯舞、国後・択捉とありまして、政府の方針はともかく四島を領土交渉の対象にする。私たち日本共産党はこの千島全体を歴史的な領土だということで返還の要求をしていますが、ともかく政府の方針は四島だということできたわけです。

 ところが二島だけ、二島(返還)で終わりというのはどういうことを意味するかというと、一九五六年に「日ソ共同宣言」がやられて、その時点で歯舞・色丹については日本に返しますということを、当時のソ連ですら約束しているわけです。つまり二島を返すということは四十六年前に決着がついた問題です。ですから「二島でおしまい」という論は、もう領土交渉はやりませんよ、領土交渉はやらなくてもいい(司会「…ととられても仕方がない」)そういうように向こうにとられるという発言をしたということですね。

裏取引は一昨年12月始まり、日本外交をプーチン路線にゆがめた

 番組に同席した自民党の小林興起衆院議員は「この疑惑は自民党として、政府として徹底的に解明しないといけないし、外務省は東郷局長をただちに呼んで、こういう交渉に立ち会ったのかどうか真実を聞かないと、国民だっておさまらないし、自民党だっておさまらない」とのべました。

 テレビ朝日コメンテーターの川村晃司氏は、「去年から怪文書が外務省で流れていて、これ(会談記録)と同じようなことは流布されていた」とのべ、「鈴木氏は官邸を飛び越えて、そのときの総理だった森さんといっしょに(ロシアに)行っている。したがって森前総理はこれについてきちんと説明する責任も出てきたと思います」と発言しました。

 続いて志位氏は次のようにのべました。

 志位 この問題は経過から言いますと、大変な問題をかかえていまして、一昨年の十一月三十日にプーチン大統領が「日ソ共同宣言」のロシア側の解釈を日本政府に伝達するんです。これはどういうことかといいますと、“歯舞・色丹を日本に返したら、それで最終決着ですよというのがロシア側の解釈ですよ”というのを伝達するんです。

 これがおととしの十一月三十日。それを受けて、この文書にも出てきますが、「昨年十二月にお渡ししたノンペーパー」というのが出てくるんですが、一昨年の十二月に鈴木宗男さんが訪ロして、「ノンペーパー」という非公式の領土の提案をやっているんですね。ここから裏交渉が始まっている。そして三月五日の裏交渉。

 結局、プーチン大統領の伝達というのは、二島返還で終わりにしちゃいましょうという話ですから、それにまさに日本の外交をそっちの方向に引っ張り込んでゆがめる、プーチン路線でゆがめるという方向ではたらいた。

 そして森さんとの関係でいいますと、森・プーチン会談というのがイルクーツクで三月二十五日にやられたわけですが、(鈴木氏は三月五日の会談で)その共同宣言のなかに、「日ソ共同宣言の有効性を書きこめ」ということを繰り返し言うんですね。これはプーチンさんの話からすれば、二島で終わりだということを書きこめということを、ロシア側に解釈させるということなんですね。そういう事態をつくって、それがイルクーツク宣言にも入ってしまっているんです。

歴代の自民党政府の領土交渉の破たんが背景にある

 芸能評論家の東海林のり子氏は「びっくりしますよね。こんなことが裏で行われてるんですか。国益に反することが。それを許す何かがあるわけですかね」とコメント。川村氏は「ロシア側が今度、これを逆手に四島も返さないよ、こういう文書があるじゃないか、と言われたときに(日本は)大変外交的にはピンチになりますよね」と発言しました。

 最後に志位氏は、「なぜこんな混迷になるかというと、『四島返還』論というが、どういう国際法上の根拠をもって返せというかを、歴代の自民党政府は言っていないからです」と指摘。次のように結びました。

 志位 結局、(政府は)「国後、択捉は千島にあらず、だから返せ」という論を立ててきたんです。しかしそれは成り立たない論なんですね。ですから、サンフランシスコ条約で、一九五一年の条約ですが、(千島列島を)放棄してしまっているんだけれど、それはスターリンが奪ったのが悪いわけですから、そこの誤りを正して、きちんと堂々たる交渉で、私たちは全千島を返せといっていますが、論を立てた交渉をやらないところに、今度の問題が生まれていると思います。