2001年10月1日(月)「しんぶん赤旗」

NHK「日曜討論」

志位委員長の発言(大要)


 日本共産党の志位和夫委員長は九月三十日、NHK「日曜討論」に出演し、米国の同時多発テロ事件にたいする対応、政府が臨時国会に提出しようとしている自衛隊派兵新法について、与野党の党首、幹事長らと討論しました。ほかの出席者は、自民党・山崎拓幹事長、公明党・神崎武法代表、保守党・野田毅党首、民主党・鳩山由紀夫代表、自由党・藤井裕久幹事長、社民党・土井たか子党首。司会は、山本孝NHK解説委員。

新規立法の二重の問題点

米国の報復戦争を無条件の前提に、憲法を踏み破る参戦に道ひらく

 討論では、自衛隊派兵の新法について、山崎氏は「国際社会の一員、国連加盟国として、日本の役割のあり方について規定する法案だ」と発言。鳩山氏は「新しい法制度は必要」、藤井氏は「武力行使ができるには、国連決議で認め、集団的自衛権を認める必要がある」とのべました。志位氏は、次のようにのべました。

 志位 私は、二重の問題点をはらんでいると思います。

 一つは、いまアメリカがやろうとしている大規模な報復戦争、これを無条件の前提において、それにいかに日本が参加していくかという法案になっている。

 しかし、この報復戦争を進めたら、たいへんな新たな罪なき市民の犠牲が出る、現に難民で苦しんでいる方々に、たいへんな犠牲がでるという心配が、国際的にもたくさんなされています。そして、紛争の泥沼化をまねいてテロ根絶にも役に立たない。

 私たちはそういうやり方ではなくて、国連中心に、法にのっとって、テロリストを追い詰める。そして、法のもとで裁きを下す。これがとるべき道だと考えています。

 もう一つの点は、憲法との関係でいえば、「後方支援」とよくいうのですけれども、医療にしても補給にしても輸送にしても、これは戦争と一体のものだと、武力行使の一部だと(いうことが)、国際法上も明りょうなのです。これは、ガイドライン法のときに、さんざん明らかにしたことです。それを地球的規模に広げようということですから、これは憲法を踏み破る違憲立法だと、報復戦争に参加する違憲立法だという点で、私たちは、これは、やってはならないものだと思います。

米国の報復戦争

国際法上の根拠をもたず、罪なき多くの人を犠牲にする非人道的行為

 新法で自衛隊がおこなう米軍への「後方地域支援」について、山崎氏が「国連決議にもとづく行動であり、憲法の枠内だ。ガイドライン法で認められていることを運用し、適用する」と発言。鳩山氏が「武力行使を認める国連決議がないと、米軍への協力はできない」とのべたのにたいし、神崎氏は「湾岸戦争のような武力行使容認決議は期待できない。いまの(国連安保理)一三六八号の決議と一連の決議をもとに、日本は国際協力ができる」とのべました。藤井氏は「後方支援は、兵たん活動そのものであり、戦闘行為と一体だ。集団的自衛権の行使を認めるべきだ」とのべました。

 志位氏は、次のように指摘しました。

 志位 これは、ともかくアメリカと一体になって、海外の武力行使をやるということですから、私たちはきっぱり反対です。

 今度のアメリカがやろうとしている戦争というのは、国際法上の根拠はない、これは、明らかだと思います。安保理の一三六八決議、昨日あがった一三七三決議、両方とも、加盟国に武力行使の権限をゆだねるということはありません。国連としての軍事行動をやるということも、ありません。

 ですから、これは、国連として、武力行使を容認したという内容はいっさい含まれていませんから、そういうもとで、個々の加盟国が、武力の手段に訴えることは、国際法上根拠がない。

 そして、いまブッシュ大統領が、ビンラディン氏と「アルカイダ」(国際テロ組織)が犯罪者だと、そしてかくまうタリバンも同罪だと、つまり一つの国全体を対象にした戦争をやろうとしている。そういうことになりますと、ほんとうに罪のない多くの人が殺されることになる。

 いまですら、国連機関の発表では、五百万人が、(報復)戦争の包囲網が敷かれるもとで飢餓に陥っていて、生死の境にいる。その二割を占めるのが子どもたちだ。そういうところに、武力報復をやったら、たいへんなことになる。(ユニセフ親善大使の)黒柳徹子さんも心配していますね。

 国際法上の根拠がないという点でも、そして人道的な面からみても、私は武力の方法に訴えないで、“法の裁き”ということを、ほんとうに真剣に追求すべきだと思います。

法にもとづく解決を

容疑者の特定、身柄の確保、国際法廷……すべて国連中心に、国際社会が一致協力して

 テロ問題の解決をめぐって、土井氏は「被疑者をはっきりさせ、国際的ルールにしたがって取り扱うべきだ」と発言。山崎氏は「ビンラディンとその組織を根絶させるという国際社会の動きは急務だ」として、米国支援の軍事行動にあくまで固執する姿勢を示しました。

 志位氏は、次のようにのべました。

 志位 (日本政府は)日米同盟というものを最優先して、ほんとうにテロ根絶のために有効な手段、それから法と道理にかなった手段は何か、という選択を、きちんと主体的にやらないということが問題だと思うんですよ。

 さきほど私は、法にもとづく解決を、といいました。これは、何も不可能なことをいっているわけでもないし、非現実的なことをいっているわけでもない。

 まず第一に、容疑者の特定というのが、大事なんです。特定がもうされているかのようなことをいっていますけれども、さきほどタンザニアの事件とか、ケニアの事件については、国連はたしかに(経済)制裁の措置を科していますけれども、今度の事件の容疑者については、まだ証拠は出されていません。やはり、可能な限り容疑者を特定する証拠をアメリカは明らかにすべきだし、国際社会の共通認識にする。これが第一段階です。

 それから、第二段階として、身柄を確保することです。容疑者が明らかになったら身柄を確保する。引き渡しに応じなかったら、国連として集団的な措置をとるということですが、これも唯一できるのは国連なんですよ。

 そのうえで、第三として、必要な裁きをおこなう。必要だったら国際法廷も開く。

 すべて、国連中心に、一歩一歩、手順を追ってテロリストへの包囲網を、国際社会がまさに一致協力してすすめていく。そのなかでこそ、今度のテロ問題について、国際的な(テロの)ネットワークといわれていますけれども、そうであればあるほど、裁判という人類の英知を通じてこそ、ほんとうに根絶することができるわけで、それが大事だと思います。

兵たんは戦争の一部

「危険なところにいく」というのは、まさに戦争への参加そのもの

 次に、自衛隊の活動範囲の拡大について議論になりました。山崎氏は「日本ができる活動は、医療活動や難民支援が特徴的なもの。それはパキスタンまで行かないとできないと思う」、鳩山氏は「海で(インド洋上の)ディエゴ・ガルシア島まで物資の輸送をすることは認めていい」、神崎氏は「今回の事態でいちばん日本らしい支援は難民支援や医療支援。それをやるためにはパキスタンまでは行かざるをえない」とそれぞれ発言しました。志位氏は次のようにのべました。

 志位 憲法とのかかわりでいいますと、これまでのガイドライン法は、ともかく「後方地域支援」ということで、“安全なところまでしか行かない”ということが建て前でした。私たちは、「後方地域支援」だろうがなんだろうが、兵たん活動というのは戦争の一部だということで、これは欺まんだということで批判しましたが、建て前はそうだったわけです。

 ところが今度は、首相自身が「危険なところに行く」というふうにおっしゃっているわけです。危険なところ、つまり戦闘がいつ始まるかわからない――そこに、パキスタンが想定されているのかはわかりませんが、たとえば野戦病院をたてる、輸送の基地を設営するということになれば、まさに戦争への参加そのものです。

 それから、避難民ということが言われましたが、二つ言いたい。

 いま、なぜ難民が増えているのかといえば、米軍が戦争態勢をとっているからです。それをやめさせるということが一番大事です。

 それから、国連の要請があったといいますが、いま、民間機がパキスタンまでどんどん入っています。いま要請があったら、十一時間五十分あればパキスタンまで民間機で運べるわけですから、そういうことをやればいいわけで、すぐに自衛隊機を飛ばす――三泊四日もかかるそうですが、ともかく人道支援といえば必要もないのに自衛隊をどんどん飛ばしていくというやり方は、本当におかしなやり方だと思います。

難民救援について

国連やNGOなどが活動している。自衛隊がかかわることはかえって危険に

 つづいて自衛隊の武器使用をめぐる議論にうつりました。山崎氏は、「自衛隊を危険なところに赴かせる以上は、できるだけの安全確保を配慮してやるべきだ。武器の使用についても基準をゆるめたほうがいい」と発言。藤井氏は、「任務遂行のために妨害を受けたときは武器を使えというのが国際基準であり、そういう国際基準でいくべきだ」とのべ、山崎氏も「そうだ」とのべました。志位氏は次のようにのべました。

 志位 これは大変な発言で、山崎さんがおっしゃったこともふくめて大変だと思います。これまでは、ともかく建て前としては、ガイドライン法についてもPKO法についても、“安全なところにしか行かないから、武器使用というのは自分の身体を守るために緊急避難的にしか使えない”というのが原則だったわけです。

 ところが今度は、“国際基準で任務遂行のため”ということになると、まさに戦争をしている米軍を輸送や補給で助ける、全面的に支援するという任務遂行のために武器を使用するということになって、ほんとうに武力行使です。

 もう一つ、さきほど“危険なところだからこそ自衛隊”という話がありましたが、難民の支援についていえば、自衛隊がおこなった方が危険なんです。相手の攻撃対象になるんですから。

 いま、難民の支援で苦労されているのは、国連難民高等弁務官の事務所や、ユニセフ、国際赤十字、NGOです。そういう方々は、自衛隊に来てくれと言っているのではない。物資を運んでくれとは言っていますが、パキスタンまで運んだら、あとはみんな輸送ルートは持っている。現地に問い合わせてみるとそういう状態なんです。そこに自衛隊が入っていくと、まさにそこが攻撃対象になって、そこが戦場になりますよ。

 私は、避難民に本当に人道的なことを考えるなら、軍隊など送るべきではない(と思います)。そういうきちんとした手段がきちんととれる。

 なによりも、いま戦争をやろうという態勢をとっていることが、難民をつくっているのですから、そこをやめるべきです。