2001年3月30日(金)「しんぶん赤旗」

CS放送 朝日ニュースター

志位委員長、明快に語る


 日本共産党の志位和夫委員長は二十九日、CS放送朝日ニュースターの番組「各党はいま」に出演し、日本経済の危機をどう打開するか、日米、日ロ首脳会談の結果をどうみるか、長野県の田中知事が打ち出した「脱ダム宣言」などについて、朝日新聞政治部の清原政忠記者の質問に答えました。


日本経済の危機をどう打開するか
日米・日ロ首脳会談、「脱ダム宣言」などについて

 

 清原 今日は日本共産党の志位委員長に当面の政局、経済問題、外交、公共事業などを中心にうかがいます。

 志位さんは千葉にお住まいらしいですが、先日あった千葉県知事選では共産党が推された候補は残念な結果でしたが、無党派の候補が当選するということになりました。どうごらんになっていますか。

 志位 千葉県では自民党中心にずっと(日本共産党以外の)「オール与党」の県政が続いてきたんです。今度の結果というのは、その「オール与党」が、自民・公明派と、民主・社民派に分かれたんですけれども、これが両方とも敗北した。つまり、「オール与党」の県政はもういやだという非常に大きな流れがおこって、ああいう審判が下ったというのが大事なところだと思います。

 その流れが、残念ながら、(日本共産党も加わる明るい会が推した)河野さんに集中するという結果にはならなくて、二十四万票という結果だったんですが、しかし、そういう流れがはっきり示されたということは非常に大事な結果だったと思います。

政府の「緊急経済対策」――
実態経済をよくしないで、
人為的な株の操作、「不良債権の早期処理」に熱中する逆立ち

 清原 自民党の森首相の後がまの候補選びがどうなるのかなという状況が続いているなかで、国民の最大の関心事は暮らしの問題だと思うんです。与党三党が緊急経済対策を発表して、実行を迫っているということなんですが、実はあれはあまり評判がよくないんですよ(志位「そうですね。評判がよくないですね」)。どうごらんになっていますか。

 志位 いま、経済で一番の問題はどこかといいますと、経済の六割を占める個人消費がかつてなく冷え込んでいる。そして、その個人消費を支える所得が冷え込んでいるところにあります。とくに九七年以降でいいますと、一世帯あたりで月収で可処分所得が二万四千円減っている。それから、消費も月あたり一万六千円減っている。これだけ消費が冷え込んでいるもとで、需要が足らなくなる。「デフレ」の悪循環がおこる。こういう事態まできている。ここが一番問題なわけですよ。

 ですからいま、本気でまじめに経済対策にとりくもうと思ったら、この冷え込みきった家計消費を直接応援する手だてが必要なんです。ところが政府の手だてというのはここをやらないでおいて、株を人為的に操作してつりあげる。そして、「不良債権を早期処理する」というのがだいたいのメニューです。おもに大銀行とゼネコンの応援団を続けるというのが今度の「対策」ですから、これではやはり、景気の先行きを明るくすることはできないと思いますね。 

 清原 与党の緊急経済対策のなかには、株式の買い取り機構みたいなものが入っているんですけど、また、公的資金を入れるのかという(志位「そういう話がありますね」)。まだ、決まってはいないんですけど、そういう意見もあるんですね。

「株の買い上げ機構」――
株は実体経済の「鏡」なのに、“「鏡」だけ磨く”というやり方は効果ない

 志位 株というのは、景気の先行きが悪いから下がるんですよ。つまり、実体経済を反映した「鏡」が株なのです。その実体経済のほうをよくしないで「鏡」だけを磨くというやり方では、効果が上がりません。ましてやそこに、公的資金をつぎ込むということも一部で言われていますが、こんなことになったら、株投機の穴を国民の負担にまわすということになります。とんでもないことだと言わなければなりません。

「不良債権の早期処理」――
リストラと貸し渋りをひどくし、大倒産、大失業をまねく危険

 志位 それからもう一つ、私が強い危ぐを持っているのは、(首相が)対米公約にして帰ってきてしまった「不良債権の早期処理」という方針なんですよ。これは四月上旬に具体化されるそうですが、ここには非常に大きな問題があると思っています。

 いまやろうとしているのは、銀行の「バランスシート」(貸借対照表)から不良債権を落としてしまう、「オフバランス化」(「直接償却」)と言われているものなんですけれども、だいたい二つぐらいやり方があって、一つは、ゼネコンなどに対しては債権放棄―借金の棒引きをやる、そのかわり大リストラ計画をやらせる、これは下請けや労働者にものすごい被害が出ます。

 もう一つは、中小企業に対する融資をどんどん回収に走る、貸し渋りをひどくする。どっちにせよ、大倒産、大失業をひどくする危険が非常に大きいですね。

 これもほんとうに逆立ちしたやり方です。私たちが不良債権を調べてみましたら、九二年度以降、六十八兆円の不良債権を処分しているんです。ところが、九二年度末に十三兆円だった不良債権が、いま減るどころか増えて、三十二兆円あるんです。

 清原 いまだに減らないんですね。これはみんな首をかしげているんです。

68兆円の不良債権を処理したのに、なぜなくならないか――
実体経済が悪くては、じわじわと新たな不良債権が広がる

 志位 これはなぜかといえば、実体経済が悪いのをこの十年間放置してきた。とくに九七年以降、消費税を上げるなどして、いっそうひどくしてしまった。だから、じわじわと不良債権の傷口が広がるばかりです。

 一方で、(大銀行に)公的資金を入れる、超低金利(政策)もやる、いたれりつくせりで不良債権の(処理の)財源を大銀行に流し込んでやるんだけれども、実体の経済が悪いわけですから、どんなに流し込んでも傷口から出血する一方で、不良債権がじわじわ広がる事態が続いているわけです。

 これも、逆立ちした対策では解決しない。実体の経済をよくしていけば、これまで資金ぐりに困っていた中小企業のみなさんも、正常債権になりますよ。

 そういう形で問題をきちんと解決していくことが大事なのです。それを逆に、「早期処理」だと、どんどん処分するんだというやり方を強行しますと、ただでさえ大不況のものをさらにひどくさせて、この不良債権問題でも悪循環が始まると思いますね。

 清原 一点だけ、確認しておきたいんですけれども、不良債権そのものの処理は、やらなければいけないと思っているんですよね。ただ、その方法をめぐっていろいろなやり方があって、いろんな案が出ているということだと思うんですけれども。もう一つ、不良債権の処理のときに一番大きな問題は、不良債権のもとになっている担保の土地とか不動産の価格が下がっていることが、なかなか不良債権が減らない一つの背景になっているんですけれども、どうごらんになっていますか。

不良債権問題の解決――
景気をよくするなかで、収益をふやし、資産の穴を徐々にうめていくやり方で解決を

 志位 不良債権の問題は、解決しなければなりません。私たちも、いまの不良債権を抱えているという事態が、金融のあり方として正常だとは思っていませんから、解決は必要だと思うんです。

 ただ、解決するには、景気全体をよくして、とくに家計から温めて、国民の暮らしから温めて、景気をよくしていく。そのなかで企業の収益も、毎年の収益があがるようにする。そして、資産の穴をその収益から徐々に埋めていくというやり方できちんと解決していくというのが、一番大事なんですよ。

 土地の問題は、下がったといいますけれども、バブルの前に比べれば、まだまだ高いわけで、土地をバブルの再燃でつりあげるみたいな、そういう考えではなくて、経済全体をよくして、毎年の利益からきちんと穴を埋めていくということによってこそ、きちんとこの問題を解決していく道が開かれるわけです。それをやらないで、無理やり「直接償却」を一気にやるというやり方をすれば、いまの不況をほんとうにひどくする。たいへんなことになると思います。 

 清原 そのへんが、逆立ちしている。

 志位 逆立ちしているんですよ。実体経済をよくしないで、株の操作を人為的にやろうとする。あるいは「不良債権の早期処理」ということで、ともかく一気に「バランスシート」から落とせと乱暴なことをする。

個人消費を温めることを軸にした
経済危機打開の日本共産党の3つの提言

 清原 そうするとこういうことですか。与党の方がいっているのは、いわば上の方からやろうとしているけれども、志位さんの方としてはそうじゃなくて、消費者、つまり、下の方から温めないと。

まず消費税を3%に下げる5兆円減税を――
本格的に個人消費のテコ入れにのりだしたという強烈なメッセージにもなる

 志位 その通りです。需要全体を温める。需要の中心となっている個人消費、家計消費を温める。この対策をしっかりやる必要がある。私ども、先日、そのために経済の緊急提言をだしました。

 ここまで落ち込んだ個人消費を温めるうえで、まず第一になによりも、やはり消費税を五%に増税したところから大不況が始まっているわけだから、三%への五兆円減税を政治が真剣に断行すべきだと。これは、五兆円にとどまらず、政治が本格的に個人消費のテコ入れに乗り出してきたというメッセージを国民に強烈に伝えることになりますから、消費者心理、消費マインドを温める効果も働きますから、たいへん大きな効果がでてきます。ここまでひどくなった景気を立て直すためには、この課題にとりくむべきだというのが、私たちの第一の提言なんです。

 同時に私たちは、いまの景気を悪くしている問題として、将来不安の問題があると思うんですよ。この点で、私どもの提言では、第二の提言として、社会保障の負担増を凍結して、将来に安心のできる社会保障の体系をつくること、第三の提言として、リストラをおさえることと、中小企業の経営を支援することで、雇用拡大にとりくむこと。これらの提言も消費税の減税とあわせて、提言しているんです。

 清原 その三つ目の雇用の問題はですね、いわゆる普通の人にとって一番深刻じゃないかと思いますよ。

リストラをおさえ、中小企業を支援して、雇用危機打開を――
「過剰」なのは雇用ではなく労働時間

 志位 これは大きな問題です。とくに三百二十万人の完全失業者というのは戦後統計史上最悪の数字です。

 いまの雇用問題の一番の元凶はどこにあるかといいますと、ひとつは「リストラ、リストラ」でリストラ競争をあおって、大企業が人減らしをすすめてしまった、これが一つの原因なんですね。

 もう一つは、雇用の八割をかかえている中小企業にたいして、国の予算では一般会計予算の〇・四%しか予算をつけない、ほとんど対策をやらない。それから、地元商店街や下請けを大企業からまもるルールもどんどん弱くしてしまう、あるいは実効性がない。こういう問題点があって、中小企業をまもる施策が弱い、後退している。この二つの問題に真剣にとりくむ必要がある。

 とくに、リストラについていいますと、まずサービス残業をなくすというところから始めようじゃないかと提案しているんです。サービス残業をなくすだけで、九十万人ぐらいの雇用増の効果がある。財界系のシンクタンクも計算している数字です。サービス残業がなくても経営のなりたつ経営計画を各経営につくらせるという大運動をおこそうじゃないかと。

 その次には、残業なしでもやっていける経営計画をたてるというのが大事です。いま「リストラ、リストラ」ということで、雇用が過剰だといっていますけれども、過剰なのは労働時間なんですよ。サービス残業があふれているというのが問題なのです。ここをただすところからきちんとした雇用対策をやろうじゃないかという提案もしています。

 清原 一つだけ確認しておきたいんですが、リストラもやらなきゃいけないところはやらなきゃいけないと思うんですよね。リストラも全部悪いものじゃないと思うんですけれども、そのへんはどういうふうに整理されているんですか。

労働条件でも、下請けでも、地元商店街でも――
ルールある経済社会に

 志位 いまのやり方は、ルールのないやり方です。さっきいったサービス残業などは、まったく法律違反のことがまかり通っている。それから、下請けいじめなども、下請け法などがあるのに、まったくこれを無視した下請けいじめをやる。商店街との関係でも、大店法があったのにとりはらってしまう。まったくルールない弱肉強食のやり方がまかり通っている。こういうやり方はだめだということを私たちはいっています。

 清原 なるほど。

 志位 競争を原理にした経済社会――資本主義社会であっても、ヨーロッパでは、たとえばフランスにしてもドイツにしても、労働時間を短縮して雇用を拡大するというのをどこでも当たり前にやっています。それからさっきいった地元商店街をまもるための規制は、これは強めてますよ。

 ルールある経済社会に(清原「なるほど」)していくということが非常に大事なのです。(清原「そのへんのところが」)ええ、ほんとうにノン・ルールで、ジャングルの弱肉強食のような、強いものが弱いものをどんどんつぶしていくというような、そういう殺ばつとしたやり方をただして、きちんとしたルールを働かせなければなりません。 

日米・日ロの首脳会談――
責任がない人がいくと大変な
荷物を背負い込んでくることを絵にかいた結果に 

 清原 わかりました。ところで森首相はなかなか辞めずに、とうとう日米首脳会談、日ロ首脳会談をやって帰ってらっしゃったわけですけれど、さっきちょっとお話うかがいましたけど、日米首脳会談では不良債権の処理をアメリカは公約的に見ているんじゃないかというお話があったんですけど、その二つの首脳会談をどのようにごらんになりますか。

日米首脳会談――
「えひめ丸」問題での責任をただすはずの場が経済問題などでの重荷を背負わされる場に

 志位 やはり事実上もう辞める人、責任がない人がいった場合に、たいへんな荷物を背負いこんでくるということを絵にかいたような形で示した結果になったと思いますね。

 日米(首脳会談)のほうでいいますと、本来だったら「えひめ丸」事件が起こった後の首脳会談なわけですから、この問題について徹底した真相究明と責任追及をきちんと相手側に要求するという場であったはずなのに、首相の側から出たのは「米側の対応に感謝します」と(清原「うん」)、それから「日米関係に影響を与えちゃいけない」というのがもっぱらで、ほとんどこの問題は議題になりませんでした。

 逆に経済の問題でさっきいったような「不良債権の早期処理」ということをいわれて、まあ突然いわれたらしくて、昼ご飯を食べる前に(笑い)。そしてあたふたして、だいたい半年ぐらいをめどに処理の方法を決めるというようなことを答えて。

 清原 朝日新聞によりますと麻生さんが引きとってそういう発言をしたと。

 志位 したということですね。事実上のそれが対米公約として、(公に)メッセージとして出されてしまった以上、それが日本の次の政権を一つの既成事実としてしばっていくわけですよ。さっきいったように、これは日本の経済にとってたいへんな重荷を背負わすものです。

日ロ首脳会談――
道理をもたずに交渉をつづけてきたことが大きな問題をつくりだしている

 志位 日ロ(首脳会談)のほうは、私たちが大きな問題を感じているのは、「イルクーツク声明」が出ましたけれども、このなかで一九五六年の日ソ共同宣言を「基本的な法的文書」として確認するということがあるわけですね。

 これはどういう文書かといいますと、“歯舞(はぼまい)、色丹(しこたん)の(日本への)返還については平和条約締結後におこなう”というものなんですよ。それを確認すると。これは重大な意味を持つ取りきめだと思います。

 三つぐらい問題があるんですけれども、第一は、北千島も含む千島全体を領土返還要求の対象にするという立場を放棄する、ということを確認したという結果になるわけです。

 (日ロ)領土問題については、一八七五年の千島・樺太交換条約で最終的に境界線が平和的にひかれた、というのが歴史の事実です。これをやぶって、領土を横取りしちゃったというスターリンの大国主義的なやり方が、第二次世界大戦後の戦後処理のときに、領土不拡大という原則をやぶってやられた。ここが大きな誤りなんです。

 ですから、この大きな誤りをしっかり是正するという道理をもって交渉すべきなのに、その道理をまったく持たないでずっとこの間やってきた。結局、北千島については領土返還要求からはずれるということになる。

 第二に、では国後(くなしり)、択捉(えとろふ)がどうなるかといいますと、これも非常に重大な問題として、九八年の「川奈提案」というのが残っているわけですよ(清原「残っていますね」)。

 「川奈提案」というのは、要するに、“国境線を画定するだけで平和条約は結ぶんだ、施政権はロシアに残したままでいいんだ”というようなことを一方的譲歩の提案として、やってしまっているんですね。これは日ロ間の領土交渉の記録として残るわけですよ。ですから四島、四島というけれども、国後、択捉についても、まともな形での返還ということが困難になるような、そういう記録を残してしまっている。

 第三の問題は、では歯舞、色丹はどうかという問題なんですけれども、歯舞、色丹というのは、もともと千島列島に入らない北海道の一部なんですよ。

 ですからこれは、平和条約の締結前にも、中間的な条約を結んで、その前に返してもらうということを当然要求すべきです。私たちが日ソ共産党間で七九年に交渉をやった時には、そういう提起をやったことがあるんです。そういう経過があるわけです。

 しかし、(五六年の)日ソ共同宣言を「基本的な法的文書」として確認するということになりますと、どうなるかといいますと、結局、平和条約を結んだ後でないと歯舞、色丹は戻ってこないことになる。その前に戻ってくるという道をみずからふさいでしまったという形になるわけです。

 こういうやり方では北千島は返ってこない。国後、択捉もいつ返ってくるかまったく見通しがつかない。歯舞、色丹ですら平和条約を結ばないと返ってこない。全部について悪い結果をもたらす危険がある。そういう取りきめを、政権末期のほとんど“死に体”の首相がかわしてきてしまったのはほんとうに問題だと思うんですね。

 国際的な道理に立って、ロシアの世論にも訴えるし、世界の世論にも訴えるし、国民みんなも団結できるし、そういう道理のある交渉をやるべきです。全千島を返還要求の対象にできるわけですから。それをやらなければなりません。

 清原 日ロ首脳会談の直後に、プーチン大統領が説明された言葉の意味と、どうも日本側の解釈が少しずれているというのは、直後から出ていましたからね。

 志位 ええ。ロシア側はだいたい、いま私がいったような筋書きで受け取っていますよ。

 清原 なるほど。

 志位 向こう側の報道を見ましても。だから、この問題でもほんとうに道理を持った外交ということが、日本の外交に欠けていることが大問題なんです。

 清原 森さんの次に首相になる人はどなたか分かりませんけど、ちょっと重荷を背負ったという感じはありますね。

 志位 日米、日ロともに重荷を背負ったということになります。


長野県田中知事の「脱ダム宣言」について

 清原 先ほども経済のなかでお話が出ましたけれど、公共事業の問題ですけれど、公共事業は財源が少ないなかで、ある程度厳選してやるべきだという方向はみんな一致していると思うんですけど、長野県の田中知事が先日、いわゆる「脱ダム宣言」というのをされまして、ダムの大幅な見直しということで全国的に波紋を広げているわけですね。ダムの問題は、いろんな日本の社会の縮図みたいなところもありますので、どうなんでしょう。

 「脱ダム宣言」には賛成――
コンクリートのダムはやめて、自然の河川を残した水管理にきりかえていくのは、世界の趨勢

 志位 これは、個々のダムについては個々の検討が必要だと思いますが、大きな方向性として、コンクリートのダムはできるだけやめて、自然の河川を残した治水、あるいは利水、つまり水管理の計画に切り替えていくというのは、アメリカでもヨーロッパでも世界の大きな趨勢(すうせい)ですし、それから日本でも住民運動が各地で起こって、そういう流れが大きく広がっています。

 最近、旧建設省の河川審議会が答申を出しましたが、ここでも「ダムや堤防によらない治水対策」ということを打ち出した。そういう流れが日本でも生まれてきています。

 ただ同時に、いまのダム建設計画は、何が何でも全部やりきるというのが政府の姿勢です。「ダム建設先にありき」というのは変えないというのが政府の姿勢です。そういうなかで、田中知事が「脱ダム宣言」という形で、コンクリートダムによらないやり方でやっていこうという方向を出したのは、私たちは大いに歓迎ですし、この方向は賛成です。

 下諏訪ダムが問題の焦点になっていますけど、いま地元の状況をお聞きしても、地元の世論調査でも圧倒的多数が「ダムは中止すべきだ」ということが、地元住民の声になっています。その代替策については、これは当然、地元住民のみなさんの合意で、一番合理的なものを代替策として取り入れればいいと思います。私は全体の方向性として、いま(田中県政が)進んでいる方向というのは賛成です。

「合衆国ではダム建設の時代は終わった」――
土砂に埋まる、環境破壊、対費用効果などさまざまな問題点

 志位 アメリカもだいたい九〇年代の前半ぐらいから、「合衆国ではダム建設の時代は終わった」ということを、担当の総裁(内務省開拓局総裁)が宣言しています。そしてダム自体を取り払うという動きも起こっています。

 清原 ちょっと、アメリカのダムの定義と日本のダムの定義は。

 志位 ダムの定義は違うと思いますけど、アメリカでいわれていることでいくつか共通しているなと思うのは、ダムというのは水をせき止めるだけじゃなくて、必ず土砂もせき止める、したがっていずれは土砂に埋まってしまうんだという問題が一つ。

 それから、環境にとてつもない負荷をかけて環境破壊につながる、川の生態系を壊してしまうというのが二つ目。

 それからさらに、対費用効果という点でも、ばく大なコストの割に効果がひきあわないという点が三つ目。そういう問題はアメリカでも指摘されているんですけれども、日本でもかなり多くのダムにあてはまりますね。

 ですから、そういう立場から全国のダムについて総点検が必要だと思います。ムダという点でも、それから環境との関係でも総点検して、ムダな環境破壊のダムはやめさせていくという運動を全国で起こしていくということが大事ではないでしょうか。

 清原 方法論はちょっとまだよくわからないですが、コンクリートじゃない、何か水がめみたいなものはやっぱり必要じゃないかなと思うんですけどね。それは、どういうふうにダム以外の形で用意するかというのはちょっとまだ解が出ていないと思うんですけどね。

 志位 具体的に一つひとつあると思うんですが、いま問題になっている下諏訪ダムの場合についていいますと、(川底を)しゅんせつをすれば治水の問題はかたがつくということもいわれていますし、それぞれについて具体的な代替策をつくるということは大いに可能だと思いますね。それを住民合意でやることが大事ではないでしょうか。

 清原 本日はどうもありがとうございました。

 志位 ありがとうございました。