2000年8月4日「しんぶん赤旗」

久世問題 そごう・金融問題
森内閣の責任をただす

衆院予算委志位書記局長の質問(大要)


日本共産党の志位和夫書記局長が二日の衆院予算委員会でおこなった総括質疑(大要)は次のとおりです。


久世問題

志位氏「党費を名目にしたやみ献金で議席を買う重大問題──自民党として全容を調査し、真相を報告せよ」

森首相「どういう事実があったのか、党を通じて調べる」

特定の金融機関から巨額の利益提供を受けていた人物を、事実を知りながら金融行政のトップにすえたことを誤りと認めるか

 志位和夫書記局長 日本共産党を代表して、森総理に質問いたします。

 まず、久世前金融再生委員長の解任問題についてであります。総理は、本会議の答弁でも、今日の答弁でも、任命責任を問われて、「結果として辞任せざるをえない大臣を任命したということは、まことに残念であり、遺憾であると考えており、深く反省するとともに、国民におわびしたい」というこのフレーズを、何回となく繰り返されました。しかし、いったい総理が何を「反省」し、何を「おわび」しているのか、さっぱり分かりません。

 問われているのは、三菱信託銀行という特定の金融機関から、十三年間にもわたって、総額二億三千万円という巨額の利益提供を受けていた、そういう人物を、そういう事実を知りながら、金融再生委員長という金融行政のトップにすえた、この判断の是非であります。

 総理は、この判断は誤りだったと、はっきりお認めになりますか。端的にイエスかノーかでお答えください。

 森喜朗首相 直接私は、久世議員に確かめたわけではございませんが、大事な問題ですから、イエスかノーかで答えるというのは筋ではないと思います。いわゆる金融再生委員長を任命するにあたりまして、過去、このことについて報道されましたので、その真偽はどうなっているかということを、いまの中川官房長官、当時の党の幹事長代理でありましたから、調査をしてもらった。この調査の結果、すでにこれはきちんとしております、過去の問題でありますということで、説明がございましたから、私は大臣という立場に任命をいたしました。

 金融再生委員長という大事な立場に、というこういうご指摘でございましたが、まさにそのとおりでありまして、久世議員は参議院の政審会長をずっとされておられてですね、きわめてこの問題についても精通をされておられる、まじめな方だというふうに、私は長い間の彼の政治行動を見ておりました。そういう意味で私は、ご就任をお願いしたわけです。

 ただ残念ながら、ご自分で辞職を、辞意を表明された。そういう大臣を私は任命したということについて、深い反省をしておりますとおわびを申し上げたいとこう申し上げておるのです。

 志位 私の質問に答えておりません。過去の問題といわれましたが、九五年までのことです。そんな大昔の話ではありません。つい最近まで、巨額の金銭関係を特定の金融機関と結んでいた、そういう人物を、金融行政のトップにすえていいのかと、この判断が正しかったか、間違ったか、これを聞いてるんですよ。

 首相 ですから、その問題について、調査もしていただいた結果、これは過去の問題できちんといたしておりますということでございましたから、選任をいたしたのです。

いまだに任命したことの誤りを認めない──これでは「反省」を百回いっても反省にならない

 志位 要するに、正しかったという判断をいまでもしているわけですよ。そうでしょう。調査してみたら問題なかったと。しかし、これはもう三菱側の証言をみても、「事務所の提供やっていた」と、「自由に使ってもらっていた」と、巨額の利益提供がおこなわれていたのは事実ですよ。こんな人物に金融再生委員長が、どうして務まるのか。もっとも厳正、公正であるべきポストですよ。しかも、私たちは反対していますが、国民の税金七十兆円を使える、それだけの財布をあずかるポストですよ。こういう重要なポストに、こういう人物がふさわしくないのは、火を見るよりあきらかだ。

 私がこれだけ聞いても、総理はいまだに、任命した判断の誤りを認めないわけですから、あなたがいくら「反省」、「おわび」といったって、これまったくむなしく聞こえるほかない。このことをはっきり申し上げておきたいと思います。(首相が答弁を求める)反省しますか。間違いを認めますか。

 首相 ですから、そういう大臣を選んだということについては、私は反省していると申し上げているんです。大事なことですから、この場でおっしゃっていることですから、きちんとしたことを申し上げておかなければならないのは、三菱信託銀行から久世議員が事務所の提供を受けていたというのは、これは三菱信託がつくった研究会のためのものなんですよ。その研究会に久世議員が座長を引き受けていたということでありますから、これは自分の事務所ではないという判断を彼はしていた。

 ただし、三菱信託の顧問就任の件につきましては、議員になる前の昭和六十年から就任していたけれども、議員当選後は、毎年参議院議長にそのことも報告書をきちっと出しておりました。所得の報告書にも記載をするなど適切な手続きをとっておりましたと、こういう報告を受けたからであります。

 志位 これだけ事態が明らかになってもまだ久世さんのことをかばい続けるんですからあきれました。座長を務めただけといいますけど、三菱側の証言で「自由にお使いください」という事務所を提供していたと、「形を変えた政治献金だった」と、はっきりいっていますよ。ですから、そういう事態がはっきりしているにもかかわらず、いまだにこの誤りを認めないというんですから、「反省」をいくら、百回いったって、これはもう全然反省したことにはならない。

「大京」からの一億円の資金提供──“幽霊党員”の名簿を支持団体に提出させ、“幽霊党費”を企業に肩代わりさせた

 志位 もう一つうかがいましょう。久世氏をめぐっては、マンション業界最大手の「大京」からの一億円の資金提供の問題もきわめて重大であります。

 久世氏は辞任の際の会見で、「参議院比例区で名簿の順位が上位となるために、霊友会などを通じて集めた三万三千三百三十三人分の党費として、一億円を『大京』の社長から自民党に支払ってもらった」と明言しました。

 これは大変深刻な問題です。比例名簿の上位に登載されるために、そして議員バッジを手に入れるために、支持団体に「党員」の名簿を提出してもらって、企業から「党費」を立て替えて払ってもらう。

 党員というのは、党費を払って、はじめてまともな党員です。自分で党費を払わない党員は、幽霊党員ということです。この幽霊党員の名簿を支持団体に提出させて、幽霊党費を企業から肩代わりさせる。そして議員バッジを手に入れる。久世さんのいうとおりだったら、それがおこったというわけですよ。

 私は、これはずばりいえば、党費を名目にしたヤミ献金で、議員のいすを買うものだと思います。自民党の側からいえば、まさにそういう金で、議席を売ってやっている、そういう政党だということになるではありませんか。

 私は、自民党党首としての森総裁にうかがいたい。この久世さんのやった行為は、自民党では当たり前の、許される行為なんですか。

 首相 久世氏にかかわる党員確保の問題につきましては、これは久世氏個人の問題でございまして、私はそのことにつきましては承知をしておりません。ただ、自由民主党として調査をいたしますと、「大京」から財団法人「自由民主会館」に寄付があったということは報告を受けております。

 志位 久世氏個人の問題で承知してないという。ああいう問題を公の場で、辞任会見でいったわけですから、すぐ調べるのが当たり前じゃないですか。いまだにそれを事実関係もつかんでいないということ自体、こういう問題についてのあなた方の感覚を物語っていますよ。

 それで、「自由民主会館」に「大京」の寄付がいったという話ですけれども、仮にあなた方がいったとおりだとしても、「大京」が一億円の党費の立て替えをやってないという証明にはなりませんよ。そっちは出してなかったという証明にはならない。久世議員は明りょうに「三万三千三百三十三人分の党費を肩代わりしてもらった」といっているんですから。これは数字自体が、肩代わりを物語っているではありませんか。どうしてこんなに三がそろうのか。一億円を、三千円で割ったから、この数字が出てくるわけでしょう。まさに幽霊党員だった、肩代わりだったということの証明が、この数字じゃありませんか。

 私は、これは政権党として、責任をもって全容を調査すべきだと、そして、きちっと久世さんからも調査して、国民の前に責任を明らかにする、真実を明らかにする、そして問題があればみずからただす、そしてこういう立て替えを絶対もうやらないのが当たり前、そういうルールをきちんと自分の力で確立する、これが当たり前だと考えますが、いかがですか。

 首相 党の、党員の支部というのは、ご承知のように、地方の選挙区というのもございますし、それから今の久世さんの場合の対象になります職域支部というのもございまして、いずれにしても、党員はその職域支部を通じて党本部にもってこられるものでありますから、それはそれぞれ党の支部が管理しているということでございます。そういう意味で、久世氏がどういう党員を、つくり方をどういうふうにされたかということは承知しておりませんと申し上げている。

 ただし、その一億円というのがあったではないか、また「大京」の方もそれを渡したという、党に納めたというお話がありましたから、これは私、自由民主党に調査をさせました。その結果、自民党の報告によれば、「大京」から財団法人「自由民主会館」に寄付がありました、と。この当該財団への寄付は(志位「さっきと同じ答弁じゃないか」)党本部の建物、および財産の管理運営の費用として使用されるものであって、個々の議員にたいしてそれをテイクバックといいますか、それを返すということはないという報告を受けています。

 志位 私が聞いたのは、久世氏が立て替えてもらったといっているわけですから、ちゃんとその調査をして、真相を報告しなさいということですよ。その意思ありますか。

 首相 直接、私まだ聞いておりませんが、私ども党本部としても大事なことでございますから、その金額があったのかどうか、そのことの調査をさせた報告がいま申し上げたようなことであります。

 志位 いまのは「大京」側の話でしょう。久世さんがいっていることと矛盾しているわけですよ。久世さんは「一億円肩代わりしてもらった」といっているわけだから、その調査をしなさい。しないんですか。そんな調査もしないの。

 首相 久世議員から直接、私うかがっておりませんので、党を通じて久世議員のそのご発言にたいして、どういう事実であったのかということは、党を通じて調べてみたいというふうに思っています。

あっせん利得罪の成立は急務、企業・団体献金禁止を求める

 志位 これはきちんと、党として自浄能力を発揮して、しっかりとした事実を明らかにすべきですし、こういうことがまかり通るなら、本当に日本の議会制民主主義にとって自殺行為になる。まさに議席の切り売りですからね。ヤミ献金で切り売りをやっているわけだから、そういう問題ですから、しっかりとした説明を求めたいと思います。

 そして、私たちは、この問題を通じても、あっせん利得罪の早期成立、私たちは企業献金の禁止まで踏み込むべきだというふうに提案しておりますが、それはまさに急務だということを、ここでも強くのべておきたいと思います。

そごう・金融問題

志位氏「『瑕疵(かし)担保特約』は不平等、不合理な仕組みだ」首相「やむをえないものであった」

“なぜ一百貨店のしりぬぐいに国民の税金が使われるのか”──国民の怒りはここにある

 志位 つぎに、「そごう」問題と金融行政についてうかがいます。

 この問題での国民の怒りは、“百貨店という一民間企業の乱脈経営の穴埋めになぜ国民の血税が使われなければならないのか”、ここにあると思います。

 債権放棄による「自主再建」から、民事再生法による「法的処理」に形式は変わりましたが、国民の血税が、多額の血税がつぎ込まれるということは変わりません。

 先ほども議論がありましたが、むしろ政府が最初にやった試算でも、九百七十億円から千二百億円以上に税金投入額が膨らむ。これは明りょうです。

 「読売」の投書欄にこういう声がありました。

 「なぜ、一百貨店の赤字を国民の税金で補てんしなければならないのか。身勝手なやり方に憤りを感じる。銀行に公的資金を注入するにあたっては、金融システム全体を救済することが目的であることが強調されたが、その後、一百貨店の経営失敗のしりぬぐいまですることになるとは、だれが想像しただろうか」(七月五日付)。

 こういう声であります。この銀行支援の公的資金の枠組みをつくるとき、「預金者保護」、「金融システムを守る」、これが大義名分としていわれました。しかし結局、これが進んでみましたら、「そごう」のような百貨店の借金のしりぬぐいにも税金が使われる。こういうことが分かってきました。「これは説明がつかないじゃないか」「どう見ても納得いかない」、これが国民の声ですよ。

 まず総理に基本的な考え方をうかがいたいんですが、これについて、どういうふうに説明されますか。総理にうかがいたい。

 首相 いわゆる「そごう」問題は、「そごう」の自主的経営判断によって、民事再生法の適用申請がなされたところでありまして、今後こうしたことの処理の枠組みの中で、経営者や株主の責任も当然明らかにしていかなければなりませんし、この問題は、経営責任の明確化や意思決定過程の透明性というものを十分配慮して、そして国民の理解を求めることの重要性を示したものとして、私どもとしては重くこれを受け止めております。

 今回の問題を教訓にして、企業の再建はあくまでも自己責任が原則であり、公的資金を用いた破たん処理の過程で債権放棄は安易に認められるべきものではないという、そういう認識の下でこれから関係方面や、あるいは国民に十分な説明をしながら適切な対応をしていきたいと、このように考えております。

 志位 いまの総理の答弁は、結局、経過説明をしただけ、民事再生法になぜ適用になったかという経過説明をしただけです。いまの疑問に答えるものになっていません。私が提起した疑問というのは、なぜ税金を使うのか、税金を使うことに変わりはないじゃないかということです。国民はそれに納得できないわけですね。そのことに端的に私は説明を求めたんだけれども、説明ができない。これがいまの政府の立場だと思うのです。

 この問題というのは、私は、銀行の不始末の穴埋めに公的資金を入れる、税金を入れる、六十兆円、七十兆円の枠組みをつくったこと自体の、まさにその必然的な帰結として、いまのことが起こっていると思うんです。

 銀行の不始末に税金を入れるということは、銀行が貸し出している債権に回収不能のものがあれば、その不始末も税金で穴埋めするということになるわけです。だから、まさにそういうことになった。六十兆、七十兆の公的資金というのは、「金融システム」とか、「預金者保護」とか、いろいろと美名がいわれたけれど、結局ゼネコンだとか「そごう」だとか、そういうところの不始末の処理にまで税金を入れてやる、そういう仕組みだったということが明らかになったのが、私は、今度の「そごう」問題の本質だと思うのです。

 その角度から、そういうふうに、この問題でその本質が明らかになって、国民が「納得できない」という声を上げているわけですから、この機会に私は、七十兆という公的資金、税金の枠組みそのものを再検討する必要があると思います。

“不平等契約”──利益がでたらすべて銀行のもの、損をしたら国が丸々負担

 志位 いくつかの角度から、その問題をただしていきたいのですが、まず「瑕疵(かし)担保特約」の問題についてであります。とくにこれは、国民の怒りを広げています。

 国が、一時国有化した旧長銀(日本長期信用銀行)を外国投資グループに売却する際に、「瑕疵担保特約」なるものを結びました。この「特約」の性格ですけれども、私は異常な“不平等契約”だと思います。

 新生銀行に売却した債権のなかから、「そごう」への債権のように回収の見通しがたたなくなり、損失が出そうになったら、その債権を国が買い戻して、損失の穴埋めを税金でおこなうというのが、この「特約」であります。けれども、仮に利益が出た場合には、まるまる新生銀行のものだと。損をしたら国がまるまる負担する。利益が出たら全部銀行のものになる。これは、だれがどう考えても、この点だけを見ても、とんでもない不平等な契約だと考えますが、総理、この不平等性を認めますか。

 首相 「瑕疵担保条項」はいわゆる現行の金融再生法の枠の中で、長銀をすみやかに譲渡させる、それから国民負担をできるだけ抑制をしていくということで、いわゆるこの譲渡先との交渉の中から、民・商法の法理をもちいて交渉の過程で盛り込まれたものであります。ですから、かりにこの瑕疵担保条項がないということになれば、譲渡先が見いだせない。そしてまた、逆に国民負担がそのことによって相当程度増加するということが認められたから、いわゆるやむをえないものであるということが金融再生委員会の判断であると、このように考えております。

 志位 総理、また私の質問に答えないで、紙を読みましたね。私が聞いたのはこの仕組み、「特約」という仕組みが不平等じゃないかと。損が出たら全部国がかぶる、利益が出たら銀行のものになる、こんな不平等はないじゃないですかということを聞いたのです。いま、「やむをえない」とおっしゃいましたね。「やむをえない」ということは、不平等だけれど、ほかに道はなかったから、「やむをえない」と。これが、不平等だってことはお認めになりますね。

 首相 できるだけすみやかに譲渡先を見いだすということが、一番大事じゃないでしょうか。そのために、こうした方法をとって、こういう判断を金融再生委員会としてはとらざるをえなかったということであると思います。

 志位 すみやかに譲渡先を見いださなければならないというのは、一時国有化という道に進んでしまったからですよ。進んだら、これはやはり一刻も早くやらないと資産が劣化する。だからそういうことになってしまった。そこに私たちは問題があると思いますけれども、私がこれだけ聞いても、これは結局不平等だってことを否定できませんでした。今のお話のなかで。

銀行はもうかる債権だけをつまみぐいし、回収努力をしなくなる──アメリカでは9年前に中止されたやり方

 志位 もう一つ、別の角度から聞いてみたい。私は、この「特約」というのは不平等と同時に、不合理きわまるものだと思います。

 アメリカでは一九九一年まで、今度の「そごう」の債権買い戻しと同じように、不良債権を連邦預金保険公社が受け皿銀行から買い戻し、損失をまるまる負担する、そういう方式がとられていました。「プットバック」方式と呼んだそうでありますけれども、九一年まではアメリカも今度の「そごう」の「特約」と同じような方式をとっておりました。この方式は中止された。中止された理由を調べてみました。

 これは、『危機管理』というアメリカの連邦預金保険公社の一九九八年の報告書であります。そこにこの方式を中止した理由として、二つあげております。ちょっと読み上げたいと思います。

 「第一に、受け皿銀行は、簿価を上回る市場価値を持つ債権あるいはリスクの小さい債権だけをもっぱら選び、その他の債権はすべて返還するという、受け皿銀行による債権のつまみ食いを可能にした。第二に、債権を戻すまでの期限の間、受け皿銀行が(回収等の)努力を怠り、それによって債権価値がさらに劣化するという傾向をもたらした。…FDIC(連邦預金保険公社)は、一九九一年の終りにはプット・オプション(買い戻し方式)を処理方法として採用することを中止した」

 これはアメリカの教訓なんですよ。つまりこの方式というのは、受け皿銀行はもうかる債権だけを手もとに残して、悪い債権はみんな預金保険公社に返してしまう。そして不良債権になった方が引き取ってもらえるわけですから、債権管理をやらない。まともな回収努力もしない。債権はどんどん劣化すると。二重の弊害が明らかになった。そのことが、連邦預金保険公社の出費をかえって増やしてしまって、健全な金融システムの上でもまさにいろんな問題を引き起こしてしまった。そういう教訓から、アメリカではもう九一年に中止しているんです。もうアメリカではすたれた方式なんですよ。

 ですから、外資はみんな知っていますよ。この方式はいかに買い手にとって有利な方式か。それを日本ではいまだにやっている。九年前に、アメリカではすたれた方式をやっている。

 総理にうかがいますけれども、今度の「瑕疵担保特約」という方式が、アメリカではそういう弊害が明確になって、もうすでに九年前に放棄された方式だということを知ったうえで、長銀の処理にしても、日債銀の処理にしても、進めようとしているんですか。総理、総理にうかがいたい。

 相沢金融再生委員長 アメリカの例について、いまお話がありましたが、先ほど、あの委員のご趣旨は、こういう「瑕疵担保条項」がついていると、要するに、買い主について、一方的にもうけさせるのではないかと、こういう趣旨のご質問だと思うのであります。ただ、今回の新生銀行や長銀、あるいは日債銀にいたしましても、売る場合は貸し出し関連的債権の全部を承継するとなっているものですね。それから引当金はこの売り主の方で勝手に、勝手にといっちゃいけませんが、算定したものをそのまま出している。

 それから、これやはり預金者だけでありませんで、当該銀行から金を借りている方々、人たちですね、それにたいする配慮があるわけでして、三年間は債権の急激な回収をしないというような条件もついております。

 そしてまた、瑕疵担保につきましてもですね、まあ少しのそういう瑕疵があれば、すぐそれの償還をということじゃありませんで、二割の欠損がある場合にはじめて請求ができるわけでありますから、二割に満たない部分については当然、買い主についてはそれは損になるわけであります。

 いうなれば、卸でやったということでありまして、いわば要するに厳密な意味においての査定をしたうえでやったことではない。そういう売り方ではなかったということから「瑕疵担保条項」がついているということであります。

銀行は2割減価まで回収努力をしない──まさにモラルハザードを生んでいる

 志位 いまの説明で分かった国民のみなさんはいないと思いますよ。私なりにちょっと翻訳しますと、要するにあなたがいいたかったことは、資産を一括して引き取ってもらう。それから、資産査定は国がやっていると。だから向こう(買い手)にもリスクを負ってもらっているんだ、ということでしょう。しかし、それは、悪いものや見込みちがいがあったら、国が全部引き取って負担しましょうということを、言い換えただけではありませんか。

 私がいったのは、利益があがったら全部、銀行のものになる。損失がでたら全部、国民負担になる。こんな不平等な契約はないじゃないかといったわけです。

 それから二割の減価(になってはじめて買い戻しを請求できる)ということをいいました。私は、これも、ぜんぜん説明になっていないと思います。私は、むしろそれでは、ますます回収努力を怠るということになると思いますよ。つまり一〇〇%回収できないとなれば、たとえば債権が一割減価したとしても、一割減価しただけだと買い戻してもらえないから、そんな中途半端なところにとどめないで、二割減価までほったらかしておく。そして、買い戻してもらう。そして全部回収すると。そういう、まさにモラルハザードを生んでいくわけです。

 現に、新生銀行は、あの信販会社「ライフ」だって、「第一ホテル」だって、「そごう」だって、そういうやり方で全部、国にみさせようとしている。金融業界の中からも、「これは虫が良すぎる」という声があがっているじゃありませんか。

 ですから、この問題、「瑕疵担保特約」が本当に不平等だという点、それから、アメリカではもう不合理だということが証明されずみの、そういう方式を、日本で今度何兆円というお金を扱う、税金にかかわる問題で勝手に導入した、この責任はきわめて重大だと思います。

志位氏「『瑕疵担保特約』は『一時国有化』の帰結ではないか」金融相「特約なしでは話はまとまらなかった」

買い手も売り手も「税金で面倒をみてもらえる」──“税金投入のモラルハザード”

 志位 そこでつづけて、私は、なぜこういう不平等かつ不合理な「特約」を結んだのか、この問題が重大だと思うんです。総理にうかがいますよ。私は、この根本は「一時国有化」の帰結だと思います。つまり「一時国有化」という方法によって、長銀の不始末を、税金で丸抱えして処理をする。国がいったん買って、税金できれいにして、そしてどこかに売り渡してやる。この方式をとったことが、まさに「特約」につながっていると思います。

 「一時国有化」というのがどういうものであったのかは、長銀を見れば明りょうです。長銀でいえば、まず、不良債権は三・六兆円もの税金で穴埋めされました。さらに外国投資グループに売却するさいに、含み益だとか、資本注入だとかの形で五千億円近い金が、「持参金」としてつけられました。そして、そのうえ、譲渡先に売却した後で出た損失については、また国が丸抱えで負担してやろうという「特約」まで結んだ。

 私は、はっきりいってこれは、“税金投入のモラル破たん”が起こっているとしかいいようがないと思います。

 売り手の預金保険機構からすれば、穴が開いたら、全部税金でみてもらえるというものがあるから、銀行にとってどんな甘い条件もみんなのんで、とうとう「特約」まで結んでしまった。歯止めがきかないわけですよ。

 買い手の銀行業界の側もどうかといえば、歯止めがきかない。銀行業界の共同負担ではなくて、税金で穴が開いたらみてもらえる、こうなりますから、どの銀行も、とんでもない虫のいい条件しかださない。旧長銀の売買にあたっても、三井・中央信託(銀行)から、この買い取る条件がでたそうですけれども、今度は一・五兆円の引当金を税金で積めとか、とんでもない虫のいい条件をだしたそうです。

 結局、買い手も売り手も「全部税金でみてもらえる」ということで、もうモラルハザードに陥って、そしてこの「特約」まで行きついてしまった。

 私は、「一時国有化」というボタンのかけちがいをやったことが、必然的にこの不平等かつ不合理な「特約」に結びついたと考えますが、総理、そうでしょう。

 金融再生委員長 「一時国有化」についてご意見がございました。これは先ほどからお話が出ておりますように、一昨年のいわゆる「金融国会」において、与野党折衝の結果、成立したものであります。特にこの金融再生法につきましては、野党の案をほぼ採り入れてやっているわけでありまして、この点につきましては、私どもは意見を差し控えておきますが、まったく買い主の方の丸もうけになるようなものじゃないかというようなことを、おっしゃいましたけど、そうじゃないでしょう。

 先ほど申し上げましたように。買い手の方としてはデューディリジェンス(資産判定)もやってないわけなのです。いうなれば、言い値といっちゃおかしいですが、それでもって引き取っている。しかも、おっしゃるように住専の場合のようにロスシェアリング(損失分担)の規定があれば委員も納得されるんでしょうけれども、しかし、この法律にはそれがないのです。後の法律につきましては、この四月からの適用についてはその規定はありますが、これにはありません。(志位「質問に答えてください」)

 いや、ですから、瑕疵担保の条項を、民法、商法の規定、精神を体して設けたわけです。そうでなければこの話はまとまらないということをご理解いただきたいと思うのです。

 志位 そうでなければ、まとまらないということは、結局は、「一時国有化」という道にいったら、「特約」じゃないとまとまらない、これはもう必然的帰結だった、やむをえなかったということですね。つまり「一時国有化」の帰結が「特約」だったというこの因果関係は認めますね。

 金融再生委員長 表現が大変不適切かもしれませんが、これは、のんべんだらりとほっておくわけにはいかないのです。そこで、早急に国有化の銀行を譲渡するということは、政府として与えられた責務でございます。そこでやはり、だれに売るかということについては、それは、もちろん十分慎重にその対象を選んだ結果、交渉をしたわけでありますけども、その交渉過程において、やはり、そのような「瑕疵担保条項」をつけなければ、なかなか、話が成立しなかったと、いうことはあるわけです。

アメリカの合理的ルールはなぜできたか──破たん銀行への税金投入を中止したから

 志位 結局、「一時国有化」という道に踏み出したことで、「瑕疵担保」にいかざるをえなかったという答弁ですよ。

 日債銀でも同じような問題が起こっているじゃないですか。結局、「一時国有化」というやり方をとったら、この「瑕疵担保特約」しか出口がない。「特約」をやらなければ、引当金を今度はもっと積めということになる。引当金も積まなければ、清算ということになる。結局、どこへいっても袋小路になる。それは、「一時国有化」というところが、まちがっていたんですよ。そこまで立ち戻って、いまの七十兆円の枠組みを再吟味する必要が、私はあると思います。

 私は、この点でも、アメリカの経験が重要だと思います。アメリカでは、八〇年代のS&L(貯蓄貸付組合)の破たん処理に、ばく大な税金を入れた反省にたって、九一年の法改正で、破たん銀行処理への税金投入を禁止し、処理の費用は銀行業界の共同負担でまかなうという自己責任のルールを確立しました。

 同じ改革で、先ほどいわれたロスシェアリングもつくりました。つまり、連邦預金保険公社は、受け皿銀行との関係で、損失を通常八割程度しかもたない。残りの二割程度は受け皿銀行の負担になる。回収益がかりに出た場合には、受け皿銀行がその一定割合を預金保険公社に払い戻す。これ今のアメリカの仕組みです。なかなか合理的な仕組みじゃありませんか。

 こういう合理的なルールを確立したんです。アメリカではなぜこの合理的ルールが確立できたかといえば、破たん銀行への税金投入を中止したからですよ。中止したから、銀行業界の自己責任原則を確立したからできたんです。これを確立すれば、預金保険公社には、費用支出を最小限に抑えるという力が働きます。自然な力が働きます。それから、受け皿銀行にもある程度の負担を引き受けざるをえないという、これも自然の力が加わるんです。だからこういう合理的なルールがつくれるんですよ。

 日本は逆なんですよ。日本は税金を入れた結果、両方の力が働かないわけです。費用を最小にするんじゃなくて、最大にする法則が働いている。売り手の方は、どんな厳しい条件でも全部のんで売ってしまう。買い手のほうは、どんな虫のいい条件でも全部つけて、要するに買いたたく。こうなっているわけです。まさに、税金投入という道筋をつけたことが、税金を入れはじめたことが、とめどもない“税金投入のモラルハザード”をおこしている。これが今の日本の現状じゃありませんか。総理、どうでしょう。

 首相 志位議員からずいぶんアメリカのシステムの評価があるというのはたいへん私も参考になりました(笑い)。(志位「参考にしてくださいよ」)金融システムというのは経済の動脈であります。経済を安定させるということは、なんといっても金融システムを安定させよう、今もいろいろご議論ございましたし、さきほどの宮沢大蔵大臣のお話がございましたように、なんとかして金融システムを安定させようということで、二年前の国会は各党それぞれみんなまじめに議論をしたと思います。そういう議論のなかから金融再生法を選択した、国会の意思であったわけでありますから、その意思のなかで、再生法のなかで解決を見いだしていこうということであります。

 共産党さん、志位さんは今のようなお考えを当時もおっしゃっておられたことはよく私どもも承知いたしております。

 しかし、現実問題として金融システムは安定する方向にいってるんじゃないでしょうか。そして、経済のいわゆる不況も経済もだんだん回復していい方向に行きつつあるわけでありますから、そういう選択をみんなで各党で協議をしながらそういう方向を求めたということだというふうに理解をしていただきたい。

二年前の金融危機──当座の資金不足は日銀融資でまかない、銀行業界が責任をもって返済するという解決策を提起

 志位 「金融システム」の安定のためだとおっしゃいましたけど、私たちも二年前の金融危機のさいに、どうこの危機から脱出するかという提案をいたしました。金融パニックをおこさないためには、預金者の保護をやる、健全な借り手の保護をやる、これは当たり前です。問題は、そのコスト負担をどこでやるか。私たちは銀行の共同の負担でやるべきだ、税金を使うべきでない、このことを主張しました。

 そして、かりに、当座の資金が不足するならば、日銀の借り入れをやったっていい。日銀が貸してやったっていい。銀行業界が十年、二十年かかってでも返すべきだと。戦前の昭和恐慌のさい、昭和銀行をつくりましたが、あの時も税金は入れていないんです。日銀の借り入れでまかなって、銀行業界はちゃんと返したんですよ。戦前のバンカー(銀行家)のほうがはるかにモラルがあった。

国民負担、超低金利、「貸し渋り」悪化──70兆円の銀行支援の枠組みは、国民に“三重苦”をもたらした

 志位 私は、「そごう」問題というのは、結局税金を使った七十兆円の銀行支援の枠組みがどんなに不合理だったかということを明るみに出したと思います。それが、国民に何をもたらしたのかの“総決算”が、いま必要だと思います。

 まず第一に、七十兆円のうち、すでに二十一兆円を超える公的資金が投入され、九兆円を超える公的資金はこのままでは返ってこない。国民負担になります。これが財政破たんになって広がっているわけです。そして、国民のくらしを圧迫し、増税の不安を広げている。これが一つです。

 第二に、「預金者保護」というけれども、預金者には結局、大銀行に巨額のもうけを保障するための超低金利で、利子はほとんどついてないじゃないですか。利子あってこその預金者ですよ。利子をつけないで「預金者保護」とは聞いてあきれる。

 第三に、「貸し渋り」解消というのが大義名分でしたけれども、私が調べましたら、この二年間、(公的資金での)資本注入する前と後とで、全国銀行ベースでみると、なんと中小企業向けの貸し出しは二十三兆円減っている。これも全然効果をあげていません。

 国民には税の負担増、それから超低金利、そして「貸し渋り」が悪化する“三重苦”をもたらしている。

志位氏「税金投入を中止し、銀行の不始末は銀行業界の自己責任で解決──このルールに立ち戻れ」

税金投入の枠組みをどんどん広げている期間に、銀行の預金保険料は一円もあげていない

 志位 私は、最後に、一点聞きたい。税金投入の枠組みをどんどん広げていった期間に、銀行が払っている預金保険料を一円でもあげましたか。総理どうでしょう。どういうご認識でしょう。銀行の負担は増えましたか。総理どういう認識ですか、負担しているという認識ですか。

 金融再生委員長 銀行の預金保険料は、こういうようなことがおきる前はたしか〇・〇一二%だったと思います。そこで、四年前(九六年)でしたが、根っこを四倍にしましたから、〇・〇四八(%)、そのうえに〇・〇三六(%)をつみまして、その結果が〇・〇一二(%)の七倍、つまり〇・〇八四(%)になっています。ですから、保険料はそういうことで引き上げたわけです。

 志位 引き上げたといっても、アメリカのピークの三分の一ですよ。業務純益をバブルのときの一・五倍もあげている銀行にたいして、(九六年以来)全然負担増を求めないで、国民にばく大なツケを残すやり方はただちに中止し、税金投入を中止して、銀行の不始末は銀行の責任で解決する、このルールに立ち戻るべきだということを強く主張して質問を終わります。

(拍手)



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