1999年12月9日「しんぶん赤旗」
日本共産党の志位和夫書記局長が六日の衆院予算委員会でおこなった総括質問(大要)は次のとおりです。
「政党への企業献金の見直し」という付則10条の立法趣旨をどう理解しているのか
まず企業・団体献金についてであります。
総理は、政治家個人への企業・団体献金については、政治資金規正法付則九条にもとづいて、禁止の措置をとると表明されました。これは当然のことであります。
しかし、政党にたいする企業・団体献金については、付則一〇条で「五年後に見直し」が定められているにもかかわらず、与党三党は、十二月二日の幹事長会談で、この条項そのものを削除する方針を決め、総理もこの方針を「尊重する」と語ったと伝えられました。これはたいへん重大と考えます。(「そうだ」の声)
私はまず、総理に基本的な認識をうかがいたい。付則一〇条で、政党への企業献金の「見直し」がのべられている立法趣旨を、総理はどう理解しているのでしょうか。一九九四年にこれが盛り込まれた経緯にてらせば、政治献金は、少なくとも将来的には、企業献金から個人献金に転換していく、移行していく、その立場から「見直し」をおこなうというのが、この付則一〇条の立法趣旨であったことは明りょうだと思いますが、総理はどう理解されておられますか。端的にお答えください。
小渕恵三首相 そもそも政治資金とは、ということでありますが、私は次の三本柱から成り立っておると。(志位「立法趣旨をきいている」)一つは党費、個人からの寄付など個人からの拠出。第二は企業・団体からの寄付。三には政党交付金。こういうことでありますが、この企業・団体の寄付は、企業も重要な社会的な存在であり、また昭和四十五年(一九七〇年)の八幡製鉄政治献金事案にかんがみましても、企業献金は憲法上これは違反するものではないということであり、したがって企業献金というものを悪と決めつける、否定する根拠はとぼしいと考えております。
したがいまして、政治家個人にたいする企業・団体献金の禁止につきましては、これは決断をいたしましたが、与党内での話し合いや世論の厳しいうけとめに加え、そもそも政治改革の理念が政党本位の政治をめざすものから、政治資金についても政党中心にあらためようとするものでありまして、したがって付則第一〇条につきましては、この際、同条を削除することで与党の合意がなされたものと承知をいたしておりまして、これに関連いたしまして、政党支部のあり方についての検討、政党にたいする政治資金の入りの適正化にかんする検討等につき、ひきつづき与党で協議を継続し、適時適切な事項の具体化につとめている旨合意されているところでございます。したがいまして、一〇条につきましては、いまのような三党の考え方にもとづきまして対処すべきものと考えております。
志位 私は付則一〇条の立法趣旨についてうかがったんですが、それについてのお答えはありませんでした。そして、「企業献金は悪ではない」ということをいわれました。しかし、この問題というのは、公式にその価値判断というのは、決着ずみの問題なんですよ。(「そうだ」の声)
一九六〇年代から八次にわたって、総理の諮問機関として選挙制度審議会がおかれてきました。その答申のなかで、政治資金についてのべているのは四回であります。すべてそのなかでは、「企業献金から個人献金への転換」という方向が、くりかえしいわれているのです。
私は、ここにその(一連の答申の)要旨を持ってまいりましたが、一九六一年の第一次選挙制度審議会の答申では、企業・団体献金について、実施時期については「検討を加える」としつつも、「禁止すべきものである」と明記しました。
つづく一九六三年の第二次選挙制度審議会の答申でも、企業・団体献金を「禁止するという第一次審議会の答申を再確認する」と明記されました。
つづく一九六七年の第五次選挙制度審議会の答申では、「政党の政治資金は、個人献金と党費により賄われることが本来の姿である」として、「政党は…おおむね五箇年を目途として個人献金と党費によりその運営を行なう」、こう明記されました。
そして、直近では、一九九〇年の第八次選挙制度審議会の答申で、政党への企業献金を当面は容認しつつも、こうのべています。「将来の姿としては…政党の政治資金も個人の拠出により支えられるようになることが望ましい」
総理は、これらの四十年来の答申、とりわけ直近の第八次答申でも、少なくとも将来的な方向としては、政党の政治資金も個人献金の方向に切り替えていく、そういう方向で支えられるようにするべきだとしている。このことをどうお考えになっていますか。この直近の第八次答申、これを尊重されますか。まさか否定はされないと思うのですが、これを尊重されるという立場ですね。端的にお答えください。尊重するかどうか。
首相 過去いろいろ政治資金については各審議会で答申をちょうだいしておりますが、前回、この法改正をいただきましたときに、(政治家)個人にたいする企業献金については、これを禁止することといたしたわけでありますが、その後について、(政党にたいしては)見直しをするということとして法律は書かれておるわけでございまして、それを見直した結果、三党におきまして、これをはずすということになったということでありますので、それを尊重するという立場であります。
志位 (答申を)尊重するかどうかをきいたんです。つまり、答申では将来的な方向としては、企業献金から個人献金に切り替えていくという方向が出ているんですよ。それを尊重するかどうかきいたんです。それにもとづいて、政治資金規正法の付則一〇条では、五年たったら政党にたいする企業献金を「見直す」という項目を入れたんですよ。それを削除するということは、この答申をぜんぶ否定するということになるじゃありませんか(「そうだ」の声)。その問題をきいているんです。
もう一回、私の質問にお答えください。この四十年来の一連の議論の積み重ね、とりわけ八次審で、政党にたいする企業献金も将来的にはやめていくんだという方向が明記されていることを、尊重するのかどうか。はっきり答えてください。これは総理の諮問機関ですから。そして、この(選挙制度審議会の)設置法の第三条には、「政府は、審議会から答申又は意見の申し出があったときは、これを尊重しなければならない」という義務規定もあります。これを尊重されるのかどうか、はっきりお答えください。
首相 各審議会に諮問し、かつ答申を得たものについては、原則尊重しなきゃならんと思いますが、本件につきましては、法律の施行後(五年を)経過した場合において、「政治資金の個人による拠出の状況を踏まえ、政党財政の状況等を勘案し、会社、労働組合その他の団体の政党及び政治資金団体に対してする寄付のあり方について見直しを行うもの」というのが一〇条でございますので、その見直しをした結果、三党としてそのような方向性を打ち出したということでございまして、それを尊重するのも、また私の立場と考えています。
志位 そんな奇弁はなりたたないんですよ。一九九四年に、政党への企業・団体献金を「五年後に見直す」ということが法律に明記されたのは、この四十年来の選挙制度審議会の答申、とくに直近の第八次審議会の答申を受けて、さきほどいった部分を受けて、この付則一〇条がつくられたわけですよ。将来的には個人献金にする、これを受けて、付則一〇条で「五年後に見直す」ということを決めたわけです。
ですから、この「見直し」の項目を削除するということは、将来的な方向としても、企業献金から個人献金に転換していくということについて、まさに門を閉ざす、道を閉ざす、否定することになるわけですよ。あなた方がいまやろうとしていることは、四十年来の議論の積み重ねを、ぜんぶひっくり返すことですよ。(「そうだ」の声)
この間、四十年間、自民党はどれだけ金権腐敗政治がひどかったか。田中金脈問題、ロッキード問題、リクルート問題、共和、佐川、ゼネコン…。こういう金権腐敗の問題があって、さすがに選挙制度審議会もこのままではいけないということで、企業献金を見直すということをずっと(答申に)入れてきた。それをぜんぶひっくり返そうというのが、こんどの付則一〇条削除なんですよ。そうじゃありませんか。これは許されません。もう一回答弁してください。
首相 申し上げましたように、現状の状況のなかでは、この一〇条については、これは削除するという決定をいたしましたのは、さきほど法律の条項を読ましていただきましたけれども、それにのっとって三党として十分検討した結果、このような結論に至ったということでありまして、これを尊重いたしてまいりたいと考えております。
志位 付則一〇条そのものにも、「政治資金の個人による拠出の状況を踏まえ」て「(企業・団体献金を)見直す」とあるのは、個人献金の方向にシフトしていくということの努力をするということの意味合いを含めて、ここに書かれているんですよ。
ですから、あなた方のやろうとしていることは、これは四十年来の金権腐敗政治の居直りになる。しかも、政党助成金という国民の税金を、三百億円も山分けしながら、そのうえに企業献金も未来永劫(えいごう)つづけるというのは、とても国民が容認できるものではありません。
私たちは企業献金の全面禁止を求めますが、同時に、法律に明記されている政党への企業献金の「見直し」について、法律どおりちゃんと見直す。この四十年来の議論のうえに立って、しっかり見直す。このことを強く求めたいと思います。