1997年8月20日「しんぶん赤旗」
政治姿勢(その1) 景気・税制(その2) 金融問題(その3) 資料(その4)
日本共産党の志位和夫書記局長が八月十八日の衆院予算委員会でおこなった総括質問の大要は、次のとおりです。
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首相「失政だとは考えていない」「国民の激しい怒りの爆発」は自民党の何にむけられたか
志位書記局長 日本共産党を代表して、小渕総理に質問いたします。
まず、お聞きしたいのは、参議院選挙で自民党大敗という結果が出た、総理がこの国民の民意をどう受け止めているか、ということについてです。
あなたは自民党総裁選に立候補するにあたって、こういう政見を出されています。「総合力・決断 政治の復権と日本の再生―新しい安心を求めて」という政見ですが、そのなかで、「我が党が大敗を喫したことは、国民の激しい怒りが爆発したものと、深刻に受け止め、心から反省をしております」。このようにのべられております。
そこで、お聞きしたいのですが、なぜ自民党は「国民の激しい怒りの爆発」をかうようなことになったのか。「国民の激しい怒りの爆発」というのは、自民党の何に向けられたものだったのか。小渕総理にまず、お答えを端的に願います。
小渕首相 自由民主党は責任政党として、内閣をお預かりして諸政策を遂行してまいりました。そのなかで、現下の状況をみますと、経済、とくに景気の状況というものはたいへん厳しい環境であるわけでして、こうした状況にいたります間、種々の努力は傾注してきましたが、結果的には現在のような経済状況にたち至っておることに深く反省をいたしまして、国民のみなさんのあすへの希望というものについて、十分これが理解を示しえなかったことについて、反省をし、そしてこんどの選挙の結果は、さらに厳しくみながら、対処いたしたいという気持ちを、そのような表現をして表したしだいです。
志位 景気は厳しかったから、こういう結果が出たんだと。しかし、景気が厳しいだけでは自民党は負けません。自民党がまちがった政治をやったから、国民が「激しい怒り」を爆発させたわけです。(「そうだ」「そのとおり」の声)
「国民の激しい怒りの爆発」というのは、なによりも橋本内閣の経済失政にたいして向けられたものだと思います(「そうだ」の声)。今日の不況は戦後最悪といわれる深刻さを呈していますが、そのなかでも、経済の六割を占める家計消費が極端に冷え込んでいるのが最大の問題です。消費大不況が最大の問題です。この原因と責任が、どこにあるかについて、私はこの(予算)委員会で橋本前総理と何度も論戦をいたしました。私は、「昨年四月、消費税を五%に引き上げ、医療費を九月に値上げする、そういう九兆円もの増税を国民にかぶせた。これがこの消費大不況の原因だ。その失政の責任を認めなさい」ということを、くり返しこの場で橋本前総理に申しました。しかし、橋本(前)総理は最後までその誤りを認めないまま、ああいう結果になったわけです。
しかし、私は、この論争は決着がついたと考えています。最近になってようやく、政府も経済企画庁、あるいは日本銀行などが、「景気の後退は昨年の四月から始まっていた」、つまり消費税の引き上げとともに、景気の後退、景気の悪化が始まっていたことを、公式に認定しました。私は、何よりもこの論争は、国民自体が決着をつけたと思います(「そうだ」の声)。それが、こんどの(参院選での)自民党の大敗だと考えます。
ところが、総理は、(衆院)本会議でわが党の不破委員長が、「九兆円負担増が、日本経済のかじ取りを誤ったことを認めるか」と質問したのにたいし、「経済に与えた影響を否定するものではないが、極めて重要な改革だったと考える」とおのべになりました。
いいですか、いま問われているのは、消費税という税金をあなた方が一般的にどう位置づけているかということじゃないんです。不況のもとで大増税をかぶせた。こういうやり方が経済のかじ取り、経済運営としてまちがっていたんじゃないか。このことが問われているわけです。これが正しいと考えているのですか、まちがいだと考えているのですか。はっきりお答えください、総理。
首相 当時の財政状況からかんがみまして、社会保障政策を遂行するようなことを考えましても、財源としての必要性はあったと考えておりまして、当時として、この(消費税の)二%のアップにつきましてはやむをえなかったと考えます。
志位 私どもは財源については当時も、公共事業、国と地方自治体で(年間)五十兆円も使っている公共事業のなかには、あまりに無駄なものが多すぎる、これを削ることによってこの問題を解決できる、ということを申しました。にもかかわらず、警告を無視して、あなた方が増税をかぶせた結果が、今日の事態をまねいているのです。
それでは、お聞きしたい。総理が「経済の専門家」として起用された堺屋経済企画庁長官にお聞きしたいと思います。あなたがことしの八月に発刊された『あるべき明日 日本・いま決断のとき』という本がございますね。(本の実物を示しながら)最新刊だそうですが、この「まえがき」で、たいへん明快なことをおっしゃっている。「自民党をこれほどの大惨敗に陥れた原因は何か」。その二つ目にあげているものとして「経済の不況である」。こうつづけています。「特に昨年四月、消費税の引き上げや特別減税の停止など七兆円(医療費負担の増加を含めると九兆円)の増税を行った失政の責任は重い」。たいへん明りょうです。(「そのとおりだ」の声)
つまり、九兆円の負担増は失政だと。失政というのは、誤った政治だということですね。明言されているわけです。この評価は、閣僚になったいまでも変わらないと思いますが、念のために確認しておきたい(笑い声、議場ざわめく)。端的にお答えください。
堺屋経企庁長官 私はその考え方は変わっておりません。それが現在の不況の主たる原因とは思いませんが、一つの原因であるという考え方は変えておりません。
志位 たいへん大事な答弁がされました。つまり、九兆円の増税は失政であるという、この考えは変えておらない。これが経済企画庁長官の考えです(「個人のだよ」の声)。経済企画庁長官の答弁として、そういうことをいわれたわけです。総理、どうですか。総理の考えも一緒ですね、そうなりますと。どうですか。(堺屋長官は)失政をお認めになったわけですよ。失政だという認識は変わらないと、こうおっしゃった。あなたも失政だと認識するんですね。(中山予算委員長が堺屋経済企画庁長官を指名しようとする)総理に聞いている。(委員長「まず、説明している…」)総理に聞いている(「総理だ」の声などで議場騒然)。総理に聞いている。
経企庁長官 その書物を書きましたときは、経済企画庁長官ではなしに、ただ一人の個人であります。したがって、それは企画庁長官の意見ではなしに、堺屋太一個人の意見として、読んでいただきたいと思います。
志位 個人の意見としてお書きになったものではあるけれども、今日でもその認識は変わっていないといま答弁なさったでしょう。九兆円の増税は失政だという認識は変えていないとおっしゃったですよ(「そうだ」の声)。ですから、総理にあなたも同じ考えですか、とたずねているんです。
首相 ただいま、堺屋長官みずからご答弁申しあげたように、それは個人としての考えであり、現時点において、企画庁長官として、そのことについては、そうしたお考えは持っておるということではございますが、(志位「いま、認めましたよ」)私自身は、失政だと考えているわけではありません。(「閣内不統一だ」の声)
志位 いま認めたでしょう。長官のご答弁として、認識は変わらないとおっしゃっているんです。だから、あなたの認識も同じ失政という認識なのかと聞いているんです。ちゃんと答えてください。いまの答弁では納得できません。失政なのかと聞いているんです。
首相 橋本内閣のおこなってきました政治のすべてについて、これを失政だとは考えておりません。(議場ざわめく)
志位 堺屋太一さんが書かれ、そしていま同じ認識だといわれているのは、こうです。「増税を行った失政の責任」、こういっているのです。九兆円の増税が失政だったと、こういっている。(橋本内閣の)全般的な評価をいっているんじゃありません。九兆円の増税を失政といっているんです。これをあなたは認めるのかと聞いているんです。ちゃんと答えてください。閣内不統一じゃないですか。ちゃんと答えてください。(「逃げないで答えなさい」の声)
首相 何度も申しあげますように、失政だとは考えておりません。
志位 これでは本当に閣内不統一です。(堺屋長官を指して)あなたは「失政」といい、「その認識は変わらない」といい、(首相を指して)あなたは「失政と考えていない」。閣内の意見が全然統一してないじゃないですか。
経企庁長官 私はその書物を書きましたときは、なんら閣僚でも議員でもありませんでした。したがって、私個人の意見を自由に書いたわけです。しかし、いまこの地位に就きましても、それを書いたときの意見がまちがっていたとは思っておりません。
ただ、現在の状態として、全体の状況からみて、あの時点で橋本内閣がそれをなさったのは必要だったのかもしれないと思いますが(笑い声、議場ざわめく)、そのこと自体は、その部分だけを取り上げていえば、私は失政だったと当時も思っておりますし、いまもやはりやらなかった方がよかったんだろうと思って、(志位「いまも失政だと思っていますか」)思っています。(志位「思っている」)思っています。いまも、あのときやらなかった方がよかったと思っています。(志位「つまり、失政だと思っていますね」)はい。
志位 いろいろいわれましたけど、失政だと思っているというんです。(首相を指して)あなたは失政ではない、(経企庁長官を指して)こちらは失政だという。これでは本当にこれ以上、質問できないじゃないですか。
堺屋太一さんは「国民にわかりやすく語る」と、これがモットーでした。それから「自分の調べた結果というものをうそをつかないでいっていくのがこれからの務め」だ、こうもおっしゃいました。いま、うそをつかないで、やっぱり失政だと、結論はそうだといいました。「必要だったのかもしれない」とちょっと動揺もありましたけれども(笑い)、しかし、失政だといってるんです。
あなた(首相)は失政じゃないといい、こちら(経企庁長官)は失政だという(「閣内不統一だ」の声)。これ、閣内の見解を統一してください。どっちなんですか。(首相が失政ではないとすると堺屋長官が)失政だといいつづけるんだったら解任しなければならなくなりますよ。(「そうだ」の声、議場騒然に)
首相 考え方の相違というものは、いろいろそれぞれの閣僚間においてもあるかと思います。閣内不一致というのは、政策について、それぞれの閣僚の考え方、内閣の考え方に相違があるということを申しあげておるのでございまして、それぞれの方がたのご意見をもって、内閣不一致だという考え方はないと思いますし、いまのような堺屋長官の長官になられる前にお書きになりましたお考えをもって今日にあるということでありますが、そうした考えをもっておられる方も含めまして、閣内におきまして、いろいろと論議をつづけていくというのが、小渕内閣の民主的な対応だと考えております。(笑い声)
志位 これ以上、押し問答をやっても、誠実な答弁されないんで、しょうがないんですけれども、(堺屋長官の方をみて)こちらは誠実だけれども、(首相の方をみて)こちらが誠実じゃない。私は閣内不一致というのは、政策上の問題だけじゃないと思います。やはり九兆円の負担増という、経済運営の根本について意見が違うんですから、これはまさに閣内不一致です。ですから、これは委員長、内閣としても統一見解をきちんともとめたい。
(議場騒然となり、各党の理事が委員長席に集まり、質疑は一時中断。理事協議のあと、中山委員長が「後日理事会におきまして、速記録をみることによりまして、検討いたしたいということに決定いたしましたので、質問を続行してください」と発言)
志位 では質問をつづけます。私が、この失政という問題について、なぜ冒頭にただしたかといいますと、失政を失政と認めませんと、正しい政治の方向性が出てこないからです。この点で、小渕総理が、橋本前総理とまったく同じような無反省の姿勢に終始したことを、たいへん残念に思います。
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蔵相「証明された数字でない」というだけで、試算を否定できず
「家計を厚くするしか経済の正常化の道はない」(蔵相)といいながら
志位 つぎに減税の問題についてうかがいたい。
総理は、「六兆円を相当程度上回る恒久的な減税」の実施を公約されました。そしてこの減税を、「景気に最大限配慮」しておこなうものだと位置づけました。宮沢蔵相も「減税」の位置づけとして、記者会見やインタビューなどで、つぎのような趣旨のことをくり返し、おのべになっています。
「不況になった際にどこに資金をつぎこむかというのは、財政、企業、家計の三つしかない。財政は公共投資の効果が疑問視されている。企業の設備投資はあまり期待できない。そうだとすれば、家計につぎこむしかない。国内総生産の一番大きな部分―すなわち家計ですね、これを厚くするしか経済の正常化の道はない。それはつまり減税ということになる」
ここまでは私の認識と一緒です。正しい認識だと考えます。こんどの政府の「減税」というのは、景気対策を最大の目的の少なくとも一つとしている、わけても冷え込んでいる家計消費を温めるという位置づけで出されたものであるということは、あなた方の位置づけとしてそういうものであることは、まちがいありませんね。総理、どうでしょう。
首相 減税だけですべて解決すると思ってはおりませんけれども、申しあげましたように、本年度におきましても、特別減税という形で還元をしておるわけですので、そういった意味で、今後とも税制の面からも消費を拡大できるような手法の一つとして役立つものと認識しております。
志位 景気対策、消費の拡大ということをおっしゃいました。ところが、政府のいう「減税」の中身はそうなっているか、家計を厚くするものになっているか、というのが大問題です。私は二つの大問題を吟味してみたいと思います。
志位 第一に、所得税・住民税の四兆円の「減税」についてです。政府はこれを、所得税・住民税の最高税率を六五%から五〇%に引き下げることと、定率減税を組み合わせておこなうと説明しています。しかし、これは、ことしおこなわれている四兆円の特別減税が打ち切られて、それに代わっておこなわれるために、ことしに比べて実際に減税になるのは、ごく一部の高額所得者だけで、納税者の八〜九割は増税になることが一致して指摘されています。
総理も本会議の答弁のなかで、「今年より減税額が減少する所得階層が生じる」ということを認めざるをえませんでした。そこでお聞きしたいのですが、「減税額が減少する所得階層」というのは、納税者のどれだけの部分になるのでしょうか。おおまかのことでけっこうですから、これは総理の答弁ですから、総理の認識をおうかがいしたい。
首相 私が申しあげましたのは、総額としてその程度の減税をおこなうということは、マクロで全体の数字が今年度を下回ることがない、ということで申しあげました。その詳細な、どのような手法で講ずるかということにつきましては、現在大蔵省内部におきましても検討していただいておりますので、いまおたずねの点について現時点における方式につきましては、事務当局から答弁していただきたいと思います。
志位 (委員長「大蔵省尾原主税局長」)方式を聞いているんじゃありません。(増税になる)幅を聞いている。わからないということですね、要するに。方式を聞いてるんじゃありません。
大蔵省・尾原主税局長 (志位「簡単に」)今年度の特別減税はできるだけ景気に早く効果が発現するようにということで、定額方式をとらざるをえなかったわけです。来年の定率方式との組み合わせによる方式ですが、景気の現状に配慮しつつ恒久的な減税としておこなう観点から、まさに税率の引き下げと定率方式の組み合わせが適当であるということになったわけです。したがいまして、今回の減税と特別減税を比較するということ自体が適当でない、というふうに考えているわけです。
志位 「比較は適当でない」といっても、それは政府の勝手な理屈で、家計にとっては一年限りの特別減税であろうと、あなた方の「恒久的な減税」というやり方であろうと、九八年に払う税金と九九年に払う税金が、いったい増えるのか減るのかが家計にとっては問題なんです(「そのとおり」の声)。家計をあずかるものはみんな、比較せざるをえないんです。税金が重くなれば、それは消費を減らさなくてはならない、景気は悪くならざるをえない、そういう問題なんです。
計算はこれからなんだ、ということをおっしゃいました。しかし、政府が示している大枠ということはあるんです。この大枠にそって試算してみますと、どうしても逃れられない結果というものがございます。四兆円の減税のうち、私どもが計算してみましたら、最高税率の引き下げ分でだいたい六千億(円)ぐらいになる。それから定率減税分で三兆円を大きく上回るという計算をしてみました。そうしますと、こういう結果がでてまいりました。
(パネルAを示しながら)これは、政府の「減税」案を実行した場合の九八年と九九年の増減税額を所得階層別にみたものです。
赤い棒が、定率減税を一二%とした場合の増減税です。上にいくと増税、下にいくと減税です。これをみましてもわかりますように、年収一千万(円)近くまで増税です。
それから青い棒、これは定率一五%の減税とした場合です。この場合は減税規模の全体からみて頭打ちがでてきます。つまり、所得税減税の上限がでてきますが、頭打ち二〜三十万(円)という計算をしています。それでみますと、(年収)九百万円近くまで増税です。給与所得者・納税者の九一・一%までの層です。
緑の棒、これは最も定率を大きくとって、二〇%の定率減税とした場合です。この場合も頭打ちがでてきます。私どもがだいたい計算してみましたら、定率分だけで三・五兆円ぐらいの減税になるんですから、最も減税幅が大きい場合ですが、それでもごらんになればわかるように、年収八百万円まで増税です。八百万円といいますと、給与所得者・納税者の八七・〇%。
ですから、どんな仮定をおいて計算しても、政府が示している減税の大枠は決まっているわけですから、納税者の八〜九割がことしに比べて増税にならざるをえない。
総理にうかがいたいですが、ごくひとにぎりの金持ちには減税する。しかし、大多数の庶民には増税する。これでどうして家計消費は増えますか。家計消費を温める、家計消費を厚くするという目的、大義名分をうたっておきながら、やっていることは逆じゃありませんか(「そうだ」の声)。景気をますます冷え込ませるだけではないか。私は、家計と景気を考えたら、こういうやり方はやるべきではないと考えますが、総理いかがですか。総理に(聞いている)。
宮沢蔵相 けさも申しあげましたが、平成八年、平成九年の減税は、いわゆるその年分の所得にたいする減税ですから、いっぺん限りのものです。いっぺん限りの減税では将来の展望がわからない、国民はもう少し永続的な減税のプランを望んでいる、それが消費に貢献するというご意見が多いので、このたびはいっぺん限りではなく、当分の間ということでない減税をいたしたいと思っています。
その際、平成八年、九年、いま十年ですが、課税最低限が四百九十一万円になった。それによっておそらく数百万の納税者が納税者でなくなっていると思います。ただし、所得税の本則は三百六十一万円ですから、それにかえりまして、永続的な税制を考えようとしています。したがいまして、志位委員のいわれますことは別段、意図するに足りません。新しい、いっぺん納税者でなくなった人が納税者になってこられるわけですから、そういう方がたは、また所得税を少ないけれども納めていただくことになります。そのことは、それによって、しかもこの減税はいっぺん限りでないんだ、ずっとつづくんだということによって、国民に安心感を与える、そういうことがねらいです。
志位 いっぺん限りじゃないから国民に安心感がでて、蔵相のいったことをもう少しわかりやすくいえば、”消費マインド”が温まるだろうということでしょ。そして消費に向かうようになるだろう、というのがあなたの意見だと思うんですけれど。これをもう一回ちょっとみてほしいんです。
(パネルAをもう一度掲げて)年収四百万から六百万ぐらいのところは、今年に比べて来年の税金がどれだけ多くなるかといえば、七万円、八万円ですよ。年額これだけ多い負担になっていて、”マインド”が温まりますか。「恒久的なもの」だといくらいっても、実際に出ていく税金が多くなって重くなっては、”マインド”は温まりません、これは。(「そのとおり」の声)
しかも、”マインド”とおっしゃるけれど、あなた方は将来をどうするのか。小渕総理が「鈍牛、角を研ぐ」(『諸君』八月号)という論文の中で、将来的には「課税最低限も下げる方向でいくしかない」(といっている)。景気が回復したら庶民に増税を負わすんだ、こういうことも否定されてないじゃありませんか。そうなってきたら、将来の見通しだってない。家計からみたら、そして景気対策からみたら、国民の八割、九割がことしに比べて来年が増税になるというやり方は、とるべきじゃないと思います。
総理にこんど、おうかがいしたい。結局「比較の対象にならないんだ」と、一年限りの減税と「恒久的な減税」は「比較の対象にならないんだ」というんですけど、逆にお聞きしたいんですが、”ことしに比べて来年が八〜九割増税になってもかまわない”、”こんな比較はどうでもいい”というのが政府の立場ですか。八〜九割は増税になってもかまわない。「比較の対象にならない」とはそういう意味でしょう。ことしと来年を比べても意味がないということは、逆に、八〜九割が増税になったってかまわない――これが政府の立場ですか。総理、総理どうですか。(委員長「大蔵省…」。宮沢蔵相が立とうとする)総理、総理が手をあげているんですから。
蔵相 八、九割とおっしゃいますけれども、どうして、そういう数字がわかるんでしょうか。私どもの専門家でもわからないんで。それはことし税金を払わなかった人が新しく納税者にまたなられるということは、あると思います。しかしそれが、八、九割ということにはいっこうに証明された数字でありません。
志位 これは、私どもが政府の仮定にもとづいて、きちんとした試算をおこないました。政府の大枠というものがあるわけです。「最高税率は五〇%に下げる。総額は四兆円。定率方式でおこなう」と。これだけのパラメーター(母数)が最初与えられたら、どうしたってああいう計算以外に出てきようがないんです。あなた方は、そういう増税層がでてくるといいながら、いったいどれだけの方が増税になるかも示さない。ことしと来年、これはどうなるかもわからない。こんなことでどうして景気対策になるか。
私は、日本経済新聞が最近こういうコラムを書いたことをたいへん印象深く読みました。「消費性向は高所得者層で低く、低所得者層で高い。所得の高い層で減税しても消費はあまり増えない。所得の低い層で増税すれば消費は大きく減る。消費不振を打開するための政策としては、低所得者層の課税を増やすことはまったく逆効果である」(七月十日付)。「まったく逆効果」なことをあなた方はやろうとしている。このことを指摘して、もう一つの問題に進めたいと思います。
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「法人税の税負担の国際比較は難しい」が政府の公式回答
志位 第二の問題点です。巨額の法人税減税の問題についてうかがいたい。
政府は、法人税の表面税率を、四六%からさらに四〇%に引き下げて、二兆数千億(円)規模の「減税」をおこなう、と説明しています。総理は、八月十一日の本会議の答弁でこれを「法人課税を国際水準並みに引き下げる」、こう説明されました。そこで事実の問題として総理に認識をおうかがいしたい。日本の法人税の負担率は、国際水準に比べてなお高いという認識をお持ちでしょうか。端的にお答えください。(委員長が「主税局長」と指名したのにたいし)総理、総理が手をあげているんですから。
首相 細かい数字、すなわち四〇前後というところにつきましては、それぞれの国ぐにによって若干違うと思いますが、ほぼ同様の数字と理解いたしています。
志位 要するに、四〇%にして「同様」になるから、いまの四六%は高いという認識ですか。そういうことですね。ちゃんとお答えください。
首相 これは地方課税も合わせて、そういう数字だと思います。
志位 高いという認識ですか。高いという認識かということを聞いているんです。イエスかノーか、ちゃんと答えてください。
首相 四六%は四〇%より高いと思っています。(爆笑)
志位 きちんとお認めにならないんだけれども、「国際水準並みに引き下げ」るというんですから、いま高いから、その「国際水準並みにする」ということですから、いま高いというご認識でしょう。
しかし、企業の実際の税負担というのは、「税率」と「課税ベース」、すなわち企業の利益のなかで課税の対象となる範囲をかけ合わせたものです。これで、実際の税負担は決まるわけです。ですから、国際比較をおこなう場合は、「税率」と「課税ベース」をかけ合わせた、実質の税負担で比較する必要がでてまいります。
私は大蔵省に、この実質の税負担の国際比較の数字の資料を要求いたしました。文章で回答がありました。大蔵省からの回答です。読み上げますと、「法人税の税負担の国際比較については、経済や税制等の環境が異なると企業行動も異なることから、企業行動のモデルの選定が困難であり、また課税ベースの比較については(別紙)のとおり難しいと考えております」。「難しい」と。”比べられない”という回答です。そして「別紙」でついているのが、九六年十一月の政府税調・法人課税小委員会の報告の税負担の比較をのべた部分です。この結論は、「我が国の課税ベースは国際的にみて広いとは一概に言えず、『税率』と併せ考えた法人課税の『税負担』水準の高低の判断は容易ではない」(笑い)。これが大蔵省の回答です。総理に一部をお渡ししたいんですが、結構でしょうか。(委員長「どうぞ」。志位氏、首相に資料を手渡す)
志位 お読みになっていただきたいんですが、結局、大蔵省の回答は、”日本の法人税の税負担が高いか低いかを判断するのは難しい”と、”わからない”と。これが公式回答です。
そうしますと、総理、国際水準からみて高すぎるから下げるということは、なんの根拠もなくなってくる(「そうだ」の声)。「国際水準並みに引き下げる」という、その根拠はなくなってくるじゃありませんか。総理、いかがでしょう。(委員長「主税局長」)総理にうかがっている。総理が手をあげてますから、総理に。
首相 大蔵省ならびに税制調査会をご信頼いただきましてありがとうございます。つきましては、その数字そのものにつきましては、正確にそれぞれの立場で検討いたしておりますので、答えられる範囲で税務当局から答弁させます。
主税局長 おたずねの法人所得課税の実効税率の国際比較を数字で申しあげますと、日本の場合(志位「そんなこと聞いてないです。税負担率を聞いているんです」)、四六・三六、(志位「聞かれてないことに答えないでください」)アメリカ四〇・七五、イギリス三一・〇、ドイツが五一・六七、(志位「聞かれてないことに長なが答えないで」)フランス四一と三分の二ということで、この実効税率を比較いたしますと、ドイツを除きまして日本は高い部類に属するわけです。(志位「委員長、もう結構です」)
それから第二点ですが、法人の実際の税負担は、課税ベースに法人税率をかける、もちろん地方税を含めますが、それで出てくることはまちがいないわけです。ところが、例えば、日本には退職金という制度がありますが、外国にはありません。そのようなことから、今年度の改正で引当金を二割に引き下げるように、課税ベースの拡大を図っておりますが、そういう社会慣行が違うなかで、その課税ベースかける税率の本当の税負担を比較するのは、なかなかむずかしいわけです。もう一つ、例えば、経済が国際化すると、日本の外国にある子会社から日本へ研究費の分担金をもってくるというようなことがあります。この場合は、課税ベースの問題ではなくて、まるまる実効税率が効いてくるわけです。したがいまして、課税ベースの問題もありますが、国際的な資本移動等の問題を考えますと、この実効税率がどうあるべきかというのはたいへん重要な問題であると認識しています。
志位 政府税調(・法人課税小委員会)のこの報告書、大蔵省から出された報告書ですけれども、「税負担の比較」とありまして、「法人課税の税負担の水準を比較する際には、税率だけでなく課税ベースの内容を吟味し、両者を併せて判断する必要がある」。こう書いてあります。つまり、ものさしは、両者をかけ合わせたものだということを認めているわけです。だから、あなたがいくら実効税率―私は表面税率といういい方が正しいと思いますし、政府税調も最近そういうふうにいってるようでありますが(主税局長うなずく)、この表面税率をいくら比較してもダメです。
それで、企業慣行うんぬんの問題もいわれました。この点で一つの見識ある試算として、政府税調の法人課税小委員会委員の神野直彦東大教授が試算をされています。よく、この法人税の税率の問題というのは、”高すぎると日本の企業が外国に逃げていっちゃうから大変だ”という(産業)空洞化と結びつけて議論がされておりますので、それとの関係で、神野さんは、「日本企業にそれぞれの国の税法を適用すると、法人課税がどのように変化をするかを比較」したと。非常に的確な比較の方式をとっております。その結果、日本の大企業の直接税負担率は、つまり法人税の実質負担と社会保険料負担の合計は、アメリカ、ドイツの八一%程度。フランスの七六%程度。日本の場合、さまざまな引当金などで課税ベースが狭い。それから、社会保険料負担が低い。この二重の要因をちゃんと加味して計算すれば、こういう結果が出てくる。
そして、神野さんの最後の結論は、「アメリカやヨーロッパの先進諸国に比べれば、日本の税法はむしろ、法人に低い負担しかもたらさない」。これが結論です。だから、「難しい」といってるだけではなくて、きちんとよく計算すれば、こういう計算の結果が出てくる。
しかし、少なくとも、比較ができない、比較が難しい、つまり、「高い」という根拠はないということは、はっきりしました。ですから、「下げる」という根拠も、また、なくなりました。
志位 そして、法人税を下げたからといって景気がよくなるのか。これは、蔵相自身も「企業にお金をつぎこんでも、設備投資はあまり期待できない」、こういっているとおりです。消費不況のなかで、法人税を下げたって、設備投資に回りません。しかも、法人の三分の二は赤字法人。ここにはまったく法人税減税の恩恵はもちろんありません。中小企業には、ほとんど恩恵がない。大企業、資本金十億円以上の大企業が、私が計算してみましたら、法人税減税分の五四%をとっちゃう。ソニーとかキヤノンとか、あるいはトヨタ、ホンダ、こういう史上空前の利益をあげて、しかも、人減らしでどんどん雇用不安つくってるような企業にどうして減税をやってやる必要があるのか(「そのとおり」の声)。私は、本当にまちがったやり方だと思います。
政府の「六兆円超の減税」なるものの中身は、結局、「家計につぎこむ」といっておきながら、庶民の家計からは増税で吸い上げる。つぎこむ先は、一握りの金持ちと大企業じゃないですか(「そうだ」「そのとおり」の声)。私は、景気対策として逆風にしかならないと思います。
日本共産党の7兆円減税──全階層で減税になり、衝撃的な景気浮揚効果
志位 私ども日本共産党は、消費税を三%に戻すことを中心に、人的控除などの引き上げで、庶民に手厚い所得減税の恒久化を加えて、総額七兆円規模の減税をおこなうことを提案しています。同じ七兆円規模の減税でも、政府の提案している「減税」に比べて、景気回復、個人消費の回復のうえで、私どもの提案は、あきらかに利点があると考えています。
もう一枚パネルをつくってまいりましたが、(パネルBを示しながら)第一に、この方式でこそ、ことしに比べても、すべての所得階層で減税になる、ということです。このグラフのうち、青い棒が九八年に政府がおこなった特別減税の減税分です。赤い棒の方が、わが党の七兆円の減税案です。ご覧になっていただければわかるように、どの階層でも、減税になる。そのための唯一の減税方式だと、思います。しかも、この三百万円以下の所得階層の方、いまの不況のなかで一番苦しんでいらっしゃる低所得者層にも、減税の恩恵がおよぶ。
第二に、この減税方式は、この赤の棒のなかの濃い部分、消費税の減税分が減税の中心をなしています。消費税の減税というのは―いま将来不安があって、所得税の減税ですとどうしても貯蓄に回る部分が出てくる。これはだれも否定はしないでしょう―しかし、消費税の減税というのは、消費してはじめて減税が生まれる。消費拡大と直結した減税です。私は、これが(減税の)中心に座っているということは、同じ減税額でも、消費拡大効果は格段に大きい。これを実行に移せば、衝撃的な景気浮揚効果が生まれてくる、このように思います。
いまいろいろな立場の違いを超えて、この声がうんと起こってきている。将来の税制についての立場には、いろいろな違いがあります。あるいは、高齢化社会の財源をどう求めるのか、これについても立場の違いがさまざまあるでしょう。しかし、そういう立場の違いを超えて、消費税の減税が、いま大きな世論になっている。自由党も主張されています。財界筋からも、アメリカからも、そういう声が聞こえてまいります。
八月五日に発表されたIMF(国際通貨基金)の日本にたいする年次報告を読みましても、「何人かの理事は、短期的需要を刺激するための消費税減税についても検討されうると言及した」。これは時限付きではありますが、IMFでもそういう意見がのべられました。
それから、あなた方の大勲位(笑い)、中曽根元首相が最近のインタビュー(「毎日」十五日付)のなかで、「景気の回復も、所得税減税より消費税を2年間だけ時限的に2%下げ」る、このほうが「需要を起こす」うえで効くと、これも時限付きではありますが、消費税を下げるしかないじゃないか(といっている)。私たちはもちろん、三(%)に下げたあと廃止するという立場でありますが、しかし、当面の需要喚起策としてはこれ以外にない、こういう声が起こってきている。
なによりも、国民多数の声ですよ。八月四日に発表された日本経済新聞の世論調査では、「景気対策として望むもの」のトップは、「消費税の引き下げ」が五四・七%。「所得・法人税の恒久減税」の三九・九%を大きく上回っています。総理にうかがいたい。なぜ、国民がこれほどまでに強く消費税減税を願っているのか。なぜだと思いますか。(「共産党の宣伝がいきとどいたからだよ」の声、笑い声)
首相 志位書記(局)長、まことに分かりやすいお話をされまして、ご意見を兼ねてご質問をいただきましたが、ちょっと長くなりますが、私からも若干反論もさせていただきたいと思いますが。
まずその法人税についてです。大企業のみが引き下げて、そして減税することは好ましくないというお話がありました。
しかし当然のことながら、企業全体、中小企業にわたりましても、法人税の減税はありうるんだということで、いかにも大きな企業だけが減税の恩恵に浴するようなことは、誤解を招く所以(ゆえん)じゃないかと思っております。
また、個人所得税につきましても、最高税率の引き下げにつきまして、いわば金持ちの優遇ではないかというお話に近いお話でございますし、またそうした方がたの消費傾向はかならずしも多くないというお話でございましたが、そのことをそのように割り切ることはきわめて不可能ではないかというように私は考えておりまして、そういった意味で、やはり法人税の引き下げなくしてすべて所得税の減税をすればというお話で、先ほどのパネルはできあがっている(志位「消費税(減税をいっている)」)感じでございまして、そういった点も含めまして、国民のみなさんのご理解もいただきたいと思っております。
(志位「私の質問に答えてください」)そこで消費税の問題につきましては、しばし申しあげておりますように、このことは国家の財政のなかで、とくに社会保障問題等につきまして、必要な経費をまかなうためにやむをえないこととして、二%の引き上げをさせていただいたということでございまして、この点もしばしば申しあげておりますように、ご理解をいただきたいと思っております。
志位 いろいろな「反論」といわれましたけど、反論になっておりません。私は法人税の減税のすべてが大企業にいくといっておりません。さっきいったように、十億円以上の大企業が五四%を取ってしまうと。こういう事実をいったわけです。しかも空前の利益をあげ、人減らしをやってるような企業に減税をやるのは、はたして、(景気対策としても)いいやり方なのかという問題をいったわけです。
それから消費税の増税は、社会保障にあてるものだ、というお話でありましたけれども、結局、”社会保障のためだ”と、”高齢化社会のためだ”という考え方で、その財源を消費税に求めるという考え方をとったとしますと、際限のない消費税の引き上げになっていく。
私は、この財源というのは国政上の浪費にメスを入れる、国と地方自治体で五十兆(円)もの公共事業を削ったらいい。かねがね、このことを申してまいりました。無駄な事業を削ったらいい。ところが来年は、(公共事業費を)三〇%も増やす(という)。もうジャンジャン、また旧来型の公共事業を増やすという方向を一方でやっておきながら、消費税の減税はどんなことがあってもできない。これだけの国民多数の声があってもできない。私は、なぜこれだけの国民の声が、これを求めているのかをうかがいました。それについてのお答えは、一つもありませんでした。
いま国民がこれだけ強い願いを示しているのは、経済の現状、暮らしの実態が、まさに緊急事態であって、これを打開するには消費税減税しか方法がない。このことを、国民は日々の生活の実感で分かっているからなんです。
ですから、政府がこれまでの立場にこだわらず、緊急の景気対策としてこれを実行することを、真剣に検討することを私は強く求めておきたいと思います。
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志位 つぎに金融問題についてうかがいたい。
この問題、私どもも不良債権の適切な解決、あるいは金融機関が破たんしたさいの預金者保護や、まじめな借り手の保護をおこなう体制の整備が必要である、これは当然だと考えております。
問題の核心は、不良債権処理のコストをいったいだれが負担すべきかという問題です。この点で「ブリッジ・バンク」を含む政府の処理策の最大の問題点は、国民には三十兆円もの負担を求め、「足りなければいくらでも積む」(宮沢蔵相)と、際限のない負担を押しつけながら、銀行業界への負担増はいっさい求めようとしていないということです。
不良債権というのは、もともと銀行の不始末です。しかも個々の銀行の不始末にとどまらず、銀行業界全体がバブルの乱脈に踊ってつくりだした共同の不始末です。ですから、その不始末を処理するためのコストは、国民の税金ではなく、銀行業界の自己責任、自己負担の原則でまかなうのは当然だと思います。
この点でいくつかお聞きしたい。まず、日本の銀行業界は、アメリカに比べてもまともな負担をしていない、という問題です。この問題は、一月のこの予算委員会の質疑で詳細に明らかにいたしましたが、アメリカでは八〇年代後半から九〇年代初頭にかけて商業銀行の倒産が相つぎ、連邦預金保険公社(FDIC)の基金が底をついたときに、保険料率をそれまでの三倍の平均〇・二五四%に引き上げ、税金を使わずに業界の自己責任で危機を乗り切りました。日本の保険料率は、引き上げたといっても、〇・〇八四%とアメリカのピーク時の三分の一の水準です。つまり日本の銀行業界は、アメリカのピーク時に比べても、いわば世間並みの負担もしていない。これ引き上げるのは当然じゃないか。
この問題について、総理にうかがいたい。総理は本会議の答弁で、「(銀行の)預金保険料負担は金融機関のおかれている状況、国際的信認との関係にも留意し、検討する」、こうのべました。そこでうかがいたいんですが、どういう方向で検討するんですか。銀行業界に負担増を求めるご意思がおありですか。総理にうかがいたい。総理の答弁ですから、総理どうぞ。
蔵相 預金保険機構が、いわゆる預金の無制限保護を二〇〇一年まで決定いたしましたときに、各銀行から、いわゆる保険料負担、数倍の保険料負担を徴しました。それによって、このペイオフをいわゆる二〇〇一年までのばしておるわけです。銀行関係もそれだけの負担をいたしております。
志位 数倍の負担をしたから、もう引き上げる必要はないんだ、ということですか。
蔵相 少なくとも、各銀行が現在けっして経営が裕福な状況ではございません。したがいまして、それにたいして、さらに多くの保険料負担を求めることは、大銀行と小銀行の差を設けるということもまた、理由に乏しいもんでございますので、私は非常にむつかしいのではないかと思っています。
志位 経営が裕福でないということをおっしゃいました。これも一月のこの予算委員会でだいぶん議論した問題なんです。宮沢さん、ご存じないかもしれないけれども、「銀行の利益にたいする負担率」、こういう別のものさしでみても、アメリカのピーク時は八%負担したんです。ところが、私が計算してみたら、九七年の直近の数字でも、日本の銀行の負担率は、全国銀行ベースで六・二%、大手銀行で四・八%。アメリカのピーク時に比べて、裕福じゃないっていいますけれども、出している利益との関係でも負担してないんですよ。
志位 大蔵大臣との議論になりました。そもそも、この問題についての、あなたの考え方の基本が狂ってると思います。大蔵大臣が、昨年の十二月一日のこの(予算)委員会で、質疑のなかで、銀行の保険料率を引き上げることについて、こういうことをいわれたのを聞いて、驚きました。「これからビッグバンに身軽になって乗り出して外国と競争しなきゃならないときに、自分のところに全く関係のないものをこれ以上しょわせていいんだろうか。もっとやれというのは昔の護送船団の思想ではないか」。こういいましたね。(蔵相うなずく)
つまり、”不良債権処理を銀行業界の自己責任の原則でおこなう、その見地から負担増を求める”という議論にたいして、「昔の護送船団の思想だ」とのべて否定し、税金で負担するのは当たり前という議論を、この場でおやりになったんです。そこから三十兆円(の血税投入)が始まったんです。
それでは、宮沢蔵相に聞きたい。アメリカが到達した原則というのは、あなたのいう「昔の護送船団の思想」か、ということです。アメリカでは、一九八〇年代のS&L(貯蓄貸付組合)の破たん処理に巨額の税金を使った苦い教訓を踏まえて、九一年に預金保険法を改正し、商業銀行の破たん処理への税金投入を禁止し、破たん処理に必要な費用は銀行業界の自己責任、自己負担でまかなうという原則を確立しました。この見地から目いっぱい保険料を引き上げたんです。ここにアメリカの金融政策の最新の到達点がある。これは「古い考え」ですか。「昔の護送船団方式」ですか。端的にお答えください。
蔵相 簡単に比べることができないと思いますのは、その際アメリカ政府が用意した金は二兆円です。それだけのものをもって、国庫が全損を覚悟してS&Lの処理をいたしました。しかも同時に、ことに大銀行においてそうでありますけれども、アメリカの税制では、不良債権と思われるものは、自由にバランスシートから消しまして、それを損金処分とすることができる。わが国ではそういうことを簡単に許しておりませんので、そのへんが、いろいろ制度が一緒じゃございません。(「共産党に(アメリカのことを)教えてもらうようじゃおしまいだな」の声)
志位 商業銀行の破たん処理に一ドルも税金を使わなかったというのは事実なんです、これは。S&L(処理)に(税金を)使った苦い教訓があって、その結果、もう商業銀行の破たん処理にはお金をつかわないようにしようと、連邦議会でさんざん議論して決めたわけです。
アメリカの財務省のリポートで『21世紀の金融業』という本があります(実物を示す)。私は興味深く読んだのですが、S&Lに税金をいれたことについて、「一三〇〇億ドルもの納税者負担を生じさせるという、大恐慌以降もっとも高くついた金融政策の失敗」といってます。大失敗をやった。だからもうこの轍(てつ)をくり返さないということで、商業銀行は税金を使わないで処理するという原則でやったんです。そのときにどういう議論がやられてるかというのを拝見してたいへん興味深かったことがあります。
これは、当時のアメリカの連邦議会の議事録です。九一年の法改正で商業銀行の破たん処理には税金使わないということを決めたFDIC(連邦預金保険公社)の法律の改正をやったときの議事録です。そこで、GAO(会計検査院)のバウシャー総裁が、銀行の保険料負担を引き上げることで、預金保険機構の財源をまかなうことの意義をこう力説しているのを、たいへん興味深いと思いました。
「特別保険料による預金保険機構の基金の拡充には、いくつかの明確な長所がある。それは、資本市場から好意的反応を受け、銀行経営者が自分たちの直面する問題に立ち向かうように促し、監督官が適切な時期に破たん銀行を閉鎖して、処理費用を軽減するよう要求する動機を業界に与える」。
つまり、銀行業界の自己責任での解決という原則を打ち立ててこそ、業界が不良債権の問題を本気で解決するようになる。不良債権(処理)のコストを業界が負担しなければならないという原則になれば、かりに、不良銀行が生まれたときは、業界でかばいあいをやらないで、”金融村”のかばいあいをやらないで、適切な時期にそれを処分するよう銀行の自己規律がはたらく。そういう自己規律を確立するうえでも、銀行の自己負担原則は大事なんだ。これがアメリカの到達点なんです。これから学ぶべきです。
あなた方がやろうとしていることは逆です。とくに宮沢蔵相がやってきたことは超低金利政策、銀行の不良債権の無税償却、公的資金を使った株価の買い支え、三十兆円の銀行支援策、「住専」処理への税金投入――全部銀行を甘やかしてきた(「そうだ」の声)。銀行の自己責任をあいまいにしてきた。だからたいへんなモラル破たんが、いま、起こっているわけです。私はこの問題を正しく解決するうえでも、アメリカの先例に学んで、そういう「銀行甘やかし政策」をやめて、自己責任の原則によって、いわば「銀行を厳しくしつける」政策に、転換する必要があると思います。
こんなところに財政支出を使わないで、お金を使うんだったら、国民の暮らしにこそ使うべきだ。消費税の減税や社会保障の拡充に、大事な国民の血税を使うべきだということを、最後に主張し、私の質問にいたします。(拍手)
表A 政府の「減税」案の年間収入階級別(給与所得者)の増減税額(98年比)
ー印はマイナス
ケース(1) 12%定率(頭打ちなし)減税と最高税率引き下げを組み合わせた場合
(単位 万円)
減税額 | 98年比の増減税額 | |
300万円 | 0.0 | 0.0 |
400万円 | 1.4 | 9.1 |
500万円 | 2.4 | 9.5 |
600万円 | 3.7 | 8.7 |
700万円 | 5.4 | 7.2 |
800万円 | 7.6 | 5.0 |
900万円 | 10.6 | 1.9 |
1000万円 | 13.7 | ー1.2 |
1100万円 | 17.0 | ー4.5 |
1200万円 | 21.4 | ー8.9 |
1500万円 | 49.1 | ー36.6 |
2000万円 | 95.0 | ー82.6 |
3000万円 | 195.5 | ー183.1 |
4000万円 | 337.3 | ー324.9 |
5000万円 | 536.8 | ー524.4 |
ケース(2) 15%定率(頭打ちなし)減税と最高税率引き下げを組み合わせた場合
(単位 万円)
減税額 | 98年比の増減税額 | |
300万円 | 0.0 | 0.0 |
400万円 | 1.8 | 8.7 |
500万円 | 3.0 | 8.9 |
600万円 | 4.6 | 7.8 |
700万円 | 6.8 | 5.8 |
800万円 | 9.5 | 3.1 |
900万円 | 13.2 | ー0.67 |
1000万円 | 17.1 | ー4.6 |
1100万円 | 21.2 | ー8.7 |
1200万円 | 26.4 | ー13.9 |
1500万円 | 51.5 | ー39.1 |
2000万円 | 74.9 | ー62.5 |
3000万円 | 122.4 | ー110.0 |
4000万円 | 207.2 | ー194.8 |
5000万円 | 349.7 | ー337.3 |
(単位 万円)
減税額 | 98年比の増減税額 | |
300万円 | 0.0 | 0.0 |
400万円 | 2.4 | 8.1 |
500万円 | 4.0 | 7.9 |
600万円 | 6.1 | 6.2 |
700万円 | 9.1 | 3.5 |
800万円 | 12.6 | 0.0 |
900万円 | 16.9 | ー4.3 |
1000万円 | 20.3 | ー7.8 |
1100万円 | 22.4 | ー9.9 |
1200万円 | 23.6 | ー11.1 |
1500万円 | 38.9 | ー26.5 |
2000万円 | 62.3 | ー49.9 |
3000万円 | 109.8 | ー97.4 |
4000万円 | 194.6 | ー182.2 |
5000万円 | 337.1 | ー324.7 |
表B 98年特別減税と日本共産党の減税案の年間収入階級別皮革(給与所得者) |
減税額 |
98年特別減税額(1)
|
日本共産党の減税案(2) | うち所得・住民税減税 | 差引減税額 (2ー1) |
|
300万円 | 0.0 |
4.6
|
0.0 | 4.6 | 4.6 |
400万円 | 10.4 |
10.7
|
5.1 | 5.6 | 0.3 |
500万円 | 11.8 |
11.9
|
5.8 | 6.1 | 0.1 |
600万円 | 12.3 |
13.7
|
7.0 | 6.7 | 1.4 |
700万円 | 12.6 |
15.0
|
7.5 | 7.5 | 2.4 |
800万円 | 12.6 |
17.5
|
8.9 | 8.6 | 4.9 |
900万円 | 12.5 |
21.9
|
12.4 | 9.5 | 9.4 |
1000万円 | 12.5 |
22.7
|
12.4 | 10.3 | 10.2 |
1100万円 | 12.4 |
22.9
|
12.3 | 10.6 | 10.5 |
1200万円 | 12.4 |
24.7
|
13.6 | 11.1 | 12.3 |
1500万円 | 12.4 |
30.9
|
18.5 | 12.4 | 18.5 |
2000万円 | 12.4 |
33.7
|
18.4 | 15.3 | 21.3 |
3000万円 | 12.4 |
46.3
|
23.3 | 23.0 | 33.9 |
4000万円 | 12.4 |
58.9
|
28.3 | 30.6 | 46.5 |
5000万円 | 12.4 |
66.5
|
28.2 | 38.3 | 54.1 |
(注)
(1)政府の「減税」方式については、総額4兆円の所得減税のうち最高税率の引き下げによる減税額が6000億円から1兆円の範囲内と想定されていることから、3兆円を相当超える額を定率減税にあてると仮定。15%定率、20%定率については「頭打ち」を20万円から30万円程度として試算した。
(2)日本共産党の減税案は、消費税を3%にもどすことと、人的控除の引き上げによる庶民に手厚い恒久減税からなる7兆円規模の減税。人的控除の引き上げは、基礎・配偶者・扶養控除を、所得税で14万円引き上げ52万円に、住民税で7万円引き上げて40万円にする。
(3)所得税(減税)の年収階級別の税額試算にあたっては、いわゆる「標準世帯」ではなく、国税庁の「民間給与の実態」(96年分)のデータから、配偶者控除のある納税者の扶養人員の平均値を求め、これを特別減税や人的控除の引き上げによる減税額の算出に使用した。これは、片働き4人家族(うち子どもの1人は高校〜大学生)という「標準世帯」モデルが必ずしも実態を反映していないからである。なお年収1200万円までは配偶者特別控除(38万円)がされることと仮定した。
(4)消費税減税による税負担軽減額の試算にあたっては、総務庁の「家計調査」(97年分)の「年間収入階級別(勤労者世帯)」の統計表を利用して算出した。