1998年2月28日「しんぶん赤旗」

志位和夫書記局長の総括質問(下)


日本共産党の志位和夫書記局長が二十五日の衆院予算委員会でおこなった総括質疑のうち、、社会保障、「基地国家」の部分(大要)を紹介します。


社会保障

「2兆円もの保険料をとって介護の保障なし──こういうやり方が、国民の将来不安をもたらしている」(志位氏)

生活をきりつめてまで貯蓄に回しているのはなぜか

 志位 つぎの問題として、先ほど将来の不安ということがいわれました。総理も高齢化社会のためだといわれました。私は、九兆円負担増の問題とともに、消費の落ち込みの構造的な要因について、総理とさらに突っ込んで議論してみたいと思います。

 この間の国民の貯蓄率、すなわち可処分所得に占める貯蓄純増の割合の推移をみてみますと、比較が可能な四〜十二月期でみて、九五年度が二一・三%、九六年度が二一・五%にたいして、九七年度は二二・九%と引き上がりました。九兆円の負担増をかぶせた年度に貯蓄率が引き上がった。収入を消費に回さずに貯蓄に回す傾向が強まった。このことが消費不況をいっそう加速するものとなりました。

 いま国民が生活を切り詰めてまで貯蓄に回している。超低金利政策で金利がほとんどつかないのに貯蓄に回している。しかも金融不安のなかでも銀行に預金を預けている。総理、これはいったいどうしてだと考えますか。

 首相 これにはいろいろな理論も組み立てられるでありましょうけれども、基本的にあるもの、それはやはり少子高齢社会においてみずからの老後にたいする一つの自衛という気持ちが確実に存在すると思います。同時に、いまいわれましたような数字は、なお国民が金融システムの安定化というものを通じ、預金の完全な保護という政府の約束を信じてくださっている証左でもあると思います。

目標を達成しても8万人もの 特養ホームの待機者が

 志位 高齢化にそなえて国民が自衛のためにそういう手段をとっているということをおっしゃいました。自己防衛のためにほんとに生活を切り詰めてまで貯金をしなければならない。そういう社会、そういう政治、この責任はいったい何なのかと問わざるをえません。それは、社会保障をみましても、医療でも、年金でも、介護でも、負担増だけを押しつけられてそれに見合う給付の保障がない。そのことが消費を委縮させ、貯蓄による自己防衛に、総理のいう自衛に向かわしているわけであります。

 私は具体的な問題を取り上げてみたいと思うんですが、たとえば介護の問題であります。二〇〇〇年四月から介護保険がスタートいたします。しかし「保険あって介護なし」になるのではないか、この不安が迫ってきております。

 これではっきりしているのは、国民負担の重さからいって”第二の消費税”になるということであります。実施初年度の二〇〇〇年度で国民の負担額は約二兆円、十年後には五兆円を超えるといわれております。

 ところが介護サービスのほうはどうか。二〇〇〇年三月末までの「新ゴールドプラン」というのがありますが、この目標を引き上げる計画はない。これは政府のこの間の見解であります。それでは私は、介護需要に追いつかなくなることは明りょうだと思います。

 たとえば、特別養護老人ホームの目標は、「新ゴールドプラン」では二十九万人でありますが、これではとうてい足らなくなる。二月十八日から十九日にかけて、日本共産党の国会議員団として全国の都道府県に直接問いあわせて、特別養護老人ホームの待機者のみなさんの数をおききいたしました。特別養護老人ホームの待機者の数は、全国で十万一千二百三十四人という結果でありました。都道府県が責任をもって集計している数であります。現在の特養ホームの定数は、二十七万一千七百四十人であります。これをたしますと、待機者を解消するためには、三十七万人を超える特養ホームの整備が必要ということになります。「新ゴールドプラン」は、二十九万人ですから、その目標では、それを達成したとしても八万人もの方が入所できないという事態が生ずるわけであります。

 私は、ここで総理に考えていただきたいことがある。だいたい、「新ゴールドプラン」というのは、九四年十一月の税制改定で、消費税率の三%から五%へ引き上げたことをうけて、その一部をあてるという名目で、九四年十二月に従来の「ゴールドプラン」の目標を引き上げて策定されたものです。つまり、消費税五%にしたときに、その一部を使って目標を引き上げるというのが、みなさんの大義名分でした。

 ところが、介護保険というのは、その後もちあがった話ではありませんか。「新ゴールドプラン」というのは、介護保険の導入を前提とした目標になっていないんです。介護保険の導入で新たな負担を国民からもとめるというのならば、それに見合った新たな給付充実をはかる。「新ゴールドプラン」の目標の全面見直しをやるのが、当たり前ではありませんか。

 保険制度を導入する以上、加入者全員に必要なサービスを提供するのは、保険契約の基本であります。ところが、その保障がないという現状がある以上、さっきの特養ホームの待機者のみなさんの実態もそうでありますが、そういう現状がある以上、この目標は、実施までまだ二年余りあるわけですから、見直すのが当たり前ではないか。

 大きな政策判断ですから、総理にうかがいたいのですが、保険料を新たに二兆円も取るけど、目標はそのままだ、(特養ホームの)待機者が(介護保険導入の時点で)八万人でるかもしれない。八万人の方が、介護保険の導入でも(特養ホームに)はいれない事態が起こるかもしれない。こういうようなやり方が、まさに国民の将来への不安をもたらしている、社会保障への不信をつくっている、こうお考えにはなりませんか。

 小泉厚相 介護保険の問題は、昨年一年間、いまいった議論は国会の委員会でもさかんに議論されたところであります。二〇〇〇年度導入を目途に、ようやく昨年導入させていただきました。

 そのなかで、いちばんのご指摘は、「保険あってサービスなし」がないように十分な介護基盤整備をしていこう。施設と在宅サービスをいかに調整しながらやっていくか。在宅でできるだけ自立を助けるサービスをどのように提供するかであります。いま、施設のほうをいわれましたが、できるだけ在宅で、訪問看護員とかホームヘルパーとか、あるいは日帰りで、介護サービスを受けられる施設を増設していく。そして保険者には、介護サービスを受けるさいに、一割負担していただくが、いちばん問題になったのは、税でやるか保険でやるかです。自由民主党はじめ、賛成した政党の方がたは、やはり保険になじむ、全部税金では無理だ。税金半分、保険料半分、そして利用者には一割負担していただこうということで成立したわけです。目標達成に、今後二〇〇〇年導入までに努力していく。「保険あってサービスなし」のような体制はとらない。そのために全力をあげ、基盤整備をすすめ、目標達成のために最大の努力をはかっていくし、導入して不備な点があったら、見直すのはやぶさかではございません。

全国市長会も”新たな需要増に対応して目標の見直しを”と要望

 志位 結局、(目標を)見直す意思はないということなんです。長ながといったけれども。

 しかし、いま見直さなければ、さきほど特養ホームの実態をのべましたけれども、八万人もの方がはいれないという事態が起こるのです。

 在宅重視といわれました。しかし在宅のほうだって、要介護者の四割のサービスの提供しか予定していないではありませんか。

 たとえば、ヘルパーさんの問題をとっても、全国の実態はたいへんですよ。だいたい、あなた方の計画は、常勤ヘルパーさんをふやさないで、非常勤主体というものです。しかし、常勤の方をうんとふやしていきませんと、介護サービスはゆき届きません。専門職として技術を身につけるというのは、常勤者をうんとふやしませんとできません。ニーズにもこたえられません。在宅のほうも遅れているんです。

 同時に、施設のほうは、特養ホーム一つとっても、整備が遅れているのは明りょうなのです。ですから、これをほうっておいていいのか。「二〇〇〇年に導入してから目標を見直します」では遅いんですよ。

 私はここに全国市長会の九七年十月二日の「介護保険制度に関する意見」【資料3】をもってまいりましたが、その要望の冒頭に掲げられているのはその問題です。「介護サービスの整備の基盤について」。読みあげたいと思いますが、「新ゴールドプランの達成さえ困難な都市自治体があるが、全国市長会としては、介護保険制度の円滑な運営のためには、新ゴールドプランにとどまらず、介護保険制度の導入に伴う需要増を考慮した介護サービス基盤の整備が必要であると考え、国に対しては、そのために必要となる財政措置等を講じるよう求めてきた。しかしながら、これまでの国の回答や明年度の概算要求においては、介護保険制度の導入時において新ゴールドプランの達成をめざすものとなっており、このような状況のまま介護保険制度を導入した場合、介護サービス供給体制が不足し、現場で混乱を生ずることが懸念される。これまでにも述べてきたように国においては、介護保険制度の導入による需要増を考慮した介護サービス基盤の整備のために必要な財政措置等を講じる必要がある」。

 つまり、介護保険という新しい制度を導入する。国民に負担をもとめる。そういう制度を導入したら、新たな需要が生まれる。当たり前ですよ。そのためにみんな期待するわけですから。ヘルパーさんだって、特養ホームの問題だって、保険料を納める以上、きちんとした給付が必要だ、みんな思いますよ。だから、その新たな需要増に対応して、「新ゴールドプラン」の目標を見直せと、全国市長会がいっているではありませんか。

 こんどは総理にうかがいたい。市長会のこういう要望、どう受けとめているのですか。

 (橋本首相が挙手するが小泉厚相が答弁しようとする。志位「委員長、首相がいま挙手されたのです。総理にきいています」)

 厚相 そのようなご意見は承知しております。しかし、既存の計画を実施までに着実に推進していく。その時点で見直すべき点は見直す。まずは既存の計画を着実に実施していくのがさきだと思います。

 志位 総理の答弁をもとめます。

 首相 いま小泉厚生大臣からもお答えしましたように、現在すすめております計画をまず仕上げること、それがいちばん大事なことではないでしょうか。

“(「新ゴールドプラン」の)目標を引き上げる考えはない”(首相、厚相)

保険料だけとって給付なしでは 契約違反

 志位 既存の目標では足りないということを、さきほど具体的な事実をあげていったわけです。しかも、あなた方がいっている既存の目標というのは、介護保険の導入を前提としていない目標ではないか。新たな負担をもとめながら給付のほうは引き上げない、これではまったく道理にあわない、このことを指摘したわけです。

 保険というのは、総理、かけたその日から給付があってはじめて契約になるんですよ。生命保険だって、かけたその日から、もし事故があったら給付がされます。保険の始まったその瞬間、二〇〇〇年四月に、保険が始まったのに給付がされない、こういう事態になったら、これはほんとうに国民は納得できないということになります。

 介護保険法の第二条では「介護保険は、被保険者の要介護状態又は要介護状態となるおそれがある状態に関し、必要な保険給付を行うものとする」。国に必要な給付をおこなうことを義務づけているのです。保険料だけとって給付ができない人があっては、これは契約違反になる。そう思いませんか。総理、どうですか。総理が挙手しているんですから、総理に答えさせて。

 首相 厚生大臣からきちんとご答弁をいたしますけれども、まず「高齢者保健福祉推進十カ年戦略」(新ゴールドプラン)をきちんとまとめあげる。それがどうしておしかりを受けるのでしょうか。高齢者保健福祉推進十カ年戦略をすすめていくこと、いままだそこに到達していない部分が現実にあります。それを現実のものにしようとして、厚生大臣が努力してくれております。

 志位 (厚相が答弁に立とうとする)総理がお答えになったからもう結構です。時間がありませんから、まだ大事な問題を抱えていますので。

 結局、いまの計画では間にあわないとこれだけいったのに、見直すという考えをいわない。

 私は結局、橋本内閣の「社会保障構造改革」というのは、国民に新しい負担をもとめるが、給付のほうは水準を引き上げない、むしろ悪化させていくというのもあります。介護だけではありません。医療についても三〜五割まで自己負担増、このメニューがいま押しつけられようとしています。年金は「逃げ水」のように負担増か給付減、この「五つのシナリオ」を押しつけようとしています。こういうやり方では、私は国民の将来の不安はつのるばかりだと思います。

 私たちは、高齢化社会に向けて、いまの財政構造のゆがみ、国と地方自治体で五十兆円ものお金を公共事業に使いながら、社会保障の公費負担は二十兆円にすぎない。こういう世界でも異常な構造をただしながら、大きな方向性をもって財源をつくりながら、ほんとうに国民のみなさんが二十一世紀に安心ができる、将来の生活に安心ができる日本をつくるために、大いに今後も政府にたいして必要な要求もし、議論もしていきたい、こう思います。

「基地国家」

低空飛行訓練ルートは米欧では公開されている。日本の非公開は異常

イラク問題──日本政府の態度 は世界の世論にそむくもの

 志位 つぎに対外問題についてうかがいます。

 この間、イラクの問題が起こりました。(「厚生大臣に答えさせてよ」の声)先ほどの総理の答弁で結構です。長ながとやられても同じことですから。つぎの問題にはいりたいと思います。もう結構です。なんども同じことを答えるだけですから。イラクの問題に移りたいと思います。

 イラクのこの間の大量破壊兵器の査察問題で緊張が続いておりましたが、二十二日にアナン国連事務総長とイラク政府との協議が合意に達し、平和的解決の道筋がつけられました。私たちは、これを歓迎するとともに、今後ともあくまで外交努力によって問題を解決することを強く要求します。

 今回の結果は、湾岸諸国もふくめて、国際世論の圧倒的多数が武力行使に反対し、平和的解決をもとめる声をあげたことによるものであります。この点で、アメリカと「すべての選択肢を共有する」として、最後まで武力行使反対といわなかった日本政府の態度は、世界の世論に逆らうものであったことを、まずきびしく指摘しておきたいと思います。

NLP──恐るべき騒音の訓練を、人口密集地でおこなう異常

 志位 日本にとってさらに重大な問題は、横須賀基地から空母インディペンデンスの戦闘部隊が、作戦主力部隊として湾岸に派遣されたことにしめされるように、日本列島がイラクの作戦にたいする出撃基地として利 用されたことであります。

 全国の米軍基地の実態をみますと、新「ガイドライン」のもとで、これまでにない基地機能の強化、米軍の横暴勝手がみられます。私はいくつかの問題で、基地問題について総理の見解をただしたいと思います。

 まずNLP――夜間離着陸訓練の問題です。厚木、横田、三沢、岩国の基地で、今年一月九日から昼夜を問わぬインディペンデンス艦載機の離着陸訓練が突如始まりました。イラクの作戦に備えて急きょ始めたもので、これまでにあった事前通告もない、規制時間をはるかにこえて真夜中の十二時までやる、土日もおこなうという、米軍の異常な横暴勝手ぶりに、地元住民と自治体の激しい抗議が集中いたしました。

 NLPというのは、総理もご存じだと思いますが、飛行場を空母の甲板に見立ててタッチ・アンド・ゴーの離着陸訓練を夜間におこなうというもので、恐るべき騒音の苦しみをもたらしております。私は、厚木基地周辺の住民の方に話をうかがいましたが、「内臓がえぐられるような苦しみ」ということをおっしゃった方もおられました。眠れない、話もできない、電話もかけられない、テレビもきこえない、食欲もなくなる、こういう声が寄せられていますが、この訓練がまともな市民生活とは両立しないことを痛感させられました。

 問題は、こういう訓練が厚木にしろ、横田にしろ、首都圏の人口密集地の上空でおこなわれているということであります。厚木基地についていえば、基地周辺の騒音指定地域の七十七平方キロメートル――このなかには、十三万四千世帯の人が住んでいる。人口にして三十万以上の人が騒音指定地域のなかに住んでいらっしゃるんです。総理にうかがいますが、こういう人口密集地の上空でNLPをおこなう、こういうこと自体が異常な事 態だという認識はあります か。

 久間防衛庁長官 厚木におけるNLPの訓練をできるだけ減らすようにやっているわけでございますけれど、全部を硫黄島にもっていくわけにもいきません。それでもやはり従来から防衛施設の安定的使用には地元の理解と協力が不可欠であるということで、このような急に、しかも夜間におこなうことのないように、従来からやってきていたわけでございますけれども、今回、急な運用上の都合ということで実施されたと承知しておりますけれども、はなはだ当庁としても遺憾だと考えておるところでございます。

 したがいまして、コーエン米国防長官がみえました一月二十日に、ワーキングディナーにおいても、私のほうからコーエン国防長官にたいしまして、「今後こういうような訓練がおこなわれないことが望ましい」ということを強く要望いたしました。同長官からも遺憾の意が率直にのべられたものでございます。 アメリカの訓練場は厚木基地の20倍の広さ基地のまわりにも民家はほとんどない

 志位 今度の事態については、さすがに政府もあまりに異常だということで抗議されたということですが、私がきいたのは、硫黄島に一部移したといわれましたけれども、いまなおNLPは、厚木でやっているわけですね。人口密集地の上空でやっていいのか、異常だと思わないのかという認識の問題でした。

 私は、アメリカの本土でNLPがどのようにおこなわれているかを調べてみました。米海軍は、(アメリカ)西海岸でサンディエゴという都市を空母機動部隊の母港としております。この空母艦載機は、ミラマーという基地でNLPをおこなっております。

 (パネルEをしめす)これは、もう一つのパネルでありますが、この右側のほうがミラマー基地の広さです。九七・一平方キロメートルという広大な基地です。それで左側の小さな赤い部分が厚木基地の大きさですが、五・一平方キロメートル。厚木基地のだいたい二十倍もの広さの基地でNLPをやっている。厚木基地の騒音指定区域の面積はこの青い部分ですが、七七・〇平方キロメートルですから、この騒音地域がミラマー基地のなかにすっぽりはいってしまう。それぐらいのものすごく広大な基地でやっています。しかも、この基地の周りにも民家はほとんどなく、だいたい空き地がほとんどです。こういう状態なんですね。

 アメリカのNLPの実態を、ほかの基地も調べてみましたが、厚木のように大都市の密集しているところでNLPをやっているという事態はありません。これは、やはりアメリカ本土でもNLPという訓練は市民生活と両立しないという認識があるからですよ。市民のまともな生活、平和な生活と、この訓練はどうしたって両立しない、こういう認識があるからこそ、広大な、人っ子ひとりいないような山と平原の基地ではやるけれども、日本の厚木のようなところでやっているところはない。これはやはり、この訓練がいかに非人道的かをしめすものです。

 私、総理にうかがいたいんですが、さっき、認識をうかがいました。こういう訓練を、住宅地の人口密集地の上空でやるのは異常だと考えませんか。総理。

 防衛庁長官 厚木の上空でやるのをできるだけなくそうと思って三宅島に計画したことがございます。しかしながら、なかなか三宅島がうまく進みませんので硫黄島でやっているわけですけれども、硫黄島でやる場合には、気象条件とか、あるいはまた非常に遠隔であるというようなことがございまして、とくに、ご承知のとおりNLPをやるには、出艦のまえに訓練をしなければならない、そういう急を要する場合にどうしてもやらなければならないわけでございまして、そういう意味では横須賀を母港にしておりますと、その近くでやらざるをえないという状況でございます。したがいまして、私どもとしては、極力これからさきも硫黄島でやる、願わくば、地元の合意をえながら、三宅島等に移すことができれば、厚木の問題についても解決できると期待しているわけでして、おっしゃるような趣旨はよく理解しているところでございます。

 志位 おっしゃる趣旨はよく理解しているということでしたが、こういう人口密集地でやることが異常だということをはっきりお認めになるべきですよ。硫黄島に移したといいますけれど、厚木基地のNLPの回数は減ったとはいえ、まだやっているわけですからね。そしてあなたは米軍の急な運用上の必要といいましたけれども、アメリカがイラク(攻撃)のために急いでやるというときには、もう好き勝手にやるわけですからね。こういう状態は、私は、こういう異常な訓練はきっぱり中止すべきだと思います。

外相は答弁不能。

「ご指摘を含めて米側と話し合う」(外務省北米局長)

低空飛行訓練──日本で飛行ルートさえ明かさないのはどうしてか

 志位 もう一つおききしたいのは、米軍機による低空飛行訓練の問題であります。

 先日、イタリアのスキー・リゾート地で、米軍機の低空飛行訓練によってロープウエーが切断され、ゴンドラが落下して多くの犠牲者がでる痛ましい事件が起こりました。日本もひとごとではありません。全国各地で米軍機が山あいをぬい、峰をかすめるようにして傍若無人な訓練をやっております。

 九四年十月には、高知県の早明浦ダム(の上流)で墜落事故も起こりました。私も現地調査にいきましたが、事故現場の村長さんが、「墜落地点のすぐそばに保育園や中学校があった。あわやというところで大惨事になるところだった。こんな恐ろしい訓練はやめさせてほしい」と訴えられていたことを忘れられません。

 この低空訓練の異常さは、さまざまあげられますが、私がとくにただしたいのは、日本ではどういう飛行ルートでおこなわれているのかさえ、国民に明らかにされていないということであります。

 私は、この質問に先立って、低空訓練の飛行ルートを明らかにするように三つの省庁に要求しました。回答文【資料4】がここにありますが、運輸省は「把握する立場にない」というお答えでした。防衛施設庁は、「所管事項ではない」というお答えでした。外務省からはこういうお答えがありました。「ルートがあることは承知しているが、米軍の運用にかかわる問題なので、詳細は承知していない」。こういうお答えでした。外務大臣にうかがいます。低空飛行訓練ルートは明らかにしないというのが米軍の方針ですか。だから知らないんですか。外務大臣、どうですか。

 高野紀元外務省北米局長 米軍はわが国に安保条約にもとづいて駐留しております。そのために必要な種々の訓練をおこなうことは、当然、安保条約あるいは地位協定上、認められているわけでございます。その関連で低空飛行訓練ですが、わが国の航空法等を十分尊重しつつ、これをおこなってきているという経過がございまして、現在もそういう実態はございます。

 志位 ルートは、ルートは。

 北米局長 個々の飛行訓練をおこなうさいのルートにつきましては、米軍は、その地形、飛行の安全の確認等を考えながら随時決定しているというふうに承知していますが、具体的には米軍側の運用でございますので、明らかにできないということでございます。

 志位 公開しないというのが米軍の方針ですか。

 北米局長 はい、そのとおりでございます。

アメリカではカタログ販売で自由に手に入る

 志位 「公開しないというのが米軍の方針だ」というご答弁でありました。航空法を尊重しているといわれたので、一言いっておきますが、日本の航空法では、住宅密集地の上空では最低高度三百メートル、そうでないところでも百五十メートルという規定がありますが、米軍機については守らなくていいという特例法があって、実際に尊重していないという事実を、私はたくさん知っています。早明浦ダムに調査にいったときも、「自分の家より低い谷間を飛んでいる」と、多くの方がたが証言していたように、全然航空法を尊重していません。そういうことを一言いっておきますが、ともかく米軍は、航空ルートを公表しないというのが方針だというご答弁でした。

 アメリカ本土はどうなっているか。アメリカ国内では、低空飛行訓練の空域およびルートは地図化されることになっております。(実物をしめしながら)これは、インターネットから入手した米空軍の「ファクト・シート」(資料(5))――公開資料でありますが、ここでは「高速低高度訓練活動は制限された、地図に記載された空域のなかでのみ実施される」とはっきり明記しています。「地図に記載された空域」、ルートはそこにあると。

 実際に、訓練ルートの地図は全部公開されていますよ。(実物をしめしながら)これは、アメリカの国防総省地図局が発行している航空ルート地図のカタログ(資料(6))です。アメリカでは、低空飛行訓練の飛行ルートの地図は、カタログ販売でだれでも買いもとめることができます(笑い)。国防総省が作って、商務省が販売しているのです。私は実際に買ってまいりました。

 (実物をしめしながら)これがその写しでありますが、ご覧になっていただきたい。これは、国防総省地図局空域センターが発行しているものでありますが、詳細に軍事訓練ルートの地図(資料(7)・4面に掲載)が全部でていますよ。赤、青、黒とでていますが、赤い部分は計器飛行のルート、青い部分は有視界飛行のルート、そして黒の部分が低空飛行のルートなんです。

 (地図の一つをしめしながら)これは、たとえばカリフォルニアの地図でありますが、この地図ではコロラド川の流域に低空飛行のルートがあることがはっきりわかります。

 それから、(別の地図をしめしながら)これはネバダの地図でありますが、ネバダでは、こういう黒い大きな低空飛行のルートがはっきり刻まれています。アメリカ国内では全部手にはいるのです。

 なぜアメリカ軍がこれを公開しているかといえば、低空飛行訓練がきわめて危険な訓練だからです。ひじょうに危険な訓練だからです。環境との関係でも、航空安全の面からも、公開が不可欠だと、アメリカでは判断されているから、米軍は全部アメリカではだしているんですよ。カタログ販売で手にはいるのです。これを日本ではださない、日本ではださないのが米軍の方針だといった。アメリカではだすのが米軍の方針なのです。いったいどうなっているのか。いったいいかなる理由で、日本ではアメリカでも公開しているルートを公開できないのか、はっきり答えてください。

 北米局長 米軍が米国内の航空ルートについて米国内で発表しているものについて、突然のおたずねですが、(それは)確認させていただきたいのですが、私どもがこの問題について、従来いろんな問題で話しあってきております。今回もイタリアの重大な事故が発生しておりますので、その事実確認、原因調査等について、私どものほうから早期にこれを明らかにするように申し入れております。

 そういうなかで、私どもと米側の話しあいのなかでは、日本国内においては、地元住民の安全面の配慮、飛行訓練の所要等を随時確認しながらルートを決定しているということで、固定したルートというものはないと理解しています。

 志位 「固定したルートはない」ということでしたけれども、アメリカではルートは変更することはあるから、地図を八週間に一回更新しているんですよ(笑い)。アメリカではそうやって公開しているのです。「安全性に配慮してやっている」といいますけれども、安全性のためにもルートの公開ぐらい当たり前ではありませんか。

 いまイタリアのことをいわれました。(実物をしめしながら)これは、「インターナショナル・ヘラルド・トリビューン」【資料8】の報道でありますが、イタリアではなにが問題になっているか、ご存じでしょうか。イタリアでも低空飛行のルートは全部明らかになっている。明らかになっているうえで、そのルート図にロープウエーのケーブルが記載されていたかどうかが争いになっているんですよ。

 アメリカだけではありません。低空飛行のルートはヨーロッパでも明らかにされています。さっきいったカタログ、アメリカの国防総省のカタログをみますと、ヨーロッパ地域、北アフリカ地域、中東地域、この低空飛行の地図もカタログ販売で全部売っています。ほんとうに日本だけ公開さえしていない。

 これは総理にうかがいたい。私たちは、低空飛行訓練は危険な訓練であり、きっぱり中止をもとめるものでありますけれども、まず(飛行ルートの)公開ぐらいアメリカにもとめるつもりはありませんか。

 北米局長 イタリーの事故にかんしては、その事実関係、事故原因等について、米側に説明をもとめるよう要求しています。日本における低空飛行の問題については、今回の事故をふまえ、私どもとしてなにができるか、米側と話しあっていきたいということはすでにアメリカ側と話しあいをしています。いまの先生のご指摘を含めまして、今後のアメリカ側との話しあいをしていきたいと思います。

 志位 総理に一言だけ。いま「含めまして」という答弁がありました。では、この問題を検討しますね。総理、「含めまして」といいました。(「局長のいったとおり」という者あり)

 北米局長 今回のイタリーの事故をふまえ、日本側としてもアメリカ側とこの問題について、安全問題について、どういうことができるか、話しあいたいと考えています。

「基地国家」の現状に21世紀まで甘んじるわけにいかない

 志位 「(指摘を)含めまして」ということをいわれましたので、私たちは、この問題について危険な訓練の中止を要求するけれども、この(飛行ルートの)公開という問題、最小限の要求中の最小限のことですから、きちっとした対応をもとめたい。

 NLPといい、低空飛行訓練といい、日本の米軍基地の実態というのは、まさに植民地的といえるような実態です。(沖縄県の)名護の問題は時間がなくなって、おききすることができなくなりましたが、沖縄の基地についても、名護での住民投票のああいう結果がでて、大田知事もきっぱり(海上基地建設の)受け入れは拒否というのならば、これは無条件で撤去の交渉をするのが当たり前です。

 アメリカにたいしてものがいえない、そんな「基地国家」の現状に二十一世紀まで甘んじるわけにはいかない。私は、安保条約をなくし、基地のない日本をめざすという決意を申しあげまして、質問を終わります。

【資料5】 米空軍の低空飛行訓練にかんする「ファクト・シート」。米国内では「高速低高度訓練活動は制限された、地図に記載された空域のなかでのみ実施される」(下線部分)と明記しています

【資料6】 アメリカ国防総省地図局が発行した航空ルート地図のカタログ(表紙)と地図の注文票。クレジットカードで、だれでも購入できます

【資料7】  低空飛行訓練を含めた軍事訓練ルートを示した米国防総省国防地図局空域センター作成の地図。

 (1)「空域計画AP/1B図 軍事訓練ルート―合衆国西部」のタイトルが入ったもの

 (2)ネバダ州部分、

(3)カリフォルニア州部分

 (4)はルートの見方を説明したもの。「計器飛行軍事訓練ルート(IFR)」は赤線、「有視界軍事訓練ルート(VFR)」は青線、「低速低高度訓練ルート(SR)」は黒線で示されています。また、起点はIR、転換点はBなどと記されています。



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