1997年10月8日「しんぶん赤旗」

衆院予算委 志位書記局長の総括質問 (要旨)

政治倫理の感覚マヒしたまま国民には危険と負担押しつけ


 7日の衆院予算委員会総括質問。日本共産党の志位和夫書記局長の気迫の追及が議場に響きました。政治倫理、社会保障と財政再建、新「ガイドライン」問題での追及で浮かびあがったものは――。


佐藤氏起用、泉井疑惑

志位氏 「問われているのは総理自身の政治倫理」

首相 「反省」「おわび」だけの逃げ口上

 「問われているのはなによりも総理自身の政治倫理観だ」――志位氏は、佐藤孝行氏の総務庁長官任命問題で、橋本首相の政治倫理の「感覚まひ」を厳しく追及しました。

 志位氏は、橋本首相が、「過ちを一度犯した人はそのレッテルを一生背負わなければならないのか」「私なりに考えに考えぬいた結論としてこの道を選んだ」などと、収賄という権力犯罪を犯しながら無反省な佐藤氏を「確信」をもって起用したことを指摘。「あなたはこの倫理観が根本から間違っていたと認めるか」と追及しました。

 首相は、「高い倫理性を求める世論の重みに十分思いをいたさなかった」と従来通りの答弁をくりかえし、「永田町の論理におぼれた点を反省する」などとして「おわび」を口にするだけでした。

 志位氏は「『永田町の論理』は間違っているのか」、「国民の求める『高い倫理性』に照らせば、佐藤氏の任命は誤りではなかったのか」とたたみかけましたが、首相はどれにもまともに答えられず、責任逃れの答弁に終始しました。

 志位 国民が求めた「高い倫理性」とは、「収賄罪を犯したものは閣僚につけてはならない」という、国民にとっては常識、最低限の倫理だ。これに照らして、佐藤氏の任命は誤りだったと認めるのか

 橋本首相 与党3党の確認にもとづき、政治倫理の確立に向け努力している

 志位 「二度のチャンスが与えられていい」という政治倫理観の誤り、「高い倫理性に照らせば任命は許されない」という問題、首相自身がその「倫理性」を受け入れるのかという問題、このすべてに答えない。これは総理の資質にかかわる問題で、本質的な反省がなければ同じことがくりかえされる。こういう政治であってはならない。

泉井・山崎喚問でも逃げ口上

 志位氏がこのように指摘した政治倫理への感覚まひは、泉井疑惑解明への対応でも鮮明になりました。

 泉井事件で、石油業界から泉井被告に流れた金は64億円、そのうち20億円が政・官界にばらまかれました。 志位氏は、「この問題の解明は司直まかせ、個々の政治家まかせではすまない。政治があげて解明すべき問題だ」と強調。泉井被告、山崎氏らの証人喚問について、「『努力する』とか、『国会が決めること』という逃げ口上は許されない。自民党総裁であるあなたが決断すれば、すぐにも実現することではないか」と迫りました。

 ところが、橋本首相は「適切な場で、政治家みずからの判断で明らかにされるべきものだ」と、まさに「逃げ口上」を口にするだけでした。

 志位氏は、「疑惑解明のための責任を果たそうとしない姿勢だ」と批判し、「佐藤問題、泉井問題の全体を通して、政治倫理の感覚がまひしているのではないか。政治不信の解消のためにも、一刻も早い証人喚問の実現を求める」と要求しました。

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社会保障と財政再建

志位氏 「医療負担増で外来患者激減 まさに寿命を削る状態だ」

厚相 調査もせず“抑制と思わない”

昨年同時期比 6.2%減の調査

 消費税増税と特別減税打ち切りに加え、9月から実施された2兆円規模の医療費負担増。全日本民主医療機関連合会(民医連)の全国調査では、9月の受診数は昨年同時期にくらべ6・2%減りました。全国の外来患者総数は1日平均785万人のうち、約50万人が減ったことになります。

 志位氏は「先日、東京の大田病院にうかがい、実態をつぶさにお聞きしたが、事態は大変深刻だ」とのべ、糖尿病を悪化させないために必要なインシュリンの自己注射の負担が健保本人の平均で月3000円から7000円に増加、高額なケースでは1万5千円近くになっていることを紹介。「『もう注射は続けられない』という患者さんが次つぎ出ている。まさに寿命を削る実態になっている」とのべ、橋本首相の見解をただしました。

 首相は答弁を避け、小泉厚相が「今後調査はするが、必要な医療が抑制されているとは思っていない」と答弁。志位氏は「これから調べるということで、実態をつかまないで必要な医療が抑制されていないとどうしていえるのか。国民が陥っている痛みに思いを寄せて、きちんとした調査をすべきだ」と要求しました。

 志位氏は、今回の負担増が第一歩にすぎず、高齢者の医療費負担増や難病患者への医療費自己負担導入を含め連続的な負担増を検討していると告発。財政再建は公共事業や高薬価などの浪費削減によって進めるべきで、国民が本当に必要とする社会保障・医療を削るのは財政再建でなく逆立ちした考え方だと批判しました。

 志位氏は「首相のそもそもの認識をうかがいたい」として、「日本の社会保障の給付水準は、高すぎて真っ先に抑制の対象にあげなければならないものなのか」とただしました。

 厚生省の社会保障研究所の国際比較によると、日本の社会保障給付費の水準(国民所得に占める割合)はアメリカ、イギリス、ドイツ、フランスのどの国よりも低く4割から7割5分程度です。

 志位氏の指摘に、橋本首相は、国民経済計算の一般政府ベースの社会保障移転のGDP(国内総生産)比では日本12・7%、アメリカ12・8%、イギリス15・4%で「そん色のない水準」と答えました。志位氏は、首相の示した資料でもドイツ18・2%、フランス23・3%であること、イギリスでは病院の医師は公務員となり、その人件費は社会保障移転に含まれないため不当に低い数字になることを指摘。「そん色ないとは到底いえない」と批判しました。

欧米水準なら19兆円以上増

 また欧米では、国民が払う税金と社会保障負担(保険料など)のうち53・4〜59・0%が社会保障給付費として返ってきますが、日本は39・9%。「負担にふさわしい給付が返ってこない」(志位氏)のです。欧米並みの水準にすれば、いまの負担のままでも19〜27兆円も社会保障給付費を増やせるはずです。

 志位氏は「この金はどこに消えたのか。ここには日本の財政の深刻なゆがみが反映している。一番の根本は公共事業だ」と強調。公共事業費に約50兆円、社会保障の公費負担20兆円という、「世界にない、公共事業が社会保障を食いつぶす」異常な財政構造こそ、ただすべきだと迫りました。

 志位氏は、橋本内閣が今国会での成立を狙う「財政構造改革」法にそって試算すると、2003年度になっても公共投資は46・8兆円、社会保障公費負担は24・6兆円と、財政構造の異常なゆがみはただされないことを明らかにしました。そして「財政再建というなら、ここに思い切ったメスを入れ、ゆがんだ仕組みをただすことを強く求めたい」と強調しました。

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新「ガイドライン」

志位氏 「アメリカの武力行使に批判的態度とったことあるか」

首相 「反対したことない」と認める

「中台紛争」へ介入の危険も

 志位氏の質問で、新「ガイドライン」の危険性がまざまざと浮かびあがりました。

 第一は、「周辺事態」が「地理的概念ではない」ということは、地理的に無限定であるということであり、アメリカが「台湾防衛のため」としての軍事干渉をしたら、日本が参戦する危険があるということです。

 新「ガイドライン」は、米軍が「周辺事態」で武力行使に踏み切った場合、「日本は、日米安全保障条約の目的のため活動する米軍に対して、後方地域支援をおこなう」としています。

 志位氏はまず、第六条でいう「極東」の範囲に関する従来の統一見解(フィリピン以北ならびに日本およびその周辺の地域であって韓国および台湾もこれにふくまれる)に変更はないかと質問。首相は「『極東』の定義は、従来から変えていない」と認めました。

 志位氏は、「そうすると『台湾防衛』で活動する米軍は『安保条約の目的達成のために活動』するということになる」と指摘。「新『ガイドライン』のしくみでは、台湾地域の『平和と安全』のためという名目で米軍が活動をはじめたら、日本は『後方地域支援』をおこなうことになる」と追及しました。

 政府が「仮定の状況について申し上げることは困難」(外務省の北米局長)とのべたことにたいして、志位氏は、「仮定の問題ではない」と指摘。(1)アメリカは「台湾関係法」で軍事行動を含めた援助をみずからに義務づけていること、(2)96年3月、台湾の総統選挙にたいして中国が軍事威嚇をおこなった際、米国は空母2隻などを台湾近海に投入し、日本の協力を期待したこと、(3)台湾危機の際、中国と台湾の武力衝突を想定して、首相官邸の指示で防衛庁が広範な米軍支援の研究をおこなった事実(「東京」7月27日付)などを具体的にあげました。

 そして、首相が先の中国訪問でも「台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であるという中国の立場を理解する」とのべたことをあげ、「一つの中国」という立場をとる以上、かりにアメリカが「台湾防衛」のために軍事力を発動し、それに日本が協力すれば、日本も中国の内政問題に介入することになり、「各国の主権と独立にそむく無法行為になる」と追及。「日本は協力を拒否するといいきれるか」と迫りました。

 首相は「『周辺事態』の判断は、日米両政府が主体的におこなう」とのべるだけで、協力を拒否するとは明言しませんでした。

 志位氏は「拒否するといえなかったところに大問題がある。『周辺事態』が地理的に無限定ということは、どこでも発動の対象となりうるということだ」と批判しました。

自動参戦の体制浮き彫り

 第二に明らかになったのは「アメリカの武力行使が国際法に違反していようと、国連決議で非難されようと、新『ガイドライン』が発動される」(志位氏)ことです。

 国連憲章は、各国の武力行使を一般的に禁止し、唯一の例外として「国連加盟国に対して武力攻撃が発生した場合」、つまり武力侵略がおこなわれた場合の自衛反撃をあげています。

 ところが、アメリカは「米国が軍事力を行使することがあるケース」として「経済利益にかかわる場合」や、「将来受ける脅威に対する予防措置」まであげています(1996年『国防報告』)。

 志位氏は「これらは武力侵略にたいする自衛反撃ではなく国際法違反だ。こういう性格の武力行使をアメリカがやった場合でも協力の対象になるのか」と追及しました。

 首相は「国際法上違法な武力行使にたいしては日本政府は一貫して反対する基本政策をもっている」とのべるだけで、協力の対象にならないとは明言しませんでした。

 つづけて志位氏は、アメリカが、1997年『国防報告』で、国連総会がアメリカの行動を侵略・干渉行為として糾弾する非難決議をあげているグレナダ侵略を「地域的安定をもたらすため」、パナマ侵略を「民主主義を増進させるため」と軍事戦略の“手本”にしていることを指摘。

 「米軍が国連総会で非難決議がされるような武力行使をおこなった際も、日本は協力するのか。パナマやグレナダのような場合にも協力するのか」と迫りました。

 首相は、「国際法上違法な武力行使には一貫して日本は反対してきた」と繰り返すだけで協力しないとはいいませんでした。 志位氏は「戦後、アメリカが世界各地でおこなった武力行使のなかで、日本がそれに批判的立場をとったケースが1回でもあったか。あったとすれば、それを具体的に示せ」と追及。

 首相は「第二次世界大戦後、わが国が国連に加盟して以来、米国による武力行使にたいし国際法上違法な武力行使であるとして反対を表明したことはない」と認めました。

 志位氏は「戦後ただの1回もアメリカの武力行使にたいして自主的に反対したことがない国が、どうして新『ガイドライン』で自主的に判断する保証があるのか」と批判。新「ガイドライン」にもとづいて日本が協力するのは機雷掃海、情報提供など参戦行為そのものであり、「まさに自動参戦体制だ。アメリカがアジア太平洋で戦争を始めたら、日本が無条件で参戦していく仕組みに加わることは本当に危険だ」と強調しました。



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