1997年2月8日「しんぶん赤旗」

志位書記局長の総括質問

その1ー9兆円負担増と日本経済

その2ー公共投資の浪費問題

その3ー医療保険と薬価問題


2月4日の衆院予算委員会で日本共産党の志位和夫書記局長がおこなった総括質疑のうち、「医療保険と薬価問題」の部分、9兆円負担増と日本経済の部分、公共投資の浪費問題の部分(大要)を紹介します。


その1 9兆円負担増と日本経済

志位和夫書記局長 日本共産党を代表して橋本総理に質問いたします。まず、消費税増税をはじめとする国民負担増の問題についてであります。97年度政府予算案では、消費税率の引き上げ、特別減税の打ち切り、社会保険料の引き上げ・自己負担増で、合計で約9兆円にのぼる国民負担増がおしつけられようとしております。

 これにたいする不安と怒りが、いま、日本列島に渦巻いております。ある新聞の投書で、こういう高齢者の告発がありました。「5%への増税が、私には倍に思えてならない。医療費もあがる。公共料金もあがる。病気もちの老人には生存権はないのかと問い返したい」。こういう声は、たくさん新聞紙上にもみられます。

景気回復の一番の担い手――家計消費が伸び悩んでいる。このままでは家計が底割れになる(志位氏)

70年代、80年代の不況回復期に比べて これまでにない長期低迷状態にある個人消費  

志位 いま、きびしく問われなければならないのは、そういうみぞうの負担増を、どういう経済情勢のもとでやろうとしているかという問題だと思います。

 政府の『経済白書』をみると、「消費と設備投資」を「景気回復の二大主役」だとして、この「二大主役」が本格的回復の軌道にのってはじめて、景気は「自律的回復」の軌道にのったといえるとのべています。そこで総理にこの「二大主役」の現状についての認識をお聞きしたい。総理の認識をお聞きしたいんで、是非よく聞いていただきたい。

 第一の「主役」である「消費」の問題でありますが、その中心はいうまでもなくGNP(国民総生産)の6割を占める個人消費=家計消費であります。政府のいろいろなリポートを見ると、個人消費は「緩やかな回復傾向」にあるとのべられていますが、70年代、80年代の景気回復期と比較した場合、今回の90年代不況の個人消費の回復は、いちじるしい回復遅れがあるのではないか、これまでにない低迷状況にあるのではないか。こういう認識を総理はお持ちかどうか。

 橋本首相 議員のご意見とは違うかもしれないが、私ども数字を見ておりまして、わが国の最近の経済動向というものを見た場合に、設備投資が回復の傾向にある、住宅建設が高い水準にある――これはもしかするとあなたからは、消費税の影響で前倒ししているんだというご意見があるかもしれませんが、現実に高い水準で推移している。そして、個人消費も緩やかな回復傾向にあります。

 また、減少傾向にあった純輸出も、このところおおむね横ばいで推移をしております。と申し上げたうえで、私は、たしかに70年代、80年代の不況から景気が回復するプロセスと現在の状況に差異があることを認めております。そして、それが、まさに私どもが構造改革というものを経済においても、財政においても、他の分野においても、必要とすると国民に訴えている大きな理由であります。

 民間需要も実は堅調さをましているわけでありますが、従来のパターンと違っているのは、これは政府にとってプラスになる答弁ではありませんけれども、従来の景気回復期の状況に比べて依然として雇用情勢が非常に厳しいものがあります。こうした点をみれば、70年代、80年代の経験が役にたたない時代に入っているということは、私自身がいままで認めております。

 志位 70年代、80年代の景気回復局面と差異があるというご答弁ですが、景気を考える場合に、家計の消費、先ほどいったGNPの6割を占める家計消費という問題がどうであるか、この点の差異をうかがったわけです。

 この点で、グラフを作ってみました(グラフ(1))。この緑の線は、70年代、80年代の過去3回の不況回復期の、個人消費の推移の平均値です。だいたい、「景気の谷」から3年後には103%ぐらいまで回復しているわけです。赤の折れ線グラフのほうは、今回の90年代不況のグラフです。これをみると、「景気の谷」がだいたい93年の10〜12月期ですが、3年経過しているのに、上がったり下がったりの繰り返しで、非常な低迷がある。

 ですから、先ほど総理が違いがあるといった場合、一番重大な違いは、この個人消費という問題がある。また、「構造改革」、「規制緩和」ということで、景気は上向くんだということもいわれたけれど、当面、規制緩和ということで逆に雇用が悪化する、と指摘しているリポートもたくさんあります。

 家計が冷え込んでいる実態、これまでの景気回復とくらべて、本当に家計が冷え込んで、個人消費が立ち遅れているという現状を、まずお認め願いたい。景気の一番の基本である、土台である家計消費がどうなっているかという認識をうかがっているわけですから、この点では異論なかろうかと思うんです。

 首相 そういうお尋ねでありますならば、70年代から80年代、すなわち高度経済成長からバブルにいたる時代を、現在の安定成長にむけての努力期とそのまま対比することに無理があるんじゃないでしょうか。われわれはかつての高度経済成長から何回かの失敗を繰り返しながら、バブルに突入した。このプロセスを踏もうとはしていないわけであります。当然ながらそうした点をふまえて、われわれはものを考えたい。

中小企業の生産回復の深刻なたちおくれが今回の不況の新しい特徴  

 志位 いまの不況はバブル経済の破たんがまねいた。そういう深刻な状況を、いま呈しているということを家計の問題でいったわけです。

 第二の「主役」である「設備投資」のほうはどうか。ここでは、従業員数で7割、経済規模でも5、6割を占める中小企業がどうなっているかが肝心だと思います。政府の『経済白書』を見ると、これまでの不況の回復局面では、中小企業が設備投資でも収益でも景気回復をリードした。ところが今回はそのリードがみられないことが『経済白書』にのべられています。新しい特徴をもっている。たしかに大企業は、設備投資を回復しているかもしれない。収益を回復しているかもしれない。しかし、それとは対照的に、中小企業が立ち遅れているという特徴がある。

 そこでこの問題も、私は過去3回の不況の回復期と比較して、今回の不況における中小企業の生産指数の推移を、もう一枚のグラフにしてみました(グラフ(2))。これは『中小企業白書』をもとにしたものであります。ここでも非常に顕著な立ち遅れがある。この緑のほうのグラフは70年代、80年代の3回の平均ですが、だいたい「景気の谷」から3年後には113%ぐらいには回復しています。今回は、3年たって105%です。これだけ厳しい状況にある。

 これは、新しい特徴なんですね。これまでの70年代、80年代と違った、90年代の不況の特徴なわけです。バブル経済の破たんという問題をおっしゃったが、その後遺症をずっとひきずっている。それも含めての特徴なのです。ですから中小企業についても、これまでにない、こういう新しいいちじるしい遅れという特徴があるという認識をもっているかどうか。これも経済情勢の認識としてうかがいたい。

首相 昨年の衆院選のとき、従来、景気がある程度、回復の局面に向かうと、必ず中小企業が持ち前の創造力と行動性を生かして前に走りだす時期があった、今回はまだそれは見られない、ということを率直にお話をしてまいりました。その要因というものはいくつかあると思います。バブル崩壊後の不況という面だけでなく、大手企業の生産拠点が海外に移転し、その結果として従来の取引先を失い、新たな取引先を発掘できないといった状況の産業もありましょう。業種転換のなかで、新たな分野への移動をしきれてないといった企業もありましょう。さまざまな要因があると思いますけど、中小企業の活気が出てきてないということは、私自身、選挙でも国民の前で申しあげてまいりました。

「景気回復の二大主役がたちおくれている」といいながら巨額の負担増をかぶせるのは矛盾している

 志位 いまの答弁で、この問題については、ある程度、認識は一致すると思う。「消費と設備投資」という「二大主役」が、これまでにない立ち遅れにある。これは状況認識として一致すると思う。そうだとすると、このなかで負担増をやっていいのか、経済政策としていいのかという問題を真剣に考えてみる必要がある。

 こういう立ち遅れについては、『経済白書』の去年の版をみても、非常に明りょうに書いてあります。『白書』では、「日本経済はなぜこのように長期にわたって低成長にあえぎ、かつ景気の回復力が緩やかであったのか」として、その原因を「消費と設備投資」という「景気けん引力の二大主役へのバトンタッチがおくれている」、ここに求めています。「バトンタッチがおくれている」と、あなたたちがいっているときに、国民負担増をやっていいのか。

 これがどういう影響をあたえるかは明りょうです。第一の個人消費についていえば、経済企画庁の推計でも、1・7%ぐらいのマイナスの押し下げがあるだろうといわれています。

 第二の中小企業についていえば、税金を価格に転嫁できないで、廃業、倒産に追い込まれる業者がたくさん広がります。その悲痛な声をたくさん聞きます。しかも、家計消費が冷え込めば、中小零細の商店街、町工場、この経営も悪化する。二重に中小企業の悪化につながる。

 これまで政府は6回の「景気対策」をうってきた。その理由、44兆円の公共投資を使う理由は、「民需主導の自律的な景気回復にバトンタッチさせるためだ」といってきました。ところが、民需の「二つの主役」が、どちらも景気回復の本格的軌道に乗っていない。あなたがたの言葉でいえば、「バトンタッチができていない」わけです。その「バトンタッチができていない」時に、いま9兆円という負担増をかぶせるならば、バトンをたたき落とすようなものじゃありませんか。

 これは、これまで政府がとってきた経済政策とも矛盾する。『経済白書』などの経済情勢の認識とも矛盾する。私は今度の9兆円の負担増ということを、こういう情勢のもとでやることはほんとうに矛盾した政策だと考えますが、この点どうでしょう。

首相 新たに負担を願う消費税率2%の引き上げ。そのうちの1%は、地方の財源であり、特別減税の財源が赤字公債であったことも、ご承知の通りであります。

 特別減税を継続するために、赤字公債を増発し、地方財源を含めた消費税率を引き上げずにそのままでいく、さて、それでいったいわが国の経済には、プラスがどこまででるのでしょう。より被害が大きいという気がしてなりません。むしろ所得税等先行しておこなわれている減税のその税収不足分を今回の消費税の引き上げは埋めるという効果も果たすわけであります。減税は先行いたしております。その上でいま、ここで歯をくいしばってでも活力のある発展というものを妨げているいまのルールを一刻も早く変えていくこと、活気を取り戻せるシステムにもっていくこと、これが大事なのではないか。むしろ、特別減税を継続し、消費税の引き上げを停止し、その結果、公債の発行高を増やしていくことが後ほどどれほど大きな負担になるかをぜひお考えをいただきたい。

 志位 財源の問題をいわれましたが、これはつぎの柱でじっくりお話をうかがいたい。一つだけ反論しておきますと、ならばなぜバラマキ公共投資をやったのか。今度の本予算ではたしかに公共投資の伸びが1・3%です。しかし、補正予算を含めれば、同じ時期に公共投資をどんどんやることに変わりはない、補正予算を含めれば16%の伸びです。一方でこういう公共投資の膨張をやっておきながら増税というのは理が立たない。これは後でじっくりやります。

 私が総理に聞いたのは、こういう負担増をやって景気が大丈夫かということを聞いている。それをお答えにならないまま今の答弁では納得いかない。景気は大丈夫かと聞いているんです。

 首相 たしかに経済企画庁の試算でも委員が指摘になりましたように消費税の税率の引き上げ並びに特別減税の廃止で4―6月期の影響はある。そして、それを決して否定をしておりません。だからこそ、われわれは平成9年度予算を年度内に成立をさせて年初から切れ目のない経済運営ができるようにご協力をいただきたいとお願いをいたしております。平成8年度補正予算についても言及をされましたがこのなかに含められている公共事業が緊急防災対策という役割を担っている。同時にこれが年初における景気の下支えの効果をもつことも私は否定しておりません。

影響がないとは申しておりません。(指摘は)一つの見識として受けとめる。(首相)

可処分所得がのびなやむもとで、月額1万6850円もの負担増(勤労者世帯平均)

 志位 結局、景気にたいするマイナスの影響はあるけれども、予算を通せばなんとかそれを含めれば景気が上向いていくという答弁だったと思う。たいへん甘い状況認識だと思います。

 個人消費がなぜ伸び悩んでいるのか。これも、『経済白書』はなかなか的確な分析をやっています。ここでは「実質可処分所得が伸び悩んでいるからだ」、つまり給料から税や社会保険料を差し引いた手取りの給料が伸び悩んでいる、それが、個人消費の伸び悩みの原因だとしております。

 それを、家計の視野から見て今度の負担増がどうなるか。総務庁の『家計調査報告』をもとに、勤労者世帯の平均でみて実質可処分所得がどう推移しているか、9兆円の負担増は家計にどう影響を与えるか、これも試算してみました(グラフ(3))。青い方の棒グラフは「景気の谷」であった1993年を起点にして3年間でどれだけ可処分所得が伸びたか。3年間で可処分所得の伸びは1・5%、実額で月額7172円です。これしか伸びていない。微々たるものです。

 もう一つは、下に伸びている棒の方です。これが今度の9兆円負担増による影響額が家計にどれだけ出てくるかというのを、私が『家計調査報告』から試算したものです。そうしますと特別減税の打ち切りと保険料の引き上げで、だいたいこの可処分所得の伸びを相殺してしまう。その上に、消費税の2%増と医療費の自己負担増がかぶさってきて、毎月、毎月1万6850円、世帯平均で負担増がかぶさってくるわけです。これでどうして個人消費が回復していきますか。家計は底割れになるじゃありませんか。これは総務庁の結果から私が責任をもって試算したものです。家計は本当に底割れですよ。どうでしょう。

 首相 私は委員の試算をチェックするだけ、実は、その数字を分析できません。さきほどから申し上げておりますように、影響がないと申し上げておりません。そのことをいま委員は家計消費支出に移してご議論になりました。これは一つの見識として私は受けとめさせていただきます。しかし、なおかつ私が申し上げたいことは、だからといってそれでは先送りをしていったいどうなんだと、その先送りをする財源を公債の発行に依存していく、果たしてそれは将来にとってプラスの選択か。私はそうは思わないということであります。

政府のいう「構造改革」「規制緩和」は、景気の“追い風”でなく“逆風”

 志位 財源の問題についてはこれから議論していきたいと思います。しかし経済の問題での影響ということを総理は否定されなかった。それならばここは再検討すべきだと思います。いったん決めたものだからもう増税はやります、いったん決めたものだから特別減税は打ち切ります、社会保険の負担増もやります、しかしこのままやってしまっていいのかという問題は財界人からもいろいろな不安の声が聞こえてまいります。経済の全体を見渡して経済にたいする総理としての判断なり、負担増の影響なり、これきちんと検討して、この問題については再検討すべきだと思う。

 総理は先ほど、「構造改革」をいわれたが、「規制緩和」など「構造改革」をやったとしても、当面は、景気にとって“追い風”ではなく“逆風”になるということが、財界からも共通して出されております。

 ここに経済同友会が1月に発表した「市場主義宣言」というリポートがあります。これを見ると「構造改革」にともなって「ある程度の失業増加は避けられない」。経済同友会の牛尾代表幹事は、いま史上最悪の3・4%になっている失業率が、「5%から7%くらいになる」という見通しをいっているじゃありませんか。

 それからもう一つ、日経連の「労働問題研究委員会」が出したリポートがあります。これを見ても、「失業率は……現在の2倍程度に及ぶとみられる」、「構造調整の過程では……雇用・失業情勢が悪化する」といっている。

 ですから、あなたのいっている「構造調整」、「規制緩和」ということをやったとしても――あなた方は将来、雇用が生まれるんだという理屈だと思う。私たちはその保障がないと思うけど――少なくとも当面は雇用情勢は悪化するというのは経済界も認めている。景気の“追い風”にならないんですよ。“逆風”なんですよ。それも含めていまの景気の状況のなかで九兆円の負担増は見直すべきだ。

 先ほど増減税一体になってやったというふうにいわれましたが、その問題について当時の国会でさんざん議論しましたよ。サラリーマン世帯の9割は、差し引き増税だということを明らかにしました。その上でなおいいたいのは、今年度と来年度と比べて国民が9兆円の負担増をかぶるという事実には変わりがないんです。先ほどの表をあてますと、(かさねてパネル〈グラフ(3)〉をしめしつつ)減税をやったとしても、可処分所得はこれしか伸びていないんですよ。この現実があるんです。その時にこれだけの負担増をかぶせていいのかという問題を私は提起している。これは再検討する意思、あるかどうか、総理。総理にうかがいたい。

 三塚蔵相 志位議員は最悪の事態を提起しながら、『白書』からも指数をだしながら、やられておるわけですね。これ私否定いたしません。そういう見方もベースにあっていいはずですから。

 しかし、経企庁および産構審(産業構造審議会)、政府発表ということになりますと、四半期の第一期にはそれなりの影響はうけますが、後半は、1・9%の経済成長が達せられるということなんですね。そして、ファンダメンタルズのなかで、一定厳しい状況をだしておりますのは、失業率の問題であります。3・3%が3・4%になりました。しかし、他の民需等は、確実な足取りのなかでゆるやかではありますが、上昇の傾向にあります。消費税については初年度、平成9年度の問題を申し上げますと、志位議員は、全部九兆円をかぶる計算値をだしているが、2兆と7兆にわけるわけです。7兆は、国費、地方税、その他あわせ、効果は4・6兆です。初年度効果は。そのなかで、国税関係だけみると、2・7兆。この計算は確たる計算なんです。

日本経済のかじとりを根本から誤らせる9兆円の国民負担増計画を撤回せよ

 志位 初年度効果で少ないんだといわれるけれども、それは、国民から負担としてすいあげておいて、国庫に入らない、時間差の問題でしょ。国民が払うことにかわりはないんですよ(「そうだ」の声)。そういうごまかしの答弁はやっちゃだめです。

 結局大蔵大臣の答弁は、日本の景気は回復力をもっている、ということなんですけれども、景気の回復の一番の担い手というのは、家計消費じゃないかといっているわけです。家計消費がなぜ伸び悩んでいるかといったら、可処分所得が伸び悩んでいるということで、こういう具体的な究明をやったわけですよ。それにたいして、政府のほうは、まともな経済認識も示さない。負担増によるマイナスも、本当にもう微々たるものだというふうに、過小評価している。そうやりながら、増税をおしつけるというのは、納得がいかない。

 私は、昨年12月の臨時国会で、総選挙との公約の関係で、増税実施の資格はないじゃないか、こういう提起をいたしました。自民党の議員のなかに、「延期」だの「凍結」だの、あなた(三塚蔵相)も、そういうことをいったでしょ。そういうことをいった議員がたくさんいる。この閣僚席のなかにも、「見直し」とかいった人がいる。公約にてらして増税を実施する資格はないんだということを申しました。総理からは、まともな答弁はなかった。

 それにくわえて、考えていただきたいのは、日本経済のこの現状です。これをみて、このまま9兆円負担増をやってしまっていいのか。これをやるならば、日本経済のかじとりを根本からあやまらせる。このことを指摘し、中止を重ねて求めます。

その2 公共投資の浪費問題

630兆円の「公共投資基本計画」が財政破たんまねいた。“総額方式”をとりはらうこともふくめ聖域とせず検討するか(志位氏)

聖域はない。(「基本計画」も)論議の対象となる(首相)

 志位 次の問題にすすみたい。これまでの議論のなかで、総理のほうから負担増をおしつける理由として繰り返しだされたのは、「財政危機」ということでした。しかし、一方で(国民に)負担増をおしつけながら、一方で、むだと浪費の構造を温存しているではないか。これについても、国民の怒りが増幅しているわけです。

 私はここで、国で約10兆円、地方あわせますと50兆円という公共投資の問題をとりあげたい。もちろん、国民福祉や暮らしに役立つ公共投資については、効率化しながら拡充していくということは必要であります。しかし、これはマスコミでも多くとりあげられておりますが、港湾にしても、道路にしても、ダムにしても、干拓にしても、「事業のための事業」としかいいようのない浪費的な公共投資が日本列島をおおっている。これはまぎれもない事実であります。

「事業のための事業」というべき公共投資の浪費の大もとにあるもの

 志位 なぜ、この「事業のための事業」に公共投資がなっているのか。私はその大もとには、1995年から2004年までの10年間に630兆円の公共投資をおこなうという「公共投資基本計画」の問題があると思います。これが、実は、公共投資の膨張の一つの根っこにあるんじゃないか。

 たとえば日本建設業団体連合会、大手ゼネコンなどでつくっている日建連が去年の5月に出した「日建連ビジョン」というものがあります。そのなかに「ナショナル・プロジェクト等の推進」という項目があります。それを見ますと、巨大プロジェクトの推進を21世紀にむけてどうやるのか。これがずっと出ているわけでありますが、こういう文言があります。「折しも1995年度から10カ年間計画による、総額630兆円規模の公共投資基本計画がスタートしたが、特に巨額の資金を要するナショナル・プロジェクト等は、この期間を逃しては推進が難しくなると思われる」。つまり、630兆円というものがあるから、いまがチャンスだとばかりに、ナショナル・プロジェクト、巨大プロジェクトを推進しようというのが、大手ゼネコンの方針であります。

 そこででてくる、いろいろなメニューを見ますと、第一にあがっているのは、14兆円とも、25兆円ともいわれる首都機能移転。第二にあがっているのは、「大都市機能整備のためのプロジェクト」として、「業務核都市の整備」。オフィスビルをどんどん建てる計画です。あるいは「大阪湾ベイエリア開発」。これは「りんくうタウン」にも見られるような赤字をどんどんつくりだしているようなやりかたです。こういういろいろな巨大プロジェクトを、630兆円があるからどんどんすすめてしまおうと、こうなっていると思うんですね。

 私は、630兆円という「公共投資基本計画」があることが、浪費的な巨大プロジェクトをすすめる公共投資膨張のアクセルになっているんではないか、この問題を総理に考えていただきたい。

 その点で総理に一番基本的な認識をうかがいたいのですが、630兆円という額の根拠はいったいどこにあるのですか。この数字は国民生活の必要性から積み上げられた数字なのか、それともはじめに630兆円、「総額先にありき」という形で決められたものなのか、どっちなのか。端的に総理がお答えください。

 坂本経済企画庁・総合計画局長 ご指摘の630兆円は、21世紀初頭の高齢化、少子化社会をふまえ、その前に社会資本整備水準をおおむね九割前後整えるための所要額として600兆円、その後の状況の変化等をふまえて、弾力枠として30兆円ということです。

 (ここで、答弁も求めていないのに、亀井建設相が出てきて答弁。志位氏が抗議する)

 亀井建設相 先ほどから、お話をきいておりますと、共産党あるいは、委員は日本の未来像をどう考えておられるのか疑問がでてくる。下水道も完備されないくみ取りのトイレ、道路も完備されない、ただただそこで生活をしておるという、そんな社会が日本のあるべき未来ではないと思う。いまの630兆円について申し上げると、社会資本、諸外国の先進国にくらべて大変遅れています。5割程度、これを着実に21世紀の初頭に整備するには、これだけの費用がいる。そうした上にたった判断であり、けっして対米的な配慮とかそういうことだけでいるわけではございません。経済状況、財政状況が刻々変わる場合があるわけで、トータルとして長期において政治をするということで策定したものであります。

橋本首相は、アメリカの外圧に屈して「基本計画」とりまとめにあたった当事者

 志位 要するに21世紀初頭においておおむね整備されるとか、まったく漠としたことしかないんですよ。下水道にしたって、住宅にしたって、きちんとした国民生活の必要性から、これだけのものが必要だという具体的な計画をつくって上積みするんだったら道理がある。しかし、この「公共投資基本計画」には、なにも具体的な目標らしきものはないじゃないですか。

 「公共投資基本計画」というから、よほど詳細な計画があるかと思ったら、わずか14ページ。目標らしき数字がでているのは、下水道と住宅の二つぐらいで、あとはほんとに抽象的なものしかない。(ここでもまた、亀井建設相が答弁に立とうとする)私の質問をじゃましないでください。総理にうかがってるんですから(場内爆笑)。私が総理にうかがってるのは、630兆円が「総額先にありき」か、それとも積み上げでつくったものかという基本的なことです。

 「総額先にありき」ということは、「公共投資基本計画」がでてきた経過をみても歴然としている。はじめて10年間の「公共投資基本計画」という方式が持ち込まれたのは、1990年6月につくられた430兆円の「旧公共投資基本計画」であります。総理は当時の大蔵大臣として、この基本計画のとりまとめにかかわっていた。1990年2月の日米構造協議のなかで、アメリカ側が日本の公共投資を国民総生産の10%に、という要求をする。その当時の報道をみますと、その圧力にこたえる形で橋本蔵相が案をとりまとめている。それは過去10年間の各分野の長期計画、公共事業の長期計画などをあわせて、その5割増にするというものだったという。橋本蔵相が90年4月の日米蔵相会談で、「過去10年の5割増」という輪郭を示して、90年6月の構造協議で430兆円と決着するわけです。430兆円というのはこうやって生まれたものだった。

 直接の当事者が総理ですからうかがいたいのですが、やはり「公共投資基本計画」は生まれた当初から積み上げの数字ではない。「過去10年間の5割増」という形で、まさに「総額先にありき」と決められた数字ではありませんか。

 首相 当時、アメリカ側が構造協議で求めてきたことは、わが国の公共投資の総枠を飛躍的に増やすことであり、同時にアメリカ企業の参入しやすいと思われるいくつかの分野に、その公共投資の相当部分をシフトせよという要求でありました。要求の背後にあったのは、当時のわが国の大幅な黒字であり、アメリカ側の赤字であります。その議論のなかで、もう一つでたことは、各種の公共事業に関連する5カ年計画のはじめと終わりをそろえて見直し、その機会にアメリカの目で見て、日本が整備を急ぐべきであると思われる公共事業分野に、ウエートを置くべきであるという要求でありました。結果として、国の政策選択にかかわる部分はこれを排除しました。それが現在逆に公共事業の計画がスタート時、終わりの時期が計画によってバラバラだという批判を受ける原因でもありますけれども、こうした歴史があったことは申し上げておきたい。

 そしてその時に、いろいろな角度での議論をした上で、公共投資の総額を示すとともに、それによってわが国が備えるであろう将来の水準、たとえば下水道の普及率でありますとか、そうしたものを頭に描きながら、415兆。プラスその時点において想定しえない新たな行政需要にたいする弾力枠として15兆。これを公共投資基本計画として公表したわけです。

公共投資の異常膨張と財政破たんをもたらした「総額先にありき」というやり方をとりはらえ

 志位 政策の判断として総額方式でこたえたという経過だと思う。この経過は、GNP比で10%とアメリカが圧力をかけてくる。当時橋本総理はGNP比で固定化されるのは一応つっぱねた。しかしそのかわり、430兆円という総額方式でアメリカの要求に屈したわけですよ。この計画は最初から日本の国民にとって公共事業がどれだけ必要かということで具体的に作った計画ではなく、外圧に屈して、430兆円が決められ、再度の外圧に屈して630兆円が決められ、引き上げられていった。

 それが何をもたらしているかということを私は問いたい。財政破たんですよ。430兆円が決まった1990年を境に、公共事業の異常な膨張が始まっています。1990年にはGDPの6・6%だった公共投資が、96年には9・2%にふくらんでおります。(各分野の公共投資)長期計画も80年代のものと90年代のものを伸び率で比較してみますと、90年代が155%に水ぶくれしている。その結果が財政破たんです。国と地方自治体の累積債務は90年度にはGDP比71%でした。それが96年には89%まで破局的にふくらんだ。総理が90年にしいた「公共投資基本計画」というレール、「総額先にありき」というレールが、今日の財政破たんという結果を招いた、少なくとも重要な一因にはなっているという反省が必要だと思います。総理、いかがでしょうか。

 首相 あなたがどうご批判になるかは、あなたのご意思であります。しかし国際交渉の中で、私は当時の状況として対応しきれるぎりぎりの内容のものを考えました。むしろもっと大きな公共投資基本計画を作るべきだという意見が、出ていたこともご承知であると思います。私は実行可能なぎりぎりの計画としてこうした数字を選んだ。屈したといわれましたが、むしろ私は逆にアメリカ側の要求というものを使いながら、あるべき社会資本整備の姿を示したと考えております。

 志位 屈したとあえていったのですが、「公共投資基本計画」を決めた後の、たとえば、「日米構造問題協議フォローアップ」の年次報告書を見ますと、非常に明りょうです。これは、アメリカに構造協議の結果を報告するものですが、91年の「フォローアップ」では、「91年度予算等においては、公共投資基本計画の初年度であることにかんがみ、厳しい財政事情の下ではあるが、公共投資の規模の確保に最大限の努力を払ったところである」。92年の「フォローアップ」では、「92年度予算等においては、容易ならざる財政事情及び巨額の公債残高の存在にもかかわらず、公共投資の規模の確保に最大限の努力をしたところである」。

 当時から、財政破たんが明りょうだったんです。厳しい財政事情を百も承知で、財政破たんを百も承知で伸ばしましたと、アメリカに報告しているわけです。私は、この「総額先にありき」という方式は間違いだったと考えます。

 630兆円、あるいは430兆円という額が先にあって、長期計画が決められ、そして予算が決められ、個所付けが決められる。本来公共事業は、下からの積み上げで予算をたてなければならないものです。それが、630兆円なり430兆円なりという額から全部バァーと出てくるやりかたは本末転倒だ。私は、この630兆円の「公共投資基本計画」は、いまの財政破たんという状況からしても総額方式は取り払うべきだと思います。

 公共事業は、ほんとうに国民の暮らしや福祉に必要なものに限定圧縮し、効率的なものにする。浪費は省く。その財源で、国民生活の向上にあてる。この政策の転換がいると思う。その政策の転換をやるためには、630兆円を聖域にしてはだめです。総額方式は取り外すべきだ。はっきり申し上げたい。

 首相 われわれはいま、財政再建、財政構造改革という大きなテーマに一方で取り組んでおります。そのために財政構造改革会議で議論をしていくなかに聖域はないということを申し上げてまいりました。当然、こうしたものも論議の対象としておこなわれるときはあろうと思います。

 しかし、公共投資基本計画ができたから各種の長期計画ができたといわれるのは事実は違うと思います。公共投資基本計画以前に各種の5カ年計画が存在した5カ年計画の起点と終点のそれぞれにそのテーマによって違いがあったこともご記憶のはずであります。

志位 長期計画についてそれ以前に存在したということは百も承知でいってます。ただ、430兆円が決まった時点で、その“効果”とでもいうべき力が加わって、80年代、90年代を比べたら、1・55倍になっていることも先ほど申し上げた通りです。

 いま、総理は「聖域にしない」ということをいわれました。630兆円についていわれていることですが、この「公共投資基本計画」も聖域にしないということなのか。つまり「聖域にしない」ということの中には、総額方式はやめるということを選択肢に含みますか。総額方式も含めて、聖域にしない検討が必要だと思う。いかがですか。

 首相 政府与党の財政構造改革会議で議論をする中に聖域はございません。

630兆円の「基本計画」実行と「財政健全化」とは両立しえない

 志位 630兆円のこの問題について真剣な検討を求めたい。

 この点でもう一点うかがいたい。もし630兆円を、2004年までに、全部実行するとした場合、財政再建と両立するかという問題があります。総理は、「財政健全化」目標として、2005年までに、赤字国債をゼロにするという。2004年までの630兆円の実行と、2005年までの赤字国債ゼロは両立しうるのか。具体的に吟味されていますか。

 総合計画局長 公共投資基本計画600兆円の、仮に今後、毎年単純に同じ率で伸ばしていくとなると、2・8%程度の伸び率が必要です。これは赤字国債ではございません。

 志位 総理は、この問題はまだ検討途上だという感じで、お立ちにならなかった。私は検討してみたのですよ。歳出入のギャップを比較したグラフ、見ていただきたい(グラフ(4))。大蔵省は先に「財政の中期展望」を発表いたしました。その中に、名目経済成長率がもっとも高いと仮定して、3・5%とし、赤字国債を毎年1兆円ずつ減らして、2005年には、赤字国債ゼロを達成するという試算があります。これをもとに二つのケースを、私はグラフをつくってまいりました。

 この青いグラフの方は、公共投資の伸びをゼロと仮定した場合の試算であります。大蔵省の試算をそのままグラフにしたものですが、この場合、2005年には、歳出入のギャップ、つまりお金が9・1兆円足らなくなるわけです。ただし(公共投資)伸びゼロでは、2004年までに、630兆は達成できません。だいたい私が計算してみたら、530兆ぐらいしかいかない。

 もう一つの赤いグラフ。これは2004年までに、なにがなんでも630兆円の公共投資をやる場合です。大蔵省試算をベースにやってみると、2005年の歳出入のギャップは14兆円に及ぶわけであります。

 ですから、これはどうしたって、630兆円と、財政再建とは両立しない。これをあえてどうしても、両立させようとすると、大変なことになる。630兆円にあくまで固執しながら、あなたがたの政策を続けた場合には、この14兆円のギャップを埋める方法は、二つしかないと思います。

 第一のギャップの埋め方は、社会保障など国民生活部門を大幅削減して、そのギャップを埋めるやりかただと思う。しかしこの場合、14兆円のギャップを埋めようとすれば、経常部門の経費を、97年度よりもさらに、2兆円以上少なくすることになる。途方もない福祉、教育の切り捨てになるのです。

 第二のギャップの埋め方は、消費税の増税です。あなたがたの論理でいけば。その場合14兆円のギャップを消費税の増税で埋めようとすれば、税率4%にあたります。つまり5%から9%に引き上げなければならない。

 あなた方の630兆円に固執した場合には、そういうメニューしかないんですよ。どちらも国民に多大な犠牲を負わせること抜きに、630兆をそのまま実行することはできない。630兆円と「財政健全化」とは両立できない。これは、私が責任をもって(数字を)出しているわけですから、総理にお答えしていただきたい。

 首相 私は、議員の議論を拝聴しておりまして、今の幾つか見せていただきました議員の試算をうたぐるのではありません。その上で、二者択一の議論をされますけれど、はたして二者択一以外の道はないのだろうか。極端なケースまであげると、いろんなケースがいえるでしょう。しかし、議員も公共投資の必要な部分が存在することは否定はされないと思います。毎年毎年の税収見通しにたち、また必要な事業というものに着目して、予算というものは、編成してまいります。

“三つの聖域”にメスをいれる日本共産党の財政再建計画――日本を救う活路はここにしかない

 志位 二者択一以外のものはないか、ほかにもあるだろう、とおっしゃられるけれども、歳入の問題でも、このまえの臨時国会で大企業に新たな税負担を求めるかといったら、(首相は)大企業には減税を検討するが、新たな税負担を求めないとおっしゃった。軍事費は増やしっぱなし。そうしますと、あなたがたの論理でいけばさっきの選択肢しかなくなるんですよ。

 私は、活路はあると考えております。私たちは“三つの聖域”にメスを入れるべきだ、と考えています。「公共投資基本計画」をいったん白紙に戻して、大幅にこれを縮減する、これは第一です。第二に、軍事の際限のない膨張にメスを入れて、軍縮にむかう。第三に、大企業優遇税制にも思い切ったメスを入れるべきだ。この“三つの聖域”にメスを入れることをやれば、私たちは増税抜きに、国民生活に犠牲を負わせることなしに、日本の財政は立派に10年間で立ち直るという具体的な案も示しております。私はわが国を救う唯一の財政上の活路はここにしかない、と考えます。

その3 医療保険と薬価問題

志位書記局長 つぎの問題に移ります。医療保険の問題についてうかがいたい。いま政府がすすめている、患者負担増を柱とする制度改定(案)にたいへん大きな不安が広がっております。お年寄りにとって病院の敷居が高くなる、本当に治療が必要な方が病院にいけなくなる、という不安であります。お金の切れ目が命の切れ目になるのではないかという心配の声を、私もたくさん受け取っております。

 政府は、ここでも医療保険の赤字を理由にしていますが、私は、赤字をつくっている構造的な問題点にメスをいれないまま、安易に患者負担増を押しつけるやり方、ここに一番の問題があると考えております。

高薬価構造の是正のため、新薬承認基準見直し、透明化を(志位氏)

参考にして、積極的にとりくみたい(首相、厚相)

国際的に異常に高すぎる薬価が、医療保険財政を圧迫している

 志位 私は、医療保険の赤字を解決するうえで、何よりもまず、薬の価格、薬価の問題にこそメスをいれるべきだと考えます。日本では、国民医療費約27兆円のうち、約8兆円が薬剤費です。約3割が薬剤費です。諸外国でこんなに薬剤費の比率が高い国はありません。その点で総理に基本的な認識をうかがいたい。日本の薬価を総理はどう認識されているかという問題です。

 この点では大阪府保険医協会が1995年に、日本でよく使われている医薬品62品目の薬価について、詳細な国際比較をおこなっております。この結果、日本の薬価はドイツの1・4倍、フランス・イギリスの2・7倍。日本では評価の定まった比較的古い薬は外国と比べて同程度ないし安いわけですが、新薬の価格が異常に高い。そして新薬の使用比率が高い。それによって薬価全体が引き上げられているということが、大変明りょうになっております。

 この調査結果は、経済企画庁の『国民生活白書』でも紹介されるなど、政府もその信頼性を認めているものであります。総理は、本会議の答弁のなかで、日本の薬価水準を問われて、「なかには高い薬もあると考えている」という答弁でしたが、全体としての日本の薬価の水準は国際比較でみて高いという認識をお持ちかどうか。

 橋本首相 いまその『国民生活白書』の数字を見ながら改めてお答えを申し上げますが、医薬品あるいは医療機器のなかに、諸外国に比して価格が高くなっているものがかなりある、ということは承知をいたしております。

 志位 『国民生活白書』でも結論的に、「日本では使用した薬剤費の額が多いだけでなく、薬価、すなわち薬の値段そのものも高い」、国際的な比較でみて高い、こういう結論を下していますから、これはまず共通の前提として議論していきたい。(首相が閣僚席で「85年以前のやつは同じ、たしかに新薬はちょっと高い」)そうです。85年以前の薬、つまり古く承認された薬については日本は世間の相場並みだと書かれているけれども、日本の場合、新薬の比率が高いから薬価が引き上がってしまう。それを問題にしているわけですよ。

 個別の薬品につけられる薬価というのは、診療報酬の改定のたびに、引き下げられています。しかし、全体としての薬価は是正されない。そして薬剤費が、年々膨張をつづけている。このからくりがどこにあるのか、それがつぎに問題になります。

 総理も古い薬は安めだといいましたが、新しい薬が高いわけです。大阪府保険医協会の調査によりますと、日本の薬価は全体として高いわけですが、それをつりあげているのは新薬の異常な高さだというのがよくわかります。94年に承認された最新の薬を比較しますと、日本はドイツの2・3倍、フランスの4・0倍、イギリスの4・1倍になります。新薬が高くなると、医療機関への診療報酬も高くなり、その薬がたくさん使われることになる。こうして薬剤費のなかにしめる新薬の比率が高くなる。「新薬シフト」という状況が生まれてきます。

 新薬が医療品市場に占められる割合を、厚生省の資料からグラフとして作成したものを紹介します(グラフ(5))。ドイツとの比較ですが、日本の場合、10年以上使われている薬、これが占める額は3・54兆円、これに比して9年以内の新薬は3・53兆円。ドイツの場合は10年以上薬が3・68兆円、9年新薬が0・43兆円。こういちじるしく「新薬シフト」が日本の場合ひどいわけです。ですから総理にうかがいたいのは、この「新薬シフト」という状況の認識です。「新薬シフト」が全体として薬剤費を押し上げている原因になっているのは明りょうだと思うが、いかがでしょうか。

 首相 私自身、医療の内容に十分な知識があるわけではありませんが、従来から医薬品、あるいは医療品の価格設定というのは諸外国の価格と調整を図ってきたところです。議員指摘の資料と同様、85年前に開発されたものと、それ以降とのものに、大幅な開きがあることは、議員の指摘のとおりであります。医療保険改革をやっていくなかで、薬剤使用の適正化を図るという視点を持ちながら、薬価基準の見直しなど総合的な対応策を投じていくことが必要と考えます。

新薬の承認審査、薬価の決定が科学性のないずさんなやり方でおこなわれている

 志位 薬価基準の見直しということをいわれましたが、私は2つ具体的に提起したい。「新薬シフト」がなぜおこるのか、私なりに勉強してみました。その結果2つの重大な問題がここにあると思うのです。

 第一に、新薬の承認審査、薬価の決定が、科学性のないきわめてずさんなやり方でおこなわれているのではないか。すなわち従来の薬にちょっと手を加えただけで、有用性に乏しい「ゾロ新」という薬が大量に認可されている。ゾロゾロ認可申請がきて、ゾロゾロ認可されるから「ゾロ新」という名前がつくそうなんですが、そんな名前があること自体が異様なんですが、この「ゾロ新」に高い値段がつくわけですよ。しかもそれに見合う効能がないわけです。有害なものも少なくない。

 医学・薬学の専門家でつくっている「医薬品・治療研究会」というグループがあります。大阪府保険医協会と協力しながら活動しているグループですが、私はそこで中心的な役割を果たしている医師の浜六郎氏にも会って、詳しく話を聞いて、資料もいただきました。

 「医薬品・治療研究会」では94年承認新薬37品目の臨床試験論文をすべて製薬会社から取り寄せ、綿密な検証と総合的な評価を専門家のチームでおこなっています。その結果は驚くべきものでした。「従来薬と比較して目新しくなく、危険性がより高いもの」が37品目のうち12品目。「承認すべきでない無用、危険なもの」が7品目。あわせて半分は、本来認可していいものかというものなんです。

 具体的に紹介したいのですが、たとえば、プロマックという胃かいようの薬があります。これは94年新薬です。これは「医薬品・治療研究会」が製薬会社の臨床試験論文を分析した論文ですが、服用量が多くなればなるほど、治りが悪くなる。服用量が多くなるとかいようが悪化した例もあるんですよ(笑い)。「医薬品・治療研究会」では、「有効性は認められず、むしろ危険性の方が大きい」という判定を、詳細な分析をおこなったうえで下しています。

 もう一つ、塩酸イリノテカンという抗がん剤があります。これも94年新薬です。(「医薬品・治療研究会」の検証によると)これは臨床試験中に4%20名の方が副作用死している。しかもその死因が、この塩酸イリノテカンの毒性とほぼ断定できるのに、「早期死亡例」として処理し、安全性の評価から外されていた。「医薬品・治療研究会」では、この物質については、副作用が重篤であり、「臨床使用すべきではない」と評価しています。

 これは一例ですが、プロマックとか塩酸イリノテカンのような薬がどんどん「新薬」として承認されている。こういう「ゾロ新」の大量承認が、いわば薬価を引き上げ、薬害をつくりだす、そういう土壌になっている。これは問題だということを、専門家が警告を発しているわけです。(首相「専門家はいないのか」)

 私は、ここは事務方にではなく、基本的な姿勢として総理におうかがいしたい。新薬の承認システムに抜本的なメスを入れる必要があると、私は思います。具体的に提案したい。新薬の承認基準を科学性のあるものに抜本的に見直し、審査体制を抜本的に強化すること、そして独立性と透明性の高い医療品監視機構をつくること、そしてすでに承認している薬についても、いろいろな危ないものがあるわけですから、きちんと国際的に通用する評価方法で全面的な再評価をおこなうこと。これは総理、決断して、まずこういう改革からやらなきゃだめじゃないですか。いかがでしょう。

 小泉厚相 薬は、適正に飲まないと毒にもなる。これは、いかなる薬にも通じることだと思います。副作用が怖い。だからこそ薬の審査は厳重にしなくちゃいけない。いまご指摘のご意見を参考にしながら、薬価基準の見直しに、積極的にとりくんでいきたいと思います。

志位 総理の直属の機関である経済審議会が、去年の12月に「6分野の経済構造改革」という建議を出しています。そこでも、私と同じ問題の指摘がされているんですよ。「世界には通用しないが日本国内では高い薬価がつけられる『ゾロ新』と呼ばれる新薬が多数開発されている」。この事実を指摘し、「欧米では有効性や新規性に乏しいという理由で、新薬として承認されていないものが承認されている」。こういう問題を指摘して、新薬の「薬価承認基準の見直しを図る必要がある」と、経済審議会の建議でのべられている。

 坂本・経済企画庁総合計画局長 ただいまの建議は、経済審議会で建議したもので、そのなかで「ゾロ新」等の問題について取り上げました。総理にご報告し、(総理から)この線でぜひ改革をすすめるようにとの指示をいただいております。

 志位 総理そういうことですね。

 首相 経済審の意見を承ったときに、たしかにそのように申しました。ただこれは非常に専門的知識のいる部分でありますので、薬務局の責任者がおりましたなら、薬務局の方から答弁をさせたい。(首相「だれか専門家はいないのか」というが、だれも答弁に立たない)

新薬の「原価」も、承認プロセスもまったく国民にあきらかにされていない

 志位 第二の問題として、もう一つ提案したい問題があります。新薬の承認審査と薬価決定のプロセスの透明化の問題です。これを調べていますと、あまりにもこの新薬承認、薬価算定が、ブラック・ボックスでやられているということにあ然といたしました。

 新薬の価格を決定する場合、同じ系統の薬がない、まったく新しい薬の場合は、いわゆる「原価」にもとづいて価格算定をおこなうわけですが、この「原価」の情報というのは、国民にまったく明らかにされていない。ブラック・ボックスであります。メーカーいいなりの密室審査になっている。これが実態です。

 それから大部分の新薬の承認というのは、「類似薬効比較方式」というやり方でやられています。これはすでに出回っている医薬品と比較して、同程度の薬効のものは、だいたい同じ値段、有用性が高いと認定したものは、高い値段をつけるというやり方であります。ところがこれもよく調べてみますと、比較の対照にする薬の選定、あるいはどこがどうすぐれているかという有用性の評価などについては、情報がまったく国民に明らかにされていない。これは非常に大きな問題だと思う。

 新薬の承認審査と薬価決定のプロセスにかんする情報を、個人のプライバシー、あるいは特許にかんするものを除いて、全面的に公開するのは当然ではないでしょうか。

 厚相 薬価の透明性確保は重要な問題でありますので、今後、透明化をいかに図っていくか、これを含めて検討させていただきたいと思います。

 志位 この問題でも、もう一回総理に答弁いただきたい。経済審議会の建議のなかで、この問題も指摘している。「薬事行政の透明化」。「国民に対し、十分かつ詳細な情報が提供されず、チェック機能が働いていないことが挙げられる。そこで新薬承認手続きや薬価の在り方について、国民に詳細な情報を提供する必要がある」とのべられているわけですから、総理の見解としてはっきりお答えいただきたい。

 首相 いま厚生大臣から積極的なお答えを申しあげました。そのとおりの方向で進んでまいります。

高薬価が是正されない根本に製薬業界からの巨額献金「薬価をさげるな」という政治家からの圧力も

 志位 そうしますと、この新薬承認の仕組みも、透明化という問題もメスを入れるということになれば、そっちを先にやることが先決じゃないですか。そのことを徹底してやって、高い薬価を引き下げれば、ドイツ並みにすれば、2兆、3兆という財源がそこから生まれる。保険料引き上げや、患者負担増なしにも、本当の意味でこの医療保険会計の赤字をなくすことができるのですよ。こっちが先決ではないか。

 最後にこの問題で率直にうかがいたいことがある。高薬価の問題がなかなか是正されない根本に、やはり製薬業界からの献金の問題があると思います。私が調べますと、大変な巨額に驚きます。

 私の調べでは95年だけでも、製薬会社など医薬品業界から自民党の国民政治協会に、少なくとも総額1億4500万円もの政治献金が渡っております(「製薬会社からもらって銀行からもだよ」の声)。橋本総理への献金も大変巨額であります。これはすでに総理ご自身が国会で明らかにした数字ですが、92年から94年までの3年間に、製薬業界から総額9100万円の献金を受けている(「すごい」の声」)。なんで、製薬会社がこんな巨額なお金をあなたや自民党に出すと思いますか。どうでしょう。

 首相 協力し、育てていこうという気持ちと思います。

 志位 出すほうの証言をいくつか紹介したい。全国の製薬企業で組織する「日本製薬団体連合会」、日薬連という組織があります。報道によると、その理事長が、「製薬業界の良き理解者を支援し、育てるため」といっています。この「良き理解者」に薬価も含まないとは、言い切れない。ある製薬業界関係者は、巨額の政治献金の理由について、「薬価が1円違うだけで、薬によっては年間数億円も利益に差が出る。製薬企業の生命線ともいえる薬価や新薬の許認可権限は厚生省が一手に握っており、企業としては厚生省に影響力を持つ政治家に取り入らざるをえない」といっている。その通りじゃありませんか。

 そういう族議員が、一体なにをやっているのか。私は厚生省薬務局のあるOBの方から、先日直接次のような証言を受けました。彼はこういっておりました。「2年ごとに薬価の改定があるが、それにかかわってびっくりしたことがある。厚生族議員の秘書が課長や局長に『○○企業の薬を下げないでくれ』と電話をしてくる。電話をしてくるのは2けたぐらいの政治家筋だ。これにもとづいて『マル政』のリストをつくる。事務の打ち合わせのときに、これは『マル政』だとして、『○○先生のところから○○企業』と、口頭で報告がありました。こんなことが本当にあったのかとびっくりしました」、こういう証言であります。私は、「政治家銘柄」があると聞いて本当に驚きました。異常に高すぎる薬価が、政治献金の効能でないと、どうしていえるか(「そうだ」の声)。こういう問題が提起されていると思う。

 先の臨時国会で私は、総理にたいして悪徳商法をおこなっている病院寝具協会などから多額の政治献金が渡っている、この業界は医療保険財政に大穴を開けているじゃないか、という問題についてただしました。しかし、この医療保険財政への圧迫という点では、寝具(協会)もひどいけれども、この製薬業界、高薬価で巨額の利益をむさぼっている製薬業界の責任はけた違いなものであります(「そうだ」の声)。国民には「医療保険財政の赤字」を理由に負担増をとく。ところが自分は高薬価で保険財政の赤字を作りだしている製薬業界から金をもらい続ける。こんなことはだれが聞いても理解しがたいことだと考えます(「そうだ」の声)。総理どうですか。

 首相 私はたしかに政治家としての活動をするために、政治資金の提供を受けております。それとみずからの行動と、いまのような小説を描かれることはたいへん残念なことです。そして、先ほどらい私は薬価基準の見直しという問題を申し上げております。そのうえで、専門家が来ておられないのが大変残念ですけれども、私はいま薬価算定というものが、委員が厚生省OBの証言というお話がありましたけれども、そのようにズサンな姿でおこなわれているとは思いません。少なくても、類似薬効評価というものがあり、すでに開発されている医薬品の同時の、同じ薬効をもつものはだいたい同程度の価格。まったく新しく生み出されたものについては、まったく新しい原価、プラス開発関係も入ったのではないですか。私ちょっと正確なのは忘れましたが、そういったルールで価格設定がされていると聞いておりますけれども、具体的な内容については、むしろ専門家からお答えするのが正しいと思いますが、残念ながらおりませんので、私から申し上げました。

高薬価に抜本的メスをいれれば「赤字」は解決する患者負担増の計画を撤回せよ

 志位 小説とおっしゃったけれども、全部事実なんです。「事実は小説よりも奇なり」といいますが、本当に奇怪なことが起こっているわけです。あなたは、ずさんではないといわれたけれども、経済審議会の建議のなかで、本来承認すべきじゃないものも(新薬として)承認されているのは問題だと、ずさんな審査をやっていると認めているじゃありませんか。

 高すぎる薬価に抜本的なメスを入れることによって、医療保険会計の赤字を解決することは可能であって、それをやらずに(国民に)負担増をおしつけることは許されない、これを撤回すべきだということを重ねて申し上げて私の質問を終わります。

(拍手)



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