本会議 第134通常国会 95年10月3日
志位和夫君 私は、日本共産党を代表して、村山総理、橋本通産大臣及び武村大蔵大臣に質問いたします。
この間、世界と日本の平和と安全にかかわって、多くの国民の怒りを呼び起こした二つの重大事件が起こりました。
第一は、沖縄での米兵による少女暴行事件です。
被害者の少女の恐怖と苦しみ、家族の怒りと無念さは、どんなに深いでしょうか。占領者意識むき出しの極悪非道な犯罪に対して、私は怒りを込めて糾弾するものであります。(拍手)
事件は、日本国内で日本人に被害を与える犯罪が行われながら、日本側が二十六日間も逮捕・拘禁ができないという日米地位協定の屈辱的な実態を浮き彫りにしました。
地位協定では、アメリカが公務中と認定した事件では日本側は裁判権すら保障されていないのです。そのため、これまでも沖縄では凶悪な犯罪を犯した米兵が逃亡したり処罰を免れるなどの事態が繰り返されてきました。地位協定によってこうした屈辱的な立場に置かれているのは沖縄県民だけでなく、日本国民すべてであります。多くの国民から、これで独立国と言えるのかという怒りの声が沸き起こっているのは当然であります。
総理、あなたはこうした地位協定の実態を我が国に対する重大な主権侵害と考えないのですか。日本共産党は、捜査権、裁判権にかかわる米軍の治外法権的な特権を撤廃するため、日米安保条約の廃棄を目指しながら、それが決着する以前にも、緊急の課題として日米地位協定の抜本見直しを要求するものであります。総理の見解を求めます。
米軍基地が存在する限り県民の生命、安全が常に危険にさらされる、これが沖縄県民の声であります。日本の米軍基地の七割が集中している沖縄では、一九七二年の本土復帰以来、米軍による刑法犯罪は四千六百七十五件にも達し、殺人、強盗、女性への暴行などの凶悪事件だけでも実に五百八件も起きております。
総理、あなたは、米軍基地の存在を認めて今度のような悲劇を根絶できるとお思いになりますか。二度とこうした事件を起こさないためにも、米軍基地の存在そのものを全面的に見直し、その撤去を真剣に検討すべきではありませんか。答弁を求めるものです。(拍手)
第二は、中国とフランスの核実験の問題です。
世界的規模での抗議に背いて、昨日フランスが核実験を繰り返したことは、絶対に許せません。これに対して、唯一の被爆国である日本の政府が今どういう姿勢をとるかが厳しく問われております。
私は、総理に次の三つの点を伺いたい。
一つ。フランスのシラク大統領は、核実験再開の最大の理由として、フランスを守るためには核抑止力は不可欠だと述べています。しかし、そういう立場に立つなら、核兵器を持たない世界の圧倒的多数の国はどうやってみずからの国を守ったらいいのか説明がつきません。総理は、こうした核抑止力論についてどうお考えですか。
二つ。フランスと中国の政府は、日本政府に対して、「日本は核実験を批判するが、その日本もアメリカの核の傘のもとにいるではないか。アメリカの核抑止力の恩恵にあずかっているではないか」と居直り的な反論をしてきています。総理は、この反論に対してどうお答えになりますか。
三つ。アメリカのクリントン大統領は、八月十一日の声明の中で、「核爆発実験を禁止する包括的核実験禁止条約を目指すが、そのもとでも、必要とあれば至高の国家的権利を行使して核実験を行う」と明言しています。総理は、アメリカには核実験を行う至高の国家的権利があるというクリントン大統領の立場をお認めになりますか。
米ソが対立していた時代には、核抑止力論は、互いに相手の核兵器の脅威に対抗するという口実で説明されてきました。しかし、ソ連の崩壊でこの口実は崩れ去りました。核抑止力論が核兵器を永久に持ち続けるための核保有国の横暴で身勝手な論理でしかないことは、今やだれの目にも明らかではありませんか。
総理、あなたの、核実験反対、核兵器廃絶という言明が真剣なものなら、これまでの歴代政府がとってきた核抑止力論肯定の立場と、日米安保条約のもとで核の傘を受け入れるという政策を根本から自己検討する必要があるのではないでしょうか。核兵器廃絶を究極課題でなく、期限を区切った緊急課題として掲げるべきではありませんか。明確な答弁を求めます。
沖縄の暴行事件、中仏の核実験問題、どちらも政府の対応の問題点の根をたどってまいりますと、日米安保条約の問題に突き当たります。
米軍基地による被害は、沖縄はもとより、日本全土に及んでおります。我が国の航空法を無視して超低空飛行訓練が行われ、多くの人々が不安と危険にさらされています。横田や厚木など首都圏の人口密集地で行われている夜間離着陸訓練は、耐えがたい苦しみをもたらしています。
日米地位協定では在日米軍の駐留維持費はアメリカが負担すると明記しているのに、思いやり予算と称して国民の莫大な血税が注がれ、新しい特別協定によってこれが米軍の訓練費にまで拡大されようとしています。総理、アメリカが地位協定の特権を振りかざして日本の犯罪捜査権まで侵害する姿勢をとっているときに、日本が地位協定にすら負担義務のない思いやり予算を増額するいわれが一体どこにあるでしょうか。これはきっぱり中止すべきではありませんか。
これまで歴代政府は、日米安保条約について、ソ連の脅威から国民の安全を守るという議論で説明してきました。しかし、ソ連が崩壊するもとで、この口実は成り立たなくなりました。政府は、十一月の日米首脳会談において安保条約の再確認を行うとしていますが、今なぜ再確認が必要なのですか。どこに新しい内容があるのですか。私は、それが日米安保の地球的規模への拡大という危険な変質を意図するものであることを厳しく指摘せざるを得ません。
日米安保条約は、日本に屈辱的な主権侵害をもたらすとともに、地球的規模での日米共同の軍事行動に道を開き、世界の平和を脅かすものであります。私は、日米安保条約について、これまでの惰性にとらわれず、そのあり方を根本的に再検討し、その解消を真剣に探求することが、未来に責任を負っている政治家の務めだと確信するものであります。総理の見解を求めます。
次に、経済対策について質問します。
九〇年代に入って始まった不況は、戦後最悪の深刻な事態となっています。失業率は過去最高を記録し、就職できない若者が急増しております。異常円高と産業空洞化のもとで、中小企業は次々と倒産、廃業に追い込まれております。GNPの六割を占める個人消費が三年連続して落ち込んでいることは、不況によって国民生活がいかに痛手をこうむっているかを示すものであります。
私が総理にまずお聞きしたいのは、不況の深刻な長期化を招いている政治の責任をどう認識しているかということです。
政府の経済対策を見ますと、規模は十四兆円と巨額のものですが、景気回復の主役である個人消費を直接温める対策が全く含まれていません。あなた方は、公共投資の上積みがめぐりめぐって個人消費の回復につながると言ってきましたが、九二年以来過去五回にわたって総額四十八兆円もの経済対策を行い、そのうち三十四兆円も公共投資につき込みながら、少しも個人消費の回復につながっていないではありませんか。そのことは、政府の経済白書も「公共投資の上積みが景気回復の主役である個人消費にバトンタッチされていない」と認めていることです。その総括もなしに規模だけ膨らましても、景気回復の保証はないではありませんか。政府は、これまでの経済対策が景気回復に効果を上げていないという事実をどう総括しているのですか。
公共投資の上積みという従来型の対策を惰性的に続けるのではなく、そこに抜本的な自己検討を加え、庶民減税、雇用の安定、福祉の充実、阪神大震災の被災者の方々への個人補償の実現など、個人消費を直接温めるための思い切った対策をとるべきではありませんか。総理の答弁を求めます。
私は、さらに次の点について政府の見解を伺います。
第一は、税制問題についてです。
この問題で今、政府・与党、財界から聞こえてくるのは、法人税、土地税制、株の税制の減税をという声であります。しかし、その恩恵を受けるのは、ごく一握りの大企業、大銀行にすぎません。そして重大なことは、これが消費税の増税と一体のものであるということであります。財界首脳から、法人税減税の財源として消費税の六%以上の増税をという要求が出され、加藤政府税制調査会長からも、税率見直しで消費税を六%以上にという発言がされていることは、多くの国民を不安に陥れています。
大企業減税のツケを消費税のさらなる増税で図るというのは、公約違反として許されないだけではなく、庶民の暮らしを冷え込ませ、不況を一層深刻なものとしてしまいます。税率五%への増税はもちろん、来年九月までの税率見直しての六%以上への再引き上げは絶対にやるべきではありません。この点について、特に税率見直しての再引き上げをやらない生言明できるのかどうか。与党三党の党首でもある村山首相、橋本通産大臣、武村大蔵大臣に見解を求めるものであります。
第二は、異常円高についてです。
今、為替レートは、一ドル八十円前後から少し戻して百円前後となっていますが、例えば横浜商工会議所の調査でも、一ドル百円の為替レートでも採算のとれる中小業者はわずか一六%にすぎません。政府は、今の為替レートの水準で中小業者の経営が成り立つと認識しているのですか。成り立たないと考えているのならば、政府は一体どういう為替レートの回復の目標を持っているのですか。
この点で、私が驚きを持って読んだのは、ことしの経済白書が「円高とともに生きる覚悟を持て」ということをあからさまに国民に押しつけていることです。この立場に立ては、今大企業が進めている人減らしや下請業者に対する単価たたきなどを我慢して耐え忍べということになるではありませんか。それは、円高のさらなる加速と不況の一層の深刻化を招くだけであります。総理は、異常円高を本気で是正する立場に立つのですか。それとも、経済白書のように「ともに生きる覚悟を持て」という立場なのですか。はっきりとお答え願いたい。
異常円高を是正するという立場に立つならば、労働条件と下請条件を抜本的に改善することによって、国際的にも異常な輸出巨大企業の競争力を正し、巨額の貿易黒字を是正する、私たちはこの道こそが唯一の道理ある活路であると考えますが、総理の見解を伺いたいと思います。
第三は、金融問題についてです。
〇・五%という史上最低の公定歩合への引き下げは、国民生活、とりわけ年金や預貯金を頼りに生計を立てている高齢者に深刻な打撃を与えています。九回にわたる公定歩合の引き下げによる庶民の預貯金金利の目減りは、何と累計数十兆円に及ぶと言われております。こういうやり方を続けていては、ますます個人消費は冷え込み、不況が深刻になるだけではありませんか。
政府が公定歩合の引き下げにどういう理由をつけようと、結果として、これによって莫大な利益を得ているのが大銀行であることは明瞭であります。大銀行は、バブルの時期に巨額の内部留保を蓄えた上、たび重なる金利引き下げによって空前の業務純益を上げており、不良債権処理の能力を十分に持っています。庶民から吸い上げたお金でその救済を図ってやるいわれは絶対にありません。ましてや、公的資金の名で国民の血税を注ぎ込むなど、論外であります。我が党は、大銀行の乱脈経営のツケを国民に回すやり方は中止すべきだと考えますが、総理の見解を問うものであります。
最後に、今、オウム事件を口実として、公安調査庁が破壊活動防止法の団体規制の適用を進めようとしていることについて質問いたします。
もともと破防法とは、思想、信条、言論、出版、結社の自由を乱暴に抑圧する、憲法とは絶対に両立し得ない民主主義破壊法であります。また、民主団体や運動に対して違法、不当なスパイ活動を行っている秘密警察、公安調査庁の根拠となっているものであります。
破防法が制定された一九五二年の当時の経過を振り返ってみますと、日本共産党はもとより、当時左右に分裂していた社会党の双方が、戦前の治安維持法の再現としてこれに反対し、総評も抗議ストライキを行うなど、国論を二分する大きな運動が広がりました。法律学界の大勢も、憲法違反の数々の重大な問題点を批判し、これに反対いたしました。だからこそ、この法律がつくられて以来四十三年間にわたって団体規制は一度も適用されていないのです。
万が一にも村山内閣のもとでこの悪法が適用されることになったら、日本の民主主義の未来を極めて重大な危機にさらすことになります。この問題を行政の一部局にすぎない公安調査庁任せにして、悪法の適用に道を開くことは許されません。
総理は、日本の民主主義と国民に責任を負う立場にある者として、この問題の重大性をどう認識しているのですか。見解を求めるものです。
オウムの解散は、既に宗教法人法に基づく解散請求が行われておりますが、これに基づいて早期の解散を決定することこそ最も道理があり、オウムの違法活動の防止という点でも最も実効性があるものです。
日本共産党は、憲法と民主主義をあくまでも守り抜く立場から、憲法違反の破防法の適用に断固として反対することを表明して、私の代表質問を終わります。(拍手)
〔内閣総理大臣村山富市君登壇〕
内閣総理大臣(村山富市君) 志位議員の質問にお答えを申し上げます。
今回の沖縄の事件について、地位協定のもとでの裁判権の取り扱いが主権侵害に当たるのではないかとの御質問でありますが、今回の事件は、米軍構成員の公務外における犯罪であって、地位協定によって日本側が第一次の裁判権を有するものであることは明らかでありまして、九月二十九日に本件事件の被疑者三人の身柄は米側から我が国に引き渡されており、御指摘のような主権侵害に当たるとは考えておりません。
次に、日米地位協定の抜本見直しを要求するとの御質問でありますが、地位協定第十七条は、米軍人等の犯罪に対する我が国の裁判権の存在を確認した上で、我が国の刑事裁判権と米国の刑事裁判権が競合する場合の調整等につき定めたものでありまして、NATO等の他国の例もほぼ同様の内容となっており、御指摘のようないわゆる治外法権的特権を与えたものとは考えておりません。
いずれにいたしましても、日米協定十七条五回の規定については、今般、刑事裁判手続に関する特別専門家委員会を設置し、同委員会において真剣かつ精力的な検討を行い、早急に結論を得るよう全力を尽くしてまいる所存でございます。
次に、米軍人による犯罪を根絶するためには米軍基地を撤去すべきではないかとの御質問でありますが、今回の事件は極めて遺憾な事件であり、政府としても、先般、日米外相会談、日米安全保障協議委員会等あらゆる機会を利用して米側に再発防止を強く申し入れてきたところでございます。
これを受けて米側も、沖縄に駐留する海兵隊の反省の日を設け、通常の訓練を休止し、地元への責任等についての討論、講義を終日実施すること、午後九時以降の基地内における酒類の販売を禁止すること、従軍牧師が暴力の防止についての指導を行うこと、米軍の機関紙及び放送を通じて個々の米軍人の責任感を喚起すること等々の具体的な措置を相次いで発表したところでございます。
政府といたしましては、引き続き米側に対し再発防止について強く働きかけを行うとともに、現在専門家レベルで検討している刑事裁判手続の問題についても早期に結論を得るよう努力する考えであります。なお、基地問題にかかわる諸問題については、日米合同委員会等の場を通じて努力をしてまいりたいと存じます。
次に、フランスの核抑止力論についてのお尋ねでございますが、現実の国際社会においてはいまだ核兵器を含む多大な軍事力が存在しており、各国は、こうした現実のもと、おのおのの戦略環境を踏まえた安全保障政策をとっていると承知をいたしております。こうした中で、我が国は、核兵器の究極的な廃絶を目標として現実的な核軍縮措置を着実に積み重ねていくことが重要であるとの立場を一貫してとっておりまして、今後ともすべての核兵器国に対し核軍縮に真剣に取り組むよう強く訴えてまいる所存でございます。
我が国が核抑止力の恩恵にあずかりながら核実験を批判するのはおかしいではないかとの反論についての御質問でありますが、我が国としては、従来から核兵器の究極的廃絶を目標とし、これに向けて現実的な核軍縮措置を一歩一歩積み重ねていくことが重要であるとの立場に立っております。我が国としては、いまだ核兵器を含む多大な軍事力が存在している現実の国際社会において、米国との安全保障条約を堅持し、その抑止力のもとで自国の安全を確保することと、究極的に核兵器のない世界を目指して核軍縮を推進し、そ
の過程で核実験の中止を求めることは、何ら矛盾するものではないと考えております。
次に、核実験に関するクリントン大統領の立場については、現在交渉中の全面核実験禁止条約案を含め、通常の軍縮条約において共通して見られる脱退条項の文言を念頭に置いての御質問と思われますが、同大統領は、全面核実験禁止条約により、規模の大小にかかわらずすべての核実験及びすべての核爆発が禁止されるべきとの米国の立場を明らかにしており、米国が現実に核実験を行うとの意図を示すものではないと考えております。
次に、核実験反対ないし核兵器の究極的廃絶と核抑止力とは矛盾するのではないかとのお尋ねでありますが、我が国としては、核兵器の究極的な廃絶を目標として現実的な核軍縮措置を着実に積み重ねていくことが重要であるとの立場を一貫してとっており、このために種々努力をしてきております。全面核実験禁止条約交渉の推進も、こうした努力の一環であります。
その一方で、国際社会の現実を踏まえれば、核兵器を保有しない我が国としては、民主主義的価値を共有する米国との安全保障条約を堅持し、その抑止力のもとで自国の安全を確保していく必要があります。政府としては、こうした現実の状況を踏まえつつ、究極的には核兵器に依存する必要のない世界を目指して、今後とも核軍縮を推進してまいる考えでございます。
核兵器廃絶を期限を区切った課題にすべきとの御意見でありますが、政府としては、核兵器の廃絶を究極的な目的として、米ロ両国による戦略兵器削減条約の実施、国際的な全面核実験禁止条約交渉の早期妥結といった実現可能な具体的核軍縮措置を一歩一歩進めていくことが重要との立場であり、現時点においては、あらかじめ核兵器廃絶の期限を設定するということは現実的ではないと考えております。
在日米軍駐留経費負担を中止すべきではないかとの御質問でございますが、冷戦の終結後も、東アジアを初めとして国際社会が依然不安定要因を内包している中で、我が国が引き続き安全を確保していくためには、日米安保条約は必要であります。また、日米安保体制は、国際社会における広範な日米協力関係の政治的基盤ともなっており、さらに、アジア・太平洋地域における安定要因としての米国の存在を確保し、この地域の平和と繁栄を促進するために不可欠と認識をいたしております。
在日米軍駐留経費負担は、米軍の我が国における駐留を支える大きな柱であって、我が国は、日米安保体制の円滑かつ効果的運用を確保していくとの観点から、これまで自主的にできる限りの努力を払ってきたところでございます。このような観点から、今般、今年度末で失効する現行特別協定にかわるものとして新たな協定について署名を行うに至ったところであり、政府としては、所信表明演説でも申し上げたとおり、適切に対応していきたいと考えておりますので、在日米軍駐留経費負担について中止する考えはありません。
次に、安保条約の再確認についての御質問でありますが、冷戦後の国際社会においては、地球的規模の戦争の可能性は大幅に減少したことは事実ですが、他方で、依然としてさまざまな不安定要因も存在しております。このような状況の中で、日米安保体制の円滑な運用を確保していくことは、日米両国のみならずアジア・太平洋地域にとっても重要であり、これが最も効果的に機能するために安全保障面で日米がいかなる協力を進めていくべきかについて、これまで米国との間で種々意見交換を行ってきたところでございます。十一月にクリントン大統領が訪日される際、このような意見交換の成果を踏まえ、日米安保体制の重要性を首脳レベルで総括することができれば極めて有意義であろうと考えております。
次に、日米安保条約の解消を探求すべきではないかとの御質問でありますが、冷戦の終結後も東アジアを初めとして国際社会が依然不安定要因を内包している中で、我が国が引き続き安全を確保していくためには、日米安保条約は必要であります。また、日米安保体制は、国際社会における広範な日米協力関係の政治的基盤となっており、さらに、アジア・太平洋地域における安定要因としての米国の存在を確保し、この地域の平和と繁栄を促進するために不可欠と認識をいたしております。したがって、日米安保条約を解消することは考えておりません。
これまでの経済対策が効果を上げていない、また、不況の長期化を招いている政府の責任をどう認識しているかとのお尋ねでございますが、今次の景気局面において、政府が講じてきた累次の経済対策の実施に伴う公共投資の成長率への寄与は大きなものであり、かなりの経済効果を示してまいりました。また、金利も史上最低水準になる等、金融緩和基調を維持しております。
それにもかかわらず、日本経済の回復のスピードは、従来の回復初期の局面に比較をして極めて緩やかなものにとどまり、最近の景気は、足踏み状態が長引く中で、弱含みで推移しているのも事実でございます。
政府といたしましては、こうした経済の現状に的確に対応するため、四月の緊急円高・経済対策以降切れ目なく各般の対策を講じてまいりましたが、為替や株式市場に明るい兆候が見られるようになっている今こそ的確に効果的な景気対策を打つべきであると考え、去る九月二十日に、事業規模として過去最大の十四兆円を超える経済対策を決定したところでございます。
政府としては、今後とも本対策の着実な実施と機動的な経済運営を行っていくことにより、一日も早く景気の先行きに生じている不透明感を払拭し、我が国経済の回復を確実なものとするとともに、中長期的にも我が国経済の持続的発展を確保してまいる所存でございます。
次に、経済対策についての御提言でございますが、政府の今回の対策においては、思い切った内需拡大策に加え、直面する課題の早期克服及び経済構造改革を一層推進するという観点から、公共事業の重点的な配分、教育・医療施設の近代化、社会福祉施設等の整備、総合的な中小企業対策や雇用創出に重点を置いた雇用対策、研究開発・情報化の促進、新規事業育成等々、的確かつ効果的な対策を講じたところでございます。
また、個人所得課税につきましては、三・五兆円の恒久的な制度減税に加え、景気に配慮をいたしまして、七年度において二兆円の特別減税を上乗せすることにより六年度と同規模の減税を実施しているところでございますが、この六月の緊急円高・経済対策の具体化・補強策において、八年度においても、景気が特に好転しない限り特別減税を継続することとされているところでございます。
消費税率の引き上げについての御質問でございますが、消費税率につきましては、昨年成立した税制改革関連法において、平成九年四月一日から新たに創設されました地方消費税と合わせ五%に引き上げる旨が決められております。また、その附則におきまして、いわゆる見直し規定が設けられているところでありますが、現時点では、何ら予断を持つことなく、見直し規定に盛り込まれた諸点を勘案し、検討を進めてまいりたいと考えておるところでございます。
次に、今の為替レート水準で中小企業の経営が成り立つかとのお尋ねでありますが、最近、為替相場が円高是正の方向に動いてきていることとはいえ、中小企業の経営が好転するまでには至っておらず、中小企業の多くは依然として厳しい状況に直面しているものと認識をいたしております。
為替レートの回復の目標についてのお尋ねでございますが、政府としては、最近の為替相場の動きは、四月二十五日のG7会合で合意され、ハリファクス・サミットで再確認された「秩序ある反転」の過程にあると考えております。我が国としては、こうした「秩序ある反転」の流れを一層進めるために、引き続き為替相場の動きに細心の注意を払いながら、関係通貨当局とも緊密に連携をとりながら対処してまいりたいと考えております。
次に、円高の是正に関するお尋ねでございますが、ことしの経済白書では、円高による競争力の低下や内外価格差などの構造問題は、日本経済が有しておる生産性をさらに向上させることで解決可能であるとし、円高のメリットを活用し、円高とともに生きる覚悟を持って、日本経済のシステムや体質を為替レートの変動に適応させる努力をすることが必要であると指摘をしております。しかしながら、同白書においても、為替相場が経済の基礎的諸条件を反映した水準から大幅に乖離した状況での産業調整、雇用調整は極めて深刻であることに留意すべきであるとし、年初以来の円高については、その乖離の解消が何よりも重要な政策課題であるといたしております。
政府としては、四月の緊急円高・経済対策以降切れ目のない施策を講じてきているところでございまして、引き続き為替動向を含めた内外の経済動向を注視しながら、機動的かつ弾力的な経済運営に全力を挙げてまいる所存でございます。
次に、輸出巨大企業の競争力を正し、円高を是正すべきであるとの御指摘でありますが、我が国の貿易収支黒字の削減、円高の是正は、政府として現在最優先で取り組んでいる課題の一つでございます。このため、政府といたしましては、この春以来、規制緩和や輸入促進策を盛り込んだ緊急円高・経済対策やその具体化、補強を図るための諸施策、さらに円高是正のための海外投融資促進対策など切れ目のない施策を講じてきており、最近では為替相場は円高是正の方向に動いてきておると思っております。さらに、この機を逃すことなく、景気の早期回復を図るため、先般の経済対策においても過去最大規模の内需拡大策を講じることとしたところでございます。
なお、労働条件の改善、下請条件の改善につきましては、雇用政策、中小企業政策の観点から、引き続き遺漏なきを期していく考えでございます。
次に、公定歩合引き下げと個人消費、景気との関連についてのお尋ねがございましたが、先般の引き下げにより、公定歩合は史上最低の〇・五%の水準にございます。また、累次にわたる引き下げによりまして、各種金利は低い水準にございまするし、金融緩和の効果の一層の浸透が図られるものと考えております。金利水準の低下は、金利負担の軽減を通じて企業の活動に好影響を与え、景気回復に大きく寄与するものと考えられ、これがひいては消費にも好ましい影響を及ぼすものと考えております。
なお、老齢福祉年金の受給者等に対しては、現在、福祉定期預金の受け入れにより対応しているところでございます。
次に、大銀行の乱脈経営のツケを国民に回すべきではないとの御指摘でありますが、金融システムは経済の動脈ともいうべきものであり、早期に不良債権の処理を行い、金融システムの機能回復を図ることは、日本経済を本格的な回復軌道に乗せるために喫緊の課題であると考えております。
金融機関の破綻処理につきましては、まず金融機関の自助勢力や最大限の預金保険料引き上げを含む金融システム内での最大限の対応が求められますが、そのような措置を講じた後にもなお、金融機関を消滅させる一方で、ペイオフにより預金者に損失を負担させることが困難な場合には、公的資金の時限的な導入も検討課題になろうと考えます。
ただ、これにより納税者に負担を求めることにつきましては慎重な検討が必要であり、政府といたしましては、金融システム内の最大限の対応努力を求めた上で、公的資金の時限的導入など公的な関与のあり方についても検討を進めてまいる所存でございます。
次に、オウム真理教に対する破防法適用問題についてのお尋ねでございますが、オウム真理教が引き起こした一連の事件につきましては、犯罪史上例を見ない極めて凶悪な犯罪であり、こうした事件を再び許すようなことは絶対にあってはならないものでございます。同時に、この法律は、国民の基本的権利に重大な関係を有するものであり、厳正かつ慎重に運用されるべきものであると考えております。公安調査庁では、本件に関し、法と証拠に基づいて、破防法所定の団体規制の適用要件に合致するか否かを慎重に検討している段階にあるものと聞いております。オウム事件を口実にして破防法の適用を進めようとしているとの御批判は全く当たらないと考えております。
残余の質問につきましては、関係大臣から答弁をさせます。(拍手)
〔国務大臣橋本龍太郎君登壇〕
国務大臣(橋本龍太郎君) 消費税率の見直しについてお尋ねがございました。
消費税率につきましては、昨年成立した税制改革関連法におきまして、平成九年四月一日から、新たに創設された地方消費税と合わせ五%に引き上げることが定められております。また、その附則において、いわゆる見直し条項が設けられているところでありまして、現時点では何ら予断を持つことなく、見直し規定に盛り込まれた諸点を勘案し、検討を進めてまいりたいと考えております。(拍手)
〔国務大臣武村正義君登壇〕
国務大臣(武村正義君) 私も、消費税の御質問でありますが、村山総理大臣の御答弁と全く同じ見解であります。法の見直し規定の趣旨に沿って、予断を持たないで真剣に検討をしてまいりたいと思います。(拍手)