2011年10月8日(土)「しんぶん赤旗」

選別と切り捨ての「復興」ではなく、すべての被災者の生活と生業を支援し、地域社会全体を再建する復興を

大震災・原発災害にあたっての提言(第3次)

日本共産党幹部会委員長 志位 和夫


 日本共産党の志位和夫委員長が7日、野田佳彦首相に提出した「選別と切り捨ての『復興』ではなく、すべての被災者の生活と生業を支援し、地域社会全体を再建する復興を――大震災・原発災害にあたっての提言(第3次)」は次の通りです。


 大震災・原発災害から7カ月が経過し、被災地では復興に向けて懸命の努力が続けられているが、生活と生業(なりわい)の再建は遅々としてすすんでいない。原発事故は収束の見通しも立たず、放射能被害が拡大している。被災地に住民が戻り、暮らし続けていける地域として復興できるのかどうか、今まさに重大な岐路を迎えている。

 いま、政府の復興政策のさまざまな分野で、「競争力」や「規模」などの条件をつけ、上から選別し、切り捨てる施策が出てきている。「水産特区構想」やTPP(環太平洋連携協定)への参加など、被災した農業者や漁業者、中小企業の仕事を奪い、「競争で淘汰(とうた)」しようという動きも露骨になっている。これは、大震災に乗じて、「強い者をより強くする、弱い者は切り捨てる」という「構造改革」型の政治を押しつけることにほかならない。

 また、政府が、「個人財産の形成になる」などという「理屈」で、民間の商店、工場、医療機関などの復旧を支援しないという古い見解にしばられていることも、復興の重い足かせになっている。

 被災地の復興のためには、選別と切り捨ての「復興」でなく、すべての被災者・被災事業者を対象に、破壊された生活と生業の回復を支援し、地域社会、地域経済の全体を再建することを目的とした施策を実行することがどうしても必要である。

 福島県の復興は、原発事故の収束、除染と賠償が大前提となる。それをすすめるうえでも、不当な「線引き」による被害者の切り捨てを許さず、国と東京電力の責任で、全面的な除染と賠償を行うことが求められる。

 日本共産党は、大震災・原発災害にあたって、3月31日に「第1次提言」、5月17日に「第2次提言」を発表し、政府に提起してきた。それらをふまえ、以下の諸点について、政府が国の責任を果たすべく全力をあげることを提言する。

1、財源問題の二つの提案――復興財源と、原発災害対策の財源をどう確保するか

 東日本大震災は、かつてない地震・津波災害に、原発災害がくわわるという、未曽有の規模の大災害となっており、復興財源の規模もあらかじめ予想ができない巨額のものとなることは間違いない。

 すべての被災者の生活と生業を支援し、地域社会全体を再建する復興をすすめるという大仕事は、これまでの古い政治の枠組みに手をつけず、その枠組みのもとで財源枠をあらかじめ決め、その範囲内で施策を行うという小手先の姿勢では、到底なしとげることはできない。従来の古い枠組みを聖域なく見直し、大胆に財源を確保するという姿勢が強く求められる。

 また、財源問題を解決するうえでは、(1)地震と津波によって引き起こされた災害からの復旧・復興財源――一般の復興のための財源と、(2)原発事故によって引き起こされた災害に対して除染・賠償などをすすめるための財源――原発災害対策財源を、それぞれ確保する方策が必要である。

 日本共産党は、大震災・原発災害の財源として、以下の二つの提案を行う。

(1)一般の復興の財源――大企業・大資産家への減税ばらまきと歳出の浪費にメスを

 政府は、復興財源として、所得税と法人税を軸とする臨時「増税」を打ち出した。しかし、法人税は、5%減税したうえで、その範囲内で付加税を3年間に限って課すというもので実質2%の減税となる。サラリーマンと自営業者などだけに10年間の増税、大企業には減税し、3年たったらさらに大減税というのは、あまりにも不公平であり、わが党はこうした庶民増税には反対である。

 一般の復興のための財源については、第一に、不要不急の大型公共事業の中止、米軍への「思いやり予算」やグアムの米軍基地建設への税金投入の中止など、歳出の浪費にメスをいれること。たとえば、「思いやり予算」などの米軍関連経費(3000億円)、政党助成金(320億円)を中止するだけでも、10年間で3兆3000億円の財源が生まれる。

 第二に、法人税減税と証券優遇税制の延長――大企業と大資産家への減税ばらまきをやめること。政府が計画している法人税減税を中止すれば年間1兆2000億円、証券優遇税制をやめ本則の20%に戻すだけで5000億円、あわせて1・7兆円、10年間で17兆円の財源を確保することができる。

 これらの歳出・歳入の見直しによる財源の一部をあてれば、庶民増税なしに復興財源を確保することは可能である。

 いま、アメリカでも、ヨーロッパでも、「富裕層に増税すべきだ」という議論が、当の富裕層からわき起こり、イタリア、フランス、ポルトガル政府は、富裕層増税を打ち出した。アメリカでもオバマ大統領が、富裕層を中心に10年間で100兆円を超える増税を提案している。ところが日本では、大資産家への大減税である証券優遇税制の延長を震災後に決めた。その結果、1億円の株式譲渡益にかかる実効税率は、アメリカ26・4%、イギリス27・1%、フランス31・3%、ドイツ26・4%に対して、日本はわずか10%という異常な事態となっている。こうした金持ち優遇税制をあらためることは、復興財源を考えるうえでも、今後の社会保障と税のあり方を考えるうえでも、きわめて重要である。

(2)原発災害対策の財源――「原発賠償・除染・廃炉基金」の創設を提案する

 原発災害の除染と賠償にかかる費用は膨大になることが予想される。現時点で費用の見通しを立てることは困難であるが、政府が想定している数兆円という単位よりもはるかに巨額になることは必至である。

 賠償と除染にかかる費用は、第一義的には、事故を起こした加害者である東京電力が負担すべきである。同時に、電力業界、原子炉メーカー、大手ゼネコン、鉄鋼・セメントメーカー、大銀行をはじめ、原発を「巨大ビジネス」として推進し、巨額の利益をあげてきた「原発利益共同体」に、その責任と負担を求めることは当然である。

 東京電力をはじめ電力業界は、原発と核燃料サイクル計画推進などのために、「使用済み核燃料再処理等引当金」をはじめ約19兆円もの積み立てを行うこととし、すでに4・8兆円の積立残高がある。使用済み核燃料の再処理と核燃料サイクル計画は、それ自体が危険きわまりないものであり、また、すでに破たんが明瞭となっており、中止すべきものである。そこで、この積立金を国が一括して管理する基金に移し、「原発賠償・除染・廃炉基金」を創設し、原発災害対策などの財源として活用することを提案する。

 電力業界だけでなく、「原発利益共同体」に属する大企業にも、この基金への応分の拠出を求める。原発事業を推進してきた「日本原子力産業協会」の会員企業主要100社の内部留保の合計は80兆円、うち利益剰余金は57兆円にも積みあがっている。原発推進で莫大(ばくだい)な利益をあげてきた「原発利益共同体」に属する大企業には、資金を拠出する社会的責任とともに、その体力も十分ある。

 日本共産党は、こうした財源的な裏付けをもって、以下の施策をすすめることを提案するものである。

2、働く場の確保――再建の意思のあるすべての事業者・企業を対象に直接支援を

 事業の再開がすすまず、大量廃業、大量失業の危機が迫っている。民間の調査でも、沿岸部のとくに被害の大きい地域では、半数の会社が営業不能状態となっており、多くの漁業者、農業者も事業再開にはほど遠い状況である。事業再開のため、従来の枠組みをこえた個々の事業者への直接支援が緊急課題になっている。

(1)「二重ローン」問題の解決など、事業・企業活動の再開への本格的な支援をいそぐ

「二重ローン」問題の解決――再開の意思があるすべての事業者を対象にした制度に

 商工業者にとっても、漁業者・農業者にとっても、事業再開の最大の足かせになっているのが「二重ローン」である。被災地がその解消を強く求め、わが党も債務の凍結・減免のための具体的提案を示すなかで、政府も県ごとに「産業復興機構」をつくり、公的支援を行うとしている。しかし、「規模が大きい」とか、「再生の見込みがある」と判断された事業者だけを支援するという、被災事業者の選別が行われようとしている。

 こうした「選別」をやめ、再開の意思があるすべての事業者を対象に、迅速に債権の買い取りをすすめ、既存債務を凍結・減免し、新規融資を行う仕組みを早急に実現する。その間、金融機関に返済猶予の延長を求めるとともに、必要に応じて、倒産防止策として政府資金で無利子、無担保の特別融資を行う。

店舗、工場など施設の復旧と事業立ち上げへの直接支援を

 店舗、工場など施設を復旧し、事業を立ち上げるためには、従来の枠組みをこえた個々の事業者への直接支援が緊急課題である。仮設の共同店舗・事務所や「グループ支援」の支援策はあるが、いずれも規模が小さく、抜本的な拡充が必要である。条件をつけずに個々の事業者の施設復旧と事業立ち上げを支援する直接助成制度をつくるべきである。

被災者の実情に応じた多面的な分野での緊急の雇用・失業対策を

 事業再開までの間の緊急雇用対策を、被災者、失業者の実情に応じた多面的な分野で実施することが求められる。政府の雇用創出基金事業は、低賃金で短期の雇用が多く、被災者のニーズにかみ合っていない。被災地での復旧・復興事業を地元の雇用につなげるに当たっては、少なくとも1年以上の雇用期間にすることや、派遣や下請けなどで、違法行為を監視し、適正な水準の賃金を確保する取り組みを求める。

 失業給付の実情にみあった延長、公的職業訓練事業の拡充とともに、雇用調整助成金のいっそうの要件緩和や支給対象期間の延長、被災者を雇用した事業主に助成金を支給する被災者雇用開発助成金の要件を緩和する。

震災を口実にした大企業による解雇・雇い止めや“下請けいじめ”を許さない

 中小企業、地元企業が「震災に負けずにがんばろう」としているときに、体力が十分ある大企業が被災地での工場閉鎖や事業縮小・移転を打ち出し、解雇・雇い止めや被災地からの強制配転を行い、雇用不安を引き起こすことは許されない。

 大企業による単価引き下げなどの“下請けいじめ”もきびしく監視し、是正する。また、復旧・復興事業(官公需)は大企業に一括発注するのではなく、地元企業を優先する。

 大企業に雇用と復興に向けての社会的責任を果たさせる。

(2)被災地の基幹産業である農業、水産業の再建

 農業、水産業は、被災地の基幹産業であり、その再建は、復興の重要な基盤である。日本全体をみても、食料自給率は39%まで落ち込んでおり、東北の農業、水産業の再建は、食料自給率の向上、食料の安定供給のためにも重要な課題となっている。

農業――農地の復旧に国が全面的な支援を

 規模の大小にかかわらず、農業を続けたいと願っている農家が、被災地に残って農業が再開できるように支援する。そのためにも被災農地の早期復旧と整備に、国が全面的に乗り出すことが求められる。早期の営農再開に向け、がれき・ヘドロの除去、除塩、排水施設の復旧など、農地の復旧事業の拡大、加速化をはかる。その際、圃場(ほじょう)整備などは農家の合意のもとにすすめ、大区画化を上から押しつけるようなやり方はとってはならない。

 農地の復旧、営農再開までの被災者の所得を確保するために、JAなどと協力した緊急雇用確保策や経営再開支援事業の延長と拡充も必要である。

水産業――「水産特区」押しつけをやめ、生産・加工・流通一体で再建する全面支援を

 「水産特区構想」には、漁業協同組合をはじめ被災地から激しい批判の声があがっている。目先の利益第一の企業に漁協と同格の漁業権を与えたら、漁業資源の適切な管理が損なわれる。浜の荒廃を招く「水産特区」の押しつけの中止を求める。

 国がやるべきは、生産・加工・流通一体で水産業のインフラ(基盤)を復旧するために、総合的で全面的な支援に乗り出すことである。「グループ化しなければ補助しない」というやり方をあらため、すべての被災事業者を対象にした支援を行う。

 三陸の養殖漁業は重要な産業であり、海上施設、陸上施設の立ち上げを支援する。養殖を再開しても水揚げまでに2〜5年かかる。漁協などとも協力して、その間の生活支援、所得補償対策を行う。

被災地に大打撃となるTPP参加に反対する

 政府は、TPP参加について、11月のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議に向けて、「早期に結論を出す」としている。しかし、TPP参加による関税撤廃は、日本の米の90%を破壊するなど農業に壊滅的な打撃を与え、ワカメ、コンブ、サケ・マスなどの三陸沿岸の主要産品をはじめ水産業にも壊滅的な被害が及ぶ。被災地の復興に重大な障害となり、食料自給率低下を招くTPPへの参加はきっぱり断念すべきである。

3、住まいの再建――政治の責任で、被災者に“住まいの安心”を

(1)被災住宅再建への支援を抜本的に強化する

 阪神・淡路大震災の被災者をはじめ国民の運動が政治を動かし、被災者生活再建支援法がつくられたが、全壊でも300万円の支援にとどまっている。被災者生活再建支援法を改正し、支援対象を半壊や一部損壊にも拡大するとともに、限度額を当面500万円に引き上げる。また、住居と店舗や事務所、作業場が一体となっている場合も対象とする。耐震化や一部損壊住宅の復旧にも役立つ住宅リフォーム助成制度を国が支援する。

(2)復興公営住宅を、多様な形態で大量に建設する

 復興公営住宅の大量建設が必要である。政府は、「希望するすべての被災者に提供する」と答弁したが、それを保障するために、被災者や地域の要望や意見をふまえた建設計画にするとともに、国の補助率を引き上げる。

 その際、戸建てや長屋方式、一定期間経過した後に払い下げるなど、コミュニティーを重視し、地域の条件や被災者の実情にあった多様な公営住宅にする。建設にあたっては、地元産材と地元業者を活用するなど、公営住宅建設が地域経済の活性化に結び付くようにする。

(3)まちの再建――地盤のかさ上げや集団移転事業を全額国庫負担にする

 津波で浸水した市街地をどうするのか、二度と住民の命が損なわれないよう、津波災害だけでなく、大雨洪水や土砂災害の危険なども総合的に検討し、ハード面、ソフト面を組み合わせた安全のまちづくりを、住民合意ですすめなければならない。そのさい、地盤のかさ上げや高台への集団移転に、国がどのような支援をするのかが明確になっていないことが、住宅の再建、地域の復興の妨げになっている。

 地盤のかさ上げや防災集団移転事業は、全額国庫負担とし、液状化や宅地被害についても思い切った補助制度に踏み切ることを求める。被災宅地の買い上げは、被災者が住宅再建できるよう震災前の価格を基本とする。

(4)仮設住宅をはじめ被災者の住・生活環境の改善

 仮設住宅、民間住宅借り上げ、避難所・在宅避難者など、被災者の実態に即して当面の生活環境を改善する。暖房や風呂の追い炊き機能など寒さや降雪への対策はもとより、バリアフリー化など高齢者や障害者が安心して住むことができる住環境にする。買い物や通院などの足の確保、仮設入居後も災害救助法を活用した支援、精神的ケアとコミュニティー形成、行政情報の提供などの対策を行う。

 仮設住宅などの期限を機械的に「2年間」にしない。都道府県知事が特別基準により必要と判断すれば、延長は可能である。仮の住まいを、いつまでに解消できるのか、そのための支援策を具体的に示すことが求められる。

4、医療、福祉、教育の再生――子どもも高齢者もみんなが暮らし続けられる地域社会に

(1)命と暮らしを守る医療・福祉の再建を

公立も、民間も、国の責任で病院・診療所を再建する

 被災3県では、全病院の8割に当たる300病院が全壊または一部損壊し、医科・歯科あわせて2000を超える診療所が被災するなど、医療機関が甚大な被害を受けた。しかし、震災から半年たっても復旧は大幅に遅れ、入院機能の喪失、勤務医の転出、診療所の廃業などが大問題となっている。

 東北地方沿岸部は、公立病院の統廃合や病床削減が繰り返され、医師不足、医療過疎が深刻化していた。そこに大震災が襲いかかり、医療体制は壊滅的打撃を受けた。ところが、政府は、民間病院・診療所を「災害復旧補助金」の対象から外すなど支援対象を選別し、復旧を“医療機関まかせ”にしている。公立病院でも「補助金」の対象事業を限定し、震災を理由に病院統廃合や病床削減を押しつける方針まで打ち出している。

 被災地の医療体制をたて直し、被災者・住民の命と健康を守るには、「選択と集中」の名で病院の統廃合をすすめ、「効率化」の名で医療提供体制を縮小する、従来の路線を根本的にあらためる必要がある。公立も民間も、病院も診療所も、あらゆる医療機関が地域医療を支えるかけがえない公共的役割を担ってきた。すべての被災医療機関の支援、地域医療の再建に国が責任を負うことを求める。

民間病院・診療所への支援制度を創設する

 民間病院・診療所にたいする差別・選別をやめ、復旧・再建にむけた国の支援制度を新たに創設する。被災地では、多くの開業医が、地域住民の切望を受け、借金の重荷を背負いながら診療を再開するなどの状況を余儀なくされている。厚労相は国会で「新しい仕組みを考えるなりしていきたい」、すでに自己資金で再開した医療機関についても「さかのぼって(国の予算を)出せるようにする」と明言した。これらをすみやかに実行し、民間医療機関の支援に本腰を入れることを求める。

公的医療機関への支援制度を拡充する

 公的医療機関についても、「災害復旧補助金」の使途が「現地・原状復旧」に限定され、「全壊・移築の場合は対象にならない」「仮設病院は補助されない」など、さまざまな“線引き”が医療機能回復の大きな妨げとなっている。冬を控え、インフルエンザの流行や肺炎患者の増大が見込まれる被災地からは、入院機能の復活やベッドの増設が切実な要求となっている。首相は「単なる原状復旧ではなく、柔軟な対応をする」と答弁したが、「災害復旧補助金」の制限を見直し、仮設病院への補助をはじめ医療機能の迅速な再建にむけた制度の拡充を求める。

被災者の医療費免除の延長を

 現在、被災者の医療費の窓口負担は原則無料となっているが、その期限は来年2月末とされている。仕事や収入の確保の道が見えないまま免除措置を打ち切れば、大量の治療中断が生まれ、命や健康が脅かされかねない。免除措置を延長し、被災者の医療が途切れないようにすることを求める。

介護・福祉施設の再建を支援する

 震災によって全壊、半壊、一部損壊となった特養老人ホームなどの介護施設は被災3県で547にのぼり、1000人を超える入所者が他の施設に分散して入所する状況が続いている。避難生活のなかで要支援・要介護の申請は増えているのに、介護事業者の休・廃止が相次ぎ、介護を必要としながらサービスを受けられない「介護難民」が大量に発生しつつある。介護施設や障害者施設などの福祉施設の災害復旧費にたいする国庫補助の拡充、介護・福祉サービスの維持・継続にたいする支援策の抜本的強化が必要である。

(2)子どもたちの未来を開く教育の再建を

 大震災で教育が受けた被害は、現行の災害復旧のための国の制度をはるかにこえた規模であるために、「再建したくても再建できない」という状態になっている。国が全面的に支援することが求められている。

学校施設の復旧を自治体負担ゼロで

 自治体が「金がない」ために、不本意な学校統廃合などの問題も起きている。被災が甚大な地域の学校施設の復旧は自治体負担ゼロにする。私立学校や専修学校・各種学校の重い負担が復旧の足かせとなっており、公立・私立の差別・格差をつけず、国が支援する。

 給食の本格再開、校庭確保、備品の補充などさまざまな課題が残されている。これらを速やかに行うために使途を限定しない「教育復興特別交付金」を市町村に支給する。

「給付型奨学金」の創設とスクールソーシャルワーカーの増配置

 震災と原発事故は、多くの家庭の生活基盤を破壊し、子どもの日々の生活と就学を困難にしている。その心配を解消するために、返済不要の「給付型奨学金」の創設、私立学校等の学費免除などを行う。また、保護者・家庭の生活を支援するスクールソーシャルワーカーを中学校区に最低1名配置する。

被災地での子どものケア、教育のために教職員を拡充する

 子どもの心のケア、学習の遅れ、就学支援や入転学の急増など、被災地の学校には多くの課題がある一方、教職員自身も被災して困難をかかえている。現地の加配要望に誠実に対応するとともに、養護教諭の複数配置、事務職員の複数配置、スクールカウンセラーの安定的配置をすすめる。

 福島県では、多くの子どもが県外避難したため、法令上の教職員定数が極端に減ることになり、教育活動に支障をきたし、教職員の新規採用中止などの事態も起きている。生徒児童数の一時的減少が教職員定数減に直結しないように特別の措置をとる。

5、原発災害から命と健康、暮らしを守る――除染と賠償に国の責任を果たせ

 原発事故は、いまだ収束の見通しがたたず、放射能汚染の被害は日々拡大し、10万人もの人々に先の見えない避難生活を強いている。福島原発事故で放出された放射性物質は、放射性セシウムで広島原爆168個分など莫大なものである。深刻で大規模な原子力災害から国民の命と健康を守り、被災地が復興するためには、一大事業が必要である。

(1)国の総力をかたむけ、放射能汚染の調査と除染に取り組む

 放射能汚染の除染は、原発の大事故を引き起こした国と東京電力の責任である。放射能による健康被害には、「これ以下の被ばく量なら安全」という「しきい値」は存在しないというのが科学的知見であり、「外部被ばくも、内部被ばくも、少なければ少ないほどよい」という大原則に立った対策が必要である。政府が不当な「線引き」を行って、除染への責任をあいまいにすることは許されない。徹底した放射線量の測定・調査は除染の大前提である。調査と除染を一体として国の総力をあげて取り組む。

緊急除染から恒久的除染へ――「仮置き場」と財政負担の二つの不安を国が解消する

 この間、福島県では、学校、幼稚園、保育園などの緊急除染が行われたが、その他の県でも緊急除染は文字通り急務である。そして、これからは緊急除染から恒久的除染へ、「点の除染」から「面の除染」へとすすまなければならない。「校庭を除染したが、また線量が上がってきた」「里山から水が流れてくる場所の線量が上がる」など、除染を面的にすすめなければ事態の改善にならないことも明らかになっている。

 恒久的除染は自治体での努力が始まっているが、除染で出た廃棄物の「仮置き場」が設置できないことと、除染費用の財政負担が大きな障害になっている。

 政府が最終処分に至る全面的な方針を示さないために、自治体が「いつまで仮置きするのか」という説明さえ住民にできない。政府として、「仮置き場」の期限を明確にすること、そして、その期限内に、開かれた形で国民、住民の討論を行い、専門家の知見も総結集して最終処分の方法・場所を科学的にも検討し、国民・住民合意のもとに具体化をはかるという方針と決意を明らかにすべきである。

 除染費用の問題も、国が全面的に責任をもつという姿勢を明確に打ち出すことが求められる。「仮置き場」の設置でも、期限とともに安全性が住民の不安になるが、「遮水シートを使った方が安心だが、お金がかかるからブルーシートになる」などの問題が出ている。さらに住宅の除染では、「庭付きの家では100万円かかるが、2万世帯あるから200億円にもなる。市の予算総額は249億円。よほどの財政支援がなければ住宅の除染はできない」(福島県二本松市)という状況である。放射能汚染には、住民はもちろん、地元自治体にも何の責任もない。調査や除染にかかる費用は、国が全面的に責任を持ち、そのうえで東京電力に賠償責任をとらせる。

食品の安全確保に万全の対策を

 食品の暫定規制値(1キログラムあたり500ベクレル)は、国際標準からみても高すぎる。厳しい規制値へと見直し、規制値を厳守する厳重な検査体制をとることを求める。これは、消費者の不安を取り除くうえでも、生産者への風評被害を抑えるうえでも大切である。官民あげて最新の技術を結集して、検査機器を最大限に確保し、検査体制の抜本的強化をはかる必要がある。学校給食の食材の検査機器購入を国が助成する。

 米をはじめ規制値を超えて出荷停止になった農畜産物については、出荷停止地域の全量を国が買い上げるようにする。こうすれば、厳しく設定した規制値を上回る農産物は市場に出回らないという安心感を広げることになる。海水、魚介類等の検査体制を抜本的に拡充する。

科学者などの英知を結集した「放射能測定・除染推進センター」をつくる

 政府の除染委員会(環境回復検討会)に、放射線の関係者として参加しているのは、原発や高速増殖炉「もんじゅ」を推進してきた日本原子力研究開発機構(JAEA)だけとなっている。この機構のもとで、原発の大事故が引き起こされたのであり、除染を機構まかせにすることは許されない。

 人類が経験したことのない大規模で長期間にわたる放射能調査と除染のためには、すでに被災地で除染活動の支援に取り組んでいる大学関係者をはじめ、国民的な英知を総結集し、特別の体制をつくることが求められる。

(2)被害への全面賠償を大原則に

 原発災害による損害賠償は、その範囲を恣意(しい)的に限定するのでなく、全面賠償――「原発事故がなければ生じることのなかった損害について、すべて賠償すること」を大原則にすべきである。福島県はもとより、広範な地域で幅広い個人と産業が被った損害の全面賠償が必要である。

「中間指針」を見直し、全面賠償を明記した「賠償指針」を

 政府が発表した「中間指針」は、「事故に起因して実際に起きた被害のすべてが、原子力損害としての賠償の対象となるものではない」とするなど、全面賠償を否定する内容となっている。福島県知事を会長とする「福島県原子力損害対策協議会」が、「福島県の被害を十分に反映したものとはなっていない」とし、「事故によって福島県民が被った様々な損害は、すべて賠償されることが大原則」と訴えるのも当然である。この協議会には、JAグループ、商工会連合会、市長会、町村会をはじめ、中小業者、農林漁業者、労働者などあらゆる分野の党派をこえた各団体が結集している。政府は、「オール福島」の一致した切実な声を真摯(しんし)に受け止め、「中間指針」を見直し、全面賠償を明記した「賠償指針」にすべきである。

毎月の概算払いなど、被害者本位の賠償に改めさせる

 東京電力が、被害者にたいして、賠償請求のために膨大な書類の提出を要求するという心ない対応を行っていることに、怒りが集中している。手続きを複雑にして、賠償額を減らそうという意図が露骨である。被害者に過重な負担を押しつける東京電力の許し難い姿勢を根本からあらためさせ、加害者としての自覚と責任ある対応を行わせることは国の責任である。

 全面賠償の原則をつらぬき、賠償支払い方法を被害者本位に変えさせること、3カ月ごとの請求と支払いというやり方をあらため、賠償は毎月概算で支払い、年に1回、適切な方法で精算するなどの方式にあらためさせるよう要求する。

(3)福島県民の特別の苦難を軽減するために「福島基金」の創設と特別立法を

 原発災害は、とりわけ福島県民に大きな苦難をもたらしている。県民の生活、教育、医療、福祉、そして産業のあらゆる分野に、深刻な打撃となっている。地域社会のコミュニティーだけでなく、家族さえもばらばらにされるなど、経済的にも、精神的にも、被害は拡大し続けている。前例のない大規模な原子力災害から、命と健康、暮らしを守り、生業を再建し、福島の復興をはかるには、長期間の腰を据えた取り組みが必要である。

 日本共産党は、そのためにも原子力災害から住民の命と生活を守る特別法の制定を提案している。福島県も、復旧、復興に、一体的・総合的に対応できる新たな法整備(特別法)を国に要請している。

 同時に、生活と復興を支援するための幅広い施策を県や市町村が実情にあわせて独自に取り組めるよう、国が財政を負担する「福島基金」をつくることを提案する。たとえば、子どもへの放射能の被害の対策でも、教員や医療スタッフなどの人的な体制強化、長期的で系統的な健康診断と医療費負担の軽減などが必要になっている。あらゆる分野で、原子力災害から県民の暮らしを守り、支える取り組みを、財政的に支援する国の制度をつくる。

(4)「原発ゼロの日本」へ――撤退の政治決断と国民合意でのプログラム策定を

事故原因の究明なし、規制機関なしの再稼働は許されない

 政府は、定期点検中の原発の再稼働を「安全性を確保しながら」すすめるとしている。

 しかし、原発事故の検証、究明はまったく途上の段階である。東京電力は、検証、究明に絶対にかかせない過酷事故時の「運転操作手順書」すら、黒塗りで提出してきた。地震による原子力プラントの破壊の実態がどうだったのかについて、政府のIAEA(国際原子力機関)への報告書でも「未だ不明」としている。

 首相は、国会で「事故の究明、徹底調査を行うことがすべてのスタートの大前提となる。そうした究明等を終えたあとに再稼働のプロセスになる」と答弁した。自らの言明に責任を持つのであれば、事故原因の究明が不十分なままの再稼働は絶対に認めることはできないはずである。

 しかも、黒塗りの「運転操作手順書」を平気で国会に提出したように自分に都合の悪い情報を隠ぺいする事業者が「テスト」を行い、「やらせ」を演出して国民世論を偽装してきた保安院が「評価」し、原発事故直後に「SPEEDI」(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)の情報を2週間も公表せず、住民を放射能被ばくの危険にさらした原子力安全委員会が「安全性の確認」をするという。「黒塗り」の事業者、「やらせ」の保安院、「情報隠し」の原子力安全委員会が行った「安全性の確認」で、どうして地元の理解や国民の信頼が得られるのか。

 事故原因の究明なし、まともな規制機関なしの再稼働など論外である。

原発からの撤退の政治決断を

 原発で重大事故が起き、放射性物質が外部に放出されたら、それを完全に抑える手段がなく、被害は、空間的にどこまでも広がる危険があり、時間的にも将来にわたる危険があり、地域社会の存続すらも危うくする。こういう他に類を見ない「異質の危険」を特徴とする原発という技術を、社会的に許容していいのかが問われている。

 日本共産党は、原発からすみやかに撤退し、「原発ゼロの日本」をめざす政治決断を行うとともに、期限を設定して原発をなくし、同時並行で自然エネルギー(再生可能エネルギー)の急速な普及をすすめるプログラムを策定することを強く求める。