2011年6月23日(木)「しんぶん赤旗」
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21日の第5回「綱領教室」で、前回に続いて日本の情勢を明らかにした綱領第2章6節の学習に入りました。講義は、志位和夫委員長の「地底(ぢぞこ)のうた」(荒木栄作詞・作曲)で幕を開けました。党の前の綱領と同じ1961年に作られ、指名解雇をめぐって国民的な大闘争となった三井三池闘争(注1)を歌った労働歌です。「大好きな歌」と志位さん。若い人たちは聞き入り、声を合わせる年配者もいました。
志位さんは最初に、この歌と関連づけて、前の綱領では政治支配と経済支配をひとまとめにして「日本独占資本」と規定していたが、現在の綱領では日本国内の階級的な支配勢力の中心を「大企業・財界」と規定したとのべ、その意味を説明しました。
そして日本の「大企業・財界」の全体的な特徴として「同じ資本主義でも、ヨーロッパとは『顔つき』が違います」と指摘しました。イギリスでは産業界が率先して地球温暖化阻止にとりくみ、ドイツの大企業シーメンスが「国際競争力の持続可能な確保」として無期限の雇用保障に踏み切ったことを紹介。「一人ひとり労働者を大切にしないと競争力が持続可能なものにならない。視野が中長期なんです」とのべると、深くうなずく人もいました。
もう一つの特徴は、ヨーロッパと比べて大企業・財界が政治と癒着し、政治介入が根深いことです。リストラと原発の問題を例に、ヨーロッパでは政治と労働界と経済界が対等の立場で労働条件から社会の仕組みまで決める「3者構成主義」が根付いていることと比べて、日本は腐敗した結合の“3者癒着主義”だとのべました。
「大企業・財界の横暴な支配のもと、国民の生活と権利にかかわる多くの分野で、ヨーロッパなどで常識となっているルールがいまだに確立していないことは、日本社会の重大な弱点となっている」と指摘する綱領にそって、個別分野の解明に話をすすめた志位さん。「綱領の分析は一般的な分析ではありません。変革の立場で、どこに問題があるかという角度で日本経済論をやっています」とのべ、用意した二つの資料((1)「ルールなき資本主義」――日本とヨーロッパとの比較(2)世界からみた「ルールなき資本主義」)を縦横に使い、雇用、男女平等、社会保障、中小企業、農業、環境、教育の各分野について、ヨーロッパとの違い、国際水準との違いをリアルに示していきました。
雇用の課題では、労働時間がドイツやフランスと比べて年間500時間も多いことを指摘。40年働くとすると2万時間になると試算し、「日本に住んでいるだけで“懲役”2年半ということになります」とのべると、笑いと驚きの声があがりました。
男女平等の課題では、高卒男女の生涯賃金を比較すると、女性は男性より7580万円も少ないことを暴露。「ベンツが10台買える金額です。年金額にも格差が生まれる。これは女性の尊厳への侵害であり、まともな国と言えるでしょうか」と怒りを込めて告発し、女性の地位向上を「『ルールなき資本主義』をただす全体の要と位置づけるべき問題だ」と強調しました。
志位さんは講義の後半で、日本経済に対する「アメリカの介入」に話を進め、「誤った方向づけ」を与えている実例がいろいろな分野にあると指摘。1950年代から始まり原発列島のレールを敷いたエネルギー支配、学校給食に小麦と脱脂粉乳を押し付けた食糧支配、1985年のプラザ合意から始まった金融支配などを紹介し、これらが日本の「もろくて崩れやすい経済基盤をつくってきた」と解説しました。
「では、日本とヨーロッパの違いはどこからくるのでしょうか?」と問いかけた志位さん。人民のたたかいがルールをつくってきた五つの転機――(1)1日の労働時間を上限10時間と規制した19世紀半ばのイギリスの工場立法、(2)社会権をうたい各国に大きな影響を与えたロシア革命と、労働者の権利を守る国際機関のILO(国際労働機関)創設、(3)世界初の2週間の有給休暇(バカンス)をかちとったフランスの反ファシズム人民戦線、(4)平和のためにも人権と生活向上にとりくむと宣言した国際連合の創設、(5)労働者側と経営者側が対等の立場で交渉し、法制化するルールをつくっている欧州連合の動きを詳しく紹介しました。
その上で日本の歴史的立ち遅れを指摘。ILO創設時、理事国だった日本は、8時間労働制を定めた第1号条約を「時間短縮は不可能なり」と拒否し、その後も労働時間にかかわる条約を「一つも批准していない」と紹介すると、「ほーっ」という声がもれました。
志位さんは、「こうした実態を直視しつつ、強調したいのは、日本は『ルールなき資本主義』といわれるが、『ルールがまったくない』のではないということです。日本にも国民のたたかいによって築かれたルール、到達点はあります。それを受け継ぎ、発展させる必要があります」とのべました。「地底のうた」を生んだ60年代の三井三池闘争にはじまる労働者の闘争がかちとった「整理解雇4要件」(注2)を最初にあげ、「憲法の権利を、たたかいによって生きて働く権利にしたもの。現在のJALのたたかいはこの権利を守り抜くたたかい。勝ち抜くために頑張りたい」とのべました。
もう一つあげたのが、憲法25条の生存権を問うた朝日訴訟です。最低限の生活保障は国の義務で、予算も「指導支配」して優先的に配分すべきだとした判決の今日的な意味について解説。原告の朝日茂さんが最後に残した日本共産党員としての証言を読み上げると、会場はしんとして耳を澄ましました。「先輩のたたかいを引き継いでいこう」と語りかけました。
志位さんは、「社会的ルールは外から与えられるものでもなく、自然にできるものでもない。人民のたたかいがルールをつくる力です。力をあわせてルールをかちとろう」と力を込めました。
世界共通の「社会的ルール」を生かすとともに、日本の憲法には30条にわたる人権規定があることに触れ、「それを生かすたたかいをやろう。自信と誇りをもって憲法を、暮らし、職場に生かすたたかいの前進をめざそう」と語りました。
最後に、「労働運動の社会的地位はヨーロッパに比べ遅れている。しかし、すすんでいるものがあります。自主独立の日本共産党です。この党を強く大きくすることこそ、資本主義を乗り越え、未来へ前進する大きな力となります。強い大きな党をつくろう」と呼びかけると、受講者は拍手でこたえました。
(注1)三井三池闘争 1959年から60年に三井三池炭鉱でたたかわれた大量解雇反対闘争。1278人の指名解雇の攻撃に、労働者は、民主勢力の支援をうけ、数万の武装警官、右翼暴力団などの弾圧に立ち向かい、「合理化」反対闘争の頂点をなす歴史的なたたかいを展開しました。
(注2)整理解雇の4要件 労働者の1970年代からの長いたたかいの中でかちとった成果。(1)人員削減の必要性(2)解雇回避の努力(3)人選の合理性(4)解雇手続きの妥当性―この四基準を満たさない解雇は無効であることが、最高裁などの判例で確立されています。