2011年5月11日(水)「しんぶん赤旗」

被災者の生活基盤の回復を国の責任で

――岩手県、宮城県の訪問を終えて

仙台市 志位委員長の会見


 東日本大震災の被災地を訪問(6日〜9日)した日本共産党の志位和夫委員長は、8日に仙台市で、記者会見を行いました。内容は次の通りです。


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(写真)仙台市若林区荒浜の津波被害を調査する志位和夫委員長(中央)と市田忠義書記局長(その右)、小池晃政策委員長(1人おいて左)ら=8日

岩手県、宮城県の訪問について

 一昨日(5月6日)から、東日本大震災の被災地となった東北3県にうかがい、現段階での被災地の現状と、被災者のみなさんの国に対する要望をお聞きしているところです。現地の切実な声をお聞きし、国政の場で、さまざまな形で実現のために努力をはかる。これが今回の訪問の目的です。

 一昨日と昨日(5月7日)は岩手県を訪問し、上野県副知事と懇談し、陸前高田市、釜石市、宮古市にうかがい、3市の市長さん、岩手県漁連の会長さんなどからお話をうかがいました。陸前高田市では、被災された住民の方々が小集会をもってくださり、突っ込んで要望を聞く機会もありました。

 今日(5月8日)は宮城県を訪問し、石巻市の市長さん、宮城県漁協の専務理事さん、石巻商工会議所の浅野会頭をはじめみなさんからお話をうかがいました。その後、仙台市若林区の荒浜で現地の農業者のみなさんから被害の実態と今後の要望についてお聞きし、JA宮城中央会の副会長さんからも要望をいただきました。

 それぞれの懇談のさいには、被災された県と市、漁協、農協に、全国からよせられた義援金の第2次分もお届けいたしました。

 明日(5月9日)は福島県を訪問する予定ですが、福島県は原発事故の影響がくわわり、災害の様相が大きく異なっていると思いますので、岩手県、宮城県の訪問を終えた段階で、被災者支援・復興について、重要だと感じた点をいくつかお話しさせていただきます。

被災者救援――二次被害防止、仮設住宅の早期建設を

 当面する被災者救援の問題では、避難所の生活改善の努力がはかられていると思いますが、避難生活が長期におよぶなかで、これから先、二次被害を防止する努力がいよいよ大切になってくると感じました。

 仮設住宅について、自治体によっては早い段階での建設のめどがついたところもありますが、遅れがたいへん心配なところもあります。国・県が用地確保に責任をもつとともに、地元業者のみなさんに工事を発注していくことが、早期の建設のうえでも、地元の復興につなげるうえでも、重要になっていると感じました。そういう点も目配りをしながら、政府にたいして、最大限早期に、希望者全員が入れる仮設住宅建設に責任をもつよう求めていきたい。

復興をどうすすめるか――二つの原則が大切

 そのうえで、復興をどうすすめるかという問題ですが、私たちは、この大事業にとりくむにあたって、つぎの原則が必要だと考えています。

 第一は、一人ひとりの被災者の方々が破壊された生活の基盤を回復し、自力で再出発できるようにする――被災者の生活基盤の回復をおこなう。これが復興の最大の目的であり、憲法の生存権あるいは幸福追求権などの条文に照らしても、この目的を達成するための公的支援をおこなうことは国の責任であるということです。

 第二は、復興のすすめかたにあたっては、「計画をつくるのは住民合意で、実施は市町村と県・国が連携して、財政の大半は国の責任で」ということを原則にすべきです。「上からの青写真の押し付け」というのはよくない。

 大津波で破壊された街をどういう形で再建していくかについて、自治体の責任者の方々から、現時点で考えておられる方向についてお聞きしましたが、大震災といっても、地域ごとに表れ方も違いますし、復興への条件もそれぞれです。画一的モデルの押し付けでなく、それぞれの実情にそくした復興プランを住民合意でつくりあげていくことを何よりも尊重し、応援していくことが、国の姿勢として重要であるということを強く感じました。民主主義と住民自治を貫いてこそ真の復興の道が開かれると考えます。

復興への希望が持てる施策を急いで――まず債務の凍結を国の責任で

 そのうえで、岩手県、宮城県を訪問して、共通して強い要望が寄せられた、いくつかの問題について、私たちの現時点での考えをのべさせていただきます。

 まず地域経済の再建をどうかちとるかという問題です。甚大な被害を受けた漁業、農業、中小企業、商工業など、この地域の経済の土台を支えている産業をどう再建していくかということが、たいへん大きな課題になっています。

 これをすすめるうえで、いま、国として、復興にむけて意欲と希望が出てくるような施策を打ち出してほしいということが、多くの方々から言われました。そうしたメッセージを国として早く打ち出さないと、農漁業者にしても、商工業者にしても、展望をなくして、再建をあきらめてしまう。この地域からいなくなってしまう。復興への希望がもてる施策をただちに打ち出してほしいということが強い要望でした。どこでも共通して強い要望として出された問題が3点ほどあります。

 一つは、債務の問題です。「せめてマイナスではなくゼロからの出発を」ということを共通して訴えられました。漁業者にしても、農業者にしても、中小企業や商工業者にしても、多くの方々は、借金をかかえたまま、家も失ったうえ、船も工場も店舗も流されているわけです。ですから、まずはせめて、借金の重荷から解放してもらいたい。多くの方々からこの要望が強く出されました。これは当然の要望で、財産を失い、収入が断たれたもとで、借金を背負わせたままで「自力で再建を」といっても、これは無理な相談です。

 私たちは、国の責任で債務の凍結をすることが必要だと考えます。いろいろな方法があろうかと思いますが、たとえば、国が債務を(金融機関から)買いあげて、返済については、それぞれの仕事が再建されて返済が可能になったらおこなう、かなり長期の展望で返済すればよいというような形もあるでしょう。石巻市の商工会議所からは、5割は公費でもってほしい、3割は金融機関でもってほしい、2割は自分たちでもつというやり方で解決したいという要望もありました。方法は、よく検討したいと思いますが、まず債務を凍結し、債務の重荷を取り除くということがどうしても必要ではないかと思います。これを政府に対して求めていきたいと考えています。

漁業、農業、中小企業、商工業――各分野で再出発できる基盤回復を

 二つは、漁業、農業、中小企業、商工業など、各分野で再出発できる基盤を回復するための公的支援を、思い切っておこなうことです。この甚大な被害のもとで、「自助努力」だけで再出発ができないことは明らかです。現行法の枠組みにとらわれないで、復興にむけた再出発に必要な公的支援を各分野で具体的にすすめることがどうしても必要です。

 たとえば、漁業の船についていいますと、いまの激甚災害法では、公費がでるのは小さな船(5トン以下)が破損した場合についてで、3分の2までなのです。残りの3分の1は本人持ちということになる。しかし、この地域の小型船はほぼ壊滅です。中型、大型船にも被害は大きい。激甚災害法の枠組みではとても船の回復はできない。ですから、「船については100%を公費で出してほしい」という強い要望が出されました。

 それから養殖施設の破損は、激甚災害法では90%を公費でもつということになっているのですが、減価償却分については差し引かれるのです。昨年のチリ津波の時には、2分の1は減価償却分とされ、2分の1の90%ですから、45%しか公費が出なかった。それでも何とか養殖の施設をつくったら、今回の大津波で完全に流されてしまった。こういう状態ですから、養殖の施設についても100%を公費で支援する。「船についても、養殖についても、100%を公費で支援します」というメッセージを、いま政府が出していくことが大切です。ぜひ政府に求めていきたい。

 さらに漁業の復興と言った場合、漁業と(水産)加工業と流通業を一体的に再建する必要があるということも強く要請されました。そういう立場から思い切った公的支援が必要になってくると思います。

 農業については、今日、仙台市若林区の荒浜の被災地を見まして、大津波で破壊された農地をどうやって回復するかというのは、大変な大仕事だと思いました。現地の農業者、JA宮城のみなさんとの懇談のなかでも出されたのは、破壊された農地を国がいったん買い上げて、塩分を抜くなど圃場(ほじょう)の整備をしたうえで、返すというようにしてほしいということでした。私たちは、お話をうかがい、破壊の甚大さからみて、これは必要で現実的な方策だと考えます。ただしそのさい、農業者には土地の権利があるわけです。権利関係はしっかりと保障することが必要だと思います。あくまでも一時的な買い上げで、整備した後には返還することを最初から約束するような形で、土地の権利を確保しながら、国による圃場の整備、再生をおこなうことが必要になってくると思います。

 商工業については、商工会議所とも懇談して強く出されたのは、債務の凍結にくわえて、(事業を)立ち上げる資金が必要だということです。これはいわば公的支援としておこなう。すなわち、返済不要の立ち上がりの資金を提供する。それから長期の無利子の融資を提供する。この二つをまずはっきりと打ち出していけば、展望が見えてくるということが要望として出されました。これももっともな要求だと考えます。

 それぞれの産業ごとに、復興への希望がもてる施策をおこなう、そういうメッセージを国の責任で早く打ち出す必要があります。党として、出された要望をよく検討し、政策化して、政府に求めていきたいと思います。

当座の生活保障と雇用――復興への意欲が持てるように

 三つは、復興の展望を示すこととともに、当座の生活保障も当然、必要になってきます。休業補償ということを国の責任でおこなう必要があります。同時に、本格的な仕事再開までの雇用の創出もおこなう必要があります。

 たとえば漁業の場合は、海のがれきの処理に、漁業者のみなさんがとりくんださい、1日1万円余りのお金が出るようになったとのことでした。「がれきの処理であっても、船に乗って海に出ると元気になる」ということもうかがいました。

 JA宮城のみなさんと懇談したさいには、圃場を再生するさいのいろいろな仕事を、農業者がおこなう場合に、いまは10アールあたり3万5000円の手当になっている。これでは意欲もわかないし、とても足らない。漁業と同じように、たとえば1日あたり1万円余というような形で、収入を保障してほしい。もっと見通しの持てるやり方で、当面の雇用創出をしっかりお願いしたいという要望が出されました。また休耕田となっている土地で農業を営めるようにしてほしいという要望も出されました。やはり農家のみなさんは、土を耕して、作物をつくってこそ、農業復興への意欲が出てくると思います。

 これらは当然の要望だと思います。ぜひ国会でもとりくんでいきたい。

住宅の再建・保障――支援額抜本引き上げとともに、ニーズにあわせて

 生活再建の土台は、やはり住宅の再建・保障ということになります。この問題でもいろいろな要望をうかがいました。

 災害にあたっての住宅再建については、被災者生活再建支援法を、阪神・淡路大震災のあとにつくりました。ただ全壊でも公的支援の額は300万円にとどまっています。私たちは抜本的な増額ということを求めておりまして、先日(3月31日)の菅首相と私との党首会談で、首相も「引き上げ」を明言しましたから、ぜひ抜本的増額の実現をかちとりたいと思います。

 それにくわえて、被災地の実情をお聞きしますと、「今後を考えると、一戸建ての家をたてることはなかなか難しい」という方も少なくないとうかがいました。コミュニティーや家族構成の実態をよく考慮し、それを大切にした形で、公営住宅の建設をすすめるなど、被災者のニーズにあったきめ細かい施策が必要になってくると思います。

 いずれにせよ、「住まい」を再建することは、生活再建の土台となってきますから、国による個人補償・公的支援の抜本的拡充が必要です。

 全体として、いま国の政治が、一人ひとりの被災者のみなさんが前途に希望と展望をもっていただけるような、強いメッセージを出す必要があると思います。「復興はできる」「国はこうやって応援する」というメッセージを各分野で具体的に出していく必要がある。被災地の訪問をふまえて、わが党としてそのことを政策化し、政府に求めていくつもりです。

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