2010年10月8日(金)「しんぶん赤旗」
日本共産党の志位和夫委員長が7日、衆院本会議で行った代表質問。経済危機打開をはじめ、尖閣諸島、沖縄・米軍普天間基地、「政治とカネ」という焦眉(しょうび)の課題で政治のあるべき姿を示し、菅政権に迫りました。
「中国漁船衝突事件のような事態を繰り返さないために何より重要なことは、日本政府が尖閣諸島の領有の大義を理をつくして主張することにある」―尖閣諸島問題に触れ志位和夫委員長は菅首相を追及しました。
志位氏は、日本共産党が1972年に「日本の領有には歴史的にも国際法上も明確な根拠がある」と主張してきたことを紹介。さらに今月4日には、日清戦争(1894年〜95年)にかかわる歴史的経緯を検証し、より踏み込んだ見解を日本政府と各国政府に伝えたと述べ、政府の見解を求めました。
志位氏は、尖閣諸島は国際法でいう「無主(持ち主のない)の地」で、1895年に日本領に編入され、日本の実効支配が続いている事実を指摘。また、日本の領土に編入された1895年から75年間、中国は「一度も日本の領有について異議も抗議もしていない」と強調。1970年代に入り中国が“日清戦争に乗じて日本が不当に奪ったものだ”と主張し始めましたが、「日清戦争の講和を取り決めた下関条約と交渉記録にてらしても、日本が中国から侵略で奪ったのは台湾と澎湖(ほうこ)列島であり、尖閣諸島は含まれない」と述べました。
菅首相は、「尖閣諸島がわが国固有の領土であることは疑いのないこと」「下関条約第2条に基づき清国から割譲を受けた台湾、澎湖諸島には含まれない」ことを認めました。
志位氏が「日本共産党は、過去の日本による侵略戦争や植民地支配にもっとも厳しく反対してきた政党ですが、日本による尖閣諸島の領有は、侵略とは性格が異なる正当な行為であり、中国側の主張が成り立たない」と述べると、与党席、続いて野党席から大きな拍手が起こりました。
日本側の問題点はどこにあるのか―。志位氏は、「72年の日中国交正常化以来、本腰を入れて日本の領有の正当性を主張してきたとはいえない」と指摘。(1)78年の日中平和友好条約締結時に中国側が尖閣問題の「一時棚上げ」を唱えたのに対し日本は領有権を明確な形で主張しなかった(2)92年に中国が尖閣諸島を自国領と明記した際にも外務省が口頭で抗議したのみだった(3)今回の事態にたいしても日本の領有の正当性について根拠を示して主張していない――と批判しました。そのうえで「こうした態度を改め、歴史的事実、国際法の道理にそくして、領有権の正当性を中国政府と国際社会に堂々と主張する外交努力を強めることを求める」と迫りました。
菅首相は、「正しい理解が得られるよう努力する」と述べたものの、78年、92年とも「わが方から中国に明確に伝えている」と反省を示しませんでした。
“クリーンな政治”をかかげながら「政治とカネ」の問題では真相究明に背を向ける――。志位氏の質問への答弁で菅首相の姿勢が浮き彫りになりました。
志位氏は強制起訴となった民主党の小沢一郎元代表の証人喚問を要求。「収支報告書の虚偽記載だけでなく、ゼネコンによるヤミ献金疑惑を含めた真相の徹底的な究明をはかり、政治的道義的責任を明らかにすべきだ」と迫りました。
菅首相は「国会で議論、決定をいただくべきものと考える」と答えるだけ。
企業団体献金の禁止について、志位氏は民主党や菅首相が公約してきており、ただちに行うようただしました。これについても菅首相は「各党会派で建設的な議論を進め成案を得ることを期待している」と述べ、自ら率先して取り組む姿勢は示しませんでした。
リーマン・ショックから2年、大企業の生産は「V字」回復でも、国民生活は労働者も中小企業も農民も苦境―。こう告発した志位氏は、経済危機を打開する唯一の道は「家計を応援し、内需を底上げする政策への転換をはかることにある」と力説しました。
首相は「富の循環」の必要性は認めながらも、具体策では冷たい答弁に終始しました。
政策転換の第一は人間らしい雇用を保障することです。志位氏は、非正規雇用労働者の解雇や雇い止めが今年に入って4万2000人にのぼると指摘。「労働者派遣法を抜本改正し『雇用は正社員が当たり前の社会』に踏み出すことは急務」だとして、製造業派遣の全面禁止や専門業務の抜本見直しなど派遣労働者から正社員への道を開く、日本共産党の修正案について、首相の見解を求めました。
菅首相は「日本共産党修正案は規制を強化する内容で、派遣で働くことを希望する人の選択を狭めてしまう」などと財界さながらの論理で修正には応じない姿勢を示しました。
最低賃金(全国平均)はどうか。「中小企業への賃金助成を含む支援をとりながら、全国一律の最低賃金制の確立と時給1000円以上への引き上げを早急に」と志位氏。菅首相は「財界を含め労使関係者と調整しながら取り組んでいく」と述べただけでした。
「超氷河期」といわれる新卒者の就職難。15歳から24歳の失業率は6月に11・1%と過去最悪。学卒未就職者は15万人に及びます。
「卒業した若者の社会人としての第一歩が失業者という社会でいいのか」と問いかけた志位氏。新卒者の採用数の確保や学業と両立できる就職活動のルール確立という、二つの方向で経済界に働きかけるよう求めました。「就活」のルールづくりでは、大学、経済界、政府3者の協議をただちに開始することを提案しました。
菅首相は「新卒者就職の実現のために全力を尽くす」と答えたものの、具体的提案にはふれませんでした。
国民の暮らしを最優先して内需を底上げするための第二は、社会保障の拡充です。
自公政権は、社会保障費を毎年2200億円削るために、医療・介護・年金などの制度を連続して改悪。暮らしを痛めつけ、内需を冷え込ませました。
志位氏は、75歳以上に重い保険料負担を課したうえに、安上がりの差別的医療を押し付けた後期高齢者医療制度について、「すみやかに撤廃し、老人保健制度に戻し、国民合意でよりよい制度に改革をはかるべきだ」と求めました。
ところが菅首相は「たび重なる見直しで不安や混乱が生じる恐れがある」などと旧政権と同じ言い分で拒否しました。
75歳以上の高齢者を「別勘定」にして給付費の1割を負担させるという政府が検討中の「新制度」案についても、志位氏が、「『うばすて山』と怒りをよんだ現在の制度と根本思想においてどこが違うのか」とただしました。菅首相は「年齢による差別を解消するものだ」と強弁しました。
志位氏が「見逃せない重大な問題がある」とただしたのは、市町村が独自に行っている一般会計から国保財政への繰り入れをやめるよう求めた厚労省の都道府県への通知(5月19日)です。
「1人あたりの国保料は今でも全国平均で年9万625円。払いきれずに国保証を取り上げられ命を落とす悲劇が広がっている。繰り入れをやめろということは、国がさらに値上げを迫ることだ」。志位氏は通知の撤回を要求。国庫負担の増額で高すぎる保険料(税)の引き下げに踏み出すよう首相をただしました。菅首相は、通知の撤回にも、国保料の引き下げにも一言もこたえませんでした。
「県民の総意を踏みつけにした『日米合意』を民主主義の国で実行できると本気で考えているのか」―。米軍基地問題で、志位氏は、沖縄県民の固い新基地反対の世論を背に、新基地推進の「日米合意」撤回を菅首相に迫りました。
志位氏は「沖縄県民は普天間基地の閉鎖・撤去、『県内移設反対』の総意を繰り返し日米両政府に突きつけてきた」と強調。これをふみつけにする新基地建設は「もはや不可能であることは誰の目にも明瞭(めいりょう)だ」と迫りました。
菅首相は「5月の『日米合意』を踏まえて取り組む」「沖縄の理解を求め誠心誠意、話し合いを求めていく」と新基地押し付けの姿勢を改めて表明。防衛白書で「沖縄県の理解を得るべくいっそうの努力を行う記述もある」と開き直りました。
志位氏は、米軍機のダイバート(目的地外着陸)問題を取り上げました。
沖縄では米軍嘉手納基地の滑走路改修にともない、同基地の周辺空域で訓練を繰り返しているF15戦闘機など百数十機の米軍機が、近隣の普天間基地などに目的地外の着陸。宜野湾市をはじめ地元自治体から抗議が起こっています。
嘉手納基地を使用する航空機の墜落事故は82年以降だけで13件(15機)に及んでいる実態を示した志位氏。「『負担軽減に最大限努力』との首相の言明が口先だけのものでないというのなら、この目的地外着陸の中止をアメリカにきっぱりと要求すべきだ」と追及しました。
菅首相は「(ダイバートは)緊急時に限り行われるものと承知している」「周辺住民への影響を最小限にするため、働きかけているところ」と述べるにとどまりました。