2010年2月11日付「しんぶん赤旗」

派遣「専門業務」見直しへ

運動と共産党の論戦 政府動かす

志位氏追及に首相表明


 派遣労働者の受け入れ期間に制限がない26の専門業務について、25年ぶりの見直しへ道筋が切り開かれました。日本共産党の志位和夫委員長の衆院予算委員会での質問(8日)に対し、鳩山由紀夫首相が見直しを検討すべきだと表明したのです。厚労省は同日、「専門業務」と偽る違法行為に対する指導監督を強化する通達も出しました。労働者や日本共産党国会議員団のたたかいと国民の世論が突き動かしているもので、派遣業界にも衝撃を広げています。(深山直人)


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(写真)質問する志位和夫委員長=8日、衆院予算委員会

 労働者派遣法で派遣期間は原則1年、最長3年と定めています。ただし、「事務用機器操作」など26の専門業務は例外とし、1年を超える派遣が許されています。専門業務であれば一般業務より会社に対して交渉力があるので、期間制限がなくても労働条件が悪くならないという理由です。

 1985年の派遣法制定時に13業務でスタートし、96年には26業務に拡大。2003年の派遣法改悪で製造業に派遣が解禁されたのと併せて専門業務について最長3年の期間制限が廃止され、急増しました。現在、専門業務派遣は約100万人。全派遣労働者の3分の1を占めます。

 しかし、今では専門性が高いとはいえないものも多く含まれています。最たるものが、志位委員長が取り上げた「事務用機器操作」です。25年前の派遣法制定時からあるもので今では専門業務派遣の45%を占めます。

 「電子計算機、タイプライター、テレックスまたはこれに準ずる事務用機器の操作」と定義されていますが、今日的にいえばパソコン操作です。

 志位委員長は「パソコンなどだれでも普通に使っている。これが『専門業務』となれば事務系の仕事はほとんど『専門業務』となってしまう」と指摘。NTT東日本―北海道で、「専門業務」だといって契約社員を派遣労働者に置き換える逆流まで起きているとのべ、「専門業務を抜本的に見直し、規制を強化すべきだ」と迫りました。

 鳩山首相は「26業務はあまりにも幅広く、だれでもパソコンは使える」と応じ、「果たしてこのままにしていいのか、しっかり検討する必要がある」と見直し検討を初めて表明しました。

質問の朝に「通達」指示

 派遣業界団体の関係者は「専門業務は製造業とともに派遣労働の柱になってきた。“聖域”扱いされていたという声もあるが、ついにそこにも手を入れられる。政府の審議会の派遣法改正案にも盛り込まれなかったのに」と驚きを隠せません。

 志位委員長の質問に長妻昭厚生労働相は「実はこれから通知を全国に出そうと考えておりまして」と事実上、質問に合わせる格好で通達を出すことになったと説明しました。

 通達はこの日朝、長妻氏の指示で急きょ出すことになったもので、通達にも「大臣の指示を受け」と明記。質問後にも、通達を衆参の厚生労働委員と志位委員長の部屋にわざわざ届けるという異例の対応をとるなど、取り組み姿勢を懸命にアピールしました。労働者派遣法の抜本改正を求める運動と日本共産党の質問が政治を前向きに動かしていることを示しています。

「業務偽装」横行の温床

 見直しの背景には、「専門業務」だと偽る「業務偽装」の横行があります。厚労省が昨年4月から今年1月末までに、是正指導した事業所は214カ所にものぼっています。

 派遣大手アデコから日産自動車本社に派遣されていた女性(29)もその一人。2003年から「事務用機器操作」の専門業務で派遣されていましたが、実際は電話の応対、コピー取り、来客の応対やお茶だし、会議用弁当の買い出しなど庶務・雑用(一般事務)が大半を占めていました。

 女性は「パソコンを使う業務もありましたが、マニュアルが用意されており、習熟を要しないものがほとんど。年収は220万円程度しかありませんでした」といいます。

 専門業務とは、文字通り専門的な知識や技能などを要する業務に限られており、一般庶務は該当しません。専門業務に伴う「付随的業務」でも、1日または1週間の労働時間の1割を超えてはならないと定めています。

 これに反していれば期間制限のある一般業務に従事しているとみなされ、期間制限を超えていれば、派遣先企業は派遣先労働者本人に対し直接雇用を申し込む義務が生じます。

 女性は労働相談を機に業務偽装だと知り、首都圏青年ユニオンに加入。09年4月、期間制限に反して働かされていたとして、日産に対する直接雇用の指導を求めて東京労働局に申告しました。労働局は5月、違法行為を認め、「直接雇用も含めて雇用の安定をはかる」よう指導しましたが、日産は従わず、5月末に雇い止めを強行。女性は解雇撤回を求めて9月、東京地裁に提訴したたかっています。

 「どんな仕事でも一生懸命働いてきたのに切り捨てるなんて許せません。日産に雇用責任を認めさせ、同じ状況に置かれている人の助けになりたい」と女性は訴えます。

 厚労省の通達は、「派遣可能期間を免れることを目的として専門26業務の解釈をわい曲したり、拡大したりして専門業務以外の業務を行っている事案が散見される」と指摘。26業務のうち違法が多い「事務用機器操作」と「ファイリング」(書類保管)をあげて、「専門的知識や技術」を活用するものに限定すると強調しています。

 労働政策審議会がまとめた派遣法改正の答申に専門業務の見直しは盛り込まれていません。通達を活用して違法行為をただすとともに、26業務を大幅に縮小するなど今後、政府が出す労働者派遣法改正案に盛り込ませるたたかいが焦点になっています。


26の専門業務

(1) ソフトウエア開発
(2) 機械設計
(3) 放送機器操作
(4) 放送番組等演出
(5) 事務用機器操作
(6) 通訳、翻訳、速記
(7) 秘書
(8) ファイリング
(9) 調査
(10) 財務処理
(11) 貿易
(12) デモンストレーション
(13) 添乗
(14) 建築物清掃
(15) 建築設備運転等
(16) 受付・案内、駐車場管理等
(17) 研究開発
(18) 事業の実施体制の企画、立案
(19) 書籍等の制作・編集
(20) 広告デザイン
(21) インテリアコーディネーター
(22) アナウンサー
(23) OAインストラクション
(24) テレマーケティングの営業
(25) セールスエンジニアの営業、金融商品の営業
(26) 放送番組等における大道具・小道具