2009年3月5日(木)「しんぶん赤旗」

日本共産党の“元気”の源は何か

外国特派員協会 志位委員長の講演


 日本共産党の志位和夫委員長が三日、日本外国特派員協会に招かれ、講演をおこないました。司会者は冒頭、志位氏について、「国会にいけば、そこでおこなわれている政治討論のなかで、最も雄弁な演説者の一人に出会うでしょう。それが確かに志位氏です」「国会討論の中継を聞いた国民の一部は、(首相に対する)志位氏の非常に強力な追及により、政治に関心を向けるようになっています」と紹介。他党が党員を減少させるなかで、日本共産党がこの間、一万六千人増やしていることなどをあげ、「今日は、なぜ、日本共産党がこのような人気を得ているのか、将来、なにをしようとしているのかについて話していただきます」と語りました。これを受けて志位氏がおこなった講演は以下の通りです。


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(写真)講演する志位和夫委員長=3日、東京・日本外国特派員協会

 ご招待いただいたことに感謝いたします。このところ、わが党に対する海外メディアからの取材が増えておりますが、そこで出される共通した質問は、「どうして共産党員が増えているのか」、「どうして元気なのか」というものです。

 私たちは、目前に迫った総選挙で勝利をつかむことは容易ではない、これまでの活動の延長線上ではない、飛躍がどうしても必要だと考えております。同時に、日本共産党にいま、明るい活力が広がりつつあることは事実です。日本共産党員は、この十六カ月間連続して増え、この間に一万六千人を超える新規党員を迎えていますが、これはその一つの象徴です。この活力の源はどこにあるのか。今日は、それを四つの角度からお話しさせていただきたいと思います。

経済改革――「ルールある経済社会」をめざす

 第一は、わが党の綱領が示す経済改革の方針が、日本の情勢、日本国民の要求と、響き合う状況が生まれていることです。

「ルールなき資本主義」を正す――この方針が共感を広げている

 日本の資本主義は、同じ資本主義でも、欧州などに比べて異常な特質をもっています。それは「ルールなき資本主義」というべき特質です。すなわち、国民の生活と権利を守るルールがないか、あっても弱い。大企業の横暴な利潤追求が野放しにされ、社会的規制を受けていないことです。

 日本共産党は、こうした「ルールなき資本主義」を正し、欧州などの到達点も踏まえ、国民の生活と権利を守る「ルールある経済社会」をつくることを、当面の経済改革の方針の中心にすえています。この方針が、貧困と格差が広がり、世界経済危機に襲われ、深刻な生活苦にあえぐ国民の共感を広げています。

人間らしい労働の破壊――労働者のたたかいに連帯して力をつくす

 人間らしい労働の破壊は、「ルールなき資本主義」を最も残酷な形で示すものです。

 日本では、「働く貧困層」――年収二百万円以下で働く人々が急増し、一千万人を超えました。その原因は、労働法制の規制緩和によって、派遣、請負、契約社員、パートなど、非正規雇用労働者を、労働者全体の37・8%にまで急増させてきたことにあります。

 その多くは、著しく劣悪・差別的・不安定な「使い捨て」労働を強いられています。私は、トヨタ、キヤノンなど、日本を代表する世界的企業で働く派遣労働者から、直接その実態を聞き、あまりに非人間的な労働に、強い憤りを抑えることができませんでした。

 フルタイムで懸命に働いても、賃金は正社員の半分以下、ボーナスも昇給もない。数カ月単位の短期の労働契約を繰り返し、いつでも「首切り」の不安におびえなければならない。派遣会社の寮に住まわされ、プライバシーも保障されない共同生活を強いられる。奴隷労働が、現代的な残酷さをもって復活した。それが日本の派遣労働者の置かれている実態です。

 人間をモノのように「使い捨て」にするという派遣労働の残酷さは、世界経済危機のもとで、昨年秋ごろから急速に襲いかかってきた「派遣切り」「期間工切り」とよばれる雇用破壊の大波のなかで、最悪の形で猛威をふるっています。何万人という労働者が、路上に放り出され、大量のホームレスがつくり出されつつあります。

 わが党は、派遣労働に象徴される「使い捨て」労働の実態を告発し、大企業の無法な「派遣切り」に反対し、非正規労働者の権利を保護するとともに正社員化をすすめ、欧州では当たり前の均等待遇のルールを確立することに、全力を注いできました。わが党の派遣問題での一連の国会質疑には、予想を超えた激励と反響が寄せられました。

 何よりうれしいのは、労働者のなかから反撃が始まったことです。この間、全国の百二十を超える職場・企業で、非正規労働者が自ら労働組合をつくり、また既存の労組に結集して、雇用破壊に反対するたたかいに立ち上がっています。「年越し派遣村」をはじめ、失業者救済の温かい人間的連帯が、全国各地に広がっています。これらは日本社会の姿形を変えることにつながる、大いなる未来あるたたかいです。私たちは、こうした運動に連帯し、日本から「使い捨て」労働をなくし、人間らしく働ける労働のルールをつくるために力をつくす決意であります。

低所得者を排除する社会保障――削減から充実への抜本的転換を

 日本の社会保障制度が、もともとの低水準のうえに、年々切り下げられていることも大問題であります。

 社会保障として国民に給付されている額は、日本はGDP(国内総生産)比で19・1%、イギリス22・0%、ドイツ27・1%、フランス29・4%と比較しても、著しく貧弱です。そのうえ政府は、毎年、社会保障費の自然増を二千二百億円ずつ削減する政策を強行してきました。このもとで本来、社会保障の支えを最も必要とする所得の少ない人々が、社会保障から排除されるという異常事態が、あらゆる分野で起こっています。

 国民健康保険料が高すぎて払えない滞納世帯が四百五十三万世帯、20・9%にのぼりました。滞納を理由に正規の医療保険証を取り上げられた世帯が、全世帯の7・3%に達しています。保険証がないために受診が遅れ、死亡にいたる痛ましいケースが後をたちません。

 失業しても雇用保険を受け取れる労働者は、わずか22・1%にすぎません。非正規労働者がフルタイムで働いても、雇用保険に加入しない企業が放置され、一千万人もの労働者が、雇用保険に未加入になっているからであります。

 最後のセーフティーネットである生活保護はどうか。生活保護を受ける資格のある生活水準の人が実際に保護を受けている割合、いわゆる捕捉率は、欧州諸国では七―八割ですが、日本ではわずか一―二割です。この背景には、自治体窓口で保護の申請をさせずに追い返す「水際作戦」の横行があります。北九州市では、生活保護が受けられず、あるいは中断されて餓死に至った事件が、三年連続で起こりました。

 ここでも社会的反撃が開始されています。高齢者に差別医療を押し付ける後期高齢者医療制度の撤回を求めて、一千万を超える署名などが広がっています。健康保険証取り上げについても、中学生以下の子どもや病人からは保険証を取り上げないという改善がはかられました。生活保護についても、「住居がない」場合などでも、即日保護の決定ができることを政府に確認させました。私たちは、ここでも国民運動と連帯し、社会保障の削減政策の中止、拡充政策への抜本的転換を求めてたたかっています。

経済危機を打開し、日本経済の健全な発展を促す法則的な道

 「ルールなき資本主義」を正し、「ルールある経済社会」への転換をはかるというわが党の立場は、大企業の役割を否定したり、ましてや敵視するものでは決してありません。大企業に力にふさわしい社会的負担と責任を求めるということであります。

 それは、現下の経済危機を打開し、日本経済の健全な発展を促し、中長期でみれば大企業の健全な発展にもつながる法則的な社会発展の道です。いま多くの労働者のなかからだけではなく、少なくない経営者のなかからも、わが党の主張への共感の声が寄せられているのは、偶然ではありません。

外交路線――覇権主義反対の自主独立を貫く

 第二は、わが党の外交路線です。戦後、わが党は、アメリカとソ連という二つの巨大な覇権主義とたたかってきました。このことが今日、私たちの生命力の源となっています。

ソ連覇権主義との闘争――これがなければ今日の日本共産党は存在しない

 十八年前に、ソ連覇権主義が解体したとき、日本共産党は「大国主義・覇権主義の歴史的巨悪の党の終焉(しゅうえん)を歓迎する」という声明を発表し、そのなかで、これが世界と日本の社会進歩にとって「巨大なプラス」をもたらすだろうと述べました。わが党がこの世界史的な激動にさいして、こうした声明を出しえたのは、ソ連覇権主義と党の存亡をかけて三十年にわたってたたかいつづけてきた自主独立の歴史に支えられたものでした。

 ソ連は、日本の運動を、自分たちの支配下におくための干渉攻撃を、一九五〇年代と六〇年代の二度にわたって仕掛けてきました。

 五〇年代の干渉攻撃は、党の分裂という悲劇を引き起こしましたが、わが党はこの試練を乗り越える過程で、日本国民のすすむべき道は、どんな大国にも左右されず、日本国民自身が決めるという自主独立の路線を確立しました。

 六〇年代の攻撃は、自主独立の路線に立つ日本共産党を打倒し、自分たちの意のままに動く政党に変質させることを目的とした、ソ連の国家権力を総動員しての干渉攻撃でしたが、わが党は、これを全面的に打ち破りました。

 一九六八年のチェコスロバキア侵略、一九七九年のアフガニスタン侵略にたいして、わが党は、「社会主義とは縁もゆかりもない暴挙」としてきびしく批判してたたかいました。

 これらのたたかいは、文字通り党の生死をかけたものであって、それがなくては今日の日本共産党は存在しないでしょう。私は、このたたかいを理性と勇気をもって支えたわが党の先輩たちに、深い感謝と尊敬の念をもっております。

アメリカ覇権主義の破たんと「覇権のない世界」にむけた新しい秩序

 十八年前のソ連覇権主義の崩壊が世界にもたらした「巨大なプラス」は、私たちの予想を超えるものとなりました。

 それはアメリカによる世界制覇を保障するものとはなりませんでした。反対に、世界各国が、米ソの二つの覇権主義の対抗という呪縛(じゅばく)から解放され、新たな活力をえて新たな発展をはじめました。覇権主義が一つになったために、世界の監視と批判が、アメリカ覇権主義に集中することになりました。最後に残った覇権主義――アメリカ覇権主義は、いま大きな破たんに直面し、終焉にむかいつつあります。軍事ではイラク戦争の失敗、経済ではアメリカ発の世界経済危機が、アメリカによる世界支配の終焉をつげる弔鐘となりました。

 さらに今日の世界を見れば、「覇権のない世界」にむけた新しい秩序が、大きな流れとなっています。軍事同盟に代わって、外部に敵を求めない平和の地域共同体が、大きな広がりをみせています。ASEAN(東南アジア諸国連合)を中心とする東南アジア友好協力条約(TAC)は、二十五カ国、地球人口の57%が参加する巨大な流れに成長し、ついにアメリカも加入を正式に表明しました。昨年十二月、アメリカとカナダをのぞく南北アメリカ大陸の三十三のすべての国がブラジルに結集し、中南米・カリブ海諸国会議が開かれ、来年二月には「中南米・カリブ海諸国機構」を創設することを決定したことも、素晴らしい前向きの流れです。国連に加盟する百九十二の国々が、対等・平等の権利をもって、世界政治の主役となる新しい時代が到来しようとしているのです。

支配・従属でなく対等・平等でこそ真の友好が生まれる

 こうした新しい世界にあって、いつまでも日米軍事同盟を絶対化し、アメリカいいなりの政治をつづけていいのかが、日本に問われています。

 私は、わが党の綱領が示す方針――日米安保条約を解消し、ほんとうの独立国といえる日本、憲法九条を生かした平和日本をつくることこそ、今日の世界の流れにそった未来ある道だと確信しています。

 もとより私たちは、反米主義者ではありません。私たちは、安保や基地に関するアメリカの政策を批判しています。同時に、私たちは、マルクスがリンカーン再選にあたって送った書簡のなかで、「偉大な民主共和国の思想がはじめて生まれた土地、そこから最初の人権宣言が発せられ、十八世紀のヨーロッパの革命に最初の衝撃をあたえた土地」と呼んだ、アメリカの偉大な歴史に深い尊敬をもっています。

 支配・従属でなく対等・平等でこそ真の友好が生まれることが私たちの信念であり、日米安保条約に代えて日米友好条約を結ぶことが私たちの目標です。

組織――草の根で国民生活を守る安全網をつくる

 第三は、私たちが持つ草の根の組織です。わが党は、四十万人余の党員、二万二千の支部、三千人の地方議員を持ちますが、こうした自前の草の根の組織をもつ政党は他にはありません。こうした草の根のネットワークが、生活相談、労働相談、職場や地域の要求実現など、国民の利益を守る活動に日々とりくんでいることは、私たちが最大の誇りとするところであります。

 「困ったことがあったら共産党へ」ということは、日本社会でかなり浸透しています。今日の経済危機のもとで、こういって私たちのもとに相談に来る方が後を絶ちません。「生活に困って役所に行ったら、『共産党に行くように』といわれた」。「多重債務の解決を警察に相談したら、『そういうことは共産党に』といわれた」。

 朝日新聞は、「解雇…そこに共産党」と題するルポルタージュを掲載し、わが党の活動を「まるで現代の『駆け込み寺』だ」と評しました。韓国・ハンギョレ紙は、「日本社会の社会安全網が、新自由主義の構造改革でおろそかになり、共産党が構築した全国組織網が社会的弱者のための安全網の役割を果たしている」と述べました。これらはうれしい注目ですが、わが党が、生活苦にあえぎ、絶望のふちにいる人々の心の叫びを受け止め、すくいあげる役割を果たせるかどうか。その責任はますます重いことを実感しております。

理想――資本主義を乗り越える未来社会への展望

 最後の問題にすすみたいと思います。

 第四は、わが党が、「日本共産党」という党名が示すとおり、資本主義を乗り越える未来社会――社会主義・共産主義にすすむ展望をもっている政党だということです。

「資本主義は限界か」という問いかけとマルクスへの注目

 昨年から今年にかけて、メディアの側から「資本主義は限界か」という問いかけがなされ、その回答をわが党に求めてくる状況が生まれました。私もテレビなどのインタビューに応じましたが、「マルクスはどう考えたか」、「『資本論』を紹介してほしい」という提起が、共通して出されたことが特徴でした。テレビで『資本論』を紹介してくれというのは、初めてのリクエストで、たいへんに難しいリクエストですが、私は、『資本論』のなかからこういう有名な一節を何度か引用しました。

 「大洪水よ、わが亡き後に来たれ! これがすべての資本のスローガンである。それゆえ、資本は、社会によって強制されるのでなければ、労働者の健康と寿命に対し、何らの顧慮も払わない」。

 「大洪水よ、わが亡き後に来たれ」というのは、日本のことわざでは「後は野となれ山となれ」ということになります。資本は利潤追求のためならば、労働者の健康や寿命を犠牲にしてはばからない、しかしそうした無制限の利潤追求を個々の資本家が競い合ってすすめたら、人間社会の存立の土台が壊されてしまう、こうした「大洪水」を止めるためには「社会による強制」が必要だ――これがこの有名な一節でマルクスが明らかにしたことですが、現代にピタリとあてはまるではありませんか。

 資本は、果てしない利潤追求の渇望を満たすためには、どんなものでも犠牲にしてはばかりません。こうした資本の行動原理、その破壊的作用は、派遣労働という現代の奴隷労働、世界的な貧困と飢餓の広がり、投機マネーの暴走、現下の世界経済危機、さらに地球環境破壊など、世界のあらゆるところに見られるではありませんか。

日本共産党という党名に刻まれた未来社会への展望も大いに語って

 こうした問題を解決するために、私たちは、日本ではまず資本主義の枠内での民主的改革、経済の分野では「ルールある経済社会」をつくることを主張しています。国際社会としても、まずいまの体制のもとでも、これらの問題を「社会による強制」によって解決するためのぎりぎりの努力が必要でしょう。

 同時に、資本主義の枠内でぎりぎりの努力をしたとしても、「利潤第一主義」という資本主義の狭い枠組みのなかでは、これらの問題の根本的解決はできないでしょう。そういうプロセスを経て、二十一世紀には、世界的規模で、資本主義を乗り越える社会主義・共産主義への前進の条件が熟してくるのではないか。これが私たちの展望であります。

 日本共産党という党名に刻まれた未来社会への展望も大いに語って、目前に迫った総選挙での勝利をつかむために、全力をつくしたいと決意しております。ご清聴ありがとうございました。(大きな拍手)