2008年4月23日(水)「しんぶん赤旗」

食料自給率向上へいまこそ国民的共同を

日本農業の再生を考えるシンポ 志位委員長の発言


 日本共産党の志位和夫委員長が二十日、秋田県大仙市でのシンポジウム「日本農業の再生を考える」で発言した内容は次の通りです。


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(写真)発言する志位和夫委員長=20日

 みなさん、こんにちは。たくさんのみなさんがシンポジウムに参加してくださってありがとうございます。温かい歓迎の言葉をいただいた栗林(大仙)市長、参加してくださったゲストパネリストのみなさんにも心からの感謝を申し上げます。(拍手)

 三月七日、日本共産党は、「農業再生プラン」を発表しました。これをもとに、私たちは、各界のみなさんと懇談をすすめてきました。中央委員会として、全国三カ所でシンポジウムを計画しておりますが、その最初のとりくみとして、日本有数のコメどころである秋田県・大仙市にお邪魔しました。

 先ほどは、川目(かわのめ)のミニライスセンターにうかがい、苦労と工夫を重ねながら集落営農にとりくんでいる現場のお話を聞かせていただきました。懇談の最後にこの「あきたこまち」をいただきました(笑い、拍手)。先ほど「大いにおコメを食べよう」という話もありましたが(笑い)、しっかり味わって食べさせていただきたいと思います。(拍手)

 私は、私たちの「農業再生プラン」の中心点をお話しさせていただき、参加者のみなさんのご意見をいただきたいと思います。 

食料自給率向上は「待ったなし」――世界の動きとのかかわりで考える

 私たちの「農業再生プラン」の最大の要は、歴代自民党の農政によって、食料自給率が39%、穀物自給率が27%という世界でも異常な水準まで下がってしまった日本の農業をどう建て直し、とくに食料自給率をどうやって引き上げていくかにあります。「農業再生プラン」では、「自給率を50%台に引き上げることを国政の当面の最優先課題に位置づけ、その達成にむけてあらゆる手立てをとることを農政の基本にすえる」ということを提案しています。

 私たちは、この問題を、いまの世界の大きな動きとのかかわりで考えていくことが大切になっていると考えています。「農業再生プラン」では、「食料をめぐる国際情勢の激変は、農政の根本的転換を迫っている」として、世界的規模での食料不足、食料高騰などとのかかわりでも、この課題が「待ったなし」となっていることをとくに強調しました。

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食料不足、食料高騰は、世界的危機というべき深刻な事態に

 この「農業再生プラン」を発表してから約一カ月の世界の情勢をみますと、食料不足、食料高騰は、世界的危機ともいうべき深刻な事態となってきました。

 三月以来、多くの途上国で、「食料が足らない」「食べていけない」と、暴動が起こっています。エジプト、カメルーン、コートジボワール、セネガル、ブルキナファソ、エチオピア、マダガスカル、インドネシア、フィリピン、バングラデシュ、ハイチなどの国々で暴動や騒乱が起き、死者が出た国もあります。世界食糧計画(WFP)は、三十カ国が食糧危機となり、うち二十三カ国が「深刻な情勢」と警告を発しています。

 この三年間で、小麦の国際市場価格は三・三倍、大豆は二・五倍、トウモロコシは二・五倍に高騰しました。コメの国際価格はわずか三カ月で二倍になりました。世界の穀物在庫率は14・7%まで下落して、この四十年間で最低となり、「危険水域」といわれる水準まで落ち込みました。

 この原因として、つぎの三つの点が共通して指摘されています。第一は、新興国・途上国の経済発展による食料需要の増大です。第二は、世界的なバイオ燃料の原料としての穀物などの需要増大です。第三は、地球規模の気候変動の影響です。たとえばオーストラリアを大干ばつが襲い、穀物生産は大打撃を受けました。これらの原因は、みんな一時的なものではありません。構造的な原因にほかなりません。世界はいま明らかに食料不足に陥っているのです。くわえて、投機マネーが穀物市場まで流れ込み、穀物の高騰に拍車をかけています。これらの原因のなかには、地球環境や投機マネーの問題など、国際社会の共同した努力で解決をはかるべき問題もありますが、新興国・途上国の需要増大のように、当然の避けがたい原因も含まれています。

 このなかで、たとえばコメをみても、ベトナムやインドなどコメ輸出国が、あいついで輸出規制に踏み切っています。食べ物が不足したら、どの国であれ自国民の胃袋を最優先にするのは、当たり前の判断です。こうしたもとで、「世界は穀物の争奪戦のような状態になっている」(農水省)といわれるようになりました。

 最近、NHKの「クローズアップ現代」でも世界の食料危機の特集をしていましたが、世界最大のコメ輸入国のフィリピンが、深刻な苦境におちいっていることを映し出していました。フィリピンは、コメの20%を輸入に頼っているわけですが、お隣のベトナムが輸出規制に踏み切るもとで、深刻なコメ不足に陥り、政情不安にまで発展しています。「日本農業新聞」が、「米欲しい 比大統領が懇願」「ベトナム首相に 相場急騰で異例要請」「食料確保 綱渡り」という大見出しで報じました。ベトナム政府は要請にこたえて、「できるだけの努力はしたい」と答えたそうですが、同時に「何があっても自国民の食が第一」だという対応をせざるをえないとのことです。

「日本が餓え死にする」――輸入に頼っていては食料確保の保障はない

 こうした世界にあって、日本が自給率39%、穀物自給率27%という水準に安住し、なりゆきまかせの農政をつづけたらどうなるか。恐るべきことになると思います。

 世界には、人口一億人をこえる国が十一あります。そのうち穀物自給率は、アメリカ、パキスタン、中国で100%をこえ、ロシア、インド、バングラデシュ、ブラジルで90%台、インドネシア、ナイジェリアで80%台、メキシコで60%台。一人日本だけが27%(どよめきの声)。これはほんとうに異常なことです。私は、食料自給率の向上は、「待ったなし」ということを訴えたいのであります。(拍手)

 そして「待ったなし」ということを二重の意味で強調したい。

 第一は、先ほど述べた「食料の奪い合い」の世界で、輸入に頼っていては、わが国が食料を安定的に確保する保障はいまやなくなったということです。

 たとえば、アメリカでは、トウモロコシをバイオ燃料にする動きが大規模に起こっています。この動きのなかで、アメリカのエタノール会社と日本の穀物商社の間で、トウモロコシの「奪い合い」が起こり、ある社では必要なトウモロコシの契約が5%しかできないということも伝えられています。日本が「買い負ける」という事態が起こっているのです。小麦でも同様の事態があります。

 最近、『週刊エコノミスト』(四月一日号)が「飽食というけれど――食料自給率39%の危機 日本が餓(う)え死にする」という、たいへんショッキングな題名の特集を掲載しましたが、これは決してオーバーな話ではありません。いまフィリピンで起こっていることは、明日の日本の事態になりかねないのであります。

 ブッシュ大統領は、アメリカ農民の前でつぎのように演説したそうです。

「食糧を自給できない国を想像できるか。そんな国は、国際的な圧力と危険にさらされている国だ。食糧自給は国家安全保障の問題であり、アメリカ国民の健康を守るために輸入食品に頼らなくてよいのは、何とありがたいことか」(どよめきの声)。

 こんなことをよくいえたものですね(拍手)。日本にさんざん輸入を強要し、食料自給率をここまで下げさせておいて、この言い草には腹がたちますね。しかし、どの国も、食料の確保というのは、軍事、エネルギーとならんで、国家存立の土台と考えられていることは事実でしょう。ところが、日本の政府は、はっきりいって食料確保に責任をもたない。エネルギーにも責任をもたない。関心をもっているのは軍事だけ。これはまさに政治のあり方を、根本からあらためなければならないのではないでしょうか。(拍手)

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大量の穀物買い付けは“飢餓輸出”に――自給率向上は国際社会への貢献

 第二に、日本が、他国から大量の穀物を買い付けていることが、世界の飢餓を深刻にしているということを、いわなければなりません。

 世界の飢餓人口(栄養不足人口)は、この六年間で八億二千九百万人から八億五千四百万人に、年間四百万人余のペースで増え続けています。

 そういう世界で、その気になれば食料を自給する能力がある日本が、自分の国の田畑を荒らして、外国から大量の穀物を買い付けていることは、飢餓の全世界への輸出にほかなりません。自給率向上は、一人日本国民の利益だけでなく、国際社会への貢献だということを訴えたいのであります。(拍手)

日本の農業には素晴らしい力がある

 日本の農業について、財界などから「競争力がない」だの何だのと、一生懸命に頑張っている農業者のみなさんの努力を足げにするような発言がよくあります。しかし、日本の農業には、素晴らしい能力があります。

 農地一ヘクタールで何人の人を養えるか。オーストラリアは〇・一人、アメリカは〇・八人、イギリスは二・六人、フランスは二・九人、ドイツは四・五人です。わが日本は、十・五人なのです(「ほおー」という声)。日本では、水田という最も高い生産力をもつ農地が中心となっているからです。そして、日本の農業、農業者が、優秀だからであります(拍手)。「日本の農業は競争力がない」などと否定するのは、根本的な間違いです。これだけの素晴らしい能力のある農業を、壊してきた自民党政治の責任こそが問われているのであります。(大きな拍手)

 いまや「食料は外国から安く買えばいい」という世界ではありません。この考え方は根本からあらためる必要があります。食料自給率向上のために、政治の責任を真剣に果たすべきときであり、そういう立場で頑張っていくことをお約束するものです。(拍手)

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安心して農業生産にはげめる価格保障・所得補償を

 さて、どうやって自給率向上をはかるか。これまでの自民党農政の根本的な転換が必要です。その中心的な中身として、「農業再生プラン」では「四つの提言」を示しています。私は、これらはどれも日本国民の切実な要求であるとともに、世界の動きからみても当然の道理をもつものだと考えています。

 第一の提言は、「持続可能な農業経営の実現をめざし、価格保障・所得補償制度を抜本的に充実する」ことであります。

農業経営は文字どおりの崖っぷち――当面、1俵1万7千円以上の価格保障を

 私は、全国を歩いておりまして、農家はいま、文字どおりの崖(がけ)っぷちまで追い詰められていると痛感させられます。

 二〇〇六年産米の生産者米価は、全国平均で一俵一万四千八百二十六円。生産費の平均一万六千八百二十四円を約二千円も下回りました。この米価で得られた農家の労働報酬は時給で二百五十六円にしかならないことが大問題となりました。ところが、二〇〇七年産米はさらに下がり、平均一万三千五百円程度まで下がるといわれています。農家のみなさんの実質の手取りは、さらにいろいろな経費が引かれて、さらにそれを下まわってきます。こうなりますと、労働報酬はほとんどゼロ、もしくは文字どおりの赤字というのが実態ではないでしょうか。先ほどうかがった川目の集落営農のみなさんも、いろいろと努力しているが「赤字」という話でした。いま発言された横手の集落営農の高橋さんの話でも「赤字」だが、頑張っているということでした。

 こうなってくると、なけなしの年金収入を取り崩す、あるいは兼業での農業外収入でなんとかやりくりしている。「先祖代々の田んぼを、自分の代でつぶしたくない」の一心で、採算割れでも歯を食いしばって頑張っておられるのが実態ではないでしょうか。しかし、そんな状態では、どんなにみなさんが頑張っても長続きしません。この生産者米価では、日本の農業は持続不可能であることは、あまりにも明瞭(めいりょう)であります。

 それではどうするか。私たちの「農業再生プラン」では、生産コストをカバーする価格保障制度をつくろうではないか。それを基本にしながら、所得補償制度を組み合わせて、農業経営を安定的に持続できるようにすることを提案しています。

 主食であるコメについていえば、農家の販売価格が平均的な生産費を下回った場合、その差額を公的に補う「不足払い制度」を実施することを提案しています。二〇〇七年産米については、少なくとも、一万七千円以上を保障する。こうした価格保障に上乗せして、国土・環境を守る農業の役割などを考えて、当面十アールあたり一万円程度の所得補償を実施する。価格に換算すると一俵あたり約千円が上乗せされることになります。価格保障で一万七千円、それに上乗せして千円。あわせて一万八千円です。この程度の収入を確保しなければ、農業を続けていけないというのが、みなさんの共通したお気持ちではないでしょうか。(拍手)

欧州では農業所得の5割は価格・所得補償によって支えられている

 欧米ではどうなっているでしょうか。私たちが、「価格保障、所得補償が必要だ」といいますと、「そんなものは時代遅れだ」というようなことを、平然と政府はいいます。しかし、それは世界の動きをみない、とんでもない間違いです。米国でも、欧州でも、農産物にたいして手厚い価格・所得対策がおこなわれています。

 たとえばアメリカでは、コメをとってみますと、政府は生産費を保障する目標価格を設定し、それと販売価格との差額は、価格保障、「不足払い」、固定支払い(所得補償)などで、何段階にもわたって全額補てんする仕掛けになっています。たとえば、一俵一万八千円を目標価格として、国際水準の販売価格が四千円とした場合、差額の一万四千円をまるまる政府が保障するわけです。こういう分厚い保障によって、輸出国になっているわけです。

 それではEU(欧州連合)はどうか。農水省が今年の予算委員会に提出した資料によると、EUでは農業所得に占める直接支払い(価格保障と所得補償)の割合は、49%に達しています(二〇〇三年)。つまり、農業所得の半分は、政府が保障しているのです。同じ資料で、日本では農業所得に占める直接支払いの割合は22%にすぎません。日本が欧州に比べて、いかに価格保障・所得補償にお金を使っていないか、歴然としていますでしょう。

 わが党の「農業再生プラン」で提案している農産物の価格保障・所得補償に必要な予算は、約九千億円です。二〇〇八年度の国の農業予算のうち価格・所得対策予算は五千四百億円であり、四千億円程度の追加をおこなうという提案ですが、この提案を実施した場合に、わが国の農業所得に占める直接支払いの割合は三割程度に引き上がります。それでもまだ欧州に比べたら、控えめですね。このように私たちの提案というのは、世界の動きと比べてみても、最小限の、本当に現実的かつ緊急の要求なのだということを申し上げたいし、ぜひこれは力を合わせて実現させようではないかということを訴えたいと思います。(大きな拍手)

農業の担い手――規模の大小を問わず、続けたい人・やりたい人のすべてを支援する

 第二の提言は、「家族経営を維持するとともに、大規模経営をふくむ担い手育成で農地を保全する」ことです。

「経営安定対策」(「品目横断対策」)では、水田の4分の3が切り捨て対象に

 私たちは、規模の大小で農家を選別する「品目横断対策」――最近では「水田・畑作経営所得安定対策」と呼ばれているそうですが、これはやめるべきだと考えています。そして、多様な家族経営を農業経営の主役として大切にするとともに、大規模農家、集落営農をふくめて、農業を続けたい人、やりたい人すべてを、支援の対象にすべきだということを提言しています。

 この「経営所得安定対策」(「品目横断対策」)で支援対象となるのは、個別農家では、四ヘクタール以上、集落営農では二十ヘクタール以上ですが、これは農業者のごく一部です。とくに将来になかなか展望が見いだせない兼業農家や、中山間地で頑張っている小規模の家族経営などは、軒並み切り捨てられることになります。

 いったいどのくらいの切り捨てになるのか。農水省に資料を出させました。昨年の「品目横断対策」の加入申請状況を見ますと、コメの作付面積でみて、四十三万七千ヘクタール。水田全体では、作付面積は百六十七万三千ヘクタールですから、水田全体の26%しか支援対象にならない。田んぼの面積にして四分の三は切り捨ての対象になる。これがこの「対策」の名でやられていることですから、こういう規模の大小で選別することはやめるべきだというのが、私どもの立場です。

大規模農家、集落営農も、いまの農政のもとでは展望がみえない

 一方、支援対象とされた大規模農家、集落営農の方々はどうか。こういう方々であっても、この「対策」のもとで頑張っても、とても展望を見いだすことはできません。先ほども川目の集落営農で、いろいろなご苦労をされているということをうかがいました。メロンや大豆などへの転作にも挑戦しているということでした。しかし、それでもなかなか赤字から脱することができないとのことでした。

 私は、秋田県の大潟村(おおがたむら)の話をうかがいました。八郎潟を埋め立てて水田をつくった大規模農業で頑張っている村です。稲作の技術的コストがいちばん低くなる耕作面積は、十ヘクタールから十五ないし十六ヘクタールといわれます。大潟村の平均的な耕作面積は、十五ヘクタールですから、もっとも効率的な面積になるわけですが、それでもコメ作りによって、得られる農家所得は、ご夫婦二人で懸命に働いても、二〇〇六年産米で六百万円にすぎないそうです。二〇〇七年産米はもっと下がるでしょう。「とても息子に農業を継げとはいえない」ということでした。もっとも効率的だといわれる大潟村でさえ、そういう状況になっているのです。

 私は、「経営安定対策」というのは、よくもこういう厚かましい名前をつけたものだと(笑い)、思います。「経営安定対策」ではなくて、「経営破壊対策」ではないかといわざるをえないのであります。(拍手)

 農業の担い手というなら、農業を続けたい人、やりたい人、そのすべてを大切にして支援をする。多様な家族経営を応援する。地域農業で大切な役割を果たしている大規模農家や生産組織を応援する。とりわけ、新規就農者には特別の支援をする。これが政治の責任ではないかと考えております。(拍手)

「食料主権」にたって、関税など国境措置の維持・強化を

 第三の提言は、「関税など国境措置を維持・強化し、『食料主権』を保障する貿易ルールを追求する」ということです。

世界でもこんなに輸入自由化を徹底してすすめた国はない

 主要国のなかで、日本ほど輸入自由化を徹底してすすめた国はありません。農産物の平均関税率は、農産物輸出国であるEUが20%、アルゼンチンが33%、ブラジルが35%、メキシコが43%であるのに比べて、日本の平均関税率はなんと12%です。世界で最も「農業が開かれた国」になってしまっているのです。

 ところがこれをさらにすすめようとする勢力がいます。二〇〇七年二月に農水省が経済財政諮問会議の求めに応じて、「完全自由化になると、どうなるか」の試算を出しました。これによると食料自給率は現在の39%から、なんと12%に落ち込みます。おコメの生産は現在の十分の一に激減します。ところがこの結果を見て、経済財政諮問会議のある民間議員の大学教授はこういいました。「国内生産は結構残るじゃないか」(どよめきの声)。ひどいでしょう。こういう人たちに日本の経済のかじ取りを任せるわけには到底いかないと強く感じました。(拍手)

欧米では基礎的な品目は高関税で守り、ミニマム・アクセスの枠も未消化

 それでは欧米では、農産物の国境措置はどうなっているでしょうか。先ほど、『週刊エコノミスト』の農業特集を紹介しましたが、この特集に論文を寄せた東大教授の鈴木宣弘さんはこうのべています。

  「欧米では牛乳・乳製品が日本のコメに匹敵する最も基礎的な品目であるため、酪農業は『電気やガスのような公益事業』にも例えられ、輸入には依存できないとの考え方がある。……乳製品の国際競争力は、オーストラリアとニュージーランドが突出しているため、他の先進国は、オセアニアからの輸入を制限する防波堤(保護措置)がなければ、自給率を確保することができない。そこで、欧州連合(EU)や米国も、乳製品に対する高関税を維持し、国内消費量の5%程度のミニマム・アクセスに輸入量を抑え込んでいる。ミニマム・アクセスは最低輸入義務と訳されることが多いが、本来は低関税の輸入機会の提供であり義務ではないから、欧米では枠が未消化の場合が多い」。

 アメリカでもヨーロッパでも、最も基礎的な品目はちゃんと保護政策をとり、国境措置をとって守っている。関税など国境措置を維持・強化することは、欧米でも当たり前におこなっている当然のことだということを強調したいと思います。

 ミニマム・アクセスについて申しますと、日本はコメの消費量の7・2%という枠いっぱいを全量輸入しています。そしてこれが米価下落の一大要因になっています。しかし、欧米はミニマム・アクセスの枠いっぱいを輸入しているかというと、そんなことはありません。これは二〇〇〇年の数字ですが、アメリカの鶏肉の輸入量は消費量の0・03%、EUの豚肉の輸入量は消費量の0・4%、チーズの輸入量はアメリカが消費量の4・8%、EUで2・6%です。鈴木さんのいうとおり、どれもミニマム・アクセスの枠は未消化ではないですか。ほとんどゼロ輸入の品目も少なくありません。

 ミニマム・アクセスというのは「輸入義務」ということではありません。「輸入機会を提供する」という意味でしかありません。それを「義務」として、WTO農業協定の言っている事は「金科玉条」以上に解釈して、その枠いっぱいを輸入しているような国はあまり見当たりません。私たちは、ミニマム・アクセスについても、あり方を根本的に見直して、こういうやり方は中止するべきだということを、「農業再生プラン」のなかで提案しております。(拍手)

「食料主権」を保障する貿易ルールの確立を

 いま世界では、WTOが中心となってすすめてきた、食料を市場まかせにする害悪が明らかになるもとで、「食料主権」を保障する貿易ルールをもとめる流れが広がっています。「食料主権」というのは、各国が、輸出のためでなく、自国民のための食料生産を最優先にし、実効ある輸入規制や価格保障などの食料・農業政策を自主的に決める権利のことです。この考え方にたって、WTO農業協定を抜本的に見直し、歯止めのない輸入自由化にストップをかけていくために力をつくそうではありませんか。(拍手)

農業者と消費者が共同して、食料と農業を守り発展させよう

 「農業再生プラン」は、第四の提言として、「農業者と消費者の共同を広げて、『食の安全』と地域農業の再生をめざす」ことを提案しています。

 そこでは、輸入食品の検査体制の強化、原産地表示の徹底、農産物・加工品の監視体制の強化、製造年月日表示の復活、BSE(牛海綿状脳症)全頭検査の維持など、「食の安全」にかかわる国民の切実な要求を掲げています。健康と命にかかわるこの分野までも、アメリカいいなりの規制緩和の対象にしては絶対にならないと、私は訴えたいと思います。

 同時に、先ほど生協の加藤さんが強調しておられた地産地消の問題をはじめ、農業者と消費者が共同して、さまざまな形でおこなっている地域の自主的な取り組みがあります。これを国と自治体がもっと応援する。すでに全国各地の自治体ではずいぶんいろいろな取り組みがおこなわれています。それを国でも応援することが大切であります。

 食料・農業の問題は、農業者だけの問題ではありません。日本国民の存亡がかかった大問題です。ぜひ、農業者と消費者の共同を広げ、自給率の引き上げに取り組みたい。そのための国民的合意をつくるたたき台として、私たちの「農業再生プラン」を使っていただきたい。そのことを申し上げまして、発言といたします。ありがとうございました。(大きな拍手)


会場からの質問・意見にこたえて

(会場からは、十二人の参加者から、活発な意見が寄せられ、そのなかでいくつかの質問が出されました。志位委員長はそれらに応えて最後につぎのように発言しました)

 今日は本当にありがとうございました。参加者のみなさんから出されたご意見、ご質問にも応えて、最後に、発言させていただきたいと思います。

農協のみなさんとも、胸襟を開いて対話をすすめたい

 まず、農協の活動について出された意見についてです。農協の活動のあり方は、何よりも組合員のみなさんが自主的に決めることですから、私たちが政党としてあれこれいうことはさし控えたいと思います。ただ私が何よりもうれしいことは、このシンポジウムの場に、地元の「秋田おばこ農協」を代表して、小田島さんが参加してくださり、農協の活動状況についての発言をいただき、対話してくださったことです。(大きな拍手)

 私は、三月十四日に、全国農協中央会(全中)にうかがい、「農業再生プラン」をもって、副会長の廣瀬さんたちと、懇談をいたしました。日本共産党として、こういう形で全中の本部をうかがって懇談をしたのは、実は初めてのことです。廣瀬副会長は、「こういうプランを出してもらったので国民合意が得られる政策のあり方について、ふみこんで話し合いができると思う」とおっしゃってくれました。ほんとうにうれしいことでした。農協の方々と胸襟を開いて話し合う関係になったと感じました。

 今日も、農協の方とこういうシンポジウムで席を並べ、対話することができたことが、本当にうれしいことでした。政治的立場の違いをこえて、全国各地で、こういう対話を広げていけたらと願っております。(拍手)

自給率向上への国民的合意をつくる「たたき台」として活用を

 何人かの参加者の発言で、「農業再生プラン」への補強意見が寄せられました。農業の果たしている地域経済・地域社会を支える役割、環境と国土を保全する役割、日本国民の健康を守る役割などを、もっと踏み込んで書いてほしいという意見もありました。もっともな意見だと思います。

 消費者の立場からすると、提言の順番は、第三、第四の提言を先にして、第一、第二の提言をつぎにしたらどうか、という意見もありました。この提言の順番は、大事なものから順番に書いて、最後のものはあまり大事でないというものではありません。どれも大事だと考えておりますので(笑い)、どういう使い方をされても結構であります。

 私どもの「農業再生プラン」は、いかに日本農業を建て直し、食料自給率を引き上げるのか――そのための国民的合意をつくるためのいわば「たたき台」として提案したものです。ですから、おおいに「たたいて」いただいて(笑い)、国民のみなさんの対話をつうじて、さらに良いものにしていっていただきたいと思います。

WTO協定――現行協定にかわる新たな枠組みが求められている

 WTO農業協定について、「共産党は、この協定の枠組みのなかで対策を考えているのかどうか」という質問がありました。

 私たちの「農業再生プラン」のなかには、現行のWTO農業協定のもとでも実行可能なものもたくさん含まれています。同時に、私たちは、農業問題の根本的な解決のためには、WTO農業協定そのものの改定が必要だと考えています。現行のWTO農業協定は、巨大な力をもった輸出国がとくに有利になる仕掛けです。それが、世界の食料への現状、そして農業の現状とまっこうから矛盾してきた。立ち行かなくなったと考えています。

 そのことは、国際政治の舞台でも提起されるようになってきました。先ほど、「食料主権」という考え方が世界の大勢になってきたという話をしましたが、二〇〇四年の国連人権委員会ではこういう決議が採択されています。

  「各国政府に対し、人権規約に従って『食料に対する権利』を尊重し、保護し、履行するよう勧告する。『食料に対する権利』に重大な否定的影響を及ぼしうる世界貿易システムのアンバランスと不公平に対しては、緊急の対処が必要である。いまや、『食料主権』のビジョンが規定しているように、食料安全保障と『食料に対する権利』に優先順位を置くような農業と貿易のための新たな対抗モデルを検討すべきときである」。

 これが、国連人権委員会で採択されています。WTOの枠組みの「アンバランスと不公平」をただす、新たな枠組み、新たなビジョンが必要だという決議であります。これに反対したのは米国だけです。棄権したのはオーストラリアです。日本の政府は賛成しています。賛成している以上、WTO協定という枠組みを「金科玉条」にしないで、各国の「食料主権」が保障される方向に、WTO協定の改定をはかるために日本政府は力をつくすべきだというのが、私たちの主張であります。(拍手)

「農業再生プラン」の財源をどう考えているのか

 「農業再生プラン」の財源の問題についてご質問がありました。私たちの「農業再生プラン」というのは、予算的な規模で申しますと、価格保障・所得補償予算の額は、二〇〇八年度予算で五千四百億円であり、これを九千億円程度にすれば実現できます。約四千億円の上積みがあれば可能だということです。

 それで、この四千億円をどこから持ってくるか。現行の農業予算の枠内での組み替えでまかなうのか、それとも農業予算の総額をふやすのかというご質問でありました。

 現行の農業予算は、総額約二兆円です。そのうち農業土木事業費は、だいぶ減らされてきていますが、二〇〇八年度で六千六百七十七億円です。そのうち国営かんがい排水事業が約三分の一を占め、その大きな部分がダム建設費です。この部分の多くは不要不急、ないし後回しにできる予算といえると思います。ですから、農業土木事業費のうち、三分の一くらいは価格・所得対策の方にまわせるのではないか。つまり、現行農業予算の中の組み替えで二千億円程度をねん出する。そうすると残り二千億円程度となります。

 この部分は、農業予算の増額を考えなければなりません。農業予算は、小泉「構造改革」が始まる前には、二兆八千億円を超えていたのが、二兆円まで減らされているわけですから、このうち二千億円程度はまず戻しなさいということです。これがおおまかな私たちの見通しですが、その気になればできる現実的なものではないでしょうか。

 発言では四千億円といっても実感がわかない(笑い)、どの程度の額かという話がありました。私も、億という単位のお金は、触ったこともないので実感がわきません(笑い)。ただこういうたとえができるかもしれません。漁船「清徳丸」を沈めたイージス艦は、一隻千四百億円もするんですよ。四千億円といったらその三隻分です。あんな軍艦を三隻買うよりも、農業を建て直す方が先なのではないでしょうか。(大きな拍手)

 こういうたとえもできます。国の予算はだいたい年間約五十兆円ですから、四千億円というのは、だいたい百分の一といったところです。ですから、だいたい三十万円の家計でいいましたら、三千円くらいのやりくりで可能になりますね。これは政治の姿勢一つでやれるのではないですか。財源の点でも、「農業再生プラン」は無理のない形での提案になっているということを、紹介しておきたいと思います。(拍手)

新規就農者に国の支援を――若者の就農を応援しない政治でいいのか

 新規農業者の支援をどうするかについての発言がありました。これは、みなさんもたいへんに胸を痛めている問題だろうと思います。後継ぎがいる農家は、ごくごく一部で、どこでもたいへんうらやましがられる状況ですね。

 「農業再生プラン」では、「新規就農者に月十五万円を三年間支給する『就農者支援制度』を確立する」ことを提案しています。これも当たり前の要求です。

 たとえば、フランスでは、一定の要件をみたす青年農業者が、農業経営を開始する場合に、国として就農助成金を支給しています。助成額は、単身の場合で、山岳地帯で二百十六万円から四百七十万円、平地でも百四万円から二百二十七万円程度になります。かなり手厚い助成ですね。この助成金をうけて就農した人数は、年間約九千人に達する。そのため、フランスでは四十五歳から五十四歳という年齢層が農業人口のうちの主力を占めています。

 若い方が、農業の道を選んだら、少なくとも三年間くらいは、技術・知識を身につけるのにかかりますね。その期間はしっかり助成をおこない、安心してこの道に踏み出せるように支援するのは、政治の当たり前の責任です。

 農業を支えているのは人間です。いくら価格保障をやっても、後継ぎがいなかったら、担い手がいなくなったら、農業は立ち行きません。ですから、ぜひ新規就農者への支援を実現させていきたいと思います。(拍手)

 日本でも、全国四十七都道府県のほとんどで、自治体として独自に新規就農者への支援をやっています。そのなかで十七道県では、青年農業者確保のために、月数万円から十万円、一年から三年程度の助成をおこなっています。これにたいして、政府の青年農業者への支援措置は、せいぜい無利子融資にとどまっています。自治体でも苦労しながらやっている。これを国が応援しないでどうするんだということを言いたいと思います。(大きな拍手)

生産調整――転作作物の条件を良くして、農家が自主的に選択できるように

 発言のなかで減反についてどう考えるかについて質問がありました。「農業再生プラン」は、生産調整は必要だという立場です。ただ、生産調整をする場合にも、転作作物の条件を思い切って良くしなければいけません。先ほどの発言で、コメから大豆への転作で頑張ってみたが、大豆の生産者価格は一キロ四十四円だということでした。涙がでるような価格です。これでは転作といったって先がないわけです。

 「農業再生プラン」では、「転作作物の条件を思い切って有利にすべきだ」と主張しています。ここでも価格保障、所得補償をおこなうべきです。「プラン」では、コメとともに、麦、大豆、畜産、野菜、果樹なども、価格・所得対策をおこなうことを提案しています。こうやって転作作物の条件を良くすることで、転作は農家が自主的・自発的な判断で選択できるようなやり方をとるべきだというのが、私たちの考えです。

 そういう努力ぬきに、未達成の農家、地域には補助金をカットするというような強権的・強制的なやり方はよくない。減反の強制が、どれほど農業者の心を傷つけ、意欲を損なってきたか。はかりしれません。しかも輸入をしながら、さらに米価の下支えの仕組みを取り払いながら、強制的な減反を押し付けるというやり方は、許すわけにはいきません(「そうだ」の声、大きな拍手)。

自給率を上げると困る勢力は――根本からいうと相手は財界とアメリカ

 発言のなかで、「食料自給率を上げると、困る勢力があるのでは」という質問がだされました。ズバリいえば、それは財界とアメリカだと思うのです。

 日本の財界は、派遣労働に代表される不安定雇用、過労死を生み出す長時間労働など、奴隷のようなひどいやり方で労働者を搾り上げて、コスト削減を究極まですすめて、海外に大量の輸出をおこなって、空前のもうけをあげています。自分たちが輸出で大もうけを自由にやるためには、それとひきかえに日本の農業を人身御供のように差し出す必要がある。そこで「自由化をやれ」という大号令をかけてきたのです。

 先ほど、経済財政諮問会議に参加している大学教授が、完全自由化の場合、自給率が12%になるという数字を見て、「結構残るじゃないか」とのべたという話を紹介しました。これが財界の中枢の考えなのです。農業などなくなったっていい。株式会社による農地所有や利用を自由化せよ。農地をつぶして工場にしてしまってもいい。農産物を外国から安く買えばいいじゃないかという話です。しかし最初にお話ししたように、世界では、こういう考えでは立ち行かなくなっているのです。そこがわからないで、自分の目先の利益のために、かけがえのない農業を壊して痛痒(つうよう)を感じないというのが財界です。

 そして、もう一つはアメリカです。先ほどブッシュ大統領の話をしましたが、日本に輸入をさんざん強要しておいて、自給できない国は一人前でないなどと、勝手なことをいっています。この発言の裏にあるのが、アメリカの巨大アグリビジネス(農業大企業)といわれる勢力です。この勢力にとっては、日本が自給率を高めることは、自分のもうけ口を失うことになる。巨大な軍事力とともに、全世界の穀物・食料を支配することで、世界に覇権をおよぼそうという思惑が、アメリカの支配層のなかにはあります。それが日本への強烈な輸入強要圧力となっているのです。

 農業問題は、根本的にはここに行きついてきます。相手は、財界とアメリカなのです。そういう点では抜き差しならない対決なのです。その解決のためには、まさに政治の根本的転換が求められているということを、私は訴えたいと思います。(拍手)

ともに手を取り合って、日本農業再生のために共同を広げよう

 ご質問にお答えしきれていない問題もあるかとも思いますが、今日は本当にありがとうございました。(拍手)

 私たちは、今日を皮切りに、全国各地でこうしたシンポジウムにとりくんでいきたいと思います。すでにずいぶんとりくまれておりますが、大・中・小のいろいろな形で、対話を重ねていきたいと決意しております。

 もとより、これは一党一派の問題ではありません。農業者だけの問題でもありません。日本国民全体の存亡にかかった問題ですから、そういう位置付けで頑張りますので、どうか、ともに手を取り合って日本農業再生のために頑張りましょう。(大きな拍手)


農業シンポ会場からの発言

 パネリストの発言のあと、会場の参加者十二人から活発な発言が続きました。

 元高校教員は「新規就農者に月十五万円という提案はすばらしい。子どもたちに希望を与え、新しく農業に入っていけるようにしてほしい」と発言。大学教員は「農業政策というのは消費者の問題。国民の問題だと思う。プランの三章、四章を先にもってくるべきでは」「WTOの枠組みをどう考えるか」と聞きました。

 岩手県から参加した男性は「転作の大豆は一キロ四十四円。大豆をいっぱい取ろうという気にならない」と嘆きました。山形県からの参加者は「世論を盛り上げ、政治を変えて農家が楽しんでやれる農業にしてもらいたい」と発言しました。

 青森県からの参加者は「プランは大規模農家を励ましてくれている」と発言。地元大仙市からの参加者は「農業の衰退と社会の荒廃が結びついている気がする」とのべました。

 九十歳の男性は「農協はなぜ選挙のたびに自民党を推すのか」と疑問を語り、横手市からの参加者は「環境のためにも、地産地消をすすめるべきだ」と提起しました。

 専業農家の男性は「日本の農業はもっと自給率を上げられる。これを上げると困る勢力があるのではないか」と質問。八十歳代の参加者は「私たちは戦前、戦後と政府にだまされてきた。減反をすると米の価格が上がると言われ、それを信じてきた。共産党のいうことが一番正しい」と声を強めました。

 再生プランをじっくり読んできたと語る男性は「プランの財源的裏付けはあるのか。(上積みの)四千億円とはどの程度のカネなのか。絵に描いたモチではないことを解明してほしい」と質問。秋田市から参加した主婦は「このプランを実現し、農業を生き生きさせ、子どもたちの声でにぎわうような農村風景を取り戻したい」と話しました。