2007年9月14日(金)「しんぶん赤旗」
日本共産党の志位和夫委員長が十二日、東京・新宿駅前の緊急街頭演説で訴えた内容は次の通りです。
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みなさん、こんばんは。日本共産党の志位和夫です。きょう(十二日)、安倍首相は、突然の辞任表明をおこないました。前代未聞の異常な形での政権の投げ出しです。このことにかかわって、この場をお借りして、緊急の国政報告をおこなわさせていただきます。
安倍首相は、あれだけ参院選で、国民のきびしい審判を受けながら、居座って辞めようとしなかった。内閣改造までやって、政権を延命させようとした。一昨日(十日)には、国民に向かって自らの抱負を訴える所信表明演説までやりました。
それなのに、きょうの衆院本会議での代表質問がはじまる直前に、「代表質問の答弁ができません」といって、政権を投げ出す。歴代首相のなかでも、こんな無責任の極みの辞め方をした人はいません。(「そうだ」の声、拍手)
同時に、こういうところまで追い詰めた力がどこにあったかというと、それは参院選での国民のみなさんの審判の力にほかなりません。それが、その後、首相の往生際の悪い、悪あがきがあったにせよ、結局は辞任につながったのであります。これからの時代は、主権者である国民の声が、目に見える形で、日本の政治を動かしていく時代になった。そのことがはっきりあらわれたのが、きょう起こった事態でありました。(拍手)
もちろん問題は、安倍首相個人の問題にとどまりません。こういう人物を「選挙で勝てる」と考えて首相にかつぎ、選挙の審判がくだっても「続投」を容認してきた、自民・公明政治全体の責任がきびしく問われています。(拍手)
そして、ことの根本には、自公政治がいよいよ末期状態におちいり、その政治路線が大破綻(はたん)をとげているという問題があります。何が破綻しているのか。私は、「三つの破綻」が、はっきりしたということを、いいたいと思うのであります。
第一は、異常なアメリカいいなり政治の破綻であります。
今回の安倍首相の政権投げ出しの直接のきっかけになったのは、米軍などがアフガニスタンでおこなっている「対テロ報復戦争」の支援のために、インド洋に派兵している海上自衛隊の活動をこのままつづけていいのかという問題でした。海上自衛隊の派兵のためのテロ特措法という法律の期限が、十一月一日で切れてしまうのです。
政府・与党は、自衛隊の活動を延長する法律を、何が何でも通したい。しかし野党はみんな反対です。参院では野党が多数ですから通りません。そこでいよいよ立ち往生となって、政権を投げ出したというのが、直接のきっかけです。
安倍首相は、辞職の記者会見で、「テロとのたたかいをやめてはならない。そのために局面を転換するために辞めるのだ」と繰り返しました。いま首相が辞めるのが、なぜ「局面を転換」して、自衛隊派兵の継続につながるのか、まったくわけのわからない話です。ほんとうにテロをなくそうと真剣に考えているならば、やみくもに派兵継続をはかるのではなく、あの9・11同時多発テロにたいして、アメリカが報復戦争という対応をしたことが、どういう結果をもたらしているかを冷静に検証することこそ、いまいちばん大切ではないでしょうか。(拍手)
日本共産党は、六年まえに9・11テロが起きたときに、国連と各国政府に手紙を送り、テロは絶対に許せない卑劣な行為だと糾弾しつつ、それをなくすには国際社会が一致協力して、テロリストを捕まえ、裁判にかけることが何よりも大切であって、そういう努力をつくさないまま報復戦争に訴えるなら、問題を解決するどころか、テロと軍事報復の悪循環を引き起こし、とりかえしのつかない情勢の悪化を招くことになると、強く訴えました。
それから六年間たって、アフガニスタンでは、私たちが心配したことが現実になっています。米軍などがひどい空爆を無差別におこない、無辜(むこ)の子ども、女性、お年より、民間人がどんどん犠牲になっています。そのことが外国軍への憎しみを広げています。タリバンが復活しています。アルカイダのネットワークも世界中に広がりました。テロの温床が広がり、テロが世界に拡散した。戦争ではテロはなくせない――このことがはっきりしたのが、この六年間だったのではないでしょうか。(拍手)
それならば、いまおこっている現実を直視し、六年間の総決算をして、間違った報復戦争を応援する自衛隊の活動はきっぱりやめる。インド洋から海上自衛隊を撤退させる。テロ根絶の方途を、報復戦争から、国連中心の解決の方向に転換する。貧困をなくし、教育を改善するなど、テロの土壌をとりのぞくための支援を強める。これが日本のなすべきことであるはずです。(拍手)
ところが安倍首相は、「テロとのたたかい」をいうが、どうやったらテロをなくせるかの真剣な検討をおこなった形跡はいっさいありません。自分の頭で考えることを放棄して、すべてはアメリカいいなりというのが、安倍首相であり、自民党なのです。ブッシュ大統領に要求されるまま、オーストラリアでの会談で継続を「公約」し、日本に帰ってきた。しかし、日本に帰ってきたら、国民の多くは撤退を求めている。野党も撤退を求めている。そこで進退がいよいよ窮まり、政権を投げ出した。
アメリカいいなりの政治には未来はない。このことがはっきりしたのが、きょう起こった出来事ではないでしょうか。(拍手)
第二は、一握りの大企業・大資産家のもうけだけ応援し、国民のみなさんには増税、社会保障の切り捨て、雇用破壊を押し付け、貧困と格差を拡大する政治、「構造改革」の名ですすめられてきた弱肉強食の政治の破綻であります。
なぜ、この前の参院選で、自民・公明があんな歴史的敗北をしたのか。閣僚のスキャンダルなどだけでは説明がつきません。日本列島どこでも暮らしの悲鳴、暮らしの痛みの声が噴きあがっていました。国民の暮らしを痛めつけながら、胸に痛みを感じない冷酷な政治への怒りの審判がくだったのが、参院選の結果でありました。(拍手)
税金の問題一つとっても、ひどいありさまです。自公政権は、住民税の大増税を押し付けたうえに、選挙が終わったら消費税増税の合唱をはじめています。庶民への増税は、とどまるところを知りません。
それでは、大企業への税金はどうでしょう。減税につぐ減税です。一九九〇年度のバブルの絶頂期のときの大企業の利益は十九兆円、二〇〇五年度は三十兆円。なんと十一兆円、一・六倍も利益を増やし、大企業は空前のもうけです。ところが同じ時期の税金を比較しますと、大企業が払った税金は十四兆円から十三兆円へと減っているのです。十一兆円も利益を増やしながら、納める税金は減らす。利益が増えたら、増えた分の税金を払うのが当たり前ではありませんか。(「そのとおり」の声、拍手)
「庶民に増税、大企業に減税」の逆立ちした税金をただせ、社会保障を切り捨てから充実に転換せよ、人間らしく働ける雇用のルールをつくれ。これまでの弱肉強食、冷酷非情な政策をあらためよ。これが国民のみなさんの気持ちではないでしょうか(拍手)。大企業のもうけばかりを応援する政治に未来はありません。(拍手)
第三は、「靖国」派政治の破綻であります。私たちが「靖国」派といっているのは、過去の日本の侵略戦争を「正しい戦争だった」とする靖国神社と同じ立場にたっている勢力のことですが、その「希望の星」だったのが安倍さんだったのです。
安倍首相は、「戦後レジームからの脱却」を、この一年間、連呼しつづけました。それはいったいどういうことなのか。日本の戦後体制とは、いうまでもなく日本国憲法の体制であり、主権在民、基本的人権、そして恒久平和主義こそ、その中身です。そこから「脱却」してどこに行こうというのか。あの教育基本法の改悪の強行、改憲手続き法の強行、憲法改悪の宣言などをみて、多くの国民のみなさんは「これは危ない、きな臭い」と、感じられたのではないでしょうか。
侵略戦争をおこなった軍国主義の時代の日本を、「美しい国」だったとあこがれて、そこにもどろうというのが、「戦後レジームからの脱却」の正体であり、そこに安倍さんが先頭にたってすすめようとした「靖国」派政治の大目標があったわけですが、それが大破綻をとげたというのが、きょうの辞任でした。(拍手)
実は、「靖国」派政治という点では、安倍首相は、二つの大問題を、世界と日本から突きつけられていました。
一つは、アメリカからです。安倍首相が最大の「同盟国」と頼むアメリカの下院本会議で、七月三十日、「従軍慰安婦」問題について日本政府に公式の謝罪を求める決議が採択されました。安倍首相が「強制連行はなかった」などという歴史をゆがめる妄言をしたことが、怒りの火に油をそそぎ、反対なしで決議が採択される結果となりました。ところが安倍さんは、それを無視して、歴史に向き合う態度をとらず、世界とアジアで批判が広がり、どうにも身動きがとれなくなっていました。
いま一つは、沖縄からの声であります。高校歴史教科書の文部科学省の検定で、沖縄戦の「集団自決」への日本軍の強制に関する記述が削除され、いま沖縄では島ぐるみで怒りの声が広がっています。県内すべての市町村と県議会で検定意見撤回を求める意見書が可決され、九月二十九日には県民大集会も予定されています。これに対しても安倍政権は、沖縄の声をふみつけにする姿勢をとりつづけてきました。沖縄には「命(ぬち)どぅ宝」――命こそ宝というすばらしい言葉がありますが、そういう心をもつ沖縄県民が日本軍の強制なしに「集団自決」に追い込まれるなど、ありえない話ではありませんか。(拍手)
侵略戦争と軍国主義を正当化する「靖国」派政治が、世界でも日本でも、大破綻におちいった。その結末が、安倍首相辞任であります。
みなさん、これは、日本の政治がまともな方向にすすむうえで、おおいに喜ばしいことではありませんか。(拍手)
アメリカいいなり政治の破綻、財界だけを応援し庶民を痛めつける政治の破綻、そして「靖国」派政治の破綻――安倍首相のもとで自民・公明政治がすすめてきたこの三つの政治路線の破綻――“三つの異常”の破綻こそ、安倍首相の突然の政権投げ出しの根本にあるものです。それがこういう結果を招いた以上、もはや同じ道をつづけるべきではないのです。
安倍首相は、さきほどの会見で、「新しい総裁のもとで、(これまでと同じ)政策をおしすすめてほしい」といいましたが、とんでもないことです。自公政権の政治路線の破綻が、どの分野でも明らかになったのですから、いまこそ政治を大本から転換することが必要ではないでしょうか。(「そうだ」の声、拍手)
異常なアメリカいいなり政治から脱却し、日米関係を対等・平等のものにして、日本がほんとうの独立国になる方向に道を開きましょう。その第一歩として、アフガニスタンであれ、イラクであれ、海外での米軍の戦争を支援する憲法違反の活動は、ただちに中止させようではありませんか。(拍手)
財界応援、庶民を痛めつける経済政策をあらため、国民の暮らし第一の経済政策への転換が必要です。庶民への大増税路線をやめ、社会保障を切り捨てから充実に転換し、人間らしい雇用のルールをつくる方向に、経済の民主的改革をすすめる。そのために必要な財源は、大企業・大資産家へのゆきすぎた減税や、巨額の軍事費にメスを入れれば、消費税に頼らなくてもまかなうことができます。(拍手)
そして、歴史の真実をゆがめ、過去の侵略戦争、軍国主義を賛美するような、広い世界のどこをさがしても日本にしか存在しない異常な逆流は、この日本の政治から一掃しようではありませんか。(拍手)
自民党は、安倍首相にかえて、新しい総裁を選ぶでしょう。しかし、だれが新総裁になろうと、自公政治には、日本の政治のかじ取りをする能力も資格もないことは、もはや明らかです。わが党は、自公政権をさらに追い詰め、解散・総選挙に追い込み、国民の審判を仰ぐことを強く求めていきます。(拍手)
そして総選挙では、自公政治に代わる新しい政治の姿、ほんとうの日本改革の方針をしめし、日本共産党の前進をかちとる決意です。(拍手)
日本の政治は、すでに耐用年数がすぎた古い自民党政治を転換し、新しい政治にむかう大きな歴史的転機にあります。みんなの力で新しい政治への道を開こうではありませんか。そのために日本共産党は、元気いっぱい力をつくすことを申し上げて、私の訴えとします。ありがとうございました。(大きな拍手)