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CS放送朝日ニュースター 志位委員長語る(大要)

負担は能力、給付は必要に応じて


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インタビューに答える志位和夫委員長

 日本共産党の志位和夫委員長は三月二十二日(月)、CS放送・朝日ニュースター「各党はいま」に出演し、年金「改革」の各党協議や介護保険法案など社会保障問題について、朝日新聞の梶本章論説委員のインタビューに答えました。

梶本 朝日新聞の梶本です。きょうは、共産党の志位和夫委員長に後半国会の焦点となる年金問題などへの対応などについてお話をききたいと思います。志位さん、よろしくお願いします。

志位 よろしくお願いします。

本年度予算案――大増税へのふみだしに道理なし

梶本 そこで、政府の予算案ですが、明日二十三日にも成立するという見通しになりました。共産党はもともと政府の予算案には強く反対していましたけれども、あらためて今回のこの事態をどうみているのか、お話を聞かせてください。

志位 今度の予算案の一番の問題点というのは、大増税路線に踏み出したというところにあります。私たちは一貫してこの問題を追及してきました。定率減税の半減、二〇〇六年度には廃止するということで、だいたい三・三兆円の増税ですが、それ以外の社会保障の負担増や庶民増税を全部あわせますと、二年間で七兆円もの負担増になる。これが中心にどっかり座っているわけです。

 そして、私は予算委員会でも追及したのですが、いま家計の所得はどんどん落ちている。年間数兆円規模で落ちている。落ちているところに増税をかぶせたらどうなるか。九七年の橋本内閣の大失政をみなさんおぼえていらっしゃいますが、あのときは家計の所得が上がっていたところに増税をかぶせて底が抜けちゃったわけですが、今度はもともと落ちているところに後ろから背中を押すような形で、坂道を突き落とすようなやり方をやったら、これはもう経済も財政も景気もめちゃくちゃになるということを、かなり論をつくしてやったんですけれども、これには耳を傾けずに強行ということになりました。

 ただ、実施はこれからです。二〇〇六年度も連続して負担増は出されてきますし、さらに彼らの仕上げは消費税の増税ですから、たたかいはこれからも続きます。大いに今後も引き続いて国民の暮らしを根こそぎ破壊する大増税路線に反対する論陣と運動をすすめていきたいと思います。

梶本 定率減税を二年かけて廃止していく方向は、基礎年金を三分の一から二分の一に引き上げる財源として使うんだという説明がなされていて、それなりに年金をよくするんだというような説明になっているわけですが、このへんはどうでしょう。

志位 もともと、基礎年金の国庫負担を三分の一から二分の一に引き上げるということは、何のために引き上げるか。これは実は、五年前に政府が説明しているんですよ。

 政府は、中堅層ーー子育て最中の中堅層の負担を減らすために国庫負担の補助を二分の一に引き上げるんだといっていたのです。ところが、定率減税廃止は、一番どこにかぶるかといいますと、だいたい年収四百万円前後のまさに中堅の子育て世代ですよ。この人々を直撃する。だいたい所得税・住民税で22%税金が増えるわけですね。

 ですから、中堅の子育て世代の負担を減らすという目的で、そこに増税をかぶせたら何のためのものかということになるわけで、まったく通用しない理屈だと私は思いますね。

梶本 国会の前半、予算を中心とした審議を見ますと、なかなか議論がかみあわないというか、低調だったという指摘もあるんですが、そのへんはどうみますか。

志位 私たちは正面から、いま増税路線に踏み出していいのかということを追及しました。私はずいぶん論点も明りょうになったと思います。政府の側の答弁は、「いやいや大企業がいまもうけている、そのうち家計に回るんだ」ということにつきるわけですけれども、私たちが、いまの大企業のもうけというのは、家計から吸い上げてもうけているだけで、いくらもうけたって家計に回らないという仕掛けになっているじゃないかかということを事実を示していいますと、先方はなかなか答えられないという状況で、かなり詰めた議論を私たちはやったと思うんですね。

 ただやはり、自民党と民主党という関係でいいますと、消費税の増税では一緒でしょ。むしろ民主党の方が消費税増税の旗ふりをして、「はっきりさせないのはけしからん」といって小泉首相を逆に追及する。それに対して小泉首相の方が、増税への踏み込んだ発言をするというような形ですからね。自民、民主の合作で大増税の道に踏み出す方向ですから、議論にならないのですよ、まともな。両方の間では。そういうことがあったと思います。

年金協議――「三党合意」を前提にすべきでない

梶本 わかりました。それで、年金問題ですね。昨年の通常国会で保険料を段階的に引き上げていく法案が成立しているわけなんですけれども。その年金改革ではまだ不十分だということで、民主党を中心にさらに年金改革をすすめなきゃいけないという話になりまして、昨年の三党協議ーー年金を一元化していこうという「三党合意」に基づいた話し合いをすべきだというのが、いよいよ煮詰まってきているような状況で。これは共産党も社民党も入れた形で議論はすべきだという形になっていますけれども。協議はやろうと。どういう場所で、手順でやろうかというところに煮詰まっているような形になっていますけれども。この年金の改革に対しては、共産党はどういうふうな対応をしていく所存ですか。

志位 まず昨年強行された年金改悪法案は白紙に戻して出直すべきだと。これは連続的な負担増と連続的な給付減をずーっとすすめるものですが、当初いっていた、負担増には上限があり給付減には下限がある、というのはウソだったということが明りょうになりましたね。それからいろいろな前提となる数字も出生率をはじめみんな違ってきた。これは白紙に戻すということが大事です。これは第一点です。

 もう一点は、いまいわれた「三党合意」ですけれども、「三党合意」というのはいろんなことが書いてあるんですけれども、「一体化」ということもいわれているんですけれども、一番の中心は「社会保障全体を税金と保険料の負担と給付の在り方もふくめて二〇〇七年度までに一体的に見直す」と。ここにあると思うんですよ。

 つまり、社会保障制度を税の面と一緒に見直すと。では税の面の見直しといったら何なのか。まず民主党の場合は明りょうなんですね。消費税の値上げなんです。与党はどうかというと、これも「与党税制改革大綱」のなかで、二〇〇七年度からの消費税の値上げを明記しているわけですね。つまり、「三党合意」はいろいろありますけれども、結局二〇〇七年度から消費税の値上げをすすめる、そこに道筋つけようという合意なんですよ。

 ですから私たちは、この合意を前提にして協議をやるというのは、これは認めるわけにはいかない。

 協議をやるというのは結構ですよ。社会保障の抜本的な在り方について根本から協議する。これは、いろいろな場で大いにやったらいいと思いますし、まず国会でやるべきでしょうね。国会でやる場合でも、あらかじめ「三党合意」を前提にするというやり方はよくない。これは、それぞれ各党の立場があるわけですから、それぞれの立場をたたかわせてすすめたらいいと考えています。

梶本 まず常任委員会をつくってやろうという案があったり、あるいは衆参で常設の協議機関をつくるとか、国会と違う政党間協議にしようとか、いろいろと土俵をめぐって議論がすすんでいますが。

志位 土俵ということでいいましたら、国会があるわけですから。衆参の厚生労働委員会でそれぞれやったら、私は国民の見ている前でいちばん公明正大にやられると思いますよ。もちろん、国会でやるわけですから、私たちは、これはどんなケースであっても参加して堂々と私たちの立場をのべます。

梶本 そこで大きなテーマになっているのは、年金の一元化ということですね。民間のサラリーマンは厚生年金、公務員は共済年金、自営業者等々は国民年金という形で、職業がわりと固定化された時代はそれで機能していたと思うんですが、雇用が流動化して、いろいろあっちにいったりこっちにいったりすると。そういう中でなかなか年金が一つの体制になっていないと未納の問題も生じますし、不公平感も増すということで一元化というのが大きなテーマになっていると思うが、この一元化ということついては共産党はどうでしょうか。

志位 私たちは、年金がもっと公平なものになるべきだということは当然だと思うんですよ。

 ただどうやって公平なものにしていくかということについていいますと、私たちは最低保障年金制度というのを、つまり土台をしっかりさせて、月五万円から出発しようということをいっています。最低保障年金制度をつくって、土台をしっかりさせて、土台から底上げしていく。その底上げをすることで、各年金間の格差もならしていこうという方向での公平な年金ということをめざすべきだと思うんです。

 それをやらないで、現行制度を前提にして一元化を図ろうとすると、いろいろな矛盾が出てきます。たとえば、国民年金と厚生年金をいまの制度のまま合体させるとどうなるかといいますと、国民年金というのは事業主負担がないですよね、自営業者の方々が中心ですから、もともと。厚生年金というのは、労働者が半分、事業主が半分という負担になっているわけですね。

 そうしますと、これいっしょにするとなるとどうなるかというと、一つは事業主負担をなくしてしまうという方向で「一元化」すると。これは財界が大喜びになるけれども、給付はうんと下がりますよ。

 もう一つは、厚生年金の保険料のレベルに国民年金を上げると。こうなりましたら業者の方々はとてもじゃないですけど、払いきれないということになるんですね。

 これは、いろいろな矛盾が生まれてくる。やはり、自営業者の方々とサラリーマンの方々と条件の違いを考えれば、生産手段を持っているかどうかという大きな違いもあるわけですから、なかなかその条件を無視して、事業主負担があるものとないものと、これもごっちゃにすすめるというのは、これは矛盾が出てくると思いますね。それよりも全体の底上げによって公平な制度をつくると。これが大事なことだと思います。

梶本 全体の底上げというと、やはり基礎年金を税でやるということですか。

志位 税でやるということです。最低保障年金制度を税でつくるということです。

梶本 それが共産党の場合、五万円という…。

志位 ええ、これはやはり全体の財源を考えまして、スタートは五万円からということを考えています。

梶本 そして自営業者はそれがベースになるし…。

志位 自営業者はその上にまた、上乗せ部分が出てくるわけですね。保険料に応じた給付ということになるわけです。

梶本 そうすると、所得に応じた保険料になって、それに応じた年金ということになりますと、これは自営業者の場合、そういう年金制度をつくるためには、自営業者の所得が分からないと所得比例年金ができない…。

志位 いや、これはいまと同じ考えですね。いまの定額の保険料の上に国民年金の上乗せ部分はつくると。もちろん、それでも格差は残りますよ。格差は残るけれど、全体が底上げされる。ですから私たちの制度によって、給付が減る方はひとりもいないわけですよ。全体として。そして、全体が底上げされることによって、格差が縮小していく方向をめざそうじゃないかというのが私たちの考え方です。むりやり「一元化」ということになりますと、さっきいった問題がどうしても解決がつかないのです。

梶本 民主党などは、自営業者の所得を把握しないと、保険料がきちっととれないということで、サラリーマンと同じように所得を把握しないといけないと。納税者番号制度の導入を検討しているようですが…。

志位 私たちはそういう納税者番号制度を、そもそも必要としない考えです。それからやはり、そういうやり方は国民の合意を得られないと私は思っています。

梶本 わかりました。いまとりわけ民主党が、年金改革というのは、団塊の世代が年金受給者になるまでに改革しないといけないということで、秋ぐらいまでに改革の方向を出すべきだといっているんですけど、このへんは共産党は同じような立場でしょうか。

志位 これは、私たち、秋ぐらいという年限を決めてというのも、さっきの出口が消費税というのも一体となって問題がたてられるということになっていく、そこを危ぐしますね。私たちがこの協議のなかでいちばんまずいと考えているのは、消費税の増税を協議の前提にして、それはお互いの前提だと、あとはその段取りをどういうふうにやるのかと、そういう協議になってしまったら、これは国民の願いとまったくはなれたことになると思うんです。

梶本 その場合は、席を立ってしまうということも考えられますか。

志位 国会での協議というのは、私たちは、意見がちがっても席を立ちません。

介護保険――“必要な介護”を切り捨てるもの

梶本 わかりました。もう一つ、後半国会には介護保険の改革案が出されます。本会議で趣旨説明がされて、委員会審議に入っていくと思いますけれども、大きくいって柱が二つありまして、一つは、今度は介護予防という新しい概念を入れましょうと。もう一つは、施設と在宅のあいだであまりに差があるので、施設の方でホテルコスト、部屋代とか光熱費とか、在宅の人ならば当然払っている部分も施設の人にも払ってもらおうと。この二つの部分が大きな柱だと理解していますけれども、この介護保険の改正案について、共産党はどのような立場ですか。

志位 結局、政府案の全体を貫いているのは、保険料金を高くして、必要な介護を抑制するということだと思うんです。

 第一にいわれた在宅の介護サービスの利用制限では、要支援あるいは介護度1といわれていた、比較的軽度の方のサービスを切り縮めて、「介護予防」制度に変えてしまおうというんですね。その理屈は、こういう方々は軽いわけだから、介護の手当てをしているとかえって「自立を妨げる」と。私はこれほど介護の現場を知らない、冷酷無慈悲なことはないと思うんです。実態は、要支援とかあるいは要介護度1の方々というのは、適切な公的介護のサービスがきちっと保障されれば、もっと生活の質もよくして、通常に戻っていける方も多いわけですね。ここで手当てをきちんとすれば、生活の質もよくできる。ところが、ここで手抜きのサービス切り捨てをやってしまえば、事態を重くさせるわけですね。そして、介護の段階を重くして、そしてそのことによって、介護保険の制度の全体も結局、出費がかさむということに、なると思いますよ。もちろん重い方の介護も大事ですけれども、軽い段階の切り捨ては許されません。病気の場合も早期発見・早期治療というのが原則ですけれども、介護の場合も軽い段階で、いかにきちんと介護をやるかというのが大事なのに、ここを切り縮めるというのは、およそ私は実態を知らない者のやることだと思います。

 二つ目の「ホテルコスト」という問題も、これで特別養護老人ホームに入所されている方の負担増はどれくらいになるかというと、月額数万という単位なんです。こうなってくると実際には払いきれないということになって、ここでも必要な介護がこわされるということになる。

 介護保険というのは、在宅だろうが施設だろうが自由に選べるというのがもともとの建前だった。そして必要な介護をともかく公的に保障しようというのが建前だった。しかしいま現状ですら利用料負担が重すぎるために必要な介護サービスが受けられない。在宅では利用限度額にたいして利用の平均が四割です。いまでも高すぎる利用料というハードルのために四割しか使えない。それを、もっと使えなくする。これはおよそ間違っている。

 私は、政府の社会保障論というのは、すべてこの考え方が貫かれていると思う。医療だってそうでしょう。医療費を値上げして、お医者さんにいかせなくする。サラリーマンの自己負担を二割にし三割にし、そのことでひどいことが広がっていますよ。そういう形で医療費の抑制をやれば、逆に重病化がすすんで医療保険制度にとってもマイナスになる。

 必要な医療を抑制する、必要な介護を抑制する、必要な年金も憲法二五条が保障する年金も削ってしまう。やはりそうではなく憲法二五条にもとづいて必要な社会保障を保障するという立場に立った改革が必要です。私は社会保障の原則は、負担は能力に応じて、給付は必要に応じてと、この原則でやるべきだと思います。給付は必要な給付をきちんとやる。負担は能力に応じた負担。すなわち所得の少ない人には少ない負担、多い人には多い負担。税は累進的にやるべきですし、社会保険料の負担も累進的なものにする必要があると考えています。

 介護保険について一言いうと、介護保険料というのは逆進性が高い。ほとんど定額的なんです。若干の五段階はありますが。国民健康保険料に比べても、国民健康保険料はかなり累進的なんです。介護保険料は定額的なんです。ですから保険料の在り方についても、介護保険についても応能負担ーー負担能力に応じた負担にカーブを変えていく改革というのも必要だと思う。

医療給付――GDPの伸びにおさえられたら、大幅な自己負担増に

梶本 政府の説明は、当初三兆円でスタートしたものが六兆円ぐらいになっていると。これで団塊の世代が、介護が必要になっていくとさらに必要になっていくと。二十兆とか。抑制策をいまから考えていくということだと思うが。医療制度改革をスタートすると議論が始まっている。医療費の伸びが、いま三十兆円とか三十一兆円ぐらい医療費があるんですけれども、国民所得の伸びに合わせようという考え方が経済財政諮問会議の有識者からだされていますが、どう考えていますか。

志位 医療費の伸びをGDPの伸びに合わせたらどうなるか。医療費というのは保険給付の伸びでしょう。そうすると自己負担が増えていくということなんです。

梶本 自己負担を増やすかあるいは医療の質を落とすか。

志位 そういうことになる。GDPの伸びしか医療費を伸ばせないとなると、お年寄りが増えていくとどうしても医療費は膨らみますよ。ですからその部分は自己負担を、いまサラリーマンは三割になったけれど、これを四割、五割に上げていこうと、お年寄りの自己負担もあげていこうと、これは給付外ですから。そのことによってまさに病気になってもお医者さんにかかれないといういまの事態が本当に深刻化する。

 私は、財源というのなら、よく国会の論戦でも指摘した問題ですが、二つの聖域にメスを入れるべきです。一つはムダ遣いの聖域です。今度の予算案でもたとえば大型港湾とか、関空二期工事のような大型空港とか、高速道路とか、そういうところは重点化といって増やしている。軍事費にも手をつけない。こういうムダ遣いの聖域にメスを入れるべきだ。

 もう一つは、高額所得者と大企業の税金をあまりにも減らし過ぎた。ヨーロッパ水準に比べてもだいたい企業で見ますと、税と社会保険料の負担率が国民所得比でイギリス16%、ドイツ18%、フランス24%、日本12%、日本だけ減らしている。もう一つ、三千万円を超える所得をもっている方の所得税の実効税率は、イギリス34・9%、ドイツ35・7%、フランス32・9%。日本20・3%ですよ。世界でもいちばん大企業、お金持ち減税天国になってしまっている。これを世間並みの負担にもどしていく。徐々にもどしていく。この二つの聖域にきちんとメスをいれて、社会保障というのは、負担は能力に応じて、給付は必要に応じてという原則をしっかり踏まえ、なによりもその根っこにある憲法二五条の、すべての国民が健康で文化的な生活を営む権利を有する、この権利を保障するというところに立脚してやらなければ、私はなんのための社会保障かということになると思う。社会保障を口実にして弱いものいじめの税金を上げる、社会保障の持続性ということを口実にして必要な医療、必要な介護、必要な年金を削っていくと、これでは生存権の破壊そのものです。

(郵政民営化問題は略)