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CS放送朝日ニュースター

志位委員長語る

年金、イラク問題について


 日本共産党の志位和夫委員長は、十二日放映のCS放送・朝日ニュースターの番組「各党はいま」に出演し、年金問題やイラク情勢について質問に答えました。聞き手は、朝日新聞論説委員の坪井ゆづる氏でした。

「3党合意」−−衆院強行を容認、消費税増税に道を開く

坪井 最初に、(民主党代表の)菅さんの辞意表明の仕方を志位さんはどういうふうにごらんになっていたかを教えていただけますか。

志位 ご自身の年金の未納の問題について責任をとってああいう判断をされたんだろうと思いましたけれども、私たちはあの過程で、民主党が自民、公明と結んだ「三党合意」は許すわけにいかない重大な内容を持っていると思っています。

 これは五月六日に結ばれた「合意」なんですけれども、大事な問題が二つあります。

 一つは政府案の扱いについて、五月十一日、昨日の衆院本会議で採決するという採決日程の合意が前提になっているんです。民主党は、「私たちは政府案には反対した」といういいわけをするわけですが、採決日程の合意をしたということは、衆議院通過を「結構ですよ」と容認したことにほかならないわけで、これは大問題だと思います。

 それまで民主党は、私たちと立場は違いますけれども、ともかくも委員会での採決は不当だと―公聴会も開かず、国民の意見も聞かず、審議もろくすっぽやらないで採決するのは不当だから差し戻せといってきたわけで、それを三党だけで採決日程を押しつけて衆議院の強行をはかった罪は重い。これが一つです。

坪井 中身の話は…。

志位 中身の問題をいいますと、「三党合意」で書いてある一番の問題は、「社会保障制度の負担と給付の在り方についての一体的な見直しをする」と書いてあるんですよ。これが中心項目なんです。法案の修正にも入りました。

 「社会保障についての負担と給付の一体的な見直し」という場合、自民、公明にとっては何を意味するかというと、自民、公明の合意で二〇〇七年度以降、医療、介護、年金にかかわる費用のための「税制改正」を消費税を含めておこなうと書いてあります。これは消費税の増税をまさしく意味するわけです。

 民主党はこんど法案を出したわけですが、そこで二〇〇七年度以降、消費税をさらに3%増税することが必要だということをいっている。

 こうした三党が、「一体的な見直し」で「合意」したということは、消費税増税に道筋をつけるという「合意」にほかならないということになります。こういう国民にとっての重大な害悪をもたらす内容だと思います。

坪井 「三党合意」は包み隠さず思いっきり消費税増税に結びつく合意である、と。

志位 その通りです。つまり政府案の衆院強行を容認した。そして消費税増税に道を開く合意だということです。

消費税に頼らず、大企業に応分の負担をもとめ、安心できる制度を

坪井 年金の一元化を含めて、社会保障の一体的なとりくみをしていく、この姿勢自体はどうなんですか。

志位 これはもちろん社会保障のいまのあり方、医療、介護、年金で、一体どういうふうに安心できる制度を将来にわたって築くのか。私たちも対案を出しています。

 その財源について、私たちは消費税ではなく、歳出の浪費の削減、あるいは大企業に応分の負担を求める、こういうことでまかなおうという財源論も出していますが、そういう立場での本格的な、国民の立場に立った見直しならばいいですけれども、彼らがいう場合の「見直し」というのはそうではない。それはそれぞれの党の立場からいって明りょうだと思います。

 まだ表向き消費税という言葉は入ってこないけど、消費税増税に道をひらくということは間違いなくいえる内容だと思っています。

坪井 消費税増税に道をひらくことに反対を訴えることで、有権者の理解はどの程度広がると見るのか。われわれの世論調査でも消費税増税は認めようじゃないかという声が昔から比べるとだいぶ増えているのが事実だと思うんですが。

志位 「消費税の増税に賛成ですか、反対ですか」と問うたら、反対が多数派ではないでしょうか。

 社会保障というのはもともと立場の弱い方々の暮らしを支えるための制度です。消費税は、その立場の弱い方々に一番重くのしかかる税ですから、社会保障の財源という口実でこの悪税を上げるのはほんとうに本末転倒もはなはだしいやり方です。

 私たちは歳出の浪費の削減ということがもちろん一つあるわけですけれども、同時に歳入の面では大企業に応分の負担を求めて当然だという立場です。ヨーロッパに比べますと大企業の負担水準はだいたい半分からせいぜい七、八割という低さですから。ヨーロッパなみの負担を大企業に求めるということを正面からやはりいまいうべきときだと考えています。

「二つのごまかし」−−負担と給付という最大の問題で国民をあざむく

坪井 参議院の審議のなかで共産党さんがこれからメーンで訴えていくとすると…。

志位 さまざまな問題がありますけれども、一つの重要なポイントとして、まだまだ政府案のひどさというのが、国民のみなさんに知られていないという問題があるんです。政府がごまかしてきた、そのために正体が隠されているという問題があると思います。

坪井 例えばどういうことですか。

志位 私は、「二つのごまかし」が衆議院の審議の最終段階で発覚したと、昨日の国会でのあいさつでもいったんですけども、一つは保険料の連続引き上げの問題です。

 厚生年金では十四年、国民年金は十三年連続引き上げというのがこんどの法案に入っていますね。この中身について、政府の説明では、国民年金についていいますと、いま月額一万三千三百円で、これを十三年間かかって毎年二百八十円ずつ引き上げて一万六千九百円にすると、そしてそこで固定するという説明だったわけです。だいたいそういう表がどの新聞にも出たわけです。

 ところが、つい最近になって厚生労働省が試算を出してきて、これは賃金の上昇がカウントされていない数字であると。つまりこの十三年間、賃金がいっさい増えなかった場合にはそういう数字になりますよということをいってきた。

 じゃあ賃金がだいたい政府の見込みどおり増えた場合はどうなるか。厚生労働省の試算では、十三年後に国民年金は、一カ月二万八百六十円まで上がると。二万円を超えちゃうわけですね。

 しかも、そこで固定かというと、固定じゃないわけです。そのあとも、毎年二百八十円分の値上げがなくなっても、賃金が上がるのに連動してさらに上がり続ける。だいたい二〇三五年には、もう三万円を超えるというような保険料になっていくわけです。

 ですから、「一万六千九百円まで上げて固定」といってきたが、まったくごまかしだったのです。

坪井 隠してきた。

志位 隠してきた、ごまかしてきた。これが一つの問題です。

坪井 なるほど。

志位 それからもう一つの問題は、給付水準の問題なんです。政府がいっていたのは、厚生年金の場合、いわゆる「モデル世帯」―夫が会社員、妻が専業主婦、四十年間厚生年金に加入してきた―こういうケースの場合、いまは現役世代の収入のだいたい59%だけど、どうしても給付は下げざるを得ません、しかし「50%は保障します」と、さんざんいってきたわけですね。「モデル世帯で50%保障」とさんざん聞かされました。

 私たちは「モデル世帯」といったって、全国民のなかではごくごく一握りじゃないか、そんなケース自体がレア(まれな)ケースであって、そういう計算を出してくること自体がごまかしだといったんですけれども、ごまかしはそれにとどまらなかったわけですね。

 これも最近厚生労働省が出してきた試算がありまして、たとえばいま四十六歳以下の方は、これから二十年後に年金をもらい始めるわけですが、その人たちは最初にもらい始める年金は現役世代の収入の50・2%です。そこからスタートするわけです。しかし、その人たちは50%はずっと保障されるかといったら、そうではない。すぐ次の年には40%台に落ち込む。つまり50%台を受け取れる年というのは、たった一年ということになる。もう少し上の世代でいっても、50%保障されるのはせいぜい十二年くらいしかないわけで、一年からせいぜい十二年後からは四割台にずうっと落ち込んでいくわけですね。

 たとえばいま四十五歳の方だったら、給付開始のときは50・2%、そして給付開始から二十年たった八十五歳のときには40%まで落ちる。ですから「五割保障」というのも、はっきりいって、うそ、ごまかしだった。

 法律を説明するときには、負担と給付がどれだけになるかというのが、国民の最大の関心事だったわけでしょう。それを両方とも、うそ、ごまかしで説明してきたというのが、実態だったのです。衆議院の最終段階で出してきたわけですよ、その数字を。ところがいろんなドタバタのなかで、そういう問題もきちんとつめることなく参議院に送られてしまったというのが実態ですから、私たちは参議院の審議のなかで、いったい政府がいっている説明自身も本当なのかというところから、とことん政府案の問題点をきちんと国民の前で明らかにしたい。

 私たちは「最低保障年金制度」という対案を示していますけれども、その対案を示しながら、いまの政府案のもっているまやかしやごまかしをすべて明らかにして、いかに有害なものかということを、きちんと審議をつうじて明らかにして廃案を目指したいと思っております。

年金貧しくする「一元化」か、全体の底上げで格差をなくしていくのか

坪井 われわれは三党合意で、自民党と公明党のいっている(年金制度)「一元化」と、民主党の「一元化」は、ずいぶん違うようだと見ているんですが、サラリーマンも自営業者もまったく全部一元化してしまうという、民主党がいっている方式に対して、共産党ではどう見ているんですか。

志位 この問題について少しまとまってお話ししますと、私たちは、年金の制度間の給付の格差をなくして、公平な制度をつくるということは必要なことだと考えております。

 そのために、具体的にどうやれば格差がなくなるのかと考えますと、いちばん具体的な、そして現実的な方法は、私たちがいっているように、「最低保障年金制度」という、国民のすべての方々に月額五万円の年金を保障する。土台をしっかりつくる。そのことによって、国民年金も底上げになります。厚生年金も低い部分は底上げになります。年金制度の全体を底上げするなかで、それでも国民年金と厚生年金の格差はまだ残るけれど、縮む方向に進んでいく。

 全体として年金制度を底上げするなかで格差の解消への道筋を開こうというのが私たちの考えなんです。

 いま出されている「一元化」論というのは、その考え方はまったくないんです。はっきりいって、年金制度を全体として貧しくする方向で制度を一本化していこうという、そういう「一元化」なのです。負担は重いほうにあわせる。給付は低い方にあわせる。そういう方向での「一元化」が、いま政府筋から出ている「一元化」論、あるいは民主党の「一元化」論になっていると思うんですよ。

 たとえば、いま国民年金に入っている自営業者の方と雇用者年金を一本化するということになったら、どういう問題が生ずるか。国民年金の場合は、雇用主負担はないんです。自己負担だけであるわけです。サラリーマンはいま厚生年金の保険料率はだいたい13%ですけれども、半分ずつ本人と雇用主が払っているわけです。この制度をどうやってくっつけるかということになったら、二つしかないんですよ。

 一つは自営業者に13%、(厚生年金と)同じ保険料を払わせるということになるわけですけれども、これをやったら、とてもじゃないけれども高くて払いきれなくて、つぶれてしまう業者さんが続出するという事態になります。

 もう一つの方法は、厚生年金の雇用主負担の部分をとっちゃって自己負担だけにする。そうすれば両方とも自己負担ですから、ある意味では一つになるかもしれないけれども、その場合は大企業の年金に対する責任というのはまったくなくなって、その負担がなくなった分給付が激減するということになります。

 財界が狙っているのはこっちの方です。昨年の一月一日に出された(日本経団連の)「奥田ビジョン」ってありましたでしょう。あのなかには、厚生年金も国民年金と同じようにすべて自己負担の保険にして、雇用者の負担はなくすべきだと書いてあるんですよ。財界の狙っている「一元化」というのはこれなんですね。自分たちの負担をなくしてしまおうと。

 これは低い水準で年金を貧しくする「一元化」だと思うんですね。私たちはこういうのは反対です。私たちは、年金を貧しくする「一元化」ではなくて、底上げするなかで格差を解消していこうという立場です。

坪井 財界の狙いというのは、ある意味いま正社員を減らすことによって、どんどん実施に移ってきているような気がしますけれども。

志位 それもありますね。財界のやっている罪は深いですね。正社員をどんどん減らす。そして厚生年金の加入者を減らして国民年金にどんどん移していくということをやって、自分たちの年金に対する負担、責任を放棄していくということもどんどんやっているわけですね。こういうリストラの横暴にも歯止めをかけるということが必要だと思います。

虐殺、拷問、虐待ーーイラク戦争の「大儀」はひとかけらもなくなった

坪井 話題をちょっと変えまして、いまのイラク情勢というのをどういうふうに志位さん、ごらんになっていますか。

志位 全体として昨年三月に始まった戦争というのは、フセイン政権をつぶす戦争だったわけですが、いまその戦争がイラク国民全体に対する戦争になりつつあるという局面の深刻な変化が起こっていると思います。

 これは、ファルージャの虐殺に象徴的だったんですけれども、いわゆる「主権移譲」を前に、米軍にとって気に入らない勢力は全部根絶やしにしてしまおうと掃討作戦を全土で展開する。そういうなかでああいう虐殺が起こる。そして、ファルージャでは事実上、米軍が追い返されたという事態になったわけですが、いまナジャフでは同じような、戦闘によって抵抗する勢力を鎮圧する、こういう軍事弾圧の路線がずっと進んでいます。これはまさに、イラク国民全体をまわした戦争に、アメリカが入りつつあるというところまできていると思います。

 そういうなかで拷問・虐待事件が明るみに出て、身の毛もよだつようなひどい実態が出てきました。これはもう、私は、ラムズフェルド(国防)長官の責任が問われているけれども、ブッシュ政権全体の戦争犯罪として国際的な裁きの場で裁かれるべき性格の問題だと思っておりますが、そういう問題も出てくる。

 そうなってきますと、いまイラクの情勢を全体としてみまして、大きくいいますと、戦争の大義がひとかけらも残さずにすべて崩れたというのがいまの状態だと思います。米英軍は、あの戦争を始めるときに「大量破壊兵器をなくす」といって始めたわけですね。しかし、大量破壊兵器はみつからなかった。そこで途中から、これは「イラク解放の戦争なんだ」と言い換えたわけです。後知恵で。しかし、「イラクの解放」どころかやっているのは虐殺と拷問と虐待だと。解放者どころか、まさに占領者であり、無法な侵略者だというのが世界の目の前で明らかになってしまって、残る大義はなにもないんですね。

 この大義がひとかけらもなくなった侵略戦争の支援のために自衛隊を出しつづけていいのか、というのが根本から問われるところまできていますね。

坪井 そもそも戦時捕虜かもわからない身分の人たちが虐待、拷問され、映像で流されるもんですから、われわれもショックを受けるんですが、戦争というのはどうしてもああいうことが起きてしまうものなんですか。

志位 ただ戦争のなかでも、虐待、拷問をやる側は侵略軍ですよ。侵略軍の側がそれをやるわけです。

 たとえば、戦前の日本軍国主義も同じことをやったわけですね。アジア、中国の人々に対して。そして、ベトナム侵略戦争の時のアメリカ軍も、あの「ソンミ村の虐殺」に示されることをやった。やはり、不正義の戦争をやる側がその一番醜い姿を示すのが、ああいう虐殺や拷問だと思います。

醜い侵略戦争に加担する自衛隊派兵はただちに中止し、撤退を

坪井 有権者の側から受け止めるとすると、大義が崩れているんだったらなんであそこに自衛隊がいっているんだという声が出てきて自然だと思うんですが…。

志位 だんだんそこにくると思いますよ。この戦争はもともと大義がなかった戦争です。もともと国連を無視してはじめた侵略戦争だったんだけれども、侵略戦争の醜い姿がいよいよはっきり出てきた、という段階でしょう。そして、イラクの国民が国民的な抵抗を始めたという状況がありますね。

 そういうなかで、実際にサマワでもオランダ軍の兵士が殺されるという事態になってきて、あれが「非戦闘地域」ととてもいえないという状況が生まれてくる。サマワでも「自衛隊は帰ってほしい」というデモが起こるし、「自衛隊は役に立っていない」というのが住民の過半数の声として出てくる。こういう事態が具体的な事実として出てきます。

 そしてこれまで三十六の国が「有志連合」として占領軍に参加したんだけれど、そのうちもう撤退を決めた国がスペインを先頭に六つ、検討している国が七つ、合計十三の国がもう撤退という方向に来ているわけですね。

 この世界の動きからしても、もう私は日本の自衛隊がこのまま続けていていいのか。この間は年金の問題にずっと焦点があたって、イラクの報道は割と少なかったかもしれないけれども、イラクの問題をみてみたらたいへんな事態が起こっているわけですから、そこに正面から目を向ければそういう声が起こらざるをえないと思います。

坪井 スペインは総選挙で、撤退する側の野党が勝ったということがありました。今度の参議院選挙で、撤退すべきだという世論と撤退すべきじゃないという世論がぶつかり合うような参議院選挙になると思いますか。

志位 やはり大きな争点にすべきだと思います。日本共産党は、すみやかな撤退を求めています。民主党は派兵には反対したわけですけれど、出た以上はということで、いまは撤退については求めないという態度ですからね。私たちの党が頑張って、大いに伸ばしてそのなかで日本国民の声をしっかり示していけるような選挙にしていきたいと思っています。