2001年7月17日(火)「しんぶん赤旗」

不良債権の問題と日本経済

外国特派員協会での志位委員長の講演(大要)

 日本共産党の志位和夫委員長が十六日、東京・有楽町の日本外国特派員協会でおこなった講演(大要)は次の通りです。


 きょうは、お招きくださいまして、ありがとうございます。

 主催者の方から、不良債権の問題と日本経済について、お話を求められましたので、その問題について、最初、私どもの考えをお話しして、あとはご質問にお答えさせていただきたいと思います。

 小泉政権は、「構造改革」の第一の課題として、「不良債権の最終処理」ということをあげていますが、私たちはこの政策はたいへん深刻な打撃を国民の暮らしと日本経済に与えるものだと考えております。

 この問題についてどう考えるのか。私たちはどう対応しようとしているのか。四点にわたってお話しさせていただきます。

いまの不良債権は不況型−−
まじめに働いてきたが資金繰りに困っている中小業者がほとんど

 まず第一は、いま日本で問題になっている不良債権とは、バブル型の乱脈経営ではなく、そのほとんどが不況型であるということです。

 この点は、一九九九年十二月の国会での金融再生政務次官の答弁のなかで、「過去の不良債権の処理については、基本的にすでに終わっているとみている」と、バブル型の不良債権の清算は基本的に終了したということを、政府自身が宣言しています。

 不況型という場合、その実態は、長い不況のなかでまじめに働いてきたけれども、思うように売り上げがのばせず、やむなく赤字に陥り、資金繰りに困っている中小業者のみなさんがそのほとんどです。

政府の方針では恐るべき大倒産ラッシュが引き起こされる

 私はこの問題について、小泉首相と国会で論戦したことがあります。政府の方針どおりやれば、大手十六行の不良債権の処理だけで、全国で二十万から三十万の中小業者がつぶされることになる。小泉さんは「生き残れない企業がでてくる」という答弁をおこない、このことを否定しませんでした。

 しかも、これは大手銀行の分だけで、それに地方金融機関の分、そして新規に発生する不良債権の分が加わります。これが実行されますと、恐るべき大倒産ラッシュ、そして大失業が引き起こされることは、火をみるよりも明らかであります。

 いま、日本政府がやろうとしていることは、国策として数十万という中小企業をつぶすという政策です。私たちは、これが、世界のどの国でもやったことのない政治であり、わが国の歴史でもやったことのない、空前の暴政だとして、きびしく反対しています。

 この政策が強行された場合に、日本経済に与える影響はどうなるでしょうか。それは、いっそうの景気悪化をもたらし、不良債権のいっそうの拡大をもたらすでしょう。

 帝国データバンクという、企業の倒産について統計上の調査をやっている有力な機関がありますが、その機関の専門家が「痛みは一時的というが、中小零細企業など経済的社会的な弱者に集中し、しかも耐えられないほど長期間続く恐れが強い」「(連鎖倒産の発生など)倒産スパイラルが起こる可能性がある」とのべています。こうした見方は、いま経済の専門家の間でも、共通の認識となりつつあります。

不良債権の拡大再生産が続き、終わりなき不良債権処理になる

 政府は、不良債権があるから景気が回復しないといいますが、これは逆で、不景気が続いているから不良債権問題が解決しないのです。

 政府の統計でも、九二年度から二〇〇〇年度の九月期までのこの八年間で、全国銀行ベースで、二十九兆円もの不良債権の直接償却をすでにおこなっています。しかし、不良債権の額はその期間に十三兆円から三十二兆円に、十九兆円も増えました。つまり、四十八兆円の新しい不良債権がこの期間に発生したことになります。

 いまの政府の方針でいきますと、不良債権の拡大再生産がつづき、“終わりなき不良債権処理”ということになってしまいます。

 私たちは、中小企業をむりやりつぶす政策ではなく、国民の家計を応援し、景気をよくして、いま資金繰りに困っていらっしゃる中小業者のみなさんの経営をたちゆくようにして、いま「不良債権」といわれている中小企業が正常になる方策をとってこそ、この問題の解決ができる。景気をよくしてこそ、問題の解決ができる。これが私たちの基本的な立場であります。

不良債権最終処理の目的−−
大銀行にもっともうけさせるために中小企業をつぶす

 第二の点は、では政府はなんのために、この「不良債権の最終処理」という方針を強行しようとしているのか。その目的についてです。

 政府の最近決めた「骨太の方針」なる経済財政の基本方針があるのですが、そこにははっきりとその目的が明記されています。

 その第一の目的は、「銀行の収益性」を引き上げるためだと書かれています。

 日本の政府は、大銀行にたいしては、これまでも七十兆円の税金を使っての銀行支援などいたれりつくせりの優遇策をすすめてきました。それにくわえて、今度は不良債権の処理で、自己資本が傷ついたら、公的資金で穴埋めをするという計画ももちあがっています。

 さらにくわえて、いま銀行の保有株が下がってきておりますけれども、その株を買い取る機構をつくって、そして買い取った後で損が出たら、これも二兆円の国民の税金で穴埋めをしてやるという仕組みも計画されています。

 要するに、いまやられようとしている政策は、大銀行をもっともうけさせてやるために中小企業をつぶすという政策です。

 私は、中小企業のはたしている役割というのは、日本の経済のものづくりを支える、あるいは街なみを支える、かけがえのない社会的価値をもっているものだと考えます。大銀行の利益を最優先させて、日本経済の主役である中小企業を土台からつぶすということをやったら、日本経済にとってたいへんな損失であることはいうまでもないことです。

中小企業から資金を引きあげて、投機的なもうけ口に回すのが狙い

 第二の政府の説明として、“不良債権があるために、本来成長すべき産業にお金がまわらない、だから処理が必要なんだ”という理屈をたてています。しかし、これも私は成り立たない論理だと考えます。

 日銀の速水総裁自身が、三月に行った量的緩和策により、「市場は資金でじゃぶじゃぶである、いまさら資金を出してもなんの効果もない、水ばかりまいても植物は育たない」といっています。つまり、資金はありあまるほどあるけれども、借りる相手がいないのが現状なのです。

 いま設備投資が大幅に減少しているのも、景気の先行きに見通しがたたないからであって、けっして資金不足からそれがおこっているわけではありません。

 よく政府は、“効率の悪い部門から人とカネとモノを効率の良い部門に移すのが構造改革だ”という説明をします。

 しかし、かりに小泉流「効率」の良い部門にカネが移ったとしても、いっしょに人は移ることはないでしょう。なぜならば、小泉流「効率」でいえば、人が少なければ少ないほど、「効率」が「良い」ことになるのですから。

 結局いま、やられようとしていることは、ものづくりのために一生懸命がんばっている中小業者のみなさんから資金をひきあげて、もっともうけの「効率」の良い部門、投機的な部門におカネをまわそうという流れだと思います。

 これは大倒産社会であり、大失業社会であり、そして一握りの国際金融資本と多国籍企業は栄えるけれども、国民経済の基盤は土台から崩れ去るという、そういう社会だと思います。

政府の「セーフティーネット論」は絵にかいたもち−−
「雇用創出計画」ではなく「雇用喪失計画」だったのが実態

 第三の問題は、この問題にかかわる「痛み」ということを私たちが追及しますと、政府の側は、“雇用のセーフティーネットを張るから大丈夫だ”という論を展開します。

大切なことは新たな失業者をつくらず、いまの失業者に職業をどう保障するか

 しかし私たちは、大倒産と大失業を前提にした「セーフティーネット論」でなく、いかにいま新たな失業者をつくらないか、いまの失業者に職業をどう保障するかこそ大切だと考えています。

 しかも、だいたい政府のいう「五百三十万人の新規雇用の創出計画」なるものは、まったく根拠のない、「絵にかいたもち」であります。

 もしもそんなすばらしいものがあるならば、現在、三百四十八万人の完全失業者がいるわけですが、その方々に、なぜ適用しないのかという疑問がすぐに持ち上がると思います。

 九八年以来、政府は四回にわたって、「雇用創出計画」なるものをつくってきたわけですけれども、合計二百五万人の雇用を増やす計画だったはずなのに、逆に失業者が増えました。政府の対策というのは、「雇用創出計画」ではなくて、「雇用喪失計画」であったというふうにいえます。

雇用拡大へ日本共産党の三つの提案――ただ働きの一掃、残業の法的規制、若者の就職難に特別の対策を

 先日の七党党首討論会で、私は、雇用の問題について、三つの提案をいたしました。

 第一は、日本で横行している「サービス残業」と呼ばれる「ただ働き」を一掃することです。これだけでも九十万人の雇用が増えます。

 第二は、残業の法的規制です。この点では、ヨーロッパの多くの国々では、法律で残業の上限が決められています。日本の労働基準法では、まったく法的規制がありません。いま、製造業でみまして、ドイツでは年間労働時間が千五百時間でありますけれども、日本は千九百時間です。この長時間労働がなくならないのは、残業が青天井の野放しになっている、それをおさえるルールがないというところにあります。

 よく日本の財界の方々はリストラの合理化論として、「雇用が過剰だ」ということをおっしゃいます。しかし、私は過剰なのは雇用ではなくて、日本では労働時間こそ過剰だと、このように考えます。

 ヨーロッパの多くの諸国でやっているように、残業の上限を法律で決めて、労働時間を賃下げなしに短縮し、雇用を増やす――この「ワークシェアリング」に日本も本格的にとりくむべきだと、私たちは提案しています。

 三つ目の提案は、若者の就職難にたいする本腰を入れた対策です。

 日本では、大学を出ても二人に一人しか就職先がみつかりません。これは前途有為な青年にとって苦痛であることはもとより、社会全体にとって大きな損失です。

 私どもの「しんぶん赤旗」の特派員がドイツへいって調べて驚いたことがあります。「青年に雇用を」という大きなポスターを、ドイツ政府が張り出しているんです。そこには、若い女性の写真があって、そして、「職業のない若い方はいらっしゃいませんか。お困りの方がいたら、電話かメールで相談してください。すぐに相談にのります」というようなことが書かれてありました。

 ヨーロッパの多くの国では、若者のために職業訓練の応援や、生活保障のための支援をおこない、若い方の雇用問題を国をあげてとりくんでいます。日本も、これに見習うべきだというのが、私どもの提案であります。

失業給付をヨーロッパ並みに充実させる

 以上三つでありますが、それにくわえてもう一点、つけくわえたい点があります。日本は、失業者にたいする失業給付がたいへん貧困であるうえ、切り縮められてきているということであります。

 日本の完全失業者のうち、雇用保険の失業給付を受けている方は、約三割にしかすぎません。給付日数がたいへん少なく、最長でも十一カ月で、すぐに切れてしまうからです。

 失業後五年間に、失業前の賃金のどれぐらいが、失業給付として支給されているかという国際比較を調べてみました。この数字をみますと、日本はフランスの約四分の一、ドイツの三分の一です。給付日数が少ないというのが、最大の問題です。

 ヨーロッパでは、雇用保険による失業給付が切れた後も、生活が苦しい失業者には、税金による失業扶助が支給されています。そのために失業後五年が経過しても、失業給付が受けられるというのが一般的となっています。

 私は、現に失業者が三百四十八万人もいるわけですから、この方々にたいする失業給付を、ヨーロッパなみに充実させるべきだと考えております。

 ひどいことに、さかんに「セーフティーネット論」をふりまく政府も、ここの部分では逆に切り捨てをおこなっています。今年度の予算で自発的離職者の失業給付の期間をなんと四カ月も短くして、予算を六千億円も減らしたのです。いま苦しんでいる失業者のみなさんへの給付は減らすという冷たい政治をやっておきながら、まったく「絵にかいたもち」の「セーフティーネット論」をふりまくというのが、いまの政府の姿勢であります。

日本共産党の景気回復策−−
消費税減税・雇用拡大・社会保障の安心で、家計を応援する景気対策にきりかえる

 第四に、私たちの景気回復策についてお話しさせていただきます。私たちは、いまの不景気の現状の一番の問題点は、経済の六割を占める個人消費の冷え込みにある。ここが最大の原因だと考えています。

 政府は、「需要追加策は効果がなくなった」と言って、景気対策を事実上、放棄する態度をとっています。たしかに、従来型の公共事業積み増し型の景気対策に効果がないことは、だれの目にも明らかになりました。私たちは、そういうやり方に反対してきましたが、効果がないどころか借金を残すだけに終わりました。

 しかし、この十年間、政府が「需要追加型」と言いながら、やってこなかった需要刺激策があります。政府は、経済の六割を占める個人消費を応援する、家計消費を応援する対策はいっさいやってきませんでした。家計にたいしては、消費税の増税と社会保障の負担増など痛めつける政策だけが続けられました。

 ここを転換して、家計を応援する景気対策、経済対策に切り替えるべきだというのが日本共産党の主張です。そのために、私たちは消費税の減税、雇用の拡大、安心できる社会保障など、具体的な提案をしています。その財源は、異常に膨張した公共事業の浪費をなくすこと、軍事費を削ること、すなわち軍縮に転ずることなどでまかなうべきだと、その裏付けも持って提案をしています。国民の暮らしを応援して、草の根から景気をあたためてこそ、いま日本経済が抱えているさまざまな困難を打開する道が開かれるというのが私どもの確信です。このことを訴えて、選挙戦でも躍進を期したいと思います。

 ちょうど約束の時間になりましたので、最初のスピーチを終わりにして、あとは、何でもご質問にお答えすることでかえさせていただきたいと思います。ありがとうございました。

質問に答えて  

デフレ対策としてのインフレ誘導策について

 講演後、会場からは、多国籍企業化による産業空洞化問題や、日米安保条約、自衛隊と憲法九条にたいする態度などについて、質問が相次ぎました。この中で、自民党内で導入を求める声が出ているインフレ誘導政策について問われ、次のように答えました。

 志位 まず、現在のデフレの対策として、インフレ目標を設定するということについての質問です。私は、率直にいってきわめて危険な、容認しがたい対策だと考えています。

 いまデフレと呼ばれる物価下落の原因がなぜ、おこっているかといいますと、これは国民の所得が下がっているところに問題があります。

 この四年間で勤労者世帯の実質可処分所得は4%も下がりました。所得が下がり、消費が下がり、需要が下がっているところから、デフレが生まれています。

 したがって、さきほど私がのべたような、消費税の減税や雇用の拡大などで、所得を増やす政策を真剣に講ずることが、デフレ対策としても非常に重要な対策になると考えております。

 それをやらずに、インフレ目標を設定すると、どうなるでしょうか。まずこれが悪性インフレに転化して歯止めがなくなるという危険が大いにあります。そして、国民にとっては預貯金の目減りという形で所得が大きく奪われるということになります。金融のいっそうの量的な緩和を劇的にすすめることで対処ができると思ったら、大きな誤算だと思います。




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