2001年4月16日(月)「しんぶん赤旗」

国民多数の声にこたえ
財源の裏づけをもった道理ある提案

「緊急経済提言」について

志位委員長のインタビュー


 経済危機打開にとって国民的な焦点となってきた消費税減税と、財政再建の道筋、政府・与党の経済対策などについて、日本共産党の志位和夫委員長に聞きました。


消費税減税――国民的な熱い焦点になってきた

 ――三月二十三日に発表した、日本共産党の「緊急経済提言」が、広く反響をよんでいますね。

「提言」は国民の雇用不安解消、消費税引き下げ、
年金などの将来像の期待にこたえてもの

 志位 いま日本経済は、家計消費の冷え込み、空前の失業、中小企業の倒産など一刻も手をこまねいていることが許されない深刻な状況にあります。そのなかで私たちは、この「提言」をもって、各界、各層の人々と広く懇談をはじめていますが、たいへん大きな反響です。何よりも、私たちの提案が、「この不景気を何とかしてくれ」と、切実に打開をのぞんでいる国民多数の声を代弁した提案だということが、大事なところだと思います。

 日本銀行が、昨年十二月に、世論調査の結果を発表していますが、家計の支出を増やすにはどうしたらいいかという設問への答えは、雇用や収入の不安解消(四五・九%)、消費税率の引き下げ(四二・六%)、年金などの将来像を明確にする(三五・〇%)となっていて、わが党の「提言」とぴったり一致しています。

 それから、大阪信用金庫が、三月に大阪の千社以上の中小企業を対象に調査をおこなっていますが、そこで不況脱出へもっとも効果のある対策はという問いへの答えは、消費税減税が四七・五%とだんとつです。

 こうした国民の期待、要望に正面からこたえてこそ、政治の信頼は回復します。政治が信頼されてこそ、景気対策もほんとうに効果をあげることになります。ここに、おおいに自信をもって、もっと大きくこの「提言」を広げていきたいと考えています。

 ――自民党の総裁選で、亀井静香氏も消費税減税に言及したようですが。

経済界の人からも
「論理が通る主張として理解できる」と共感

 志位 自民党の一部からもそういう声があがるということは、私たちの「提言」が道理あるものだったということを、しめしていると思います。この点では、面白い状況だと注目しました。もっとも財務省から「共産党の委員長選挙にでも出るつもりか」といわれて、だいぶトーンダウンしたようですが。

 ただ、亀井さんの立場は矛盾だらけなんです。消費税の減税を選択肢にするというが、あくまで時限的な措置で、景気がよくなったら上げるという考えですね。それから、公共事業などへの放漫財政はつづけるという立場です。

 私たちの消費税減税論は、もちろん時限的な三%減税論ではありません。日本共産党の消費税にたいする立場は、庶民いじめの悪税に反対をつらぬき、その減税・廃止をめざすということが、一貫した立場です。三%への減税が実現したら、つぎは財政再建と税制の民主的な改革のなかで、消費税は廃止していくというのが、私たちの変わらない目標です。そして、後でものべますが、浪費と環境破壊の公共事業にメスを入れることをはじめ、財政再建についても手をつけるべきことは、ただちに手をつけるという立場とむすびつけて、消費税減税を提案しているのです。

 最近、私たちの「提言」をとどけたある経済界のかたが、つぎのようなことをのべていました。

 「共産党の消費税を五%から三%に引き下げるという主張と、亀井さんの消費税引き下げは、同じではない。亀井さんのは今までどおりの公共事業政策を進めながら、消費税も下げるというように、できないことをいっている。共産党の消費税率引き下げの主張は、三つの提言をみても、共産党の一貫した政策のなかに位置づけて、その財源の配分を変えると、財源にも触れて、論理が通る主張として、それはそれとして理解できる」

 私たちの「提言」を、よく見てくれていると、思いました。

 ――消費税減税の効果は、どのくらいあるのでしょうか。

消費税減税は5兆円減税効果に加え、
消費者心理をあたためる

 志位 直接の効果は、三%への減税で、五兆円減税となります。ただ、実際の経済効果は、もっとはるかに大きいものとなるでしょう。三%への減税を実行すれば、国政が本腰を入れて、個人消費をあたためる対策にのりだしてきたという、強烈なメッセージを国民に伝えることになります。それは、たんに五兆円の減税効果だけでなく、消費者心理(消費マインド)をあたためる効果をもちますよ。

 いま所得から消費にあてられる比率――消費性向がかつてなく落ち込んでいますが、かりに消費性向が一%あがっても四兆円、二%あがれば八兆円の消費拡大効果がでてきます。五兆円の直接の減税効果にくわえて、消費者心理を何兆円という規模であたためる効果もくわわるでしょう。

 これ以上、即効的で、効果的な対策はありません。いまの景気の現状を考えれば、さまざまな立場の違いをのりこえて、ぜひとも採用すべき対策です。

 ――消費税を減税しても、将来不安から、消費を手控える傾向もあるのではないでしょうか。

 志位 たしかに、いまの消費の落ち込みの原因は、所得の減少にくわえて、将来不安から財布のひもをしめざるをえないという問題があります。

 ですから、私たちの「提言」では、消費税減税とともに、社会保障の負担増を凍結して将来に安心できる体系をつくること、雇用不安の解消のために政治が本格的にのりだすことをあわせて提案しています。

 この三つの「提言」を全体として実行することによって、経済の六割をしめる家計消費をあたためる道が、必ず開かれると思います。

財政再建について――日本共産党は責任もった道筋を示している

 ――消費税を減税すれば、当然その財源が問題になりますが、その具体的な計画はどう考えているのでしょうか。

逆立ち財政をあらため、税制の民主的改革や
安心の社会保障体系づくりへ

 志位 私たちの「提言」では、三つの景気対策の緊急提言とともに、財政再建も先送りすることなく、必要な転換にただちにとりくむという立場を明らかにしています。

 とくに歳出の無駄づかい・浪費にメスをいれること、とりわけ“公共事業に五十兆円、社会保障に二十兆円”という逆立ち財政をあらため、公共事業の無駄な部分を削減し、段階的に半減をめざすなどを、緊急にとりくむべき課題と位置づけています。

 さらに、景気回復の状況をみきわめて、歳入面での改革――税制の民主的改革と安心できる社会保障体系づくりにもとりくんでいく。

 これらの方策と展望を着実に実行にうつすことで、減税の財源問題を解決し、景気回復と財政再建を両立させる道が開かれるというのが、「提言」の立場です。

 ――消費税減税の五兆円の減税分は、公共事業の削減でバランスをとるのでしょうか。

 志位 財源問題についての大きな考えは、いまのべた通りです。私たちは、長期的には十分財源を保障できる裏づけをもっています。ただ、ただちに単年度で“五兆円の減収分は公共事業の削減で”というようなつじつまあわせをするのは、無理なことなんですよ。償還の計画をはっきりさせてある程度の国債発行をおこなうことは、過渡的には避けられません。

 同時に、消費税減税という強力な政策を実行に移した場合に、大きな景気刺激効果が必ず出てきます。そのことで、日本経済をまともな回復軌道にのせることができれば、そのことによる財政効果、税収増の効果が必ずあらわれるでしょう。

 それは、財政の無駄づかい・浪費にメスを入れる歳出の改革とあわせて、財政再建にも道筋を開くことになるでしょう。

 ――減税の効果もふくめて、累積債務が減りだすのに、どの程度の時間を見ているのでしょうか。

景気回復と財政再建を合理的に両立させることを追求

 志位 いまの危機的な経済・財政情勢からみて、現状では、いつまでにという時間を区切った計画を出すことは、無理なことなのです。

 この間のわが党の政策についていいますと、九六年の総選挙のさいの政策では、「財政再建十カ年計画」という政策を発表しました。この時でも、歳出、歳入の改革によって、累積赤字が減り始めるまでには十年間はかかるという計画でした。すでにこの時点で、自民党政治がつくりだした借金財政は、それほど深刻なものだったのです。

 昨年の総選挙の政策では、さらに財政破綻(はたん)がいっそうひどくなるもとで、また経済情勢も深刻なもとで、何年たてば累積赤字が減り始めるという時間を区切った計画をつくることは、無理だという判断にたちました。そこで、昨年の政策では、単年度の赤字について、GDP比で約一〇%の赤字を、五%にまで減らすことを第一段階の目標とする計画を発表しました。

 いまはどうかといえば、さらに事態が悪化しています。何よりも実体経済が、消費の冷え込み、失業、倒産など、あらゆる面で危機的です。こういう事態のもとでは、累積赤字削減の数値目標にせよ、単年度赤字の数値目標にせよ、何らかの数値目標をもつこと自体が現実的でなく、机上の計算になることはまぬがれません。いま私たちが、数値目標をたてても、現実の経済がその通りにすすんでいく保障がないし、そういう目標にしばられると、かえってほんとうに緊急にもとめられている景気対策の手もうてない自縄自縛にも陥ってしまうことになります。

 そこでこんどの「提言」では、財源問題、財政再建について、無理に数値目標をしめすということでなく、まず歳出の浪費と無駄にただちにメスをいれ、景気回復の状況をみきわめて歳入の改革にもとりくむという段階的な方向を、おおまかに明らかにすることにしました。何年でということはいえませんが、この方向こそが、景気回復と財政再建を両立させる唯一の方向であることは、まちがいないと確信しています。

 ――日本共産党の立場は、景気回復と財政再建を両立させるということですね。

 志位 そのとおりです。いまの危機的な経済情勢を直視して、景気回復――とくに個人消費回復に有効な手だては、緊急かつ大胆にとっていくという立場です。

 同時に、財政再建についても、並行して手を打ってゆきます。そのさい、緊急に打つ手だて(歳出の改革)と、景気回復をみきわめてから打つ手だて(歳入の改革)をわけて、段階的にすすめることを提案しています。

 これまでの政府が唱えてきた「景気優先」論は、景気対策でもゼネコン・大銀行応援の対策に終始して失敗し、財政破綻をますますひどくした、共倒れ路線でした。わが党の「提言」は、景気回復に力点をおきながら、財政再建のとりくみも同時にはじめ、両者を合理的に両立させることを追求するものです。

株価対策、不良債権処理――
大企業を応援する経済対策は破綻した

 ――政府・与党の「緊急経済対策」は、「不良債権の早期処理」と、「株の買い取り機構」づくりなどですね。

家計消費をあたため、景気をよくしてこそ、不良債権解決の道も開かれる

 志位 あいも変わらぬ、大銀行・ゼネコン支援策のくりかえしですね。政府が対米公約にもした「不良債権の早期処理」という方針は、不良債権を銀行の「バランスシート」から落とす「直接償却」というやり方を、急いですすめるというもので、失業、倒産増、国民負担をひどいものにする危険があります。ニッセイ基礎研究所は、最悪のケースの試算として二十二兆円の不良債権を処理すると百三十万人の失業者が新たに生まれると試算しています。

 バブル崩壊後に、すでに六十八兆円の不良債権の処理がされたといわれています。ところが、いくら処理しても、じわじわと広がる。その根本は、実体経済が悪くなっている、とくにその主力である家計消費が冷え込んでいることにあります。だからいままで正常債権だったものも、資金ぐりが困難になって、不良債権に転化するという形になって、じわじわと傷口が広がっているのです。

 この実体経済をたてなおす、とくに家計消費を本格的にあたためるということをしないと、いつまでたっても不良債権問題も解決しません。そこを放っておいて、税金をつかった不良債権処理のかけ声だけかけるのは、本末転倒のまったく逆立ちした対応です。わが党の「提言」の方向でこそ、不良債権問題の正しい解決の道も開かれるのです。

 ――株の買い取り機構という構想については、どうでしょう。

 志位 株価を人為的に操作する――政府が介入して「買い上げ機構」をつくり、さらにそこに公的資金を入れるなどというのは、まったく市場経済のイロハにも反した邪道のやり方ですよ。とくに、いま政府が考えているのは、「買い上げ機構」で買い上げた株が下がって損が出たら、税金で穴埋めする。株があがって益がでたら銀行にかえしてやるというものです。こんなばかなやりかたは許せませんね。

 株がなぜ下がるかといえば、経済の先行きが悪いからです。その根底にあるのは、これも実体経済の悪化です。株価は、よくいわれるように、実体経済を映す「鏡」なのです。実体経済が冷え込んでいるのに、そこへの手だてをとらないで、小手先細工で「鏡」だけみがいてみても、有効な対策になりえようはずがありません。

 個人消費を中心とする実体経済をよくするための手だてをとらずに、小手先の株価対策をとる。あるいは公的資金、税金をつぎこんで、不良債権処理をする。こういうやり方は、バブル破綻後、くりかえされてきたが、すべて失敗に終わっています。そのくりかえししか頭にうかばないところに、自民党・公明政治の経済政策の「打つ手なし」状態ともいうべき、ゆきづまりがあらわれていると思いますよ。

 ――政府も、「企業収益があがれば、いずれは家計消費もよくなる」という考えがなりたたなくなったことを認めていますね。

 志位 その通りです。財務大臣の宮沢さんも、今年一月の講演のなかで、「企業収益が家計に一向に連動しない。私の見通しは間違いだった」と認めています。私は、先日の党首討論で、この発言を引いて、森首相の認識をただしたところ、「たしかに企業収益が、家計に回らなくなった」と認めました。

 いまの大企業の収益増は、リストラによる収益増――つまり家計から吸い上げて収益をあげているものです。ですから、それが家計に回らないのは当然なのです。そして経済の主力の家計が冷え込めば、景気の全体が悪化し、大企業の収益も、一時の線香花火で終わってしまいます。事実、この間の、政府の経済統計でも、いっせいに企業の景況感もふくめて、景気悪化の指標がずらりとならんでいます。

 大企業を応援すれば、いずれは家計に回るという経済論が、なりたたなくなったことが、ここまではっきりした以上、家計を直接応援する経済対策への舵(かじ)のきりかえが、どうしてもいま必要ではないでしょうか。




著作権:日本共産党中央委員会
151-8586 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-26-7